ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 はい、そろそろサイドストーリーを書くのに飽きてきたので大迷宮探索に戻ります。ナザリックの日常を楽しみにしていた方、ごめんなさいね。予定的にはライセン大迷宮をクリアした後に、またサイドストーリーをやる予定です。

 あとはとある方のありふれ二次で、香織を含めたクラスメイト達の状況が可哀想な事になっていたから反動で香織がハッピーな状況を書きたくなったと申しますか……。

え? ナザリックに餌食にされそうなクラスメイト? あー、あー、聞こえなーい!


第六十二話「冒険者モモンと愉快な仲間達」

「ふわ〜あ……」

 

 周囲を堀と柵で囲まれた小規模な街、ブルックの正門で衛兵は欠伸をしていた。幸いな事に見咎める者は周囲におらず、彼は暇を持て余す様に手にした槍に寄り掛かっていた。

 王国の一部の地域では魔物達の活動が活性化していると話には聞いているが、幸いな事にここブルック周辺は平和そのものだ。今日も今日とて、衛兵の男は退屈な見張り番をしていた。

 

「………ん?」

 

 ふと、街へ歩いてくる人影に衛兵は気付いた。どうせどこぞの冒険者だろうと何とはなしに見ていたが、その人影の姿格好が分かる距離になると眠気が吹き飛んでしまった。

 

 人影の正体は四人組だった。

 一人は腰まで伸びた銀色の髪を靡かせた少女だ。おっとりとした垂れがちの目は上質なルビーの様に真紅に輝き、少女に神秘的な美しさを与えていた。動き易さを重視したブラウスの下には隠し切れない豊かな二つの膨らみがあり、ショートパンツからは色白だが柔らかそうな太腿が見えていた。衛兵の男は思わず生唾を飲み込む。

 

 二人目はこちらも腰まで伸ばした金色の髪が特徴的な小柄な少女だ。銀髪の少女よりも若過ぎて男の好みから外れるが、まるで高級なビスクドールの様に整ってツンと澄ました顔は良家の子女の様だ。衛兵の男には話し掛ける事すら憚られる様な気品の高さを感じさせていた。純白のコートと黒いミニスカートに包まれた身体はまだ女性らしい凹凸は少ないが、数年後には同性すらも羨望の溜息を漏らす様な美女となるだろう。

 

 残る二人は性別が一見して分からなかった。というのも、その二人の格好は自身の体を完全に覆い隠していたからだ。

 

 一人は全身を漆黒の全身鎧で固めた人物だ。鎧には華美な金色と紫の紋様が描かれ、クローズドヘルムに覆われた頭部は全く分からない。背中に差した二本のグレートソードといい、「漆黒の騎士」という言葉がしっくりくる人物だった。恐らく鎧だけでも自分の年収より高いかもしれない、と衛兵の男はなんとなく考えた。

 

 もう一人は他の三人と比べると酷く地味だった。フード付きの茶色のローブをスッポリと被り、ローブの下には鎧の類いを着ている様には見えない。唯一気になる点があるとするなら、手にしているのが武器ではなく黒い傘という事くらいか。

 

 そんな異質な四人組をしばらく呆気に取られて衛兵は見ていたが、彼等が正門の近くまで来てようやく職務を思い出した。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを見せて欲しい。それと街に来た目的は?」

 

 問い掛ける男にスッと銀髪の少女が前に出た。花が咲く様な笑みを向けられ、男は胸がドキッと高鳴った。

 

「私達、この街にある冒険者ギルドへ登録に来たんです。ステータスプレートはこれです」

「あ、ああ、そうか。君みたいな女の子が冒険者になるなんて珍しいな」

 

 ステータスプレートを手渡され、銀髪の少女と手が触れ合う。髪の毛からフワリ、と良い香りがした様な気がして衛兵の男は思わず顔がだらしなく緩んでしまう。

 

「な、なあ。ブルックの街は初めてなんだろう? 良ければ、俺が案内しようか?」

「えー、そんな悪いですよ。お仕事の最中なのに」

「構わないって。どうせ立ち番してるだけの仕事なんだし。だからさ、俺と一緒に———」

 

 銀髪の少女の手を握ろうとした衛兵の男にゾクゥ! と背筋に寒気が走った。ガタガタと身体が笑えるくらいに震えてくる。

 小動物が地震を察知する様に、男は背筋の寒さの正体に気が付いた。

 

(え……何? あのフードの奴、こっちをメッチャ睨んでるんだけど!? というか顔が見えないのに眼光がヤバいなんて分かるってどんだけ!? これが殺気というやつなのか!?)

