あとアウラ達のユエへの反応は、オバマスのコラボや異世界かるてっとを参考にしているので割と甘めです。というかリリカルなのはのコラボで、なのはに敬語を使っているデミウルゴスが意外過ぎた……。
「ナグモ所長、データが纏まった」
「ご苦労、ユエ」
オルクス迷宮最下層。オスカー・オルクスの屋敷で、ナグモはユエから渡された資料に目を通す。この世界の魔法が属性別に分けられ、一目で見やすいものとなっていた。
「……どう?」
「まあ……及第点はやる。意外と使えるな、お前」
「意外と、は余計」
少しムッとした顔となるユエを見ながらも、ナグモはユエへの評価を改めていた。
アインズの命令でユエを第四階層に迎え入れてから、ナグモはユエからこの世界の魔法の知識などを提供させていた。「魔法はエヒト神によって齎される奇跡の力であり……」と、愚にもつかない様な内容を大真面目に述べていた王宮の専門書とは違い、キチンと魔法の法則を理解しているユエはナグモから見ても許容できる頭脳の持ち主だった。そして、その頭脳を見込んでナグモはユエに自分の助手を務めさせてみたのだ。
(しかしコイツ……下手したら並のエルダーリッチより使えるんじゃないか?)
元王族だけあって教養が豊富であり、書類仕事もお手のもの。戦闘に関しても迷宮内で見せた実力は一対一ならば
(いっそ位階魔法を覚えさせてみるのも面白いかもな……そうすれば、第四階層の戦力も増すだろう)
今度、アインズ様に進言してみるか、とナグモが考えていると耳に付けていた通信用アイテムにエルダーリッチから念話が届いた。
『ナグモ所長。オルクス迷宮の正規ルートを通り、階層守護者シャルティア様。並び、階層守護者アウラ様が最下層エリアに到達しました』
「……よし。ここに来る様に伝えてくれ、アシモフ」
はっ、と短い返答と共に休日制度を導入する際に新たに名付けたエルダーリッチからの通信が切れる。しばらくすると、ナザリックの階層守護者二人が部屋に入ってくる。
「やっほー、ナグモ。調子はどう?」
「道中の雑魚はともかく、面倒なダンジョンでありんした。茶の一杯でも入れてくれりんす」
「……ここは喫茶店では無いぞ」
会って早々に無茶な要求をするシャルティアに半眼になっていると、シャルティアが後ろに控えているユエを見て怪訝な顔になる。
「ん? お前がひょっとして……」
「ユエ、と申します。シャルティア・ブラッドフォールン様」
セバスから教わったナザリックの事前知識から階層守護者と判断したユエは
「へえ、お前が御方が保護した吸血鬼の……」
「はい。偉大なる御方、アインズ様によりナザリックの末席に加えて頂く事になりました」
「へえ、あんた分かってるじゃん」
アウラが感心した様に声を上げる。
「アインズ様の偉大さを理解できるとか、外の人間……じゃなくて吸血鬼? にしては見る目があるじゃん」
「恐れ入ります。アウラ・ベラ・フィオーラ様」
「アウラでいいよ。一々、フルネームで呼ばれるのも堅苦しいし」
至高の御方への忠義を確かに感じられるユエに、アウラもユエに対して柔軟な態度を取る。そしてシャルティアはと言うと———。
「ええ、本当に。わざわざアインズ様が拾っただけあって、中々良さげな娘でありんすねぇ」
じゅるり、と舌舐めずりするシャルティアにユエはゾクリと背筋を震わせた。完全に新しい玩具を見つけた目のシャルティアに、ナグモは咳払いをする。
「先に言っておくが、ユエの身柄はアインズ様から僕に一任されたもの。こいつはまあまあ優秀だから手放す気は無い」
「ちっ、つまらないでありんす。なら、新入りのアンデッドの方を———」
「は?」
