ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 今回、はっきり言って自分でも上手く書けた自信が無いです。でも、モチベーションの維持の為、あとは所詮は素人が趣味で書いてるSSだからと開き直って投稿する事にしました。そんなわけでさほど期待せずに読んで下さい。

 あと諸事情により、感想の受付をログインユーザーのみとしました。ご了承下さい。


第四十四話「フェアベルゲン動乱の始まり」

「ハァ……ハァ……!」

 

 ライセン大峡谷。

 魔力が分解される為に魔法が使えなくなり、峡谷に巣食う凶暴な魔物に見つかれば容赦なく餌食となる地上の地獄と呼ばれる場所で、その少女は走っていた。

 露出の多い民族衣装の様な服、青みがかった銀髪の上に揺れる兎の耳。

 彼女は兎人族と呼ばれる亜人族であり、本来ならハルツィナ樹海の奥にある亜人族の国「フェアベルゲン」で暮らす気弱な種族の筈だ。決してこんな場所にいて良い存在ではない。

 そもそもトータスにおいて亜人族は生まれ付き魔力を持たない為に魔法を行使できず、それが「神の恩恵を受けられなかった穢れた種族」として、人族からも魔人族からも差別される。ヘルシャー帝国など、亜人族を奴隷として酷使している程だ。その為に自分達の国から出る亜人族などいない。

 だが、彼女———シア・ハウリアは何かの確信を持った瞳で峡谷を進んでいた。

 

「急がないと……! 確か、『予知』だとこの辺の場所で……!」

 

 ぶつぶつと何かを呟きながらも、その足取りは逃避行の様に迷ってはおらず、確かなものだ。

 シアは峡谷の魔物に見つからない様に時折、岩陰に身を隠しながらもある場所を目指して進んでいく。

 

「もう少し……もう少しですぅ……!」

 

 まるでその場所にこそ求めている何かがあると確信している様な口ぶりで奥へ奥へと進んでいく。

 彼女———シア・ハウリアは未来が見えていた。魔力を持たない亜人族の隔世遺伝として、稀に魔力操作の技能と固有魔法を持って生まれる場合がある。シアの場合は「未来視」の固有魔法であり、この能力でシアは確定的ではないが、未来の可能性を垣間見る事が出来た。そして、その能力がシアが今求める者がこの先にいると示したのだ。

 だが———目的地にもう少しで着くという焦りが迂闊な行動になってしまった。

 

「あ………」

 

 峡谷の角を曲がると、ちょうど二頭頭のティラノサウルス———ダイへドアの眠っている場所に入り込んでいた。しかも運悪くシアに気付いてパチリと目を覚ましてしまう。ダイへドアはその二つの頭で、「何だコイツ?」と言いたげな目になる。しかも寝起きですごく不機嫌そうだ。

 

「あ、あの〜……起こしてしまってごめんなさい。それじゃ、私はこれで……」

 

 ニヘラ、と笑いながらシアは何事もなく立ち去ろうとする。もちろん、それで済む筈が無く———。

 

「「グルアアアアァァアアアッ!!」」

「ひぎゃあああああっ!?」

 

 勝手に縄張りに入り込んだ余所者(エサ)をダイへドアは追いかけ始めた。

 

「そ、そんな怒んないでくださいよおおおっ!? こんな未来は見えてなかったのにぃぃぃぃっ!?」

 

 余人から聞けば意味不明な事を言いながら、シアは遁走を始める。亜人族の中では最弱と揶揄される兎人族だが、その動きは非常にすばしっこい。ぴゅ〜っ、と擬音が付きそうな速度でシアはダイへドアを引き離そうとする。しかし、ダイへドアもさるもの。咆哮を上げながらシアに劣らぬ速度でぴったりとマークする。

 無限に続くと思われる鬼ごっこは、すぐに終焉を迎えた。ライセン大峡谷に縄張りを持つダイへドアは地理を知り尽くしており、シアはものの数分で袋小路に追い詰められていた。切り立った崖は高く、空でも飛ばない限りはこの場から逃げられそうにない。

 

「あわ、あわわわわ……」

 

 絶体絶命のピンチにシアはガタガタと震える。目の前には追い詰めた獲物を前に、生え揃った牙から涎を垂らす双頭がある。

 

「駄目……!」

 

 自分の死が目前に迫りながらも、シアの口から出たのは命乞いや末期の祈りではなく、否定の言葉だった。

 

「私は……私は、こんな所で死ねない……!」

 

 強い決意を込めて、シアは呟く。その目は生存を諦めてなどいなかった。

 

「ここで私が死んだら、フェアベルゲンの未来が———!」

「「グルアアアアァァアッ!!」」

 

 彼女の決意を掻き消す様にダイへドアが吼える。二つの頭がシアへと殺到する。シアは思わずギュッと目を瞑ってしまい———。

 

「「ギャアアァァアアアッ!?」」

 

