ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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書きたい内容がどっちらけになってんなー……。なんというか、思いつくままに文章している感じです。


第六十九話「VSミレディ」

「せえ、の!」

 

 香織は腕を大きく振りかぶり、ミレディ・ゴーレムへと殴り掛かった。

 

「おおっと!」

 

 ミレディ・ゴーレムのモーニングスターが動く。明らかに重力や慣性を無視した動きで鉄球が動き、香織の白銀の拳とぶつかり合う。

 ドオンッ! と衝撃音が辺りに響く。衝撃波を撒き散らしながら二人は蹈鞴を踏んだ。

 

「硬ったあっ……!」

「そりゃこっちの台詞だよ! 予想以上のゴリラさんでミレディちゃんもドン引きなんだけど!?」

 

 「しっか〜し!」とミレディ・ゴーレムは余裕そうな態度を崩さない。

 

「このくらいで天才魔法少女ミレディちゃんは倒れたりしないのだ! オーくんとの愛の結晶であるギガント・ミレディちゃん・スペシャルの力を知れぃ!」

「ふん、その程度のゴーレムで威張るな」

 

 香織が攻撃した隙にナグモがミレディ・ゴーレムの腕に飛び乗った。黒傘シュラークを突き立てる。

 

「“錬成"……っ!」

「無駄無駄無駄ァ!」

 

 バチィッ! と放電しただけで不発に終わった魔法にナグモが眉を顰める中、ミレディ・ゴーレムは腕を振り回してナグモを振り払う。ストン、と地面に着地しながらナグモは呟く。

 

「魔法耐性ありか……」

「そうだよ〜。加えてここはライセン大峡谷の深淵。魔力分散が一番強い場所だから魔法は効かないのだ〜!」

 

 ただし、とミレディはパチンと指を鳴らす。

 

「私は別だけどね♪」

 

 ナグモ達の背後やミレディの周りに甲冑のゴーレムが次々と現れる。さすがにミレディ・ゴーレムほどの大きさは無いが、それでも体長は二メートル以上はあり、数が多い。

 

「途中をすっ飛ばしてくれたからゴーレム達のストックに余裕があるんだよね〜。やっぱズルは駄目だよ、オーくん二世♪」

「あの程度の人間と一緒にするな」

「ん? じゃあオーくんの熱心なフォロワーさん? そう言ってる割には黒傘まで持ち出しちゃって。駄目だよ〜、あんな陰険メガネの真似をしたらロクな大人にならないゾ!」

「………」

 

 イラッとナグモが眉間に皺を寄せながら目を細める中、ミレディは両手を広げて得意げな雰囲気になる。

 

「これが私の神代魔法(チカラ)。空飛ぶゴーレムは見た事ある? これらが一気に襲い掛かるワケ。どう? ビビった———」

 

 直後。レーザーが甲冑ゴーレム達を貫いた。宙に浮いていた甲冑ゴーレム達はバラバラになって地面へ落ちていく。

 

「宙に浮いてるだけなら、ただの的」

 

 機械鎧の籠手からエネルギー刃を飛ばしながら、ユエは呟く。

 

「あと……空飛ぶ機械人形(ゴーレム)なんて、第四階層(訓練場)で飽きるぐらい見ている」

「おおう、こっちが話してる最中なのに容赦ないなあ。というか魔法は使えない筈だけど……秘密はその武器にありかな?」

 

 ミレディにとってユエが使っている機械鎧の籠手は見た事もない武器の筈だ。しかし、解放者としてエヒト神に挑み続けたミレディの戦闘経験は非常に豊富であり、この程度の事態で狼狽えたりはしない。

 

「香織、心臓の位置だ。そこにこいつの核がある。そこを狙え」

「任せて!」

 

 ナグモと香織が散開し、ミレディへと再度襲い掛かる。だが、ミレディはモーニングスターを巧みに操って香織を弾き飛ばした。

 

「あれれ〜? 知らないのかな、ゴーレムは幾らでも再生できるよ」

 

 香織が弾き飛ばされた先に待ち構える様に再生した甲冑ゴーレム達が剣を振り上げた。

 ヒュン、とレーザー光が甲冑ゴーレム達を射抜く。

 

「それぐらい予想の範囲内。驚きもしない」

「ありがとう、ユエ!」

 

 香織は再び走り出し、ミレディ・ゴーレムへと向かう。ダンッと地面が砕ける程に踏み締めながら砲弾の様に飛び出した。

 

「おおっと、させないよ!」

「それは……こっちの台詞だ!」

 

