きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷   作:伝説の超三毛猫

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サブタイトルの元ネタは、『GA 芸術科アートデザインクラス』より「騙し絵(トロンプ・ルイユ)」と、『風都探偵』より「Tに気をつけろ/魔女に恋した男」からです。


“相手を欺くコツ、その1。嘘をつかないこと。決して捏造をせず、でも真実をぼかせば、自ずと相手みずから騙されてくれる。”
 ……木月桂一の独白


第30話:Lに気を付けろ/騙し絵(トロンプ・ルイユ)

 

 

 

 それは、芸術の都にあっという間に伝わった。

 逮捕されたはずの「真実の手」、テロリストであるヒナゲシの脱走。しかも、都付近に潜伏中で衛兵が追跡中だというビッグニュース。

 その凶報は芸術の都の人々を不安のどん底に落とした。もちろん、地下のある地点にアジトを作ったリコリスの耳に届かないはずもない。

 

 

「り、リコリスさん! これ!!」

 

「何よ!」

 

「貴方の妹分が脱走に成功したって……」

 

「貸しなさいッ」

 

 

 部下が手にしていた号外をふんだくって速読を始める。

 そこには、確かにヒナゲシが脱走したことと、それを証明する写真、そしてヒナゲシの指名手配書が堂々と報じられていた。

 

 リコリスは内容を頭に入れると、新聞を部下に押し付けて、アジトの入口へと向かう。

 

 

「り、リコリスさん…どこへ!?」

 

「あのグズの回収に決まってるでしょ。

 どうやら、のろますぎる思考回路でもやっと気づいたようね。自分が、誰に縋らないと生きていけないのかを……!!」

 

 

 リコリスにとって、ヒナゲシは“妹”……という認識は、あまり正確ではない。

 便宜上「お姉様」と呼ばせているが、実際の所はリコリスの怒りをぶつけるサンドバッグでしかない。幼い頃から覚えた怒りの衝動を、発散できれば誰でもいいのだ。

 ただ。()()()()()、と言いながらも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに、リコリス本人は一切の違和感を覚えないのも、ある意味問題ではあるが。

 

 

「いいこと! アジトの場所は死んでも悟られないで! 山口如月を、アイツらに奪い返されるんじゃあないわよ!?

 出来なかったら、承知しないんだから!!!」

 

「は、はいぃぃぃぃ!!」

 

 

 尋常ではない怒りをぶつけて見張り番の部下(つかいすてのコマ)達を震え上がらせると、リコリスはアジトを離れた。

 

 

 

 新聞の写真を頼りにヒナゲシが潜伏してそうな場所……林の中に辿り着く。

 そうして、見つけ出した。リコリスの良く知る、小さな後ろ姿に。

 

 

「ヒナゲシ!」

 

 

 ずかずかと無警戒に、かつ大胆に足音を消さずに近づいていく。

 やっと見つけた。手間かけさせたわね、帰ったらお仕置きだから。

 そんな歪んだ感情を隠そうともせず、ヒナゲシの後ろ姿を捕えようとした。

 

「アンタみたいなグズの為に、どんだけアタシが迷惑こうむったと思ってんの!!!」

 

 そして、いまだ反応しないその肩に強く手を置こうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――手が、肩をすり抜けた。

 

 

「ちょっと聞―――!!!?」

 

 

 もう一度手で肩に触ろうとして……やはりすり抜ける。

 何かまずいと思った時には、すぐ真後ろに、気配があった。

 

 

「ふっ!!」

 

「くっ!!?」

 

 振り向きざまにナイフを抜き放つ。それらは、一本の木刀と鍔迫り合いを引き起こした。

 だが、これは木刀に水の魔力が込められていたことと、リコリスが気付いたのが直前すぎて無理矢理な体勢で攻撃を受けてしまった事から、すぐに勝敗がつく。

 

「ぐぅぅぅっ!!!!」

 

「………くそ、浅かった…!」

 

 リコリスが持っていたナイフごと弾き飛ばされ、宙に舞ったのちに地面を転がる。

 眼鏡の黒髪男―――コリアンダーも、リコリスが後ろに跳んでダメージを最小限にしたことを悟って、小さく悪態をつく。ヒナゲシの後ろ姿は、いつの間にか消えてしまっていた。

