ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 手違いがあった為に再投稿。とりあえず八月が終わる前に投稿出来て良かった。

安西先生……普通の恋愛が書きたいです……!

とことん自分に恋愛描写が向いてないんじゃないかと思い知ってる……。だからこういう正常じゃない関係になるというか……。
私だってなあ、相合い傘で一緒に帰る様な普通のカップルの恋愛を書きたいんだよっ!!(逆ギレ)


雫ルートif③「とある夏の出来事②」

 人混みをかき分けながら雫はナグモを探していた。今日が日曜日という事もあり、夏祭り会場には老若男女の様々な人達が訪れ、まっすぐ歩くのも困難な程だった。周りには威勢良く呼び込む出店がいくつもあり、ソースが焼けた香ばしい臭いのする焼きそばやたこ焼きの屋台や、水面が電飾に照らされてキラキラと光って見える水風船の屋台などに釣られて足を止める人も多くいた。

 

(南雲くん……何処にいるのかしら? やっぱり香織達と一緒に本部で待ってた方が良かったのかも……)

 

 多すぎる人混みに難儀した雫はついそんな事を考えてしまう。ナグモに浴衣姿を見せたい一心で飛び出してしまったが、ここまで大勢いる中からナグモを探すのは至難の技な気がしていた。

 ふと人混みの中で浴衣を着た若いカップルに目が入る。仲睦まじく腕を組み、夏のひとときを満喫している男女の姿に、雫は自分とナグモの姿を重ね合わせた。

 

(ち、違うから! 私と南雲くんはそんな仲じゃないから! 私と南雲くんは、幼馴染みで一緒の生徒会に入ってるってだけだから!)

 

 想像上でデートをする自分の姿に、雫は顔を真っ赤にしながらブンブンと頭を振って否定する。突然の挙動不審な行動に周りの通行人が怪訝な顔になるが、自分の妄想に耽っていた雫は気付いていなかった。

 

(うう……それに冷静に考えたら、南雲くんが浴衣を褒めてくれるとは限らないわよね………。この髪を伸ばした時も、特にノーリアクションだったもの)

 

 その時の事を思い出して少しだけ落ち込んでしまう。ナグモとは小学校の途中からの付き合いだが、それだけ長くいながら雫は彼が喜怒哀楽といった表情を見せる姿を見たことが無かった。今日も母親に手伝って貰って頑張ってめかこしんだものの、ナグモに喜んで貰えるかというと自信は無かった。

 

(でも……こうやって女の子らしい事に興味を持てたのも、南雲くんのお陰なのよね)

 

 雫はそっとポニーテールの髪を弄りながら考える。今では雫のトレードマークとも言えるこの髪型も、ナグモを意識して伸ばし始めたものだった。

 小学校の時、雫は女の子らしさとは無縁だった。剣道の邪魔になるからと髪を男の様に短くして、おしゃれや可愛らしい小物といった女の子らしい話題に疎かった為にクラスメイトの女子達から浮いた存在になっていた。そして当時から女子達のアイドルだった光輝と同じ道場に通っている事から嫉妬され、クラスの中核となる女子グループから虐められる様になった。当時の雫の外見に女の子らしさが皆無だった事から、心無い言葉を投げかけられた事もある。

 

 だが、それをナグモが救ってくれたのだ。

 

 転校生として突然雫の前に現れた彼は、過激な方法とはいえ雫を虐めた女子達を排除し、それ以降に雫が被害を受ける事は無くなった。自分の様に周りから悪意を向けられても意に介さず、圧倒的な実力をもって黙らせるナグモは雫からすれば憧れる程に強い存在に見えた。それでいながら小さな事でも「恩には恩を返す」と義理堅い一面を見せ、誰であっても借りを返す為に行動する。そんなギャップもあり、雫は段々とナグモに惹かれたのだ。

 雫からすれば、ナグモは映画に出てくる孤高のヒーローの様だった。圧倒的な力を持ち、誰かを助けながらも理解者は少なく、周りからの称賛は無くても信念を抱いて戦うダークヒーロー。心の奥底では自分を救ってくれるヒーロー(王子様)を求めていた雫にとって、理想とは少し違うがナグモは待ち焦がれていた存在だったのだ。

