ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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色々と書きたいネタはあるけれど、とりあえず書きやすいものから書く事にしました。エヒト周りについては、独自設定マシマシです。


第三十四話「その旗の下へ」

「面を上げよ!」

『はっ!』

 

 返答は綺麗に唱和され、玉座に座るアインズの前に居並ぶNPC達は一斉に顔を上げる。玉座の間に集められたのは、階層守護者達だけではない。特殊な役割で持ち場を離れられない者を除いて、かつてのギルドメンバー達が作った全てのNPC達がこの場に集められていた。

 こうして見ると、まさに百鬼夜行だ。

 アインズはかつてのギルドメンバー達の創作力に拍手喝采を送りたい気分だった。今や彼等は自律的に動き出し、アインズを絶対の主人として忠誠を尽くしてくれている。それがなんとありがたい事か。

 

(だからこそ、俺は……ギルメンの皆が残してくれた子供(NPC)達を守らないといけない)

 

 アインズは決意を改めて、口を開いた。

 

「まずは私が個人で動いた事を詫びよう」

 

 建前上の謝罪を口にする。オルクス迷宮の探索はあくまでアインズが勝手にやったという事にして、ナグモが自分の私情でアインズを動かした事を不敬と責められない様に。

 

「だが、今回の探索は実り多き物となった。……ナグモ」

「はっ」

 

 居並ぶ異形達の中で唯一の人間であるナグモが進み出る。

 

「オルクス迷宮深層より、多数の鉱石や貴金属などの鉱脈を発見しました。その他、この世界固有の鉱石も発見されており、この先の調査でも更なる発掘が見込まれます。これにより、ナザリックの財政事情の大きな改善が期待できると考えられます」

 

 ほう、とナザリックの防衛を司るデミウルゴスと組織運営を司るアルベドから感嘆の溜息が漏れる。転移してからナザリックの収入源に頭を悩ませていた彼等にとって、この報告はまさしく朗報だった。

 

「———また、アインズ様がオルクス迷宮で保護したこの世界の吸血鬼ユエ。そして……アンデッドの白崎香織。両名はアインズ様に忠誠を誓っており、彼女達の魔法や特異な体質は技術研究所で調べる事により、ナザリックの更なる強化に役立つ物と確信しております」

「……よし。その二人はお前の預かりとしよう。お前の下で二人の事について調べよ。必要なアイテムがあるならば、願い出るといい。ただし、実験動物の様に扱う事は許さん。あくまで実験に協力している人間として扱え」

「———はっ。御拝命、確かに承りました」

 

 アインズはゆっくりと居並ぶNPC達を見回す。

 

「聞け、我がシモベ達よ。アインズ・ウール・ゴウンの名の下に吸血鬼ユエ、白崎香織は今後保護される。異論のある者は、立ってそれを示せ」

 

 当然の様に誰も異議を申し立てない。彼等にとって、アインズの言葉は絶対なのだ。アインズは周りを見回し、その中でナグモがこっそりと安堵した様な顔になっているのを発見した。

 

(安心しちゃって、まあ……。実はこいつの無表情、感情の出し方を知らなかっただけだったんじゃないか?)

 

 思わず苦笑してしまうが、幸いにも骸骨の顔の為にポーカーフェイスは守られていた。

 そして、アインズは真剣な声音で話し出す。新たに得た魔法と共に知った、この世界の真実を。

 

「……オルクス迷宮の深層で、私は解放者と呼ばれる人間達が残した真実を知った。この世界は———神エヒトルジュエによって、遊戯の駒の様に種族同士の争いが繰り返される世界である」

 

 ざわ……と共にオルクス迷宮に赴いたセバスとナグモ以外のNPC達から驚きの声が上がる。

 

「恐れながら、横からの発言をお許し下さい」

 

 スッとデミウルゴスが手を上げる。

 

「つまり……至高の御方を差し置いて、支配者を気取る愚か者がこの世界にはいる、という事でしょうか?」

 

 「身の程を知らない奴でありんす!」「全くです!」「不愉快ナ……」と、詳しい事を知らないNPC達は憤りの声を上げる。彼等にとって自らの主人以外が神を名乗っているのは度し難い事だった。

 

「———静まれ」

 

 アインズの言葉にピタリと騒めきが収まる。

 