 突如、襲い掛かろうとしていた筈のダイへドアの絶叫が聞こえた。シアが驚いて目を開けると、目の前に———ダイへドアの首筋に噛み付く黒龍の姿があった。黒龍は背中の翼を羽ばたかせ、ダイへドアを持ち上げるとそのまま地面へと放り投げた。一頭の首が食い千切られて、ダイへドアは造形が歪なティラノサウルスと化した。

 

「ガアアアァァァアアアッ!!」

 

 失った身体の痛みと生まれた時から一緒だった()()の死に、ダイへドアは怒りの咆哮を上げる。即座に起き上がると、残った頭の口に魔力が充填されていく。

 黒龍はベッ、と咥えていたダイへドアの首を吐き捨て、同じ様に口に魔力を充填させる。

 

「ガアァァァアアアアアッ!!」

「グオオオォォォォオオッ!!」

 

 咆哮と共に二匹の龍からブレスが吐き出される。極光が二匹の間でぶつかり合い———拮抗すらせず、黒龍へと軍配が上がった。

 衝撃と熱波を伴った黒いブレスはダイへドアを呑み込み、それどころか地面にも亀裂を残しながら背後の峡谷の岩壁まで融解させていく。

 

「す、すごい……ダイへドアが一撃で……!」

 

 呆然と呟くシアに、黒龍は頭を向ける。第三者から見れば、次の獲物をジロリと睨め付けている様に見えるだろう。だが黒龍はシアが大きな怪我などしてない事を確認すると、翼を羽ばたかせて飛び立とうとし———。

 

「あ、あの! 待って下さい!」

 

 その背中をシアは呼び止めた。

 

「助けてくれてありがとうございました! それで差し出がましいとは思いますけど、私の話を聞いては貰えないでしょうか!」

 

 凶暴そうな黒龍にシアは懸命に話し掛ける。言葉が通じる筈のない魔物と対話しようとするなど、傍から見ればシアが正気を失った様にしか見えないだろう。

 

『………………おぬし』

 

 だが————信じられない事に黒龍は振り向き、シアに向けて明確に言葉を発した。

 

『もしや、妾が竜人族だと知っておるのか?』

 

 コクン、と頷くシアを黒龍————ティオ・クラルスは信じられない面持ちで見つめた。

 

 ***

 

「お願いします! 信じて下さい!」

 

 それから数日後。シアはフェアベルゲンの長老会議の場にいた。といっても、テーブルに座る各種族の長老達に対してシアは下座で地に額を擦りつけ、必死な面持ちで頭を下げているという有り様だ。

 だが、そんなシアに対して長老衆達の顔は厳しい。

 

「はっ、誰が忌み子の言う事など信じられるか! よくもおめおめと我等の前に姿を表せたな!」

 

 熊人族の族長ジンが嫌悪感を込めた目でシアを睨む。

 

「大方、戯言で我々を混乱させて処刑を免れようという魂胆だろうが、そうはいかんぞ!」

「ち、違います! 私はこの()で確かに」

「ジンの言う通りだ! 掟に従って忌み子を匿っていたハウリア族もろとも処刑しろ!」

 

 土人族の族長グゼもジンに同意する様に大声を上げる。他の族長達も声高に主張はしないものの、シアに助け船を出そうとする者はいなかった。唯一、未来の族長候補として出席を許された森人族のアルテナが気遣わしげな視線をチラチラと送るものの、現族長である祖父アルフレリックの前では何も言えずに口を閉ざすしか無かった。

 

「長老様方、どうかお頼み申し上げます!」

 

 シアの父親———兎人族の族長カム・ハウリアが娘と共に土下座する。

 

「どうか娘の言う事に耳を傾けて頂きたい! 娘は処刑される覚悟でこの国に戻ったのです!」

「黙れ、カム! フェアベルゲンを謀り続けた裏切り者が!」

 

 ジンはカムに罵声を浴びせる。フェアベルゲンにおいて、シアの様に魔力操作をできる亜人族は魔物と同じ事が出来る忌み子と呼ばれ、生まれたら即座に殺すのが習わしだ。ところがカム達ハウリア一族は、シアを殺さずに大事な家族として育て上げ、今までその存在をひた隠しにしてきた。

 

「穢れた忌み子をよくも隠し続け、我等を騙し続けた分際でよくも口が利けたな! 即刻、その忌み子共々、貴様ら一族郎党を処刑して」

 

 ボンッ!