 だからこそ、ナグモの側にいたくて雫は様々な事を頑張った。元々やっていた剣道はもちろん、学園一の学力を持つナグモといても釣り合って見られる様に勉強にも力を入れ、それまで無頓着だった容姿も磨く努力をした。お陰で同世代からは『パーフェクト・ビューティー』と呼ばれるくらいに才色兼備な美少女となり、その甲斐もあってかナグモからも生徒会副会長として推薦して貰えた。

 全てはナグモ(王子様)に好かれる為に。

 一見すると歪だが、雫は恋に夢中な女の子として全力に生きてこれたのだ。

 

「きゃっ」

 

 ドンッと身体に掛かった衝撃で雫の意識が現実に戻された。考え事をしながら歩いていた為に誰かにぶつかってしまったらしい。

 

「あ……すいませ、」

「ああん? おい、どこ見てやがるんだテメェ!」

 

 反射的に謝ろうとした雫だが、ぶつかった相手は雫に対して厳つい声を上げた。見ればくたびれた柄物のシャツに、サイズもブカブカの年季の入ったジーンズを着た金髪の男が睨んでいた。その金髪もおそらく染めているのだろうが、あまり手入れの行き届いてない髭面に厳つさを強調するだけになっており、例えるならば学生時代の不良ファッションから抜け出せずに歳を取ってしまった粗暴さが滲み出ていた。

 

「テメェのお陰でよぉ、ビールが服にかかっちまったじゃねえか。なあ、どうしてくれんだ? あぁ?」

「ご、御免なさい! ちゃんと前を見てなかったんです!」

 

 厄介そうな相手とぶつかってしまったと思いつつも、ぶつかったのは自分の方なので雫は頭を下げて誠心誠意に謝罪する。既に相当アルコールが入っているのか、顔を赤くさせたチンピラ風の男は夜店で買ったであろうビールの紙コップを片手に頭を下げた雫に怒鳴り込んでいたが、よくよく見れば雫がかなりの美少女だと気付いてニチャアと顔を歪めた。

 

「あ〜あ、これ洗っても落ちねえわ! こりゃ親を呼んで弁償して貰わないとなぁ!」

「そんな……待って下さい! クリーニングすれば、そのシミは落ちると思いますから——」

「あん? 何でテメェが決めてるんだよオイ! テメェ、学生だろぉ? じゃあ学校にも苦情を言わないといけないなあ! おたくの学校は人の服を汚しときながら謝りもしないのか、ってなあ!」

「そんな事は……!」

 

 唾を飛ばしながらチンピラの男は甚振る様に雫を批難する。剣道の試合では大人相手でも勝てる雫ではあるが、試合の気構えなど出来てない日常の場で自分より体格も年齢も上の男から威圧する様に怒鳴られて萎縮してしまっていた。

 雫は思わず助けを求める様に周りを見る。祭りの人混みの中で少女相手に怒鳴り散らしている男に対して、周りの人間は冷ややかな視線や迷惑そうな目を向けているものの、雫に助け船を出そうとする人間はいなかった。そして誰も止める者がいないと分かったチンピラの男はますますつけ上がった。

 

「なあ、嬢ちゃん……何も俺は嬢ちゃんに無理に金を払わせようとまでは考えてないんだぜ? ただよぉ、誠意ってもんがあるよなぁ? ちょっと付き合ってくれよ。なあ?」

「ちょっ、ちょっと! やめて下さい! 離して!」

「つれねえ事を言うなよ? どうせ一人なんだろぉ?」

 

 チンピラの男が雫の腕を掴んでくる。咄嗟に振り解こうとしたが、鍛えているとはいえ雫の細腕では大の男の腕力には敵わなかった。アルコール臭い男の息がすぐ近くからかけられて、雫の心は恐怖に震える。

 

(いやっ……助けて、南雲くんっ!)

