わざわざ感想を頂き、ありがとうございます。せっかくの感想ですが、返信出来なくて申し訳ありません。私事ではありますが、もうすぐ引っ越しが控えているので今のうちに書けるところまで書いておきたいので、執筆だけに専念させて貰います。
それに個人的にも、帝国の行く末は早く書きたい気分なので。
ヘルシャー帝国 帝都 皇宮
「そろそろバイアスの野郎はフェアベルゲンを征服した頃合いか……」
昼下がり、執務が一段落した休憩時間にガハルドは何気なく呟いた。側に控えていたベスタはガハルドの呟きに深く頷いた。
「お間違いないでしょう。あちらには“帝国の重戦車”ことゴードンを始めとした屈強な猛者達、さらには一万もの大軍。亜人族共に万が一の勝機もありません」
「ふん、油断は禁物だ。地の利はフェアベルゲン側にあるからな」
「これは申し訳ありません。ですが、バイアス様の補佐として親衛隊より“智将”ことカーライル殿が出撃されているではありませんか」
「……確かにな。カーライルならキチンと引くべき時は引いて被害は抑えるわな」
さほど心配してない様子でガハルドは頷いた。それ程に自分の親衛隊の実力を買っているという証拠でもあった。
「ある意味、此度の戦はバイアス様が次期皇帝候補筆頭に就かれた事に対する良い御披露目になったやもしれません。民は勝ち続ける皇帝を選びますので」
「まあ、な……」
国是として実力主義や弱肉強食を掲げるヘルシャー帝国。農業や炭鉱労働などが課されている亜人族奴隷や工業、商人などを除けば国民の大半は兵士か傭兵、もしくは冒険者に就いている。その為か気質が荒い者が多く、皇帝もまた力をもって「強い王」である事を証明しなければ国民の信用は得られない。だからこそ、皇帝に就くのに「決闘の儀」などという時代錯誤なやり方がまかり通っている。
(とはいえ、個人の武力と皇帝の器は別物だと思うんだがな。欲を言えば、トレイシーを次期皇帝にしたかったぜ。バイアスよりは頭の出来が遥かにマシだからな)
ガハルドも若い頃は恵まれた才能と武力をもって、戦場で数々の武勲を立てた。しかし、いざ皇帝の座に就くと武力だけではどうにもならない事があるという事を思い知った。
大陸のほぼ全てに宗教的影響力を及ぼす、聖教教会。
その聖教教会を後ろ盾に付ける事で、周辺国家に比べて豊かな国となったハイリヒ王国。
その二大組織に比べれば、ヘルシャー帝国は国土が狭く、武力以外に取り柄のない弱小国家だ。その武力も、聖教教会が擁する“神の使徒”達が召喚された事で逆転されている可能性がある。
だからこそ、ガハルドは今回のフェアベルゲン侵攻に踏み切ったのだ。首尾よく“神の使徒”達が魔人族達を討ち滅ぼした場合、大陸の勢力図が聖教教会とハイリヒ王国に大きく傾くだろう。そうなった時、帝国は今以上に肩身の狭い思いをするのは目に見えている。その時の為に植民地としてフェアベルゲンを占領する必要があったのだ。
(まあ、肝心の勇者共が報告を見る限り力を持ったガキの集団だから、魔人族の方が優勢になるパターンもあるが、その場合でも奴隷兵として亜人族を徴収しておきたいしな。バイアスに渡した戦力から鑑みて、亜人族相手に敗北は無えだろ。さて、どのくらいの捕虜を連れ帰って来てくれるやら……)
ガハルドはそれで思考を打ち切ると、肩の凝りをほぐす様に手を伸ばした。
「さて、と……そろそろ休憩は終わりだ。午後の執務に取り掛かると———何だ!?」
突然の地響きにガハルドの弛緩していた精神が一気に緊張する。部屋の窓や調度品がガタンガタンと揺れる。だが、地震とは違う。まるで何か大きな物がぶつかった様な衝撃だった。
即座にガハルドは護身用の剣を手に取り、ベスタが主君を守る為に身構えた所でドアが荒々しく叩かれる。
『こ、皇帝陛下! 大変です!』
「何事だ、騒々しい! ここを陛下のお部屋と知っての事か!」
「構わねえ。入れてやれ」
ガハルドが許可を出し、ベスタが扉を開けると皇宮の警備をしている兵士が挨拶もそこそこに入ってきた。
「何があった? 状況を知らせろ!」
「は、はっ! 陛下、ドラゴンです! 中庭にドラゴンが降り立って来ました!」
「はあ!? ドラゴンだと?」
