ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 今回はオーバーロードのターン。原作とほとんど変わらないシーンだけど、アインズ様のナザリックへの執着を見せる為にはどうしても必要だった。


プロローグ③

 西暦2138年。

 Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game———通称、DMMO-RPG。

 サイバー技術とナノテクノロジーの粋を終結した脳内ナノコンピューター網であるニューロン・ナノ・インターフェイスと専用コンソールを使うことで仮想世界内で現実にいるかのように遊べる体感型ゲームである。

 そのDMMO-RPGの中で、燦然と輝く『ユグドラシル<Yggdrasil>』というゲームがあった。北欧神話をベースにし、キャラクターやアイテム、住居などを思うがままに作成できる圧倒的な自由度は爆発的なヒットを起こした。

 そして、その『ユグドラシル』にある数多のギルドの中で“アインズ・ウール・ゴウン"というギルドがある。

 

 社会人プレイヤーであること。

 プレイヤーはモンスターの外見をした異形種であること。

 

 その二つを参加条件としたギルドは四十一人のプレイヤーが集い、ナザリック地下大墳墓を拠点に一時は世界ランキング九位まで登り詰めた強大組織だった。

 だが、それも過去の話。『ユグドラシル』の人気が下火となり、サービス終了が決まった今、アインズ・ウール・ゴウンもまた終わりを迎えようとしていた。

 

 ***

 

「本当にお疲れ様です。ヘロヘロさん。ユグドラシルのサービス終了日とはいえ、来て貰えるなんて思いませんでしたよ」

「いやー、本当におひさです、モモンガさん」

 

 ナザリック地下大墳墓、第九階層。かつては四十一人のギルドメンバーが集っていた円卓の間で、悪の魔導師の様なローブを着た骸骨とコールタールを思わせる様なスライムが二人だけで会話していた。

 それぞれ死の支配者(オーバーロード)古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)と呼ばれる異形種であり、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーだ。

 

「リアルで転職されて以来ですから………二年くらいぶりですね」

「うわー、そんなに時間が経っていたのかぁ。やばいなあ、最近残業続きで昼夜の感覚も無いんですよね」

「いや、それ完全にヤバいやつじゃないですか。大丈夫なんですか?」

「体ですか? もう完全にボロボロですよ」

 

 死の支配者(オーバーロード)のモモンガと古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロはその後も取り留めのない会話で盛り上がる。ゲームの中で現実の話はタブーとされる場合もあるが、社会人である二人は会社の愚痴などは話の肴に丁度良かった。一通り話し終えた後、ヘロヘロがおもむろに時計を確認した。

 

「すいません、モモンガさん。サービス終了までご一緒したいですけど、明日も朝早いので………」

「いえいえ、今日来てくれただけでも本当にありがたかったですよ、ヘロヘロさん。ゆっくり休んで下さい」

「いや、本当にすいません。それにしても………ナザリックがまだ残っているなんて、思ってもみなかったなあ」

 

 こういう時、リアルタイムでの表情までは再現できないゲームである事が幸いした。現実世界の鈴木悟が顔を一瞬歪めても、アバターであるモモンガはいつも通りの骸骨顔でいられた。

 

「ハハハ……ギルドを維持するのはギルド長の務めですから」

「本当にお疲れ様でした、モモンガさん。またどこかで、ユグドラシルⅡとかでお会いしましょう」

 

 それでは、と挨拶した後、ヘロヘロの姿が消えた。と言っても、ログアウトしただけだ。自分以外は誰もいなくなった円卓の間に残されたモモンガはヘロヘロの座っていた席をしばらく見つめ、やがてポツリと独り言を漏らした。

 

「またどこかで、か。どこで会うんだろうね………」

 

 フルフルとモモンガの肩が震える。今まで我慢していた本音が迸った。

 

「ふざけるな! ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんで皆そんなに簡単に捨てられるんだ!」

 

 机を叩く音と共にモモンガの怒鳴り声が響く。だが、すぐにモモンガは力無く椅子の背もたれに寄り掛かった。

 

「いや………分かっているんだ。皆にだってリアルの生活がある。皆、別に裏切ったわけじゃないんだ」

 

 ヘロヘロの様に生活環境が変わってログイン出来なくなった者もいる。

 長年の夢を叶えて、第一線でバリバリと働いている者もいる。

 皆、自分や家族の生活が掛かっている以上、ゲームにばかり時間を費やせない。

 それでもモモンガにとってアインズ・ウール・ゴウンは特別な場所だった。唯一の肉親だった母親は既に亡く、仕事以外の人間関係は無かった彼にとってアインズ・ウール・ゴウンは自宅以上に居心地の良い空間であり、ギルドメンバー達は家族と同じくらい親しみのあった仲間だったのだ。だからこそギルドメンバーが去った後も皆がいつ帰って来ても良い様に、と必死でギルドの維持費をソロプレイで稼いでいた。