 

 自分より歳上の男に腕力でねじ伏せられかけている。こうなっては武道を修めているとはいえ、精神は普通の少女である雫も形無しだった。恐怖のあまり、雫の目に薄らと涙が浮かびかけ———。

 

「―――何の騒ぎだ、これは」

 

 そして―――お姫様でピンチを救う様に現れたナグモ(王子様)に、雫の心に急速に安堵が広がった。

 

「南雲くん……!」

「ああん? 何だてめえ?」

 

 雫の腕を掴んだまま、チンピラの男はナグモを睨む。相手が警察官や力の強そうな男なら彼も引き下がっただろうが、見た目が優男にしか見えないナグモだった為に強気に出ていた。

 

「おう、ガキ。俺はこの嬢ちゃんに用があるんだよ。ガキは帰ってママのミルクでもしゃぶってな」

 

 チンピラの男はせせら笑う様にそう言って、ナグモに背を向けようとし―――瞬間、背筋が凍る様な殺気を感じた。

 

「ひっ……な、なん、あがぁっ!?」

 

 突然背中に奔った怖気に怯むと同時に男の腕が捻り上げられていた。腕があらぬ方向に締め上げられ、痛みの余りに雫から手を離して振りほどこうとするが、ナグモが掴んだ手は万力で固定されたかの様にびくともしなかった。

 

「それで? これはどういう状況なんだ。報告しろ」

「あ……えっと、私がこの人にぶつかってしまったの! それで謝ったのだけど許してくれなくて、それで………」

 

 生徒会で新しい議題を聞く様に、いつもの調子で聞いてきたナグモに雫は条件反射の様に答える。雫からの報告にナグモは片眉を動かし、先程までの状況や捻り上げてる男の服のシミを見る。

 

「ふん………」

「ってえ! 痛えなこんちくしょうが!!」

 

 パッとナグモの手が離れ、チンピラの男はもんどりを打ちながら悪態をついた。未だにズキズキと痛む手首を庇う様に膝をつく男の前に―――。

 

「僕の部下が失礼した様だな。非礼を詫びてやる」

 

 言葉とは裏腹に謝意の籠もってない無感情な声が掛けられる。ナグモは自分の懐から財布を取り出した。

 

「そら、これをくれてやる。その元から汚い服の代金ぐらいにはなるだろう」

 

 ヒラヒラ、と男の前に一万円札が地面に落ちる。まさに犬にでも餌を放る様な―――それこそ、相手を低脳な動物とでも思っている様なぞんざいさだった。

 

「…………ふ、ふざんけんじゃねえぞクソガキがっ!!」

 

 あまりの扱いにチンピラの男の脳がフリーズしかけたが、即座に怒りに染まる。周りが悲鳴を上げる中、男は無事なもう片方の手でナグモへ殴り掛かろうとした。

 

 コツン。

 

「あ……………?」

 

 次の瞬間―――ナグモの姿が消えた。それと同時に男の顎に衝撃が奔り、男の視界が急速に横倒しになっていく。身体と脳が切り離された様に力を失って地面に倒れていく中、無機質で冷めた声が頭上から降りかかった。

 

「まったく………これだから低脳な相手は嫌いだ」

 

 八重樫道場仕込みの体術で死角への移動と顎の打ち抜きを行ったナグモは汚い物に触れた様に呟く。そして、チンピラの男の意識は闇に包まれた……。

 

 ***

 

「まったく、余計な手間が掛かった」

 

 気絶させた男を祭りの交通誘導に来ていた警察官へ引き渡し、いくつか事情聴取を受けた後にようやくナグモ達は解放された。ナグモの後ろを雫はしょんぼりとした様子で歩く。

 

「ごめんなさい……私のせいで……」

「……ふん、まあいい。今回は低脳な男に絡まれて災難だったな。雫に怪我が無かった事を良しとしよう」

「! ありがとうね、南雲くん」

 

 自分の身を案じる様な言葉に雫は嬉しくなる。状況だけ見るなら、普段はぶっきらぼうな男子が女の子を気に掛けてくれた、少女漫画の様なやり取りだった。

 もっとも―――ナグモには別の思惑があった。

 

(こいつが今の僕の手元にある中で役に立つ人間だからな………しかし、こう考えるとあんなのでもミュキルニラは秘書として優秀だったんだな)

 

 ナザリックでじゅーるから与えられた副所長のNPCをナグモはしみじみ思う。言動が鬱陶しくはあったが、それでも能力として自分の要求基準を満たしてはくれていた。それに比べれば雫の働きは1%にも満たないが、それも自分の様に至高の御方に創られた人間では無いから仕方ない、とナグモは思っていた。

 

(無いものねだりをした所でどうしようもあるまい。たとえ手元にある駒が貧弱でも、最上の結果を出すのが僕の頭脳の見せ所……要は使い方だ。低脳な人間であっても、僕が管理を行えば良い)

 

