ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 自分の中ではアインズって、煽り耐性とか高い気がするんですよね。その代わり、絶対に踏み抜いたらいけない地雷があるけど。
 とりあえず、どうなるか見てみたいから誰かアインズ様の前でギルメンの悪口を言ってみてくれません? 三百円あげるから。


第六十六話「かつて解放者だった少女の執念」

「これが………大迷宮の入り口か?」

 

 香織に案内された先でアインズは戸惑いを隠せなかった。

 ライセン大峡谷の一角、岩肌にちょうど人一人が入れそうな亀裂があり、その奥に袋小路の洞穴があった。そして、そこの壁に文字が彫られていた。

 

『おい…ま……! ミレディ・ライセン…ドキ…ク大迷宮…♪』

 

 所々が掠れているが、いやに女の子らしい丸文字で。

 

「えっと……分身の子達が見つけたのが、これなんですけど」

 

 香織自身もかなり自信無さそうに答える。そりゃそうだろ、とアインズは心の中で頷いた。

 

(この世界の神代魔法が手に入る大迷宮と言うならさ、もっとこういかにもなダンジョンを思い浮かべるじゃん? 普通、こんな風に入り口を書くか?)

 

 クローズドヘルムの中の骨だけの顔でアインズは口をひくつかせる。怪し過ぎて、もう一周回って本物なんじゃないか? と思い始めていた。考える時間を稼ぐ為にも、解放者オスカー・オルクスの事を研究しているナグモに問い掛ける。

 

「……ナグモよ。お前の見立てを聞こう」

「……恐らく本物かと」

「……え? マ、」

「ウソ、本物なの!? これが?」

 

 「マジで?」と思わず素になりかけたアインズに被せる様に香織が叫ぶ。ナグモは懐から出した片眼鏡で壁の文字を調べた後に頷いた。

 

「この石版……書いてある文章はふざけた内容ですが、分析したところ作製から四千年以上は経過しています。年代的にオスカー・オルクスの迷宮の作製年数と一致します。加えてミレディ・ライセン……オスカー・オルクスの手記にあった解放者の一人と名前が一致しています。解放者の情報は世間には流布していない筈なので、ここがミレディ・ライセンの作製した大迷宮である可能性は極めて高いかと」

 

 「ええ……」と香織が引き気味になったのにアインズも同意したかった。確かに理屈は通っているが、未知やダンジョンに心を躍らせていた自分の興奮とかを返して欲しい。

 

「ま、まあ、とにかく探していた大迷宮の入り口が見つかったんだ。よくやったぞ、香織」

「はい、ありがとうございます! アインズ様!」

「ふむ……どうやらここが隠し扉となっている様です」

「あ、待て。迂闊に、」

 

 触るな、と言う前にナグモが壁の窪みに触れて入り口を開けようとして———。

 

「待って」

 

 その手をユエが掴んだ。

 

「いきなり何だ?」

「……未知のダンジョン、とりわけ相手()()()()()が作った物に関しては、入り口から即死型のトラップが仕掛けられている可能性を考慮して、対トラップ対策を十全にしてから侵入するべし。それが基本」

 

 ですよね? と視線で確認を取ってきたユエにアインズは頷いた。

 

「……その通りだ。侵入する敵を減らす為に、入ったと同時にトラップを起動させるダンジョンもある。それと情報収集対策も万全にしろ。雑魚敵を当て、相手チームの情報を抜き取った後に奇襲で一気呵成に終わらせる。それがぷにっと萌えさんが私に教えてくれた『誰でも楽々PK術』の基本だ」

「至高の御方の戦術ですか!?」

「それとダンジョンに潜るなら押し込みPKにも注意しろ。オスカー・オルクスの大迷宮の様に番人を配置しているだけという可能性もあるが、何者かがダンジョンマスターとして此方を伺っている可能性も考慮するのだ」

「は、はっ! 申し訳ありませんでした!」

 

 直角に身体を曲げるナグモによいと答えながら、アインズはユエを見た。ユエは教師のお手本通りにやれた生徒の様に、少しだけ得意そうにアインズを見返していた。

 

(よしよし。きちんとぷにっと萌えさんが話していた事を実践出来ているな。もっと様々な事態を想定すべきだけど、そこはおいおい教えていくべきだな。しかし……うん、そうだな)

