あと本編に詰まったらR-18に書こうとする癖が出来ましたよ。どうしようもねえな、コイツ(鏡見て)
コポコポ、とガラスポッドの中で泡立つ音が響く。
ナザリック地下大墳墓第四階層のキメラ製造エリア。並び立つガラスポッドの中で眠る赤黒い線の入ったキメラ達をナグモは無機質な目で見つめていた。その付近では研究員であるエルダーリッチやエビルメイガス達が忙しなく動いていた。
「………さて」
モニターに全てのキメラ達が正常に動く事を確認して、短く呟いた。
「準備は整った」
***
亜人族の国———フェアベルゲン。
樹海の奥深くに存在し、一年を通して霧深い樹海の中でマジックアイテムのお陰で例外的に霧が晴れた亜人族達の集落は自然と一体化して風光明媚な景色であり、もしも外から訪れる者がいればその美しさに感嘆の溜息を漏らしただろう。
だが、今のフェアベルゲンには重苦しい空気が蔓延していた。
その中をティオは歩く。道行く者の顔は皆険しく、誰もが剣や弓といった武器を帯びて物々しい雰囲気を出していた。年端もいかない子供は家の奥にでも引っ込まされているのだろう。通りに子供が全くいない光景に一抹の寂しさを覚えながら、ティオは目当ての建物に入る。
「触るな、この穢れた忌み子が!」
ガンッと水の入っていた盆が壁に叩き付けられる。シアはウサ耳をびくっとさせながらも、ベッドの上の人物に話しかけていた。
「でも、すぐに治療しないと傷が」
「黙れ! ぐっ……これしきの傷など……!」
ベッド上の人物———ジンは起きあがろうとするが、傷の痛みに耐えかねる様に顔を歪ませていた。それも無理はないだろう。身体の至る所に包帯が巻かれ、あまつさえ片腕と片足を失っているという酷い有り様なのだから。
「……何をしておる」
そんな有り様になっても悪態だけは立派に吐けるジンをいっそ天晴れと誉めるべきか。そう思いつつも、ティオは呆れた様に溜息を吐きながら話しかけた。
「ティオさん……」
「そやつの事は別の者に任せれば良いだろうに。もはやそやつは戦線復帰は叶わん。今のフェアベルゲンはおぬし一人が欠ければ簡単に瓦解するほどじゃよ」
「ふざけるな! 忌み子なんかに任せていられるか! 俺はまだ……うぐっ!」
起き上がって文句を言おうとしたジンだが、傷の痛みに障る様ですぐにうめいた。
ジンだけではない。ティオが今いる建物には大なり小なり傷を負った亜人族達が運び込まれ、野戦病院さながらの様相になっていた。フェアベルゲンからすれば忌み子であるシアが堂々と表を歩けるのも、今は誰もシアに構う余裕なんてない程に事態は逼迫しているからだ。
「このフェアベルゲンが曲がりなりにも迎撃態勢を取れたのはシアの未来視のお陰じゃろう。そして侵攻ルートを予め予知してくれたお陰で、今のところは被害は最小限で済んでおる」
ティオは少し厳しい目付きをしながら、ジンを睨む。この地に連れて来てくれた心優しい兎人族の少女が不当に貶められるのは看過できなかった。
「今や妾を除けば、この国で最も強いのはシアとなろう。おぬしも戦士であるなら、国の為に戦う強者を貶めるのが如何に愚かしい行為か分かっておる筈じゃが?」
「ぐっ……!」
「それに……シアに当たり散らした所で、おぬしがもう戦えない事に変わりはないぞ」
「ぐっ、うう……!」
「テ、ティオさん! いくら何でもそれは!」
シアがあまりの物言いに口を挟もうとするが、ティオは強い目線でシアを制する。そしてジンへと向き直った。
「今日も明日も明後日も変わらぬ……おぬしは以前、そう申したな? だが、世は常に変化していた。その事から目を背けていたのが……貴様の、否。おぬし達、長老の罪じゃよ」
「う、ううっ、ううっ……!」
まるで審判の様に下された言葉に、ジンは悔し涙を流すしかなかった。一族代々でフェアベルゲンの長老衆の一人として、頑なに掟を守ってきた。その為に亜人族の中では最強種の熊人族に恥じないだけの鍛錬もしてきた。
だが、それは外から来た軍勢に対してあまりに無力だった。もっと見聞を広めるべきだったのではないか? シアの様な魔力を持つ亜人を殺さず、保護していればこんな事にならなかったのではないか? 自分だけではない、これまでに死んだ者やこの部屋にいる半死半生の者達に、こんな運命を辿らせずに済んだのではないか?