僅かに殺意すら感じるナグモの反応に、二人の守護者は意外な物を見る様な目を向けた。
「……へえ、ミキュルニラから聞いた時は信じれんせんでしたけど、人間ゴーレムと思っていたナグモがねえ」
クスクス、と新しい玩具を見つけた猫の様な目でシャルティアは笑う。
「まあ、アインズ様がお認めになってるみたいだから、あたしは別にいいとは思うけど。なに? 今まで交流が無かったから知らなかったけど、あんたってシャルティアみたいな
「コイツと一緒にするな。好意を抱いた相手が偶々アンデッドだっただけだ」
「いやそれ、堂々と言われても反応に困るなぁ……」
非常に微妙な顔付きになるアウラに大きく咳払いをして、ナグモは話を中断させる。
「いいから、奥に行くぞ。迷宮内の決められたルートを確かに通ったんだな?」
「まあね。あ、そうだ。なんか面白そうな兎のモンスターがいたからさ、一匹くれない?」
「別に構わないが……兎のモンスター? 深層では弱い部類だった筈だが……」
アウラがそんなに興味を惹く様なモンスターだったか? とナグモは首を傾げながら、アウラとシャルティアを部屋の奥———オスカー・オルクスが遺した魔法陣へと案内する。因みに、魔法陣を起動させる度に何度も再生してくる映像は鬱陶しいので切っていた。
「……どうだ?」
魔法陣の上に立ったアウラとシャルティア。オスカー・オルクスの試練の内容からすれば、これで二人にも生成魔法が習得出来る筈だった。
しかし———。
「ん〜……何も変わった感じがありんせん」
あたしも、とアウラも頷くのを見て、ナグモは溜息を吐いた。
「これで僕以外の守護者達は全滅、か……」
***
「そうか……シャルティアとアウラも習得出来なかったか」
「はっ。御方のご期待に添えず、大変申し訳ありません」
「良い。お前やシャルティア達の責任ではない」
ナザリック地下大墳墓のアインズの執務室で、アインズはナグモの報告を聞いていた。
オルクス迷宮を攻略後、神を打倒する為の神代魔法の使い手は多くいた方が良いというアインズの判断の下、階層守護者達を始めとした戦闘が得意なNPC達はオルクス迷宮の試練に挑む様にアインズから言い渡されていた。ところが、どういうわけか今のところはアインズ、ユエ、香織。そして———ナグモ以外に神代魔法を習得できた者がいないのだ。
「現在、ユエから教わっているトータスの魔法、そしてトータスのモンスターから確認できる固有魔法を調べ、ナザリックのシモベ達にもトータス固有のスキルや魔法が取得できる様に研究しております」
「うむ。神エヒトルジュエを倒すには戦力は多いに越した事はない。引き続き、技術研究所の皆にトータスの魔法やスキルを詳しく調べる様に指示してくれ」
「はっ。今度こそ御方のご期待に添える様、頑張ります」
スッと頭を下げるナグモを見ながら、アインズはふと違和感を覚えた。それが何かを考え、すぐに思い至った。
(あっ、そうか。他のNPC達みたいに自害して詫びるとか言わなくなったからか)
NPC達は常に命を擲つ覚悟でアインズの命令を絶対と考えており、望み通りの結果を出さなければすぐに自害すると言ってくるのだ。篤い忠誠心の表れとも言えるが、それがアインズには精神的に負担だった。彼等を友人達の大事な子供達と見ているアインズにとっては、そこまでして命令を遂行して欲しいとは思ってはいない。だから自分の思い通りに動かなくても、「お前の全てを許そう」と枕詞の様にアインズは言っていたのだが、今回のナグモとの会話ではそれを言わずに済んだのだ。
(何だろ? 以前より、ナグモの態度が柔らかくなったというか……こう、少し気軽に話せる様になった的な?)
