ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 そもそも何でこんな事になったよ? という説明回。割と御都合主義マシマシですけど。

 追記

 クラスメイトsideを修正し、檜山達は死んでない事にしました。今後にやりたい展開の為には必要になったので。

 ……自分で書いててアレだけど、楽に殺さない宣言になってる気がする。



第四十七話「ナザリックの作戦会議」

 ———話は魔人族がフェアベルゲンに宣戦布告する前に遡る。

 

「ほう……亜人族達の国を発見したのか。よくやったぞ、アウラ」

「はい! ありがとうございます、アインズ様!」

 

 アインズが褒めると、アウラは父親に褒められた子供の様な笑みを浮かべた。

 ナザリック地下大墳墓第九階層の一室。

 コの字形にテーブルを置いた会議室で、アインズはヴィクティムを除いた各階層守護者達を集めていた。これは謂わば定例会だ。打倒エヒト神という大きなプロジェクトに向かっているナザリックで、各部門の部長ともいえる階層守護者達に報告や意見交換をさせる事で情報共有を図ろうというアインズの試みだった。

 

(転移前は会社の会議とかユグドラシルをやる時間が減るから嫌だったんだけど、いざ管理者の立場になると必要だからやっていたという事がよく分かるなぁ)

 

 社員への連絡事項なんて一斉送信のメールで良いじゃん、と昔はアインズも思っていたが、NPC達に完璧な支配者だと思われている今はそんな怠惰な考えは無い。最古図書館(アッシュールバニパル)で自己啓発本やビジネス書をこっそり借りて読んだり、自室で誰もいない時は鏡の前で支配者らしい振る舞いを練習したりと日々尊敬される上司(支配者)を目指して余念の無いアインズであった。

 

「ただ、ちょっと問題がありまして。樹海の別方向からこの世界のダークエルフ……じゃなくて、魔人族でしたっけ? そいつらがフェアベルゲンに侵攻を仕掛けようとしてるみたいなんです」

 

 きゅっとアウラやマーレ、シャルティアといった(見た目は)年少組達の顔が顰められる。

 

(ん? 亜人族の国が攻め込まれると聞いて同情的になったのか? いやあ、アウラ達も意外と可愛らしい所が――)

 

「アインズ様より先に滅ぼそうとするなんて! 無礼な奴等ですよね!」

「まったくでありんす!」

「え、ええと……ボクも、その人達は失礼だと、思います……」

 

 この子達はすごく理不尽だな、と私は思いました。

 思わず作文口調でアインズは心の中で天を仰いだ。

 

「アインズ様」

 

 アインズの隣(因みに反対側はシャルティア)に座ったアルベドがアインズへと進言してくる。

 

「アインズ様のアンデッド用の死体として、亜人族が殲滅された後に魔人族達を滅ぼしてはいかがでしょうか? そうすれば亜人族と魔人族の死体を一挙両得に入手できると思われます」

 

 ううむ、とアインズは考える———フリをした。

 

(今はそんなに死体が入り用というわけじゃないんだけどなぁ……)

 

 アインズが得た生成魔法———それはアイテム作成効果を上げるのみならず、アンデッド生成にも影響を及ぼしていた。上位個体のアンデッドは無理だが、デスナイトの様な中位以下のアンデッドならば死体無しでも半永久的に召喚を維持できる様になっていた。

 

(ナグモは生成魔法を無機物に干渉する魔法と分析していたな。アンデッドは無機物扱いなのか? いや、生きてないという意味なら有機物とは言わないだろうけど)

 

 頭を捻ってみたものの、そもそも小卒である為に有機物と無機物の知識を正しく理解できてないアインズには難しい内容だ。まさかそんな基本的な科学知識を部下であるナグモに聞くわけにもいかず、アインズはとりあえず『スキルのみで中位以下のアンデッドの召喚時間が無限になった』と解釈していた。

 

(じゃあ、亜人族や魔人族の死体でアンデッド生成したらどうなの? とは思ったけど、ナグモが確保した金ランク(最上級)冒険者達の死体を使っても普通のアンデッドにしかならなかったから望み薄なんだよなぁ……でもどうやってアルベドの提案を断ったらいいんだろう?)

