ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 はい、ある意味皆様がお待ちかねのクラスメイトsideです。基本的に彼等は、「異世界に来てチートパワーを貰った? それでどうにかなると本気で思ってたの? アインズ様みたいな慎重派でも無いのに?」とアンチ意見たっぷりな対応をさせて貰います。

 というか感想で「彼」を覚えている人が多くいて驚きました。

2022/2/27 一部文書差し替え


第三十八話「クラスメイトside オルクス迷宮再攻略」

「“天翔閃"!」

 

 光の斬撃が魔物を斬り裂く。光輝の聖なる一撃の前に魔物は倒れ伏した。

 

「やったな、光輝!」

「やっぱり天乃河くんって強いよね〜!」

「ありがとう、龍太郎! 鈴! これは皆の力さ!」

 

 パーティーメンバーである龍太郎と鈴の賛辞に、光輝は気を良くした様に礼を言う。そこにパンパン、と手を叩く音が響いた。

 

「素晴らしい! さすがは神の使徒だ! やはり光輝こそがハイリヒ王国を救う真の勇者だな!」

 

 カイゼル髭が特徴的な神殿騎士の鎧を着た男が誇らしげに光輝を誉める。

 彼の名はフレデリック・ヨーク。

 僻地へ左遷されたメルドに代わり、神の使徒達の戦技教官として教会から派遣された神殿騎士だ。新たな教官の褒め言葉に光輝は「いやあ、ははは……」と照れ臭そうに笑った。

 彼の部下達も光輝へ「さすがは勇者様です!」、「エヒト神に選ばれた者はやはり違いますな!」と賛辞を送る。それにつられる様にクラスメイト達も「やっぱり天乃河は凄えな!」、「天乃河くん、カッコいい!」と歓声を上げていた。……一部を除いて。

 

「あの………フレデリックさん」

 

 永山重吾が遠慮がちに声を掛けた。

 

「こっちも魔物を倒し終わりました」

「ああ、ご苦労」

 

 先ほどの光輝を褒め称えていた時とは違い、投げやりな態度でフレデリックが応じる。

 

「引き続き警戒に当たれ。お前のパーティーの暗殺者の……何だったか?」

「………遠藤です」

「ああ、そうだ。そんな名前だった。そのエンドーだかを索敵に出せ。光輝が戦いやすい様に魔物やトラップを見つけ出せ。いいな?」

「………分かりました。遠藤に伝えておきます」

 

 まるで光輝の為に使い走りをしろと言う様な命令だが、永山は唇を噛みながらも承諾した。今までの付き合いで、フレデリックがどんな性格か重々承知していた。

 簡単に言うと、彼はステータス偏重主義なのだ。ステータスの上昇が大きく、勇者という貴重な天職を持った光輝をひたすら褒め称えて、逆にステータスが光輝達より低く、言わば神の使徒“二軍"程度に留まった永山パーティーの面々には冷たい態度しか取らない。個人の能力がステータスプレートで判明するトータスならではの性格と言えよう。

 そんな性格の男が教官となってから、光輝を初めとしたステータスが高い者は優遇される様になった。訓練場の後片付け、野営の準備といった雑用は二軍となった永山達の仕事であり、戦闘においても光輝の露払いに徹底する様に命じられていた。

 この扱いに、最初は永山パーティーは抗議の声を上げた。だが……。

 

『永山……こんな時に我儘は良くないんじゃないか?』

 

 まるで仲間の和を乱す人間を咎める様な口調で、光輝は永山達に厳しい顔を向けた。

 

『ステータスが低いから皆の足並みが揃わないんだ。俺ならもっと努力して、ステータスが伸びる様にするのに。そんな君達をフレデリックさんは皆の役に立てる様に仕事を割り振ってくれているのに、やりたくないなんて言うべきじゃない』

『そうだそうだ! 天乃河の言う通りだぜ!』

 

 檜山が同調する様に声を上げる。彼等のパーティーも光輝には劣るがステータスの伸びは良く、フレデリックに特別扱いを受けていた。

 

『テメエ等が足手纏いだから俺達が迷惑してるんだ! だったらテメエ等は雑用ぐらいやって役に立てよ!』

 

 「そうよ! そうよ!」、「あんまり俺達に迷惑かけるなよな」とその他、特別扱いをされた者達から「空気を読めない」と言わんばかりに抗議の声は黙殺された。

 

(クソ……俺達は光輝の引き立て役の為に戦っているわけじゃねえぞ!)