 そんなアインズ・ウール・ゴウンも今日で無くなる。しがないサラリーマンである鈴木悟にはサービス終了を止める権利も権力など当然ない。

 

「最後くらい、良いよな」

 

 円卓の間に飾られたギルド武器———スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取りながらモモンガは独りごちる。本来は持ち出し厳禁のギルド最強武器だが、最後くらいはギルド長として相応しい姿で終えたかった。

 

「まだサービス終了までは幾分か時間があるよな。せっかくだし、ナザリックを軽く見て回ろうか。共に行こう、我がギルドの証よ」

 

 ***

 

 ナザリック地下大墳墓は全十階層に及び、作り込みも現実でプログラマーや建築士だったギルドメンバーが本気を出して作成した為に広大だ。全部を見て回ろうと思うとサービス終了まで時間が足りないが、それでもモモンガは入り口から最奥まで目指す事にした。少し駆け足気味になっても、かつての仲間達と共に作り上げたナザリックを心に刻み込んでおこうと思ったのだ。

 第一〜三階層の墳墓エリアを通り、『エロゲーイズマイライフ!』と豪語して止まなかったペロロンチーノが作成した階層守護者シャルティアを見ながら彼との思い出に耽ていたモモンガが次の階層に足を運ぶと、そこは先程までの不気味なアンデッド達の巣窟とは全く別世界な光景が広がっていた。

 

「いつ来ても、ここの作り込みはすごいよな」

 

 かつて地底湖エリアとして殺風景な洞窟が広がる第四階層は今では天井のそこかしこに配管が通り、壁に用途不明な機械や恐ろしげなモンスターが入った培養槽がいくつも並ぶエリアと化していた。さながら地底湖に作った秘密基地だ。

 

 ユグドラシルがまだ隆盛を誇っていた頃、『ヴァルキュリアの失墜』という大型アップデートが行われた。シナリオを簡単に説明すると魔法と科学を融合させた古代の超文明の遺跡が発見され、プレイヤーは遺跡の最奥で古代超文明を滅ぼした超大型自律兵器と戦うという内容だった。

 シナリオ自体は匿名掲示板で「星間戦争か!」、「北欧神話どこいったwww」、「運営の間でSFブームが来てるだけだろ」と酷評されたものの、魔銃や自動人形(オートマタ)銃器使い(ガンナー)職、さらにはロボット兵器という新しい要素はその手のマニア達をユグドラシルに勧誘する事に成功していた。

 

『絶対モモンガさんも観た方が良いですって! 星間戦争!』

 

 この階層の設計のメインメンバーであり、SFのコアなファンだった“じゅーる・うぇるず"との思い出が蘇る。殺戮自律兵器(キリング・アンドロイド)の最上級職である機械の偽神(デウス・マキナ)の彼は興奮を示す感情アイコンをピコピコと連発しながらよくモモンガにSF映画を布教していた。

 

『いやあ、そのシリーズ、既に二十本以上出てるじゃないですか。流石に今から追い掛けるのはキツいというか……』

『大丈夫ですって! 今度ナザリックで上映会やりましょうよ! 絶対に皆ハマりますって!』

『なあなあ、じゅーるさん。その作品、幼女出る?』

『アハハ。ロリコンバードは黙ってましょうね』

『よっしゃ、表出ろやガラクタアシュラマン』

 

 などと、SFに情熱を燃やしていた彼はヴァルキュリアの失墜がアップデートされてからユグドラシルを始めたメンバーだった。攻城兵器のゴーレムを置くだけのエリアだった地底湖はじゅーる・うぇるずが音頭を取り、更には設定魔のタブラ・スマラグディナも協力、おまけにゴーレムクラフターのるし☆ふぁーが悪ノリして、と奇跡のコラボレーションを経て、最終的に『人間の世俗を疎んだ魔法・超文明の研究者達が集まる悪の秘密研究所』という体裁になっていた。

 

「でもね、じゅーるさん。墳墓の後が近未来な研究所とかミスマッチだと思いますよ?」

 

 モモンガは苦笑しながら歩を進める。モモンガの横を現実なら実用性皆無と評されそうな二足歩行戦車と白衣を来た魔法詠唱者(マジックキャスター)型のNPCが通り過ぎる。この階層はヴァルキュリアの失墜で実装されたロボット兵器や合成魔獣(キマイラ)といったモンスターと死者の大魔法使い(エルダーリッチ)や魔法詠唱者職の獣人などが数多く跋扈する。ロボット兵器や合成魔獣といったリポップするモンスターは研究者達が日夜作り出しているという設定だそうだ。

 

