ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

58 / 177
 アインズ様の戦闘シーンがあっさりとし過ぎたかも……。まあ、あまり深く書いても可哀想なフリードさん、にしかならないしなあ。でもそれをもう少し微細に書くべきかもしれないし……。


第五十話「魔人族の英雄の最後」

「ギャアアアアアアアッ!!」

「た、助け……誰か、ヒイイィイイッ!?」

 

 霧の中から魔人族達の悲鳴が聞こえる。剣戟の音や肉を断つ音、魔物の唸り声や肉を咀嚼する音と共に悲鳴が上がり、静かになっていく。それをフリード達はジリジリと後退しながら聞いていた。

 

「タ、タヴァロス隊との連絡、途絶えました!」

「変成魔物、いずれも帰還せず!」

「ば、馬鹿な……何故、この様な……!」

 

 将軍として部下達に狼狽えた姿は見せてはならない。そんな基本的な事すら頭から抜け落ち、ただ目の前の事態に呆然とする。今回、フェアベルゲンに連れて来たのはハルツィナ樹海の大迷宮の攻略を想定した魔人族の精鋭達だ。変成魔法で作った魔物も、フリード自身で慎重に慎重を重ねて作った選りすぐりの魔物達だ。

 それが何故、次々と撃破されているのか? 大迷宮を挑む前の片付けついでに行っているフェアベルゲン攻略で、どうしてここまで被害が出ているのか? あの男が現れて、歯車が狂ってしまった。

 

「フ、フリード様! 何を……我々は何を相手にしているのですか!?」

 

 味方の拡大していく被害状況に、直属の部下が顔を青くしながら聞いてくる。だが、フリードはそれに答える術がない。自分達は神に選ばれた最強の種族の筈だ。唯一、気掛かりだった人間の神(エヒト神)が異世界から召喚したという勇者とやらは、諜報員達が持ち帰った情報から大きな脅威にはならないと判断された。だからこそ大迷宮を攻略して神代魔法を手に入れて、圧倒的な軍備を整えてから人間族達の国を根絶やしにするつもりだったのだ。

 

「ま、まさか……奴こそが、人間達の本当の勇者だったのか……?」

「———あんなものと一緒にして欲しくは無いのだがね」

 

 バッとフリード達は振り向く。そこには自分達の目論見を粉微塵にした仮面の男がいた。

 

「お、お前は何者だ!?」

「アインズ・ウール・ゴウン。そう名乗った筈だぞ? 悲しいな、かつてはこの名を知らない者など居ないくらい有名だったのにな……」

 

 フリード達の反応にアインズは寂寥感を僅かに滲ませながら答えた。その手には刀身が黒く、柄に紅い宝珠が嵌まった片手半剣(バスタードソード)が握られていた。

 

「まあ、いい……せっかくだ。お前達には嫌でも私の実験に付き合って貰うぞ」

 

 まるで、ちょっと用事があったから来た、と言わんばかりのアインズの態度にフリード直属隊の魔人族達はどよめく。すると———。

 

「フ、フフフ………!」

「フリード様?」

 

 突然、笑い出したフリードに配下の魔人族が振り向く。そこには恐怖で可笑しくなったわけではなく、余裕の笑みをフリードは浮かべていた。

 

「ハッタリだ。実に……実に下らんハッタリだ」

「ほう………?」

「よく見ろ。奴は剣が武器だ。魔力もほとんど感じない事から、少なくとも奴は魔法師では無い」

 

 「い、言われてみれば確かに」、「ああ、魔力の波長を感じないぞ」と魔人族達は次々に言い出す。人間族より魔力に長けた種族だけに、魔人族には魔力の流れを視覚化する技能が生まれ付き備わっていた。それで見ると、アインズからは魔力の流れが見えないのだ。

 

「やはり、あのローブの中身は人間か、さもなくば亜人族だろう。大仰な格好で意表を突いたつもりだろうが、化けの皮が剥がれたな!」

「……なるほど。魔人族には魔力のステータスを看破するスキルがデフォルトで備わっているのか。しかし……」

「何をゴチャゴチャ言っている! お前達も萎縮するな! この男を人質に取って、この場を離脱する! そうすればあの魔物も、魔人族の小僧も手出しは出来まい!」

 

 フリードの指示に、部下の魔人族達もジリジリとアインズを取り囲み出した。自分達は選ばれた種族であり、その中でも精鋭の軍人だ。この数ならば、噂に聞くハイリヒ王国最強の戦士メルドにも勝てる。そう信じていた。