「お前達の忠誠は嬉しい。だが、事は慎重に当たらねばならん。その神の力がどれほどかは不明だが……下手をすれば、私より強いかもしれん」

 

 NPC達は一斉に驚きに包まれる。神の如き至高の四十一人。その纏め役であるアインズが、強敵と定める者がいるなんて……という感情が読み取れた。

 

「だが……打つ手が無いわけではない」

 

 彼等を安心させる様に、アインズは言葉を続ける。

 

「解放者達は、神を討つ為の神代魔法を迷宮に残していた。そして……その魔法を私は新たに習得した」

 

 おお! さすがは至高なる御方! とNPC達は歓声のどよめきを上げる。それを見ながら、アインズは宣言した。

 

「これより、我々は残された六つの神代魔法を習得する為に残りの大迷宮の探索を行なっていく! そして全ての準備が終わった時に———私は神エヒトルジュエを討つ!」

 

 ギラリ、とNPC達の目が鋭さを増す。自らの主人が下した命令に応えようとする使命感がそこに燃えていた。

 

「その為に準備せよ! 力を、魔法を、人材を! 人間も亜人も異形も関係ない! ナザリック内外問わずに我が旗の下に集わせ、我らの勢力を大きくせよ! そして天上の神を気取る愚か者に知らしめるのだ! “アインズ・ウール・ゴウン"こそが、最も偉大であると!」

 

 アインズの覇気に満ちた声に、アルベドが真っ先に応えた。

 

「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳! 必ずや神を詐称する愚か者の首を御身の前に!」

「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳! 恐るべき力の王、アインズ・ウール・ゴウン様こそが真なる神だと証明してみせましょう!」

 

 遅れて、他の守護者達やNPC達が声を上げる。

 必ずや至高の御身の命令を遂行してみせる。彼等の熱気を受けながら、アインズは思考していた。

 

(正直、この選択が正しいかはまだ自信が無い。この世界の神様に喧嘩を売るなんて、大それた事かもしれない)

 

 果たして、エヒトルジュエの強さとはユグドラシルでいうならどのくらいになるのか? それこそ、ワールドエネミーすらも可愛く見えるものかもしれない。本来なら、複数のギルドが連携して倒す相手かもしれない。だからこそ、代わりにこの世界の者でも積極的に仲間にしていく事を宣言したのだ。

 

(はっきり言って、解放者の意志とか、この世界の人間の事とかどうでもいいさ。そんな事まで、俺は背負い込めない)

 

 アンデッドとなったアインズには、人間達が終わりなき戦争を繰り返しているなんて、どうでも良い事だ。

 だが、それでも見過ごせない事がある。

 

(ナグモ達……もしかしたら、俺達も。エヒトルジュエはどうしてわざわざ地球から召喚なんてしたんだ?)

 

 その答えは、既にアインズの中で出ていた。

 恐らく———エヒトルジュエは盤上遊びに飽きてきたのだ。晩年のユグドラシルが他作品コラボを連発したみたいに、新たな刺激を求めて異世界からの召喚なんてものに手を出し始めたのだ。

 では……それすらにも飽きてきたら?

 

(奴の狙いは、必ず地球にいく。ナグモがいた時代か、俺がいた時代か分からないけど……絶対に地球をメチャクチャにする!)

 

 そうなれば、地球にいるかもしれない現実の友人(ギルメン)達が危ない。もしも鈴木悟のいた時代より過去の地球に干渉したならば、ユグドラシルそのものどころか友人達すら生まれなくなるかもしれない。何よりも———!

 

(この世界が人間至上主義なのは、エヒトルジュエがそういう風に歴史を操作しているからだ。そんな奴がナザリックに目を付けたら———!)

 

 友人達がアインズに残してくれた愛すべき子供(NPC)達。彼等や現実にいるその親たる友人達をエヒトルジュエが我が物顔で玩弄する姿を想像してしまい、アインズはギリッと殺意を込めて歯を食いしばる。怒りすらもすぐに沈静化が起きるこの身体が、この時ばかりは恨めしかった。

 

(———やってやる)

 

 アインズの空虚な眼窩に、赤い輝きが一際強く光る。

 

(たとえ相手が神様だろうと、関係ない。俺は———ナザリックの子供達を、そしてギルメン達を守る為に戦う!)