 

 パーティーリーダーの永山に頼まれ、一人だけクラスメイト達から離れて索敵をする遠藤は内心で毒づいた。光輝がナグモに対抗する為にやっていた合同練習以来、クラスメイト達の中では光輝を中心とした奇妙な連帯感が生まれていた。そしてフレデリックの「特別扱い」により、いまやクラスメイト達は光輝の意見一つで立ち位置が決まるクラスカーストが出来上がっていたのだ。

 

(せめて八重樫がいてくれればな……)

 

 今になってようやく、遠藤は雫がいかに光輝の暴走を抑えていくれたかを思い知る羽目になった。

 その雫の姿は———ここにはない。

 彼女は図書館で暴れて騎士達に取り押さえられた後………全てに無気力となり、寝込んでしまっていた。手足は暴れない様に寝台に縛り付けられていたが、そんな物は雫には不要だ。彼女付きのメイドであるニアが持ってくる食事を手ずから食べさせる以外は、日がな一日ベッドの上でただボンヤリとした目で虚空を見つめるだけだった。こちらが何を言っても、何の反応も示さない。

 

(そりゃそうだろ……目の前で親友(白崎)が死んだんだぜ?)

 

 だが、それすらも光輝の暴走を止めるには至らない。きっかけは、“降霊術師“の中村恵里の一言だった。

 

『みんな、聞いて。白崎さんは……まだ生きてるかもしれないの』

 

 香織が奈落に落ち、ナグモは王宮から人族の裏切り者として公表されてクラスメイト達がショックを受けている中、恵里の一言に皆が驚きを隠せなかった。

 

『恵里……それは本当なのか!?』

『う、うん。降霊術で白崎さんの残留思念に呼びかけているけど、何の反応も無いの』

 

 光輝に詰め寄られながら、恵里は首を縦に振った。

 

『だから……もしかしたら白崎さんはまだ死んでないのかも』

『そう、なのか……ありがとう、恵里!』

 

 光輝はクラスメイト達に振り返る。

 

『皆、聞いてくれ! 香織はまだ生きてるんだ! 俺達の助けを待っている筈だ! 皆で助けに行こう!』

『へっ、光輝が行くなら俺も行くぜ! 希望が見えてきたな!』

『鈴も行く! カオリンは友達だもん! 見捨てられないよ!』

『す、鈴が行くなら私も……』

 

 『俺も行くぞ!』、『私だって!』とクラスメイト達から次々と賛同の声が上がる。クラスのアイドルである香織を救う為に、一度は戦意が折れ掛けていた者も次々と再びオルクス迷宮に行く決意が出ていた。

 

『皆……ありがとう! 香織の無事な姿を見れば、きっと雫も元気に

なる筈だ! でも注意してくれ! もしかしたら、魔人族に寝返った南雲の奴も生きてるかもしれない! オルクス迷宮に潜んで、今も香織を監禁しているかもしれないんだ!』

 

 光輝の言葉が皆に響く。だからこそ、と光輝は強い瞳で訴えかけた。

 

『俺達はもっと強くなろう! 皆で団結して、南雲の奴を倒すんだ!』

 

 おう! と光輝のカリスマに引っ張られたクラスメイト達は拳を突き上げる。

 ———それを遠藤達を含めた何人かの生徒は微妙な顔で眺めていた。

 

「白崎がまだ生きてるとか、南雲が裏切り者とか言われてもよ……本当はどうなんだか」

 

