ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 久々の連休だから、ゆっくりと書けました! さて、今まで良い思いをしていた彼等をそろそろ片付けちゃおうかな?


第七十六話「フェアベルゲン防衛戦①」

「今ですぅ!」

 

 シアの号令と共に茂みに隠れていた人影が次々と飛び出していく。彼等———ハウリア族はブンッという起動音と共にダガーや小太刀を起動させ、生き残りの帝国兵達に襲い掛かった。一見すると槍や剣などの普通の武器だが、よく見ると全体的に機械的な外見をしており、刀身がバチバチと音を立てながら光っている。

 

「ぐぎゃあ!?」

「ぐ、ぶっ……!?」

 

 帝国軍の鎧は軍事国家というだけあって、鉄よりも硬く精錬されたヘルシャニウム鋼が使われている。だが、それもハウリア族達が使っている武器には意味がなかった。ナグモが試験的に量産した武器は、刀身を超振動させ、“纏雷"の固有魔法を得たハウリア族達の生体電気に反応して切断性能を高めていた。

 

「こ、この、兎人族風情が、あっ……!?」

 

 帝国軍兵士の胸から小刀の刃が生える。彼は口から逆流する血反吐を喉に詰まらせながら、胸から生えた刃を見る。

 

「———兎人族風情、か。そうやって侮ったのが貴様の敗因だ」

 

 背中から聞こえてきた声に帝国軍兵士は振り向こうとする。だが、想像を絶する様な痛みで馬上から崩れ落ちた。地面に落下した彼は、そこで自分が騎乗していた馬の背中に曲芸師の様に乗った人物を見た。“気配遮断"の固有魔法を解除したカムは、帝国軍兵士を冷たく見下ろす。

 

「我々は偉大な御方への御恩に報いる為に、魔物の力を取り入れた者達……弱者がいつまでも弱者の地位に甘んじていると思うな」

 

 カムは奪い取った馬に拍車を入れる。馬は前足を振り上げた。

 グシャ、という音を最期に帝国軍兵士の意識は闇に閉ざされた。

 

 ***

 

「報告! ハウリア野戦隊が人質達を救い出したとの事! 全員、無事です!」

 

 伝令の報告に前線隊達が色めき立つ。その中でジンは自分の額に手を当てながら天を仰ぐ。

 

「あのガキ……本当にやりやがったか!」

 

 作戦を聞かされた時は上手くいくか半信半疑だった。シアはともかく、亜人族の中では最弱のハウリア族達に任せられるのか不安だった。しかし、彼等は人質達を救出したのだ。

 

「族長! ご息女は無事に救出されました! 人質達が無事な以上、もはや遠慮の必要などありません!」

 

 ジンの右腕である熊人族のレギンが声を張り上げる。

 

「ハウリア族が戦果を上げたのです! 我々も負けてはいられません!」

「フェアベルゲンに我等バンドン族あり、とゴウン様に見て頂きましょう!」

 

 熊人族の若者達は気炎を燃やしながら次々と声を上げる。

 彼等はジンが自分達の族長だから従っているのではない。掟に厳格ながらも、部族の事を第一に考えて行動するジンだからこそ、熊人族達は従ったのだ。

 そのジンの娘が攫われ、奴隷として虐待されていると聞いた時は熊人族達は自分の事の様に怒りを抱いた。そして、それでも族長として最善の行動をしようとするジンの高潔さを尊敬しながらも、何も出来ない事に歯噛みした。

 だが、もはや彼等を縛る物は無い。今こそ、フェアベルゲンの為に。大恩ありし我等の神の為に。そして———我等の族長の為に。今まで溜めに溜めた激情を帝国軍へ叩きつけようと彼等は誰よりも闘志を燃やしていた。

 

「お前達……!」

 

 ジンは目の奥に熱い物を感じたが、何とか堪える。そして獰猛に笑った。

 

「聞いたな! ハウリア族の小娘が……シア・ハウリアが、俺の娘と人質達を救ったそうだ! 年端も行かない小娘にばかり戦わせて何もしない腰抜けはバンドン族にいないな!?」

 

 「もちろんです!」と返された声に、ジンは威勢よく声を上げる。

 

