ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 何か作中で色々と小難しい事を言ってますけど、自分はこの小説は寝る前の時間帯に書いていて、あまり頭が回ってない状態で書いているので、「へぇ〜、そう」ぐらいの気持ちで読んでくれると幸いです。強さ設定とか、展開次第ではコロコロ変わるだろうし。


第四十三話「そうあれかし」

 窓から差し込む朝日でナグモは目を覚ました。オルクス迷宮にあるのは太陽光を模した照明アイテムだが、それでも日の光を浴びながら目覚めるのは清々しい気分になれた。

 

(何故だろうな……以前はそんな事を全く気にしていなかったのに)

 

 至高の御方の為に、昼夜を問わずに働く。

 ただそれだけの日々だった筈だ。ところがアインズの方針で睡眠時間や休日を設けられて心に余裕が出来たからか、最近のナグモは今までと違って日々に彩りが満ちた充実感を感じる様になったのだ。

 

(至高の御方に生み出された僕には、御方の為に働くのは当たり前だから休息なんて不要だと思っていたのに……。こんな風に思える様になったのは、きっと———)

 

「う、んっ………」

 

 ナグモが寝ていた横で掛け布団がモゾモゾと動く。人一人分の膨らみから、その人物はぴょこんと頭を出した。白銀の髪は朝日にキラキラと反射して、ナグモにはそれが月光を閉じ込めた様に美しく感じた。掛け布団から見える肌は普通の人間より色素が薄く、まるでミルクを溶かし込んだ様な色白だ。アンデッドの紅いルビー色の瞳をぼんやりと開きながら、彼女———白崎香織はナグモへ微笑んだ。

 

「ふぁ……おはよう、ナグモくん」

「……ああ、おはよう。香織」

 

 自分に感情を教えてくれた少女の寝起きの笑顔に、ナグモはドキドキとした鼓動を感じながら、薄く———しかし確かに笑みを返した。

 

「……んぅ」

 

 香織が少し寝ぼけた顔のまま、ナグモの顔に両手を添えた。驚くナグモの顔をそのまま引き寄せ、そして———。

 

「……ちゅっ♡ 」

 

 軽いリップ音と共に、薄い桜色の唇がナグモの唇と重なった。

 

「えへへ、おはようのチューだよ。どう? 目が覚めた?」

「……………それは反則だ」

 

 顔を真っ赤にしながら、ナグモはそう呟いた。

 

 ***

 

「ナグモくん、今日はナザリックに出張なの?」

「ああ。だから、昼食は用意しなくていい」

 

 メイド服に身を包んだ香織が用意してくれた朝食を食べながら、ナグモは短く頷いた。オルクス迷宮で仕事をしている時は昼休憩には香織と昼食を摂るのがナグモのここ最近の日常だった。香織は少し残念そうに呟く。

 

「そっか……私も、ナグモくんの研究のお仕事を手伝えれば良かったんだけど」

「そこまで気を遣わなくてもいい。今だって僕の身の回りの世話してくれてるだけで、すごくありがたく思う」

 

 これは嘘偽りない本音だ。香織がオスカー・オルクスの屋敷の家事を行ってくれるお陰で、ナグモのオルクス迷宮での生活は至高の御方(アインズ)に命じられたから、という理由以上に充実したものになっていた。

 

「それに空き時間にはメイドの仕事の訓練や戦闘訓練もしているのだろう?」

「うん! 目指せ、ユリ先生だよ!」

 

 ムン、と香織は力瘤をつくる仕草をした。香織は屋敷の家事がひと段落した後は、シズと仲良くなった折に交流する様になった戦闘メイド(プレアデス)達にハウスメイドの仕事を指導して貰ったり、セバスの戦闘訓練を受ける様になっていた。その中でも、まさに出来る女(香織見解)を体現したユリ・アルファを目標にした様だ。ユリもまた、教育者(創造主)の血が騒ぐのか、教師と生徒という立場ながらも二人の仲は良好の様だった。

 

(ふむ……レベル100以上と言っても、竜形態にならないセバスで相手になるレベルか)

 

 つい、ナザリックの技術研究所長としてそんな事を考えてしまう。ナグモの血肉を取り込み、ナザリックでも守護者以外は中々いないレベル100以上に到達した香織だったが、その中身はあまり強いとは言えないものだった。