 そしてとうとう地下湖エリアの最奥に辿り着いた。一際大きな地底湖には置き場に困ったから置いた攻城用ゴーレム・ガルガンチュアが沈んでおり、地底湖の縁で一人のNPCが何か作業をしている様な動作でコンソールを叩いていた。

 

「確か………ナグモ、だったっけ」

 

 少しの間を置いて、モモンガはようやく目の前のNPCの名前を思い出した。

 これこそがじゅーる・うぇるずがデザインし、第四階層守護者代理という地位にいるNPCのナグモだ。基本的に力押しな運用しか出来ないガルガンチュアを補佐する為に回復や支援、敵のデバフなどに特化した性能を持ち、同時にナザリックでは二人しかいない人間でありながら、第四階層の研究所の所長を務めるという設定があった筈だ。

 

「………………」

 

 まるでガルガンチュアのメンテナンスをしている様な動作をしていたナグモだったが、モモンガが近寄るとプログラムに従って手を止めて一礼した。

 

「お仕事、ご苦労」

 

 つい感傷からそんな言葉をかけてしまう。だがナグモはモモンガに一礼した後、プログラムに従って再びコンソールを叩いていた。

 

「馬鹿だな、NPC相手に話しかけても仕方ないのに………」

 

 自嘲しながら第四階層への出口へとモモンガは歩を進めた。残されたナグモは、まるでそれこそが自分の存在意義であるかの様にずっとガルガンチュアのメンテナンス作業に取り掛かっていた。

 

 ***

 

 その後、第五、第六、第七……と階層を順に降りて行き、途中で侵入者を撃退する役割を与えられながら、ついに出番がなく終わってしまった戦闘メイド(プレアデス)達と執事を付き従えてそこへ辿り着いた。

 

「おおぉ………」

 

 ナザリック地下大墳墓の最奥、玉座の間。その威容さにモモンガの喉から知らず感嘆の声が出た。見上げる様な高さの天井には七色に輝くシャンデリアが複数吊り下げられ、玉座へと続く道の両脇にはギルドメンバー達のエンブレムが印された四十一枚の旗が天井から垂れていた。

 

「待機せよ」

 

 玉座へ繋がる階段の前で付き従っていた執事達へ指令を下す。執事達はプログラムに従って階段の前で控えた。そして玉座へと足を進めたモモンガだが、玉座の横で控えている純白のドレスを着た女性NPC———アルベドが手に持つ杖を見て、首を傾げる。

 

「ん? これは真なる無(ギンヌンガガプ)じゃないか。一体、いつの間に………」

 

 ナザリック内では十一個しかない世界級(ワールド)アイテムが何故かアルベドの手に握られている事に疑問に思いながら、モモンガはアルベドの設定を確認する。途端、長文テキストが画面一杯に映し出された。

 

「うわ、なんだこれ? ああ、そうか。アルベドはタブラさんがデザインしたんだよな」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの設定魔が作ったテキストに辟易しながらもモモンガは斜め読みしていく。だがアルベドが真なる無を持っている事に対する記述は無い。そして、最後の一文には思わず目が点となった。

 

『ちなみにビッチである』

 

「いやいや、ギャップ萌えといってもそれは無いでしょ」

 

 モモンガはあんまりだと思って、その一文を消した。少し考え、新たな一文を加える。

 

『モモンガを愛している』

 

「ま、まあ、最後だし………」

 

 誰に言い訳するまでもなく、モモンガは照れながらコンソールを閉じた。

 そして、静かに玉座に座った。間もなく、ユグドラシルのサービス終了時刻となる。

 

「俺」

 

 すっと玉座から見えるギルドメンバー達の旗を指差していく。

 

「たっち・みー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、じゅーる・うぇるず———」

 

 今は去ったギルドメンバー達の名前を静かに並べていく。全員の名前を言い終える頃には終了まで残り一分を切っていた。

 

「ああ………楽しかったんだ」

 

 現実の鈴木悟の目から一筋の涙が溢れる。

 そう、楽しかったのだ。ユグドラシルのゲームが、というより仲間達と一緒に遊んだ日々。ずっと続けていたい、と願うくらいに。

 

 そして———時刻は深夜0時を迎えた。

 

 

 




 はい、これでプロローグはお終いです。ついでに言うと書き溜めもお終いです。社会人をやりつつFGOのイベントもやってるので更新頻度はらあまり期待しないで下さい(笑) むしろ社会人をやりつつオバロを執筆している丸山くがね先生は化け物だと思うの……。

 この小説で出てくる設定とかは基本的に捏造だと思って下さい。ヴァルキュリアの失墜とかこんな感じだったら良いよね、という妄想で書いているので。当然ながら南雲ハジメ改めナグモの製作者であるじゅーる・うぇるずもオリジナル至高の御方です。

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