ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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第五十二話「ナザリックの新米少女達の初陣」

「なんだ、貴様等は……?」

 

 システィーナ達、魔人族の後方部隊達は呆気に取られる。現れた人間達は二十歳にも満たない様な少年少女達だ。今の状況でなければ、成り立ての冒険者だとでも思っただろう。

 だが、彼らが身に付けている装備品はただの冒険者にしては異様に過ぎた。銀髪の少女は戦場に出てくるには軽装過ぎるブラウスとショートパンツ姿。金髪の少女は全身鎧だが、少女らしい凹凸に合わせた流線形で一見すれば装飾用ではないかと見紛う程だ。黒衣のコートを羽織った少年に至っては、手にしているのは剣や杖といった武器ではなく黒い傘。はっきり言って、戦場に場違いな仮装集団だった。

 

「ああ、とりあえず初めましてと言うべきか。僕の名前はナグモ。至高の御方———アインズ・ウール・ゴウン様に仕える者だ」

 

 ヒィッ!? とフリードの側近は悲鳴を上げた。もはや彼の中でアインズは名前を聞いただけでも恐怖する対象となった様だ。

 

「お前達はフェアベルゲンに攻め入り、アインズ様のご不興を買った。抵抗するな。跪き、御方に赦しを請え。そうすれば、御方は最後の慈悲を御示しになるだろう」

 

 もちろん、この場合の慈悲とは苦痛なく殺してくれるという意味だ。とはいえ、文面だけなら降伏勧告に聞こえなくもない。事実、システィーナ達はそう受け取っていた。

 

「なんだ、貴様は……道化の類いか? 神に選ばれた高貴な魔人族(種族)である私達に跪けだと? 下賎な人間風情が、身の程を知れ! 」

「システィーナ様! ここは奴の言う通りに! アインズ・ウール・ゴウンは普通の相手では」

「何を馬鹿な事を言っている! 我々はアルヴヘイト様に選ばれし神の尖兵! 降伏などあり得ん!」

 

 弱気なフリードの側近をシスティーナは一喝する。彼女の部下達も同様だった。何より、突然現れた少年少女を恐れる道理など彼等には無かった。

 

「……最終通告だ。跪き、投降しろ。今ならまだ救いのある結末になるだろう」

「くどい! 下等種族の人間風情が戯言を……その対価、命で贖うものと知れ!」

 

 ナグモの言葉に聞く耳など持たない、とシスティーナ達は詠唱を開始した。巨大な魔法陣が宙に展開され、システィーナを中心に魔力が渦巻く。

 

『凍てつく息吹よ、吹き荒べ! 鋭き刃となりて、敵を討て———!』

 

 その早さ、そして複数人の詠唱による魔力の同調。この世界の人間の魔法師がいたならば、これが人間の神敵たる魔人族の力か、と瞠目していただろう。

 

『氷槍・百華!』

 

 魔法陣から冷たい吹雪が吹き荒れる。吹雪は人間の腕より大きな氷柱を何十本も伴い、ナグモ達へと向かった。辺りの気温が一気にマイナスまで下がり、極寒の冷気がナグモ達を呑み込んだ。

 

「システィーナ様!」

「お前もいつまで見えない敵に怯えている! 見ろ! アインズなんとかとかいう者の配下などこの通りに」

 

 死んだ、とフリードの側近に言おうとした。突如、光の膜が吹雪を押しやる。吹雪が止むと、そこには後ろの少女達を庇う様に黒傘を広げたナグモが無傷で立っていた。

 

「ハァ……交渉に応じる頭脳もない低脳だったか」

 

 人間の小隊くらいなら軽く殺せる氷柱の吹雪をまるで通り雨でも来たから傘を差した、と言わんばかりの態度で傘についた水滴をバサバサと払い落とす。

 自身の強力な範囲魔法を破られて、システィーナ達の表情が強張った。

 

「まあ、いい。では予定通り、性能評価試験を開始する。せいぜい役に立て、実験動物(マウス)共」

 

 傘を閉じながら、ナグモは後ろの二人に声をかける。

 

「香織、ユエ。思い切りやってみろ。危なくなったら助けには入るから心配しなくていい」

「分かった。いこう、ユエ!」

「ん! 了解!」

 

 金と銀の少女がナグモの前に出る。少女達はたった二人でありながら、総数二百人を超える魔人族の部隊へと立ち向かう。

 

「くっ、舐めるな! 応戦しろ!」

『はっ!』

 