 ———絶望的な状況を()()()()()()という希望で、必死に目を逸らしている。それを誰もが思いながらも、まるで蜘蛛の糸の様にフリードの推測に誰もが縋っていた。

 

「……はあ、もういい。ハズレだ……ユグドラシルにはいない種族だったから期待してたのに、本当にハズレだ……」

 

 失望した様にアインズが何やら呟いていたが、フリードは弱者がこちらを混乱させる為のブラフと判断して攻撃命令を下した。

 

「撃てええぇぇえっ!!」

「“緋槍"!」

「“雷槍"!」

「“岩牙"!」

 

 フリードの合図で魔人族達は一斉に攻撃魔法を撃ち出す。炎や雷の槍が、地面から突き出す岩がアインズへと次々と襲う。それにアインズは回避すらしようとしない。やはりハッタリだったか、とフリードはほくそ笑み———全ての魔法がアインズに触れるか触れないかの距離で消失した。

 

「魔法無効化だと!? さてはその剣の力か! それほどのアーティファクトを持っているという事は、やはり貴様の正体は勇者か……!」

「五百円ガチャのハズレアイテムがアーティファクト……? ふむ、トータスでは職業(クラス)どころか、装備品の品質も良くないという事か……? まあいい、今度はこちらから行くぞ」

 

 ユラリ、と剣を構えたアインズが動き出す。その足運びは訓練したての戦士の様に少しぎこちないが、速度が速い。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 ギィンッ! とフリードの剣とアインズの剣が鍔迫り合う。

 

「フリード様!」

「呆けるな! 魔法が効かないならば、剣で打ち勝つのみ! 攻撃班は“光刃"を武器に纏わせろ! 援護班は攻撃班に補助魔法をかけろ!」

『はっ!』

 

 フリードの号令に部下達が動き出す。接近戦が得意な者達は各々の武器に魔力を纏わせ、斬れ味を強化させた。これならば手に握っている限り常に魔力が供給され、武器に掛かっている魔法という扱いになるので魔力を無効にするアイテムを相手が持っていたとしても関係ない。援護班達もまた、フリードを含めた攻撃班に多種多様な補助魔法を掛ける。一糸乱れない連携は、数々の人間の英雄を葬ってきたフリードの隊だからこそ出来た神業だった。

 

「どれもユグドラシルでは見た事のない魔法だが……ふむ、せっかくだ。私の新しい職業(クラス)の練習台になって貰おうか」

 

 アインズは剣を構えて、フリードへ斬り込む。

 

「“豪撃"!」

「舐めるな!」

 

 キィンッ! と再びアインズとフリードが鍔迫り合う。二撃、三撃、と金属の奏でる協奏曲が響き渡る。

 

「フリード様に加勢しろ!」

「破ァァアッ!」

 

 部下の魔人族達がアインズに斬り込んでいく。アインズはバスタードソードを横薙ぎに振るい、魔人族達の武器を押し戻した。そこにチャンスとばかりに、弓を装備した魔人族が矢を放つ。しかし、アインズに当たる瞬間に矢は勝手な方向に逸れた。

 

「ただの矢を撃つな! 弓兵隊、魔力を纏わせた矢を放て!」

「ほう……飛び道具に対するスキルや防御手段もこの世界にはあるという事か」

 

 今度は魔力を伴い、破壊力を増した矢が撃たれ、アインズはその矢を避ける為に体勢を半身にした。しかし、それを見逃すほどフリード達は甘くない。

 

「貰った……!」

 

 隙を突いて、部下の魔人族二人と共に距離を詰める。そして――!

 

「むっ……」

「ヤアアアァァァッ!」

「チェストオオオッ!」

 

 掛け声と共に迫ってくる剣を、アインズは体勢的に避け切れない。そして———魔力を伴った刃がアインズの腹に突き刺さる。

 

「や、やった……!」

 

 会心の呟きは果たして誰が漏らしたものか。フリードは思わずグッと拳を握り締めてアインズを見て———二人の部下の顔が唐突にアインズの手で握り掴まれていた。

 

「がっ、馬鹿な……!」

「何故動ける……!?」

「上位物理無効化———低レベルのダメージを無効化するパッシブスキルだよ。なるほど、お前達の実力はパッシブスキルで防げる程度という事か」

「無効化……だと!? 下等種族にそんな芸当が出来る筈が……!」

「……ああ、いい加減に種明かしをしようか」

 

 アインズは顔を掴まれてジタバタと動く魔人族達を握ったまま呟き———嫉妬マスクと籠手を解除した。

 骸骨の顔と手が露わになる。

 