 

 プルプルと震えていた男だが、唐突に寒気が収まる。

 ゴスッ! とフードの人物の頭に手刀が振り下ろされていた。

 

「無闇に殺気を振り撒くな。気持ちは分かるが自重しろ」

「も、申し訳ありません。モモンさ———ん」

「モモンさん、な。なんかマヌケっぽいぞ、その呼び方」

 

 フードの人物からは少年の声が、全身鎧の人物からは自分より少し年上の様な男の声が響く。

 

「私の仲間が済まない事をした。だが、見たところ君はこの街の守衛の筈。仕事を放り出して、ナンパしようとするのは如何なものだろうか?」

「あ、ああ。その通りだな……申し訳ない」

 

 落ち着き払った全身鎧の男の声に、衛兵の男はすっかり毒気が抜かれてしまった。ゴホン、と大きめの咳払いをすると真面目な顔で職務に戻る。

 

「ええと……魔法戦士・モモン、魔法師・ユエ、聖拳士・ブラン、錬成師・ヴェルヌ、だな。目的は冒険者ギルドへの登録、と。ああ、そうだ。念の為に素顔を見せてくれないか?」

 

 ステータスプレートを確認した衛兵の男は、全身鎧の男(モモン)フードの男(ヴェルヌ)の顔を検めようとする。ステータスプレートに記されている以上、犯罪者が変装している心配などは無いが職務上の規定で素顔を確かめる必要はあった。

 

「ああ、構わないぞ」

 

 あっさりとモモンはクローズドヘルムを外した。黒髪黒目とハイリヒ王国ではあまり見ない顔立ちだが、それ以外は容姿にこれといって特筆する事のない平凡な男の顔だった。もう一人、ヴェルヌがフードを脱いだ。その顔を見た瞬間———衛兵の男は思わず呻き声を上げてしまった。

 ヴェルヌの顔は酷くボロボロだった。まるで硫酸を浴びたかの様に赤く爛れ、元の顔が一目では判りづらくなっていた。あまりの様相に言葉を失ってしまった衛兵の男に、モモンが説明する。

 

「ヴェルヌは魔物の毒液で顔が焼け爛れてしまってな。治癒師でも完全には治せないそうだ。だから常に顔を隠しているのだ」

「………まだ何か?」

「い、いや! もう十分だ!」

 

 硬く、無機質な声を出すヴェルヌは慌てて衛兵の男は首を何度も縦に振る。職務上の決まりとはいえ無神経な事をしたと衛兵の男は恥じ入り、慌てて通行許可を出した。

 

「ブルックへようこそ。冒険者ギルドは中央の道をまっすぐ行った所にある。近くには宿屋もあるから、そこに泊まるといい」

「ん……お仕事、ご苦労様」

 

 金髪の少女———ユエが頷いた後、四人組は衛兵の男の前を通っていく。

 

「あ、そうそう」

 

 銀髪の少女———ブランが振り向いた。何事か? と首を傾げた衛兵の男の前で———ヴェルヌの腕を組んだ。むにゅっ、とブラウスから盛り上がっていた二つの膨らみがヴェルヌの腕に押し付けられる。

 

「んなっ!?」

「さっきのお誘いは嬉しいけど、ごめんなさい。私にはもう愛してる人がいるんです」

「……もう行くぞ、香———ブラン。この人間に用は無い」

「ふふ、嫉妬してくれたの? 大丈夫、他の(ひと)に靡いたりしないから安心していいよ。ナグ、じゃなくてヴェルヌくん」

 

 あんぐりと口を開ける衛兵の男を余所に、二人は腕を組んだままモモン達の所へ戻っていく。

 

「……あー、なんだ。二人とも仲睦まじい様で何よりだぞ、ウン」

「はい! 彼とは仲良くやっています!」

「はっ……これも全てはモモンさ———んのお陰です」

「モモンさん、な。……なあ、ユエ。もしかして、この二人はいつもこんな感じなのか?」

「……モモンさんも早く慣れた方がよろしいかと。私はもう処置なしと諦めているので」

「無礼な……ご安心下さい、キチンと公私は分けておりますので」

「まあ……やる事をやっていれば、別に文句は言わんよ。お前達は若いしな……」

 

 立ち去る四人組の背中を見ながら、今しがた見た衝撃に衛兵の男はしばらく立ち尽くしていた。そして、その背中が見えなくなってからようやくポツリと呟いた。

 

「すげえ……あんな顔でも、彼女は出来るのか」

 

 俺も今夜、酒場でアタックしてみようと思いながら衛兵の男は退屈な立ち番に再び戻った。

 

