ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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オーバーロード十周年おめでとうございます! アインズ・ウール・ゴウン様万歳!(魔導国民感)
 
そして7月からアニメ四期が楽しみです! PVを見て、憔悴した顔のジルやヒルマさんがツボでした(笑)
 
こっちの皇帝も、あんな顔にしてあげたいなあ……(ニッコリ)
 
追記
 
劇場版異世界かるてっとを観てきました! すごく面白かったです!
今回のキーキャラになったあの子とか、スゴいツボでした!
そして相変わらずデミの「なるほど……」がツボでした(笑)


第七十二話「フェアベルゲンの訓練風景」

 ガンッ! ヒュンッ!

 フェアベルゲン近郊の樹海で、金属同士を打ちつけ合う様な音が響く。西軍の大将である熊人族のジンは目の前の戦いに歯噛みしながら部下に指示を出した。

 

「くっ……止めろ、止めろ! 相手は一人だけだぞ!」

 

 部下達は各々の武器を握って前線から突出してきた人物に襲い掛かる。

 

「でりゃあああぁぁぁッ!!」

「ぐぬぅ!?」

 

 だが、その人物の武器の一振りで部下達は纏めて薙ぎ倒された。ジンもまた、手にした大剣を振ろうとしたが、それより早く距離を詰められて武器を喉元に突きつけられた。

 

「……私の勝ち、ですね?」

「くっ……降参だっ」

 

 ジンが悔しそうに投了した姿を見て、その人物———シア・ハウリアはフゥと息を吐いた。

 

「ソレマデダ」

 

 二人の間に冷気を感じさせる硬質な人外の声が響く。その声にシアとジンは居住まいを正した。

 

「コキュートス様」

「見事ダ、シア。鍛錬ノ仕上ガリヲコノ目デ見セテ貰ッタ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 現れた人物———コキュートスから褒められて、シアは恐縮な面持ちで敬礼した。

 

 ここはフェアベルゲン近郊に作られた練兵場。シアを含めた亜人族達は長きに渡り虐げられ、そして魔人族の襲撃から自分達を救ってくれた、アインズの恩に報いる為に日々鍛錬に励んでいた。彼等の教官であるコキュートスは、いま行われた模擬戦で目覚ましい活躍をしたシアに満足気に頷いた。

 

「コレナラバ、アインズ様モオ喜ビニナラレルダロウ。コノ調子デ鍛錬ニ励メ」

「本当ですか! 私、アインズ様の為に頑張ります!」

 

 ピコピコとウサ耳を動かして嬉しそうなシアを、敗軍の将であるジンは面白くなさそうに睨んだ。

 

「……クソ、“忌み子”風情に遅れを取るとは」

「……っ!」

 

 ジンの一言にシアは顔を強張らせた。

 

「ジン、その言い方はないよ」

 

 今回の模擬戦でジンの副将であり、魔人族の襲撃で数少ない元・長老衆の生き残りだった狐人族のルアは嗜める。

 

「その兎人族の子が強いのは確かだし、魔人族の襲撃があった後にも人一倍コキュートス様の訓練を頑張っていたのを知らないわけじゃないだろ? その彼女を認めないのは流石に心が狭過ぎないかい?」

「っ、分かっているっ」

 

 舌打ちしそうな声音で答えるジンに溜息を吐きながら、ルアはさらに言葉を重ねた。

 

「それに、今更“忌み子”も何もあったものじゃないだろ? 魔力を直接操れるという意味なら、今の僕達はみんな“忌み子"なわけだし」

 

 そう言って、ルアは白銀の尻尾をフリフリと動かした。

 ルアだけではない。ジンも、この場にいる亜人族の誰もが、シアの様に白銀の体毛、さらには身体のどこかに赤黒い血管の模様を浮かび上がらせていた。

 

 魔人族の襲撃後———負傷した亜人族を治療したナグモにより、彼等はトータスの魔物因子を身体に植え付ける改造手術を施されていた。これにより亜人族達は元から人間より優れていた身体能力を更に向上させ、限定的ながら魔物の固有魔法を使える様になっていた。かつてフェアベルゲンでは魔力操作の技能を生まれ持った子供を“忌み子”として処分していたが、今では亜人族の誰もが魔法を扱え、謂わば亜人族全てが“忌み子”となっていた。