 

 ザッとアインズはギルドの象徴である杖を天上に向ける。まるで、遥か天空にいる相手に宣戦布告する様に。

 

(待っていろ、エヒトルジュエ。俺は、俺の全て(“アインズ・ウール・ゴウン")を賭けて、お前をブッ殺してやる)

 

 ***

 

 アインズが退出した後、玉座の間には熱気が渦巻いていた。絶対なる支配者からの勅命。そして、今こそ創造主から与えられた己が武を以て勅命を果たさんとする意志が、全員に渦巻いていた。

 

「まさか至高なる御身の敵となる者がこの世界にいるとは……」

 

 デミウルゴスがカチャッと眼鏡を上げながら嘆息する。それに対して、コキュートスは鋏を打ち鳴らした。

 

「ダガ、我ラノヤルコトニ変ワリハ無イ。御方ノ御命令トアラバ、タトエ神ガ相手デアロウト立チ向カウノミ」

「その通りでありんすぇ。妾達は至高なる御方に比べれば非力かもしれやせんが、微力ながらもアインズ様の御助力となる様にすべきでありんす」

「シャルティアにしてはいい事言ったじゃん」

「んだと、このチビ?」

 

 バチバチといつもの様な喧嘩をしだしそうな二人に、マーレはオドオドと止めるべきか慌て出す。

 そんな彼等の遣り取りに、デミウルゴスは少しだけ笑った。

 

「ありがとう、コキュートス、シャルティア。確かに我々がやるべき事は何も変わらないな。しかし、そうなるとアインズ様の主たる目的である世界征服計画には大幅な変更の必要が———」

「………世界征服?」

 

 ナグモが声を上げた。今まで重要な話し合いが終われば、さっさと帰ってしまう守護者がまだこの場にいる事に驚きつつも、デミウルゴスは話し出す。

 

「ああ、そういえば君が人間達の国に行っている間の事だったから知らないか。アインズ様はかつて私と共に夜空を見上げながら、世界征服など面白い……と言われたのだよ」

 

 瞬間、デミウルゴスに周りのNPC達から嫉妬と羨望の目が集まる。至高の御方と二人で、そして野望を直々に聞けるなんて、羨ましいにも程がある。

 

「世界征服……御方達の前身であるナインズ・オウン・ゴール……そして、オスカー・オルクスのあの研究成果……」

「あ、あの、ナグモさん……?」

 

 マーレが恐々と声を掛けるが、ナグモは聞こえてないかの様にブツブツと何か呟いていた。そして、考えが纏まった様に顔を上げた。

 

「……デミウルゴス、これを見て欲しい」

 

 ブンッと個人端末から空中に画面を投影するナグモ。そこには複雑な魔法陣と、それを解析した様な文章が映されていた。

 

「これは?」

「アインズ様と共に行った解放者の住処で、人間が残していた研究成果だ。これによると、神の正体は人間だったそうだ」

「……人間が神のフリをして、それを人間達はありがたがって拝んでいるんでありんすか?」

 

 シャルティアの胡乱そうな目を感じながら、ナグモは話す。

 エヒトルジュエの急所と呼ぶべき情報を。

 

「この魔法陣は、恐らくはエヒトルジュエが神となる際に使用した術式だ。ただ……この術は、他人からの信仰心を得てないと成り立たなくなるそうだ」

「っ! まさか……いや、なるほど。そういう事でしたか!」

「ドウイウ事ダ?」

「ちょっと、二人で盛り上がってないで私達にも説明しなさいよ」

 

 疑問符を浮かべているコキュートスとアウラにデミウルゴスは説明する。

 ————自らの主人の恐るべき知謀を。

 

「先程のアインズ様のお話を覚えているかい? あらゆる種族をナザリックの下に集わせよ、と」

「それがどうしたでありんす?」

「アインズ様は神を自称する愚か者の弱点を、最初からご存知だったのだよ。つまり———神を信仰する者が居なくなれば、その力は弱体化していく、と」

「あ、ああ———!」

 

