ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 一部で、「クラスメイト達が原作とかけ離れているから捏造ヘイトのタグを付けろ」と指摘がありましたが……申し訳ないけど付ける気は無いです。自分の偏見とかが多目な描写は否定しませんが、彼等を性格の良い集団として書くのも何か違うなとは思うので。
 アニメ二期を見て少し考えを改めましたが、web版を読んだ時はハジメ自身の態度がイジメられる原因を作っているという意見を認めるとしても、それ以外の描写がかなり酷くてクラスメイト達を善良な人間と見る事は出来なくなってしまいました。

2022/2/27 一部文書差し替え

 この作品は光輝を始めとしたクラスメイト達の救済はとても難しいので、作品に合わない方は残念ながらお気に入り登録を外された方がよろしいかと思います。


第四十話「クラスメイトside 闇の中で蠢く」

「イ、イヤアアアァァァッ!?」

「く、来るな! 来るんじゃねえ!!」

 

 クラスメイト達の悲鳴がオルクス迷宮内に響き渡る。彼等は武器を滅茶苦茶に振り回しながら、目の前の敵を遠ざけようとしていた。まるでかつてベヒモスと戦った時の焼き直しだ。こんな時に彼等の統率をとるのがフレデリックを始めとした神殿騎士達や光輝の役目だが———彼等にはそれが出来なかった。

 

『アアアアアアッ……!』

 

 首無し死体となったフレデリックがクラスメイト達に襲い掛かる。切断された首の断面からこの世の物とは思えない呻き声を出しながら這い寄る様は、三流のホラー映画の様だ。だが、それでもクラスメイト達を恐怖のどん底に引き落とすのに十分だ。しかも相手はフレデリックだけではない。暗がりの中から先の戦闘で死亡した者達がゾンビとなって、クラスメイト達に襲い掛かっていた。

 ベヒモスの時とは違い、今の彼等はレベルが高く、戦闘技術も格段に向上している。だが、相手が今までの魔物と違って、()()()———それも今まで、苦楽を共にした仲間であったこと。それがクラスメイト達の手元を狂わせていた。

 ……そして、それは光輝も例外では無かった。

 

「りゅ、龍太郎? 止めるんだ! こんな時にふざけている場合じゃないだろ?」

『ガアアアァァァアアアッ!』

 

 光輝の呼びかけに龍太郎(スクワイアゾンビ)は殺意を込めた拳で応じた。光輝は必死で防ぎながらも、親友を止めようとする。その顔は目の前で起きた事実(鈴の死体)を認めたくないかの様に引き攣っていた。

 

「龍太郎! 待ってくれ! 早く鈴の治療をしないと———!」

「何言っているんだよ! 天之河!」

 

 遠藤がダガーを抜き放ち、ゾンビ化した龍太郎へ斬り掛かる。

 

「え、遠藤!? 何をしているんだ!? 何で龍太郎に」

「馬鹿野郎! 現実を見ろ! こいつはもう魔物だ!」

 

 永山達もまた各々の武器を構えながら、龍太郎ゾンビと対峙した。遠藤達とて級友だった龍太郎と戦うのは抵抗がある。だが、目の前で起きた凶行は覚悟を決めるには十分だった。

 

「な、何を言っているんだ? 龍太郎はふざけているだけで」

『グガアアアアアアッ!!』

 

 目の前の現実を認められない光輝を遮る様に、龍太郎ゾンビが襲い掛かってくる。それを永山達は武器を抜いて迎え撃つ。それを皮切りに他のクラスメイト達も攻撃を始めた。

 

「ああああああっ!!」

「死ねえええええっ!!」

 

 誰もが必死だった。同じクラスメイトだった者、自分達の教官だった者へ武器を振るい、魔法で焼き払う。ある者は歯を食い縛り、ある者は狂乱に彩られた顔でゾンビ(元仲間)達に攻撃する。

 

「まだ動くぞ!」

「こ、殺せ! 殺せええっ!」

 

 ゾンビである為に生半可な攻撃では止まらないから、執拗に。そして徹底的に。まさにそれは———地獄絵図のよう。

 

「や、止めろ……皆、止めてくれ……!」

 

 そんな中、光輝だけが剣を振るえないでいた。だが、誰も耳を貸してくれない。彼にとって、異世界(トータス)での戦いは人々を救う正義の戦いだった筈だ。それが何故———クラスメイト同士で殺し合っているのか? 悪夢の中でただ一人、正気のまま取り残されてしまった光輝は震えながら声を絞り出す事しか出来なかった。

 

「キャアアアアアッ!」

 

 ハッと光輝が悲鳴に振り向いた。そこには———。

 

「や、止めて……鈴……正気に戻って……!」

『ア、アアア、アアアッ……!』

 