 ここまでくれば、ヒナゲシを失って冷静さをかなぐり捨ててしまっていたリコリスも、流石に状況を飲み込むことができた。

 

 

「…嵌めたわね、このアタシをッ!」

 

「ま、正直裏があんのかってくらいには簡単に騙されてくれたよ」

 

「!!! …………八賢者ローリエ!」

 

 

 木陰から新たに出てきた男・八賢者ローリエをリコリスは殺人鬼の形相で睨みつける。ローリエはそれを意にも介さず、コリアンダーと肩を並べた。

 

 

「あの余裕のなさ……マジで増援とかないのか?」

 

「少なくとも、アイツ自身は単騎で来たと思っている。叩くなら…今だ」

 

 ローリエとコリアンダーの作戦はこうだ。

 ニセの情報――といっても、古いだけで丸ごとウソではない――でリコリスをおびき出す。事実、ヒナゲシの脱走だが、その日のうちに神殿の敷地内で確保されたという報告を受け取っていた。

 そして、その情報に釣られたリコリスに対して、コリアンダーの水鏡魔法と幻影魔法でヒナゲシの像を生成。それで確実にリコリスを釣るというもの。

 ローリエ本人はあからさますぎて釣れないかもと思ったが、今回ばかりはリコリスの頭の回転の悪さに感謝した。

 

 

「かかってこいよバカ女。それとも尻尾まいて逃げても良いんだぜ?」

 

「誰が…! 貴様らを殺して、ヒナゲシを連れ戻す」

 

 

 リコリスの青筋がひとつ、ふたつ、みっつ増えた。

 頭に血が上った凶暴なテロリストと、“黒一点の”八賢者とその相棒のコンビ。

 その戦いの幕が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 先手は、騙されたリコリスからだった。

 先手必勝、と言わんばかりにナイフの束を投げつけてくる。

 

「はぁっ!」

 

「よっと」

 

 しかし、後手常勝、とでも言うかのようにコリアンダーもローリエも易々とそれらを回避した。コリアンダーは盾を使い、ローリエは信じられない身体能力でナイフの隙間を縫うように躱していく。

 

「大丈夫か、相棒?」

 

「あぁ。だが、ナイフの中に爆発するものもあるぞ…!?」

 

「エグいな! だが―――」

 

 ローリエが刀……サイレンサー弐号で飛んできたナイフを斬る。

 すると、起爆を吸収し、爆風をかき消して無力化していく。まるで爆発そのものを斬っているかのような現象に、リコリスは歯噛みした。

 

 

「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ウザい!!!

 とっとと死になさいよ!! 殺されなさいよ!!!」

 

「正気とは思えないな」

 

 

 癇癪を引き起こしながら、ナイフで斬りかかるリコリスを、コリアンダーが盾で防ぐ。反撃の木刀一閃は、リコリスの姿が揺らめくようにかわされる。

 かといってローリエに攻撃しようにも、紙一重でかわされ、非殺傷弾を次々と撃ち込まれる。

 ナイフの投擲や近接攻撃をもってしても二人にダメージを与えられない事実に、リコリスも怒りがヒートアップしていく。その精神状態から放たれる攻撃は、凶暴でエグい……が、戦略というものが一切ない。ただひたすら人体の急所に放つ、それだけだ。当たれば恐ろしいが、ある程度の実力者であるならば、何も怖くない。狙ってくる場所を守っていれば、そこへ攻撃がいき勝手に弾かれたり外したりするだけだからだ。

 

 

「えぇい、うっとうしい! 『ラジアータ―――」

 

「そこだ!」

 

「――っがああ!! よくもォォォォォ!!!」

 

「おーこわ」

 

 

 技を放つ姿勢のリコリスの、足元とナイフの鍔に銃撃を当て、技を不発させたローリエ。

 思い通りに技が出せない状況に、ますます冷静さをかなぐり捨てて怒り狂う。

 そうして暴れるリコリスを前に、そろそろだろうと口を開く。

 

 

「相棒! これから……俺の“奥の手”を解禁する!」

 

 

 その台詞に、コリアンダーは固まった。

 打ち合わせでは、こんなこと言うと聞いていなかったのだ。

 

「え、ローリエ、お前に奥の手なんて―――」

 

「だが!! それについて詳しく話している時間はない!