彼女が出来たから変わったのかね? なんて益体の無い事を考えていたが、アインズはそれを思考の隅に置いておく。
「しかし、オルクス迷宮で得られるのが生産系の魔法とはいえ、守護者達も習得できればレベル100を超えられると思ったのだが……」
アインズは自分の手を見ながら独りごちた。それは神代魔法の効果か、はたまたユグドラシルから来たアインズ達固有の現象なのか。生成魔法を習得した時、アインズは自分のレベル限界が上がった感触がしたのだ。ユグドラシルではシステム上、不可能なレベル100以上に今のアインズには到達出来るという予感があった。
(迷宮内のモンスター達のステータスを見る限り、今の守護者達でもこの世界なら敵無しの最強クラスだといえる筈だ。ただ……それでもエヒトルジュエ相手にどこまで通用するかは不明だ)
だからこそNPC達もレベル100以上になれるか実験したのだが、結果は芳しくない。もしかしたら、最初から「そうあれかし」とデザインされたNPC達は、今以上に成長したりしないのだろうか? いまアインズと同じ様にレベル100を超えられるのは、ユエと香織、そして恐らくは目の前にいるナグモだけの様だ。
「もともと、守護者の皆のステータスは僕より高いですから戦力としては十分とは思いますが……しかし、そうですね。この生成魔法は僕にとってはこれ以上ないという魔法には違いないです」
ナグモがいくつかのマジックアイテムをアインズの机の上に置いた。いずれもトータス固有の鉱石から作られたアイテムであり、ユグドラシルには無いものだった。
「こちらは念話石から作られた通信用アイテム。これがあれば、<
「ほう、それはありがたいな。低位魔法のスクロールも在庫が減ってきていたからな」
「それでしたら、生成魔法で増やせるかと。あの魔法は無機物に干渉する性質がある様なので、やろうと思えばその辺の石でもスクロールの代わりにする事も可能かと」
「………え? マジで?」
思わず支配者ロールを忘れてアインズは呟いてしまう。すぐにゴホン! と咳払いをして誤魔化したが。
(マジかよ………これ、ユグドラシルで実装されてたら生産チートとか言われるだろ)
あまのまひとつさんにも見せたかったなあ、とかつてギルドの生産職に大きく貢献していたグルメ鍛治師を思い出しながら、他のアイテムを見ていく。その中で片眼鏡の形をしたマジックアイテムを見つけた。
「ん? これは確か……」
「はっ。以前、香織との戦闘で壊れた物を修復致しました。その際にステータスプレートやユグドラシルの位階魔法を融合させ、レベル100以上のステータスでも読み取れる様に改造しました」
ほう、どれどれ……とアインズは試しに片眼鏡でナグモを見てみる。
そして———それに気付いた。
「これは……?」
「アインズ様?」
「———ナグモよ。このマジックアイテムは……正常に動いているのか?」
「? ナザリックのシモベ達でも試しましたので、間違いなく正常に機能している筈ですが……何か不備がありましたか」
「いや、これは……しかし……」
不安そうな表情になるナグモだが、アインズはいま見ている情報を信じられない気持ちで見ていた。
『個体名:ナグモ
種族:人間種(ヒューマン)
レベル:101
・
・
・
カルマ値:10』
(これは……どういう事だ? ナグモのレベルが100を超えている……うん、それはまだ理解できる。生成魔法を習得したからな。でも、確かナグモのカルマ値は0だった筈だ)
NPC達全員の設定をアインズは細部まで覚えているわけではないが、確かそうだった気がする。いつだったか、じゅーるが「科学者だから善悪の偏見に拘らずに物事を見て欲しいんですよね」と語っていたのを覚えている。
(カルマ値が変動した? 一体なんで……香織を助けに行く選択をしたからか?)
