ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 アインズ様とのPT戦を楽しみにしていた方、ごめんなさい。どうしても香織との決着はナグモに着けさせたくて、アインズ様の到着前に終わらせてしまいました。

 一応、裏設定として、『大迷宮は極端な話をすれば、大人数によるゴリ押しで突破できなくはない。そんなやり方では神に勝つ事は不可能なので、ボス相手には少人数で挑ませる様に別空間へ飛ばされて、ボスを倒すまで隔離される』なんて仕掛けがある為に、アインズ様もナグモが戦闘中は入れなかったみたいな感じです。


第三十話「機械鎧」

 歪な魔物が“風爪"を飛ばす。人体など軽くバラバラに切り裂ける鎌鼬は、ナグモに当たる前に強化されたマシン・ゴーレム達に阻まれ、表面に傷痕を残すのみだった。その硬さに苛立ったのか、歪な魔物は“天歩"で距離を詰めようとする。

 

「“緋槍"!」

 

 上空から機械鎧を纏ったユエの魔法が撃ち出される。炎の槍は先程よりも大きく、そして素早く撃たれた。“天歩"で加速していた歪な魔物に避ける術は無く、爆発と共に歪な魔物は大きく後ろに飛ばされた。

 

『ッ……■■■■■■■ッ!!』

 

 歪な魔物はユエに向かって“威圧”を使いながら咆哮する。もはや音響兵器となった魔力の伴った咆哮がユエに向かって放たれたが、先程と違ってユエに効いている様子は無かった。

 その隙をついて、ナグモは残った魔導銃シュラークを発砲する。ハンドガンでは到底不可能な速度で魔力を伴った弾丸が発射され、歪な魔物の手足を撃ち抜いた。撃たれた場所を中心に、歪な魔物の足が火傷を負った様に煙を上げる。

 

『ア、ギッ……■■■■■■ッ!!』

 

 咆哮と共に歪な魔物の足が再生される。だが、その足には古傷の様に弾痕が刻まれていた。

 

「……やはり再生能力を持っているか」

「ナグモ。次はどうする?」

「……火属性の魔法では有効ダメージが認められない。恐らく火属性耐性がある。だが、“白銀の魔弾"は有効ダメージだった。次からは神聖属性を使え。左肩(レフトショルダー)に神聖属性の位階魔法が込められている」

「ん。了解」

 

 ナグモの指示に、流線形の機械鎧を纏ったユエは頷いた。

 

 ———ユエが纏っている機械鎧は、ナグモの創造主であるじゅーる・うぇるずが使っていたものだ。ユグドラシル後発スタート組である彼は、初心者救済措置である機械鎧を使ってレベル上げを行っていた。SF趣味のじゅーるは機械鎧のデザインを大層気に入り、機械鎧が必要無くなったレベルに達してもデータクリスタルや課金パックを組み込んでいた。

 お陰で本来ならレベル80程度の攻撃力や防御力しか発揮しない機械鎧は、レベル100の相手との戦闘でも使える様な特注品となっていた。じゅーる自身がレベル100となった後も、これを着て機械鎧着用者限定の大会に出るなど、まさにじゅーるの創作意欲が籠った一品と言えるだろう。

 

 そして………じゅーるがユグドラシルから引退した日。じゅーる自身の装備やアイテムはギルド長であるモモンガ(現アインズ)に手渡されていたが、この機械鎧だけはナグモの手に渡っていた。亡き息子を模して作ったNPCへ、じゅーるなりに餞別をしたかったのかもしれない。

 NPCである為にじゅーるの現実の事情があまり読み込めないナグモだったが、その機械鎧がじゅーるが自分へ遺した品だという事は理解できた。だからこそ、自分の装備とは別にじゅーるの機械鎧をいつでも喚び出せる様に細工を施していたのであった。

 

(じゅーる様の品を他人に貸すなんて……! それも、今日会ったばかりの吸血鬼に……!)

 

 もしも相手がナザリックのNPC達であっても、アインズの命令でも無ければナグモは拒否しただろう。だが、今は自分の感傷で四の五の言っている場合ではない。

 

(だが、アインズ様に連絡がつかない以上、白崎を無力化する為の手駒が足りないのは事実……背に腹はかえられない!)