 

「そういう伝統を保持してきたのは僕を含めた元・長老衆だけど、時代は変わったんだ。大恩あるアインズ・ウール・ゴウン様の為にもここは考えを改めて———」

「分かっていると言っているだろ! コキュートス殿、これで失礼する!」

 

 尚も言い募ろうとするルアに怒鳴ると、ジンは肩を怒らせながら大股で背を向けて行ってしまった。彼の直属の部下達が慌ててジンを追いかける。

 

「……申し訳ない、コキュートス様。それに……シア・ハウリアだったかな?」

 

 空気の悪くなってしまった練兵場で、ルアは二人に向かって頭を下げた。

 

「彼とてあの戦いで失った筈の手足をナグモ様に元に戻して貰ったから、ゴウン様に忠義は尽くしているんです。ただ、未だに旧い考え方を捨てられないというか……」

「あ、あの……私は別に気にしてなんて」

「実二下ラン」

 

 恐縮するシアとは対称的に、コキュートスはパキパキと凍る様な溜息を吐いた。

 

「オマエ達ハアインズ様ガ恐レ多クモ慈悲ヲカケラレ、アインズ様ノ為ニソノ身ヲ捧ゲルト誓ッタ身。アインズ様ノ為ナラバ、旧来ノ偏見ナド捨テ去ルベキダ」

「いやはや、仰る通りで。ジンには僕からも言って聞かせますから」

 

 コキュートスはルアに頷くと、シアの方を向く。

 

「シア・ハウリア。私ハオ前ガ魔物ト同ジ力ヲ持ツカラトイッテ、差別ハセヌ。何故ナラバ、ソノ力ハアインズ様ノ御役ニ立テルト私ハ確信シテイル。オ役ニ立テル様ニ日々精進セヨ。至高ノ御方ハソレヲ望マレテイル」

「ありがとうございます、コキュートス様。その御言葉を貰えるだけで、身に余る光栄です」

 

 シアが深々と礼をしたのを見て、コキュートスは声を張り上げた。

 

「他ノ者モ鍛錬ニ励メ! 全テハ神ヲモ超エル至高ノ御方ノ為ニ! 答エロ、オ前達ハ誰ニ忠誠ヲ尽クス?」

『我らの神、アインズ・ウール・ゴウン様の為に!』

 

 その場にいる亜人族達から力強く唱和される。コキュートスは一段と声を張り上げた。

 

「アノ御方ニ付イテ行ケバ、モウオ前達ハ亜人ダカラト虐ゲラレル心配ハナイ! 故ニ……献身セヨ! 至高ノ御方、アインズ・ウール・ゴウン様ノ為ニ!」

『万歳! アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!』

 

 亜人族達から万歳三唱が響き渡る。

 全てはフェアベルゲンの救世主、アインズの為に。

 彼等は献身的な信者の様に、アインズの名を歓喜の声で讃えていた。

 

 ***

 

「ふう………」

 

 練兵場からの帰り道で、シアは肩の荷を下ろす様に大きく溜息を吐いた。ほんの少しだけウサ耳がへにょりと垂れていて、それがシアの今の心情を表している様だ。

 

「“忌み子”、か……やっぱり、そういう風に見る人はまだいるんですね……」

 

 何処となく気落ちした様にシアは呟く。

 アインズによってフェアベルゲンが支配されて以来、シアの様に魔力を持つ亜人族は珍しくなくなっていた。しかしながら、従来の差別意識までは拭う事は出来なかった。無論、シアと共に魔人族と戦った亜人族達はシアの事を認めている。しかし、ジンを始めとした古くからの伝統を重んじる一部の亜人族は、未だにシアの事を“忌み子”と呼んで疎んじているのだ。それが長く隠れ潜んで生活してきたシアにとって、小さくない心の傷を作っていた。

 

