そろそろ次回あたりはアインズ様を登場させたいですねー。
「おらあああっ! 食らいやがれ!」
土術師の野村の魔法が、ゴブリンの様な魔物に放たれる。地面が隆起してスパイク状となった岩が突き刺さり、ゴブリン達は耳障りな声を上げながら絶命した。
「雑魚は倒した! 重吾、頼む!」
「おうっ! 吉野、俺に支援魔法を!」
「OK! 任せて!」
付与術師の吉野真央の支援を受けて、永山はオークの様な魔物に突進していく。オークは豚の様な鳴き声を上げながら手に持った棍棒を永山に叩きつけた。
ドンッ! と大砲の衝撃が永山を襲う。
「舐めんじゃ————」
永山は真っ向から棍棒を受け止めて、歯を食い縛りながらも耐えた。
「ねえええええっ!!」
棍棒を力尽くで押し返し、たたらを踏ませたオークに永山は更に踏み込んでいく。
「<重・正拳突き>!」
ドゴォッ! と鈍く大きな音と共にオークの胸に永山の拳が深々と突き刺さった。白目を剥き、オークは地に崩れ落ちる。
「はぁっ、はぁっ……」
「大丈夫、永山くん! いま治癒魔法をかけるね!」
治癒師の辻綾子が永山に駆け寄って治癒魔法を行使する。ひとまず周りの敵を掃討して、ようやく一息ついた永山達に一人の騎士が歩み寄る。
「重吾! 大丈夫か!」
「メルドさん、大丈夫っすよ。まだまだ全然いけますって!」
綾子に治して貰った傷を見せながら、永山は元気にアピールをする。その姿にホッとメルドは胸を撫で下ろしたが、再び聞こえてきた魔物達の咆哮に顔を引き締めた。
「次が来るぞ! お前達、踏ん張れよ!」
「「「「はいっ!」」」」
***
遠藤が王宮から追放された日———永山達は親友である遠藤の為に、必死に抗議した。だが、光輝を始めとした前線組はおろか、エリヒド王やイシュタルまで聞く耳を持たなかった。その抗議が癪に障ったのか、永山達はメルドが左遷された魔人族の侵攻が激しい辺境の前線地へと追いやられたのだった。
「重吾、健太郎。それに真央も綾子もよくやった。今日の戦闘は良かったぞ」
野営地でスープを飲みながら、メルドは重吾達を誉めた。
「王宮にいた時よりも連携が良くなっていたな。もう俺など相手にならないかもしれんな」
「そんな……メルドさんの教え方が良かったからっすよ」
「そうそう! やっぱメルドさんが教官じゃないとな!」
永山達が頷きあうのを見てメルドは少しだけ苦笑した。自分は勇者達の指導不足であんな事態を引き起こしたというのに、まだ自分を教官として慕ってくれる彼等に済まない気持ちと同時に嬉しさがあった。
「すまなかった……俺が騎士団長だった頃、ステータスや天職ばかりを意識しないでお前達とキチンと向き合っていれば、重吾達も城を追い出される事は無かったかもしれん」
「メルドさんが謝る事じゃねえよ! 全部、天之河の奴が悪いんだ!」
「天之河くんには……もう私達もついて行けない、って思ってましたから」
「そうか……光輝の奴は、そんな事になってるのか……」
自分が“神の使徒"の教育役を解任されてから何があったか、メルドも永山達から粗方は聞いていた。あれ程の才能を持ちながら、正しい道筋を示さなかった自分の不甲斐なさにメルドは沈痛な顔になる。
「……私達さ、変わっちゃったよね」
綾子がポツリと溢した。
「ほんの少し前まで、なんだかんだでクラスで纏まってたのに、異世界に来てから皆で喧嘩しあったり、イジメが平気で行われる様になって……もしも。もしも、彼が生きていたら……今とは何か違ったのかな?」
永山達はつい暗い顔になった。クラスメイト達の中で最強の存在であり、周りから責められて自殺に追い込まれてしまった錬成師の事をつい思い出してしまう。
思えば、あれが自分達がバラバラになった最初のキッカケだった気がする。香織が最初の訓練で奈落へ落ちたのを皮切りに、次々と命を失ったクラスメイト。そして、その責任を周りの人間に八つ当たりする様になった光輝達……もう自分達は、ありふれた日常へ戻れないのかもしれないと、永山達はどこか諦観していた。
「……本当にすまない。異世界で平和に暮らしていたお前達を、関係ない戦いに巻き込んでしまって」
メルドは永山達に頭を下げた。
「今さら遅いと思うかもしれんが、お前達が元の世界に帰れる様に俺も努力する。俺の生命に懸けて約束する」