 胸に風穴を開けた鈴が、恵里に覆い被さる様に襲っていた。小柄な身体で首を絞めてくる鈴に、恵里は必死に身を捩っていた。彼女の顔は息苦しそうに歪んでいた。恵里の目が光輝と合った。

 

「光、輝くん……!」

 

 恵里が息も絶え絶えといった様子で必死に呼びかけた。

 

「た……す……け……て………!」

「うっ……あっ…!」

 

 今まで、自分の正義感で何人もの人間を救ってきた。何故ならそれが祖父に教えられた()()()()だから。

 

「あ、ああ、ああっ……!」

 

 助けを求められたなら———救わなくてはならない。それが、天之河光輝の根幹なのだから。

 

「う、うああああああああっ!!」

 

 光輝は叫びながら聖剣を振るう。かつて仲間()()()少女(ゾンビ)に。

 

「ああああああああっ!!」

 

 かつて親友()()()少年(ゾンビ)に。

 

「ああああああああっ!!」

 

 自分を一番褒めてくれた教官(ゾンビ)に。

 

「ああああああああっ!!」

 

 振るう。振るう。振るう。

 ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ。ザシュ、ガスッ———!

 

 ***

 

 ホルアドの宿屋。オルクス迷宮へ訓練に来る神の使徒達の宿場として使われている宿は、今は重苦しい沈黙に包まれていた。

 迷宮の外で待機していた神殿騎士は満身創痍で帰って来た神の使徒を見て驚愕していたが、事の顛末を聞くとすぐに王宮へと早馬を走らせた。王宮から返事が届くまで待機を命じられたクラスメイト達だったが、皆が部屋に引きこもってしまっていた。自分達がゾンビ化したとはいえ、人を———級友達を殺したという事実に誰もがショックを受けていた。

 

「あ、ああっ……龍太郎……鈴……フレデリックさん……!」

 

 光輝も与えられた自室に引き攣っていた。灯りをつけずにベッドに座り、ワナワナと震える自分の手を見つめた。今にも斬り殺した者達の感触が蘇りそうだった。

 

「うっ………!」

 

 胃の中から込み上げてくる物を感じて、部屋の備え付けの洗面器へ駆け寄る。胃の中の物をそのまま吐き出した。あれから食事など摂る事も出来ず、もはや胃液しか出なかった。

 

「うっ、うう……ああっ……!」

 

 もう喉が腫れるほど吐き尽くしたというのに、嗚咽の声だけは止まらなかった。自分の顔を爪が食い込むほどに手で覆う。

 

(これは夢だ………悪夢を見ているに違いないんだ……)

 

 だが、爪の痛みと流れ出る血が、これは現実だと否応なく突きつけていた。

 

(何でだ……? 何でこんな事になったんだ……? 俺は……正しい事をした筈だろ……?)

 

 ぐるぐると光輝の中で思考が回る。出口の無い暗闇に光輝の思考が引き摺り込まれそうになり———部屋のドアが突然叩かれた。

 

「ひっ……だ、誰だ!?」

「恵里だよ。光輝くん、その……大丈夫?」

 

 身体を震わせた光輝の返事より先に、恵里が部屋に入ってきた。

 

「だ、大丈夫だ……ちょっと疲れてただけだ」

 

 クラスのリーダーとして、光輝はいつも浮かべていたカリスマ性に溢れた笑顔を見せようとした。だが、額から血が滲み、無理やり作った様な笑顔は見ていて痛々しいものだった。

 

「恵里も大変だっただろ? 今日は大事を取ってゆっくり休まないとダメだ」

「光輝くん」

「そうだ、皆の様子を見て回らないと! 俺は勇者だからな! 皆が落ち込んでる時ほど、俺が頑張らないと———」

「光輝くん!」

 

 空回りながらも光輝はクラスのリーダーの務めを果たそうとしたのを、恵里は大声をだして止めた。そして———ギュッと光輝を抱き締める。

 

「恵里………?」

「……辛かったよね? 龍太郎くんがあんな事になって。僕も辛いよ……鈴が……僕の親友が……!」

 

 光輝と恵里とでは身長差がある為、恵里が光輝の胸に顔を埋める様な形になった。クスンクスン、と涙を流す恵里を光輝は戸惑いながら抱き返した。

 

「恵里……でも、俺は龍太郎達を殺して……!」

「ううん! 光輝くんは悪くないよ! 間違ってなんかない!」

 

 その言葉は、いま光輝が一番言って欲しかった言葉だった。

 

「間違ってない……?」

「殺されそうだった僕を救ってくれた! お陰で命を救われた! 光輝くんは僕の勇者だよ!」

「え、恵里……俺は……俺は……!」

「それにこれは遠藤くんが悪いよ! 曖昧な報告しかしなかったから、皆がこんな事になっちゃったんだよ!」

「そう、なのか……? 遠藤、やっぱりアイツが……!」

 

