ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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第五十五話「偉大なる計画の第一歩」

(どうしてこうなったよ………)

 

 大樹をくり抜いた様な建造物が多いフェアベルゲンの、一番立派な大樹に作られた最上階の部屋でアインズは心の中でうめいていた。かつては長老衆達の会議場として使用されていた部屋――それも議長席であろう一番立派な席にアインズは座らされていた。

 

「あー……ハイピスト嬢? 本来、ここは現族長である君が座る場所ではないかな?」

「いえ! 我々の神たるゴウン様こそが上座に座するべきですわ!」

「う、む……そ、そうか……?」

 

 遠慮がちに「自分は下座で良いんだけど?」と言ったのだが、下座———それも席ではなく地面に片膝をついたアルテナに断られた。その目はキラキラと輝いており、まさに神に拝謁を許された信徒の様に光栄だと顔に書かれていた。

 

「我々亜人族は、これからゴウン様に一族を救って戴いた御恩に報い、信仰を捧げますわ!」

「妾も竜人族の誇りに懸けた以上、二言はありませぬ。シアの命を助けて戴いたゴウン様に忠誠を捧げましょうぞ」

「……………ぉぅ」

 

 アルテナと共に跪拝するティオに、アインズは小さく呻き声を漏らすしかなかった。二人に対してアインズの傍で控えているアウラは「こいつら分かってるじゃん」と言いたげな得意顔で頷いており、コキュートスとナグモは表情が読めないながらも不満そうな態度は見せてない。

 

「それにしても、まさかゴウン様が他の大迷宮を突破した資格者でしたとは……」

「妾が各地を巡っている時に、魔人族達の侵攻が激しさを増しておったが、ここに来てゴウン様という資格者が現れた。妾達は長きエヒトの支配から抜け出す歴史の転換期に巡り会ったのやもしれぬな」

「ほう? お前は人間達に信仰されているエヒトルジュエの真実を知っているのか?」

「竜人族は太古より邪神エヒトに対抗すべく、歴史から隠れながらも牙を研いできた一族故に。かの神の邪悪さは誰よりも熟知していると存じ上げまする」

「ほう……それはそれは」

 

 アインズは肘掛けに手をついて頬杖しながら頷く。この仕草が深い考えがある様に見せられるというのは、アルベドやデミウルゴス達で実践済みだ。

 

(この世界の竜人族は、エヒトについて詳しい情報を持っていそうだな……何とか仲間に引き込めないか?)

 

 残念ながらエヒトルジュエについて、アインズ達は情報が少な過ぎる。ユグドラシルのボスならばアインズは何が弱点で、どういう攻撃手段が有効か判断できる。しかしながら、ここはアインズがユグドラシルで培った情報が通用しない異世界。果たして自分達の戦力がトータスではどの程度か、エヒトルジュエに通用するのか見当がつかないのだ。

 

(魔人族が信仰しているアルヴとかいう神様も、ナグモが解読したオスカー・オルクスの研究資料によるとエヒトルジュエの眷属の可能性が高いんだよな。改めて思うけど……敵が多いよなぁ)

 

 下手をすれば、かつての解放者達の様にトータス全てがナザリックの敵に回る可能性が高いのだ。その全てを殲滅するなど、現実的な手段ではないとアインズは考えていた。ユグドラシルで例えるなら、ナザリックという一ギルドに対して、相手は世界全てという超巨大連合を組んでいる様なものだ。

 

(だからこそ、俺達は仲間を積極的に増やしていきたいんだ)

 

 今回のフェアベルゲンの救出劇は、NPC達に亜人族を助けさせる事で「ナザリックこそが至高。それ以外は塵芥」という意識改革を行おうという狙いがあった。しかし、それ以外にも亜人族達をエヒトルジュエに対抗する為に仲間に引き入れ、“対エヒトルジュエ連合"を結成しようという狙いがアインズにはあったのだ。ついでに大迷宮を狙っていた魔人族達を撃破する事で、恩を売ろうという魂胆があったりする。

 

(それなんだけどさぁ……何でこうなったよ……)

 

 こちらを崇拝の眼差しで見てくるフェアベルゲンの代表達を見て、アインズは天を仰ぎたくなる。いったい何をどうすれば、こんな骸骨の魔物な見た目の自分を神様だと思うのか? 宗教に無頓着な国に生まれ、オンラインゲーム(ユグドラシル)にしか関心のないアインズからすれば、アルテナ達の気持ちはさっぱり分からなかった。

 

(ま、まあ、これで対エヒト連合の話は進め易くなった……よな? 結果オーライだと思おう、そうしよう!)