 俺からお前に言える事はただひとつ………」

 

 奥の手なんてあったのか、という彼の言葉を大声で遮って、ローリエは視線だけをコリアンダーに向けた。

 

 

「―――止まるな。俺を信じろ!」

 

「二つじゃねーか」

 

 

 軽口を叩きあいながらも、ローリエはリコリスの手札を整理する。

 主な武装はナイフ。それと懐にまで潜り込める速度を利用したバトルスタイル。それは……残像が見えるほど。カルダモンとタメを張れる系だろうか?

 ナイフはナイフでも、爆破する仕掛けアリ。サイレンサー弐号でかき消すことができたから、火薬ではなく魔法的な仕掛けがあって、指定したナイフを爆破させられるタイプだろうか?

 そして、忘れてはいけないのが……相手がまだ見せてない手札・及びブラフの可能性。こっちだって切り札は簡単には見せない。相手も同じことをしていても何ら不思議じゃあない。

 

 

「行くぞ」

 

「おう!」

 

「させる訳、ないでしょ!!!」

 

 

 リコリスは、指をくい、と曲げる動作をした。

 すると、なんということか。先ほどまで木や地面に突き刺さっていたままのナイフから魔法陣が浮き出てきたではないか。その数は……20や30ではない。

 無数の魔法陣に囲まれた事を悟ったコリアンダーは、すぐさま行動に出た。すぐにこの魔法陣たちを何とかしなければ、おそろしい目にあう! その勘が、自身を即断させたのだ。

 

 

「水龍よ!!」

 

 

 水龍の防御陣形を築き上げる。コリアンダーの木剣から生まれた水龍が、彼の周辺の魔法陣たちをあっという間に嚙み砕く。これで、コリアンダーに放たれる攻撃が減った事に違いはない。

 だがローリエは? そう考えて視線を移動し……体が強張った。

 何故なら………いまだローリエが、リコリスの張った魔法陣の中に、取り残されているからだ!

 

 

「何やってるんだァァァ!!!

 早く逃げるか反撃するかしろ! 何故動かない!!?」

 

「無駄よ、死になさい!

 『ハリケーネス・リリー』ッ!!!!」

 

 

 ローリエがにやりと、コリアンダーにだけ見えるように笑う。

 それは諦めから来たものではなく、むしろ何かあるような笑みで。コリアンダーはその笑みで先程の言葉を思い出した。

 

 リコリスは、それに気付かずお構いなしに必殺技を放つ。

 周囲に張った魔法陣から刃の炎魔力を、嵐のように放つ必殺技、ハリケーネス・リリー。

 これを受けて立っていられた人間など、リコリスの経験上いなかった。

 ローリエはナイフの投擲を避けられるようだが、流石に魔法陣の数が多すぎる。回避は不可能。だから、この一撃で仕留められるという確信があった。

 攻撃開始まであと1秒もない。すぐに魔力の大嵐が、ローリエをズタボロの雑巾のようにするだろうと考えて。

 

 

「まずは一人ッ―――」

 

 

 パン、と乾いた音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――次の瞬間、リコリスは()()()()()()()

 

 

が……は……!!?

 

 

 刃の魔力が縦横無尽に駆け巡る音。全身を紙で思いきり斬られたような激痛。なにより、ローリエを囲んでいた筈の魔法陣が、自身の視界に所せましと並んでいたこと。

 リコリスは、己の身に急に起こった事態を、すぐに受け入れられなかった。

 そも、思い至らなかったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その様子を見たコリアンダーも、ほぼリコリスと同意見だ。

 何故……何故、囲まれていた筈のローリエがリコリスになっている? 急に女になったとか? イヤイヤ、意味が分からん。

 

 

「おーい、相棒! 俺はコッチ!」

 

「え? あ!? うお!ローリエ!!?」

 

 

 眼前で起こった出来事の意味が分からな過ぎて素っ頓狂な推測をしかけたコリアンダーの意識が、ローリエの声に引き戻される。

 自分の必殺技で斬り刻まれたリコリスとは違って、その姿にひとつの切り傷もない。まるで、さっきのリコリスの必殺技を何らかの方法でかわしたかのように。

 いつの間にか武器をしまっているローリエが立っていた位置を見たコリアンダーは、()()()()。そこはさっきまで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?

