ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 いつになったらライセン大迷宮に行くか、と思われそうですが、これはどうしても書いておきたかった。
 基本的に思い付いた展開をそのまま書いているから、構成もなにもあったものじゃないんですよ。


第五十六話「変化の兆し」

 ナグモはいつもの様に無表情で目の前の出来事を眺めていた。

 アインズによってフェアベルゲンの復興支援が決められた翌日、ナグモは副所長のミキュルニラと共にフェアベルゲンに来ていた。

 

(アインズ様は亜人達に強化を施せ、と言っていた……つまり、使える亜人達を改造せよという命令なのだろう)

 

 アインズとしては天職を付与してやれ、という意味だったのだが、残念ながら『フェアベルゲンはトータス征服の為の最初の足掛かり』と思い込んでいるナグモを含めたナザリックのシモベ達は「亜人達をナザリックの兵士となる様に教育せよ」と命令を誤解していた。そして量産型人型キメラ兵士となり得る人材をナグモ達は見に来たのだが……。

 

「う、うぅ……」

「パルくん……」

 

 至高の御方がわざわざ蘇生した兎人族の亜人———シアが即席で作られたであろう粗末な病床で呻き声を上げている兎人族の少年を看病していた。パルと呼ばれた少年の顔色は悪く、ハァハァと苦しそうに呼吸していた。

 

「シアお姉ちゃん……僕、死んじゃうのかな……」

「大丈夫ですよ、もう魔物はフェアベルゲンを襲って来ないですから! 神様が悪い魔物をやっつけちゃいましたから!」

 

 高熱で魘されるパルの汗を拭いながら、シアは必死で励ます。だが、パルの顔色は一向に回復しない。

 ここはフェアベルゲンの仮設病院。今回の襲撃によって負傷した亜人族達が集められていた。

 魔人族が使役していた魔物による負傷者は多く、生き残りの亜人族達の大半が未だに病床についていた。ナグモは改造する亜人族達の身体を調べる為にフェアベルゲンの医療施設に案内する様にアルテナに要求し、アルテナからも「アインズ様の使いの方ならば問題ありませんわ!」と了承されてこの場にいた。なのだが……。

 

「リン……私は死ぬかもしれん……。父さんの遺言を聞きなさい……」

「イヤだイヤだ! 父さんが死ぬなんて、絶対やだぁぁっ!」

「…………」

「すまない、メープル……君を抱き締めたいのに、もう俺の腕は……!」

「いいえ、いいえ。大丈夫よ、あなた……たとえ腕が無くなっても、あなたが生きていてくれれば、私はそれだけで……っ」

「…………っ」

「う、ぐぅ……」

「なあ、いつもの元気はどうした兄弟? お前と俺で、いつか族長の座を獲ってやるって約束したよな? なあ、おい……なんとか言ってくれよ、兄弟……!」

「……っ、……っ」

 

 フェアベルゲンは開国以来、大きな災害とは無縁だった為に今回の様な大勢の負傷者に対応し切れず、更には魔力を持つ者を魔物と同じ穢れた存在だと処刑してきた為に回復魔法を使える者もいない。

 その結果が部屋に所狭しと寝かされた大勢の負傷者だった。彼らは満足な治療も受けられないまま、朽ち果てていく————。

 

「…………この、低脳共が」

「ええと、しょちょ〜?」

 

 イライラとした声にミキュルニラが目を向ける。そこには眉間に皺を寄せたナグモがいた。

 ナグモはミキュルニラに返事をする事なく、我慢ならないとばかりに舌打ちをしながらパルに近付いた。

 

「あ、貴方は……!」

「邪魔だ、退いてろ」

 

 自分達の救世主であるアインズと共にいた人間(ナグモ)の事は耳にしているのか、シアは驚いた様子でナグモに振り向いた。だが、ナグモはシアには目をくれず、床にかがみ込んでパルの腕の脈をとった。

 

「お兄ちゃんは……誰……?」

「喋るな、診察の邪魔だ」

 

 冷たく言い放ちながら、ナグモはパルの瞼を開いて眼球を観察したり、鎖骨部分を軽く叩いたりして納得する様に頷いていた。そしてパルに口を開ける様に命じ、開いた口から喉を見るとフンと鼻を鳴らした。

 

「馬鹿馬鹿しい。魔物の毒で中毒症状になっているだけだ。大方、スキアーの毒鱗粉を吸い込んだのだろう。<解毒(デトックシフィケーション)>!」

 