 人間の時に訓練していた治癒師(クレリック)の職業レベルは中途半端な状態で止まっており、アンデッド化してから得た種族レベルは香織自身の種族である動死体(ゾンビ)屍食鬼(グール)以外は雑多な種族が低レベルで混ざるキメラ状態という有様だった。おそらく存在を維持する為に奈落で色々な魔物を取り込んだ弊害だろう。それをアインズに報告したところ———。

 

『何というか、あれだな……あれもこれもと種族レベルを上げようとして、結局弱いレベル100になったという典型例だな』

 

 と、なんとも微妙そうな声音を出していた。ナグモの手によって人間の見た目を取り戻した今の香織の種族はさしずめ、『人型キメラアンデッド』とでも言うべきだろうか? 

 

(でも香織の身体を調べて、トータスの魔物の因子を取り込んでナザリックのシモベ達を強化する方法が解明できてきた。これならば———)

 

 惜しむらくはオルクス迷宮で最強のヒュドラを使っても、レベル100(最強クラス)に至っている守護者達のステータスを上げる事は叶わないことだ。だが、レベルの低いPOPモンスター(一般のシモベ)ならば、トータスの魔物の因子を付与して強化する事は可能だった。

 ナザリックの第四階層のキメラ製造エリアでは、トータスの魔物因子を取り込んだ新型キメラ達が量産体制に入りつつあった。

 

「まあ……夕食までには帰る予定だ」

「うん、じゃあ美味しい夕飯を作って待ってるね。今日はね、ナグモくんの大好きなハンバーグにしてあげる!……えへへ」

「? どうかしたか?」

 

 頬を赤く染めながら、香織はにへらと笑う。両手でどうにか緩む頬を抑えようとしているが、幸せ全開で抑えられないと表情に出ていた。

 

「なんだかこうしてると、新婚さんみたいだね♪」

 

 ボンッ! と今度はナグモの顔が赤く染まる。「それは……いや……でも……」と視線をあちこちに飛ばしながら譫言の様に呟く。「もう、照れなくていいのに……」とイヤンイヤンと香織は首を振っていた。

 

「あ……甘いのです、甘過ぎなのです〜。胸焼けしそうです〜」

「ん……同意見。毎度毎度見せられる、こっちの身にもなって欲しい」

 

 少し離れた所で一緒に朝食を摂っていたミキュルニラとユエが、砂糖を吐きそうな顔で溜息をついた。オスカーの屋敷はそれなりに食堂は広く、ナザリック技術研究所オルクス支部の職員で食事が可能な種族であるミキュルニラやユエも共に香織の手料理のご相伴に預かっていた。

 

「えっと、今日のパンケーキはそんなに甘かったかな? お砂糖を入れ過ぎちゃったのかも……」

「そんなにシロップをかければ胸焼けぐらいするだろう、馬鹿者め」

「うわあ……ユエちゃん。この人達、無自覚なのです〜」

「頭にバが付く男女二人(カップル)なんて、そんなもの」

 

 冷たい目線を送ってくる上司(ナグモ)にミキュルニラは同席しているユエに助けを求めるが、半ば諦めた様な口調でユエは溜息をついていた。

 

「というか同じ女の子なのに、香織ちゃんと私の扱いに差があり過ぎです〜! 断固抗議します〜!」

「はあ? 香織とお前が同価値なわけないだろう」

「酷いです〜! 仮にも同じじゅーる様に作られたシモベなのに〜!」

「もう、駄目だよ。ナグモくん」

 

 ぷんすか、と全身で怒ってます! とオーバーアクションするミキュルニラへ白い目を向けていたナグモに、香織は嗜める様に言った。

 

「お兄ちゃんなんでしょ? 妹には優しくしてあげなよ」

「……おい、待て。何を、どうすれば、そんな発想になる?」

「え? ミキュルニラさんは、ナグモくんを生んだじゅーる様が創造主様なんだよね? じゃあ、ナグモくんとは兄妹になるんじゃないの?」

「……待て、本当に待て。大体、シモベ風情が至高の御方を親の様に語るのは不敬な」

「ふぇ〜ん! 香織お姉ちゃん〜! ナグモお兄ちゃんが虐めるのです〜!」

「やかましい!」

 