「これより異常を聞きつけた帝国の人間共が来るぞ! 敵の陣形は縦に伸びて、側面の防御が薄い! 俺達が生まれた時から過ごした樹海が戦場だ! 地形を活かして、各個撃破していくぞ!」

「「「「了解です!」」」」

 

 ジン達は樹海の中を駆ける。同時に着ているスーツの光学迷彩を使用した。姿なく樹海の凸凹した地面を物ともしないジン達の足取りは、まるで大地を駆ける豹の様にしなやかだった。

 

「見つけたぞ……! 散開しろ!」

 

 ガシャガシャと鎧を鳴らしながら救援に向かおうとする帝国軍。その歩みは慣れない地形の為か、ジン達に比べると圧倒的に遅い。

 

「何ださっきの音は!?」

「奴隷達を連れた先遣隊はどうなってやがる!?」

「落ち着け! クソ、歩きにくいじゃねえか! 亜人の奴隷共、こんな道を案内しやがって!」

 

 口々に言いながら、帝国軍の兵士達は隠れたジン達に気付かずに森の大通りを歩いていく。そして、ジン達に無防備な脇腹を見せた。

 

「———喰らいやがれっ!!」

 

 光学迷彩を解除し、突然現れたジン達に帝国軍の兵士達はギョッとした顔になる。その間抜け面にジン達は腕の赤黒い血管を脈動させながら、“風爪"を使った。

 次の瞬間。驚いた表情のまま、兵士達の頭がいくつも地面に転がった。

 

 ***

 

 さて、ここでナグモが亜人族達に施した改造手術について説明しよう。

 ナグモは魔物を喰らって異形化した香織の身体を参考に、トータスの魔物の因子を生命体に植え付けて強化する方法を編み出していた。

 ナザリックの捕虜となった魔人族達の()()の下、どの程度まで魔物因子を付与したら異形化するか把握したナグモは、亜人族達の身体的特徴に近い魔物を中心に数種類程度の魔物因子を付与していた。

 

 例えば、兎人族達には蹴り兎の因子を中心に。

 例えば、熊人族達には爪熊の因子を中心に。

 

 これにより亜人族達は香織と違って数種類程度の固有魔法しか持たないが、元の身体と近い遺伝子を付与された事で異形化する事なく肉体的に更に頑強となった。

 さらにオルクス迷宮で豊富に取れた鉱物資源にナグモが“生成魔法"を使用して亜人族達用の武器を量産し、コキュートスが戦闘の指導を行う事で「魔物の固有魔法と身体能力を併せ持ち、トータスにおいてはオーバーテクノロジーな武器を駆使する強化兵士」がここに誕生した。

 

 トータスにおいて、亜人族は最弱の種族だ。

 身体能力は一般人より優れているが魔力を持たない為に、戦闘系の天職を持って生まれた人間にはステータスで劣る。魔法という遠距離攻撃手段を持たないから、間合いの外から一方的に撃ち殺せる。

 

 では———亜人族が人間以上の魔力を持ったならば?

 亜人族達にも魔法という攻撃手段が出来たならば?

 

 その答えは今、目の前に広がっていた。

 

「ギャアアアアアッ!?」

「ぐげえっ!?」

 

 また一人、帝国軍の兵士が倒れる。チチチ、と鳴きながら鳥人族の少女は羽を散弾銃の様に飛ばして帝国軍の兵士達の鎧を安易と貫いた。

 

「ひ、怯むな! あんな鳥など撃ち落としてしまえ!!」

 

 腕に突き刺さった羽の痛みに耐えながら、隊長格の兵士は怒鳴った。

 弩を構えた兵士達を見て鳥人族の少女はサッと飛んで木々の間に身を隠した。

 

「くっ、駄目です! 当たりません!」

「この、ふざんじゃねえぞ鳥モドキが! 引き摺り出してやる!」

「おい、馬鹿! 勝手に動くな!」

 

 血気に逸った部下の一人が鳥人族を追い掛けようと木々の間に走り出す。しかし———。

 

「ギャッ!?」

 