 

 カム達に掴みかかろうとしたジンの身体が黒炎に包まれる。軽く火傷する程度で済んだが、ジンは後ろに押し出されて、尻餅をついた。

 

「先程から黙って聞いていれば、なんと不愉快な……」

 

 シア達の後ろで事の成り行きを見守っていた黒い和服の女性———ティオは顔を不愉快そうに歪めながら居並ぶ長老衆達を睨んだ。

 

「年端もいかぬ少女が命を賭して願い出ているというのに、ただ怒鳴り散らして聞く耳を持たぬとは……それでよく長老などという地位に就けたものじゃな」

「ぐっ……黙れ、余所者! そもそも裏切り者のハウリアが連れた余所者など信用できるか!」

「———よせ、ジン」

 

 それまで目をつぶって事の成り行きを静観していたフェアベルゲンの最長老———アルフレリックが口を開いた。

 

「アルフレリック、貴様———!」

「忌み子が連れて来た余所者とはいえ、歴史の闇に消えた筈の竜人族の話に耳を傾けないわけにはいかないだろう」

 

 グッとジンは黙り込む。竜人族は表舞台に滅多に出ない孤高の一族として有名だ。そんな竜人族を連れてまで、忌み子が処刑される覚悟で自分達の前に姿を現したのだ。アルフレリックとしては、せめて真意を聞いてからでも遅くはないだろうと判断していた。

 

「……確認しよう、ハウリア族の忌み子よ。お前の未来視でフェアベルゲンが滅ぶ未来が見えた。それは確かな話か?」

「は、はいっ」

「このフェアベルゲンに魔物の軍隊が来る、と……そういう予知を見たと?」

「そ、その通りですっ。大勢の魔物を引き連れて、フェアベルゲンを攻める滅びの軍隊が」

「馬鹿馬鹿しいッ! やはり忌み子の言う事など聞く価値が無い! このハルツィナ樹海を迷わずにフェアベルゲンまで来れる者などいるものか!」

 

 シアの言葉を遮る様にジンが怒鳴り散らす。ハルツィナ樹海は年中霧に覆われ、魔物ですら方向感覚が迷う天然の要塞だ。それ故にこの世界で被差別種族である亜人族達は守られ、フェアベルゲンという国を今まで繁栄させてきた。いくら未来視の固有魔法があるとはいえ、シアの———ましてや亜人族にとっては穢れた忌み子の———言った事を鵜呑みに出来る者はいなかった。

 

「ほ、本当です! 誓って私は嘘など」

「黙れ、忌み子風情が!」

 

 外界から閉ざされた国で、国を守る為に代々一族の風習を守ってきたジンは余所者を連れて来た罪人(忌み子)の全てを否定する様に吼え立てた。

 

「今日も明日も明後日も変わらんっ! このフェアベルゲンは、誰からも侵略などされんっ!」

 

 それが————彼らの信じた変わらぬフェアベルゲンの日常の最後だった。まるで計ったかの様なタイミングで、非常事態を知らせる鐘が鳴り響く。

 

「な、なんだ!?」

 

 ジンを含め、その場にいる者達が動揺する中、ティオはいち早く外へ出た。

 

「あれは———!」

 

 空を睨むティオの視線の先に、一体の魔物がいた。まるでカラスを邪悪に歪めた様な巨大な鳥がフェアベルゲンを周回しながら、突然の事態に慌てふためく亜人達を見下ろしていた。

 

『聞け———我は偉大なる主の先触れである!』

 

 鳥が人の声真似をした様な耳障りな声がフェアベルゲン中に響く。よくよく見ると、カラスは何かの意思に操られているかの様に目が無機質だった。

 

『劣等種たる亜人族達に告げる! 貴様達に死を宣告する! 偉大なる主の贄として、潔く死に果てよ!』

 

 ティオの後ろでバタバタと足音がする。長老衆達も遅れながらも外に出て来た様だった。

 

『主は貴様達を滅ぼす為に軍を動かされた! 無駄な抵抗を止め、死の運命を受け入れよ!』

 

 カラスの魔物が長老衆達へ目を向ける。もしも感情を読み取るスキルを持つ者がいれば、無機質な瞳の奥にニヤリと邪悪に笑う者の姿が見えただろう。

 

『だが主は慈悲深くも劣等種の貴様達が生き残る道を示された! 主は“真の大迷宮"の情報を求めている!』

「なん……だと……!?」

 

 アルフレリックを始めとした長老衆達の顔色が変わる。それを見て、カラスの魔物はより一層にけたたましい声を出した。

 

『地に頭を擦り付け、“真の大迷宮"への道筋を示せ! そうすれば偉大なる主の気が変わるやもしれぬ!』

 

 バサリ、とカラスの魔物は天高く飛び立っていく。フェアベルゲン中に響く声で、最終通達の様に告げた。

 

『これより来る軍に服従せよ! 地に伏せ、下等な獣らしく這いつくばるがいい!』

 

 カァ、カァ! とまるで嗤い声の様に鳴きながら、カラスの魔物は去っていった。その背を見つめながら、呆然とアルフレリックは呟いた。

 

「なんという事だ………」

 

 そして———ティオは険しい顔で、カラスの飛び去って行った先を見つめていた。




>シア

 やばい未来を見てしまった子。そんなわけで危険を承知でフェアベルゲンに戻りました。さて、その未来を回避出来るのでしょうか?

>ティオ

 原作のハジメの代わりに連れて来られたみたいな感じです。まだお尻にアッー! されてないので、目覚めてはないです。あとはまあ、ウル編を原作通りにやらなくて良いかと思って、ここでシアと纏めて処r、ゲフンゲフン。出演させておこうかと。

>ジン

 フラグというものをご存知かな?

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