 香織へ向かったモーニングスターの鉄球をナグモは黒傘を叩きつけて軌道を変えさせる。その隙に香織がミレディの拳を思い切り殴り付けると、ついにミレディの拳が砕けた。

 

「うえぇ!? ゴーレムを素手で砕くとかマジ? でも残ね〜ん!」

 

 一瞬、驚いた声を上げたミレディだが、砕けた拳付近にあった足場を引き寄せるとミレディ・ゴーレムの拳が再生した。

 

「ご覧の通り、私も再生可能なのだ。というか君、アンデッドとか言ってたけどゴリラのアンデッドちゃん?」

「ゴ、ゴリラ!? 違いますっ! ナグモくんのアンデッドですっ!」

「いや、そういう事を聞いてるんじゃなくて。というかそこのオー君二世。陰険に加えて死体愛好家(ネクロフィリア)とか拗らせ過ぎじゃない?」

「やかましいぞ! 人を性的倒錯者(シャルティア)みたいに言うな! ……っ!」

 

 ナグモが怒鳴る中、宙に浮いていた足場の一つがナグモに向かって隕石の様に落ちてきた。

 

「ナグモくん!」

「おおっと、彼氏の心配してて良いのかな?」

 

 香織が思わずナグモの方を振り向いた隙をミレディは見逃さなかった。横から飛ばした足場が香織を吹き飛ばし、香織はナグモの所まで飛ばされた。

 

「あ痛〜……感覚無いけど。ナグモくん、大丈夫!?」

「こっちは平気だ。そして読めたぞ……奴の神代魔法は重力に関するものか」

 

 瓦礫の土埃を払いながら、ナグモは考察する。宙を浮くゴーレムや足場、浮いたかと思ったら落ちてきた足場。そしてさっきのまるで横から落ちて来たかのような足場。これらからナグモはミレディの神代魔法の正体を見抜いた。

 

「加えてあのゴーレム……アザンチウム製だが、精錬を重ねて()()()()の硬度となっている。しかも重力を操って重装甲による動きの阻害を克服した様だな」

「えっへん! もっと褒めてくれ給えよ!」

 

 むふー、と胸を張るミレディ・ゴーレムにイラッとしながらもナグモは評価を下す。

 

「ああ、認めてやろう。今の僕達にとって()()()()厄介だな」

「ぶう〜、こっちが押せ押せな状態なのにすんごい偉そう」

 

 ところでさあ、とミレディはナグモ達から視線を切る。

 

「アインズ君はさっきから高みの見物かな?」

「貴様、アインズ様に無礼な」

「いや、良い」

 

 ナグモ達の戦闘を見ていたアインズは冒険者モモンとして装備しているグレートソードを両手に持ったまま答える。

 

「すまないな、ミレディ。この戦闘はナグモ達の連携を確認するテストでもあった。だから今まで手出しは控えさせて貰った」

「……その様子だと、全く本気出してないみたいだね?」

「ほう? 分かるか」

「うん。だってなんだかんだで、そこのゴリラちゃんも彼氏君もノーダメージじゃん」

 

 だからゴリラじゃないってば〜! と抗議する香織を横目にミレディはアインズを真っ直ぐ見る。

 

「あのさ、こっちも真剣なんだよね。何千年もかけてやっと来た迷宮の攻略者がクソヤロー(エヒト)を殺せるか……私の神代魔法を継がせるに値するか、それを見極めないといけないの」

 

 茶化した言葉遣いを捨て、ミレディは訴える。まるで切実な願いの様に。

 

「だから、本気を見せてよ。アインズ君が私達(解放者)が待っていた存在なのか。それを、証明して」

「……良いだろう」

 

 ブンッとアインズはグレートソードを突きつける。ドンッとそれだけで空気が変わった気がした。

 

「ナグモ達は下がれ。周りの雑魚敵(ゴーレム)を掃討しろ」

「はっ!」

「さて……行くぞ、ミレディ・ライセン。PVP(一騎討ち)だ!」

 

 ダンッとアインズが剣を手に持ったまま、駆け出す。その動きは一流の戦士のそれだった。

 

「速いね〜。でも、それだけだよ!」

 

 重力全てを乗せたモーニングスターの鉄球がアインズに繰り出される。鉄球は唸りを上げて、アインズに迫る。

 

「豪撃!」

 

 アインズは天職で得た戦士のスキルを発動させる。振るわれた二刀のグレートソードと鉄球がかち合い、轟音と衝撃波を響かせる。

 バキンッ! と鈍い音がした。鉄球とグレートソードはお互いの衝撃に耐え切れず、バラバラに砕け散った。

 