 ギリッと光輝の顔が憎しみに染まる。彼の御都合主義な性格が、今回の間違いは遠藤にある! と判断してしまっていた。

 

「遠藤め、よくも皆を……!」

「落ち着いて。今ここで騒いでも、みんな疲れているから取り合ってくれないかもしれないの」

 

 だから、と恵里は顔を上げる。

 

「王宮に戻ったら、イシュタルさんに相談しよう。大丈夫だよ、光輝くんは勇者だから、きっとイシュタルさんも聞いてくれるよ」

「あ、ああ! そうだな! ありがとう恵里!」

 

 ———そして。光輝はいつもの調子に戻っていた。「自分が正しい」と疑わない、真っ直ぐな正義漢に。

 

「大丈夫だよ、光輝くん」

 

 光輝に抱き着いたまま、恵里は再び光輝の胸に顔を埋める。

 だからこそ、光輝は気付かなかった。

 

「他の人がいなくなっても……僕だけは光輝くんのヒロイン(味方)だよ」

 

 その顔は———邪悪に微笑んでいた。

 

 ***

 

 恵里は自室に戻る。灯りを点けず、鎧戸を締め切った部屋は完全に闇だった。ドアを閉めて———そこで恵里に部屋の空間ごと閉ざされた感覚が襲う。

 

「説得は済みましたか?」

 

 ギシィ、と部屋の中で床板が軋む音と共に、耳に心地良い男の声が響く。突然、部屋の中に現れた男は———否。それは人間ですらなかった。橙色のスーツを纏い、蜥蜴の様な尻尾を生やし、顔には薄笑いを浮かべた様な造形の仮面。その異形に恵里は———躊躇いなく片膝をついた。

 

「はい、ヤルダバオト様。光輝くんは勇者としてまた戦う決意をしてくれました」

「結構。彼はまだまだ役に立ちます。もう暫くは人間達の勇者でいて貰いましょう」

「それで、王宮に帰ったら遠藤くん達を告発する様に誘導しました」

「遠藤………ああ、あの人間でしたか」

 

 ふむ、とヤルダバオトは思案する様な素振りを見せて、すぐに結論を出した。

 

「周りの人間はともかく、彼のスキルは今後役に立つかもしれません。王宮から追放という形に収まる様にしましょう。貴方もそういう風に()()・勇者達を宥める様に」

「はい、ヤルダバオト様」

 

 スッとヤルダバオトが恵里に近寄る。ポンッと肩に置かれた手には氷の様に冷たく、恵里の背筋が震えた。

 

「うまくやりなさい。そうすれば彼が貴方の手に入る様に、私から御方にお願いしましょう。出来なければ———分かっていますね?」

「………はい、ヤルダバオト様」

 

 恵里が返事をした後、気配が消える。そして空間が元に戻ったのを感じて、恵里は大きく溜息を吐いた。

 

「ふ、ふふ……化け物め」

 

 ———恵里があの悪魔に出会ったのは、彼女自身の計画の下準備を実行しようとした矢先だった。突然、現れたヤルダバオトに驚いたものの、彼の話は恵里にとっては甘美で、自分が立てた計画よりも確実に光輝を手に入れられると思えた。

 それ以来、恵里はヤルダバオトと名乗る悪魔の言われるがままに様々な事を行った。香織がまだ生きているなどと嘘の報告をして、光輝達がオルクス迷宮に再び行くように仕向けた。遠藤達を生贄にして、光輝の意見でしか動けない様なクラスの空気を作った。

 そして———自分の親友を含めたクラスメイトの何人かが、ヤルダバオトが言っていた御方のシモベと戦うのを黙殺し、ゾンビに変えた。ヤルダバオトからの連絡で、これ以上は死人は出さなくて良いと言われ、ゾンビ化したクラスメイト達を操って死闘を演じた。

 

「ああ、本当にあれは化け物だ……あんな化け物を飼ってる御方ってどういう奴だよ」

 

 顔を引き攣らせながらも恵里は微笑む。あれは危険だ。人間が関わって良い相手じゃない。だが———。

 

「ふふふ……待っててね、光輝くぅん」

 

 恵里の顔がウットリと陶酔する。あの悪魔に従ってさえいれば、光輝は確実に自分の物になる。その未来に、恵里は邪悪に微笑んでいた。

 

「あの悪魔からは私が守ってあげるから……二人だけで、いつまでも幸せに暮らそうね♪」

 

 ……そこに、計画の過程で自分の親友を犠牲にした罪悪感は欠片も無かった。

 

 

 

 




結論:やっぱりナザリックがわるい!

一言いわせて欲しい。

デミが言われた事しかやらないわけないでしょう(笑)

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