きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷   作:伝説の超三毛猫

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この部分の話ですが、5話より先に書き始めました。それくらいに、あの構文を使いたかったし、この展開を書きたかった。
タイトルの元ネタはまちカドまぞくの「吉夢か悪夢か?闇のドアストッパーさん降臨」から。


“復讐の感情を持つ者をうまく使えるか…それが為政者のセンスが問われる場面だ。”
 …木月桂一の独白

2022/03/16……ヒナゲシの一人称を公式寄りに修正しました。


第13話:神か悪魔か? 日ノ本の大総統さん降臨

 ―――時は、ヒナゲシの飯テロ拷問の後の夕方にて。

 

「立派だ、ローリエ。もう既に、どうするべきかを決めている」

 

 ヒナゲシがゲロった情報に面食らいながら、フラフラと帰った自室で、夢でもないのに木月が出てきやがった。

 俺の部屋にある鏡に、髪から靴まで真っ黒なスーツ姿で、ネクタイだけはワインレッドカラーの木月桂一が映っている。勿論、鏡に映る、木月が立っているであろう場所を直接見ても、そんな姿の男は映っていない。まるで鏡にだけ映る、『ジョジョ』の吊られた男(ハングドマン)かマン・イン・ザ・ミラーみたいだな、オイ。

 

「私も予想外だった。まさか、かつての女神候補生が、神殿…及び聖典に弓を引くとはね……私の死後に『きらファン』第2部とやらが実装されたとして、ストーリー監督に虚〇氏でも起用したのかな?」

 

「虚〇だけは勘弁してくんねぇかなぁ…」

 

 メインキャラに近しい人がことごとく超死にそうなんですけど。マミったり初瀬ったりするのはマジでやめてくれ。ホントにトラウマだからな?

 ………と、いうジョークはさておいて。

 

「……お前、『どうするべき』とか言わないんだな」

 

「今は君の人生だ。私が口を出し過ぎるのもどうかと思う。

 …でも、それ以上に、君は…どうするつもりなのか、決めているじゃあないか」

 

「やめろ」

 

「生まれた時から一緒だった者として、君の気持ちは理解できるつもりだ。

 だが、これはもはやその程度のレベルで済ませて良い話ではない。

 もし…ハイプリスを討てなければ、聖典が…あの『きらら漫画の世界』がなくなるのだぞ?」

 

「やめろっつってんだろ! ハイプリスは……俺の生徒だ!!」

 

「そうは言うがね。君も私も…遺跡の街で見た筈だ。ウツカイに襲われ命を落とした人々を。奴らの魔の手に堕ちたシャミ子がどうなったのかを。

 あの所業を許すべきだと言うつもりか? 死んでいった人々に、『当然の犠牲だった』と言えるのか?……そんなわけがないだろう?」

 

「………それは、」

 

「もし、聖典が一冊でも破壊されたりしたら―――死ぬまで後悔し続けるぞ!?」

 

「―――ッ!!!」

 

 

 俺は木月に殴りかかろうとして……できなかった。

 分かっていたからだ。木月桂一がさっきから言っているのは、俺の心の奥底にある意志……。それを、コイツが代弁しているに過ぎないからだと。

 それに、この時の俺は…珍しく、前世のことをタイミング良く思い出していたからだ。

 

『…誰も恨まないで。私なんか忘れて、生きて

 

 かつて“ローリエ”が“木月桂一”だった頃の、ひとりで逝ってしまったあの子の記憶を。あの悲劇だけは…絶対に回避しなければ。

 

 …俺はエトワリアが好きだ。木月桂一として、ではない。『きららファンタジア』のプレイヤーとして、でもない。

 ―――この世界で生まれ、生きてきたローリエ・ベルベットとして、だ。

 

 ……確かに、聖典破壊を指示していたのがハイプリスだって聞いた時は、ショックだった。

 あれほど優秀でいい子で……女神の道も筆頭神官の道も閉ざされた後でも、貧困地域の救済に燃えていたアイツがなんで、って思った。

 だが―――聖典を…ひいてはクリエメイト達をあれほど苦しめた上で世界ごと破壊する、というのなら。

 そしてその過程で、罪のない人々を苦しめる、というのなら。

 俺は、俺自身の意志で―――教師ではなく、八賢者として動かなければならない。

 

 

