ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 実はサブタイトルは自分が後で見返しやすい様に付けてるだけだから、結構適当です。

 それと活動報告でも言いましたが、今後のやりたい展開の為にクラスメイトsideを修正して、小悪党組あたりは死んでない事にするかもです。ダイスで雑に殺したのを今になって後悔し始めたので。

 まあ、あれだ。せっかくナザリックが来てるのだから、ちゃんと()()させようかと。


第四十六話「no god」

 その日はどんよりとした曇りだった。一年を通して霧に覆われるフェアベルゲンでは日が差さない空は宵闇の様に暗く、まるで今のフェアベルゲンの先行きを示している様だ。

 そんな風に考えてしまった頭を振り払う様に、シアはブルリとウサ耳を震わせる。そんなシアを見て、隣にいたティオが声をかける。

 

「緊張しておるか?」

「っ! 何の事です!? 私は全然緊張なんてしてないですよ!」

「無理はしなくて良い。シアだけが臆病というわけではない。誰だって緊張はしておるよ」

 

 周りにいるのは生き残りの亜人族の戦士達だ。ここにいるのは謂わばフェアベルゲンの最後の戦力だ。自分達が倒れれば、もう後は無い。それを自覚しているだけあって、皆の表情は険しい。

 

「でも……私達が頑張れば、アルテナちゃん達が避難できる時間は稼げます」

 

 シアの決意にティオは頷く。生き残った族長達の中で大迷宮への道筋を唯一知るアルテナは、戦えない者達を連れてフェアベルゲンを捨てる決意をした。この決断には多くの亜人族が絶句した。だが———。

 

『生きてさえいれば、いつかまた寄り添う事も可能ですわ』

 

 アルテナは反対する亜人族達を説得した。

 

『亡き祖父ならばそう決断されたでしょう。……もしかすると相手は建国以来、現れる事の無かった資格者なのかもしれません。ですが、こうして同胞達を殺し回っている以上は大迷宮の情報を教えたとしても無駄でしょう』

 

 毅然とした目でアルテナは国を捨てる決断をする。

 

『たとえ神や世界が私達(亜人族)を否定したとしても、私達は必ず生き延びて再び亜人族が平和に暮らせる国を築き上げてみせましょう』

 

 そうして最後の長老衆の責任としてフェアベルゲンに残ろうとしたアルテナをシア達は必死に説得して、僅かな護衛と共に避難民達と樹海の更に奥地へ逃げて貰う事にしたのだ。

 

(気概は買うがな、アルテナ殿。神への対抗手段である神代魔法の入手方法を知る其方には逃げ延びて貰わなくてはならんよ)

 

 だからこそ、ティオ達は囮として魔物の軍勢と戦う事にしたのだ。ここにいるのは謂わば陽動部隊。アルテナ達避難民がフェアベルゲンから逃げるまで、出来る限り魔物達を引き付ける役目を担うのだ。

 

「……逃げたくば、避難民と共に行っても良いぞ。おぬしの父達もアルテナと共に避難する事にしたのであろう」

 

 つい打倒エヒトの為にここで死んで欲しくはない為に、そんな事を言ってしまう。シアは驚いた様に目を見開き、しばらく考え———首を横に振った。

 

「お気持ちは嬉しいですぅ。でも……私は行けません。父様やアルテナちゃん達の為にも、私達で時間を稼がないといけません。それに……ここまで御世話になったティオさんを置いて逃げるなんて、それこそ父様達に怒られちゃいますから」

「………そうか」

「大丈夫ですって! アルテナちゃん達が無事に逃げられたら、私達もパッと逃げちゃえば良いだけですから!」

 

 ここにいるのは竜人族の悲願と自分の打算でしかないのに、純粋な好意を向けてくれるシアが眩しくてティオは伏せたくなる顔を必死に我慢する。

 

(ああ、そうじゃ。妾はこの娘を利用しようとしておる)

 

 じゃが、とティオは心を前に向かせる。

 