 ナグモが解毒の位階魔法を使う。するとパルの顔色が穏やかになり、苦しみから解放されて静かな寝息を立て始めた。それを確認すると、ナグモはシアに目を向けた。

 

「おい、そこの兎人族。今から言う薬草を採って来い。フェアベルゲンの近郊に植生しているから、それを磨り潰して五日間はこの兎人族に飲ませ続けろ」

「え、えっと……」

「……二度も同じ事を言わせる気か? お前の脳には大鋸屑が詰まって」

「はいはい〜、大丈夫ですよ〜」

 

 戸惑って動かないシアに苛々と口調がキツくなるナグモの横からミキュルニラが割り込む。

 

「この子はしょちょ〜の言う通りにしてくれれば〜、ちゃんと治りますからね〜。しょちょ〜は御方々を除けばナザリックで一番のドクターだから〜、心配無いですよ〜」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

 ウサギ耳をブンブンと振りながら頭を下げるシアに、ミキュルニラはニコニコと応対しながら薬草の名前を告げていく。それに余計な手間が省けた、と言わんばかりにナグモは隣の亜人族を診察した。

 

「な、なあ、あんたは神様……ゴウン様の使いなのか? 俺達を助けてくれるのか……?」

 

 

 熊人族の中年男性が縋る様な目でナグモを見る。それをナグモは苛々とした様子を隠さずに答えた。

 

「……お前達は恐れ多くもアインズ様がわざわざ保護を約束した。ならば、この程度の()()で死者を出すなど、御方の名に泥を塗る行為と知れ」

「け、軽傷……?」

「それと、お前達の粗末な治療を見てるとイライラしてくる。風呂場を箒で掃こうとしている馬鹿を見ている気分だ」

 

 亜人族達に回復魔法を使える者が皆無な為、必然的に魔法を頼らない治療を行うしかない。しかし、中世ヨーロッパレベルの文明のトータスの治療は、至高の御方(じゅーる)によって『人智を超えた科学者にして錬金術師』と設定されたナグモからすれば原始的で我慢ならないものだった。

 

(この低脳な野蛮人共が……先程から()()()を延々と見せられるこちらの気持ちになれというものだっ)

 

 この場にいる亜人族達が負っている負傷など、ナグモからすれば擦り傷で今生の別れの様な挨拶を交わしている様なものだ。

 ナグモは人類愛に目覚めたわけではない。これはさながらベテランの職人が、新人からレンチを引ったくって「黙って見てろ」と言い出す様なものだ。

 しかし、熊人族の中年は無表情ながら不機嫌そうな人間の少年に、ガバッと土下座した。

 

「頼む! どうか息子を……俺の息子を助けてくれ!」

 

 熊人族の中年を皮切りに、その場にいる亜人族達は次々とナグモに頭を下げていく。

 

「お願いです! どうか父さんを助けて下さい!」

「あの人を……あの人を治して上げて下さい!」

「なあ、兄弟を助けてくれ! お願いだよ、何でもする!」

「っ、喧しい……黙って見てろ! 順番に診察してやる!」

 

 「おお、ありがたい……」、「さすがはゴウン様の使いの方だ……」と拝み出す亜人族達に辟易するナグモに、ミキュルニラがちょこちょこと近寄ってきた。

 

「しょちょ〜、どういう風の吹き回しですか〜? 亜人の皆さんを治療したいなんて〜、ひょっとして明日は槍が降るんでしょうか〜?」

「……勘違いするな。これも、アインズ様の御計画の為だ」

 

 何故かニコニコとするミキュルニラに苛々———何故そんな事にイライラとしているのか分からないが———しながらも、ナグモは小声で答えた。

 

「この亜人達はアインズ様が御支配された地が、いかに幸福であるかを示すのに必要だ。それと治療と平行して改造計画も進められるから、好都合な機会だからやるだけだ」

「……ん〜、分かりました〜。そういう事にしておきます〜」

 

 ふむふむ、とワザとらしく頷くミキュルニラに何故か憮然とした物を感じながら、ナグモは指示を出し始めた。

 

「と・に・か・く! 人手が足りん。実験的に治癒師の天職を付与した研究員達を第四階層から連れて来い!」

「はい〜、ヴィクターさんに、リヒターさん、フラットライナーさん、それとレイスさんですね〜。回復魔法なら、ペストーニャさんにも応援お願いしますか〜?」

「……いや、第九階層にまで応援を頼むほどじゃないな。代わりにそうだな……香織を呼んで来てくれ」

「香織ちゃんですか〜? 確かに治癒師でしたけど〜、アンデッド化して治癒魔法が使えなくなったんじゃ……」

「僕がそんな欠点をいつまでも残しておくと思うか? 戦闘用に改造した際に、既に克服済みだ」

「なるほど〜、さすがはしょちょ〜です〜」

 

