でも他の人の作品を読んでいると、こんな面白い話が読めるなんて! と思うと同時に、自分が一番読みたいのはやっぱり自分の作品の続きであると実感してきます。
田吾作Bが現れたさん、竜羽さん、羽織の夢さん、GREEN GREENSさん、三文小説家さん……その他、ありふれの二次創作作家の皆様。そして、この作品を読んでくれる読者の皆様。この場を借りて、お礼を申し上げます。
なんともありふれ側に優しくないクロスオーバー小説ですが、自分も皆様の様な作品をこれからも書いていこうと改めて思う所存です。
会議が終了し、シアはフェアベルゲンの広場を歩いていた。周りでは急遽決まった防衛戦に多くの亜人族達が戦闘準備の為に忙しく動き回っていた。しかし、彼等の表情に不満や恐怖はない。今こそ大恩あるアインズの為に武器を手に取り、そして愛する家族達の為に今度こそ自分達の国を守ってみせると誰もが気炎に満ち溢れていた。
「……少し、無神経だったかもしれないですぅ」
先の会議でジンが見せた表情を思い出して、シアはポツリと呟いた。
シアはジンの事が苦手だ。未だに自分の事を“忌み子”と呼んで嫌悪感を隠そうとしないし、威圧的な態度で接してくるから苦手意識がある。
しかし、先の会議でシアの中で少しだけ見方が変わっていた。彼は彼なりにフェアベルゲンの長老衆の一人としての責務を全うしていたのだ。それに対して感情的に反論してしまった事を少しだけ後悔していた。
「シアちゃん」
声を掛けられて振り向くと、ミキュルニラが白衣の袖をパタパタとさせながら近寄って来た。その後ろにはシズの姿もあった。
「会議はもう終わりですか〜? それで〜、どうされる事になりました〜?」
「はい、ミキュルニラ様。私達、フェアベルゲンの民は総出で帝国軍と戦います。今こそ、アインズ様に救って戴いた御恩に報いる時です」
迷いなく宣言するシアに、ミキュルニラ達は満足そうに頷いた。
「そうですか……コホン。きっとあの御方も、あなた方の選択を喜ばれると思います〜」
「……頑張って」
咳払いをして、間延びした口調に戻したミキュルニラの横でシズも短く激励の言葉を送った。シア達、亜人族にとっては
「ありがとうございます。アインズ様に恥じない様、必ず侵略者達を討ち取ってみせるですよぉ! ところで……差し出がましいのですけど、ミキュルニラ様にお願いがありまして……」
「何でしょう〜? 私に出来る事なら、可能な範囲でやりますけど〜?」
「実は……帝国軍に捕まって奴隷にされている同胞達がいるんです」
ぴくん、とミキュルニラの眉が動いた。それまでニコニコとした温厚な笑顔が曇る。シズもまた、眉を顰めていた。
「奴隷……そう、ですか。予想して然るべきでしたけど……」
「……人間達は貴方達を奴隷にしているの? モフモフで可愛い子が一杯なのに?」
「はい……外の世界では、亜人族は基本的に人間扱いされないのですよ」
亜人族は神からの恩恵たる魔法を使えないから、神にも見放された下等種族。
それがトータスにおける一般常識だ。フェアベルゲンの民はエヒト神やアルヴ神を信仰しているわけではないが、知識の一環として自分達が人間達からどういう扱いを受けるのかは子供の頃から教わっていた。
「それで、お願いしたい事というのは、同胞達を救い出せたらその人達をナグモ様に治療して欲しいのです」
「しょちょ〜にですか〜?」
「はい。あの方はちょっと気難しい方ですけど、パルくんや皆を完治させてくれましたから」
ナグモの腕ならば、帝国の人間達に酷い扱いをされている亜人族達も後遺症なく治療できる。そう見込んでの頼みだった。
「……ナグモ様にお願いするの? 引き受けてくれるか怪しいと思うけど」
シズは平坦な声でシアに聞く。しかしながら、どこか訝しむ空気が出ていた。
「……ナグモ様は基本的に他人が嫌い。アインズ様の御命令でも無ければ、断ると思う」
「う〜ん……そうでしょうか?」
シズの人物評にシアは少しだけ首を傾げた。シアはナグモと僅かにしか接していないが、それでも亜人族の治療を真剣に行っていた姿を見てシズの人物評に素直に頷けなかった。
「なんというか……私はそこまで悪い方には見えないですぅ。他人が嫌いな風に意識的に振る舞っているというか……」
先程のジンを思い出す。長老衆の一人という
「きっと、少し不器用なだけで、ナグモ様は根は良い人なんだと思います……あ、いや! 私が勝手にそう思ってるだけなんですけど!」