「貴様、馬鹿も休み休み言え! ここは帝都の中心である皇宮だぞ! モンスターがこんな場所にまで出現したというのか!」
「ですが、現にドラゴンが空から降り立って来たのです! 私の報告をお疑いならば、ご自身の目でお確かめ下さい!」
必死な様子の兵士を見て、ガハルドはベスタに目配せした。ベスタは一つ頷くと、執務室のバルコニーに繋がる雨戸を開ける。そしてバルコニーに出た。
「な……そんな、馬鹿な!?」
すぐにベスタの狼狽する声が聞こえて、ガハルドも剣を帯びてバルコニーへと出た。
そこに———一匹のドラゴンがいた。
純白の鱗を持ち、人間など軽く丸呑みに出来そうな程の巨躯を誇るドラゴンだ。
「こんな……こんな馬鹿な! 魔人族が皇宮に直接攻めて来たというのか!? 国境の守備兵達からは何の報告も無かったぞ!」
「騒ぐんじゃねえ! 見ろ、あのドラゴンに誰か乗ってるぞ」
非常事態に狼狽するベスタに一喝すると、ガハルドは目を凝らす。すると純白のドラゴンの背中には、背丈の小さな二人の人物が乗っていた。顔は仮面で隠されて分からないが、浅黒く長い耳を見てガハルドは眉を顰める。
「あの耳……魔人族か?」
「してみると、やはり魔国ガーランドの襲撃でしょうか?」
「陛下! ここは我々が食い止めます! 御身はどうかご避難を!」
「馬鹿。何処に逃げろ、ってんだ? ここまで侵入された時点である意味詰みなんだよ」
一緒にバルコニーに出た兵士の進言をガハルドは切って捨てた。
数多いる魔物達の中でも、ドラゴンは最強の一角だ。個体数こそ少ないものの、その硬い鱗は剣も魔法もほとんど通さず、火竜や水龍など種類によって違うが吐き出されるブレスは鉄の鎧も容易く破壊する。過去の被害を紐解けば、ドラゴン一匹によって全滅した都市国家だってあるくらいだ。トータスにとってはまさしく台風や竜巻の様な災害であり、そんな物が帝都のど真ん中に現れたというのは出来の悪い悪夢そのものだ。
「よく見ろ。あのドラゴンは中庭に降り立ったまま、動く気配が無え。どうやら、背中のガキ二人はこっちに何か言いてえ事があるんじゃねえか?」
「な、なるほど……」
ガハルドの冷静な姿を見て、兵士はようやく落ち着きを取り戻した。彼等が固唾を飲んで見守る中、二人の人物はドラゴンの背から降りて来た。
***
「お、集まって来た、集まって来た。ウジャウジャといるねえ」
ワラワラとこちらを取り囲もうとする帝国兵達を見て、仮面の人物の一人———アウラはわくわくとした声を上げた。
「ね、ねえ、お姉ちゃん。この仮面、やっぱり外しちゃ駄目かな? 今日は暑くて蒸れてきちゃうし……」
気弱そうな声を上げるもう一人の仮面の人物———マーレの発言に、アウラは仮面の下で眉尻を上げた。
「駄目に決まってるでしょ! 私達は魔人族達の国で潜入活動しているんだから、万が一に備えて顔は見せない様にってアインズ様が言ってたでしょ!」
「う、うぅ……分かってるけど……」
「わざわざ乗って来たドラゴンも魔人族が乗ってたやつにしてるんだから……もしも何かあったら、こいつを囮にして逃げろって言ったアインズ様の御心遣いを無視する気?」
「クルゥ!?」とアウラ達を乗せていた白竜———ウラノスが声を上げる。そして「どうか見捨てないで下さい!」と言わんばかりに眼をウルウルさせながら、
「はいはい、見た感じだと大して強い奴はいなさそうだから大丈夫だっての………それより、そろそろ始めるわよ!」
「う、うん!」とマーレが頷くのを見て、アウラは向き直る。そこには城の守備兵であろう人間達が、大勢でアウラ達に武器を向けて取り囲んでいた。
「あー、あー! テステス……聞こえますか!? あたしは、とある偉大な御方に仕える使者です!」
突然の大声に守備兵達が顔を顰めるが、アウラは意に介さず一方的に喋った。
「つい先日、この国の皇帝が偉大な御方がお救いしたフェアベルゲンに失礼な奴等を差し向けました! そいつらは皆殺しにしましたけど、偉大な御方は大変怒ってます!!」
アウラの発言に守備兵達に動揺が広がった。「フェアベルゲンだと?」、「まさか!?」などと口々に言い出し、見ればバルコニーや窓に張り付きながらこちらを伺っている人間達も表情が明らかに変わった。
それらを見ながら———アウラは宣言する。