 人間社会に出て、そして経験を積んだNPC(ナグモ)は学習していた。人間達の判断は往々にして低脳な間違いを犯す。だからこそ、優れた頭脳の持ち主が人間達を管理しなければならない。劣った人間達の管理など好きでやりたくはないが、それが優れた頭脳を持って創られた自分にしか出来ないならば仕方ない。

 かつて、じゅーる・うぇるずはナグモの外見を亡き息子に似せるの同時に、設定は自分のSF趣味を反映させていた。その結果として、ナグモは人間の管理に関してディストピア小説のAIの様な考え方をしていたのであった。本来なら劣った人間達と関わるのも嫌がる『人間嫌い』だったの思考回路は、学園の生徒会長という特殊な立場になった事で『低脳な人間を効率的に管理する』という方向へシフトさせていたのだ。

 

(そういう観点からするなら、雫も人間にしてはマシというものだ……勤勉であり、よく働いてくれる。低脳な

人間共に壊されて良いものではない)

 

 それは職人が自分の道具を大切にする様に。よく切れる刃物の手入れを怠らない様に、ナグモを雫を得難い人材だとは認めていた。

 

「ねえ、南雲くん」

 

 ふいに雫が声を掛けてくる。どこかもじもじと、ナグモの顔色を伺う様にこちらを見ていた。

 

「その……私の浴衣、どうかしら? 変な所とかない?」

 

 突然の質問にナグモの頭に疑問符が浮かぶ。着物の着付けに関しては知識で知っているが、その知識と照らし合わせても雫におかしな点はない。生地の具合からおそらくは新品だろうというのは理解できたが、それが何だというのだろうか? 

 ふとすぐ側を他の祭りの参加客が通る。通行人の派手な柄物の浴衣を見て、ナグモはそれと比較した感想を述べる事にした。

 

「そうだな。派手さのない落ち着いた色合いだ。僕はそういった色合いの方が個人的に好ましい」

「好ましいって……も、もう! 南雲くんってばお世辞を言わなくて良いわよ!」

「世辞などではなく主観を交えた評価だが?」

 

 ナグモがそう言うと、何故か雫の顔は更に赤くなった。嬉しそうにする雫を見て、ナグモの頭の中でさらに疑問符が浮かぶ。

 

(やはり人間というのは理解しかねる……)

 

 どうして自分の評価を述べただけで雫が嬉しいのか理解できないものの、相手が人間だから意味不明な思考回路なのだろうと少年の形をしたNPCは思考を打ち切って歩き出した。

 

「……まあいい、早く本部に戻るぞ。やるべき仕事(タスク)が溜まって……雫?」

 

 いつもはナグモの言葉にすぐに返事をする雫が、何故か返答しなかった事に怪訝に思いながら振り向く。見ると雫は、通りがかった屋台に目を奪われている様だった。その屋台はいわゆる射的の屋台であり、小さな駄菓子からぬいぐるみまで様々な景品が並んでいた。その中の一つ、女性向けのチョーカー(首飾り)が展示されていた。黒い革ベルトのチョーカーははっきり言って安っぽい作りであり、涙形のアクセサリーもナザリックで最上の装飾品を知るナグモからすれば品の無い様に見えていた。だが、雫の視線が明らかにそれに向けられている事にナグモは気付いた。

 

「雫」

「あ……ごめんなさい! 何かしら?」

「あんなのが欲しいのか?」

「え……な、何の事かしら!? ちょっとぼうっとしていただけだから気にしないで———」

「あれが欲しいのかと聞いている」

「それは……その……良いなぁ、って……」

 

 慌てて誤魔化そうとしていた雫だが、ナグモがジッと見ていると徐々に声が小さくなっていく。

 

「………少し待ってろ」

「え? 南雲くん?」

 

 雫が驚きの声を上げる中、ナグモはさっさと射的の屋台の前に立った。

 

「お! にいちゃん、挑戦するかい?」

 

 ナグモが代金を支払うとテキ屋の男が威勢の良い声を上げた。それを黙って聞きながらナグモは空気銃にコルクを詰めていく。

 

「後ろにいるのは彼女さんかい? さあて、彼女さんに良い所を見せら、」

 

 パパパンッ!