 システィーナ達もまた一斉に武器を構える。いとも容易く自分達の魔法を防いだナグモに底知れぬ不気味さを感じるが、それだけで引くほど彼女達とて柔な精神はしていない。フリードから預かった魔法の筒から魔物達を出しつつ、システィーナ達は少女達を八つ裂きにせんと戦いを始めた。

 

 ***

 

「私が後衛の魔人族達を相手にする。香織は前衛の魔物達を中心にお願い」

「うん! 気を付けてね、ユエ!」

 

 機械鎧のスラスターを噴射させながらユエは前衛として召喚された魔物達を飛び越し、後衛の魔人族の小隊に向かった。

 

「来たぞ! 十二時の方向!」

 

 魔人族の小隊の隊長が部下達に魔法を唱えさせる。空を飛んできたユエに対して、魔法隊の杖が一斉に向けられた。

 

「撃て!」

『“緋槍"!』

 

 炎の槍が一斉にユエへと向かう。それに対してユエは慌てずに機械鎧の機能を作動させる。

 

「———シールド展開」

 

 ユエのワードと共に、“聖絶”を利用した防御シールドがユエの周りに展開される。

 

「くっ、固い! ならば飛龍や妖鳥(ハルピュイア)達を出せ! 奴を撃ち落とせ!」

 

 魔法ではユエにダメージを与えられないと判断した魔人族の小隊長は、次の手として飛行型魔物をユエに差し向ける。飛竜や醜い女性の上半身に鳥の羽と脚を付けた様なハルピュイアの鋭い爪がユエに迫ってくる。

 

「ん。エナジーブレード展開」

 

 ブンッと音を立てながら手甲からブレードが飛び出す。纏ったエネルギーは極小の刃をチェーンソーの様に回転させ、切断性能を高めていた。ユエは両手のエナジーブレードを振り翳しながら、飛行型魔物へと斬り掛かっていく。

 

「グオオオオオッ!」

「キシャアアアッ!」

「……遅い」

 

 魔物達の爪牙が届くより先に、ユエのエナジーブレードが魔物達を斬り裂く。ブレスを、爪を、スラスターを巧みに動かして避け、曲線的な機動で飛びながら魔物達を斬り裂いていく姿はまるで機械の戦乙女の様だ。

 

「な、何だあの小娘は!? あんな小柄な身体で剣の達人だったとでも言うのか!?」

「……残念だけど見当違い。私はあんまり剣が得意というわけじゃない」

 

 魔人族の小隊長が驚愕に声を上げるが、ユエは否定する。もともとユエは魔法の達人ではあるが、剣に関してはそこまでの腕前はない。

 では、いまユエが接近戦で圧倒しているのはどういうわけか? その秘密はユエが頭に装着しているバイザーにあった。

 

(次は右、その後は左から……後方のセンサーに反応無し。飛竜のブレスを避けた後、次の動作に移る前に硬直するから、そこにエナジーブレードを叩き込む)

 

 バイザーの内側はモニターになっており、センサーを介して表示される情報がユエに拡張現実(Augmented Reality)の様な幅広い視界を与えていた。敵の攻撃の予測軌道線、魔力の収集率から予測される魔法の威力や発動タイミングなど、ユエは表示される情報に従って最適な攻撃手段を導き出していた。鎧を着て剣を振っているというより、小型の戦闘機のコックピットに入って操縦しているという感覚だが、ユエもナグモの研究助手をやる合間に行っている訓練の結果、機械鎧を難なく扱える様になっていた。

 

「ええい、誰かあの小娘を撃ち落とせ! 魔法を絶え間なく撃って、“聖絶"に使っている魔力を削り切るのだ!」

 

 次々と飛行型魔物を撃墜し、制空圏を確保したユエに小隊長は顔を真っ赤にしながら指差す。部下の魔法部隊達は次々と詠唱を開始する。

 

「私の得意分野は魔法。アインズ様配下である私の力、存分に思い知るといい」

 

 威力より速射性を重視した魔法がいくつも向かってくるが、ユエはその全てをスラスターの機動だけで難なく避けた。空を自在に飛び回り、飛行用の銀翼を広げる姿はまさに機械の戦乙女(ヴァルキリー)の様だ。ユエは両手を広げ、魔力を収束させる。機械鎧の補助で元々のユエの巨大な魔力が更に何倍も高められ———。

 

「<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)————連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>!!」

 

