ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 一部の読者からは不人気なミキュルニラですが、せっかく作った以上は使っていこうと決めました。何というか冗談みたいなキャラ設定ですけど、モモンガさんがパンドラの設定を消さないでいるのと同じ心境なのかな、と勝手に思っていたり。

あと今更ですが、クラスメイト達をどうするか? をアンケートをとる事にしました。またアンケート通りにしないかもしれませんが、気軽にポチッとお願いします。

ちょっと彼等の末路が悲惨になるかもしれないだけなので。


第三十五話「NPC」

 窓から入ってくる朝日で、ナグモは目を覚ました。即座に寝台から起き上がり、睡眠時には外している維持する腕輪(リング・オブ・サステナンス)を身に付ける。それで残っていた眠気も綺麗に無くなった。身支度を整えて寝室から出る。食堂へ向かうと、良い匂いがしてくる。

 

(腕輪には空腹無効の効果があった筈なんだがな……)

 

 それでも何処となく高揚した気分になるのは何故だろうか? かつては食事なんて、至高の御方から言われたから摂っていただけなのに。そんな事を考えながらナグモは食堂のドアを開ける。そこには出来たばかりの朝食を配膳する———銀髪の美しい少女がいた。

 ()()()()()()()でコーヒーカップを置きながら、香織は微笑んだ。

 

「おはよう、ナグモくん」

「ああ、おはよう。白さ———」

 

 つい今までの呼び方をしようとしたが、香織がじーっと見つめているのに気付いた。アンデッド特有の———それでも磨き上げられたルビーの様に紅い目に見つめられ、ナグモは鼓動が早くなるのを感じながらその名前を呼んだ。

 

「………………か、香織」

「うん♪」

 

 ()()()()()()の花の様な笑顔の前に、ナグモは顔が赤くなっていくのを感じた。

 

 ***

 

 アインズのエヒトルジュエ討滅宣言の後、オルクス迷宮深層の解放者の住処にナグモの姿はあった。アインズから改めてオルクス迷宮の調査を命じられ、第四階層で新たに製造されたマシン・モンスターや技術研究所の研究員達と共にオルクス迷宮をナザリックの資金源とすべく資源の調査や発掘を行っていた。さながら、「ナザリック技術研究所オルクス支部」といった所だろう。

 ナグモはオスカー・オルクスの屋敷を根城にして、彼が遺していた資料の解読や迷宮内の資源やモンスターの調査に勤しんでいた。そして同時に———アンデッド・キメラとなった香織の身体について色々と調べていた。

 

「はい、冷めない内にどうぞ」

「その……いただきます」

「召し上がれ♪」

 

 香織が用意してくれた朝食にナグモは手を付けた。本来ならアイテムのお陰でナグモは飲食は不要なのだが、アインズからキチンと三食と睡眠は取る様に厳命されている為、こうして朝食も摂る様にしているのだ。

 

「お味はどう?」

「……悪くない」

 

 香織の手料理に口を付けながら、ナグモは言葉少なく答える。まだ表情筋にあまり動きは無いが、それでも口元が僅かに緩んでいた。それが理解できている香織はニコニコと一緒に朝食を摂っていた。

 

「僕は飲食不要の身だから、給仕の真似事などしなくても良いのに……」

「そんなわけにいかないよ。私もアインズ様にお仕えしているんだもの。だったら、少しはナザリックの為になる事をしないと」

 

 それに、と香織はナグモを少しだけ咎める様な目で見る。

 

「ナグモくん、放っておいたら10秒ゼリーとかしか食べないでしょう? 地球にいた時もお昼はそんなやつばっかりだったし」

「もともと少食だからな」

「もう……キチンと食べないと、いざという時にアインズ様の御役に立てなくなっちゃうんだからね」

 

 それを言われると弱い。至高の御方の為に身体を十全に保つのは守護者としての義務なのだ。何より———香織の意見なら少しは聞く耳を持つか……と思うのだ。何故か知らないが。

 

「それに、こうやって手先を動かす作業をするのは良いリハビリになるの」

 

 ほんの数日前まで、魔物の手足だった指先を見ながら香織は嬉しそうに微笑む。

 

「ナグモくんは本当に凄いね……私の身体をこんなに綺麗に治しちゃうんだもの」

「感謝はアインズ様に言うべきだ。御方が神結晶を使って良い、と言われたからあの人工心臓を作れたからな」

 

 ———オルクス迷宮の再調査で、現時点で最大の発見と呼べるもの。それが神結晶だ。永い年月を経て蓄積された自然魔力の結晶は、神水と呼ばれるあらゆる傷も毒も癒す水を引き出す事が出来た。神水自体の効果は上級のポーションと同程度だが、ナグモが何よりも目を付けたのは神結晶の加工のし易さだった。

