ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 仕事でうまくいかない事があって、執筆モチベーションが大分下がっていました。いつもより短めです。なんというか、ストレスがあると趣味に時間を費やしていても没頭出来なくなるものなんですね。もしかしたら、諸事情で次回の更新が空くかもしれませんが、ご了承下さい。


第六十八話「幾千の時に意義ありや?」

「見つけたぞ……このド低脳……!」

 

 地底戦車———ペルシダーが掘り当てた部屋にナグモは降り立つ。同時にコックピットからアインズ達も降りてきた。

 

(うわぁ……ダンジョンを掘削するとか、マジでアリなのか。ユグドラシルだったら真剣にクレームものだよな、これ)

 

 ユグドラシルではゲームの仕様上出来なかった解決法を実践されて、アインズは軽くドン引きする。フレンドリーファイアが解禁になったのはアインズも知っていたが、こんなやり方が認められるとは思わなかった。

 

(システム・アリアドネやダンジョン製作規定に引っ掛かると思ったけど、資産金の目減りの様なペナルティは今のところ無し。ユグドラシルのルールが適用されるのはナザリックの中だけなのか、あるいはどこまでトータスで適用されるのか調べたいけども……一先ずは)

 

 アインズは目の前の巨大な鎧騎士に意識を向ける。体長は20メートルはあるだろうか。ヒートナックルの様に赤熱化した右手の鉄球に、体長に合わせた冗談の様に巨大な棘付き鉄球(モーニングスター)

 

「まさかこういう方法で来るとは思わなかったな〜」

 

 巨大ゴーレムが外見に似合わない可愛らしい少女の声を出した。

 

「まあ、とりあえず……やほ〜、はじめまして! 私は———」

「解放者ミレディ・ライセンだな」

 

 アインズの一言で巨大ゴーレム———ミレディの動きが止まった。

 

「………何の事かな? 超絶天才美少女のミレディちゃんなんて、私は知らないなぁ」

「惚けるつもりか? いや、警戒するのは確かだろう。だが、私はある程度の確信を持ってお前がミレディ・ライセン本人だと考えている」

 

 スゥと巨大ゴーレムの眼光が細まる。

 

「ここは解放者だったミレディ・ライセンが遺した大迷宮。入り口のプレートから察するに、私達以外に今まで来訪者はいなかったのだろう。となればお前は、元からこの大迷宮に存在した者だ」

 

 加えて、とアインズは続ける。

 

「道中、ナグモに集中させていたトラップは明らかにこちらを伺いながら遠隔操作されたもの。この地に古くから住み、迷宮のトラップを全て把握している者など大迷宮の製作者であるミレディ・ライセン以外に有り得んよ」

 

 アインズがそう締め括るのをミレディは黙って聞いていた。下手な反論は許さず、威厳をもって示された考察はまさに王者の宣言の様だった。

 

(こいつ………何者?)

 

 冒険者にしては高価そうな漆黒の全身鎧の戦士に、ミレディは内心で疑念を抱いた。

 

(迷宮内でこいつはほとんど何もしていなかったけど、トラップに動じる様子はほとんど無かった。少し慌てたと思ったら、すぐに冷静に対処してたし……こいつがこの集団のリーダーなのは間違いない。ローブの子達に任せていたのは彼等を鍛える為? いや、まさか………)

 

 自分で言うのもなんだが、この大迷宮は狂った神に対抗する力を身に付ける為に難易度はかなり高めに作っている。そんな一歩間違えれば死ぬ様なダンジョンで、若輩への鍛錬の為に攻略を任せるなど普通の人間がするだろうか?