 帝国軍の兵士が突然、足を押さえて地面に転ぶ。よく見ると、そこには草むらに隠れる様に木の板に打ち付けられたスパイクが突き出しており、靴を突き破って刺さったのだ。そして———-転んだ兵士に“風爪"や羽の弾丸が容赦なく降り注ぐ。

 

「トーマス!? 糞がぁっ!!」

 

 あっという間に死体に変えられた仲間の仇を討とうと、魔法師兵士は“雷撃"を飛ばそうとする。しかし、それより早く亜人族達はサッと森の奥へと姿を消した。

 

「糞が糞が糞がっ!! 出て来やがれ、薄汚い獣共がっ!!」

 

 怒鳴り声を上げるものの、返ってくるのは不気味な沈黙だけだ。しかし、こちらを狙っているのは気配で分かった。背筋に突き刺さるいくつもの殺気に帝国兵達は精神をすり減らしていく。

 

「クソ、なんで俺達がこんな目に……!」

 

 今回のフェアベルゲンの征圧に、帝国軍は10000の兵士を動員した。ただし彼等は平地での戦闘訓練は積んでいるものの、フェアベルゲンの様な視界の悪く、歩くのにも一苦労な地形での戦闘経験は無かった。奴隷にしたアルトを水先案内人として行軍するつもりだったが、そのアルトが奪い返された今、彼等は慣れない地形で右往左往しながらトラップや亜人族の突然の襲撃に怯えながら狩られる立場となっていた。

 

「離れるな! 亜人共は隊から離れた奴から袋叩きにしてるだけだ! 密集して、お互いの死角をカバーし合え!」

 

 隊長の号令の下、帝国兵達は背中合わせになって槍を構える。そんな帝国兵達に森の奥から白い影が飛び出してくる。

 

「でりゃああああっ!!」

「来たぞ! 串刺しにしろ!」

 

 帝国兵達が槍衾を展開する。だがシアの足の赤黒い血管が脈打つと、槍衾に当たる前に空中で方向転換した。

 

「ふき飛びやがれですぅぅぅっ!!」

 

 シアは帝国兵達の背後に回り込むと、ロケットブースターを吹かせながらウォーハンマーを振るう。

 肉を叩き潰す音と共に、密集した帝国兵達は纏めてボーリングのピンの様に弾き飛ばされた。

 

「よしっ、お怪我はないですか?」

「ああ、こっちは大丈夫だよ!」

「へっ、兎人族のくせにやるじゃねえか!」

 

 鳥人族の少女と熊人族の若者が声を上げる。

 

「じゃあ、一旦撤収です。いま、父様達が新しくトラップを仕掛けてます。このまま樹海に隠れながらヒットアンドアウェイで、誘き寄せるですよ!」

 

 「了解!」、「おうっ!」という声と共に、シア達は樹海の奥へ走り去った。

 

 ***

 

「おい……いま、何つった?」

「で、ですから……亜人族共の抵抗が予想以上に激しく、既にかなりの数の兵が犠牲になっておりまして……」

 

 ヘルシャー帝国軍本陣。

 バイアスは前線から戻って来た将校の報告に不機嫌そうに眉根を寄せた。

 

「す、既に奴隷を奪い返され、それに調子付いた亜人共が樹海にトラップを仕掛けてゲリラ戦を仕掛けて来ているせいで、兵達の間に動揺が広まっています! どうか、ここは一度撤退して態勢の立て直しを!」

 

 将校は震えながらバイアスに平身低頭する。自分の隊が先走ったせいでフェアベルゲンと交渉する為の族長の娘(奴隷)を失い、さらには亜人族達に良い様にやられて大きな被害を出しているなど恥以外の何物でもない。しかし、生き残りの自分の兵達の為に彼はバイアスに震えながら進言しに来たのだ。

 

「…………」

 

 バイアスは冷たく見詰めたまま、将校の前に歩み寄る。

 

「顔を上げな」

 

 言われた通りに、将校は震えながらも頭を地面から上げる。

 

 ザンッ!!