「どんなに頑張っても、私はフェアベルゲンにとって忌むべき存在なのかな……、」

「おや、シアちゃんじゃないですか〜」

 

 しょんぼりと肩を落としていたシアに、おっとりと間延びした声がかけられる。振り向くと、モルモットの耳を生やしてまん丸眼鏡をかけた少女がそこにいた。

 

「あ、ミキュルニラ様。お久しぶりですぅ」

 

 シアはパッと笑顔になってミキュルニラに挨拶した。ナグモと共に亜人族達の治療を行い、定期的にフェアベルゲンの診療所を訪れてシア達、“改造亜人族"の診察を行うミキュルニラはフェアベルゲンでも良好な関係を築いていた。

 

「はい〜、お久しぶりです〜。それと様付けはしなくていいですからね〜。出来れば親しみを込めてミッキーちゃんと呼んで欲しいのです〜」

「え、ええと……」

 

 ミキュルニラの要求にシアは困った顔になる。ナザリックで至高の御方達に創られた存在(NPC)が他のナザリックのシモベ達よりも上位である事などは、コキュートスの教育でシアも知っている。シアからすれば、そんな偉い相手を愛称で呼ぶのは恐れ多く———それと野生のカンが、何かこう、その呼び方はマズいと警告していた。

 

「ええと、そうですぅ! ミキュルニラさんは何故こちらに? 前の診察の日からあまり日が経ってませんよね?」

「うぅ〜、またもじゅーる様が付けた可愛い名前を呼んで貰えません……。いえね、今日は私のお友達と休日が被ったので〜、せっかくだから案内してあげようかと」

 

 だぶだぶの白衣の袖でわざとらしく目元を覆っていたミキュルニラだったが、一転して泣き真似を止めて後ろにいた人物をシアの前に出した。そこにはストロベリーブロンドの髪を伸ばした少女――シズ・デルタがいた。

 

「この子はシズ・デルタちゃん、というお名前なんです〜。出来れば仲良くしてあげて欲しいです〜」

「は、初めまして! シア・ハウリアと申します!」

 

 ミキュルニラが連れて来たという事は、この少女もナザリックの関係者なのだろう、とアタリをつけたシアはシズに敬礼する。しかしシズは挨拶を返さず、ジーッとシアを見つめていた。

 

「………………」

「……ええと、私が何か、わひゃあ!?」

 

 早業だった。ダンボールをこよなく愛する工作員ばりのCQCで背後に回り込むと、シズはシアのウサ耳を触った。

 

「もふもふ……もふもふ、可愛い……」

「ちょっ、ちょっと! そこは敏感で、ひゃん!?」

 

 表情を全く動かさず、シズはウサ耳をもふもふと触る。心なしか、目がキラキラとしている様に見えるのは気のせいかもしれない。

 

「はいはい〜、シアちゃんが困ってますから、一旦離れましょうね〜」

「……むぅ。仕方ない」

 

 ミキュルニラに嗜められて、ようやくシズは離れた。揉みくちゃに撫で回されたシアは『うう……もうお嫁にいけないですぅ』と涙目になる。

 

「ごめんなさいね〜。シズちゃんは可愛いくてもこもこしたものが好きなので〜。シズちゃんも勝手に触っちゃメッ! ですよ〜」

「……ごめんなさい。もうしない」

 

 ショボンと肩を落としながらシズが謝る。

 

「……」

「ええと……」

 

 表情が全く無いのに、シュンと沈んだ空気がシズの周りを覆う。あからさまに落ち込んだ様子を見かねたシアは、シズに声を掛けた。

 

 

「その……さっきみたいにいきなりでなければ、時々触ってもいいですよ?」

 

 パアアァッと表情を動かさず、シズの纏った空気が明るくなる。

 

「……ありがとう。貴方、とても良い子」

「いえいえ、それ程でも……って、なんか貼られたですぅ!?」

「……お気に入りだから、あげる」

「シズちゃ〜ん、一円シールはキチンと相手の許可を取ってから貼りましょうね〜?」

「……むぅ。こうした方が可愛いのに。香織といい、良さを分かってくれる子が少ないのが最近の悩み」

 