 

(どうやら私は……予想以上の相手を迷宮に入れちゃったみたい)

 

 ミレディの中で漆黒の戦士への警戒を最大限に上げる。それでも待ち望んでいた迷宮への来訪者にミレディは戯けながら挨拶した。

 

「ん〜、バレちゃったらしょうがないなぁ。そだよ〜、私が天才美少女魔法使いミレディ・ライセン。よろしく!」

「ミレディ・ライセンは人間だとオスカー・オルクスの手記にはあったが……」

「……驚いたよ。オーくんの手記を見たという事はオーくんの迷宮の攻略者かな? という事は、私達の事情は知っているよね?」

 

 巨大ミレディ・ゴーレムの眼がギラリと光る。その眼はドロリと澱んだ光を放っていた。絶望で黒々とした闇が渦巻き、それが妖しげな光となった様な眼でミレディはアインズ達を見た。

 

「……ねえ。あんた達は、あのクソ神を殺してくれるんだよね?」

「その前に質問に答えて貰おう。そのゴーレムの身体、それは神代魔法に因るものか?」

「お察しの通り、この身体は神代魔法だよ。それで私は人間の身体からゴーレムの身体に魂を移したんだけどね」

「ほう?」

 

 アインズはナグモをチラッと見る。ナグモはマジックアイテムの片眼鏡でミレディを見ながら頷いた。

 

「……確かに。このゴーレムには人間の魂が宿っています。ハーフゴーレムなどの異形種に転生したわけではない様です」

「なんと……人間の魂のままゴーレムの身体になったという事か?」

「ええ。興味深い事例です」

 

 スッとナグモは香織に視線を向けた。香織は急に視線を向けられた事に疑問符を浮かべたが、ナグモは既にミレディへと視線を戻していた。

 

「……本当に興味深い。是非とも、この人間に詳しい話を聞くべきです」

「ふむ、確かにな」

「ちょっと〜、こっちの質問にも答えてよ。それでエヒトを殺してくれるの? そうじゃないの? どっち?」

「……その前に、私も正体を明かすとしよう」

 

 焦れた様に聞いてくるミレディへ、アインズは静かに頷いた。そして鎧を解除する。現れた骸骨の姿にミレディ・ゴーレムから驚いた気配が伝わった。

 

「アンデッド……!」

「その通り。初めまして、解放者ミレディ・ライセン。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。死の支配者(オーバーロード)という種族だが、聞き覚えはあるか?」

「……いや、無いよ。驚いたよ、何千年の時を待っていたけど初めて大迷宮に来たお客さんが魔物とはね」

「そうか」

 

 少しだけアインズは残念に思う。何千年前からいるミレディもアインズの様なアンデッドを知らなかった。トータスではユグドラシルの情報は全く見つからないのかもしれない。

 

(あわよくばギルメン達の情報を掴めるかと思ったけど、都合良くは行かないか)

 

 気を取り直してアインズはミレディへ語りかける。

 

「さて、先程の問いだが一応はイエスだ。私にとってもエヒトルジュエは非常に邪魔な存在だ。かの神の息の根を止めるのは、私の望む平穏を手に入れるのに必要不可欠だと考えている」

 

 アインズが望むのはナザリックの平穏だ。仲間達が遺した愛すべきNPC(子供)達。命を得て自我をもって動き出した彼等の為にも、トータスの全てを玩弄しているエヒトルジュエは真っ先に殺すべき存在だ。

 

「その為に私はいま神代魔法を求める旅をしている。各地の大迷宮を巡るつもりでいるが……エヒトルジュエに敵対した解放者の生き残りがいるなら話は早い」

 

 スッと骨の手をミレディへと差し出す。

 

「解放者ミレディ・ライセン。私に協力しないか? 私と共に狂った神を討ち取り、あらゆる者が平穏に暮らせる世を作り上げてみないか?」

 

 この場合のあらゆる者とは、ナザリックの異形種達を指しているのだがアインズはわざわざ口に出さない。一番大事なのはナザリックのNPC達の幸福であって、他の者は二の次だ。とはいえ、ナグモみたいに外の人間を好きになるNPCもいるかもしれないから、人間達を虐げようとは考えてもないが。

 

(エヒトに対して、俺は無知だ。戦う前に情報収集するのはPKの基本中の基本だ。だから、ミレディは是が非でも仲間に引き入れたい。エヒトと戦った唯一の生き証人なんだ)

 

 最悪、洗脳をしてでもエヒトの情報を引き出そうとアインズが内心で画策する中、ミレディ・ゴーレムは巨大な兜の奥の眼光を瞬かせながら呟き出した。

 