 ダブついた白衣の袖を目に当てて泣き真似するミキュルニラをナグモは一喝する。香織といるといつもの無表情な知的な姿から一転して、表情が豊かになるナザリックの階層守護者代理に、ユエはコーヒーを飲みながら溜息を再び吐いた。

 

「……まあ、感情が表に出せる相手がいるのはいいことだと思う」

 

 ノンシュガーの筈が、何故か甘ったるく感じた。

 

 ***

 

「ん〜、お二人は順調みたいです〜。本当に良かったのです〜」

 

 口直しにコーヒーのおかわりを淹れてくると席を立ったミキュルニラは、厨房で一人呟く。香織が私の仕事だから、というのを丁重に断り、彼女は傍目から見ても甘い生活を送っている二人の事を考えていた。

 

「……うん、本当に良かったです。所長に、大切な人が出来て」

 

 ふと。それまでの道化じみた口調が消える。

 

「……妹、ですか。ふふ、そんな風に考えた事はありませんでした。……ねえ、じゅーる様。所長はね、とても仲良しな人が出来たんですよ。笑ったり、怒ったり、そんな感情を出してくれる人が出来たんですよ」

 

 今はいなくなった創造主の事を思う。

 ———ナザリックから去る前に、「そうあれかし」と新たに定めてくれた設定(在り方)をくれた創造主を。

 

「所長は毎日が楽しそうで、本当に良かったです。……私には所長を笑顔にする事は出来ませんでしたから、香織ちゃんには感謝すべきなのです。恩返しとして、香織ちゃんがナザリックで楽しく過ごせる様にすべきなのです」

 

 新たに淹れ直したコーヒーに口を付ける。

 

「………しょっぱいや」

 

 何も入れてない筈が、何故か塩の味がした。

 

 ***

 

「———今のところ、オルクス迷宮の採掘は順調です。深層へと繋がる道もマーレの働きにより閉ざされ、また掌握したトラップで鉱山ガスに見せかけて表層部の大部分は人間に進行不可能な様に致しました。万が一、毒無効のスキルを持つ者がいても、深層から解き放った魔物やナザリックのシモベ達が行く手を阻むでしょう」

「うむ。我々がオルクス迷宮を独占する事が第一だからな。人間以外の種族の侵攻も考慮したトラップ配置を行え」

 

 ナザリック地下大墳墓のアインズの執務室。

 傍にアルベドを控えさせたアインズに、ナグモは報告を行っていた。

 

「かしこまりました。オルクス迷宮のシステムを掌握した以降に侵入した人間の兵士並びに冒険者の数は104名。その内、天職持ちは20名。戦闘系の天職持ちは6名となります」

「むう……やはり戦闘系の天職を持っている人間は少ないな。しかし、天職がユグドラシルの職業スキルと仮定すれば、この世界の人間のステータスの脆弱さは職業スキルを習得できないからか? あるいは根本的に初期ステータスが低くなる様に作られているのか……ふむ、色々と試してみたいな。その人間達は今はどうしている?」

「八割は迷宮内のモンスターやトラップで死亡。生き残りも毒ガスや麻痺トラップで行動不能にして一箇所に纏めております。如何致しましょう?」

「アンデッド化の実験に使いたい。迷宮内で死亡した人間も遺体は回収して、氷結牢獄に送れ」

 

 かしこまりました、とナグモは返答する。そこに、つい数時間前まで香織達に見せていた人間らしい表情は無い。氷の様な冷たい無表情の面を被り、人間達をナザリックの資源にしか思わない階層守護者代理がそこにいた。

 ———結局のところ。ナグモの人間への見方は変わっていない。香織を愛する事で電子の人形(NPC)から人間(プレイヤー)へと変わりつつも、ナグモの認識(せかい)はナザリックしかない。だからこそ、彼にとって自分が愛している香織や借りが出来たユエ以外は路傍の石に等しい存在なのだ。

 

「……うむ。しかしまあ、なんだな。人間達には少し気の毒かもしれんな」

 

 ついアインズはそんな事を口にしてしまう。アンデッドになり、人間(鈴木悟)の感情が残滓になりつつあるアインズ。彼も人間達が犠牲になっている事に罪悪感など感じず、ナザリックの為に必要なものだと割り切ってはいる。しかし………。

 

(ただなぁ……ナグモに同じ人間を殺させるって、どうなんだ?)