 

「れる……かな………?」

 

 店主が言い終わるより先にナグモの空気銃が動く。先に三つの空気銃に弾を詰めていたナグモは、神速の抜き打ち(クイックドロウ)を披露した。カードをシャッフルする様に銃が手の中で次々と取り替えられ、ほぼ同時に撃たれたコルク弾は狙い違わず同じ場所に当たってチョーカーを景品棚の後ろに倒していた。

 

「お…………大当たりぃ!」

 

 目の前で行われた絶技に呆然とした店主だが、しばらくしてガランガランとベルを鳴らした。思わず周りの観客も一斉に拍手する。

 

「いや〜、驚いた……にいちゃん、選手か何かかい? もうちょっと手加減してくれよ〜」

 

 店主が苦笑いしながら景品を渡し、周りからも称賛の声が上がるがナグモは当然の評価だとでもいう様に無表情で雫の元へ戻った。

 

「南雲くん……その、なんというか……すごかったわ」

「ふん、的が近過ぎるくらいだ。こと射撃に関しては四十一人の方以外に負けない自信はある」

 

 四十一人って? 雫が疑問に思うが、それを無視してナグモは取ってきたチョーカーを差し出した。

 

「そら、やる」

「そんな……悪いわよ、こんなのを貰ったら」

「お前が欲しかったんだろう? 大体、これは女性用の装飾品だ。僕が持っていても手に余る」

「そ、そう? それじゃ………」

 

 ナグモからおずおずと受け取り、雫は手の中にあるチョーカーを見つめる。それをしばらく見つめた後、そっとナグモにチョーカーを差し出した。

 

「その……付けて貰って良いかしら?」

「? まあ、構わないが……」

 

 ナグモが受け取ると雫は黙って髪を掻き上げて後ろを向いた。真っ白なうなじが顕になり、ナグモはチョーカーのベルトを巻く。

 

「あ………んっ」

 

 パチン、と留め金が落とされ、雫の首にチョーカーが嵌められた。首に巻かれた感触に雫は思わず声を上げるが、少ししてからそっとチョーカーを軽く撫でた。

 

「どう、かしら……変じゃない?」

 

 雫がドギマギとした表情でナグモを見つめる。頬は紅潮して、潤んだ瞳は悦びに溢れていた。男ならばドキッとする様な蠱惑的な表情を向けられながら、ナグモは訝しそうに雫を見た。

 

「どうと言われても……そもそも何故チョーカーが欲しかったんだ?」

「その……もしも南雲くんから何か貰うなら、これが良いと思ったの。だって………まるで私は南雲くんの物、って思えるから……♡」

「……なるほど。僕の物、か………」

 

 ああ、言っちゃったと雫が思わず自分の発言に恥ずかしくなる中、ナグモは何かを考える様な表情になった。そして雫に向かって頷いた。

 

「まあ、悪くはない」

「! ほ、本当!?」

「そうだな。雫は手元に置いていても良いと思えるからな……得難い人間である事には違いないから、大事にするとも」

 

 ぱあっと雫の顔が嬉しさで溢れる。それを見ながらナグモは思った。

 

(まあ、人間にしては優秀であるし……これ程に従順ならば、観察対象として手元に置いていても良いか……)

 

 全ての人間がこうであるなら、自分も管理が楽なのに。

 『人間嫌い』の思考回路を持ったNPCは、そんな事を考えていた。

 

「そら、行くぞ。雫」

「ええ、分かったわ。南雲くん」

 

 再び歩き出すナグモの後ろを雫は嬉しそうについて行く。

 歩くたびにティアドロップ(雫の形)をしたアクセサリーが、チリンチリンとドックタグの様に鳴った。

 

 

 




後年、とある異世界にて。

アインズ「そうか……君は地球にいた頃からナグモと仲が良かったのか」
雫「はい。南雲くんとは小学生の頃から一緒にいて、私をイジメから救ってくれたのも南雲くんのお陰だったんです」
アインズ「ほう……あのナグモが、なあ……」
雫「だから私は南雲くんと一緒にいたいと思って……この首輪を貰った時も嬉しかったんです!」
アインズ「ううむ、何とも甘酸っぱい………んん? 首輪?」
雫「これを付けていると、自分が南雲くんの物になったと思えて……その、嬉しくて……♡」
アインズ「…………へ、へえ。そう………そっかぁ………」

アインズ(拝啓、じゅーるさん。貴方の息子は、女の子に首輪をつけて飼う趣味があるそうです。そんな趣味はシャルティアだけだと思ってましたよ………教育を間違えてませんか?)
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