 

 アインズの中で一つの考えが浮かんだ。未知のダンジョンを前に決して油断すべきではないが、今後の為には必要だろう。

 

「ナグモ、ユエ、香織。このダンジョンはお前達が中心となって攻略してみろ」

「わ、私達がですか?」

「うむ。今後、各地にあるという大迷宮を攻略していく事を踏まえるなら、ダンジョン攻略のやり方などを学んでいくべきだろう。無論、危険になりそうな場合は私も口出ししていくが」

 

 これはNPC達を観察して分かった事だが、基本的にNPC達は製作された時点で与えられたスキル以上の事は出来ない。例えば料理のスキルを持たないNPCに調理をさせても、必ず失敗に終わった。

 ナグモはNPCから脱却した存在だが、やはり対応力にはまだまだ難があった。そもそもナザリックの外に出て冒険をするなど創造主(じゅーる)は予想だにしていない事だから当然と言えば当然だ。

 

(香織もユエもパーティー戦闘は様になってきたけど、ダンジョン攻略に関しては初心者(ルーキー)だからな。彼女達にも色々と学んで貰わないと)

 

 ギルドメンバー達と数々の冒険をこなしてきたアインズならば、未知の大迷宮にも完璧と言わずとも十分な対応を取れる自信はある。しかし、アインズの言う通りにやるだけではナグモ達はあまり成長しないだろう。言うなれば、習うより慣れよというわけだ。

 

「一先ずは先程言ったトラップ対策と情報収集対策から始めるのだ」

「……かしこまりました」

 

 ナグモは覚悟を決めた様に頷くと、<偽りの情報(フェイクカバー)>や<探知対策(カウンター・ディテクト)>などの情報収集対策の魔法を唱え始める。香織とユエもキュッと顔を引き締めながら、アインズが取り出した巻物(スクロール)で大迷宮の攻略に備えた。

 やがて、アインズが指定した対策魔法を全て使い終わり、ナグモは警戒しながら大迷宮の入り口を開けた。

 

 ヒュン、ヒュン、ヒュン!

 

 風切り音と共に無数の矢がナグモ達へ放たれる。即座にナグモは黒傘を、香織とユエは用意していた“聖絶”を発動させてこれを防いだ。

 

「やはり、か……」

 

 予想通りの展開にアインズはむしろ納得した様に頷く。同時に、ここが本物の大迷宮だという可能性は高まった。

 全ての矢を叩き落とした後、一行が先を進むと十メートル四方の部屋に出た。奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びており、そして部屋の中央にはある石版には入り口と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が彫られていた。

 

『ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ』

『それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ』

 

 うわぁ……とアインズは軽く引く。わざわざ『ニヤニヤ』という部分や『ぶふっ』という部分を強調して書いているあたり、書いた人間の性格の悪さが滲み出ている様だ。

 

(なんというか……るし★ふぁーさんを思い出すな。あの人、PVP中でも煽りチャットを同時進行で送っていたしなぁ)

 

 この手の煽り文章などPVPで何度も受けたアインズにとっては挨拶のようなものだ。だが、ナグモ達にはそうでも無いらしい。いつもは無愛想な表情のナグモだが、この時ばかりは何を考えているかアインズにも理解できた。

 

「………何だろうな。この苛立つ様な、胸がムカムカする様な感情は」

「うん、私もちょっとイラッとしちゃったかな? かな?」

「気持ちは分かる。私も少しカチンときた」

 

 すなわち———「うぜぇ……」である。

 

『追伸:入り口を考え無しに開けようとしちゃった子は、可哀想だと思います………おつむが』

 

 ズガガガガガガガッ!