 

 先程からアインズに<伝言>で呼びかけているのだが、一向に繋がる気配が無い。どうやらこの空間そのものが遮断されている様で、連絡も転移も出来ないのだ。ナグモがいま戦力として使えるのは自分自身と召喚したマシンゴーレムやキメラ達。そして、ユエだけだ。そのユエ自体のレベルが低く、そのままでは歪な魔物への戦力とはならない。だからこそ、ナグモは断腸の思いでユエにじゅーるの機械鎧を貸し出したのだ。お陰で今のユエは一時的にレベル100クラスのステータスを手に入れていた。

 

(だが……あの機械鎧は体力(HP)魔力(MP)は強化できない)

 

 ナグモは歪な魔物を観察する。彼女は先程の反撃以外はユエには目もくれず、マシンゴーレム達へ———正確にはその奥にいるナグモへ向かって攻撃しようとしていた。

 

(やはり……理由は不明だが、白崎の狙いは僕だ。相手の狙いが分かっているなら、まだ対処は可能だ)

 

 盾役(タンク)を召喚モンスター達、魔法攻撃(マジック・アタッカー)をユエ、そして状況を見ながらバフやデバフをナグモが行う。

 ガルガンチュアこそいないが、創作者達に組まれたいつもの布陣(プログラム)通りにナグモは戦えていた。戦闘経験こそ皆無なナグモだが、この様にプログラムに嵌った戦い方ならば、本来の力を発揮できる。

 

(とにかくユエに攻撃がいかない様にマシンゴーレム達を盾にしつつ、ユエには魔法攻撃に専念させる。僕はマシンゴーレム達やキメラ達を強化しつつ……)

 

「ナグモ」

 

 ユエから声をかけられる。相手のステータスなどが判明する片眼鏡でユエの残存魔力(残りMP)が残り少ない事を確認したナグモは、躊躇なく自分の腕に注射器を刺し、血を抜き取る。そして、注射器ごとユエに投げ渡した。

 

「ん、サンキュ」

「いいからさっさと飲め」

 

 注射器に入った血液をユエが飲み干す。あっという間にユエのMPが回復した。

 

(ユエの回復に専念だ。大丈夫だ……問題ない。ガルガンチュアの代わりがユエという事以外はいつも通りだ)

 

 増血剤代わりのポーションを飲みつつ、ナグモはマルチタスクを展開していく。

 

『■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 歪な魔物が叫ぶ。今の攻防で目の前の()()の脅威度が理解出来たのだろう。咆哮と共に、肉が盛り上がって姿を変えていく。上半身は女性らしい凹凸を残しながらも硬い体毛に覆われて、両手は鋭い鉤爪を生やした野獣の様だ。下半身は鱗を生やした六本脚の爬虫類の様な形状になり、尻尾からは太い龍の尾らしきものが生えてくる。さらには下半身の獣の背中からは蝙蝠の様な翼が生え、まるで動きを確かめる様にピクピクと動く。それは数多のキメラを製造してきたナグモでも見た事がない様な歪な姿だった。有り体に言えば、龍とケンタウロスの合いの子、と表現すべきだろうか。

 

「白崎っ……」

 

 もはや人の形すら留めていない()()を見て、ナグモの胸が締め付けられる様に痛む。そこまでの異形に変じていながら、顔の右半分だけは未だに人間だった頃の面影を残していた。しかし、生あるものを憎むアンデッドの真っ赤な目がナグモを射抜く。まるで、こんな姿になるまで助けに来なかったナグモを責める様に。

 

「……君には、恩を返そうとしないで見捨てた僕に報復する権利がある。でも……至高の御方の為にもここで死ぬわけにはいかない」

 

 ギュッと胸の内ポケットを無意識のうちに握り締める。

 

「だから……君を無力化してから、全ての恨み言を聞く」

「ナグモ……」

「……行くぞ、ユエ。相手はアンデッドだ。疲労しない分、長引けばこちらが不利だ」

「……ん! 了解!」

『■■■■■■■■ッ』

 

 歪な魔物が吼える。ユエが機械鎧のスラスターを噴射させる。ナグモは思考を冷静に沈めながら、マシンゴーレム達に指示を出した。

 

 ***

 

 戦いは徐々にではあるが、ナグモ達に優勢に動いていた。歪な魔物はナグモのみを狙い、その攻め方は単調になりつつあった。その動きに合わせてカウンター気味に攻撃していくのは難しくなかった。だが、言うほどに容易な展開ではない。バフ効果で出力を上げたとはいえ、マシン・モンスター達は歪な展開の攻撃に次々とスクラップにされていき、その数を減らしていた。

 ユエも機械鎧を纏って魔法の威力を上げたとはいえ、高位の位階魔法を使うとその分MPを多く減らし、ナグモの血液を何度も飲んで回復させていた。その度にナグモの手元のポーションが減っていく。

 

(マシン・モンスターの残数……50。キメラは……10)

 

 視界の端で召喚キメラの身体がグズグズと崩れていく。人造キメラ達は自身のレベル帯に合わない高いステータスこそ誇るものの、造られた不完全な生命の定めとして、魔力を使い切ると細胞が崩壊していくという弱点があった。

 そして———その弱点は、目の前の歪な魔物にも当て嵌まる様だった。

 

『■■■、■■■ッ………!』

 

 腐臭が酷くなり、歪な魔物の表皮が崩れ出していた。下半身の足の一本が自重に耐えきれず、グチュリ、と潰れる。

 

「………っ」

 

 その姿にナグモの胸が激しく痛む。だが、ここで手を止めるわけにはいかない。今回の任務でアインズから動員を許されたシモベ達の九割方を使い切った形になったが、その甲斐もあって歪な魔物の動きは弱ってきていた。

 

(あとは、これを使えば……!)