 

 

「成程………シンプル……だけど、厄介なチカラの、ようね…!」

 

 

 そして、リコリスもローリエのカラクリをすぐに見抜いた。

 さっきのハリケーネス・リリーを自分で受けた事で、無視できないダメージを受けてしまった。途中で必殺技を解除していなければ、自分はもう立てなくなっていたかもしれない。だがそれであまりにも多い血の気が抜けて、冷静にものを考えられるようになったようだ。

 

 

「アンタの“奥の手”………それは、『位置替え魔法』……!」

 

「その通り! 俺の術式は相手と自分の位置を入れ替える―――不義遊戯(ブギウギ)!!」

 

 

 ローリエが魔法を開示するが、それは8割がた嘘である。

 不義遊戯(ブギウギ)という術式が存在して、その効果が位置替えであることは事実だ。だが、エトワリア人には絶対に分からない穴がある。

 それは……ローリエの使う不義遊戯(ブギウギ)は再現魔法・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 このカラクリを見破る為には、再現魔法・レントと『呪術廻戦』の物語の知識が必要ではあるが、エトワリアに『呪術廻戦』があるわけがない。

 

 

「ローリエ、その力…」

 

「シッ。慣れる前に仕留めるぞ。

 ちなみに手を! 叩くのが! 発動条件だッ!!!」

 

 

 コリアンダーに合図すると、男二人はリコリスに突撃していく。

 パン、パン、パンと、ローリエが手を叩く度に入れ替わる二人の位置。

 ただの単純な位置交換は、リコリスを二人が挟み撃ちにした途端に本領を発揮した。

 

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

「ぬあっ!?」

 

「はあっ!」

 

「ぐっ……!!」

 

 

 コリアンダーとローリエの位置が入れ替わり、攻撃してくる位置が変わる。

 結果、リコリスの反射神経から出る防御をすり抜けて、木刀と拳が、彼女の肉体に突き刺さった。

 攻撃態勢のコリアンダーを前に、リコリスがカウンターもしくは防御を選択しても、拍手の音がなった瞬間、目の前にはローリエが現れ、無防備な背中に木刀がめり込む。

 こんな状態が目まぐるしい近接戦でたて続けに起こる。

 

 

「はっ…」

 

「でりゃああああ!」

 

「ううぅぅぅっ!!?」

 

 

 拍手の音にはっとなったリコリスが、防御の為にコリアンダーが現れた方向に振り向いても、もう一度拍手の音が鳴れば、即座に背中側にコリアンダーが現れる。

 木刀の一撃で体制が崩れたところに、ローリエの拳がリコリスの胴体に1発、2発と突き刺さる。そこにコリアンダーがリコリスの顔に肘鉄を入れた。

 

 もう一度拍手の音が響き、コリアンダーとローリエの入れ替わりを警戒したリコリスだが、警戒したローリエが目の前から消えただけで、誰も現れない。何事かと思った直後、ローリエの蹴りが腰に、コリアンダーの木剣が肩に命中。その時になった初めて、「今度は自分とローリエが入れ替わった」と悟る。

 

 

「(アタシと入れ替わるか、あの眼鏡と入れ替わるか……手を叩く度に迫られる二択で思考が鈍るっ……!)」

 

 パン、と手を叩く。

 ローリエとコリアンダーが入れ替わり、攻撃方向が直前で変わって、みたびリコリスはコリアンダーの攻撃をモロに受けた。

 

 パン、と手が鳴る。

 ローリエとリコリスが入れ替わり、コリアンダーの何の気なしに振るわれた木刀が命中して、一瞬の目つぶしになる。その隙に、ローリエによってまた非殺傷弾を撃ち込まれた。

 

「舐めるんじゃ、ないわよ!!!」

 

 リコリスもやられっぱなしではいられない。

 ローリエの不義遊戯に翻弄されながらも、残像を生み出す程のスピードで何とか打開しようと企むリコリス。コリアンダーにナイフの束を投げつけて、自身はローリエを斬り刻むべく飛び掛かる。

 

 パン、とまた拍手がした。

 

「な…くっ!」

 

 今度はコリアンダーとリコリスの位置が入れ替わった。

 投げた筈のナイフの束が、自身の真後ろにまで迫ってきている事に気が付いて、直前ですべて叩き落した。だが。

 

 バァン!!