「メルドさん……」
永山達は改めて、メルドがいかに自分達を思っていてくれたかを知った。
「メルドさん、俺達ももっと強くなります。だから、色々と教えて下さい」
「重吾、俺もやるぜ! 俺ももっと努力する!」
「私だって!」
「わ、私も治癒術を頑張る!」
「お前達……」
永山達の心意気にメルドは感極まった様に目頭が熱くなる。
「……ああ! 色々と教えてやる! 明日からシゴいてやるから覚悟しろよ!」
「うへえ、もしかして藪蛇だった? 今だって魔物達との戦いがあるのにキツいっすわ」
「そう言うなよ、野村。最近は魔物達の襲撃も回数は減ってきただろ?」
「でも、一体どうしたんだろうね? 最初の頃によく見た赤黒い線の入った強い魔物はあまり見かけなくなった気がするし……」
「うむ……魔物達の統率も取れてない様に見えるから、ひょっとしたら魔人族達の方で何かあったのかもしれんな」
メルドは野営地の遥か遠く、魔人族領の方向を見た。
「例えば、敵将に何かあって軍が混乱しているとかな……さすがにそれは都合の良すぎる話だが」
***
魔人族達の国・ガーランド。
人間族にとって自らの神エヒトルジュエに仇なす不倶戴天の敵であり、魔人族達を統べる魔王として君臨するアルヴヘイトは人払いを済ませた部屋で跪いていた。
『ふん……まさかフリードが反逆者の迷宮で死ぬとはな』
「も、申し訳ありませんっ。エヒトルジュエ様の御遊戯を狂わせた事を深くお詫び申し上げます!」
その場に他の魔人族がいたならば、目を疑っていたであろう。魔王としての威厳を欠片も感じさせない謙った態度で、アルヴヘイトは自分の心に直接語り掛けてくる声に平身低頭していた。
何を隠そう、世間には魔人族の神として知れ渡っているアルヴヘイトは実際にはエヒトルジュエの眷属であり、エヒトルジュエの指示で魔人族達を煽って人間族との戦争を促している黒幕だった。
地上に実体として存在する為に
「あの“駒"は出来が良く、反逆者共が遺した神代魔法もいくつか習得できたので今回も大丈夫だと思っていたのですが、まさか一人しか生き残りがいないなどという事態になるとは思わず……」
『そうなるとは思わなかった。だが、実際は違った。そうだな? アルヴヘイト』
「ひぃっ!? も、申し訳ありません!」
アルヴヘイトは額をこれでもかと床に擦り付け、神域より響いてくるエヒトルジュエに陳謝した。この場には実際はいない事など関係ない。アルヴヘイトにとってエヒトルジュエは絶対の存在であり、エヒトルジュエの思い通りに事が運ばないなどあってはならなかった。
そんな魔王としての威厳をかなぐり捨てた自身の眷属の痴態を愉しむかの様に、エヒトルジュエは余裕を感じさせる声を響かせる。
『ん? なぜ謝る? アルヴヘイト。貴様の“駒"が無くなった事で、我が不利益を被ると思ったか?』
「い、いえ! 決して、その様な……エヒト様は絶対の存在でありますからして!」
『ふん、下手くそな世辞だ。我が眷属ながら、つまらん事この上ない』
「も、申し訳ありません!」
ガタガタと震えるアルヴヘイトに、神域から響く声の主は寛大そうに頷いた。
『まあ、良い。我、エヒトルジュエの名の下に神の慈悲をもって許そう』
「は、ははあーっ! ありがたき幸せ!」
『それに、フリードが死んだのは考え様によっては良いかもしれん。我が人間達の勇者として召喚した“駒"共が予想以上の弱さであったからな。あれはあれでその醜態が滑稽ではあるが、な』
遥かな高みから冷笑をもって、エヒトルジュエは異世界から召喚した少年少女を嘲笑った。元々、魔人族の中でフリードが突出した実力を持った為に今まで戦争をさせていた人間族と魔人族の戦力バランスが崩れ、フリードに対抗する遊戯の駒として人間族の勇者を召喚したのだ。
(誤算だったのは、勇者の滑稽なまでの弱さと幼稚な精神よ……よもやあんな者が人間達の勇者となるとはなぁ)
トラウムソルジャー相手に死者を出し、その後は教会が煽てるままに各地で魔物退治という名目で人間達の失望を買っている事は聖教教会総本山に潜伏させているノイントから報告が来ている。あんな醜態を晒し続ける勇者ならば、フリードの相手には役者不足だ。それはそれで、頼りにしていた勇者が全く役に立たなかったと知った時の人間達の絶望する顔は見応えがあっただろうが。