国の舵取りを誤ってしまった長老衆の一人としてジンの胸に後悔が泥の様に疼いた。それは失ってしまった片腕と片足の様にジクジクと苛んだ。
「ああ、ああっ……!」
残った手で顔を覆い、ジンは涙を流した。その嗚咽にジンの様にフェアベルゲンは未来永劫変わらないと信じていた周りの者は何も言えず、ただ目を伏せるしかなかった。
「……行くぞ」
「ティオさん……で、でも……」
「あやつにも心の傷を癒やす時間が必要じゃろう。おぬしがここにいてはあやつの気も晴れんよ」
シアは気遣わし気に何度か嗚咽を漏らし続けるジンを見たが、結局はティオの言う通りにした。二人で野戦病院を出て、街道を歩く。
「まったく……鍛錬の時間になっても来ぬから、アルテナ殿に聞いてみたら負傷者達の手当てをしておったとは。まだおぬしの事をよく思ってない者も少なくないというのに」
「それは……そうですけど。アルテナちゃんもアルフレリック様が戦死されて族長になったから、負担を減らせたらと思ったんですぅ」
「その気持ちは立派じゃがな……」
ふう、とティオは溜息を吐く。アルフレリックだけではない。フェアベルゲンの長老衆は魔物達の軍勢に戦死するか、ジンの様に再起不能となっているか。いずれにせよ、族長候補だった年若いアルテナが指揮を取らなくてはいけないほど、長老衆の被害は甚大だった。これも「外からの侵略者など来るはずが無い」と長年警戒を怠ったが故の結末だった。
「……ティオさんには感謝しています」
後ろからついてくるシアが、突然そんな事を言った。
「私の頼みでフェアベルゲンまで付いて来て頂いて、それに今もフェアベルゲンの皆の為に戦ってくれて……本当に感謝の言葉も無いです」
「……なに、乗り掛かった船というヤツじゃよ」
「あの、どうしてそこまでやって頂けるんですか? ティオさんはフェアベルゲンとは関係ないのに」
シアの疑問ももっともだった。もともとはシアがフェアベルゲンの破滅的な未来を視てしまったから、その未来を回避できると踏んだティオを連れて来たに過ぎない。今の状況はティオからすれば、何も旨味がない話だろう。だが、ティオはそれに答えずに質問で返した。
「……シアこそ、なぜフェアベルゲンの為に戦おうとするのじゃ? この国の者はおぬしに優しくはないというのに」
ティオは静かにシアを見返す。一族総出で匿って家族同然に接してくれたとはいえ、このフェアベルゲンは忌み子だったシアには肩身が狭い思いで生活していた場所だろう。なんならば、フェアベルゲンの事など見捨ててハウリア族と共に逃げれば良かったのだ。それなのに、危険なライセン大峡谷に入ってまで自分に助けを求めに来たシアが不思議でならなかった。ティオの問いにシアはほんの少し俯く。
「……確かに、私はそこまでフェアベルゲンが好きじゃないです。忌み子なんて風習があったから、外にも自由に出歩けなかったし、家族に負担をかけてばかりで、あんな風習が無ければっていつも思っていました」
でも、とシアは顔を上げる。
「……死んだ母様はこの国が好きでした。自然豊かで、外では奴隷か家畜扱いされる亜人族が皆で支え合っているフェアベルゲンを、母様は愛していました。母様が好きだった物を嫌いたくはありません。だから、母様が好きだったフェアベルゲンを私は守りたい。ただそれだけなんです」
「………そうか」
「それに嫌なことばかりじゃないですよ! 不謹慎かもしれないですけど、こんな状況になったから私を忌み子だから処刑しろ、と言う人は少ないですし、アルテナちゃんとも友達になれましたし、それから———」
しんみりとした空気を払拭しようと捲し立てるシアにティオは苦笑する。付き合ってみて分かったが、この兎人族の娘は自分の特殊な生い立ちの為か常に人を明るくさせようという気配りができる娘だった。
「分かった、分かった……それ、先に鍛錬場に向かってくれるか? こんな時だからこそ、シアには魔力操作のやり方を覚えて貰わなくてはならん」
「はいっ! 今日もよろしくですぅ!」
パタパタと駆けていくシアの背中をしばらく見つめ、周りから人が居なくなった事を確認するとティオは溜息を吐いた。
「……本来なら、ここでこんな事をしている場合じゃないのかもしれんがのぅ」
竜人族のティオには一族の使命があった。それは