 ***

 

 冒険者ギルドへの道を歩きながら、モモン———アインズは胸を撫で下ろす様に息を吐いた。

 

「とりあえずは第一関門突破か。ユグドラシルみたいに一部の街は異形種は入れない、という仕様になっていなくて助かったな」

「その心配は無用かと。王都にいる時に結界を作り出しているアーティファクトを調べましたが、あの程度の術式ならば第四位階以上の偽装魔法をかければ簡単に誤認させる事が可能でした」

「へえ。ナグモくん、私の知らないところでも色々調べていたんだね」

「ブラン、今のそいつはナグモではなく冒険者モモンの仲間のヴェルヌだ。そしてお前も白崎香織ではなく、冒険者モモンの仲間のブランだ」

「あ、申し訳ありません! アインズさ、じゃなくてモモンさん!」

「本当は敬語も止めて欲しいんだがな。敬語だと、こう、冒険者仲間なのに隔たりがあるというか……」

「……それはあまり問題ないかと」

 

 それまで黙っていたユエがポツリと呟く。

 

「モモンさんは、外見上は私達の中で一番の年長者。年長者のモモンさんを敬うのは不自然な事ではない、です」

「むっ? そうか。言われてみれば、そっちの方が自然に見えるか……。しかし、お前はすぐにモモンさんと呼ぶのに慣れたな」

「私はこれでも、元・王族なので。腹芸くらい出来ないと、やっていけませんでした」

 

 はあ〜、やっぱり王様は演技力が重要なんだなあ……とアインズはユエの話にそんな感想を抱いていた。毎日やっている支配者ムーブの練習は、王族としても必要な事だった様でアインズは安心した。

 

 ———アインズ達がこうして人間の冒険者に変装しているのには、深い事情があった。

 まず、フェアベルゲンの大迷宮に行こうとしたアインズだが、大迷宮には入る事が出来なかった。入り口にあった石版を要約すると、他の大迷宮を四つ以上クリアしてからでなければ入れないらしい。アインズが持っている盗賊職のアイテムで無理やりこじ開ける事も考えたが、熟慮した上でそれは止めておいた。

 

(運営が予期してないバグ技でダンジョンに入るとか、システムエラーになったら困るしなぁ。ユグドラシルなら、そんな仕様にした方が悪いの一言で片付けられるけど)

 

 そんなわけで捕らえた魔人族(フリード)から()()()()()情報を基に、アインズは先に他の迷宮から片付ける事にしたのだ。各地の大迷宮は人里の近くに存在する物もある以上、ダンジョン周辺で目撃されても誤魔化しがきく存在————冒険者にアインズ達は変装する事にした。ユエ以外は偽名を名乗らせ、ナグモに至っては死亡扱いとはいえ王国から異端認定を受けていたので、薬品で顔を変えさせる徹底ぶりだ。(すぐに戻せるそうだが)

 

(ここに来るまで本当に色々あったなあ……)

 

 アインズはここ最近の出来事を思い出してしんみりとしてしまう。

 亜人族を助けたら何故か彼等から神様扱いされ、コキュートスに復興支援を任せていたら何故か亜人族達が自分の黒歴史(パンドラ)を量産する軍隊となっており、セバスを竜人族の里に行かせたら何故かティオという娘と婚約する事になっていたり……。

 

(ていうか色々ありすぎだろ! 何だよ、このイベント盛り沢山! もうお腹いっぱいだわ!)

 

 もはやストレスで無い胃がキリキリと痛む感じがしてくるアインズ。それも精神の沈静化が行われれば収まるが、キャパオーバーな事態は解決してくれず、その度に「こんな時ギルメンの皆がいてくれたら」と胸の内で既に数え切れないくらい愚痴っていた。そこで細かい事はアルベドに「後は任せた!」と支配者ムーブで仰々しく言った後、アインズは神代魔法の習得の為の旅に出る事を決意したのだった。

 

(これは家出じゃないぞ。ナザリックにはすぐに転移で戻れるからな。打倒エヒトの為に神代魔法の習得は最優先事項だから。それに俺はデスクワークより、外回りの営業の方が向いているからな!)