『これで人間族と魔人族の戦力差は元に戻り、戦争は長引くというものだ。とはいえ……ふむ、やはり退屈だな』
まるで
『人間共が繁栄した世にも飽きてきた事だし……ふむ、今度は人間共が虐げられる世にするのも良いかもしれん』
よし、と気紛れで脚本を書く様な気軽さでエヒトルジュエはアルヴヘイトに命じた。
『アルヴヘイト、貴様にトータス全土の王となる権利をくれてやろう。貴様が直接魔人族を指揮して、人間共の国を滅ぼせ。生き残った人間共は魔人族の奴隷にするなり、家畜にするなり好きにしろ』
「そ、それは……ですが、宜しいのでしょうか? そうすれば御身の信仰心が下がられて、御力の減衰に繋がるのでは……」
『忘れたか? 貴様は我の眷属。貴様が信仰されるのは、我が信仰されるのと同じ事。人間共の信仰も、魔人族の信仰も、つまるところ我の力の源となるのだ』
「ははあっ! さすがは我が神! どう転んでも、エヒトルジュエ様の御力に揺るぎはありませんな!」
おべっかを使うアルヴヘイトを神域から漫然と見下ろしながら、エヒトルジュエは嗤う。
(まあ……それにも飽きたら、魔人族達が築き上げた文明を崩壊させてゼロからやり直すが)
そうして荒廃して途方に暮れる地上の人間達の前に、“真の神の使徒"と称した
(何も知らない虫ケラ共が感謝の祈りを捧げる姿はいつ見ても滑稽であるものよ。ふん、我が直接降臨できれば木偶共を使う手間を省けるのだがな)
自身が神となるのに、実体を捨ててしまったエヒトルジュエ。寿命などの肉体的な限界とは無縁な身体となったが、霊的な存在であるが故に人間達の信仰心の影響を非常に受けやすい存在となってしまった。だからこそ、エヒトルジュエは人間達は使って玩ぶ、と決めた時に自分が絶対の神として君臨する世界にしているのだ。
人間達の間で自分とは関係ない宗教や啓蒙思想が出る度にエヒトルジュエは徹底して叩き潰し、今の人間達の文明に飽きて新しい文明を作る時もノイントの様な使徒達を使って、まずは自分の神話を作り上げる事から始めていた。
(三百年前は実に惜しい事になったものだ……あの器があれば、我はこの世界など捨てて別の世界を玩弄していたというのに)
実体の無いエヒトルジュエは自身が作り上げた神域に存在が固定化されてしまい、地上にはアルヴヘイトや使徒達を通してでしか干渉が出来なくなっていた。再び実体を得る為に色々と試行錯誤したが、神となった自分の存在が収まり切る程の器をエヒトルジュエはついぞ作る事が出来なかった。かつて、“神子"の天職をもって生まれた吸血鬼の王女こそが、エヒトルジュエが100%の力を振るっても崩壊しない特別な器だった。
だが、忌々しい事にその器は失われてしまった。腹いせに吸血鬼の王女を隠した男をアルヴヘイトの器にしたが、やはり溜飲は下がらない。
(この溜飲はせめて異世界から来た道化共で下げるとしよう。せいぜい我が手で足掻け、人間達よ……)
この世界を遊戯盤にした神と成り果てた人間は邪悪に嗤う。長年人間達を弄んできたエヒトルジュエは地上の人間達を嘲笑していた。自分を脅かす者など、ついぞ現れた試しがない。かつて愚かにも自身に反逆した者達も、自分を信仰する愚かな人間達の前に敗れた。だからこそエヒトルジュエは次はどんなシナリオを描くか、絶対的な上位者として人間達を見下していた。
そう。慢心しているが故に———人間達の世界の地下の奥深く。かつての仲間達が遺した墳墓の中で、神を撃ち墜とそうとする死の支配者の存在に全く気付いていなかった。
***
魔国ガーランド。
魔人族軍の特殊部隊に所属するカトレアは、暗い顔で城内を歩いていた。今しがた聞いた内容はそれ程までに衝撃的だった。
「フリード様がお亡くなりになるなんて……どうなっちまうんだい、この国は」
魔人族の最強の英雄であるフリード・バクアー。彼が人間達の国へ極秘任務に行き、殉職した事は既に城内に知れ渡っていた。それどころか、所属部隊は違ったが自分の同僚であるタヴァロス達も亡くなり、今の魔人族軍は文字通り何人もの精鋭を失ってしまった状況だった。
(魔王陛下はまだ自分がいるから安心しろ、と言っていたけどさ……まだ人間達と戦争している最中だっていうのに、本当に大丈夫なのかい?)