 

 上司としてやってはいけないのは、部下の提案を代案も無しに却下する事だ。鈴木悟だった頃も、「この企画書、ボツだったから明日までに直してきて」としか言わなかった課長にはよく立腹したものだ。だから「今はそんなに死体が要らないからいいや」と言うならば、企画を練ってきたアルベドに対して良い代案を示すべきなのだ。

 

「……それは、問題があるかと」

 

 ざわ、と守護者達が視線を向ける。視線の先にいた人物———ナグモはいつもの無機質な表情で視線を真っ向から受けていた。

 

「……へえ? あなたはアインズ様がアンデッドの作成実験を行う事に反対というの?」

 

 自分の案を真っ向から反対された形になったアルベドが、ナグモに険しい目線を向ける。

 

「それとも……貴方も人間種だから、同じ人間種が犠牲になるのが容認できないのかしら?」

「別にこの世界の亜人族や魔人族、はては人間達がどうなろうがどうでもいい」

 

 いいんかい! とアインズは心の中でつっこむ。

 

「だが……今回は例外だ。フェアベルゲンにはアインズ様がお求めである大迷宮がある可能性がある」

「なに? それは確かなのか?」

「はっ。オスカー・オルクスの手記には全ての場所がはっきりとは書かれていませんが、解放者の一人が亜人族であった事からフェアベルゲンには何かしらの情報があると推測しています」

「じゃあ亜人族を適当に攫って、魅了で吐かせれば良いんじゃありんせん?」

「それも問題がある、シャルティア。いまナザリックの鉱山と化したオルクス迷宮だが、表層の100階層目から「六つの証をかざす」というのが本来の入り口だった。似た様な仕掛けがハルツィナ樹海にあった場合、魅了では正確な情報は掴めない」

 

 むっ、とシャルティアが難しい顔になる。魅了はかけられた相手に術者を信頼の置ける友人だと思い込ませる魔法だ。この友人というのがネックで、友人がしそうにない命令には従わないし、時には友人にも語れない秘密の情報は喋らないという場合がある。

 

「大迷宮の情報を知っている亜人が掴めない以上、それまでは奴等には生きていて貰う必要がある。魔人族が先に大迷宮を掌握するのも面倒な事態になるからな」

「ん〜……じゃあさ、魔人族が亜人族から大迷宮の情報を聞き出した後、奴等を滅ぼしちゃう?」

「……亜人族達に助け舟を出してやってもいいかもしれんな」

 

 え!? とアウラがアインズの方を向いた。他の守護者達も一斉にアインズの方を向く。

 

「確定ではないが、亜人族達が大迷宮の場所を知っているなら友好関係を築くのも悪くはない。それに亜人といえど、トータスに来たばかりの我々にとっては未知の存在だ。生かす価値はあるだろう」

 

 もっともらしい事を言ったが、アインズとしては別の理由もあった。

 

(亜人族達には興味は無いけど、今回の()()()でどうにかNPC達に他者に寛容になる精神性を学ばせられないか?)

 

 プレイヤーとなったナグモを含め、基本的にナザリックの者達は主であるアインズこそが至上であり、その為ならばナザリック外の存在など塵芥以下と思っている節がある。そういった意識改革をする為にも、亜人族の救援を提案してみたのだ。

 

(それにかつて対エヒトの為に集っていた解放者達も、戦いの最中でエヒトによって人々から異端者として迫害されて潰えたんだ。戦いに必要なのはやっぱり数だな。大勢から支持されてる方が、エヒトから見ても潰しにくくなる筈だ)

 

 自分達は強いから大丈夫、などとアインズは慢心はしない。解放者という失敗例がある以上、対エヒト連合を作る為にはナザリック外からも多くの人材が欲しいのだ。その為にも亜人族達を魔人族達から守るのは良い案の筈だ。

 

「アインズ様の御意見に異を唱える愚をお許し下さい。ですが、たかが亜人ごときを保護される必要など———」

「———いや、待ちたまえ。アルベド」

 

 デミウルゴスがすっと手で制する。そして、無言のままアインズを見た。

 

(え? 何? 反対なら反対と言っていいんだよ? 俺が考えてる程度の事なんて、アルベドやデミウルゴスみたいな頭の良い奴等なら欠点をすぐ看破できるだろうし。無言が一番怖いんですけど!?)