「なっ……アン、デッド……!? トラウムナイトか!? いや、馬鹿な! 高度な自我を持ったアンデッドなど、そんなものがいる筈は……!」

「お前達が勝手に人間や亜人と勘違いしただけだろう。さて……いい加減、鬱陶しいな」

 

 恐ろしげな亡者の目が両手に掴まれた魔人族達に向けられる。「ひいぃぃいいっ!?」と二人は死神の手から逃れようともがく。

 

 グシャッ! とザクロの様に二人の頭が握り潰された。

 

「ヴ、ヴァルター……デニス……!」

「やれやれ……汚い血で汚れてしまったな。まあ、これはまだ戦士職が未熟な自分への罰だと思おう」

 

 まるで泥で汚れてしまった手を綺麗にするかの様に、アインズは魔人族の脳漿や血で汚れた両手を振る。それを見て、フリードは悟ってしまった。目の前の相手は、いま殺した二人について虫ケラくらいにしか見てない。お互いに異なる神を崇める異人種として殺し合っている人間達の様な温度は無く————生きとし生ける者全てを等しく殺す、正真正銘の化け物(アンデッド)だ。

 

「アインズ様ー、こっち終わりましたよー」

 

 ハッとフリードが目を向ける。そこには魔人族の少年(アウラ)がまるで父親に褒めてもらいたいかの様にアインズに寄っていた。その後ろには、見た事の無い魔物(コキュートス)の姿も。

 

「アウラ、コキュートス、ご苦労だった。とすると、私が一番最後になってしまったか。お前達の主として不甲斐ないな……」

「そんな事はありません! こいつらが脆過ぎて、予想より早く終わっちゃっただけですから!」

「加エテ、アインズ様ハ不慣レナ戦士トシテ戦ッテオラレルタメニ、コノ者達モ未ダニ息ガアルノデショウ」

 

 今まで自分達の戦いに専念していて気付かなかったが、気付けば辺りは静かになっていた。その意味に気付いてフリードは顔を蒼白にさせた。

 

「やはり私ではたっちさんの様にはいかないな。まあ、ワールドチャンピオンだったあの人と戦士職に成り立ての私では、比較になるわけが無いんだが」

「デスガ、短イヤリ取リノ中デモ一端ノ戦士ノ実力ハ見エマシタ。コノママ鍛錬ヲ続ケレバ、イズレハ武人建御雷様ニ並ブ剣士トシテ大成スルノモ夢デハナイカト」

「ふふ、ありがとう、コキュートス。お世辞でもそう言われるのは嬉しいものだな」

「お世辞なんかじゃありません! あたしはアインズ様なら魔法も剣も極めた最強の支配者になると思ってます! ねっ、コキュートス!」

 

 アウラの言葉にコキュートスは鋏をカチカチと鳴らしながら頷く。そして———その言葉をフリードは思わず否定した。

 

「何を……何を言っている? そいつが魔法など使える筈が……」

 

 止めてくれ。どうか否定させてくれ。もしも、その言葉が本当ならば———自分達の命運は………!

 そんなフリードの哀願を嘲笑うかの様に、アインズは自分の手をフリード達に見える様に掲げた。

 

「ああ、そうか。もう顔をバラした以上、隠蔽の意味など無いか」

 

 左手の薬指以外、全てに嵌まった指輪の一つをアインズは取った。

 その瞬間———フリード達の感覚が死んだ。

 

「———ゲエエェェ!」

「う、うあああああああっ!?」

 

 嘔吐する者、頭を掻き毟って発狂する者。部下達が様々な反応をする中、フリードの膝がストンと抜け落ちた。

 

「あ、あ、ああ………!」

 

 絶望の溜息だけが口から漏れ出す。魔力に関して他の種族よりも敏感な魔人族だからこそ、解放されたアインズの魔力がはっきりと見えてしまった。

 それは天にまで届く様な巨大な魔力の塊。

 見てるだけで目を灼かれそうな閃光が揺らめき、熱波だけで燃え尽きそうになる。例えるなら、地上に降りてきた太陽そのもの。こんなものにどうやって人の身で抗えと言うのか?

 

(バ……カ……な……。かつて謁見した魔王陛下以上……いや、それすらも……!)

 

「うわ、汚っ! ちょっと! アインズ様の前で吐くなんて、失礼じゃないの!」

 

 それだけの魔力を肌に感じていない筈が無いのに、アウラとコキュートスは平然としている。それはつまり———あの二人も、同じくらいの化け物だという事に他ならない。

 

(こんな……こんな化け物が、人の世界に居て良い筈が無い……!)

