内政、組織運営担当:アルベド
知略、軍事作戦担当:デミウルゴス
研究、技術開発担当:ナグモ
財政、宝物管理担当:パンドラズアクター
「———と、そういう事があったのだよ」
ナザリック地下大墳墓・第四階層。そこの研究所エリアで、ナグモはデミウルゴスから事の顛末を聞いていた。ユエから報告を聞き、詳細を聞く為にナザリックへと転移したナグモに、デミウルゴスはまるで最近見た喜劇の台本を教えるかの様に面白おかしく語ったのだ。
「君は彼等を脳無しだと評価していたが、いやはや中々どうして弄り甲斐のある
友人と楽しみを共有しよう、という笑顔でデミウルゴスは声を掛けていた。
「君も人間のそういった部分を楽しむといい。玩具と思えば良いのだよ」
「……生憎だが。好き好んで低脳な猿達と関わりたくない」
やれやれ、と肩をすくめるデミウルゴスに対してナグモは頭痛を耐える様に深い溜息を吐いた。いつかは死傷者が出るだろう、と考えていたが、予想以上に内容が酷すぎた。デミウルゴスが暗躍したとはいえ、半ば自業自得な自滅をしている馬鹿達の相談役を買って出ていた香織や雫にはもはや尊敬の念を抱くべきかもしれない。
「連れないな。せっかく君に悪感情を抱いていた人間達が死んだというのに」
「……で、それがあれというわけか」
まあ、全員ではないがね、と笑うデミウルゴスと共にナグモは目線をある場所に向けた。そこには———。
「ふぅむ……異世界とは言っても人体構造的に極端な変化は無いか。次は脳を切り開いてみるか」
「魔力数値、パターン青。ユグドラシルレベルで25程度と推定。魔力炉心となっていた心臓は摘出後、デュ・バリ氏液にて保存します」
「これが右足、こっちが右手で、胴体はこれじゃから……ん? おかしいのう。何で右手が余るんじゃ?」
「全然違います〜! そもそも男の子と女の子の身体のパーツを混ぜちゃってますよ〜! まったくもう!」
ミキュルニラと共に研究員のエルダーリッチやエビルメイガス達がオルクス迷宮から回収されたクラスメイト達や神殿騎士の死体を解剖していた。戦いでバラバラになった死体を修復し、必要な臓器を抜き取っていく。
かつてクラスメイトとして同じ学び舎で机を並べていた人間達がホルマリン漬けの標本になっていく———だが、ナグモはその光景に眉ひとつ動かさなかった。何よりも、これはナグモが指示した内容だ。
「それで? 何で今さら神の使徒達を殺そうと思ったんだ? まさか僕が受けた仕打ちに対する報復をしてくれたとでも言うのか?」
「まあ、君どころか至高の御方であるじゅーる・うぇるず様を侮辱した彼等の末路としては手温いくらいだが……これはアインズ様の御計画なのだよ」
「アインズ様が?」
「至高の御身の御気分を害された自称・勇者を何故放置しているのか疑問だったが……間近で見て理解できたよ。あれはまさしく、天然の道化だ」
くつくつ、とデミウルゴスは笑う。その顔は悪魔らしく悪意に満ちていた。
「あれがハイリヒ王国の、そして聖教教会の勇者という立場にいる限り、見事な醜態を演じてくれて———ひいては神を自称する愚者・エヒトへの人間達の信仰心は下がっていくというものだよ」
「今回、死んだ人間達の人選はやはり……」
「ああ。これで彼の暴走を止める人間は居なくなった、というわけだ。少々、厄介なスキルを持つ人間もいたが、直に王国からいなくなる予定だよ」
ナグモはかつての記憶から、ここに並べられた死体には居ないクラスメイト達の顔触れを思い出す。はっきり言って病床で臥している雫と農地に連れ出されている教師の愛子の二人を除けば、王宮で残った面々は基本的に戦いに怯えて部屋に引きこもっている臆病者たちか、光輝に追従するだけで自分の頭で考えられない脳無しの集まりだとナグモは評価していた。
「そして以前にも増して醜く暴走していく勇者達に、愚民共は失望していき———その時こそ、真なる救世主たるアインズ様の出番となるのさ。私はその時まで、情報を集めつつ環境を整えるというわけだ」
デミウルゴスは至福の笑みを浮かべていた。いったいこの悪魔がどういう絵図を思い浮かべているのか、ナグモは聞く気にもなれなかった。どう考えても気持ちの良い話にはならないだろう。
「しかしながら、さすがは至高の御身の纏め役であらせられたアインズ様だ。あの勇者達の暴走を促すのに、よりによって仲間同士で殺し合わせるという手段を取るとは……。全てはアインズ様が直々にオルクス迷宮を訪れ、デスナイトを召喚した時から始まっていたというわけだよ」
まったく、非才たるこの身はただ恥じるばかりだ、とかぶりを振るデミウルゴス。それに対して———ナグモは内心で首を傾げていた。
(あの御方は、あの時にここまで考えておられたのか……本当に?)