(じゃが……とんだ期待外れじゃった)
聖教教会が認定した異世界の“勇者"達を陰ながら観察していたティオだが、すぐに失望感を覚える事になった。
切っ掛けはオルクス迷宮でトラウム・ナイト相手に犠牲者を多数出したという時だったか。その時は運が無かっただけで、まだこれから強くなるかもしれないと自分へ言い聞かせた。その直後に起きたオルクス迷宮の“大災厄"も相まって、勇者達は不覚を取っただけだと納得することは出来た。
ところがその後、オルクス迷宮が人間達が入れなくなったと判明するや否や、教会が“エヒト様に召喚された神の使徒"という威光を守る為に行った各地への遠征の様子を見て、ティオの失望感は強くなった。
(あんなものはただ自分より弱い魔物を駆逐して、悦に入っておるだけじゃ。そんな者達に神を倒すなど、期待できよう筈もない)
各地で王国や教会に倒せと言われた魔物を倒し、それを得意気な顔で賞賛されている勇者達を思い出す。あんな物は聖教教会———ひいてはエヒトの威光を守る為のパフォーマンスだ。それに何の疑問も持たずに、周りからの賞賛に気を良くしているだけの人間の
せっかく外の世界に出たというのに何の成果も得られなかった事に、失望感を覚えながらも飛んでいた所———ティオはシアと出会ったのだ。
「……いや。今やっておる事は、決して無駄というわけでもあるまい」
勇者達がそんな体たらくと何処からか聞き付けたのか、各地では魔人族の侵攻が勢いを増したと聞く。まだ王国の辺境の地以外は戦火に巻き込まれていないが、それも時間の問題だろう。いまフェアベルゲンを攻めている魔物の軍勢も、背後には魔人族がいる可能性が高い。
「シアは磨けば輝く原石といったところじゃ。ここで鍛え上げ、フェアベルゲンを守る事で恩を売っておけば、神に一矢報いる勇者となるやもしれん」
それこそが竜人族の悲願。かつてあらゆる種族を受け入れて平和な国を築きながらも、狂った神に神敵と宣言された事で滅亡させられた一族の切なる願い。エヒトルジュエを討ち、かつての様にあらゆる種族が平等に暮らせる世界を取り戻す。その為に———あの少女は必要だ。だから力を貸すのだ。
「………浅ましいな、ティオ・クラルス」
フッと自嘲してしまう。一族の悲願はあくまで自分達が負うべきものだ。それに関係ないシアを巻き込もうとしている事に、ティオは自らの心の醜さを自覚せずにはいられなかった。
「だが、やらねばならぬ。もはや一刻の猶予もない」
じきに魔物達の軍勢の侵攻も再開されるだろう。その時までに、出来る限りシアを鍛えなくてはならない。そう自分に言い聞かせて、ティオはシアの待っている鍛錬場に向かう。
「……願わくば。妾達と同じ様に神を討つ同志がおれば、良いのじゃがな」
どこか祈りにも似た呟きは夜風に紛れて消えた。
***
「———気分はどうだ? コキュートス、アウラ」
「……別ニ悪クハナイ」
床に刻まれた複雑な魔法陣から出て来たコキュートスは、自分の感触を確かめる様に四本の手を握ったり閉じたりしていた。
でもさー、と共に魔法陣から出てきたアウラが大きく伸びをしながら言う。
「天職の付与実験なんて言うから、もっと大掛かりなものだと思ってたけど、意外と簡単に済むんだね。ナグモの事だから、解剖とかやるのかと思ってたんだけど」
「人をマッドサイエンティストみたいに……。大体、僕が錬成師の天職を得た時も肉体改造などされた覚えは無いぞ」
ふうん、とアウラは気のない返事を返した。
「……不思議ダナ。身体ニ変ワッタ感覚ナド無イトイウノニ、新タナ技能ニ目覚メタ気ハスル」
「それがトータスの天職というものだ。使いこなせる様に鍛錬はしてくれ」
ナグモはコキュートスに答えながら、それを伝えた。
「アインズ様のご用意が出来次第、フェアベルゲンの占領計画に移る。その時の為に、準備は怠らない様に」
割とキングクリムゾンな展開です。まあ、あまり時間かけて描写しなくても……と思ったので。
>ティオ
対エヒトの為に利用出来そうな人材を探している最中。しかし勇者達はお眼鏡に敵いませんでした。
>今の勇者達
何でこんな事になってるかはいずれ。具体的に言うと……どこぞの何とかバオトさんのせいだけどな!(やはりナザリックのせい)