 

 ポジティブシンキングで無理やりそう納得させ、アインズはアルテナ達に向き合った。

 

「先程も言ったが、私は樹海の大迷宮の攻略を行いたいのだ。お前は大迷宮の場所を知っているのだな?」

「はい。亡くなった祖父がフェアベルゲンの長に就く者の口伝として、私に伝えて下さいました。しかし、何故ゴウン様は大迷宮をお求めに……?」

「ソコノエルフ。アインズ様ノ真意ヲ問イ質スナド、無礼千万。聞カレタ事ノミヲ素直ニ———」

「よい、コキュートス」

 

 アインズは鷹揚に手を上げてコキュートスを制した。同時に、ここが正念場と意識を切り替える。

 

「……ハイピスト嬢、そしてクラルス嬢よ。君たちはエヒトによって支配されたこの世界をどう思う?」

 

 アインズの真意が分からず、二人は目を合わせた。ややあってから、二人は自分の意見を話し出す。

 

「……亜人族には優しくない世界だと思いますわ。我々が生きられる場所はフェアベルゲンか、各地にある隠れ里くらいですから」

「妾も同意見じゃ。エヒトによって歪められた信仰心によって、人間族や魔人族以外は……いや、たとえ両種族であってもエヒトの気紛れで滅ぼされる。まさにエヒトが好き勝手に弄ぶ遊戯盤の様な世界と言えましょうぞ」

「そうだ。それが私には我慢ならない」

 

 アインズは目線だけをアウラやコキュートスに向けた。

 

「私の配下には君達が魔人族と勘違いしたアウラの様な種族もいれば、コキュートスの様な異形の者も多数いる。彼等は私の仲間達がそうあれ、と望んで生まれてきたが、この世界ではエヒトのせいで肩身の狭い思いをしなくてはならない。それが私は我慢ならないのだ」

 

 そこでだ、とアインズは区切る。

 

「私はな……平和な世界を作りたいのだ。人間や魔人族、亜人族や異形種という事で差別されず、堂々と大手を振って歩ける世界。そんな世界を私は望むのだ」

「平和な世界……あらゆる種族が平和に暮らせる……かつての竜人族の悲願……」

 

 おっ、これは感触が良さそうだぞ? とティオを見ながらアインズは判断する。

 

「その為にはエヒトルジュエの存在が邪魔なのだよ。だからこそ、狂った神を討つ為に私は更なる力を求めるのだ」

 

 スッとアインズは席から立つ。そして跪いたアルテナ達に目線を合わせる様に膝を屈めた。後ろで守護者達が驚く声を出したが、今は無視した。

 

「どうだろうか? 私に協力してくれないか?」

 

 そうすれば、きっと———トータスに来ているかもしれない異形種(ギルメン)達も、住みやすい世界になる筈だ。

 

(俺が転移した時間帯的に、もしかしたらヘロヘロさんもこっちに来ているかもしれない。あるいはナグモみたいにタイムラグがあって、俺より前に来てるなんて可能性もあるのかも)

 

 だが、この世界はエヒトルジュエによって人間族が至上とされる世界なのだ。トータスに仲間達がいるとしても、何処かに隠れながら暮らすしかない筈だ。

 

(……もしも既に来ていた俺の仲間達に手を出していたら、絶対にブッ殺してやる)

 

 エヒトルジュエに新たな憎悪を募らせ、一定値を超えて怒りを沈静化される自分の身体に苛立ちを感じていると、アルテナとティオが———まるで祈る様にアインズに頭を垂れていた。

 

「我らの神、アインズ・ウール・ゴウン様……どうか貴方の素晴らしき理想に御助力させて下さい」

「そなたこそが、我ら竜人族が探し求めていた救世主。里の者は妾が説得いたしまする。どうか、エヒトを討つ為に協力させて下さらぬか?」

「……良いだろう。狂った神を討つ為に、共に戦おうではないか」

 

 なんか思い描いてた絵図と違うんだけど……。と思いながらも支配者ムーブでアインズは鷹揚に頷いていた。

 

「貴方の様なお方ならば、祖父も喜んで大迷宮の場所へ案内していたでしょう。ただ、大迷宮へと繋がる大樹ウーア・アルトは深い霧に閉ざされ、我々でも方角を見失います。今からですと……十日後で無ければ霧が晴れませんので、それまでお待ち頂く事になりますわ」

「ふうむ……仕方ないか。それまで待つ事にしよう」

 