 

「ぐあぁっ…!」

 

 今度はローリエの拳銃が火を吹く。

 右腕と両足の腿に撃ち込まれた非殺傷弾が、リコリスに確実にダメージを与え、疲弊させていく。

 すぐにまた手が鳴り、コリアンダーとローリエに囲まれる。

 

 

「(ローリエだけじゃあない! 眼鏡の男も、アタシに脅威になり得る攻撃力がある! ま、まずい!これは………)」

 

 

 手の鳴る度に入れ替わり、変幻自在に放って来る攻撃に対応しきれない。

 ローリエが術式を開示した際は内心「情報のアドバンテージを捨てるなんて」とバカにしたが、そんなの関係なかったのだ。

 バレても対応できない。問題ない。それこそ、ローリエの“奥の手”……不義遊戯の特性。

 それを知った時には。

 

 

「(ぬ……抜け出せない~~~~ッ!!!?)」

 

 

 ―――もう既に、もがけない程深く、罠にハマっていた。

 だが、リコリスに降伏する気はない。ここで降伏するくらいなら、最初から芸術の都を侵攻し、聖典を破壊する為に『リアライフ』を使っていない。

 とはいえ、ここまでの劣勢を受け入れられない程リコリスは馬鹿でもない。一瞬の隙を作り、転移なり全力疾走なりでこの戦場から逃走することに考えをシフトしていた。

 

 

「うおおおっ!」

 

「ハァァァァァァァっ!」

 

 

 コリアンダーが声を張り上げながらリコリスに接近。

 リコリスも、逃走の隙を生み出すために、爆発するナイフの束をコリアンダーに投擲した。

 最初のナイフの本数とは比べ物にならない密度。無策で突っ込んでは、間違いなく大怪我を負うだろう。

 

 その刹那、コリアンダーは思い出していた。ローリエとの、会話を。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「コリアンダーはさ。戦う目的とか、あったりする?」

 

 長年の付き合いをしている相棒のその質問は、コリアンダーにとっては即答できるものではなかった。いくばくか質問の意味を考えてから、ゆっくりと答えを口にする。

 

「……神殿の秩序を守るため、だろうか」

 

「真面目な上に漠然としてんなぁ。悪い訳じゃあないけど」

 

「じゃあ、お前の戦う理由って何なんだよ」

 

 自分の戦う理由を否定されたような気がして、口を尖らせる。

 ローリエに同じ問いを聞き返せば、彼は実に彼らしい答えを出してくれた。

 

「俺の野望を叶えるため」

 

「野望?」

 

「まずアルシーヴちゃんやソラちゃんを始めとした美女たちに囲まれることだろ?

 あとその天国を続けるのに必要な金やら設備やらだろ? それに、ハーレムを認める法整備も要るなぁ」

 

「野望じゃなくて欲望じゃあねーか」

 

「そう言うなって。そういうのを全部叶えるためには、アホみたいに理想的な平和が要るってことさ」

 

「詭弁にしか聞こえねぇ」

 

 ローリエの野望を切り捨てるコリアンダーに、「ひでぇなぁ」とぼやくローリエ。その様子に剣呑な雰囲気など無く、お互いを信頼し合っているからこその軽口のたたき合いがそこにはあった。

 ひとしきり、自然と出た笑みを出し切ったあと、ローリエは言う。

 

「世界のため……って言うとヒーローっぽいけどさ。そんなヒーローも一人の人間なんだよ。泣いて、怒るのが当たり前。

 由紀も言ってたろ?『やるべきことよりやりたいこと』……ってな」

 

「ゆき…それは確か、巡ヶ丘の…」

 

「やるべきことだけじゃつまらないって事だよ。

 これは俺の勝手な推測……というか妄想なんだけどさ。

 コリアンダーって、本当は―――もっと、強いんじゃあないか?」

 

 ローリエはその妄想を、至極真面目な、妄想をしているとは思えないような眼差しで語った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 コリアンダーは、それを聞いて以降、少しだけ「やりたいこと」を考えるようになった。

 彼も男だ。ドリアーテ事件の際に、きららに負けた事実が悔しかったのもある。

 コリアンダーの「やりたいこと」。それは………化け物染みた強さを持った親友や仲間たちに誇れる自分になること。

 だから、彼は密かに鍛錬を積むようになった。そして……その結果。コリアンダーは―――

 