 それを鵜呑みに出来ず、遠藤達やその他の何人かはクラスの熱狂ぶりについて行けなかった。だからこそ彼等は再び始められた光輝主催の自主練に付き合えず、ステータスが他の面子よりも低くなってしまった。それを怠惰だと責める光輝達とソリが合わなくなり、新たな教官であるフレデリックが光輝達を優遇する為に反発心から光輝達と距離を置く様になり……という経緯から、今や遠藤含めた永山パーティーは二軍級の扱いなのだ。

 

(クソ、これならいっそ園部達みたいにはっきりと戦わない宣言をすれば良かったか? でも、あの扱いの悪さはな……)

 

 そんな中で園部優花を含めた何人かの生徒達は、戦いへの恐れから立ち直れないでいた。それを王国の貴族や教会の人間どころか光輝達からも責められていた。作農師である畑中愛子のとりなしでそれ以上の追及はされなかったものの、光輝と共に戦線復帰したクラスメイト達から白い目で見られて、部屋に篭りがちになってしまったと聞いていた。

 

「………もう、駄目かもな」

 

 ついそんな事を呟いてしまう。この世界に来た当初の剣と魔法のファンタジーへの期待感などない。チートパワーを貰って国を救う勇者の一人になれたなんて幻想も醒めてしまった。あるのは自分達は大人達にいい様に使われており、地球で学校の教師がやっていたみたいに光輝という主人公を光らせる為に脇役にされた自分達が割りを食うという現実。

 それでも他に寄る方がない以上、我慢するしか無いのだ。いっそ国の支援など放り捨てて冒険者にでもなった方が良いかも……そんな事を遠藤は真剣に考えていた。そうすれば戦争に勝って地球へ帰還するという道程から遠のくが。

 

「………? 何だあれ?」

 

 気配を消しながら道中の魔物を避けてマッピングしていた遠藤だが、ここで無視できない相手を見つけてしまった。

 それは因縁の第65階層———そこへ続く階段。その前に禍々しい形状の鎧騎士が門番の様に直立していた。

 

(あれ、確かトラウムナイトか? 40階層の魔物がどうして64階層に……)

 

 それもまるで()()()()()()()()()()()()()微動だにせず、後ろへの階段を守るかの様に立っていた。いずれにせよ、避けずに通る事は無理そうだ。

 

(まあ、第40階層の魔物なら光輝達なら楽勝だろ……っ!?)

 

 楽観的に考えていた遠藤だが、その骸骨騎士から何か違和感を感じて暗殺者としての本能が警戒を鳴らした。

 

(違げえ……あれは普通のトラウムナイトじゃねえ!)

 

 理屈は分からない。だが、骸骨騎士の目を見た瞬間、今までのトラウムナイトと違って怖気が走る悪寒がしたのだ。あれは今までの雑魚とは違う。

 それを知らせるべく、遠藤はより一層に気配を消しながらクラスメイト達の元へ戻った。

 

 ***

 

「本当なんだって! あれは普通のトラウムナイトとは何か違うんだって! 信じてくれよ!」

「遠藤………」

 

 見てきた骸骨騎士の危険性を必死に訴えかける遠藤だが、光輝達の反応は良くない。まるで風で飛んでいたシーツをお化けと勘違いした子供を見る様な目で遠藤を見ていた。

 

「君の考え過ぎじゃないか? 今さらトラウムナイト相手に皆が遅れを取るわけないだろ」

「だから! あれは普通のトラウムナイトじゃないんだって、なんか、こう……殺気がヤバかったんだって!」

 

 もどかしい思いになりながらも遠藤は必死に説明する。彼の感じた危険性は残念ながら直接相対してない者には分からない様だった。

 

「———もう良い」

 

 尚も言い募る遠藤にフレデリックは冷たい目を向ける。

 

「貴様が光輝達より弱いからそう感じているだけであろう。貴様は後方に下がっていろ!」

「でもフレデリックさん、あれは本気でヤバそうな、」

「クドい! ステータスが他の者より低い貴様が口答えなどするな! 貴様は黙って言われた事だけをしていろ!」

 

 フレデリックの一喝に遠藤は押し黙る。

 