 

 神速の抜き撃ち(クイックドロウ)が黒傘シュラークから放たれる。ガンナーのクラスを得ているだけあって、回転式機関(ガトリング)砲を凌ぐ速度で行われた連射は正確無比かつ最速で石板を粉々に撃ち抜いた。

 

「………申し訳ありません。少しばかり、感情的になってしまいました」

「あー、うむ………まあ、煽りチャットは慣れてないととても苛立つからな。ところで、まだ何か書いてある様だぞ」

 

 アインズが指摘した先にナグモは目を向けた。石板があった部分の床、つまりは石板を砕くかどかすかしないと見えない所にも何か文字が彫られていた。

 

『ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~。プークスクス!!』

 

 ビキィ!! とナグモのコメカミに青筋が立ったのをアインズは見た。黒傘を持つ手がプルプルと震えるのを見て、アインズはこっそりと溜息を吐いた。

 

「………こりゃ一筋縄じゃいかなそうだな」

 

 ***

 

「アッハッハッハッ! あ〜、おっかし! あの程度でマジギレとか耐性無さ過ぎでしょ!」

 

 ライセン大迷宮の最深部。迷宮の主———ミレディ・ライセンは迷宮内を監視している映像を見ながら、腹を抱えて笑い転げていた。笑い過ぎて出てきた涙を拭おうとして———ゴーレムの身体には涙が流す機能がない事に気付いて、フッと寂しそうに笑った。

 

「ああ、本当に……何千年ぶりかな、こんなに笑えたの」

 

 遥かな昔———神エヒトに敗れ、次代に希望を託すと決めた時からミレディは人の身体を捨て、ゴーレムの身体に魂を移した。老いる事も朽ちる事もなく、食事も摂る必要のないこの身体はエヒト神に歯向かった異端者として地上を追われたミレディにとって都合は良かった。自分の代では無理だったが、きっと次の世代が解放者の意志を継いでくれる筈。その時まで、自分は生き続けて神代魔法を守るのだと。

 

 だが、ミレディの期待に反して次世代の解放者は現れなかった。

 

 ミレディ達にとって誤算だったのは、エヒト神がミレディの時代の文明を完全に消し去ってまで自分を信仰させる事に腐心した事だ。『()()()達のせいで滅茶苦茶に破壊された世界を救った偉大なるエヒト神』という演出をした為に、ミレディ達の名前は後世には全く伝わらなかった。直系の子孫ですら、僅かな口伝のみでミレディ達がやろうとした事の真意など伝わっていないだろう。

 

 そして————数千年に及ぶ孤独がミレディを待ち構えていた。

 

 最初の百年間はきっと来ると期待していた。

 次の三百年間はきっと自分の意志は後世に伝わっている筈だ、と自分に言い聞かせた。

 千年をこえ、もう止めようかと諦観してきた。自分達はどうしようもなく敗北したのだ。もうトータスの人々はエヒトの玩具として生き続ける運命なのだ、と。

 

(……そんな、の……そんなの、出来るわけが無いじゃん! オーくん、ナッちゃん、メル姉、ヴァンちゃん……それにルースくんも、ユンファちゃんも! 皆の……皆の想いを無かった事にするなんて、絶対にしたくないっ!)

 

 もはやそれは、執念と呼ぶべき感情だった。かつての解放者達……そして、自分達を支えた組織のメンバー達の顔を———その末路を思い出す度に、ミレディの中で憎悪が燃え上がった。

 

(生きてやる……! あのクソ神が死ぬ、その日まで……絶対に生きてやる……!)

 

 自分の友人を、そして家族に等しい皆を引き裂いた天上の神に尽きる事の無い憎悪を燃やして、ミレディは数千年に及ぶ孤独に耐えた。

 

(もう相手が悪魔だって、構わない……! アイツを殺してくれるなら、私はなんだってやってやる……!)

 

 もはや、手段と目的が乖離しつつある事はミレディ自身も自覚はしていた。だが神によって無惨な末路を辿った仲間達と数千年の孤独は、かつて自由な意志で人が暮らせる世界を目指した解放者のリーダーの志を変質させつつあった。

 

「ねえ……期待させてよ」

 

 迷宮の中を進む四人組を見ながら、ミレディは呟く。

 それは敬虔な祈りにも、光に縋りつこうとする亡者の呟きにも似ていた。

 

「私達がやってきた事は無駄じゃなかった……私達が残した物は、キチンと形として残るんだ、って」




>ナグモ

 こういう奴って、意外と煽り耐性が低い気がする。それこそねらーになったら、ムキになってアンチを論破しようとするタイプ。

>ミレディ

仲間達の遺志を無にしたくない、仲間達をバラバラに引き裂いたエヒトが憎い、で数千年生き続けてしまった子。ドキュンサーガのマオみたいな感じかも。
もしかしたら、ここで終わらせるのが彼女にとって救いかもしれない。

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