 そこで、ふと思い出した様にアルテナに聞いた。

 

「ああ、そうだ。ここまで案内される間に見てきたが、戦禍の後があちこちに残っていたな」

「はい……今回の襲撃で働き盛りの年齢の者達も結構亡くなりましたし、恥ずかしながらこれからの復興の事を考えると、気が重くなりそうです」

「ふむ、ならば我々から復興の援助をさせて貰うのはいかがかな?」

 

 え? とアルテナは驚いた様に顔を上げた。

 

「そ、それは……! 大変ありがたい申し出ですが、ゴウン様にそこまでご迷惑をお掛けするわけには……!」

「いや、受けて貰わねば困る。君達にはいち早く、国を立ち直らせて欲しいのだよ」

 

 そうでないと、また魔人族などが襲撃して来て大迷宮を占拠とかされたら困るし。

 アインズは心の中でそう思いながら、別の理由を口にした。

 

「私が手間を掛けてまで救ったのだ。君達の復興に手を惜しまないとも」

 

 手に入れた重要拠点はしっかりと防衛しないとな! と考えるアインズを他所に、アルテナは感嘆極まった様に頭を深々と下げた。

 

「何から何まで……ありがとうございます! 我らが神、ゴウン様!」

「う、うむ。そうとなれば、フェアベルゲンに我らの手の者を置くとしよう。さて、誰がいいか……」

「……恐れながら、進言する事をお許し下さい」

 

 考え込むアインズに、それまで黙って見ていたナグモが口を開く。

 

「フェアベルゲンの陣頭指揮ですが……コキュートスに任せてみてはいかがでしょうか?」

「む? コキュートスにか?」

 

 意外な名前が上がった事にアインズは視線を向ける。そこには名指しされるとは思っていなかったのか、コキュートス自身も驚いた様子の姿があった。

 

「コキュートスの強さは今更説明の必要すら無いとは思います。再び魔人族達が襲撃してきたとしても、コキュートスならば容易く撃退出来るでしょう。加えて、彼ならばアインズ様の目的に打ってつけと判断します」

「ほう……」

 

 顎に手を添えてアインズは考える———フリをした。

 

(え? 俺の目的? ひょっとしてナグモ、俺のNPC温厚化計画に気が付いてたの? うわぁ……なんか恥ずいわ! 秘密裏にやろうとしてたサプライズ・プレゼントがバレた時並みに恥ずいわ!)

 

 ギルド最高齢だった死獣天朱雀の還暦祝いをしようと、皆でレアアイテムのドロップを狙って課金しまくって冗談じゃ済まない額になりそうだった時、本人から「まあまあ、皆の気持ちだけでも嬉しいよ」と嗜められた時を思い出してアインズは心の中で赤面した。しかしながらアンデッドの骸骨顔はこういう事を表に出さなかった。

 

(ま、まあ、コキュートスはカルマ値プラスだし、亜人族を虐待するとか性格的にやらないだろ。これも社会勉強になると思えば良いさ……)

 

 そう結論付けて、アインズはコキュートスに視線を向けた。

「……コキュートス、どうだ?」

「私ハ……」

 

少しだけ悩んだ素振りを見せたが、しばらくしてコキュートスは力強く頷いた。

 

「オ任セ下サイ、アインズ様! 必ズヤ御期待ニ添エル様、尽力致シマス!」

「うむ。資材や食料、人材など多くの物が必要となるだろう。ふむ、防衛戦力としてナグモが今回やった強化実験を亜人族達に付与するのも考えてみるか……その辺りはハイピスト嬢と話し合いながら決める様にな」

「カシコマリマシタ!」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 コキュートスとアルテナが了承したのを見て、ティオがスッと手を上げる。

 

「恐れながら提案させて頂きたいのじゃ、ゴウン様。そなたがフェアベルゲンの守りを固めてくれるというのであれば、妾は一度里へ戻ろうと思う。皆にゴウン様の事を伝えたいのじゃ」

「ふむ……出来れば、竜人族全員がフェアベルゲンに来て貰うのが理想なのだが」

 

 味方の拠点が複数あると防衛とか大変になるし、とアインズが考える中、ティオは難しそうになった。

 

「それは妾の一存だけでは何とも……。妾は直接ゴウン様にお会いしたから素晴らしさを理解できるが、里の者達全てがゴウン様に全幅の信頼を置けるかというと……」

「成る程、確かに道理だな。ならば、そうだな……大使として、私の配下の竜人であるセバスを遣わせよう」

「なんと……妾達以外に竜人族が生き残っているとは思わなんだ」

「お前達とは少し毛色が違うかもしれんが、セバスは私が最も信頼を置く配下の一人。彼ならば私の意を正確に汲んでくれるだろう」

 