 

 フリードには愛国心があった。長く戦争が続き、疲弊していく祖国の魔人族達の為に彼は血の滲む様な修練を自身に課した。ついには魔人族の英雄として名を馳せて、神代魔法を会得したのもその為だ。

 

「に……げ、ろ……」

「ふ、フリード様……!」

「逃げろ……! 退却だ! 我等の敵う相手ではない!」

 

 震える足を叱咤して、フリードは立ち上がる。そして、神代魔法の一つである空間魔法で退却用の転移魔法を使おうとする。

 

「な、何故だ!? なぜ空間魔法が使えん!?」

「私の周辺に転移阻害魔法を発動させて貰った。それぐらい警戒して当然だろう。どうやら神代魔法と言っても、当たり外れがあるみたいだな」

 

 事もなげに言うアインズに、フリードの心を絶望が占める。自分が相手にしているのは神代魔法すら効かない様な、文字通り神話の中にいる様な存在だという事に。だが、フリードはそれで諦めたりはしない。自分の側近の一人を無理やり立たせて、肩を大きく揺さぶって正気に戻させる。

 

「おい、お前! すぐに逃げろ! ()()と共に! このハルツィナ樹海から、一刻も早く逃げろ!」

「で、ですが……あんな化け物から逃げる術など……!」

「私が時間を稼ぐ! 良いか、もしもの時はお前だけでも、この事を魔王陛下に伝えろ!」

「そんな……! フリード様が犠牲になど……!」

「議論している時間などない! これは魔人族そのものの存亡に関わる危機だ!」

 

 必死に言い募るフリードに、側近は息を詰まらせる。やがて、泣きそうな顔で頷いた。

 

「……任務、了解しました! どうかご武運を!」

 

 バッと側近が霧の中へと駆け出す。それと同時に、フリードは残っている部下達に号令を出した。

 

「撤退戦! 勝てない! この一戦に、我ら魔人族の命運が掛かっていると知れ!」

 

 それはまさに、死にに行けという非情な命令。しかし、それに配下の魔人族達は震えながらも従う。彼らはフリードの志に憧れて部下になった者達ばかりだ。たとえ死地に飛び込む様な命令であっても、それに従う程の忠誠心が彼等にはあった。

 

「……来い、化け物! 魔国ガーランドの将、フリード・バクアーが我等の同胞の為に、貴様を討つ!」

「……良いだろう。そのPvP(申し出)、確かに受け取った」

「アインズ様ノオ手ヲ煩ワセル程デハアリマセン。私ガ———」

「いや、コキュートス。ここは私が出る」

 

 ブンッとアインズは七匹の蛇が絡まった魔杖を空間から取り出した。

 

「あれ程の覚悟を伴ってくる相手だ。逃げれば、“アインズ・ウール・ゴウン"の名が泣くだろう」

「……ハッ。申シ訳アリマセンデシタ。アインズ様」

 

 コキュートスとアウラが一礼して、後ろへと下がる。それを皮切りに、フリードはアインズへと決死の吶喊を行った。

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

 数秒にも満たない刹那———フリードは後詰として後方部隊にいる魔人族を想った。

 

(頼む……お前だけはどうか逃げ延びてくれ……)

 

 目の前にいたアインズの姿が消えて———まるで瞬間移動したかの様にすぐ横に現れた。闇を濃縮させた様な黒いオーラを纏った骨の手に触れられ、フリードの意識と身体が切り離される。

 

(シス……ティーナ………)

 

 そして———妹の名前を最期に。フリードの意識は闇に閉ざされた。

 

 ***

 

『————<伝言(メッセージ)>』

「アインズ様、いかが致しましたか?」

『ナグモよ、こちらは全て片付いた。一人、後詰にいる部隊に向かった様だ。そいつらが合流したところで———始末しろ。どうするかはお前の好きにしていい。ついでに、()()二人の実力の試金石にしろ』

「……はっ。かしこまりました、アインズ様」

 

 アインズからの通信が切れると同時に、ナグモは自らの新しい武器———黒傘を持ち直して、後ろにいた二人に声を掛けた。

 

「さて……アインズ様から指令が下った。行くぞ———香織、ユエ」

「うん! 頑張ろうね、ナグモくん!」

「んっ。了解」




>アインズ様

天職のお陰で戦士職を習得しました。これにより戦士化の魔法無しで剣が装備可能に。ついでに普通のMMORPGならステータス的にどっちつかずになりがちな魔法剣士職をガチで極められる様になったそうです。

というわけで、次はナグモ達のターン! あとフリードの妹は言うまでなくオリキャラです。

こう、希望なんてないよと伝える為の。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。