「……驚いた。いや、ホントに驚いた。あんた、本当に魔物? アンデッドが世界平和を目指しているとか、とうとう私は幻覚を見だしたのかな? と思い始めているんだけど?」

「人間にも良い人間もいれば、悪い人間もいるだろう。私は生者に対して友好的なアンデッドというだけだ。それを言ったらエヒトルジュエも人間達の神を自称しているのに、やっている事は邪神そのものだろう」

「おおう、一本取られちゃったぜ。ミレディちゃん、大ショック!」

 

 バンと外国人ばりのオーバーアクションでミレディ・ゴーレムは自分の額を叩く。そしてチラッとアインズが連れている少年少女を見た。

 

「ええと、私は元々は人間だったけど、アンデッドになっちゃって……ナグモくんやアインズ様のお陰で救われました」

「ん……私は吸血鬼の一族。アインズ様によって救われてから、その御恩を返す為にアインズ様に仕えている」

「……人間だ。もっとも、有象無象の低脳共と一緒にして貰いたくないがな」

 

 「へえ、そう」とミレディは頷く。彼等の目を見れば分かる。種族もバラバラな彼等は心からアインズ・ウール・ゴウンと名乗るアンデッドを慕っているのだ。

 

「ん〜、そっか、そっか。なるほど……アインズ・ウール・ゴウンさんだっけ? あんたの話に嘘は無いみたいだね」

「理解して貰えたか? ならば———」

「しか〜し!」

 

 ビシィッ! とミレディは巨大ゴーレムの指を突きつける。先程から思うが、ゴーレムの割にはなんとも人間臭くワキワキと動くものだとアインズは考えていた。

 

「ここでよっしゃ! じゃあ無条件で私の神代魔法をあげます! とはならないのだよアインズ君!」

「アインズ君……」

 

 後ろでナグモが「無礼者が……」と呟いていたが、アインズはフレンドリーな呼び方にある種の懐かしさを覚えていた。

 ふと、それまで騒がしいほどに戯けていたミレディの動きが止まる。先程の様なドロリと澱んだ目でアインズ達を見た。

 

「……私はあのクソ神に敗れてから、何千年も……ずっと、ずっと待っていたんだよ。いつかきっと、あのヤローを殺してくれる奴が現れるって。オーくん達の顔が思い出せなくなっても、保存の魔法が切れて思い出の品も風化して無くなっちゃっても、ずっと、ずっと」

 

 ブンッとミレディは巨大ゴーレムを操って巨大なモーニングスターを振り回す。

 

「だから……ねえ、証明してよ。エヒトを殺せるくらい強いって事を。私が何千年も待っていた価値はあったんだって」

 

 切なる願いすら感じる声で、ミレディは語りかける。

 

「私達がやってきた事は———私達が遺してきたものは、ちゃんと形になったんだって」

 

 その言葉はアインズの心を大きく動かした。自分だって、“アインズ・ウール・ゴウン”の仲間が遺したものをずっと遺していきたい。

 この瞬間、アインズにはミレディの気持ちが痛いほどに分かった。好感度がグンと上がった気がする。

 そして同時に理解した。ミレディは試したいのだ。自分がずっと大切に守ってきた神代魔法を担える相手なのか———そして、かつての仲間達と目指した神殺し(目標)を託せる相手か否か。

 

「……良いだろう」

 

 アインズは静かに頷いた。

 

「ミレディ・ライセン。お前に対戦(PVP)を申し込む。私が勝ったら、私のものになれ」

「……いいよ。アインズ君の足にキスでも何でもしてあげちゃう。だから、期待外れだったとガッカリさせないでね?」

「ははは。そちらこそ、エヒトについて何も知らなかったというオチは止めてくれよ?」

「……よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

 

 独特のハイテンションにアインズは苦笑しながら、ナグモ達に振り向いた。

 

「お前達、全力でやれ。ただし、殺すな。長き時を待ち続けたかつての解放者に敬意を表して、ナザリックの威を示すのだ!」

「御意に!」

「はい!」

「んっ!」

 

 三者三様に承伏の声が上がる。

 そして、ライセン大迷宮の最深部にて解放者の一人であるミレディ・ライセンとの戦いが始まった……。

 

 

 

 

 

 

 


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