(だからこそ、妾は全力でシアと……シアが大切にしたいと願うこの国を守らねばならぬ)

 

 それが利用しようとしているシアへの、せめてもの対価なのだ。その気になれば竜化して自分とシアだけでも逃げ出す事も可能だった。それをしなかったのは、自分も知らず知らずのうちにシアに影響されたのかもしれない。

 

「……おぬしは絶対に死なせん。約束しよう」

「ティオさん……?」

 

 不思議そうな目で自分を見てくるシアを余所に、ティオはこの場に残った亜人族の戦士達によく通る声を張り上げる。

 

「聞け! 全ての亜人族達よ!」

 

 凛とした声に戦士達は静まり返る。余所者といえど、これまで数多くの魔物達を屠ってきたティオの言葉に耳を傾けない者はいない。

 

「認めよう、敵は多い! じゃが、恐れる事は無い! この場には妾と———亜人族の奇跡の子であるシア・ハウリアが着いておる!」

 

 ふぇ!? とシアが驚いた顔になるが、あえて無視する。

 「奇跡の子?」「ハウリア族の忌み子が?」と困惑する声が広がるが、ティオはそれよりも大きな声を出した。

 

「確かにそなた達の風習では魔物と同じ様に魔力を直接扱うシアは忌むべき存在かもしれぬ……だが、こうは考えられぬだろうか? シア・ハウリアはこの時の為に、この世に生を受けたのだと! そなた達は知っていよう! フェアベルゲンの危急の事態を最初に知らせてくれたのは誰じゃ! そして、忌み子と白い目で見られながらもフェアベルゲンの為に戦ったのは誰じゃ!」

 

 「確かに……」「あの娘がいなければとうに全滅だった……」などと、ティオの言葉に賛同する声が出てくる。いま生き残っているのは、亜人族の中でも歴戦の戦士達。彼等もこれまでの戦いの中で、シアの未来視がいかに役立ち、また魔力操作を行えるシアが自分達よりどれだけ強いか理解していた。

 

「そう、シア・ハウリアが居なければ妾もここにはおらず、フェアベルゲンも魔物の襲来を予知出来なかった! ならばこそ、シア・ハウリアは亜人族でありながら魔力を授かった奇跡の子と言えよう!」

 

 「おお!」「その通りだ!」と戦士達は騒ぎ出す。この危機下において、忌み子という古くからの慣習は忘れ去られていた。何よりも、穢れた下等種族として人間族のエヒト神や魔人族のアルブ神から見放された亜人族達は自分達が信仰できる分かりやすい象徴を欲していた。この場においてシア=亜人族の奇跡の子という見方が高まっていく。

 

「あ、あの、ティオさん? もう、そこら辺で———」

「奇跡の子であるシア・ハウリアがいれば、妾達に敗北は無い! 必ずやそなた達は勝利するであろう!」

「もう勘弁して下さい!?」

 

 小っ恥ずかしい呼称にシアが涙目になるが、もう遅い。戦争前の緊張感も相まって、戦士達は口々にシアを讃え出した。

 

「そうだ! 俺達には奇跡の子が付いている!」「うおおおっ、やるぞ! 魔物の百や二百ぐらい蹴散らしてやる!」「奇跡の子バンザイ!」

 

 次々と湧き上がる奇跡の子への万歳三唱に、シアは恨めしげな目をティオに向けた。

 

「ティ・オ・さ〜ん……なあに、してくれてやがりますか!?」

「ん〜? 戦意高揚は必要じゃろ? それに妾は本当の事しか言っておらんよ? どう受け取るかは人それぞれじゃがのう?」

「うわ〜ん! こんなの詐欺ですよおおおっ!」

 

 ポカポカと叩いてくるシアに、ティオはホホホホ、と扇子で口元を隠しながら思考する。

 

(これで良い……戦意高揚もそうじゃが、これで亜人族の『奇跡の子』であるシアをどうにかして守ろうという流れになる筈じゃ)

 

 もしもの時は戦士達をシアが生き残る為の盾にする。そんな醜い打算を自覚しながらも、ティオは覚悟を決める。

 

(その為には……一匹でも多く、魔物達を駆逐するまでよ!)