 

 ナグモがプレイヤー(人間)となった事が判明した後、ついそんな事を考えてしまう。外の人間達と違って、友人(じゅーる)の忘れ形見である人間(ナグモ)に非道な事をさせるのは、預かった子供に犯罪に手を染めさせているようでアインズの中にしこりが残った。

 ナグモがまだNPCだったならば「そういう設定で作られたから」と納得できたかもしれない。あるいは人間を捕食する様な異形種ならば、そんなものと納得もしただろう。しかしプレイヤー(人間)となった今は、ナザリックの利益の為とはいえ友人の息子が人間を実験動物くらいにしか思っていないのは問題があるんじゃないか? と思わなくもない。

 

「何を仰いますか。下等生物達は至高の御身に役立って死ねる事を感謝すべきです。むしろ最期の瞬間を感涙で咽び泣きながら迎えるのが当然です」

「至高の御方がわざわざ御支配された地に無断で入り込む低脳な輩に慈悲など不要かと思います」

 

 これだよ、とアルベドとナグモの意見にアインズは頭を抱えたくなる。NPCのアルベドはもとより、プレイヤーとなったナグモもアインズへの忠誠は薄れる事なく、アインズの為ならば外の人間など塵芥同然と思っているフシがあった。周囲に敵となり得る存在がいないならアインズも強く言わないが、対エヒトの為に味方を一人でも増やしたい今はその態度は問題があり過ぎた。

 

「……まあ、運が無かった人間達の死は有効的に使うのがせめてもの供養だとするが。人間達を犠牲にして当然、という考えは改めよ。彼等にも見るべきところがある者はおり、そういった者を今後は我等の仲間として迎え入れる時もあるかもしれん。……分かっているな?」

「……はっ、申し訳ありませんでした」

 

 ナグモはスッと頭を下げる。脳裏にはアインズの命令として自分の預かりとなった少女達を思い浮かべているのだろう。

 

「今後はオルクス迷宮のトラップの難易度を上げ、人間達が決して入ってこられない様にせよ。数人の人間は生かして帰し、彼等にオルクス迷宮が大災厄で死のダンジョンと化したから、命を懸けてまで入るのは割に合わないと思わせるのだ」

「かしこまりました、アインズ様」

 

 特に反論せずに了承したナグモに、アインズは心の中でウンウンと頷く。

 

(素直に受け止めたという事は、コイツなりに変化はしているのかな? そういった意味でも香織とユエを迎え入れたのは良かった事だな)

 

 さて、と気を取り直して、もう一つの報告を聞く事にした。

 

「ユエと香織のステータスや戦闘スキルの調査を依頼していたな。二人の特性など、何か変わった点はあるか?」

「はっ。まずはユエですが、ユグドラシルのレベルで換算した場合は49。特色として魔法の無詠唱化能力は位階魔法でも有効な様です」

「ほう?」

 

 アインズは身を乗り出して詳しい話を聞こうとする。中々に興味深い話だった。

 

「レベル的に扱えたのは第7位階まででしたが、術式への魔力の接続率が非常に高いですね。トータスの魔物因子でステータスを上げられる事を考えるなら、ユエにナザリックに保管されている『上級魔導指南書』、あるいは『錬金奥義書』を読ませてみても良いかもしれません」

 

 ユグドラシルの魔法詠唱者系の上級職業に転職する為のアイテムをナグモは羅列していく。そのくらいユエの腕を見込んでいるのだろう。アインズは自分の考えを述べてみた。

 

「異形種への転生はどうだ? 強力な魔法やスキルは異形種の方が習得しやすいぞ。無論、ユエが望めばだが」

「異形種、ですか……それも一つの選択肢だとは思いますが、個人的にはあまりお薦めしません。ユエの各属性の魔法適性は綺麗な円グラフになっていますから、他種族に転生してこれを崩してしまうのは惜しいかと」

