ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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日曜日はお気に入りチェックしている多くのありふれ作品が更新するので、自分も投稿しなければ! と思っちゃうなあ。そんな決まりは無いのに。


第四十九話「死の嵐 ②」

「よっ、と」

 

 アウラは倒れていたティオや亜人族達を掴み上げると、展開していた“聖絶"の内部へと放り込んだ。

 

「ゴハッ!? おぬし、礼は言うがもう少し丁寧に扱えんかの!」

「あー、ごめんごめん。そこにいたら邪魔だったし」

 

 ティオの抗議にアウラは悪びれる事なくペロッと舌を出した。

 その背中に槍の穂先が何本も突きつけられた。

 

「小僧……どこの隊の者か知らんが、もう言い逃れは出来んぞ」

 

 部下達にアウラを取り囲ませながら、タヴァロスは憤怒と嫌悪に顔を染めながら睨んでいた。その手には人質としてぐったりしたまま掴まれているシアがいた。

 

「神に選ばれた高貴な魔人族でありながら、薄汚い亜人族に与するなど……万死に値する!」

「だからさあ、あたしをあんた達と一緒にするなと言ってるでしょうが」

 

 呆れた様な顔でアウラは魔人族達を見た。タヴァロス率いる魔人族の部隊はアウラに敵意を漲らせながら包囲網を形成していた。先程、殺意を向けられて怯んだが、アウラの見た目が子供であること、そして彼等には人質がいるという事もあって強気に出ていた。

 

「どうやって騎竜達を驚かせたかは知らんが、我ら精鋭部隊には勝てまい! 見よ、この数を!」

 

 タヴァロス率いる魔人族の特殊部隊はフェアベルゲンの制圧も想定していて、二百人を超える大部隊だ。加えて神代魔法を会得したフリードが作成した魔法の筒がある。これにはフリードの変成魔法で作られた魔物が封じられており、地上の魔物とは比べ物にならない強さだ。それらの魔物を筒から出した今のタヴァロス達は、文字通りフェアベルゲンを滅ぼせる程の戦力を有していた。

 

「今すぐ跪いて己の愚を悔いるがいい! そうすれば同族のよしみで苦痛なく———」

「あっそ。数が自慢なわけ? だったら———」

 

 喧しく怒鳴り散らすタヴァロスを面倒そうに一瞥した後、アウラを指で輪っかを作り———。

 

 ピイイイイイィィィィイイイイッ!!

 

 樹海中にアウラの指笛が響き渡る。そして、すぐに地響きがしてきた。何事だ、と魔人族が騒ぐ中、地響きは徐々に大きくなっていき———。

 

『GEYAAAAAaaaaaahhh!!』

「な、何だコイツらは!?」

 

 樹海の霧の奥から続々と魔物達が出てくる。身体には赤黒い線が血管の様に走り、力強く大地を駆け、はたまた翼を大きく羽ばたかせてタヴァロス達へ向かって来ていた。

 

「あれは……あの特徴はフリード様が作られている魔物達では!? 何故あんな小僧が従えているのですか!?」

「ええい、今は疑問は後だ! 応戦しろ!」

 

 副官のセレッカに怒鳴り、タヴァロスは自分の魔物達を差し向ける。

サイ程の大きさのカブトムシ———ドライガを纏めて突撃させる。硬さと機動力を備えた魔物で装甲戦車の様に相手の隊列を押し戻し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()を押し潰そうとし———。

 

「きゅう!」

 

 可愛らしい鳴き声と共に、脚に赤黒い血管を纏った兎が次々とドライガの身体を蹴り砕いていく。

 

「なぁっ!?」

 

 まるで空中を駆けるかの様に蹴り兎は音速の衝撃(ソニックムーブ)を撒き散らしながら、ドパンッ、ドパンッとドライガ達の装甲を踏み潰した。そんなドライガ達を救援しようと、スキアーと呼ばれる蜂型の魔物が群れを為して蹴り兎へと襲い掛かろうとし———。

 

「グガアアアアアッ!!」

 

 爪が異常に発達した巨大な熊が起こした鎌鼬で残らずバラバラにされていた。その他にも二メートル程のトカゲの邪眼で石化させられ、雷を纏いながら徒党で襲い掛かる狼達に消し炭にされるなどして、タヴァロスがフリードから渡されていた魔法の筒にいた魔物達はさほど時間を掛けずに全滅した。そして邪魔者達がいなくなり、アウラが呼び出した魔物達は次の獲物へと標的を移した。

 

「ヒッ、ギ、ギャァアアアアッ!?」

「や、やめ……来るなああああっ!」

 

 魔人族達から次々と悲鳴が上がる。ある者は爪で引き裂かれ、ある者は頭蓋を噛み砕かれて絶命していった。彼等とて精鋭の軍人であり、種族的には魔法に長けた者達だ。だが、魔人族の攻撃が届く前にアウラは“聖絶"を魔物達に掛け、魔物達は無傷のまま魔人族へ肉薄できた。こうなってしまえば味方への誤射を恐れて迂闊に攻撃魔法は放てなくなり、単純な肉弾戦となる。