 

「さあっ、征くぞ!」

「「「オオオオオオオオオオッ!!!」」」

「ちょっ、ティオさん! まだ話は終わってないですぅ!? ティオさん! ティオさんってば〜!」

 

 ***

 

「ヤアアァァァアアッ!」

 

 ブンッ! と巨大な木槌が振るわれる。木槌は巨大なカブトムシ型の魔物———ドライガを硬い殻ごと叩き潰し、瞬く間に絶命させていた。

 

「ハァ……ハァ……これで、百五十匹め!」

 

 シアが荒い息を整えようとしたところを蝶型の魔物———スキアーが突撃する。シアは身体能力強化に魔力を使い、大きく跳躍してスキアーの突撃を回避する。そして近くの木に足をつけると、ダンッ! と全身のバネを使ってスキアーに木槌を振り下ろした。

 

「これで……百五十一匹!」

 

 グチャッと潰れたスキアーを見ながら、シアは次の魔物を探す。ティオの指導で魔力操作の技能を覚え、身体能力強化に目覚めたシア。今の彼女は並の魔物では相手にならない程に強力な戦士として覚醒しつつあった。

 

「す、すごい……これが忌み子と呼ばれていた兎人族の力なのか?」

「やはり、あの娘こそ奇跡の子だ……」

 

(うう〜、その呼称は止めて下さいってば〜!)

 

 近くにいる亜人族の戦士達が賞賛するのを聞き、シアは内心で涙目になる。それが隙となったのか、ナナフシ型の魔物———オゾムスが節だった脚をカシャカシャ言わせながらシアの背中に突撃していく。

 

『グオオオオオオッ!』

 

 だが、シアに辿り着くより先に黒炎がオゾムスを包む。オゾムスは後続の魔物と共に灰になって消えた。

 

『油断大敵じゃよ、シア。まだまだじゃのう』

「ティオさん!」

 

 黒竜の姿となったティオにシア達は歓声を上げる。そしてシア達の元にアルテナに付いていた護衛の伝令が走り寄ってくる。

 

「報告します! アルテナ様と避難民達は無事、樹海の奥へ避難致しました!」

「良かった……ティオさん!」

『うむ……』

 

 黒竜の姿のまま、ティオは思考する。黒竜化で大分魔力を使ってしまったが、その甲斐もあって攻めてきた魔物の軍勢はほとんど駆逐出来ていた。ここら辺が潮時だ、とティオは判断する。

 

『よし、妾達もこれより撤退を行う! アルテナ殿にそう伝えて———っ!?』

 

 伝令に伝えようとしていたティオだが、途中で何かに気付いた様にバッと空を見上げ———シア達の前に黒竜の巨体を出した。

 瞬間、ティオの身体に紅蓮の火花がいくつも起きる。

 

『ガアアアァァァッ!』

「ティオさん!?」

 

 シア達も慌てて空を見上げた。そこには———。

 

「———ほう。よもやこんな所で竜人族に遭遇するとはな。それならばタヴァロスが梃子摺っていたのも納得はいく」

 

 上空には夥しい竜の群れ。その中で黒竜化したティオに見劣りしないくらいの巨体を誇る白竜の背から、呆れ半分驚き半分といった声が響く。浅黒い肌に、尖った耳。シア達は初めて見るが、その姿は伝え聞いていた。

 

「魔人族———!」

「……獣風情が神に選ばれた高貴な種族である私に声をかけるな。穢わらしい」

 

 嫌悪感を込めてシア達を見ながら魔人族の男———フリード・バグアーは吐き捨てた。

 

「フン、本当に不愉快だ。我が偉大なる主の命でなければ、こんなケダモノ共が群がる国など来たくもなかった」

「申し訳ありません、フリード様。お手を煩わせてしまった事をお詫び申し上げます」

「構わん。竜人族がいたのならば、手勢の魔物だけでは戦力不足だっただろう。どのみち、大迷宮の攻略の為に赴く必要があったわけだしな」

 