「…イイ顔だ。やっぱり君は、私だよ。必要に応じて、冷酷になれる。最大多数の幸福の為に、正しい判断ができる。

 自信を持ってくれ。正義の味方の素質は、十分に持っているよ。…優しい教師としての素質は、あんまりのようだけどね」

 

「うっせぇ。お前がそう言っても、誉め言葉には聞こえないんだよ。

 ―――『優しい世界』の(いしずえ)を、反対者の屍で築き上げた悪魔がよ

 

 

 かつての自分自身に対する皮肉を言いながら、俺は今後の事をどうするかを、脳みそフル回転で考えていく。

 木月桂一は、追ってこなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ひっぐ……えぐ……ごべんなざい…お姉様……」

 

 

 ヒナゲシはひとり、地下牢で泣きじゃくっていた。

 無理もない。年齢からすればランプやシュガー、ソルトと同年代の少女が、孤独に牢屋にブチ込まれているのだ。心細さに泣かない方がおかしい。だがそれ以上に、彼女の脳内を支配するのは恐怖だった。

 

「見捨てないで……みすてないでぇ……」

 

 ハイプリスから頼まれた聖典の破壊に失敗するだけじゃ飽き足らず、ローリエに転移魔法を封じられて捕らえられた上に、先程ローリエの拷問(飯テロ)に屈して、リアリストの仲間の名前を全てゲロってしまったのだ。

 己の空腹に負け、仲間の情報を売って極上の焼肉とガーリックライスにありつく。……よく考えなくても裏切りに間違いない。

 リアリスト側にバレれば降格どころか己の首すら危うい超・大失態である。こんな事が知られればまず自分は見捨てられると確信していた。

 

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇええええん……!」

 

「おーおー、見事に泣きじゃくってやがる」

 

 そこに、ヒナゲシが囚われる元凶になったローリエがやってきた。ヒナゲシはこれ以上何も話すまいと、泣き声を更にあげる。

 

「うえええぇぇぇぇぇぇ……!」

 

「よう。全部吐いた気分はどうだ?」

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」

 

「他に言いたい事があるなら言ったらどうだ?」

 

「うるざいっ! あんだが…あんだなんかがいだがらぁ……っ!!」

 

「………はぁ」

 

 ローリエは、幼すぎる悪意をぶつけるヒナゲシにため息をついた。

 こんなやつのせいでシャミ子達が破壊されてたのかもしれなかったのかよ、と。しかも散々言ってくれたな。シャミ子と同じなのにずるいとか、私が不幸ならみんな不幸になっちゃえとか。

 ―――シャミ子とお前が一緒なワケねーだろ。(くび)り殺すぞ虫ケラが。

 

 だが、ローリエはヒナゲシにそのような本音を言いに来たのではない。

 

「お前は、まだ分かっていないようだな」

 

「なにを…!」

 

 ヒナゲシの激情に反して、ローリエは極めて冷静に、冷ややかに、呆れたように言葉を続ける。

 

「いいか? 今のお前の立場は『犯罪者』だ。禁忌『リアライフ』を使ったんだ。証拠も揃ってる以上弁明の余地はない。ハイプリスとやらに授けられようが、自分の意志で絶望のクリエを生み出して聖典を破壊しようとした時点で、“反逆罪”は成立している。

 言っておくが……先に仕掛けてきたのはお前達だ。街を蹂躙して死者を出したのも、クリエメイトや聖典を汚そうとしたのも」

 

「え……? そんな、こ、殺しなんて、わたしは指示してない!

 ただ…聖典を奪うように言っただけ―――」

 

「そんな言い訳がまかり通ると思わないことだ。ありとあらゆる自由には責任が伴う。犯罪やらかして失敗したら刑罰を受けるのは当たり前だろうが」

 

「……っ、うぅ…うぅぅぅ…!」

 

 蝋燭に照らされたローリエの影が、ヒナゲシの逃げ道を塞ぐ。まるで……お前の罪から逃げるな、とでも言うように。

 

「それとも、本気でこの先、嫌な責任を何一つ負わずに人を不幸にするだけ不幸にできると思っていたのか?