 

「『水龍剣・八岐大蛇』!!」

 

「な…!?」

 

 

 一撃必殺の技以外の力を身につけた。

 たった今リコリスのナイフ弾幕を一本残らずたたき斬った必殺技・『水龍剣・八岐大蛇』がその例だ。

 これは、全力の魔力を込めた8つの斬撃を叩き込む技。一見シンプルだが、抜刀術のスピードを活かすことで、格上にとっても脅威となり得る。

 コリアンダーの7本の剣筋が、リコリスの迎撃をすべて弾き返した。そして、あと一振り……それは、目の前のリコリスを仕留める一刃である。

 

 即座に回避行動を取ろうとしたところで、後ろの気配に気づいた。

 その正体……手を叩こうとしているローリエを見て、リコリスはローリエがやろうとしているコトを予測した。

 

 

「位置替え……そう何度も同じ手には―――」

 

 手が叩かれ、パンと気持ちのいい音が鳴る。

 それと同時にリコリスがローリエに振り返って―――目を疑った。

 

「か…変わっていな―――があああッ!!!?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。単純だけど、引っかかるよなァ!!」

 

 

 位置替えを発動するフリ、というフェイク。

 それに見事引っかかったリコリスは、コリアンダーの渾身の一振りを脇腹に受けて、林の木へと吹き飛んでいった。木をまるまる1本、へし折って土煙が上がる。

 

 土煙のあがった先から、何かが動く気配はない。しばらく様子を見ていたが、何も起こる気配がないと知ると、コリアンダーがふぅ、と息をついた。

 

 

「終わった、か……随分としぶとい女だった」

 

「あぁ。コレで2人目……ありがとな、相棒」

 

「礼なんか要らねぇよ」

 

 

 リアリストの幹部から勝利をもぎとった事を確信したローリエとコリアンダーは、拳を合わせた。

 あとは気絶しているだろうリコリスを回収し、きらら達やアルシーヴに連絡を入れるだけ。

 土煙をかき分けながら、少しずつリコリスが激突したであろう、折れた木を目印に進んでいく。

 見つけ次第、縛り上げて連行すれば―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」

 

「「!!!?」」

 

 

 突然、土煙から立ち上がった人影に、ローリエとコリアンダーは目を疑った。

 何故なら……先程まで散々ボコボコにし、コリアンダーの渾身の一発で仕留めたと思っていたリコリスが、立ち上がってきたからだ。

 

 

「何故アタシがこんな目に遭わなきゃならない!?

 アタシがここまで、痛い目を見なきゃならない!?

 アタシの大事なモノを根こそぎ奪われなきゃなんない!!?

 悪いのは全部…ぜんぶぜんぶぜんぶ、あんたら神殿のゴミ共だろうがァァァァァァ!!!」

 

「うそだろ…まだ、立ち上がるのか…」

 

「こ、ここまでとは…」

 

 

 リコリスの身体に蓄積したダメージは、もう既に無視していいレベルではない。普通なら、立つのも一苦労だろう。

 だが、ここで立ち上がり、今にも襲い掛かってきそうな形相で積年の恨みをまき散らす執念は、もはや常軌を逸していると言っても過言ではない。

 撃破したと思っていたターゲットの、思わぬしぶとさに、一瞬だけ、ローリエもコリアンダーも動きが止まる。

 その隙を突いて、リコリスは周囲に魔法陣を出現させた。

 

 

「死んで償え!『ラジアータ―――」

 

「まずっ…」

 

 

 魔法陣から刃を放ち、コリアンダーを狙おうとする。

 確保のために近づいたのと、一瞬だけ呆気に取られていたせいで回避が遅れ、防御を選ばざるを得なくなった。

 多少のダメージを覚悟した上で、これから来る衝撃に耐え凌ぐしかない、と思ったその時。

 

 パン、と音が鳴った。

 ローリエの隣にいたコリアンダーが消え、代わりに現れたのは、一丁の細身のショットガン。

 不義遊戯(ブギウギ)は、生物だけでなく呪力(まりょく)を持った無生物も、入れ替え対象になるのだ。それを利用して、ローリエは予め茂みの中に隠していた己の武器・ショットガン『アイリス』をコリアンダーと入れ替えたのだ。

 そうした理由はただ一つ。現れたそれをキャッチし、すぐに技を放とうとしたリコリスに銃口を向けた。―――ローリエにしか使えない特殊弾頭で、今度こそリコリスにトドメを刺すためだ。

 

 

穿て、アイリス!