 隣で竜に跨る魔人族の男———タヴァロスの謝罪をフリードは軽く流した。見れば竜達には全員魔人族が騎乗しており、シア達に侮蔑した目を向けていた。

 

『グ、ウゥ……やはり、魔人族が関係しておった、か……!』

「ティオさん、無理に動いたら———!」

 

 竜達の一斉ブレスをその身に受けたティオが肉を焼け焦がす臭いをさせながら、上空のフリード達を睨む。

 

「とはいえ、所詮は神に見放されたトカゲモドキの生き残り。私の白竜や灰竜のブレスには耐え切れない様だな」

「違いありません。フリード様の神代魔法でお作りになられた魔物達では、異教徒どころか畜生共には過ぎた代物でしょう」

 

 「全くです」と部下であろう魔人族達が嘲笑するのをシア達は唇を噛みながら睨む。

 

『おぬし、アルテナ殿に知らせよ! 魔人族が襲来してきたと! 更に樹海の奥地か、最悪はハルツィナ樹海から逃げよと伝えるのじゃ!』

「は、はっ!」

「逃さん。おい、あのケダモノを捕らえろ。ただし殺すな。口だけは利ける様に四肢は斬り取っておけ」

 

 ティオの命令に、アルテナの伝令は素早く走り出そうとする。その背中を魔人族達は嘲笑いながら、魔法を撃とうとする。光弾が伝令の背中に奔る。伝令は思わず後ろを振り返り、絶望した表情になり———。

 

「させませんっ!」

 

 次の瞬間、光弾を追い越して伝令の背中に追い付いたシアによって光弾は叩き落とされていた。

 

「お、お前———!」

「貴方は逃げて下さい! 早く避難してる人達のところへ!」

「っ、分かった! 恩に着る!」

 

 伝令が素早く走り去るのを後ろ目に、シアは上空の魔人族達と対峙した。

 

「その力……もしや、お前が亜人共の長か?」

「へ? いや、私は———」

 

 シアの強さに何か勘違いしたのか、フリードがそう聞いてきたのを否定しようとする。だが、すぐに思い当たった。ここで勘違いして貰えれば、アルテナ達の逃げる時間が増える。

 

「———っ、そうです! 私がフェアベルゲンの族長です!」

『シア……何を……!?』

 

 ティオが苦しそうに声を出すが、痛みに次の言葉を吐けなかった。周りの亜人族の戦士達も驚いた顔になったものの、シアの決意を悟った。そして彼等は頷きあい、口々に声を上げた。

 

「そうだ! この娘……いや、この方こそが我等の族長シア・ハウリア様だ!」

「亜人族でありながら、魔力を宿した奇跡の子だ!」

「だ、だから、その名称は止めて下さいってば〜!」

 

 戦士達が次々と言い張るのにシアは涙目になる。フリードはどこか胡散臭そうに見たものの、シアの言に乗った。

 

「まあいい。おい、そこのケダモノ。真の大迷宮の場所は何処だ?」

「……貴方達に言うと思いますか?」

 

 そもそも真の大迷宮というのが何かシアは知らないが、不敵な笑みを浮かべて誤魔化す。フリードは不満気に鼻を鳴らしてシアを睨んだ。

 

「ケダモノ風情が……ならば、力づくで聞くまでだ」

「やれるもんなら、やってみやがれ! ですぅ!」

『よせ、シア……!』

 

 ティオの制止を振り払い、シアは木槌を振りかぶって亜人族の戦士達と共に魔人族達へ突撃していった。

 

 ***

 

「ハァ……ハァ……う、くっ……!」

「フン、ケダモノにしてはよく保った方だ」

 