 軽い障害物を乗り越えるくらいでお前らの目的を達成できて、“真実”とやらが重要視される世界を作るって?」

 

 は、と笑い声が漏れたかと思うと、呆れは嘲笑に変わった。

 

「だとしたら、能天気にも程がある」

 

「………」

 

 ヒナゲシは、遺跡の街の襲撃犯の主犯格として、神殿に囚われている。そしてその情報は、もう公開されていた。……遺跡の街にも、例外なく情報が届いている。

 つまり、遺跡の街を中心とした一般の民たちの中では「ヒナゲシ=リアリストの一員にして遺跡の街襲撃の主犯」という等式がもう出来上がっているのだ。事実な上に証拠も挙がっているから、訂正など不可能。

 そんな状況で襲撃された被害者や遺族に「殺すつもりはなかったの、ただ聖典を破壊したかっただけなの」などと供述したらどうなるかなど、想像に難くない。ふざけた言い訳をした少女が人々の怒りを買い、私刑(リンチ)と言う名の天罰をその身に受けるだけだ。

 

「お前がそうやって泣き喚くのは勝手だ」

 

「…?」

 

「だが、そうした場合…お前の組織での立ち位置はどうなると思う?」

 

「なんなの……何も、知らないくせにっ!」

 

「あぁ。確かに俺はお前の組織なぞ何も知らない。だが……お前の言動の端々から、予想はつく。

 ……幹部の中でも一番下っ端なんだってな?」

 

「!!!」

 

「そんな奴が任務をトチって敵に捕まった挙げ句仲間の情報を売った………凄まじい大スキャンダルだな。

 お前、分かってるんじゃあないのか? このネタがバレた時に笑って許してくれる奴が、リアリストに何人いるかってことを」

 

 

 ローリエは、当たり前の事実を告げるかのようにヒナゲシに問いかける。そうしたのは……ひとえに、彼女自身に答えさせるためだ。

 彼には確信があった。ヒナゲシや自称ヘリオスが所属する組織『リアリスト』は、神殿ほど優しい組織ではないのだろうと。ヒナゲシの身体には虐待の跡があったし、何よりヒナゲシ自身が『見捨てられる事』を極端に恐れていた。ここから、彼女に信頼が置かれていないだろうと推測した。そして………そんな奴に、失態を犯した時のカバーなど無いに等しいだろうという、情報を集めた上での推理を元に尋ねたのだ。お前の組織の事はお前がよく知ってんだろう?と。

 彼の予測通り、質問を投げかけられたヒナゲシは、ローリエの問いにすぐさま『0』の答えを思い浮かべた。しかし、すぐに振り払うようにかぶりを振る。ヒナゲシが仲間はもちろん、自身の“お姉様”であるリコリスや上司のハイプリスでさえ、全然信用できていない証左だ。全くもって嘆かわしい話である。

 

 

「俺達はお前から得た情報は十分に活用するつもりだ。例え助け出されたとして、その後のお前が黙りこくっていたとしても、遅かれ早かれ情報漏洩がバレるだろう。そうなれば、リアリストの連中は寄ってたかってお前を責める。お前のお姉様―――リコリスだったか?ソイツも、愛想を尽かすかもしれない」

 

「そんな……!!! や、やめて…!」

 

「断る。俺にお前の“お願い”を聞く義理はない。最悪お前がお姉様とやらに見捨てられようが見捨てられまいが、()()()()()()()()()()

 

 ヒナゲシから得た情報を有効活用する宣言に縋るようにやめてと懇願するも、ローリエはそれを一蹴。

 「どうでもいい」宣言を受けたヒナゲシは、最悪の未来図を想像した。

 他のリアリスト達にいじめられ、リコリスやハイプリスに見捨てられ、誰も味方をしてくれない、一人ぼっちの自分。心の弱いヒナゲシに耐えられるものではない。

 

「そんなの、どうすれば……!」

 

「方法はある。その為に俺はここに来た」

 

「?」

 

「情報交換だ。お前が提供した情報だけ、こちらも情報を話そう。当然、今まで話した分の情報もポイントに加算してある。

 そうやって得たことを話しながら……『確かに捕まったけどタダでは転ばなかった。八賢者から言葉巧みに交渉を持ちかけて情報を持ち帰ってきたんだ』とでも言えばいい」

 

「!?」

 

 

 まさかの情報交換。しかも、自分の立場が良くなるような提案だった。これにはヒナゲシも目を見開く。

 ローリエがやっている事は綱渡りだ。一歩間違えば裏切り同然の行為だからだ。

 

 

「先に言っておくが、これは脅迫ではない……取引のおさそいだ。お前は受けてもいいし、断ってもいい」

 

 