思った事をそのまま口にしたシアは、ミキュルニラ達の前である事を思い出して慌ててパタパタと手を振った。
しかし———。
「……ええ。あの人は、とても不器用な人なんです」
ミキュルニラは優しく微笑みながらそう宣言した。それは———まるで、弟の成長を見守る姉の様だった。
「優しい人なんですよ……感情の出し方が、じゅーる様が定めた通りのやり方しか知らないだけで」
「……ミキュルニラ?」
いつもと違う様子のミキュルニラに、シズは小首を傾げた。だが、シズへ振り向いた時にはいつもの顔に戻っていた。
「ん〜? どうかしましたか〜、シズちゃん。あ、いま言った事は内緒ですよ〜? しょちょ〜の耳に入ったら、きっとすごい
「は、はあ……?」
いつもの様な気の抜ける間延びした声で言われて、シアはとりあえず頷くしかなかった。コホン、とミキュルニラは咳払いをする。
「残念ですけど〜、しょちょ〜は今出張に行っているのですぐに帰って来ないかもしれないです〜。でもご安心下さい〜、助け出した亜人さん達は私が治療しますので〜」
「あ、ありがとうございますですぅ!」
「いえいえ〜、亜人の皆さんを保護するのは至高の御方が決められた事ですから〜」
ブンブンとウサ耳を振りながらお辞儀するシアに、ミキュルニラは笑顔で応えた。
「……貴方達だけで大丈夫?」
唐突に、シズが口を開いた。
「……侵略してくる人間達の数は貴方達より圧倒的に多いと聞いた。貴方達だけで大丈夫?」
「あはは……確かに厳しいかもしれないですぅ」
ナグモによって改造手術が施され、コキュートスによって戦闘訓練を施されたといっても、兵力差は実に三十倍を超えている。軍隊の常識からすれば、籠城戦に持ち込んでも勝てないと言われるだろう。だが、シアの決意は変わらない。
「でも、戦わないといけないです。大切な家族と故郷の為に……そして、私達の神様であるアインズ・ウール・ゴウン様の為に。あの御方に命を救われた恩を返す為に、私は戦います」
それじゃあ、失礼します。と、シアは立ち去った。その背中をシズは黙って見送った。
「…………」
シズは、何かを呼び止めようとする中途半端な位置で手を上げていた。
「シズちゃん。ひょっとして、何か言いたい事があったんじゃないですか〜?」
「………別に。何もない」
フイッと横を向きながら、シズは応える。それをミキュルニラは少しだけ苦笑しながら優しく話しかけていく。
「本当はシアちゃんに力を貸してあげたかったんじゃないですか〜? シールをあげるくらい、気に入ったんでしょう〜?」
「………別に、そんな事なんて」
「ねえ、シズちゃん。寡黙な所がシズちゃんの可愛い所ですけど〜、時々は自分の思ってる事を口にしても良いと思いますよ〜?」
無表情で、それでいながら感情豊かな
「しょちょ〜もいつも鉄面皮で、無愛想ですけど……本当は結構感情豊かな人なんです。でも、真面目な人だから……じゅーる様から任されたご自身の役職や在り方に忠実に遂行されてるのです」
だから一時期は薬漬けになっちゃったんですけどね……と、遠い目をするミキュルニラに、シズは首を傾げた。
「シズちゃんは、しょちょ〜とちょっと似てます。だから、もしもシズちゃんがやりたい事があるなら、我慢しないで言った方が良いですよ」
「……でも、それは……私の我儘」
「大丈夫ですよ〜」
目線を下に落としたシズに、ミキュルニラは微笑んだ。
「シズちゃんが我儘を言ったからといって、嫌いになったりする人はいません。少なくとも、シズちゃんのお姉さん達はそうだと思いますよ〜?」
***
ヒュン、と転移魔法陣が起動してシズの身体が浮かび上がる。次の瞬間には、シズは薄暗い部屋にいた。シズは慣れた様子で部屋のドアを開ける。外は広い草原になっており、少し離れた場所には至高の御方が作り上げた誉れ高い聖地にして、シズの生まれ故郷であるナザリック地下大墳墓が見えた。
「あら、シズじゃない。お帰りなさい」
「お帰りぃ」
転移魔法陣が設置されている小屋から出ると、そこの警備をしていた二人の武装メイドがシズを出迎えた。
一人は黒い髪を夜会巻きにして、細長い楕円形の眼鏡をかけていた。背筋はピンと伸ばされ、立ち振る舞いには隙が一切見当たらない。まさに知的な美女、という理想を形にした様な女性だった。
もう一人は先の女性よりも背が幾分か小さい少女だ。フリルの付いた可愛らしい着物の様なメイド服を着て、頭には二つに纏めたシニョンで髪を結い上げていた。ただ、彼女の表情はお面であるかの様に全く動かず、瞳も劣悪なガラス玉の様な印象を受けた。