 得心がいった様に、周りの守護者達は息を呑む。

 オスカー・オルクスが晩年に解明した、エヒトルジュエの力の正体。それは人々から偽りの信仰心を得る事で神の座についたエヒトルジュエは、逆に信仰心を失えば神の座から転落していく。それも、元の存在よりもさらに矮小な物へ。肉体を失って魂だけの存在となったエヒトルジュエにとって、それは致命的な弱点なのだ。

 

「だからエヒトルジュエは徹底的に自分以外の宗教を潰していたのだ。王宮で調べていた時に、地方の取るに足らないマイナーな宗教すら潰していたのが疑問だったが、これが理由だったとはな……」

「ナグモ。この事は、もちろんアインズ様も知っているのだね?」

「恐らくは。王宮で得ていた聖教教会の歴史は全てお伝えしてあるし、アインズ様は僕より先に解放者の住処を調べられていた。アインズ様は、既にこの結論をお知りになられているだろう」

 

 実のところ、まだこの世界の文字を勉強中のアインズはオスカーの研究成果を読んでもちんぷんかんぷんだったのだが、それを指摘してくれる者は残念ながら居なかった。

 デミウルゴスは居並ぶNPC達を見回す。その顔には、出来の悪い生徒がようやく教師が用意した問題を解けた達成感があった。

 

「つまりだよ、君達。我々はこれよりアインズ様が世界中を巡る過程で、アインズ様の名声を全ての種族に喧伝していき———そしてあらゆる種族がアインズ様に心酔する様に仕向けていく。そうすれば、アインズ様はより強力な力を得て、神を自称する愚か者は自ずと弱体化していくのだ!」

 

 「おお!」「ナント!」「さすがはアインズ様! そこまで考えられていたなんて!」

 

 NPC達から一斉に歓声が上がる。自らの主人の深淵なる知謀に。

 

「アインズ様は言われた。かつて、至高の四十一人は異種族を差別する者を討つ為に戦われていた、と」

 

 オルクス迷宮で語られたアインズ・ウール・ゴウンの原点。それを思い出しながら、ナグモは語る。

 

「ならば、僕達もその理念に沿うべきだ。今、人間以外を排除して、信仰に従わないなら人間すらも排除するエヒトルジュエ……かの者を討ち、アインズ様の下にあらゆる者が平等となる世界を作り出す。それこそがきっと、アインズ様の望みだ」

 

 その場にいるNPC達は夢見る。人も、亜人も、魔人も、モンスターも。あらゆる者が至高なる御方の威光に平伏し、絶対なる支配者の加護に感謝の祈りを捧げる世界。

 それはまさに————理想郷。

 

「———聞きなさい。ナザリック全てのシモベ達よ」

 

 全てのNPC達を統括するアルベドの声が玉座の間に響く。その後ろには、誉れ高いアインズ・ウール・ゴウンの旗。

 

「アインズ様の真意を受け止め、準備を行う事が優秀な臣下の証。各員、ナザリック地下大墳墓の最終的な目標は神を自称する愚か者を失墜させ、その首をアインズ様に差し出す事と知れ」

 

 アルベドは満面の笑みで、空の玉座へと振り返る。

 

「この世界という宝石箱は、貴方様の物……正当なる支配者たるアインズ様に、トータスの全てを」

 

 ……その後ろ姿を、ナグモは首を——ほんの少し、誰にも気付かれないくらいに傾げた。

 

 果たして……これは本当に、アインズ様がお望みなのだろうか?

 

(……いや、現状、アインズ様の強化とエヒトルジュエの弱体化を一挙両得に出来る案には違いない。ならば、粛々と実行する事が白崎を救ってくれたアインズ様への恩返しの筈だ)

 

 ふと、ナグモは自分と共に世界を救う———という名目で、エヒトルジュエの駒だった元・クラスメイト達を思い出す。

 彼等については、全く慈悲のカケラすら湧かないが……。

 

(アインズ様という真なる救世主が現れた事で、とんでもない不利益となるだろうが……まあ、せいぜいそれまで勇者ゴッコを楽しんでくれ)

 

 

 




トータス「やべー奴からやべー奴に支配者が変わる事になりました。誰かタスケテ」

あれだ、エヒト教を捨ててアインズ教に改宗すれば至高なる御方の保護が約束されるから、原作より軟化してる……よね?

なお、エヒトとやってる事変わらないとは言ってはいけない。

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