 魔人族と魔物。どちらが身体能力に優れているかなど、誰の目にも明らかだった。

 

「きゅっ!」

「よ〜しよし、イナバ。お前は優秀だね」

 

 ドライガ達を全滅させた蹴り兎———イナバがアウラへと擦り寄ってくる。その姿は飼い主に甘えたい小動物そのものだ。

 この魔物はアウラがオルクス迷宮攻略の際に見つけた魔物だ。他の魔物とは違って、まるでアウラについて来る様にオルクス迷宮を一緒に下りて行こうとする魔物をアウラは気に入り、ナグモから譲り受けていた。

 ちなみに、このイナバを基にしてナグモによってオルクス産キメラ達が作られていた事は割愛させてもらう。

 

「きゅっ、きゅっ♪」

「コラ、まだ獲物は片付いてないでしょ!」

 

 スリスリと足に擦り寄るイナバをアウラは嗜める。その姿は場所が戦場でなければ、小動物と戯れる少女に見えただろう。

 

「グルルルルルッ……」

「ガウウウウウッ……」

 

 周りにいたオルクス産キメラ達から羨ましそうな唸り声が上がる。見た目は一番弱そうなイナバだが、オルクス産キメラ達の中では一番強い彼に意見できず、ご主人様(アウラ)に戯れるイナバを羨ましそうな目で見つめるしかなかった。

 

「はいはい、みんな嫉妬しないの! イナバも遊ぶのはここまで!」

 

 パンパンとアウラが手を叩くと、魔物達は一斉に整列する———といっても体格差があるので思い思いの場所で姿勢を正すだけだが。

 

「それじゃあ、改めてお仕事の確認です。アインズ様に失礼な態度を取った魔人族達を皆殺しにしちゃいます。あ、ウサギ耳の子は食べちゃ駄目だよ。それと指揮官はナザリックに連れ帰るので、見つけても手足を食い千切るだけにしておくこと。分かった?」

 

 きゅっ! ガウッ! と返事が上がる。

 

「ようし、じゃあ行動開始!」

 

 ***

 

「ギャアアアアアアアッ!?」

「や、やめ、助け、食べないで……ガッ!?」

「腕……俺の腕が、腕がああああっ!」

 

「ハァ、ハァ、ハァッ……!」

 

 霧の中から聞こえてくる断末魔の叫びを背に、タヴァロスは必死で樹海の中を逃げていた。

 もはや戦列は崩壊していた。あの魔人族の少年が使役している魔物達はフリードから貰った魔物とは歴然とした力の差があり、粗方の魔物を喰い尽くした魔物達はメインディッシュとして魔人族達を喰い始めていた。タヴァロスはまさに肉食動物に追われる小動物の様に、森の樹の根に時々躓きかけながら必死で逃走していた。

 

「おい、さっさと歩け! このケダモノがっ!」

「う……うう……」

 

 血の跡を点々と垂らしたシアを引き摺る様にして歩かせる。副官のセレッカとは霧の中で離れてしまった。もはや足手纏いでしかないシアを捨てて全力で逃げたいが、人質として使えるかもしれないから未だに手放せないでいた。

 

「クソッ、クソッ、クソッ! 何故我等がこんな目に!」

 

 フェアベルゲンに来たのは大迷宮の探索のついでに薄汚い亜人族達を滅ぼす筈だった。神に見捨てられ、魔力を持たない下等種族が国を形成しているなど、魔人族としての誇りが人一倍高いタヴァロスにとってはそれだけで耐え難い程に虫唾が走った。地に這う獣らしく、森の中で蛮人らしく暮らしていれば良かったものを。

 それが何故———自分はいま、怯える獣の様に樹海を走っているのか?

 

「あっ……!」

 

 樹の根に足を取られて、シアの身体がバランスを崩す。タヴァロスの手から離れ、地面へと転倒した。

 

「こ、この、手間をかけさせるなケダモノがっ!」

 

 苛立ちながらタヴァロスは地面に転がったシアに手を伸ばし———光の障壁に阻まれた。

 

「な、何だ!?」

「いやー、案外遠くまで逃げたじゃん。凄い、凄い」

 

 霧の中からタヴァロスが今最も聞きたくなかった声が響く。スッと樹々の間からアウラが姿を現した。

 

「でもさあ、その亜人の血の跡のお陰で居場所がバレバレなんだよね。あんたって、ひょっとして凄い馬鹿なの?」

「こ、この……ふざけるなよ、小僧ォォォッ!」

 

 タヴァロスは激昂して、アウラに向けて“風刃"を放った。風属性の初級魔法だが、それだけに詠唱はいらず、不意打ちとして放つ鎌鼬は()()()()()()()()()()()の首を刎ねるには十分な筈だ。