 敵に捕まって文字通り絶望のどん底に落ちているヒナゲシには、魅力的な案に見えた。例えるならば、まさしく地獄にぶらりと垂れ下がった蜘蛛の糸。しかし、それは『おさそい』と言われた事で同時に得体のしれぬ危険性を孕んでいるようにも見えた。

 ヒナゲシはローリエのこの案を鵜呑みにしても良いのかと悩む。だが、もし受けなかったらどうなるかといえば、100%見捨てられるのだ。だったら、危険を冒してでも乗るしかない。そうすれば。15%くらいは、見捨てられる確率が減るだろうか、とも考えていた。自分自身に選択の余地がないことも薄々分かっていた。

 

「わたしは、どうすれば……」

 

「簡単だ。受ければいい。お前が今契約するしかないんだよ! もう分かってんだろ?

 言っておくが……この取引を受けるなら今しかない。俺の気が変わった後にいくら言っても契約は結んでやらねぇよ。当然、お前以外のリアリストにもこの話は持ちかけない」

 

「…………っ、」

 

「見捨てられたくないんだろ? 幸せになりたいんだろう?」

 

「………っるさいの……」

 

「何を躊躇ってる! お前には欲しいものがあるんじゃあないのか!!」

 

「うるさいの!」

 

「それとも全部ウソなのか!!?」

 

「うるさいっていってるの!」

 

 己を焚きつけるローリエに言い返すヒナゲシの声は……もう、思い通りにも大声が出せないくらい、悔し涙で滲んでいた。だが、彼女が出来る反抗はそれだけだった。

 何故なら、ローリエの言う事が全て事実だったからだ。任務をしくじったのも、敵に捕まったのも、仲間の事をゲロってしまったのも本当。バレたら見捨てられるのも……まず確実だろう。ならば、全て自分が悪い。

 だけど、見捨てられるのはもう嫌だ。ひとりぼっちになるのはたくさんだ。そう願ったからこそ、ローリエの口車に乗るしか選択肢が残っていなかった。

 

 

「こんな……こんなの…私は、どう…すれば、」

 

「何度も同じ事を言わせるな。頭では分かっているくせに、何がしたいんだ?

 できる限り、早めに決めてくれ。こっちはもう一度言うが、取引の受付期間は“俺の気が変わるまで”だ。早い方がいい」

 

「…………………………取引する…の…」

 

「ん?」

 

「わたしは…今ここで、その契約をするの!!」

 

「そうだ。よく言った……待ってろ、今契約書を書いてやる」

 

 

 ヒナゲシは、もう後戻りできないと確信し、契約を承諾した。

 遺跡の街のアジトで「もう後戻りできないの」みたいな事を言っていたが、本当に後戻り出来ないとは、こういう事を言うのだと知ることになる。

 だから、ヒナゲシは気づかない。

 全てがローリエの思惑通りである事を。この時、この場で組織を裏切ったのは、ヒナゲシしかいない事を。

 ―――既に、抜け出せないほどに毒蜘蛛の糸に絡め取られている事を。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ……あたしは、何を見せられているんだと思った。

 リアリストに対する飯テロ……もとい尋問が終わった夜、ローリエから賢者全員(流石にジンジャーはまだ忙しいみたいだったけど)とアルシーヴ様・ソラ様に招集がかかって、何かと思えば「モニター見てて」って言われて、ローリエ本人はどっか行っちゃって。

 そこから始まったのは……モニターに映し出される、リアリストの一員である少女・ヒナゲシとの取引の場面。その内容に、皆は驚いた。

 

 

『なっ……リアリストと情報交換ですって!?』

 

『何を考えているのです、あの男は!!』

 

『これは…戻ってきた時に問い詰める必要があるでしょうか』

 

『ローリエ……』

 

 

 十人十色にローリエの裏切りを懸念していた。

 けど、あたしはそこは心配していない。本当に裏切るつもりなら、こんな場面を皆に見せるわけがない。

 

 むしろ……あたしが危惧してるのは、ローリエの交渉術だ。

 ジャンクビレッジ地方で何度か見たことがある詐欺だったからすぐに分かった。ローリエがヒナゲシに持ちかけたのは………ものすごく卑怯な『取引』だ。

 

 現状を整理する、最悪な未来も提示する、それを防ぐ方法も選択肢も提示する………しかし、()()()()()()()()()。煽るだけ煽って、伝えたいことは大真面目に言う。オマケに彼女の本心の欲望を焚き付ける。その言葉の緩急差で相手の判断を鈍らせ、人を意のままに操る。