「大丈夫ですよ、フレデリックさん。たとえ本当にそのトラウムナイトが普通より強くても、俺が皆を守ります!」

「うむ! よく言った! やはり光輝こそが真の神の使徒だな!」

 

 クラスメイト達が「そうだよね〜」、「今さらトラウムナイトごときに俺達が遅れを取るわけ無えじゃん!」と次々と言い合う。顔を真っ赤にした遠藤に永山達が寄り、慰める様に肩を叩いた。結局、永山達は後ろに下がらせられ、光輝達こと「神の使徒一軍」パーティー達が前衛に出て———それに相対した。

 

「こいつが遠藤が言ってた魔物かよ?」

 

 階段の前に陣取る骸骨騎士に檜山達は警戒心なくヘラヘラと笑う。

 

「何だよ、どんなヤバい相手かと思ったら見た目はただの雑魚じゃねえか」

「いやー、遠藤には強敵に見えたんじゃねえの? あいつら俺達よりステータスが雑魚だからよぉ!」

「ギャハハ! ちげえねえ!」

 

 近藤や中野も連れられる様に笑う。その事で何人か顔を顰めたが、訂正させようという者はいなかった。

 

「ようし、じゃあいくぜ!」

 

 近接格闘系の戦闘職の男子生徒が一番槍として前に出た。その構えに油断や慢心はない。クラスメイト等もここまでの戦いで、戦闘者としての振る舞いが一端に出てきていた。

 

「ヤアアアァァァッ!」

 

 槍が骸骨騎士へと迫る。40階層にいたトラウムナイト達みたいに、目の前の魔物は串刺しにされ、

 

 ガキンッ!

 

 ———る事なく。槍は骸骨騎士が構えていたタワーシールドに塞がれていた。

 

「へ?」

 

 防がれると思っていなかった男子生徒の間抜けな声を上げる。

 ———次の瞬間、死の旋風が巻き起こる。

 刀身が歪んだ大剣が動いたと思ったら、あっという間に男子生徒の首は宙を舞っていた。

 その瞬間がスローモーションの様にクラスメイト達には映った。呆気に取られた頭がクルクルと回り———ベシャリ、と地面に落ちる。

 

「てめぇ、よくも!!」

 

 仲間の死に龍太郎がいきり立つ。拳を握り、骸骨騎士へと躍りかかった。

 

「ガアァァァアアアアアアアッ!!」

 

 それを骸骨騎士———デスナイトは、悍ましい叫び声を上げながら迎え撃った。

 

 




>フレデリック・ヨーク

 元ネタは歴史的な愚将フレデリック公から。それこそ名前をあの軍人からムタロとか本気で考慮していた。原作でメルドがいなくなったら「神の使徒」として教育する様な人間が教官になる可能性があるというのを考えた結果です。ステータス偏重主義なのは、ステータスプレートで個人の才覚がはっきりと数値化できる世界ならステータスを見て人間を判断する様な奴がいてもおかしくないよね? という事で。

>クラスメイト達

 原作ではハジメの死に多数の脱落者が出ましたが、今作では奈落に落ちたのがクラスの人気者の白崎さんだったこと、そして恵里から生きてる可能性を示唆された事で多くの人間が助けに行こうとしてます。ちなみに檜山は「あのトラップも南雲に脅されて仕方なく発動させたんだ!」と光輝の前で土下座して許してもらってます。それを信じられず、クラスから浮いてしまった永山や遠藤は彼等から冷遇されてます。
 自分の勝手な推測になりますが、クラスメイト達はハジメがいなくなってイジメの相手が代わるだけだと思うの。光輝というリーダーが容赦なく叩いてる、だから皆でやっていいんだ! みたいに。
 雫は……残念ながら今は廃人化。

>デスナイトくん

アインズ「………オルクス迷宮で、何か忘れ物があった様な?」

RPGで言うと、話しかけなければ襲ってこないボスキャラに「今のレベルでイケる!」と戦いを挑んだ感じです。(最近マリオストーリーでブラックヘイホーにボコられた人並感)

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