「これを防ぐとかやるじゃん、アインズ君! でも、武器が無くちゃどうしようもないかな!」

 

 即座にミレディは空いた手でアインズへと殴り掛かる。見れば砕けた鉄球も徐々に再生が始まっていた。巨大な拳がアインズへと迫り———。

 

「ああ———武器ならあるさ。仲間達が残したとっておきがな」

 

 ガゴオンッ! とミレディの拳から轟音が響き———ミレディの拳がバラバラに砕け散った。

 

「んなっ!?」

 

 ミレディは思わず瞠目してしまう。アインズの手———無手になった筈のその手には、トゲの付いた巨大なガントレットが嵌められていた。

 

「せいやっ!」

「みぎゃ!?」

 

 再び振るわれたガントレット。まるで巨人が思い切り殴り飛ばしたかの様にミレディは吹き飛ばされる。

 

「っ、剣は囮だったのかな? でも甘〜い!」

 

 後方へと吹き飛ばされる直前、ミレディは重力をゼロにして衝撃を相殺する。そして自分の身体を一回転させると、重力を再び戻してモーニングスターをアインズへと振り下ろす。

 

「重いけど鈍重だね〜、隙だらけだよ!」

「隙? どこにあるんだ?」

 

 アインズがフッと笑う。ガントレットは宙に溶ける様に消え――――その手には一本の太刀が握られていた。

 

「フンッ!」

 

 スパッと豆腐でも切るかの様にモーニングスターの鎖が断ち切られた。鉄球は勢いのまま、アインズを捉える事なく地面へと落ちていく。

 

「嘘ぉ!?」

 

 ミレディが絶叫する中、甲冑ゴーレム達を相手にしていたナグモは瞠目しながら呟いた。

 

「あれは建御雷八式……! それに先程のはやまいこ様の……!」

 

 ———アインズは天職を付与する際に、自分の本職とも言える魔法使い職ではなく、戦士職を選んだ。

 ユグドラシルの様なMMORPGにおいて、戦士職と魔法職を一緒に極めようとするとレベルやスキルポイントの上限の関係からどっちつかずの中途半端な魔法戦士に終わる事はよくある。アインズも前衛は仲間達が務めてくれるから、と魔法職に全てスキルポイントを割り振っていた。

 

 だが、異世界(トータス)に来て新たに「天職」というシステムを得た事でその概念は取り払われた。冒険者モモンとして戦士の経験を得て、アインズはいまユグドラシルでは有り得ない———戦士と魔法を極めたレベル100(最強の存在)へと進化していた。

 そしてそれは———アインズでは課金アイテムを使わなければ使用不可だった、かつての仲間達の装備を使える様になった事を示していた。

 

(天職を付与する時に真っ先に戦士職を選んだのにはこの理由があったのか……!)

 

 ナグモは瞠目する。アインズの戦いは力を抑えていたとはいえ、ナグモ達と違ってミレディを完封している。それは戦闘経験の差であり、アインズが多くの戦いをこなしたからこその知略の高さから来ていた。次々と至高の御方達の武装に切り替えながらミレディ・ゴーレムを追い詰めていくアインズに、ナグモは知らず知らずのうちに拳を握っていた。

 

(いつか………!)

 

 それは、NPCならばあり得ない思考だった。プレイヤー達の道具として生み出され、生まれた時から完結している彼等には出来ない考えだった。

 

(いつか、アインズ様がいるあの高みに、僕も………!)

 

 すなわち———上昇志向。それを華麗に戦うアインズを見て、ナグモは抱いていた。

 宙の足場を盾代わりにしようと撃ち出すミレディに対して、アインズは白と黒に染められた二丁拳銃を手にして足場を次々と撃ち抜く。

 

「おお、あれは————!」

「そこ、見惚れてるくらいならこっち手伝う!」

「ええい、良いところで!」

 

 ユエの声に現実に引き戻され、ナグモは舌打ちしながら甲冑ゴーレム達を片付けに掛かった。

 

 ***

 

「ハァ、ハァ……!」

 

 ミレディは荒い息を吐く。ゴーレムの身体となって疲労感とは無縁となった筈なのに、何故か息が乱れた。果たしてそれは四千年ぶりに感じる緊張感から来るものなのか。ミレディには判別がつかなかった。

 

「さて、ミレディ。これが私の本気だ。“アインズ・ウール・ゴウン”そのものの力だ」

 

 四千年かけて待ち続けた“神殺し”を為せる者。骸骨姿の魔王は何処か誇る様に宣言する。

 