 そう頷き、アインズはその他いくつかの取り決めをした。

 

(ひとまず、これで良いとして……樹海の大迷宮が開くまで、他の大迷宮の情報も調べないとな。魔人族の指揮官が知ってたみたいな口振りだったから、そいつから聞き出す様にしよう)

 

 ニューロニストに念入りに()()する様に伝えるか、とアインズはなんとなく考えていた。

 

 ***

 

「ナグモヨ、何故我ヲ推薦シタノダ?」

 

 アインズが退出し、コキュートスはアルテナと話し合いをする前に同僚である守護者の人間に聞いた。それに便乗する様に、アウラも聞いてきた。

 

「そうそう。どうして亜人の国を守るのにさぁ、コキュートスを薦めたわけ? シモベ達を適当に何人か派遣すれば良いんじゃないの?」

「……それが、アインズ様の御計画に最も適していると判断したまでだ」

 

 いつもの無表情でナグモはそう答える。疑問符を浮かべる二人に対して、ナグモは説明を始めた。

 

「まず最初に……何故、アインズ様がわざわざ亜人族達を助けたか説明しよう。アインズ様の目的である世界征服には、エヒトルジュエの信仰を失墜させる必要がある。ここまでは良いか?」

「ああ、確かエヒトとかいう奴は信仰心を失うと弱体化するとか言ってたっけ?」

「然り。だが、腐ってもトータスを長く支配していた神。人間共から信仰心を奪うのは、少し骨が折れる作業となるだろう」

 

 宗教とは権威であり、積み重ねた歴史そのもの。医療や教育なども聖教教会が大きく担うトータスでは、聖職者で無くてもエヒトへの信仰は大きいのだ。

 

「そういう意味では、一番取っ付き易かったのが亜人族なのだよ。この世界の二大宗教のどちらからも差別される彼等はアインズ様という新たな神が現れれば、すぐに信者となるのは自明の理というやつだ」

「そりゃアインズ様だもん。アインズ様の素晴らしさを理解出来ない奴の方が頭おかしいって」

 

 ウンウン、とアウラとコキュートスは頷いた。

 

「そして亜人族達に恩を売った事でアインズ様はフェアベルゲンの神となり、従順な信者達も手に入れた。これで……愚神エヒトに代わるアインズ様の信仰への足掛かりを得たのだ」

 

 薄く、しかし確かにナグモは笑う。それは全てが計算通りにいってると確信した笑顔だった。

 

「アインズ様が焼け野原になってしまったフェアベルゲンをわざわざ手入れするのも良い手だ。ここで復興支援と称して、アインズ様の理想となられる国造りが行える。当然ながら、亜人族達の元の生活どころかこの世界のどの国よりも何倍も良い国を、だ。アインズ様の保護下にあれば、いかに良い暮らし振りになるかを示す良いモデルケースとなるだろう」

「言われてみれば確かに……アインズ様の治める国が、人間の国より良くなるのは当たり前だよね」

「そして聖教教会に頭を下げるよりも遥かに良い暮らしを出来ると知れば、人間共も聖教教会、ひいては愚神エヒトを見限るというものだ」

「ムウ……アインズ様ハ、ソコマデ御考エダッタノカ……」

 

 二人が頷く中、ナグモは更に()()()()()()()アインズの考えを話す。それはまるで、一足早く問題が解けた事を自慢する子供の様でもあった。

 

「今回、アインズ様はあえて今まで通りに亜人族達に防衛させると言った。だが、亜人族達のそのままの強さではまた同じ事が繰り返されるのは理解しているだろう。そこで、僕の強化実験の産物が使われるのさ」

「強化実験って……天職の付与の事?」

「それもそうだが、香織に施した人型キメラ化計画も指しているのだろう。今回の()()で、彼女はよく戦ってくれた」

「あー、はいはい。惚気話は余所でやってよ」

 

 嬉しそうに語るナグモに、アウラはやれやれと肩をすくめた。

 

「……まあ、とにかく。今回の戦闘データを基にトータスの魔物因子を付与して、ステータスを強化させる特殊兵士を量産させる目処が立ちそうだ。そして、その特殊兵士第一号が亜人族というわけだ」

「……トスレバ、第四階層ニイルキメラノ様ナモノニ改造スルノカ?」

 