 

(あれ一つで大容量のデータクリスタルに匹敵するとはな……)

 

 それを報告した途端、アインズが「はああああっ!? マジか!?」と普段の威厳に満ちた姿が一瞬薄れた気がしたのは記憶に新しい。即座に咳払いと共にいつもの姿に戻ったが、それほど御方にとっても驚きだったのだろう。

 

(かつてウルベルト様は、ワールドアイテムを模したアイテムを作ろうと試みたそうだが……この神結晶があれば、もしかしたら———)

 

 もっとも、オルクス迷宮で採掘した神結晶の大きさや個数ではとてもではないがワールドアイテム級のアイテムは作れない。別の神結晶の採掘場を見つけるか、どうにかして人工神結晶を量産する方法を見つける必要があるだろう。そこで神結晶を詳しく調べる為に、使用を許されたサンプル品をナグモは香織の身体の修復に使用したのだ。

 万病を癒す神水は魔力が切れれば腐敗が始まる香織の身体を常に最良の状態に保つ血液となり、ナグモがじゅーるから与えられた全ての技術(スキル)。そして———()()()()()()()()()によって作られた人工心臓によって、香織の身体を生者のものと変わらない状態にしていた。

 

「でも、本当に不思議。あんなに魔物が混ぜこぜになってた身体が、新しい心臓を貰ったら綺麗に治るなんて……」

「……調べてみて分かったが、君の身体があそこまで変異したのはこの世界の魔物を喰らった事により、体内魔力の流れが激しくなった事によるものだ」

 

 ナグモはナザリック技術研究所の所長としての顔になりながら、説明を始めた。

 

「トータスでは魔物の毒によって食べた人間は死に至るなど言われているが、それは間違いだ。正確には魔物を食べる事で全身の魔力が活性化され、人間の脆弱な身体では耐えきれない魔力の流れによって自壊しているだけだ」

「ええと……雨で増水して、河が氾濫して堤防が壊れるみたいなものかな?」

 

 その通り、とナグモは頷いて先を続けた。

 

「あるいは崩壊する前に耐え切る様な治療手段でもあれば話は別だっただろうが……香織の場合はアンデッド化した事によって、魔力暴走による崩壊は無かったと見ている。ただ、人間の頃より増大した魔力に耐え切る様に肉体変化も起こしていた、と見ている」

 

 スッとナグモは香織の胸———人工心臓を埋め込んだ辺りを指差した。

 

「魔力を操作して肉体が変化するのは僕と戦った時に分かった。その人工心臓は香織の身体に常に魔力を満たすのと同時に、魔力の流れを正常にする補助道具みたいなものだ。それがある限り、君の身体はキチンとした人間の姿を保てる」

「そうなんだ……あのさ、ひょっとして魔力の制御をキチンと覚えたら身体を変えたりできる?」

 

 む? と予想してなかった質問に疑問符をナグモが上げた時だった。食堂に入ってきた新たな人物が間延びした声を上げた。

 

「理論上は可能ですよ〜。今の香織ちゃんは、ある意味ではドッペルゲンガーさんみたいなものですから〜」

 

 ダブついた白衣をヒラヒラさせながら入ってきたミキュルニラに、香織は挨拶した。

 

「おはようございます、モルモットさん」

「おはようです、香織ちゃん。それと、そんな畏まらなくても良いですよ〜。ミキュルニラで結構です〜。出来れば親しみを込めて、ミッキーちゃん、と呼んで欲しいのです♪」

「ええと……」

 

 見た目的にもあるマスコットキャラを思い出させる様なミキュルニラに、香織は何とも言えない曖昧な顔になった。

 そんな香織に助け船を出すわけではないが、気になった事を聞く事にした。

 

「……お前、いつからそんなに香織と仲良くなったんだ? まだ会ってからそんなに日が経ってない筈だが」

「え? 香織ちゃんはナザリックの新しいお友達なんですよね? だったら、私のお友達なのです!」

 

 えっへん! と胸を張って宣言するミキュルニラに、今度はナグモが微妙な目付きをする事になった。

 

(まあ……下手に仲違いされるよりはマシか。ナザリックの者は、外部の人間を見下す者が多いからな……)

 

 自分自身(人間嫌い)を棚に上げてそんな事を考えているナグモを他所に、それでさっきの話なんですけど、とミキュルニラは話し始める。

 

「香織ちゃんの身体は魔力を制御して、今の形を整えているわけですから〜。香織ちゃんが魔力の使い方をキチンと覚えれば、好きな形になる事も可能なのです〜」

「そうなんだ……良かった……」

「……ひょっとして、その身体は不満だったか?」

 