「ふうむ……平均的なエキスパートより、一点特化型のスペシャリストにしてレア職を狙う方がいいと思うが」

「しかし完全耐性とはいかないまでも属性ごとの魔法耐性も綺麗に揃っているので、弱点属性を作ってしまうのは……ステータスの特化は装備で補う事も可能ですから」

 

 ユグドラシルでは一般的に、ステータスが平均的にしか伸びないが幅広い職業スキルを習得できるのが人間種だ。初心者向けのスタンダードなスタイルが目指しやすい。

 それに対して異形種はステータスが特化して伸びやすく、さらに人間種より強力なスキルや魔法を習得しやすい。ただし、アンデッドには火属性や神聖属性、という様に被ダメージが倍化する弱点属性を抱え込んでしまい、習得できる職業スキルも限られてくる玄人向けなスタイルだ。

 

(まあ、それも装備でカバー出来なくはないけど、全部は無理だしな。しかし、何というか……)

 

 ほんの少しだけ、アインズの気持ちが昂揚する。こうやってユエの育成方針について意見を交わすのが、昔を思い出して楽しいのだ。

 

(思い出すなぁ、餡ころもっちもちさんに魔力系魔法詠唱者か信仰系魔法詠唱者のどちらを勧めるかで、たっちさんとウルベルトさんが本人そっちのけで言い合ってたなぁ。そこでペロロンチーノさんが、じゃあエロ系モンスター狩りで決めましょう! とか言って、ぶくぶく茶釜さんにぶん殴られてて……。ナグモの創造主のじゅーるさんはどうだったろ? あの人もステータスは平均的に上げたがる人だったもんなあ。やっぱり子は親に似るのか?)

 

 プレイヤーとなったナグモとこういった会話をすると、かつてのギルメン達との思い出が浮かび上がり、アインズは懐かしさから上機嫌になってくる。

 

「ナグモ。貴方、アインズ様の御提案に異を唱えるというの?」

 

 しかし、そこに冷たい声が割り込んだ。アルベドはナグモに対して口調と同じくらい冷え切った目を向けていた。

 

「アインズ様の御提案に沿う様にするのがシモベたる者の務め。分を弁えなさい」

「……確かに。出過ぎた事を致しました。謝罪致します」

「よい。お前が謝罪する必要はない」

 

 せっかく楽しい思い出に耽っていたのに水を差された気がして、苛立ちを感じながらもアインズは呑み込む。そしてアルベドに咎める様な視線を向けた。

 

「アルベド、私は忌憚の無い意見が欲しいのだ。私とて常に間違わないわけではない。より良い意見があるなら提示して貰う為にも、私に盲目的に従わせる必要はない」

「とんでもありません! アインズ様の御考えに間違いなどあろう筈がございません! 仮に誤りがあるとするなら、命令を実行したシモベ達にこそ問題がありましょう!」

 

 そういう事じゃないんだってば、と支配者ロールを崩して言いたくなるのを我慢する。NPC達が自分を絶対の主人だと思って従ってくれるのは嬉しいが、アインズの命令を実行できないならば自害しようとする忠誠心までは重過ぎた。

 

「……とにかく、ユエに種族変更を行うか否かについてはまた今後の課題でも良いだろう。ユエ自身の意見も聞くべきだろうしな。次に香織の方だが———」

「はっ。以前にもお伝えした通り、トータス固有の様々な異形種が混ざり合っている状態で、レベル100以上と言っても僕はともかく、人間形態のセバスより劣る様です。ただ———」

 

 ナグモは香織に関するレポートをアインズに見せた。

 

「調べたところ、雑多な魔物の組み合わせではありますが、その魔物達の特技や特性を全て取り込んでいる状態です。その為か、アンデッドの弱点属性である火属性に対しても耐性がありました。それどころか、各属性や状態異常に対しても高い耐性があります」

「……という事は、あれか? 色々な異形種の良い所取りみたいなものか?」

 

 頷いたナグモを見ながら、アインズは軽く無い目を剥いた。

 

(俺も装備で火属性に耐性は付けているけど、完全じゃない。だが、香織は装備なしで可能になるのか? それは強力だな……)

 

 異形種プレイヤーは自身の弱点属性を装備やスキルで補うのがセオリーだ。しかし、そうなると貴重な装備スロットを潰してしまう事になる。だが、香織の場合は装備スロットを防御に回す事なく自分の強化などに使えるのだ。それがどれほどアドバンテージになるか、PvPを繰り返してきたアインズには分かる。

 

「迷宮には神聖属性の魔物はいませんでしたが、今後トータスで神聖属性を持つ魔物を発見し、その肉を香織に食べさせた場合……あらゆる耐性を持った理想的な異形種になる可能性があります」

「なんとまあ……」

 

 ナグモの報告に、アインズは溜息を吐くしかなかった。ただの女子高生だった少女が、ここまでとんでもない存在になるなんて誰が予想できただろうか?