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオォォォ!!

 

 

 

 ―――特殊弾頭、アイリス・アヴェンジャー。

 これで残った体力と妄執に等しい執念を消し飛ばす算段だったのだ。

 目の前の景色の見栄えがおかしいレベルで良くなり、リコリスの姿も見えなくなった。

 命までは奪ってないだろうが、消し飛んだ跡地をじっくり調べれば、意識と服が消し飛んだリコリスが見つかるだろう、と思うかもしれない。

 

 しかし、ローリエは聞き逃さなかった。

 

 

「チッ。最後の最後で水を差された。

 ……十中八九、逃げられたな。あ~~あ、コリアンダーになんて説明しよう!?」

 

『緊急転移!!!』

 

 

 アイリス・アヴェンジャーがリコリスを巻き込むほんの直前。

 リコリスを逃がさんとする誰かの声がしたことを。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 コリアンダーはというと。

 

「うわっ!!? し、茂みの中!?

 いったい俺は、何と入れ替わったんだ……!?」

 

 急に視界が変わり、見慣れない茂みの中に飛ばされた意図と、入れ替わったものが分からぬまま、目を白黒させていた。

 




キャラクター紹介&解説

ローリエ
 再現魔法・レントを戦闘で初解禁した拙作主人公。オリジナルの使用者に匹敵するレベルの術の運用方法でリコリスを徹底的にボコったが、最後の最後でリコリスの執念に驚き、トドメを刺し損ねる。
 ちなみにだが、ローリエは不義遊戯(ブギウギ)のオリジナル能力者同様変態ではあるが、この作品において“存在しない記憶”のやり取りをする予定は一切ない。多分ない。ないと思う。ないんじゃないかな。

コリアンダー
 ローリエの助言によって、前作から密かに成長を遂げていた神殿事務員。戦う個人的な理由があってもいいという助言から修行を重ねた結果、リコリスに有効打を与えられるくらいには強くなった。属性相性もあって、リコリス撃破に一番貢献している。

リコリス
 ヒナゲシ脱走の誤報(誤報ではない)に騙された上に野郎二人にボコボコにされた真実の左手。ヒナゲシ不在である上に、やっと手元に戻ってくると思っていたヒナゲシが嘘だったと悟り、怒りに我を忘れ、その結果ローリエの巧妙な罠にハマって再起不能寸前にまで叩きのめされる。それでも威勢が崩れなかったのは、執念の為せる業。なお、トドメを刺される直前に誰かに回収された。



不義遊戯(ブギウギ)
 物語『呪術廻戦』に登場する術のひとつ。「手を叩くことで自信を含めた一定量呪力のあるもの(生物・無生物問わず)の位置を入れ替える」という実にシンプルな能力だが、シンプルゆえに強力な能力。拙作では、ローリエがレントでオリジナル能力者である『東堂葵』をその身に再現したことで使用可能になった。



△▼△▼△▼
ローリエ「リコリスには逃げられてしまったか…」
ランプ「で、でも!ここまで追い詰めたんです!流石にもう戦えないんじゃ…」
タイキック「そう思った矢先、クリエタンクを壊した矢先に現れたのは……その戦えない筈のリコリスだと!!?」
うつつ「もうボロボロじゃん……何があればそこまで戦おうってなるのよぉ~~~!! 怖すぎるぅ…!」
ランプ「ひえぇぇぇ……まだ襲ってくるんですか!!?」

次回『お先にシルブプレ』
タイキック「次回も元気に、タイキックだ!」
▲▽▲▽▲▽


あとがき
下のアンケートについてですが、答える前に前話「Lに気を付けろ/シュルレアリスム」を読んでからお答えください。

今回みたいなリアリストの過去回欲しいですか?

  • 欲しい。リコリスの過去すごすぎ。
  • 欲しい。解釈違いではあるが。
  • 欲しいけど、次からは手短にね
  • 別にいらん
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