 シアの額に貼られたシールに剥がし液を垂らすミキュルニラに、シズは表情を動かさないまま不満そうな声を上げた。なんというか、表情が無い割にはなんとも感情が分かりやすい人だなぁ、とシアはぼんやりと考える。

 

「ところで〜、元気なかったみたいですけど〜、どうかしたのですか〜? 良ければお話をお聞きしますよ〜?」

「いえ、大した事じゃないんですけどね……」

 

 ミキュルニラのゆるふわな雰囲気がそうさせるのか、シアは先程ジンに言われた事を話した。

 

「そうですか。そんな事が……」

「まぁ、気にしても仕方ないですぅ! 魔力持ちの亜人なんて、もうフェアベルゲンでは珍しくもないですからね!」

 

 いつもの間延びした口調を捨てて真剣に話を聞いてくれたミキュルニラを心配させまいと、シアは明るく振る舞った。

 

「…………」

 

 無言のまま聞いていたシズは、シアの頭をポンポンと撫でる。

 

「シズ、様……?」

「……貴方は“忌み子”なんかじゃない。そんな事を言う奴等なんか、放って置けばいい」

 

 感情の宿らない硬質な自動人形(オートマトン)の瞳で、シズはシアをじっと見つめた。

 

「……コキュートス様は貴方の頑張りを認めている。……貴方を認めてくれる人は、キチンといる」

「そうです、そうです〜。そんな暗い顔をしなくても良いですからね〜」

 

 シズに同調する様にミキュルニラはいつもの口調で頷いた。

 

「コキュートス様の訓練で、貴方が亜人族の皆さんの中で一番強くなっている事は私も知ってますよ〜。きっとアインズ様も、シアちゃんの才能を見込んで貴重な蘇生アイテムを使ったのかもしれませんね〜」

「ゴウン様が……私を……?」

「はい〜、あの御方は私達を最後まで見捨てず、人間のしょちょ〜の為にも香織ちゃんを助けに行く程に慈悲深い方ですから〜。アインズ様から直々に慈悲を賜ったシアちゃんはむしろ、祝福された子と言えるでしょうね〜」

 

 ミキュルニラの言葉に、シズは無表情でウンウンと頷く。

 シアは感服した面持ちで自分の胸に手を当てた。そこに感じる鼓動が、あの恐ろしげな外見に反して慈悲深き死の支配者からの贈り物(ギフト)だと思うと、急に自分の存在が誇らしくなってきた。

 

「だからシアちゃんはもっと自分に自信を持っていいと思いますよ〜」

「……その通り。頑張れ。頑張れば、アインズ様もその働きに見合った恩賞を貴方にお与えになる」

「はい! ゴウン様の為に頑張るですぅ!」

 

 やってやるですよー! と元気になったシアに、ミキュルニラは笑顔で頷いた。シズは無表情のまま、シアに近付く。

 

「……さっきのシール、出来れば目立つ所に貼って欲しい。もしも、シアが困った事になったら、私の姉達も力になってくれる筈」

 

 姉達という事は、シズは末っ子なのだろうか? とシアが首を傾げていたが、ピンとウサ耳を立てた。シアが音を拾った方を向くと、ドタドタと慌てながら走る兎人族の少年が駆け寄ってきた。

 

「シアお姉ちゃん!」

「パルくん? そんなに慌ててどうしましたか? 確か今日は樹海の外縁部の見張り当番だったんじゃ……」

「それどころじゃないんだ!」

 

 ハァハァ、と息を切らし、シアと一緒にいるナザリックの偉い人達(ミキュルニラとシズ)の前で礼儀正しくする事も忘れて兎人族の少年はシアに慌てた様子で話しかけた。

 

「大変なんだ! 帝国が……帝国が攻めてきた!」

 

 瞬間、シアだけでなくミキュルニラやシズも目を丸くした。




>シア

 自分的にはオバロのエンリさん枠にしたいかなー、と。それはそうと、可愛いウサ耳持ちなのでシズに気に入られました。

 どうせならこの騒動で、あまり動かせていなかったプレアデスとかを活躍させていこうかな。

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