何故かしっくりとこない。以前なら、一も二もなく至高の御方がされる事に、ただひたすら敬服できた筈だ。それなのに、今のナグモにはどうにも漠然とした違和感が付き纏うのだ。
(何よりもアインズ様が……あの御方が、こんな計画を立案されるだろうか?)
そっと右手の小指の指輪を撫でる。これを渡した時のアインズは骸骨の顔の為に表情は分からなかったが、それでもとても嬉しそうだったのは理解できた。
『お前は私の思惑を超え———そして、おそらくはお前を作ったじゅーるさんが願っていた以上の成長を遂げていた。それをこの目で見られて、私は嬉しい』
あんな風に自分に言ってくれたアインズが、確かにナザリックの利益の観点からそうした方が効率が良いのは事実だが、だからと言ってここまで陰惨な手段を進んで取りたがるのだろうか?
(……いや。その考えは不敬だ)
ナグモは内心で自らの考えを打ち消す。
(アインズ様は他の御方達が去られた後も、たった一人でナザリックを守り……そして香織を救ってくれた大恩ある御方だ。その御方がなさると言うならば……ただ従うのが、シモベとしてあるべき姿だ)
自身に湧いた疑念をナグモは心の奥底に沈めた。
「それにしても……頼まれた通りに人間達の死体を回収したが、いったい何に使うんだい? アンデッドと化しても彼等の強さはたかが知れていたから、アインズ様に献上する死体としても不十分だとは思うがねえ?」
「……今回、調べたいのはトータスの天職という概念についてだ。トータスでは天職は生まれついて持った
スッとナグモはバラバラ死体となった一人の生徒を指差した。
「あの人間は蹴闘師の天職を得ていたが……地球にいた時は武術の素養は全く見られなかった。それどころか魔法の適性も全く見られず、レベルで換算するなら1にすら満たない有様だった」
「ほう? つまり君は人間達は異世界に召喚された際に天職を付与された、と考えているのだね?」
「その通り。何人かは潜在的な才能から天職を得た者もいるだろうが、大半はエヒト神によって付与された
ここからが本題だが、とナグモは真剣な顔になる。
「ただの人間にも天職を付与できたのならば……ナザリックの者達にも天職を付与できるとは思わないか?」
「ほう?」
デミウルゴスが片眉を上げる。ナザリックの防衛戦時の指揮官として設定された大悪魔にとっても、ナグモの話は興味を惹くものらしい。
「……結局、生成魔法を取得できたのはアインズ様、ユエ、香織、そして僕だけだ。来たる愚神エヒトとの戦いには、もっと戦力を集める必要があるだろう」
だからこそ、「天職」という概念を調べる必要がある。他の者達が今以上のレベルアップが望めないならば、「天職」という新たなスキルを付与して戦力の質を上げる。既にユグドラシルの
「例えばトータスには“限界突破"というスキルがあるが、これをコキュートスが習得すれば一時的にだが従来のステータスの三倍となったナザリック最強の戦士になる。……中々、面白い話だと思わないか?」
「……素晴らしい。実に素晴らしいな、ナグモ。それが叶えば、我々は至高の御方により一層役立てるというものだ」
デミウルゴスは感嘆の溜息を吐いた。彼の脳裏には今より更に強力な存在となり、至高の御方の為にその力を振るうシモベ達の姿が見えているのだろう。その力をもって、偽りの支配者を打ち倒し———真なる支配者アインズへとトータスという宝石箱を献上する。これこそが、至高の四十一人に創られたシモベ達の至上の喜びというものだ。
「それならば、もっと彼等の死体を集めるべきだったかな? あまり殺し過ぎると、エヒトが新たな人間を召喚する事を危惧して今の数に留めておいたのだが……」
「いくら神と言えど異世界からの召喚をそう何度も出来るとは思わないが……そうだな」
ふと何かを思案したナグモは、自分の端末機から一人の人間———雫を立体映像として浮かび上がらせた。
「今度は生きたサンプルが欲しい。この人間を連れて来て貰えないか?」
「ふむ……その人間はアインズ様の役に立つのかね?」
「確実に。頭の出来もあの低脳な人間達の中ではマシだった。アインズ様の素晴らしさをキチンと理解できる、と確信している」