「というわけで———手始めにここにいる人間達を皆殺しにします! さ、やっちゃって!」
「う、うん! せえ、の……!」
アウラの合図を見て、マーレは手に持っていた杖を振り上げた。見た目はさほど重くなさそうな杖を両手で振り上げる様は子供が剣の玩具を振り上げている様で、声変わりが始まる前の少年の声も相まって見ている者に微笑ましい気分にさせるくらい可愛らしい動きだった。
トン、とマーレの杖が地面に突き立てられる。
次の瞬間———中庭に局地的な地震が起きた。
『な、あ……!?』
それは誰の悲鳴だったか。守備兵達が悲鳴を上げるのと同時に、地面がアウラ達を中心に蜘蛛の巣状にひび割れた。逃げようとするよりも先に地面はポッカリと割れて、地割れの中に守備兵達は雪崩れ込む様に落ちていく。しかも地割れの深さは底が見えないくらいに深く、守備兵達の悲鳴は奈落の底へと次々と消えていった。
「こんなもんでいいかなぁ……? よいしょっ、と」
やがて、自分達を取り囲んでいた人間達が全て地割れに落ちた事を確認したマーレは杖を引き抜いた。すると、時間を巻き戻すかの様に地面が戻っていく。
「や、止め……助け、て……!」
ふと、マーレの耳にそんな声が聞こえて来た。普通の人間よりも聴力の良いダークエルフの耳が、地割れに落ちながらも奇跡的に生きていた人間の声を捉えたのだ。その声は生き埋めにされようとして、助けを求めていた。それも何人かの声が重なり、か細いながらも助かりたい一心で必死に声を張り上げていた。
その声にマーレは———うるさいなぁ、と思いながら地割れを完全に閉じた。
***
「なん……だと……」
今し方、目の前で起きた惨状にガハルドは掠れた声でそう言うのが精一杯だった。
横にいるベスタや兵士は完全に色を失い、まるで目にした物が信じられないかの様に呆然としていた。
「はーい! 皆殺しにしました!」
先程から声を張り上げている仮面の子供の声が響き渡る。場違い過ぎる明るい声に、ガハルドは自分は悪夢を見ているのではないかと思い始めていた。
「次はこの城にいる人間を皆殺し……は、誰が皇帝か分からないので止めておきます! でも、出て来ない様ならこの国ごと潰しちゃいます! 皇帝! 皇帝はすぐに出て来る様に!!」
「へ、陛下……」
ガクガクと震えた声で、ベスタが問いかける。
「……ドラゴンの巣に突っ込んだから、ドラゴンに乗って来た、って話か?」
もはやあの子供の言っている事を疑う余地などない。フェアベルゲンに侵攻に行った軍は、恐らく返り討ちにあって全滅したのだろう。あれ程の魔法を見せられた後では、それも当然の結果だと納得してしまった。ガハルドの背中に冷たい汗が流れる。とはいえ、怯えた顔を見せてはヘルシャー帝国皇帝の名が泣く。覚悟を決めると、ガハルドは声を張り上げた。
「俺がヘルシャー帝国皇帝、ガハルド・D・ヘルシャーだ! 話がしたい! こちらに来て貰えるだろうか!」
仮面を被った使者達の目が自分に向くのを感じながら、ガハルドは素早くベスタに声をかけた。
「おい、最上級の歓待の準備をしろ! 大至急だ!」
「は、はっ!」
少し遅れながらも、ベスタは反応するとすぐに動き出した。慌てふためきながら出て行く臣下の背中から仮面の使者達に目を移す。
(あの使者達の言っていた偉大な御方……まさか、魔王の事か? いずれにせよ、これは俺の生涯で最大の正念場になりそうだぜ……!)
ガハルドは拳を強く握り締める。その震えは武者震いか、それとも恐怖か。ガハルド自身にも分からなかった。
というわけで、オバロ原作ほぼそのまんまの流れ。……今のところは。
>ウラノス
フリードの騎竜から、アウラの新しいペットになりました(笑) 初期案はフリードと合体事故して歪なキメラにする予定だったから、救われて良かったね!!
>アウラとマーレ
本当はコキュートスがフェアベルゲンの代表として帝都に乗り込んで来る予定だったんですよ。でも「そういえば二人の出番が少ないなぁ」と思い、オバロ原作の流れに沿った形に。顔を隠しているのは、魔人族の潜入活動をしてる二人が「なんでここにいるの?」と、帝都にいるかもしれないエヒトのスパイにバレない様に。ついでにホラ、フリードの騎竜で来たから何かあっても魔人族のせいに出来るし(笑)。