 

 次の瞬間、将校の首が地面に転がった。

 

「てめえみたいな愚図は帝国にいらねえ」

 

 血の滴る剣をピッと振るいながら、バイアスは吐き捨てた。

 

「おい、この死体を片して置け」

「は、はいっ!!」

 

 近くで控えていた兵士が震えながら将校の死体を慌てて引っ張っていく。

 それをガハルドの親衛隊の男は眉を顰めながら苦言を呈した。

 

「バイアス様、いくら徒に兵を失ったとはいえ少しばかり酷だったのでは?」

「ああん? 亜人族風情にやられる様な弱者は俺の国に要らねえ、って言ってんだろうが」

 

 全く悪びれる事の無い次期皇帝に、親衛隊の男はため息を何とか抑えた。

 

「しかしながら、今の戦況が厄介なのは確かですぞ。この樹海は謂わば奴等の庭同然です。そこにトラップまで仕掛けられたとあっては、強硬に行軍しても多大な犠牲が出るでしょうな」

「ハッ、馬鹿かよオメエ。何でこんな事も思い付かねえんだ?」

 

 親衛隊の男が怪訝そうな顔をする中、バイアスはギラリと乱杭歯を見せながら笑った。

 

「ここが相手の土俵だってんなら……その土俵ごと壊しちまえば良いじゃねえか」

 

 ***

 

「ようし、次に帝国軍がいるのはこの地点だな。今度はここにトラップを張りに行ってくれ。“土操”が使える子を連れて行くのは忘れずにね」

「了解です!」

 

 ルアは“気配察知"で捉えた帝国軍の居場所を伝え、兎人族達に指示を出していく。改造手術で得た固有魔法のお陰でルアには帝国軍の居場所が手に取る様に分かり、次の進行ルートに合わせて待ち伏せ攻撃を可能にしていた。さらには“土操”や“樹操”などの固有魔法を得た亜人族達を導入する事で、短時間で即席トラップを作成する事を可能にしていたのだ。

 

「状況は?」

「こちらは何人か軽傷者が出てはいるけど、今のところは優勢だよ。帝国兵達は奥の本陣以外は樹海の地形や同胞達に迷わされて、隊がバラバラになってるみたいだからね」

「そうですか……。奴隷となっていた同胞の皆様は、大樹の方まで避難させましたわ。皆様、切断された耳や尻尾以外は私の治療魔法で応急処置致しました」

 

 ルアからの報告にアルテナは安堵の溜め息を吐いた。アルテナは魔物の中でも稀少な治療の固有魔法の因子を植え付けられていた。

 同胞達が緊急を要する怪我を負っていなかった事にルアも安堵したいが、すぐに顔を引き締める。

 

「とはいえ、油断は禁物だね。いま駆除しているのはあくまで先遣隊だろう。本陣にはまだまだ大勢の人間の気配がするからね。それらをどうにかしない限り、彼方さんも諦めてくれないだろう」

「やはり10000全てを倒さなくてはいけませんか? 流石にその数を相手にするのは、皆の体力が持ちませんわ」

「普通の軍隊なら、損耗率が一割を超えたら退却の判断を迫られると聞いた事はあるよ。いずれにせよ、奴等にはフェアベルゲンを攻撃するのは割に合わないと思わせる様な……何だ?」

 

 話の途中でルアが何かを感じて、ピンと耳をそば立てる。

 アルテナもまたある方角に目を向けた。

 

「な……何という事を!!」

 

 その方角には———大きな黒煙が上がっていた。

 

 ***

 

「ヒャハハハハ! 燃やせ燃やせええぇぇぇっ!!」

 

 バイアスは帝国の魔法師兵団を指揮しながら樹海を焼き払っていた。樹々はすぐに燃え移り、火は山火事の様に燃え広がっていく。

 

「亜人共がこそこそと隠れる森を燃やし尽くせ! 焼け野原にして平地に変えちまえば、恐れる事なんかねえ!」

 

 獰猛に嗤うバイアスと共に、帝国兵達も油を撒き、火炎の魔法を使い、風の魔法で自分達が巻き込まれない様にしながら連られて嗤い声を上げる。

 

「男は殺せ! 女は犯せ! ガキ共は奴隷にしろ! 蛮族共の土地を帝国の支配下に収めろ!」

『ウォオオオオオオオオッ!!』

 

 暴力に狂った表情で帝国軍は進軍する。それはまるで、地獄より這い出て来た悪鬼の様だった。

 