 ナザリックの傘下に入り、新たに学んだ魔法———位階魔法を使う。両手から生じた稲妻は二匹の巨大な龍となり、空中を駆けていく。雷龍は魔人族の魔法を呑み込みながら、獲物を食い千切らんと顎を開けて迸る。

 

「に、逃げ———」

 

 魔人族の小隊長が何かを言おうとした。だが、それよりも早く真っ白な雷光が魔人族達を埋め尽くした。

 瞬間————魔人族達の身体が雷光の中で奇怪な踊りをする様にのたうつ。

 雷龍が消え去った後、炭化した死体だけが辺りに残された。

 

 ***

 

「すごい……これが位階魔法……」

 

 ユエは自分が新しく覚えた技能———位階魔法の威力に嘆息した。トータスの魔法よりも遥かに強力であり、魔力に長ける魔人族の魔法を全く寄せ付けない。しかも自分が使っているのは十位階ある魔法の内、第七位階であり、まだ上があるというのだ。

 

「これ程の魔法を普通に使い熟すのがナザリック……アインズ様に忠誠を誓う異形種の集団……」

 

 自分もまた、アインズに選ばれてその末席に加えて貰った事をユエは光栄に思っていた。文字通り神の如き御方に孤独で擦り切れそうだった精神(こころ)を救われて、再び地上で明るい日差しの下に戻れたのだ。アインズにはいくら感謝しても足りないくらいだった。

 

「でも……まだ足りない」

 

 ギュッとユエは自分の手を握り締める。自分の強さはナザリックの基準で考えるなら下から数えた方が早いという程度だという。それこそからかい甲斐のある新しい上司(ナグモ)でさえ、自分の何倍も強いのだ。この機械鎧もステータス的にはユグドラシルのレベルで50に満たないユエを補助する為に作られたのだという。

 

「もっとアインズ様の御役に立ちたい……もっと、強くなりたい……」

 

 女王として民の為に尽くした国に、信頼していた叔父に裏切られて絶望と共に闇に閉ざされた自分に再び光を齎してくれた骸骨姿の優しい王様。短いながらも身近に接して、ユエにもアインズの人間性が朧気ながら見えてきた。彼は一見すると無慈悲だが、自分の支配下にある者———とりわけナザリックの者達を大切に思っているのだ。それはまるで、王というより子供を守ろうとする親の様に。……それが、少しだけ羨ましいと実の家族に裏切られたユエは思ってしまう。

 

(私も……アインズ様の大切になりたい……)

 

 ナグモのいう至高の御方という存在を話しか知らず、新参者である自分には過ぎた望みなのかもしれない。だが、それでもユエはその思いを捨てきれなかった。名前を捨て、過去を捨てたアレーティア(ユエ)モモンガ(アインズ)。たったそれだけの事だが、ユエはアインズにシンパシーを感じた。そんなアインズが大切に思うもの———ナザリックのNPC達の様になりたい、とユエは思っていた。

 

(さっきのナグモの話はある意味、ありがたい。神代魔法を習得する旅の中で、アインズ様と直に接する機会が増える。アインズ様に役立つ存在だと思って貰う為には、もっと強くならないと……)

 

 決意を新たに、ユエは機械鎧のスラスターを噴射させる。そして次の魔人族の小隊へと位階魔法を無詠唱で唱える。

 

「もっと強く……もっと位階魔法を使い熟せる様に……! アインズ様のお役に、もっと立てる様に……!」

 

 アインズの行く道を阻む新たな魔人族(邪魔者)達を焼き払うべく、ユエは魔人族の一団を掃討していった。

 

 ***

 

「破ァァァッ!」

 

 気合い一拍、香織の拳が硬質な甲羅を持った亀型の魔物を貫く。絶命した魔物に目もくれず、香織は次の魔物へと狙いを定める。

 

「せえ、のっ!」

 

 爪を立てた手で宙を掻っ切る様に凪いだ。爪から生じる鎌鼬———“風爪"は迫り来た魔物達をバラバラに引き裂いた。

 

「くっ、人間のくせになんて強さだ!?」

「囲め! 数で囲んで押し潰せ!」

 

 魔物達を指揮する魔人族が香織を包囲せんと魔物達を差し向ける。

 

「立ち位置は常に変えて、自分が有利な位置になる様に考えて動く————!」

 

 セバス達から教わった戦闘の心得を復唱しながら、香織は“天歩"で空中を駆けて包囲網を突破する。通り過ぎ様に、空中にいた魔物達を蹴り砕いていった。

 