それ程までにフリードの存在は大きかったのだ。まさに彼こそが魔人族の勇者と言えよう。人間達の勇者は各地で着々と力をつけている様だし、いかに魔王陛下が健在とはいえ軍の中心人物を失った魔人族軍は今までの様な快進撃は望めない気がカトレアにはしていた。
「とっ、いけないいけない。アタシがこんな暗い顔してどうするんだい。一番辛いのは、あの子なんだからさ」
パンッ! と自分の顔を叩いて気持ちを切り替える。目的の人物の部屋の前に来て、深呼吸を一つしてからドアを叩いた。
「システィーナ、入っていいかい?」
「カトレア……」
部屋のドアを開けて、フリードの部隊の唯一の生存者———システィーナ・バクアーが顔を見せた。
「その、なんだ……アンタが気落ちしているんじゃないかと思ってね。見舞いに来たんだけど……」
「それは……わざわざありがとう、カトレア。でも、大丈夫です。見ての通り、ピンピンしていますよ」
そう言うシスティーナだが、以前より少しばかり痩せた様にカトレアには見えていた。
(無理もないよ……あれだけ慕っていた
年若い少女でありながら、英雄である兄に憧れて軍人の道に進んだシスティーナ。彼女をカトレアは妹分の様に思っていたのだ。
「魔王陛下からアンタの生存は聞いていたけど……その、大丈夫だったのかい?」
「ええ。今回の失態で特殊部隊の隊長を解任されましたが、それ以外は特に叱責されませんでしたよ。来週から資料室の勤務となりました」
「それは……何と言ったらいいか……」
軍人としてエリート街道を進んできた彼女が、出世の道を断たれてしまった事にカトレアはなんとも言えない顔となる。だが、システィーナはカトレアを安心させる様に微笑んだ。
「大丈夫、資料室の仕事だってやり甲斐はあります。あの
「あ、ああ、そうだね。しばらくは戦場から離れた方が良いだろうしね」
そこまで言ったカトレアだったが、部屋の中にいる人物達にようやく気付いた。そこには左右の瞳の色が異なる魔人族の双子がいた。
「ん? アンタ達は誰だい? 見ない顔だけど……」
「この子達は私の新しい部下です。名前は———」
「アウラです。よろしくね」
「マ、マーレと言います。あ、あの、よろしくお願いします」
一人は人懐っこい笑みを浮かべ、もう一人はオドオドとしながらカトレアに挨拶した。
「ああ、そうかい。私はカトレア。システィーナの事をよろしく頼むよ」
「うん、分かりました。システィーナさんの事は———私達が
「う、うん。ぼ、僕もお姉ちゃんと一緒に、
屈託なくニコッと笑うアウラと、頼りなさげながら笑顔を浮かべるマーレにカトレアも笑みを返す。
(それにしても、綺麗な双子だね……。男の子に見えたけど、お姉ちゃんって事はアウラの方は動き易い格好をしている女の子だったのかい? 二人とも将来はさぞかし美人になるね。もしもミハイルと結婚したら、こんな双子が欲し……って、何を考えてるんだい私は!?)
***
カトレアが去った後、システィーナは部屋のドアを念入りに閉ざしてアウラ達に姿勢を正した。
「さて、と。それじゃ、
「はっ! 偉大なる御方———アインズ・ウール・ゴウン様の為に、魔人族軍の情報を流させて頂きます!」
システィーナはどこか陶然とした顔でアウラに敬礼した。そこにはかつて、魔人族の軍人として誰よりも誇りに思って軍務に励んだ軍人の姿はなかった。
「ん、ぅ……っ」
ふいにシスティーナが胸を押さえる。チャリン、チャリンと微かに金属質な音が鳴った。
「あ、あの、どうかしましたか……?」
心配そうに見てくるマーレに、システィーナは熱い吐息を漏らしながら答えた。
「い、いえ……御主人様に……シャルティア様に付けて頂いたピアスが、擦れて……は、ぁっ」
「? ピアスは耳に付ける物ですよ?」
「マーレ、あんたはまだ知らなくて良い事だから」
アウラが頭痛を耐える様にコメカミを押さえた。
二人を他所に、システィーナは息を荒げながら陶酔した表情を浮かべていた。
「友人も、魔王陛下も、全て売り渡しますぅ……だから、戻った時にはいっぱい可愛がって下さい……シャルティア様ぁ♡」
>永山達
メルドと一緒に僻地へ左遷。それでもマシに見えるのは何でなのか。このままフェードアウトしてた方が幸せかもね。
ところでメルドさんとオバロのガゼフさんは似てるよね? いや、深い意味はないよ? 言ってみただけ。
>エヒトルジュエ
慢心せずして何が神か! 存在の設定とかは独自設定マシマシにした感じです。
慢心は後ほど命で支払って頂きましょう♪
>魔人族サイド
まさかのシスティーナ再登場。魔人族と見た目が似ているアウラ達の監視下で、可愛がってくれた御主人様を想いながら嬉々としてスパイ活動に勤しむのでありましたとさ。
あとカトレアさん、さっさと逃げた方が良い。