「敗北を認めるなら、ここまでにするが?」

「ハァ、ハァ……あはは、いや〜優しいなあ、アインズ君は。うん、そうした方が賢明だろうねー」

 

 事実、勝負はついた。巨大ゴーレムの膂力はアインズの脅威足り得ず、とめどなく行われた連撃を回復する為に周りの足場まで吸収したせいで、切り札である重力魔法で一斉に足場を落下させるという手段も使えない。甲冑ゴーレム達もナグモ達によって間も無く全滅するだろう。

 

「でもね……まだまだ足掻かせて貰うよ〜」

「それは何故だ? お前は私に勝てる手段があるのか? ここから逆転できる様な技を」

「……いや、無いよ。ぶっちゃけ投了まで秒読み段階かな〜?」

 

 でもねぇ、とミレディは真っ直ぐとアインズを見る。その目は————濁った色のない、何処か清廉さを感じさせる瞳だった。

 

「かつての“解放者”のリーダーとして……アインズ君に、夢を託す者として、最後の最後まで全力で挑ませて貰うよ。そうしなきゃ……もう、顔も声も思い出せないけど、私に後を託した皆に顔向け出来ない……!」

「そうか……」

 

 ふう、とアインズは息を吐く。

 まるで鏡を見ている様だ。

 仲間達が居なくなっても、ずっとこの地で待ち続けていたミレディ。

 仲間達が居なくなっても、ずっとナザリックで待ち続けているアインズ。

 きっとミレディは、いつか辿る自分の姿なのだろうとアインズは思う。

 

(俺にはナザリックのNPC(子供)達がいたから……でも、ミレディはずっと一人で待ち続けていたんだ)

 

 果たして、どちらが強いと言えるのだろうかとアインズは思う。NPC達にかつての仲間達の面影を重ねているアインズと、未来を信じて何千年と待ち続けたミレディ。アインズは少しだけ、自分が情けなく思えた。

 

(その真っ直ぐな思いに……応えないのは、失礼だよな)

 

 スッとアインズは手にしていた武器を仕舞う。

 

「ん? どったの、アインズ君? もしかして降参とか?」

「違う。解放者———そのリーダー、ミレディ・ライセン。お前が安心出来る様に、私はナザリックの最大戦力を見せるのが礼義だと思ったまでだ。……ナグモよ!」

 

 威厳のある声で呼ばれ、ナグモは最後の甲冑ゴーレムを叩き潰しながら振り向いた。

 

「起動を許す。かつてじゅーるさんが遺した最高のゴーレムを……ナザリックの威を、ミレディに見せよ!」

 

 ナグモは驚いた様に目を見開き————そして頷いた。

 

「かしこまりました……アインズ様」

 

 スッとナグモは片手を上げ———その手がドプン、と宙に沈み込んだ。宙の揺らぎからナグモが手を引き抜くと、その手には幾何学的な造形の鍵が握られていた。

 

「ナグモくん、それは……?」

「……香織達にも見せてやろう。これこそが、僕———第四階層守護者代理、ナグモの真の姿だ」

 

 戸惑う香織をよそに、ナグモは手にした鍵を真っ直ぐに突き出す。そして――――ガチャリ、と宙で捻る様に鍵を回した。

 

「起動せよ————ガルガンチュア」

 

 瞬間———空間が軋みを上げる。鍵を中心に空間の歪みがさざ波の様に広がっていく。

 ピシッ、ピシッ!

 空間が大きくひび割れていき、そして————!

 

「……いやいやいや」

 

 ミレディはゴーレムの身体のまま、どこか引き攣った様な声を出した。

 

「……マジで?」

 

 硝子を叩き割る様な音が辺りに響く。まるで空間を叩き壊す様に、ミレディ・ゴーレムより更に巨大な人型が現れた。

 それは鋼鉄に覆われた巨大なゴーレムだった。かつて攻城兵器として保管されていた岩のゴーレム。じゅーる・うぇるずによって、数々の改造が施され、巨大人型兵器となった鋼鉄のゴーレム(ロボット)はたった一人の操縦者(ナグモ)の命令を受けて、起動の雄叫びを上げる。

 

 

『ooooOOOOOOooooo———!!』

 

 ここに———守護者最強であるシャルティアすら上回るステータスを誇る、鋼の巨人が君臨した。

 

 




>ガルガンチュア

じゅーるが課金装備とか色々やった結果、巨大ロボットになりました。ユグドラシル的にあると思うんですよね、ガルガンチュアの追加武装パックとか。

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