 安堵の溜息をついた香織に、ナグモは内心で不安になりながら聞いた。

 

「髪や目の色以外は記憶データと一致した造形の筈なんだが……」

「え? ううん、ナグモくんの手術に不満があるわけじゃないよ! ただ、その……」

 

 チラチラッと香織はミキュルニラを見た。

 ………より正確には。その、スイカの様な二つの双丘を。

 

「……はは〜ん♪」

 

 その視線の意味に気付いて、ミキュルニラは口角を上げた。

 

「心配はしなくて大丈夫ですよ〜。しょちょ〜は胸の大きな子じゃないとイヤとか無いと思いますから〜」

 

 ごふっ、ナグモは吹き出したくなるのを何とか堪えた。

 

「ちょっと待て。なんでそんな話になる!」

「うう……だって、アンデッドだからこれ以上の成長とか見込めないし……」

「大丈夫ですってば〜。しょちょ〜は香織ちゃんならどんな身体でも好きだと思いますよ〜。前にシズちゃんの裸を見ても、特に何の感想も無かったみたいですから〜」

「ばっ……! あれはメンテナンスで………っ!?」

 

 ゾクゥ!! とナグモの背筋に寒気が走った。

 そこに———般若がいた。

 

「ねえ、ナグモくん。まだ私、ナザリックの事を詳しく知らないけどシズちゃんって……どちら様かな?」

「……シズは、プレアデスの五女、いや六女? とにかく、僕がメンテナンスを担当していて……」

「へえ……じゃあ、結構小さな子なのかな? そんな小さな子の裸を、何でナグモくんは知っているのかな? かな?」

「い、いや……シズは自動人形……」

 

 おかしい。自分にはスキルや装備で恐怖や幻惑などの状態異常耐性がある筈だ。

 それなのに、この背筋の寒さは何なのか? どうして笑顔の筈の香織の背後に般若の姿を幻視しているのか?

 

(ま、まさか、香織の喰らった魔物の中にユグドラシルのスキルが通じない様な魔法を持つ魔物が……!?)

 

 逃避気味にそんな思考をしたが、すぐにマルチタスクから「そんなわけあるか」と冷静な声が返ってくる。今回ばかりはじゅーるに作られた頭脳が恨めしかった。

 

「ナグモくん……ううん、ナグモ所長。しっかりと、説 明 し て く れ る よ ね?」

「おい、ミキュルニラ! お前からも——」

「あ、私はそろそろ勤務時間なので〜。しょちょ〜も遅刻しないで下さいね〜」

 

 この薄情者! 場をかき混ぜるだけかき混ぜて退出したNPCに、心の中でナグモは怨嗟の声を上げた。

 香織にシズの事をどう説明(言い訳)すべきか、じゅーるによって設定されたマルチタスクを一斉に起動させてナグモは弁明の言葉を考え出した。

 

 ***

 

「うんうん。香織ちゃんが来てくれたお陰で、しょちょ〜は前より楽しそうなのです〜」

 

 以前のナグモからは考えられない様な慌て振りで説明する声を背中で聞きながら、ミキュルニラはオルクス迷宮に作られた研究所エリアへ向かう。

 

「私の役目はナザリック技術研究所の副所長で、しょちょ〜を補佐すること。ナザリックでも仲良しな人がいないしょちょ〜が、寂しくない様にする事なのです」

 

 じゅーるによって「そうであれかし」と定められた役割を、ミキュルニラは口にする。だからこそ、気難しい性格をしたナグモに代わってナザリックの皆と仲が良いという様に作られたのだろう。ミキュルニラはそう納得していた。

 

「……新しくお友達になった香織ちゃんも、ユエちゃんも。アインズ様を敬える良い子達なのです。しょちょ〜がナザリックの外の人でも、仲良しな人が出来たのは良い事なのです」

 

 ふと、ミキュルニラは立ち止まる。

 

「だから………私は寂しくなんて、ないですよ」

 

 ………じゅーるによって「そうであれかし」と定められた、マスコットキャラの様な言動を消して。

 

「………ナグモ所長。じゅーる様の———」

 

 その呟きは、幸いな事に誰も聞かれなかった。

 そして彼女は研究所エリアに入る。先に来ていた研究員のエルダーリッチ達に元気よく挨拶した。

 

「おはようなのです! 皆さん、今日もナザリックの為に元気に頑張りましょ〜!」

 

 「そうであれかし」。創造主(じゅーる)によって設定された在り方に忠実に。それが自分(NPC)の役割だから。

 

 




ナグモは香織の身体を治しましたよ。

その一文にまさか一話使うとはね……。あと神結晶とか魔物化の設定とか、独自設定という事でお願いします。

ついでに香織の般若ネタを使いたかった。それだけ。

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