 手配をする為に部屋から出ようとしたミキュルニラだが、ナグモにクルリと振り向いた。

 

「所長」

「何だ? 必要な伝達は済ませた筈だが?」

 

 ナグモは振り向かず、目の前の亜人族を診察しながら返事をする。

 ……ミキュルニラから、いつもの道化じみた様子が消えている事に気付いていなかった。

 

「……以前は誰かと関わる事すら疎ましがっていたのに、優しくなられましたね。ええ、本当に」

 

 弟の成長を目の当たりにした姉の様な目で、亜人達の治療に没頭するナグモを見て……すぐにミキュルニラは道化じみた口調に戻った。

 

「やっぱり香織ちゃんの愛のお陰ですかね〜? いや〜、愛は偉大なのです〜」

「はぁ!?」

 

 それじゃちょっと香織ちゃん達を呼んで来ますね〜! と言い残し、バビュ〜ンッ! と出て行ってしまった副所長にナグモは言い返す機会を逃してしまった。

 

(僕が優しいだと……? あの能天気は、何を言っているんだ?)

 

 苛々とナグモは亜人達の治療を再開した。

 

(僕はじゅーる様から「人間嫌いで他人が嫌い」と定められた身。僕が他人相手に優しくなど、するわけがないだろうに)

 

 じゅーるによって設定された天才的な腕前で、止血しかされてない傷をミシンの様に正確かつ手早く縫合していく。

 

(愛した香織や借りが出来たユエが例外で、こいつらはアインズ様の為に治療しているだけだ)

 

 毒を受けて壊死しかけた腕に手持ちのポーションを振りかけながら、解毒魔法を併用していく。四肢を完全に失った者は、香織の万能細胞を応用して培養したキメラ細胞で新たな四肢を生やしていけば良いだろう。

 

(特殊兵士計画のサンプルは多い方が好ましいし、コキュートスを推薦した以上は彼の顔を立てる為にもこれ以上の戦死者が出ても困るだけだからだ)

 

 苛々と自分に言い訳しながら、ナグモは次々と亜人達に治療を施していく。

 

(よって……僕が他人に優しいなどあり得ない)

 

 その後、ミキュルニラが引き連れて来た香織や研究員達に指示を出しながら、ナグモは亜人達の治療を続けた。

 結局———ナグモが手を休めたのは、全員を治療し終えた後だった。

 

 ***

 

「ふう……疲れた〜」

「ふふ〜、お疲れ様なのです〜」

 

 日が完全に落ち、星明かりだけがフェアベルゲンを照らす外で香織はミキュルニラと共に一息ついた。といっても、本当に疲れたわけではない。アンデッドとなった香織の身体は肉体的な疲労とは無縁な為、精神的な疲労を感じているだけに過ぎない。

 

「でも、私だけ先に休憩しちゃって良かったのかな? ナグモくんはまだ亜人族の人達を診て回っているのに……」

「大丈夫ですよ〜。もう治癒魔法が必要な人はいませんから〜。あとは確認の為に診察されてるだけですから〜」

 

 一仕事を終えた香織を労わりながら、ミキュルニラはスッと頭を下げた。

 

「……ありがとうなのです、香織ちゃん。しょちょ〜を好きになってくれて」

「え? 急にどうしたのかな?」

「以前のしょちょ〜なら、亜人族の皆さんを研究対象として見ても、治療しようなんて言わなかったと思うのです。しょちょ〜が優しくなったのも、きっと香織ちゃんがナザリックに来てくれたからなのです」

「そうかな……? そんな事ないと思うよ。だって、ナグモくんは優しい人だもの。ただほんのちょっと、無愛想に見えるだけだよ」

「ふふ〜、確かに〜。ほんのちょっと無愛想さんなのです〜」

 

 ユエがいれば、「ほんの……ちょっと?」と微妙な顔で首を傾げるだろう。それを知ってて、ミキュルニラは笑う。香織もまたつられる様に笑顔を見せた。

 ———その笑顔に、少しだけ罪悪感を抱く。第四階層の奥、香織の同郷の人間達の死体を保存している事に。

 

(あれは……今後のナザリックの為に必要な実験でした。所長も問題ないとは言ってました……でも……)

 