 トリックが分からなければ、ほぼ間違いなく引っかかる手口。あたしも戦火の瓦礫に埋もれてた頃には散々やられた。だから分かる。

 ―――ローリエは、間違いなく()()()()()()。この手口で、何回も人を騙している。

 

 

「アルシーヴ様……ローリエの、交渉術のことなんだけど……」

 

「なにか、気づいたか? やや小賢しい感じはするが…」

 

 …! アルシーヴ様ですら、確信に至っていない。あたしは、このことをすぐに伝えるべきと判断した。

 

「単刀直入に言うよ。ローリエが今使ったのは、詐欺の手口だよ。ものすごく狡猾な」

 

「さ、詐欺!!?」

 

「気づかなかった? ローリエが散々あのヒナゲシって子を煽っていたこと。選択肢を選ぶ時間を与えなかったこと」

 

「…! 確かに、ローリエにしては煽り口調が多いと思ったが…!」

 

「それに、情報交換なんて有利っぽい取引を『気が変わる前に答えを出せ』って言って迫ってたわ…!」

 

 

 あたしのアドバイスで、アルシーヴ様とソラ様が気づいた。お二人の言葉で、他の賢者達からもハッとした顔をしたのがちょくちょく出てきた。………シュガーは最後まで?マークを浮かべてたケド。

 

 

「つまりね。ローリエは、あたし達を裏切るつもり()無いって事。むしろ、あたし達神殿に有利な取引をアイツに結ばせたの。」

 

「情報交換なのに?」

 

「シュガー。情報交換って言ってもね、相手は本当の事を言っているとは限らないんだよ。見てみな、ローリエを…………あ、ほら。今ウソついた」

 

『セサミは水属性魔法を得意としている。水属性の弱点は土属性だが……そんなことセサミも重々承知だ。だから…普段から、風属性も得意としている事を隠している』

 

 

 モニターを指させば、ローリエはヒナゲシにセサミについての情報を話していた……ただし、ウソ混じりの。それを疑う様子は…ヒナゲシにはなかった。

 

「え、どうなの、セサミ?」

 

「シュガー…いいえ。私の得意属性は水だけです。どうして、ローリエはあんなウソをついたのでしょう?」

 

「決まっています。リアリストに偽の情報を流して、撹乱させるため以外にありません」

 

 話題に上がったセサミがウソをついた理由に疑問を呈すると、ソルトがあたしよりも先に答えを言った。

 敵にデマを流すのは戦術として通用するやり方だ。相手が偽情報に惑わされている間に、こちらは一気に攻め切る。上手くいけば、相手が自ら隙を晒してくれる戦法の一つだ。

 でも、だからって……普通、シュガーやソルトくらいの小さな女の子相手にやる?そういうやり方。あの子、モニター越しに見ても、ローリエの言った事の真偽が分かってないよ。

 

 こうして話している間にも、ローリエは次々とヒナゲシにウソを吹き込んでいった。

 『アルシーヴの弱点は脇腹の手術跡だ』とか、『フェンネルの使うダークマターは3日に1回しか使えない』とか、『きららは1日3人しかコールできない』とか。本当のことにウソを混ぜ合わせて話すからなおタチが悪い。明らかにヒナゲシを騙しにかかっている。

 

 更にだけど、情報は相手に伝えないと意味がない。頃合いを見て、ヒナゲシをリアリストの元に帰してやるつもりなんだろうね。そして、そこで偽情報が広がるって寸法……か。

 えげつないね、ローリエ。彼……本気でリアリストを潰すつもりなんだろう。その本気度具合は……画面越しのこの場にいる何人に、伝わったんだろう。少なくとも、あたしには伝わったけど。

 

 やがて情報交換が終わったのか、ローリエが画面内からいなくなり、しばらくしてあたしたちの目の前に現れた。何にも考えてなさそうなにへらっとした笑顔で、口を開く。

 

 

「えーと……話は画面越しに聞いてたと思うけど……俺はしばらく、契約の都合上ヒナゲシと共に行動することになるから、よろしくね」

 

「共に行動ってお前な………犯罪者を連れまわす許可を出せるワケないだろう」

 

「いや、でもな……仲間がいるのは分かってるだろ? そいつらを釣る餌としてこれ以上ないと思うんだけどね」

 