 

 人はそれを現実逃避と呼ぶのだが、アインズは精一杯の理論武装で「冒険者モモンとして外を探索しなければならない理由」を上げていた。

 そして神代魔法を習得しに行くメンバーとして、ナザリックの中で神代魔法の習得が行えた者———ナグモ、ユエ、香織を冒険者仲間という名目で連れて行く事にしたのだ。

 

「……そろそろ離れろ。さすがに少し恥ずかしい」

「この際だから、街の人達にもう私には彼氏さんがいます、ってアピールしなきゃ。私も男の人に何度も声を掛けられたくないもの」

「……」

 

 ナグモ(ヴェルヌ)は無言で香織(ブラン)の肩を抱き寄せた。それを香織はうっとりとした表情で身体を擦り寄せる。

 

「こンのバカップル共は……」

 

 周りに聞こえない様にアインズはこっそりと呟く。道行く人が驚きながら見てくる事に気付かない(無視してる)ナザリックの新しいカップルに、今こそ嫉妬マスクを装備する時なのかもしれない。

 

(まあ、あれだけ苦しんでいたんだし、じゅーるさんの息子(元NPC)の恋が実って俺も嬉しいさ。デミウルゴスの話だと、既に……に、肉体関係まで行ってるだろうという話だしな)

 

 年相応の清らかな交際を! と注意すべきか、相手がアンデッドだから妊娠しないので大丈夫だよね? と黙認するか、アインズ(カルマ値極悪)は真剣に考え込んだ。

 

(というかデミウルゴスは何で二人が肉体関係まで持った事をあんな嬉しそうに語っていたんだ? 「惜しむらくはあの少女がアンデッドという事ですが、ナグモならその問題も解決するでしょう」って……香織がアンデッドだと何か問題でもあったのか? 異種族交際は難しいけど、ナグモは香織を愛してるから問題ないと言いたかったのか?)

 

 同僚の恋を応援するなんて、デミウルゴスも良いところがあるじゃないか、とアインズは感心する。

 チラリ、と肩越しに振り返る。そこには今がまさに幸せの絶頂というディスイズバカップルがいた。

 

(………別に独り身でも羨ましくなんて、ないからなっ)

 

 もしもじゅーるがこの世界にいたら、思い切り文句を言ってやろうとアインズが決めた時、不意にガントレット越しの手に柔らかい手の感触を感じた。見れば、ユエがアインズの手を握っていた。

 

「あー……ユエ?」

「これも偽装工作の一環。後ろの二人がイチャイチャしてるのに、私達だけ何もないのは不自然、です」

「ええ……そんなものなのか?」

「そんなもの、です」

 

 キュッと小さな手でアインズの手を握ってくる。アインズは何と返すべきか分からず、とりあえずユエに言われるがままに手を握り返していた。

 

(ま、まあ。学校で二人組作ってー、と言われた時に余った子が先生と組む様なものだよな、そういう感じだな、ウン)

 

 アインズもユエと手を繋ぎながら、冒険者ギルドへの道を歩いていく。周りからの目が何故か微笑ましいものが混じっている気がするが、アインズの精神沈静化が平常心を与えていた。

 

(そういえばデミウルゴスで思い出したけど、なんでアイツは俺が冒険者という偽の身分(アンダーカバー)を作るのに、あそこまで賛成したんだろ? アルベドは御身の警護に軍隊の派遣を! なんて言っていたのに……)

 

 いつも通り、「なるほど、そういう事ですか」と頷くデミウルゴスに、詳しく教えてよなんて言えないアインズは、冒険者ギルドに着くまでずっとその事を考えていた。

 

 




>漆黒の英雄モモン

出ました、我らのモモン様。グリューエン火山とか浅い部分はアンカジ公国が採掘を行っていたそうなので、万が一人間とバッタリエンカウントした時を考えて冒険者の身分を作りましたとさ。

>ナグモ達の偽名

 ユエはともかく、ナグモと香織はそのままだとトータスでは目立つ名前だよね? と考えた結果、偽名を名乗らせました。というか原作でも、ハジメのステータスプレートを見た時にトータスの人達は「変わった名前だな。どこの出身だ?」と聞いて来ても良い気はします。

>ユエ

……さてはて?

>デミウルゴス

どうして彼はナグモと香織がよろしくやってるのを嬉しそうに語るのでしょうねえ? 因みに既に×××版で何度も●出ししてますけど、香織の身体はアンデッドだから避妊の心配は無いです。もしも将来的に子供が欲しくなったら、きっとナグモは知恵を絞ってどうにかするだろうなぁ。デミウルゴスも、その研究成果にニッコリするだろうなぁ……。ついでにアルベドとかシャルティアとか、ナグモを詳しく問い詰めるだろうなあ……。

それとアインズ様が冒険者になったら、何が良いのでしょうねえ? 例えば……英雄モモンが活躍すればする程、魔物退治をしているとある人達の名声が地に堕ちちゃったりしても、モモンさんには預かり知らぬ事だよねえ?

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