 

「アインズ様、そのアンデッドは危険ではないでしょうか?」

 

 アルベドが顔を険しくしながら進言してきた。

 

「至高なる御身に並び立つ者などいない、と思っておりますが、万が一という事もあり得ます。その白崎香織なるアンデッドにはより強い枷を付けるべきでは?」

「……というと?」

 

 アルベドはナグモへと視線を向けた。全NPC達の頂点に立つ守護者統括の威厳を出しながら、ナグモへと命じる。

 

()()はアンデッドなのでしょう。ならば、アインズ様が使役できる様に改造するなりしなさい」

 

 ———瞬間、ナグモの顔が無表情がはっきりと強張った。強い拒絶感を出しながら、声音が低くなる。

 

「不要だ、守護者統括殿。そんな手間を加えなくても、香織はアインズ様に恩義と忠誠を捧げている。恩義に報いる為に働く者に奴隷の様な仕打ちをするなど、低脳な人間がやる事だ」

「ナザリックのシモベ達を管理する者として、新参者に目を光らせておくのは当然の判断よ。貴方、そのアンデッドと恋仲になったと噂になってるけど、その判断が色恋に鈍ってるとは思ってないのかしら? 大体、恩義を返そうとする忠誠なんて、そんな物は夢見がちな理想論よ」

「……()()、じゅーる様の御信念を嘲笑っているのか?」

「貴方こそ……いま私達がお仕えしているのはアインズ様、ただ一人。お隠れになった御方の言葉には従って、この地に残られたアインズ様は蔑ろにするつもりかしら?」

 

 二人の守護者の間に極寒の視線がぶつかり合う。険悪と言っていい雰囲気に、空気がチリチリと軋みを上げていた。

 

「———よせ!!」

「「はっ! 申し訳ありません!」」

 

 アインズの一喝に、二人は即座に頭を下げた。

 

「アルベド、お前の忠誠は嬉しく思う。だが、香織とユエに関してはナグモに一任すると決めた。私はその言を翻すつもりはない」

「それはっ……いえ、申し訳ありません」

 

 絶対支配者であるアインズの言葉に、アルベドは抗議の言葉を呑み込んだ。

 

「ナグモよ。アルベドの心配はナザリックを思ってのもの。ならば、お前はそれを払拭する為に、あの二人にナザリックに対する忠誠を植え付けるのだ。それがお前の仕事でもある」

「はっ、かしこまりました。必ずやアインズ様に仕えられた事は至上の幸福であると、教育致します」

 

 頭を下げて承服するナグモを見て、この話は終わりだと打ち切った。

 

(ほっ……いや、さすがに俺も他人の彼女を取り上げて奴隷扱いとかしたくないよ。というかそれをやったら、ナグモがまた薬漬けになっちゃうってば)

 

 香織を探しに行った時の必死な様子を思い出し、アインズはあれは二度とゴメンだと思っていた。ようやく実った友人(じゅーる)の息子の恋なのだ。二人を引き裂く様な真似はしたくない。

 

(それにしてもアルベド、なんかナグモに敵意があった様な……いや、きっと気のせいだ。製作者のタブラさんとじゅーるさんは仲が良かったもんな)

 

 何せじゅーるはナグモの設定が中々上手く文章にできない、と設定魔のタブラに相談した程だ。ある意味、二人は親戚とも言える間柄の筈だ。NPC達の親愛関係は創造主同士の関係に起因しているものだから、アルベドとナグモも険悪な関係ではない筈だとアインズは自分に言い聞かせた。

 

 ***

 

 アインズの執務室から退出したアルベドは、第九階層の廊下を歩きながら先程の事を考えていた。

 

(……何故かしら? なんであそこまで、ナグモに対して敵意が出たのかしら?)