 鶏と蛇が合体した様な異形のモンスター達などを思い出し、コキュートスは何とも言えない表情となった。さすがに彼も、そんな異形に改造される亜人族達に同情したのだろう。

 

「ん? いや、アインズ様の御命令であればそうするが、基本的にそこまで無茶な改造をする気はないな。あくまで人型のまま、魔物達の固有技能が使える様にしていくつもりだ」

「あ、そうなんだ。というかあんたの自慢の香織みたいな万能キメラにすれば良いんじゃない?」

「香織の身体はかなり特殊で再現が難しいからな……香織のように色々な魔物の因子を付与するのではなく、いくつかの魔物に絞って因子を付与させる、謂わば量産型人型キメラにした方が良いだろう」

 

 例えば、アインズがわざわざ甦らせた兎人族は遺伝子的にも近い蹴り兎あたりを中心に付与させ、肉体能力が優れた兵士にする。そんな計画をナグモは頭の中で練っていた。こうすれば香織が歪な魔物だった時のように、異形化するリスクは低くなる筈だ。

 いつの日だったか、デミウルゴスと話していた特殊兵士計画。八重樫雫をナザリックに招いた時に、アインズに仕える者として相応しいステータスとなる様にする実験の第一段階を亜人族達を使ってナグモは実験する気でいた。

 

(まあ、どれ程やったら異形化するかは今回採集した魔人族(サンプル)達で実験すれば良いか)

 

 肉体や精神が著しく変調をきたす様な実験は捕虜の魔人族で。

 そして問題無いと判断した強化実験はアインズが保護を約束した亜人族で。

 その上で肉体的にも精神的にも安全と言い切れる強化改造は、いつか来る雫に施す。

 より良い医療の為に人体実験を推し進めるマッドドクターさながらの思考でナグモはそうしようと決めていた。

 

「とまあ、特殊兵士となる亜人族達を肉体的に強くする案は問題無いが、精神の方ばかりは専門外だからな。そこで、コキュートスの出番だ」

「我ガ……?」

「アインズ様に仕える兵士として鍛え上げる戦技教導官として、君が一番向いているだろう」

 

 それに、とナグモはコキュートスをまっすぐに見据えながら断言した。

 

「ナザリックの理念を一番理解していて、兵士としての心得を叩き込め、アインズ様の兵士として相応しい育成が出来る者……コキュートス以外に、適任がいるか?」

「ナグモ……オマエハ、私ヲソコマデ買ッテ……」

 

 コキュートスがアイスブルーの複眼を見開いた。今まで他の守護者とも業務以上に接しない機械の様な人間と思っていた相手からの意外な評価に、驚きを隠せなかった。自分でも似合わない事を言った事を自覚したのか、ナグモはそっぽを向いた。

 

「か、勘違いしないで欲しいっ……あくまでアインズ様の為に合理性を追及して、そう判断したまでだっ」

「あ、照れてる。というか、あんたのそんな顔初めて見たわ。やっぱ彼女が出来て変わった?」

「やかましいっ」

「? オ前ハツガイガ欲シクテ、アノアンデッドノ娘ヲ娶ッタノデハナイノカ?」

「お前もか、コキュートス……」

 

 揶揄う様に笑うアウラに、純粋な疑問を口にするコキュートス。

 人外の同僚達に囲まれながら、人形(NPC)から昇格したナグモ(人間)は人間らしい表情を見せていた。




>ナグモ

こいつもデミウルゴス並にアインズの意図を履き違えてますよー。唯一、進歩あったのは同僚に対しては態度が軟化したくらい。

>フェアベルゲン

要するに、カルネ村とリザードマンの村を足して二で割った様な支配下になりましたよ、と。コキュートスの派遣でナザリックの現地兵士の育成機関に(アインズは意図してないけど)早変わり。

>量産型人型キメラ

早い話、原作のハジメみたいなのを亜人族達で量産しようというわけです。で、神水があっても激痛でショック死するかもしれない危険性などは捕虜にした魔人族(サンプル)を使って問題が出ない様に治験すると……やってる事が、どこぞの第三帝国と同レベルだわ、ドン引きだわぁ……。

そしてデメリットが完全に解消されたら、いつか来る八重樫さんにプレゼント♪
ところでアニメで見た八重樫さんの泣き顔に……恥ずかしながら、ふふっ……興奮しちゃいましてねえ……。
ああ……早く八重樫さんもナザリックに招待したいなぁ……きっと、泣いて喜ぶだろうなぁ……(恍惚)

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