彼女達の名前は、ユリ・アルファとエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。シズと同じ戦闘メイド“プレアデス”の一員であり、シズの姉妹にあたる
「休暇は楽しかったぁ? 妹のシズゥ?」
「……違う。貴方が妹」
両手を広げて威嚇のポーズを取るエントマに対し、シズもシャドーボクシングをしながら応じる。
そして———二人でチラッとユリに視線を送る。視線の意味を悟ったユリは、溜息を吐きながら二人の間に割って入る。
「ハイハイ、喧嘩しないの。二人のどちらが妹にあたるかは、アインズ様もご存知ではないと仰っていたでしょう?」
「むぅ。仕方ないぃ、ユリ姉に免じて許してあげるぅ。寛大な姉に感謝すると良いぃ」
「……だから、貴方が妹。でも私は姉として妹の我儘を聞き入れてやる」
パチパチと軽い火花がエントマとシズの間に散る。とはいえ、お互いにじゃれついている様なものだ。だからこそ仲介を買って出て欲しくてユリをチラチラと見てくるし、それが分かっているからユリもあまり強く説得しないのだ。
(まあ、本気で喧嘩する様ならブン殴って説得すれば良いものね)
などと、
「それで、確かミキュルニラと一緒にアインズ様が御支配された亜人族の国に行っていたのよね? どうだったの?」
「……モフモフな子が一杯。兎の子は耳を触らせてくれた」
「おぉ〜、ウサギ肉ゥ! 柔らかくて美味しそう!」
「……食べちゃ駄目。その子、私のお気に入り」
「そもそもアインズ様が手ずからお救いした者達よ。勝手に害したら、アインズ様のご不興を買うわよ?」
「ちぇ〜、残念」
気を落とした様にエントマは溜息を吐く。人肉が好物なエントマからすれば、亜人族は獣と人間がミックスされた合い挽き肉といった所だろうか。
「そもそもナグモ様が処分するから、とお渡しされた魔人族達がまだ沢山いるでしょう?」
「えぇ〜、でもあれ不味いしぃ。色々な魔物とか混ざってるから、なんか変な味ぃ」
「まったく、貴方って子は……。分かったわよ、今度アインズ様にお願いしてみるから、今は我慢しなさい」
「は〜い」
やれやれ、といった様子でユリは溜息を吐く。彼女のカルマ値はプラス寄りだが、何よりも優先されるのは
「…………」
「? どうかしたのかしら?」
そのやり取りをジッと見つめていたシズの視線に気付いて、ユリは不思議そうな表情になる。
「……ユリ姉は、私が我儘を言っても怒らない?」
「え? 当然じゃない。あんまりな内容は困るけど、ボク……じゃなくて、私は貴方達の長女ですもの。妹達の面倒を見るのが、私の役目よ」
「そうそうぅ。だから、困ってる事があるなら私に話してみなさいぃ。妹のシズゥ」
またか、と始まるだろう姉妹喧嘩に少しだけうんざりするユリ。だが、予想に反してシズから反論の声は上がらなかった。シズは何かを考え込む様に目を伏せていたが、やがて無表情な———それでいて意志の篭った目を向けてきた。
「……ユリ姉、エントマ。力を貸して」
今までの感想欄を見ていると、オーバーロード原作は読んでないけどこの作品を見ているという方もいる様なので、ちょっとキャラ解説をやってみます。詳しい事を知りたい人がいたら、是非原作を読んで下さい。
>シズ・デルタ
ナザリック地下大墳墓の第九階層「ロイヤル・スイート」にいる戦闘メイド「プレアデス」の一人。種族は自動人形であり、職業はガンナー。エントマとはどちらが妹か、と良く口論になる。モコモコとした可愛い物が好き。カルマ値は中立〜善。無表情ながら、感情表現はなんとなく分かりやすい。因みに本名はCZ2128・Δ。
機械の身体を持つ為、本作では第四階層「ナザリック技術研究所」の面々と関わり深い。
>エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
シズと同じく「プレアデス」の一人であり、種族は
>ユリ・アルファ
「プレアデス」の副リーダー(リーダーは執事セバス・チャン)であり、戦闘メイド達の長女として設定されたNPC。種族はデュラハンであり、普段は頭が外れない様に固定している。職業はストライカーであり、創作者のやまいこが「未知の敵でもとりあえず殴ってみる」という性格だった為か、若干脳筋思考。普段はボクっ娘のようで、時々「ボ……失礼しました……私は」と言い直す。カルマ値は善であり、ナザリックの中では話が通じる方でもある。