それに、とナグモは話し出す。香織の体を調べる内に考案した、新たな計画を。
「かつてナザリックに攻め入り、第八階層まで突破した1500人の人間達……至高の御方々によって誅殺されたが、見方を変えればあれらはナザリックの防衛力を上回る力を有していた。ならば……あれを作る。あの様な人間達を作り、アインズ様に忠誠を誓う兵士にする。そんな計画を、いま考えている」
「ほほう、それはまた……人間などという下等生物、っと失礼。君やオーレオールは例外だが。人間にそんな大役が務まるとは思えないが……」
「アインズ様はエヒトを討つ為に、あらゆる種族を集めよと仰られた。ならば人間であろうと、有益ならばナザリックの傘下に入れるべきだろう。トータスの魔物の肉によるステータス上昇の仕組みも最近把握してきたから、人間であろうと強力なステータスを得る事は可能だ」
ふむ……とデミウルゴスは思案し、やがて頷いた。
「まあ、人間にも多少は使える者がいるという意見には賛同しよう。私も心当たりはあるしね。よろしい、その人間は君の元に届けよう。ただ、不自然にならない方法で回収するから時間がかかるが構わないね?」
「ああ、よろしく頼む」
いつもの無表情で頷くナグモだが、内心で安堵の溜息を吐いていた。
(これで、八重樫雫を回収する目処はついた。香織は八重樫雫の事を気にかけていたからな……)
香織が喜ぶ事なら、何でもしたい。そんな風にナグモは思っていた。
それは好きな子へプレゼントを渡す子供の心境に似ていた。
(それに……八重樫雫にとっても悪い話では無い筈だ。偉大なるアインズ様にお仕えできるのだから)
大好きな香織がいて、彼女の友人である雫がいる。そして共に偉大なる支配者アインズの加護の下で素晴らしい日々を送る。ああ、それはなんて———。
(……楽しみだ)
ナグモの無表情だった口元が少しだけ緩む。その為にも、まずは目の前の
後に。彼は思い知る。それが、ひどく幼稚で身勝手な思い込みだったという事に————。
>天職
これはこの作品の独自の設定です。龍太郎や雫、遠藤は分かりやすいけど、喫茶店の娘だった園部さんとか投げナイフなんて触った事も無いんじゃない? という人が投擲師になっていたり、原作でエヒトがハジメに「神の使徒の中に無能がいても面白いから錬成師にした」と言っていた内容から、「天職は特殊な方法で後付けでも得られるクラススキル」と解釈しました。そして……NPCの時のナグモが天職を得たのだから、他のNPCも出来るよね? みたいな感じです。
>ナグモについて
確かに人間の心は芽生えました。ただし、生まれた時から持っているNPCとしての常識が、クラスメイト達の死体を実験素材にしてるという悪行を認識させてないです。
そもそもダイスロールに頼ったのは、「ナグモにナザリックらしくクラスメイトを殺させるかどうか?」でした。
今回の判定はカルマ値変動は無し。クラスメイト達はあくまで勝手に死んだという扱いなので。
ちなみにギリギリまで考えていたカルマ値マイナスのプロットが……。
・デミウルゴスから羊皮紙確保の手段として牧場の共同経営を提案される。
・ナグモ、掌握したオルクス迷宮のトラップを使ってクラスメイト達を捕らえる。
・牧場で生きたまま皮を剥がれるクラスメイト。そこでデミウルゴスから実はアインズには今回の事は秘密にしてると告白される。
・アインズは優しいから心を痛めると尤もらしい事を言うデミウルゴスに対して、実はデミウルゴスが楽しみたいだけじゃないか? と疑惑の目を向ける。
・そこで秘密にする代わり、八重樫雫の回収に手を貸す様に依頼する。
・香織の為に、クラスメイト達こと両脚羊の解体を開始する。
こんな感じでした。しかしこれをやると、せっかく人間になった事を喜んだアインズも良い顔しないのでは? と考えて、最終的にダイスロールでカルマ値プラスルートか、カルマ値マイナスルートを選びました。
今回、クラスメイト達を直接的に殺しはしませんでしたが、やってる事自体は十分非道な事をしてるナグモ。彼には後ほど、死ぬほど後悔させるのでご安心ください。
さて、次回は……前に宣言したアレをやります。なので、次の本編の更新は少し時間がかかるかもしれません。ご了承下さいませ。