 ***

 

「くっ、正気ですかこの人達!」

 

 燃え盛る森の中、シアは跳ね回りながら同胞達の避難誘導をしていた。

 

「シア! ここはもう危ない! すぐに撤退するんだ!」

「駄目ですぅ! これ以上、進軍を許したら避難民の人達が……!」

 

 樹齢何百年という樹々が燃えながら倒れる中でも、帝国軍は進軍を止めない。むしろこの火災に勢い付いたかの様に脇目も振らずにフェアベルゲンを目指していた。

 

「いたぞ! 銀髪の兎人族だ!」

「ギャハハ! 俺だ! あの女は俺が手に入れる!」

「いや、俺の物だ! 俺の奴隷だ!」

 

 帝国兵の一団がシアに向かってくる。彼らの目は戦場の興奮と薄汚い欲望で正気を失った様にギラギラとしていた。

 

「あー、もう! 鬱陶しいですぅ!」

 

 ブンッとウォーハンマーを振り回し、シアは迫って来た一団を吹き飛ばした。

 

「シア!」

 

 カムの声にシアはハッと後ろを振り向く。そこには高さ数十メートルを超える木が、メキメキと音を立てながら倒れ込んできていた。

 

「くっ……!」

 

 シアは咄嗟に蹴り兎の力で跳び退こうとした。だが、その足をガシッと掴まれる。

 

「ひ、ひひっ! 捕まえた……俺の、奴隷だ……!」

 

 先程の一撃で致命傷を受けた筈の帝国兵が、目をギラつかせながらシアの足を頬擦りする様に掴んでいた。

 

「っ、気持ち悪い! 離して下さい!」

 

 シアが蹴り飛ばすと、瀕死の帝国兵はボールの様に転がっていった。だが、その背中に倒れてくる樹木が迫り———。

 

 

「———<魔法二重化(ツインマジック)連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>」

 

 瞬間。雷の龍がシアの頭上で駆け巡る。二匹の龍は激しい音を立てながら、シアの頭上に迫っていた樹木を消しとばした。

 

「ッ〜、耳が〜! 耳が死んだですぅ〜!」

 

 いきなり頭上で鳴り響いた雷の音に、一際聴力の鋭い兎人族であるシアは耳を押さえて涙目になる。ゴロゴロと地面を転がる様は、先程まで命の危機が迫っていたとは思えない程に気の抜けた光景だった。

 

「———そこの残念なウサギ。答えなさい」

「誰が残念ウサギですか!! ……え?」

 

 条件反射の様にツッコミをいれたシアだが、声の主に目を大きく見開いた。

 声の主は黒髪の美女だった。黒檀の様に美しい髪をポニーテールにして、武装したメイド服を纏っていた。切長の黒い瞳は冷たくこちらを見ていたが、それが人間には不可能な美の境地をメイド服の女性に与えていた。

 

「シズのお気に入りのウサギというのは、貴方の事かしら?」

「え? シズって……シズ・デルタ様の事ですか? 貴方は、いったい……?」

 

 つい先日、自分のウサ耳を気に入ってくれたナザリックの少女を思い出すシア。だが、黒髪のメイドはシアの問いに答える事なく、シアの服———胸に貼られた一円シールに目を止めて、「そう……」とだけ呟いた。

 

シズはこれのどこが気に入ったのかしら? ……コホン、まあいいわ」

 

 黒髪のメイドは空中からフワリと降りて来た。それだけで、シアはおろか、帝国兵達すらも見惚れてしまった。

 

「私はナーベラル・ガンマ。偉大にして至高なる御方の命により、あの人間(ウジムシ)共の駆逐に手を貸してあげましょう。感謝しなさい」




>ナーベラル・ガンマ

ナザリック地下大墳墓における6人の戦闘メイド「プレアデス」の一人。魔力系魔法詠唱者のクラスを持つドッペルゲンガー(ただし普段の黒髪の女性の姿しか化けられない)。ドッペルゲンガーとしての変身能力が無い代わりに強力な攻撃魔法の使い手であり、人間の事を「ウジムシ」、「ガガンボ」などと言って見下している。
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