「ローリエ、ヒナゲシに見捨てられるかもとか言ってませんでしたか? あの子が捨て駒の可能性は?」

 

「ゼロじゃない。だが、ヒナゲシは見捨てられるかもしれないと自覚していて、それを恐怖していた。組織に縛り付ける口実にはなっても、捨て駒の証明にはならないだろ。ソルト…お前は、捨て駒に向かって『あなたはいつでも切り捨てられるから』なんて言わないだろう?」

 

「そうでしょうか?」

 

「だって、そんなことしたら寝首を掻かれるかもしれないじゃん。捨て駒に対しては、出来るだけ『そいつが捨て駒であること』を悟られないようにする方が合理的じゃないか」

 

「それも…そうですね」

 

 

 そうかなぁ。あたしだったら、恐怖で縛り付ける方を選ぶけどね。例えば…ヒナゲシの『大切なもの』を人質に取ったりして。

 ローリエの言い分は、ソルトも納得できるくらいに筋は通っているけど。でも、筋なら硬い肉にも通っている。

 

 

「あたしはそうは思わないけどね。ヒナゲシを生き餌にしても、かかるかどうかわからないよ? 最悪、切り捨てに来るかもね」

 

「カルダモンの言う通りだ。それに、ヒナゲシから得た情報が、常に正しいとは限らないぞ。……お前がヒナゲシにウソをついたようにな」

 

 あの拷問で得たリアリストのメンバーの情報は信用に値するかもしれない。でも、情報交換の取引となるとヒナゲシが冷静さを取り戻して嘘をつきだすかもしれない。

 

「ヒナゲシが約束を守らないならば…俺は取引を終了するだけだ。

 だけど……そうだな。確かにヒナゲシとの取引だけじゃ不確定要素が多い。もう少し、手を打っておこう」

 

 

 もう少し手を打つ?

 この時はまだ、ローリエの発言の意図が良くわからなかったけれど……その直後。あたしは、その意味を知ることになる。

 

「ソルト。変身魔法を、俺にかけてくれ」

 

「……まさか」

 

「ヒナゲシに化けてあっちに連絡する。通信機は絶賛修理中だ」

 

「ローリエ。頼まれたもん、直し終わったぞ」

 

「お、ナイスタイミ〜ング、コリアンダー! じゃ、早速やろう」

 

 

 コリアンダーから見たことない形の通信機を受け取り、ソルトの変身魔法を受け、どんどんヒナゲシの姿になっていくローリエ。

 通信機のスイッチを入れると同時に、ローリエの演技が始まった。

 

 

『おっっっっそい!! 何やってんのこのグズ!!

 秘密基地にもいないし…どこほっつき歩いてんのよ!?』

 

「ヒィィィィィ! ごめんなさいお姉様!

 で、でも……簡単に連絡できないわけが出来たの…」

 

『なに!? しょーもない事だったら、本当に承知しないわよ?』

 

「…神殿内に、潜入成功したの。表向きは、捕虜として……」

 

『…なんですって?』

 

 

 ソルト以上の演技に、あたし達は舌を巻いた。

 その後、ヒナゲシの姿をしたローリエは、『八賢者ローリエと手を組んで神殿に潜入していて情報収集中だから、出来るだけそっちから連絡してこないで欲しい』という旨のことを言って一方的に通信を切った。

 

 

「……ローリエ」

 

「なに?」

 

「…いいの? ハイプリスは、君の教え子だったんでしょ?」

 

 

 あたしは、声をかけずにはいられなかった。

 ヒナゲシの拷問で得た情報については……ヒナゲシが焼肉拷問に屈した時に、全員が聞いた。

 だから、問わずにはいられない。どうして、元教え子がいるかもしれない組織に……ここまで容赦なく出来るのか。他の人も、聞きたそうだったし、あたし自身も聞くべきだと思った。

 そう聞いておいて…ほんのちょっぴり、後悔した。

 

 

「…カルダモンだったら、『たった一人の教え子』と『俺らの世界も含めたオリジナルの聖典世界とそこに住まう人々』………どっちを取る?