「ば、馬鹿な!? フリード様が作った魔物がこれ程容易く———!?」

「ええい、怯むな! きっと“限界突破”でも使っているのだろう! 奴とて魔力切れを起こす筈だ! そこを狙え!」

 

 魔物使い達は香織の魔力切れを狙うべく、波状攻撃を仕掛けてくる。休みなく魔物達の屍が積み上げられていき、香織の周りは足の踏み場も無くなる程だ。

 

「うう、ちょっと数が多くて大変だよ〜……」

 

 言葉とは裏腹に、香織の顔に疲労の色は一切ない。ナグモの言う通り、レベル100以上となったステータスは魔物達の群れが相手でも香織が余裕で対応できる力を与えていた。何より、今の香織の身体はアンデッド。肉体的な疲労とは一切無縁で、息切れ一つ起こす事なく香織は魔物達を屍の山に変えていった。

 

「でもこのままじゃ埒があかないよね。イメージが良くないから、あんまりやりたくないんだけど……」

 

 そんな贅沢は言える状況ではない事は重々承知はしている。香織は魔物達の群れを前にスッと目を閉じ———再び見開いた。その瞳はアンデッドの紅から金に変わり、虹彩が爬虫類の様に縦長になった。

 

『ギ、シャ、ア……!?』

「な、何だ!? 魔物達が……次々と石に……!?」

 

 ピシ、ピシッと香織の“石化の魔眼"で見た先から魔物達が石化していく。物言わぬ石像へと変わった魔物を香織は容赦なく砕いていった。

 

「そ、そんな……奴は……人間、なのか……?」

「怯むな! 攻撃を続けるんだ! 魔力切れをどこかで起こす筈だ!」

「残念だけど、ナグモくんがくれた身体だからまだまだ魔力には余裕があるの。でも、ちょっと減っちゃったのは確かだから———」

 

 そうであって欲しい、という願いが魔人族の叫びの中に込められていた。そんな願いを打ち砕く様に香織は新たな動きを見せた。

 

『なっ———!?』

 

 魔人族達は驚愕に目を見開く。視線の先にいる香織の白銀の髪の毛が———伸びた。髪の毛はシュルシュルと纏まり、何匹もの蛇の頭となったのだ。

 

『シャアアアッ!!』

 

 銀色の蛇の頭が一斉に鳴き声を上げる。そして———魔物達の死骸へと一斉に群がった。

 

 バリ、バリ、ムシャ、ムシャ。

 

 あっという間に魔物の死骸が喰らい尽くされていく。それと同時に、香織の魔力が回復していく。

 

「ううん、ナグモくんを傷付けちゃった時の事を思い出すから、本当はあまりやりたくないんだけどなあ……。でもこれが一番効率のいい回復手段だし……」

 

 魔物達の死骸を頭の蛇達に食べさせながら、香織は悩ましげな顔になる。死骸を喰らうという猟奇的な手段よりも、嫌な記憶を思い出す事に悩んでいる様だった。

 

「ば……化け物……!」

 

 まるでギリシャ神話のメドゥーサ(蛇の女怪)の様な姿に、魔物使いの魔人族は掠れた声を出す。

 その声に反応して、香織は金色の瞳のまま魔人族を見た。

 

「……化け物でいいよ」

 

 ピシ、ピシッと恐怖の表情のまま石となっていく魔人族達に、香織は冷たい声を出した。

 

「私を救ってくれたナグモくんとアインズ様の為なら、私は人間じゃなくてもいい」

 

 全ては自分を愛してくれる少年と、大恩あるアンデッドの王様の為に。その為なら香織は人間でなくなっても構わないと思っていた。

 ピシッと魔人族が完全に石となる。その石像を香織は少しだけ見つめ———容赦なく砕いた。




>ユエ

ナグモの機械分野の結晶。もはやISでやれとか言われそうな戦闘方法です。事実、あの作品を参考にしてるし……。しかもアインズ×ユエという両作品に喧嘩を売る様な物を作者は目指すそうです。大口ゴリラさん? ほら、アインズ様もギルメンの子供達に不埒な真似はできないと言ってたし……(目逸らし)

>香織

ナグモのキメラ分野の結晶。モンクを目指す発言は何だったのか……。イメージ的に金色の闇かな? 作者的にはBLACK CATのイヴがメインイメージだけど。書いてて思ったけど、死徒かつキメラだから、今の香織はネロ・カオス?

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