 

「はい、“聖絶"っと」

 

 しかし、アウラが発生させた。光の障壁にあっさりと阻まれてしまう。

 

「意外とこれ、使えるかも。ナグモが比較的マシな人間の死体から剥ぎ取った天職とか言ってたから、正直あまり良い気分じゃなかったけど……ね、このスキル、現地人のあんたから見てどんな感じ?」

「う、うああああああっ!!」

 

 まるで世間話でもする様に話しかけてくるアウラに対して、タヴァロスはヤケを起こした様に次々と魔法を放つ。それはまるで追い詰められた鼠が最後の力を振り絞って逃げようとする有り様に似ていた。

 

「ああ、もう。うるさいなぁ」

 

 そんなタヴァロスにいい加減に鬱陶しくなったのか、アウラが手にしていた鞭が動く。タヴァロスの目には鞭の先が消えた様に見え———次の瞬間、タヴァロスの右手が消失していた。

 

「へ……ぐ、ぎ、ぎゃあああああっ!?」

「だから、うるさいっての!」

 

 砕け散り、血を噴き出す右手を見てタヴァロスが悲鳴を上げる。アウラは距離を詰めると、タヴァロスの首を掴んで、子供の見た目からは想像出来ない様な力で捻り上げた。

 

「ぐげぇ!? ま、待て! 助けてくれ! 望むだけの金をやる、いや用意する!」

「……うわぁ、本当にいるんだ。こんなテンプレみたいなセリフを言う奴」

 

 引き気味ながら呆れた目を向けるアウラに、タヴァロスは必死で命乞いをする。

 

「同じ魔人族じゃないか! こう見えても私は魔国ガーランドでも結構上の地位にいる軍人なんだ! そ、そうだ! 私から魔王陛下に進言して、フェアベルゲンから手を引く様に進言する! いや、引かせてみせる! だ、だから……」

 

 もはや魔人族の誇りすらなく、怯えた目でタヴァロスはアウラを見る。こうして間近で触れられて解った。この()()は見た目が可愛らしいだけで、自分など及びもつかない怪物だ。その怪物から逃れる為なら喜んで靴だって舐める。アウラはそんなタヴァロスをジッと暫く見つめ———。

 

「一つ、何度も言ってるけど私は魔人族じゃない。そもそも至高の御方に御造り頂いたあたしを、あんた等の仲間扱いするな、っての」

 

 グイッとアウラはタヴァロスの首を捻り上げて持ち上げる。「グギィ!」と潰れた虫の様な声が響いたが、無視した。

 

「もう一つ———アインズ様から生かしておけ、と言われたのは赤髪の指揮官だけだから、あんたはいらないんだよね。それと最後に一つ———」

 

 「ひっ」とタヴァロスは息を詰まらせた。アウラから飛竜達を落とした時の冷たい殺意を向けられ、ガタガタと身体が面白い様に震えた。

 そして、タヴァロスは見てしまった。霧の中から、魔物達の目がギラギラと光っているのを———。

 

「個人的な事なんだけどさ……あたし、エルフを虐める奴は好きじゃないんだよね」

 

 思い返すのは、かつて第六階層で自分の創造主であるぶくぶく茶釜とよくお茶会をしていた、やまいこの妹のあけみ。至高の御方の妹君でありながら、人間種(エルフ)である為にナザリックに招かれなかったであろう可哀想な少女だ。

 それ故に、アウラはエルフ相手には少しは優しくしようとは思うのだ。無論、アインズが殺せと言うなら従うが。

 

「というわけで———バイバイ♪」

 

 ブンッとアウラは力任せにタヴァロスを放り投げた。投げる先はもちろん、魔物達が集まっている中心部。

 

「お前達、食べていいよ」

 

 ご主人様の許しを得て、待ってました! と魔物達はタヴァロスへと群がった。

 

「や、やめっ、痛っ、ひっ、ギャアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 辺りにタヴァロスの断末魔が響き渡る。だが、肉を咀嚼する音と共に徐々に小さくなっていった。




>アウラがエルフには少し優しい

 これはweb版設定ですね。知らない人の為に解説すると、“アインズ・ウール・ゴウン"が全盛期の頃、ギルメンの女性陣達で第六階層で集まってお茶会をしていたそうです。女性陣の一人、「やまいこ」の妹「あけみ」もエルフとしてユグドラシルをプレイしており、時々お茶会に参加していました。この時の事をアウラは覚えていて、「あけみ」の事は『至高の御方の妹だけど、異形種じゃないからギルドに加われなかった可哀想な人』と認識してます。


次回予告

お願い、死なないでフリード!

貴方が今ここで倒れたら、魔王アルヴ様や魔人族の未来はどうなっちゃうの?

神代魔法はまだ残ってる。ここを耐えれば、アインズ様に勝てるんだから!

次回「フリード死す」。デュエルスタンバイ!

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