 

 などと思っていても、練習してきた支配者ロールは無様な動揺など見せない。デミウルゴスがどんな反対意見を言ってくるか、と身構えていると———。

 

「……なるほど。そういう事でございますか」

 

 いや、何が? そう思っていると、何故かナザリック知者組であるナグモとアルベドも驚愕に目を見開いていた。

 

「———確かに、合理的ですね。まさに神の一手……失礼、魔の一手ですね」

「お許し下さい。守護者統括でありながら、アインズ様の知謀を理解出来なかったなど不徳の極み。この失態は、必ずや命に代えても払拭致します!」

「よ、よい。許そう、アルベド。お前の全てを許す」

 

 だから何を理解したのか説明してくださいお願いします、とアインズの心の中での嘆願も虚しく、コキュートスが追従してきた。

 

「ムウ……ヤハリアインズ様コソガ、ナザリック一ノ知者……」

「その通りだとも、コキュートス。アインズ様は常に一手先どころか、未来を見通しておられる。我々凡俗ごときでは思い付きすらしなかったよ」

「は〜……アインズ様って、やっぱり凄いです」

「ほ、本当だね。お姉ちゃん」

「ああ……まさに麗しの我が君……知謀すらも完璧だなんて」

 

 いや、未来どころか今現在で手一杯ですけど!? 

 そう叫びたいが、アウラとマーレのキラキラした目を見て何も言えなくなる。サンタクロースなんていないよ、と伝えられない父親の気分だ。

 シャルティアに至ってはウットリとこちらを見つめている始末だ。

 

「う、うむ。私の考えを理解してくれた様で何よりだ」

「かしこまりました。亜人族共には飴を、魔人族共には鞭をくれてやる事にしましょう」

 

 とにかく、アインズの意見で決定という流れになった様だ。支配者ロールで鷹揚に頷いていると、デミウルゴスが聞いてきた。

 

「それで、アインズ様。亜人族達にはどのタイミングで救いの手を差し伸ばしてやるべきでしょうか?」

「……今すぐ、とは言えんな。魔人族達がどれ程の強さを持つかも不明だ。下手に全力を出してしまえば、エヒトルジュエにこちらの情報を渡すだけになるやもしれん」

 

 PVP(Player VS Player)において重要なのは、いかに相手に虚偽の情報を掴ませ、こちらが相手の情報を掴んで奇襲するか。

 かつて“アインズ・ウール・ゴウン"で最高の軍師だったぷにっと萌えの『誰でも楽々PK(Player Kill)術』を思い出しながら、アインズはそう答えた。

 

「エヒトルジュエがどういう方法で世界を監視しているかは不明だ。ワールドアイテムの山河社稷図の使用も視野に含めて、対情報収集対策に穴が無い様にしてからにしたい」

「はーい、それでしたらあたしが暫く見張ってます。亜人族達が全滅しそうになるまでは手を出さない様にすれば良いんですよね?」

「うむ。頼んだぞ、アウラ」

 

 アインズが頷いていると、ナグモがスッと手を上げた。

 

「それでしたら戦闘になったら、オルクス迷宮の魔物達を使って作ったキメラ達を使えばよろしいかと。この世界の存在で作った魔物ならば、ユグドラシルの情報を漏らさずに済みます」

「ほう……確かにな」

「加えて、シモベ達(POPモンスター)を使った天職の付与実験にも成功しています。これを出撃する者に施し、ユグドラシルの技能を極力使わずに魔人族達を駆逐すれば良いかと愚行致します」

「なんと……既に成功していたとはな」

「良いサンプルが手に入りましたので」

 

 オルクス迷宮のトラップに掛かった冒険者達の事だろうな、とアインズはぼんやりと考える。何はともあれ、これで方針は決まった。

 

「いいだろう。ナグモ、お前はオルクス迷宮産のキメラ達を投入する準備をせよ。併せて、魔人族達の迎撃を行うメンバーに天職を付与させろ」

「かしこまりました」

 

 アインズは守護者達を見回し、宣言する。

 

「では、亜人族達には魔人族達の情報収集も兼ねて出来る限りまで戦って貰う。それまでに迎撃メンバーは戦闘の準備をせよ」

 

 ギラリ、と空虚な眼窩の中の赤い輝きが光る。

 

「なお、我々の情報が漏れない様に魔人族達は一人たりとも生かして帰すな。いいな?」

『はっ!』




……グッバイ、フェアベルゲンに来た魔人族さん。大丈夫、ちょっとナザリックに住居変更するだけだから。どんな形かは、うん、まぁ……。

ちなみに、アンデッド=無機物という扱いは作者も正しいとは思ってません。じゃあ、なんで生成魔法が有効だったの? という問いは後程の展開で。

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