 勝敗は決した。フリードの神代魔法によって作られた魔物達はこれまでの魔物とは強さが段違いであり、魔人族の強さは種族的な優位もあって、歴戦の亜人族の戦士達は一人、また一人と倒れていった。そしてまだ地に倒れ伏してない最後の一人となったシアは半ばから折れた木槌を杖にしながら頭から血を流して荒い息を吐いていた。

 

「もうよい……! 妾達を見捨てて、今すぐ逃げよ……!」

「嫌……ですぅ……なんてったって、私は奇跡の子で……フェアベルゲンの族長、ですから……あはは」

 

 既に魔力が切れて竜化が解けてしまったティオは倒れたまま、シアへ悲痛な声をかける。だが、シアは強がりと分かる笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「ティオさんに……ここまで戦って貰ったのに……私が忌み子だって、後ろ指を指されなくなる様に、して貰えたのに……ティオさんを……私を信じて、戦ってくれた皆んなの為にも……ここで私だけ逃げるわけには、いかないんです……」

 

 その姿に、ティオは胸をするどく突かれた様に絶句した。

 シアにあれこれ世話を焼いていたのは、全てシアに恩を着せる為にやっていた事だ。いずれエヒトを討つ勇者として戦って貰う為に。奇跡の子なんて方便も、亜人族達がシアを生き残らせようとする事を期待してやった事でしかない。

 そして———シアはティオの思惑通りに恩に感じていた。それも期待以上に。

 

(妾は……何という事を……!)

 

 今更になってティオの胸に後悔が湧き上がる。だが、そんなティオの心情など知らず、シア達を包囲した魔人族達は詰め寄る。

 

「ケダモノ。真の大迷宮は何処だ?」

「言うわけ……ないでしょうが……おととい来やがれ、ですぅ……」

 

 ギリっとフリードは苛立ちに歯を食いしばりながら、シアに歩を進める。その手には剣が握られていて———。

 

「お止めなさいっ!」

 

 突然、品のある女性の声が響く。その場にいる全員が向いた視線の先に、地球でいうところのエルフみたいな容姿の亜人———アルテナが立っていた。

 

「アルテナ、ちゃん……どう……して……?」

「暫定的とはいえフェアベルゲンの族長として、シアちゃん達が戦っているのに私だけ尻尾を巻いて逃げるなんて許されるわけないですわ。安心して下さいまし。避難民の事はカム達に任せましたわ」

 

 シアが息絶え絶えで聞く中、アルテナは震えながらシアに微笑んでみせた。

 

「……貴様が族長だと? この娘では無かったのか?」

「……いえ。私の名はアルテナ・ハイピスト。フェアベルゲンの長老、アルフレリック・ハイピストの孫であり、私こそがフェアベルゲンの族長ですわ」

 

 ジロリ、と睨め付けてきたフリードの気迫に押されまいとするかの様にアルテナは毅然とした態度で言い放った。

 

「……私はあなた方に降伏します。あなた方に祖父より教えられた真の大迷宮への道筋をお教え致します。ですから、どうか……この場にいる皆の命を助けては頂けないでしょうか?」

 

 お願いします、とアルテナは魔人族達に跪いた。それをフリード達は冷ややかな目で見つめる。

 

「タヴァロス」

「はっ」

 

 魔人族の一人がアルテナにツカツカと歩み寄る。そして———跪いたアルテナの金髪をグイッと掴み、無理やり立たせた。

 

「っ」

「おい、ケダモノ。どうして私が最初、貴様らに従属を要求したか。そしてその後の侵攻でも魔物達だけに任せていたか、分かるか?」

 

 分からない、といった表情で見つめるアルテナに、タヴァロスは平手で打った。

 

「ああっ!」

「それはな、我ら選ばれし種族の血をケダモノごときに流したくなかったからだ。そこでここに来て、交換条件だと! ケダモノ風情が! 我々と! 対等だとでも! 言うのか! 不愉快だ! ああ、不愉快だ!」

 

 パン! パン! パン!