確かにそれはカルマ値が上がる行動だろう。ただし、それは自分では
(大体、自分の行動でカルマ値が変動するなんて、それじゃまるで———)
瞬間———アインズに雷鳴の様な閃きが走った。
(まさか……いや、そんな馬鹿な……)
まず最初にそんなわけがない、という考えがくる。
だが、そうなると色々な辻褄が合ってくるのだ。
他のNPC達と異なり、アインズと同じく新たな魔法の習得とレベル上限の引き上げが出来た。
他のNPC達の様に、アインズへ過剰な忠誠心を見せなくなった。
そして———創作者から「人間嫌い」という設定を与えられていながら、
その自由度は———作られた
(ナグモはもしかして……
それを理解した瞬間———アンデッドとして人間の情が薄れつつあるアインズの中で、ある感情が湧き上がった。それは大きな感情ではない。だが、だからこそ沈静化されない———じんわりとした喜びがあった。
「そう、か……そうだったのか……」
「アインズ様……?」
いつになく温かい声を出すアインズに、ナグモは当惑した様な表情になる。
(こんなのは、ただの錯覚かもしれない。でも………)
じゅーるの面影が見える目の前の
そんな風にアインズは思えてしまうのだ。それは
「あの……如何されましたか? やはり、そのマジックアイテムが何か不備でも———」
「いや……何も問題は無い。ああ、問題なんて無いさ」
片眼鏡を外しながら、アインズはいつもより柔らかい声を出していた。
「そうだな……強いて言うなら、お前は私の思惑を超え———そして、おそらくはお前を作ったじゅーるさんが願っていた以上の成長を遂げていた。それをこの目で見られて、私は嬉しい」
「それは……もったいなき御言葉をありがとうございます」
困惑しながらも、ナグモはアインズに頭を下げる。そんなナグモを見て、アインズはある事を思い付いた。
「ああ、そうだな。オルクス迷宮の調査の褒美として、これをやろう」
アインズはアイテムボックスから、ソレを取り出した。
その瞬間、ナグモは目を見開く。
「これは……まさかリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!?」
差し出された指輪にナグモの表情の少ない顔が驚愕に彩られていた。
「これは至高の御方しか所持が許されない指輪の筈! この様な物を受け取るなど、僕には分不相応な褒美です!」
「既にマーレやアルベドにも渡している。ならば、同じ階層守護者のお前が持っていても何もおかしな話は無いだろう」
「いえ、ですが……!」
「冷静になるのだ、ナグモ」
じゅーるによって設定された———されど、もはや設定に縛られなくなった表情を出す人間へ、アインズはとっておきの理由を話した。
「これはな……かつてじゅーるさんが使っていた指輪だ」
それまで慌てた様子のナグモだったが、その一言で静かになった。
「じゅーる様が……?」
「あの人がナザリックを去る時、私はじゅーるさんの装備品やアイテムを預かったが……その一つをお前に渡そう」
そして———アインズはそれを言葉に出す。
「じゅーるさんも———息子であるお前に持っていて欲しい、と言うだろう」
その言葉に、ナグモは神妙な表情となった。そして、恐る恐るといった手付きでアインズから指輪を押し戴いた。
そして、それを右手の小指へと嵌める。それを見てナグモは———アインズも初めて見る、嬉しそうな表情になった。
(まるで親から欲しかったプレゼントを貰った子供だな)
思わずアインズは苦笑してしまう。
(これでいいんですよね? ……じゅーるさん)
アインズの思い出の中にいる六本腕の機神が———ピコン、と笑顔の感情マークを出した。そんな気がした。
>生成魔法、割と万能
お陰で羊皮紙を作る牧場もやらなくて済むかも。そんなわけで、
>アインズ様の喜び
もちろん彼は他のNPC達もギルメンの大事な子供だとは思っています。でもナグモがいる事で人間性を薄れさせていた死の支配者も、多少は軟化していくかもしれません。
>右手の小指の指輪
ナグモ的には作業に邪魔にならない場所に装備しただけ。本来、右手の小指の指輪が意味するのは「自分らしさを発揮」。ある意味、今の彼にはピッタリかもしれない。
>ナグモ
香織が起こした奇跡により、
白崎香織と触れ合う中で人間としての感情を学習していき、いま真に人間という存在になったのだ。その為に創作者であるじゅーるが作った設定から外れた思考を有する様になり、彼は
精神的に未熟なところが目立つのは、NPCとして思考の絶対性を保てなくなったから。言うなれば、「至高の御方の為ならばナザリック外の存在は踏み潰して当然」と考えるカルマ値マイナスの価値観と、「香織を好きになった人間としての心」というカルマ値プラスの価値観が同居している状態である。
電子のピノキオは、奇跡を経て人間となった。
至高の御方に創られた者達の中で、彼は唯一成長と変化が許される存在となった彼がキチンと成長できたならば……それは墳墓の墓守りにとって、大きな喜びとなるかもしれない。