 

「!!? ……そ、れは―――」

「ローリエ!!!!」

 

「っ……悪い。スッゲー意地悪な質問した。忘れてくれ」

 

 

 だって、物凄く悲しそうな顔をしたローリエにそんなことを問われたんだから。

 ……忘れてくれなんて、できるわけないでしょ。あまりに不釣り合いな天秤の質問だったんだもん。

 アルシーヴ様にものすごい剣幕で怒鳴られたローリエは、気まずそうに部屋から出ていった。

 

 

「アルシーヴ様……?」

「…馬鹿者が。覚悟を決めるのが早すぎだ……!」

「そうよ……私なんて、絶対に決められなかったのに…!」

「ソラ様、アルシーヴ様、お気を確かに…」

「申し訳ありません、お二方。俺の友人がバカやらかして…」

「コリアンダー、汝に非は無し。且つ、恐らくローリエにも」

 

 

 …結局、何が正しいか分からないまま、ローリエの作戦だけが終了した。

 

 

 

 

 ……そして、それから2日後。言ノ葉の都市を中心に、こんな噂が流れるようになったんだ。

 

『リアリストの「真実の手」にして遺跡の街の襲撃犯であるヒナゲシは、日常的にDHMOという物質を摂取していた』

『DHMOとは。正式名称:ジヒドロゲンモノオキシド。エトワリアの聖典学者ブッシュ・A・コニチンが発見した化学物質である。

 曰く、摂取すれば重度な依存症を発症し、吸引すればたちまち死を招く。

 曰く、様々な毒の主成分である。

 曰く、犯罪者のほぼ全てが、DHMOを摂取した事があるというデータが存在する。………』

 

 こっちの噂は、眉唾ものだと思っていたけど。この噂の恐ろしさは、もう少し後で思い知ることになる。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 『仮面ライダーエボルビルド』に登場した万丈構文を応用して捕えたリアリストに裏切りを唆した男。そのほかにも、ヒナゲシに化けてリアリスト側に偽情報を流したりとお前マジかって事を散々やっていたが、その裏には、木月桂一との対話から浮き出る苦悩も存在する。

ヒナゲシ
 万丈構文にまんまと乗せられ、不利な取引を結ばざるを得なかった極悪ロリ。本人は不利であることにも気づいておらず、何故ローリエが損する取引を持ちかけてきたのか疑問に思った程度だが、そんな事よりもお姉様に見捨てられない方が大事。

通りすがりのバロン「もはや強い弱いの問題ではない……ただのバカだ!(呆)」

アルシーヴ&ソラ&カルダモン
 ローリエの万丈構文に気付いた方々。アルシーヴもソラも、黒幕が自分の生徒だって気づいて現在ショック中。更に、ローリエの決意があまりにも早すぎて動揺している。カルダモンはこういう時、察してくれやすい人だから彼女目線を書くのは意外と便利だったりする。逆に子供っぽいシュガーと聡明なセサミは書きにくい節がある。

ブッシュ・A・コニチン
DHMOを発見したという噂で持ちきりの聖典学者。今回の噂の件で名前が売れ出したようだが……?




万丈構文
 2017〜2018年に放送された特撮『仮面ライダービルド』に登場した、あまりにも有名な構文。
 「お前が○○○しないのは勝手だ。だがそうした場合、誰が○○○すると思う?……万丈だ」というフレーズが有名で、弱みに漬け込むおやっさんと漬け込まれている事を知りながら仲間のために立ち上がらざるを得ない戦兎のシュールな笑いを誘った事で一躍有名になった。

吊られた男(ハングドマン)とマン・イン・ザ・ミラー
 ともに『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるスタンド能力。吊られた男(ハングドマン)は鏡から鏡(みたいな光を反射するもの)へ飛び移る“光”のスタンドなのに対して、マン・イン・ザ・ミラーは『鏡の世界を作り出す』という能力を持っている。

マミる&初瀬る
 共に〇淵玄氏監督作品から生まれた、悲惨な最期を表すパワーワード。どちらも、最期を遂げた人物からつけられている。「自分よりも大きな怪物に首から上だけをガブッといかれる」事を「マミる」と言い、「チェリーの似合うチンピラにアメリカンクラッカーで始末される」事を「初瀬る」と言う。元ネタ作品は『魔法少女まどか☆マギカ』と『仮面ライダー鎧武』。



△▼△▼△▼
ローリエ「ヒナゲシを監視下に置くことに成功した俺は、ハイプリスの事を知らせに、写本の街へ赴いた。そこで意外な再会を果たす。そして、ヒナゲシがいなくなった事で、本家では怒らなかった歪みが、確実に出始めたのであった……」

次回『イカリ×ト×ユカリ』
ローリエ「次回もお楽しみに!」
▲▽▲▽▲▽


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