 真実を知ったら、目の前の彼女は———ナグモに人間を嫌悪する以外の感情を与えてくれた彼女は、決して許さないだろう。もしかしたら、ナグモの事を激しく嫌悪するかもしれない。それを考えると、ミキュルニラは暗い気持ちになるのだ。

 

(何故、でしょうね……。以前は人間さんを実験動物(モルモット)にする事に躊躇いなんて無い筈だったのに……)

 

 『ナザリックの者達には誰でも平等に接するが、それ以外の者達には実験動物(モルモット)として扱う事に躊躇しない』。

 そういう風に創造主(じゅーる)に設定されたのがミキュルニラ・モルモットだった。いつの日だったか、「ホラ、モルモットに実験動物(モルモット)扱いされるとか皮肉が効いてて良くありません?」とじゅーるがるし☆ふぁーに言っていた事を覚えている。

 だからこそ、彼女のカルマ値はマイナス寄りになっており、ナザリックの外の人間などどうでも良かった。

 ……じゅーるがナザリックから去り、自分の設定(在り方)を変えたその日までは。

 

(所長は……きっと気付いてないんでしょうね。あの人達の中に、香織ちゃんのお友達がいたかもしれない事に……。香織ちゃんを人間に戻す時が来た時の為の実験に使うと言ってましたけど……でも……)

 

 果たして、それは本当に可能なのだろうか? 可能だったとして、かつての友人達を犠牲にした実験の賜物だと香織が知ったら、素直に受け取ってくれるのだろうか?

 じゅーるによって、カルマ値を()()に設定し直されたミキュルニラには、ナグモがやっている事が香織との関係を壊してしまうかもしれない事を恐れていた。

 

「ミキュルニラさん? どうかしたの?」

 

 ナザリックの新たな友人であり、ナグモが愛している少女が黙ってしまった自分を怪訝そうに見つめてくる。それに対して、ミキュルニラはいつものマスコットの道化みたいな口調で答えた。

 

「……何でもないですよ〜。香織ちゃんとしょちょ〜は、相変わらずラブラブだな〜、って」

「もう、ミキュルニラさんってば」

 

 照れ笑いする香織に、これ幸いとミキュルニラは話題を変えた。

 

「ああ、そうです〜。香織ちゃんの戦闘用のお洋服〜、どうでした〜? あれ、私が作ったんですよ〜」

「うん、動き易くてとても良かったよ! 今まで治癒師だったから後衛で戦う事が多かったけど、私もナグモくんを守る為に戦っていけそう!」

「それは良かったです〜。でも〜、あまり無理はしないで下さいね〜。香織ちゃんは今まで争い事と無縁な場所で生活していたと聞きましたから〜、戦う事が気付かない内にストレスを溜めちゃっているかもしれないですから〜」

「大丈夫だって、ミキュルニラさん。それに私ね、昨日の戦闘で初めて人を殺したけど———思ってた程に何とも思わなかったの」

「……え? 香織、ちゃん……?」

 

 ミキュルニラは驚きながら、香織を見た。

 星明かりだけが照らす暗い夜———香織の真紅の眼が、いつもよりも鮮明に映った。

 アンデッド特有の赤い眼が……不敬にもアインズみたいだと、ミキュルニラは思ってしまった。

 

「でも、考えてみれば当然だよね。だって———()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ———まるで。害虫が出たから駆除したと言う様な様子で、香織は言った。

 その表情は人を殺す事に躊躇いなど感じてないかの様な普通の——異形種として、普通の表情だった。

 

「…………うん。至高の御方の為だから、きっとその通りですね〜」

 

 ややあってから、ミキュルニラはいつもの道化の笑顔を被って頷いた。

 

 

 ———ほんの少しだけ欠けた月が、二人の少女を照らしていた。




>ナグモ

「僕は他人に優しくなどない! Q.E.D!」(亜人族達の治療をしつつ)
 
 ナグモ・ムジークとでも呼んであげて下さいな。やっている事の元ネタはあれなので。一応、アインズの狙い通りに他人に寛容な心を少しずつ学んでいってるのかも……?

>香織

 ———その一方で。彼女は人間としての精神を薄れさせたけど。鈴木悟がアインズ(異形種)となって人間に対して親近感が湧かなくなった様に、香織もキメラアンデッドとなって人間的な感情を失いました。それに香織はヤンデレ的な部分もあるから、愛しの人の為ならば血で手を染める事も厭わなくなると考えました。ナザリックのシモベらしくなって、良かったね!

 ああ、本当に……早く出番を書きたいなあ、雫ちゃん。楽しみだなぁ、麻婆豆腐を食べたいくらい。
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