 

 一語ごとに力を込めながらアルテナの顔を平手で打っていく。アルテナの美しい顔が青痣で腫れ上がっていく。

 

「止めて……! アルテナちゃんに酷いことするな……! お願い、止めて……!」

 

 シアがふらつきながらもアルテナに近寄ろうとする。その背をフリードは蹴り飛ばし———脇腹に剣を突き刺した。

 

「ああああっ!?」

「劣等種族であるケダモノの分際で、よくも我等を謀ってくれたな。その罪、万死に値する」

 

 ドクドクと腹から血を流すシアのウサ耳を掴み、フリードは未だにタヴァロスに叩かれ続けるアルテナを見せつける様にシアを無理やり立たせた。

 

「貴様は後で魔物達のエサにでもくべてやる。そこで見ておけ、下等生物風情が我等に楯突くとどうなるか。後悔しながら死ね」

「アル……テナ……ちゃ、ん……」

 

 出血で意識が朦朧とするのか、虚ろな目でシアはアルテナを見続ける。叩かれ続け、顔が倍以上に膨れ上がっているアルテナに謝る様な目を向けて涙を流していた。

 

(誰か……誰か、助けてたも……!)

 

 動かない身体に歯軋りしながら、ティオは救いを求めた。

 

(妾はどうなっても構わん! だから、シアは……この心優しい娘だけは、救ってやってくれ……!)

 

 自分が利用しようとしただけなのに、自分や周りの人間を助けようと必死で戦った兎人族の少女の救済をティオは心から願う。だが、同時にティオの冷静な部分が嘲笑う。この世界には亜人族である彼女を救う神など居はしない。

 

(神でも……この際、悪魔でも構わん! だから、シアだけはどうか助けてやってくれ……!)

 

 そして――願いは聞き届けられた。

 

「な、なんだ!?」

 

 タヴァロスが突然、大声を上げる。ハッとティオが見ると、アルテナを中心に発生した光の障壁———"聖絶"にタヴァロスが押し出され、尻餅をついていた。

 

「はいは〜い、そこでストップね」

 

 森の奥から一人の人物が出てくる。金色の髪に、浅黒い肌。そして尖った耳。トータスにおける魔人族の特徴とよく一致していたが、瞳は緑と青のヘテロクロミアだった。

 

「貴様……おい、小僧! どういうつもりだ! どこの部隊の者だ!」

「そう怒鳴んないでよ、うるさいなぁ。そもそも私はあんたらのお仲間じゃないし」

 

 いきり立つタヴァロスに対して、少年の格好をしたその人物は五月蝿そうに顔を顰めていた。

 

「そのエルフさあ、大迷宮への道を知ってるんでしょ? 殺されたら、アインズ様がすごく困るんだよね」

「何だと……?」

 

 聞いたことの無い名前にタヴァロスが困惑を浮かべる。すると、奥から今度は一体の魔物が出てくる。カマキリとアリを合体させた様なライトブルーの魔物は、冷気を漂わせながら魔人族の見た目をした人物の横に並び立つ。

 

「何だ、その魔物は……? そんなもの、作った覚えが無いぞ……?」

 

 見た事の無い魔物に、今度はフリードが困惑の声を上げる。そして、彼を更に驚かせる事態が起きた。

 

「————一同、控エヨ」

 

 喋った!? 魔物が!? と困惑の声を魔人族達が上げる中、ライトブルーの魔物は鋏をカシャカシャと鳴らしながら言葉を発した。

 

「至高ノ御方、アインズ・ウール・ゴウン様ノ御前デアル」

 

 その言葉が合図となったかの様に、新たに現れた二人の背後で闇が生じる。闇はちょうど人一人が通れる様な大きさになり———そして。

 

 フェアベルゲンに、死の支配者()が舞い降りた。

 

 

 

 

 




 前話で感想を書いてくれた方、返信できなくてごめんなさい。どうしてもこのオチの為に下手な事は言えなかったんです。

 というか皆々様。アインズ様を信じてあげて下さいよぅ(原作のあれこれに目を瞑りつつ)

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