 

 実の所、アルベドは香織の事をそこまで脅威に思っていない。レベル100以上と言っても、守護者の中で犠牲になる事が前提のヴィクティムを除いて最弱のナグモを少し上回った程度。守護者の中でも三強に数えられる自分からすれば、十回は殺してもお釣りがくる程度の強さだ。

 それでもアルベドは香織をアインズに逆らえなくなる様にする為に進言した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……ええ。アインズ様の御理解は頂けなかったけど、必要な措置なのよ)

 

 オルクス迷宮から帰って来てから、ナグモは以前とは何かが変わった。それをNPC達を統括する守護者として、アルベドは感じていた。アインズからナザリックのNPC一覧が載るマスターソースを見せて貰えなかったが、アレは自分の管理から外れた存在になったのだとアルベドは本能的に理解していた。

 

(それにさっきのナグモの言葉……不愉快ね。いつまで()()()()()()()()()至高の御方を引き摺るつもりなのかしら?)

 

 アルベドの私室として与えられたギルドメンバーの予備部屋に入る。誰も入らせない部屋には、自作のアインズを模した抱き枕やぬいぐるみと———部屋の隅に打ち捨てられた“アインズ・ウール・ゴウン"のギルド旗があった。

 

「このナザリックは貴方様だけの物……そして、トータスという世界を捧げるのは貴方様だけ」

 

 アルベドは陶酔した顔で、絶対支配者である死の支配者(オーバーロード)を想う。

 

「その為に、このアルベド。邪魔となる者はたとえ神であろうと、排除してご覧にいれましょう。そして、貴方様の素敵な名前を取り戻し———御寵愛を受けたく存じ上げます」

 

 何故なら自分は、『モモンガを愛している』。他ならぬアインズ自身の手で、そうあれかしと定めて(設定)貰えたのだから。

 

『アルベドー、ちょっといい?』

 

 不意に外で偵察任務をしているアウラから《伝言》が届いた。アルベドはそれまでの陶酔した顔を即座に消し、外向きの顔を作り上げた。

 

「どうしたのかしら?」

『この世界の亜人族の国……フェアベルゲンだっけ? やっと見つけたんだけど、どうしようか? 滅ぼしちゃう?』

「……へえ、そう。よくやったわ、アウラ」

 

 アルベドは微笑む。それは天使の様に綺麗で———残酷だった。

 

「素晴らしいわ。魔力は劣っていても、屈強な肉体を持つ亜人族達はアインズ様のアンデッドとして、良い素材となるでしょう」




>冒頭の展開

 最近、本編で香織とイチャイチャしてないなあ……せや! 朝チュンさせたろ! という超浅はかな展開。あれだよ、きっと二人は夜通しウマぴょい(笑)してたんだよ。だからナグモは、こんな思いは初めてで、香織だけがチュウしたんだよ。

 何があったか知りたい人は×××版をどうぞ(宣伝)

>ミキュルニラ

 普段は道化を演じるけど、本当は物静かとかギャップ萌えしません?

>作中の人間種の職業スキルと異形種の種族スキル

 これは自分がやってたDQ7(プレステ版)からイメージしました。普通の職業ならモンスター職よりは簡単に上級職になれるけど、マダンテとかビッグバンみたいな極大呪文はモンスター職じゃないと習得できない。そんなイメージです。

>アルベド

 そりゃあね。創造主の意志を継ぐプレイヤーとか、アルベドさん的に邪魔者になるでしょうよ。ちなみにアインズ様は余計な混乱を招かない様に、所属NPC一覧を自分しか見れない様に改造した設定です。それにしてもナグモは直属の上司と仲が悪くなったわけだけど、自分がその立場だったら辞表を書いてるかも……。

>フェアベルゲン

 さあ、お楽しみのダイスの時間だ。前回の失敗を踏まえて、今回は簡単にしました。
 赤なら「生きる」。黒なら「死ぬ」。
 やったね、フェアベルゲンの皆さん。ナザリックと関わって50%も生存できる確率があるなんて、大チャンスじゃないか(ニッコリ)
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