 

 胸の内ポケットに秘めている勝利の鍵をナグモは握り締める。じゅーるによって設定されたマルチタスクも、その方法が有効だと囁いていた。

 

(勝てる……! このままいけば、勝てる……!)

 

 知らず知らず、ナグモは拳を握り締めていた。

 じゅーるによってナザリックの守護者として作られていながら、経験した唯一の戦闘は敗北に終わってしまったナグモ。いま、「心」というものが生まれたNPCには初勝利を前に興奮を抑え切れなかったのだ。

 ………あえて、酷な言い方をするならば。彼はプレイヤーとして初心者過ぎた。トータスに来てからは格下との戦闘しか経験してないが故に、追い詰めた相手から逆転される可能性を見逃していたのだから。

 

『■■■■、ア、アアアッ……!』

 

 とうとう下半身の龍の身体が自重を支え切れず、歪な魔物は崩れ落ちる。そして———下半身の尾から、銀色の龍の首が生えた。

 

「っ!?」

『GEYAAaaaahh!!』

 

 ナグモが咄嗟に防御魔法を唱える。残った召喚モンスター達が盾になり、ユエが魔法で妨害しようとするより先に———尾の龍の首も余波で消しとばしながら極光が空間ごと焼き尽くした。

 

「ガッ……!」

 

 ナグモの身体が迷宮の壁に叩き付けられた。ダメージ軽減できたものの、その被害は甚大だった。片眼鏡のマジックアイテムは完全に消し飛び、ナグモの左目に破片が刺さって視界を奪う。身体の方も肉が焦げる嫌な臭いがした。

 

(状、況は……!?)

 

 残った右目で周囲を素早く見回す。

 マシン・ゴーレム———全て大破。

 人造キメラ———全滅。

 ユエ———同じ様に壁に叩き付けられたまま、動かない。機械鎧が大破しているが、その胸は微かに上下していた。

 

(ぐっ……なんて、失態……! 防御に割き過ぎて、残りMPが、もう……!)

 

最初の錯乱した状態で召喚魔法を無駄打ちしたツケが、ここできてしまった。それでもなんとか起きあがろうと、身体に力を込め———血に染まった右目の視界に、歪な魔物の姿が見えた。

 

「白崎………」

 

 下半身の龍の身体は、魔力を注ぎ込んで作った外装だったのだろうか。所々の肉体が腐り落ちながらも、歪な魔物は最初の人型の姿となっていた。

 

『■■、タカッタ……■■、タカッタノ……』

 

 ここに来て、歪な魔物が初めて言語を発した。片言で聞き取り辛かったが、その声は図書館の個室でナグモが何度も聞いた声のままだった。

 

『ズット……ズット、■■タカッタ……ナ……クン……』

 

 理性を失ったアンデッドの目が、ナグモに向かってギラリと光る。

 

『ナ、グモ、クン………タベ、タカッタ———!』

 

 ドンっという音と共に、歪な魔物は駆け出す。耳まで裂けた口から牙を覗かせて。

 ナグモは左手のシュラークを歪な魔物の右足に向けて撃つ。

 歪な魔物はナグモから見て右に避けながら、疾走する。

 ナグモは右手を突き出した。

 バツンッ、と持っていた物ごとナグモの右手が喰われた。ナグモの腕から血が噴き出す。

 歪な魔物はゆっくりと咀嚼しながら、ナグモの右手を嚥下した。

 腐敗していた身体が回復すると同時に、その目が恍惚する様に細められ———。

 

『……ア、アアッ…………え?」

 

 瞬間。歪な魔物———香織の目に、理性の光が灯った。

 ナグモの右手に持っていた———彼が最近常飲していた、精神安定ポーションごと呑み込んだ事によって。

 

「………南雲、くん………?」

「………ああ、久しぶりだな……白崎」

 

 そうして。久々に理性ある思考を取り戻した香織の目に———右手を失って、血溜まりに沈んだナグモが映った。

 

 




 ……次回、「NPCは今際の際に夢を見るか?」。どうぞお楽しみに。
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