きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷 作:伝説の超三毛猫
“私を疑わなかったのもそうだし、あまりに折れそうな見た目だったからさ。私もあのおじいちゃんを警戒はしなかったんだ。え……ほらぁ、赤ちゃんやよぼよぼのおじいさんおばあさんを嫌ったりしないでしょ、普通……それとおんなじだと思う。”
……住良木うつつの独白
水路の街・ゲリラ戦基地のホテルにて。
シュールさんから滞在許可を貰った私達は、リアリストの事件関連の情報を共有するために、神殿長・コッドさんのいる部屋まで案内して頂きました。
「シュールさん、コッドさんってどんな方なんですか?」
「かなりご高齢の方よ。長い間、水路の街を良くするために尽力してきたらしいの。神殿長になる前は、言ノ葉の神殿で先生やってたらしいわ。ローリエ君も彼の教え子なんですって」
「せ、先生の先生ですか…!?」
階段登ってる途中で凄いことを聞いてしまったけど、どうやら神殿長は無事みたい。これで安心して協力を仰ぐことができるよね。
それにしても、ローリエさんの先生か。どんな人なんだろう?
「ようこそ水路の街へ。
……今は火急の事態ゆえに大したもてなしも出来ませんが、歓迎するぞい」
「おっ、きららちゃん。皆も来たんだな」
最上階。
シュールさんに続いた先の、一つの部屋にいたのは、二人の人物でした。一人はローリエさん、もう一人、部屋のソファに腰かけていたのは、地味な白い神官服を着たおじいさんだった。
「儂はコッド。水路の街の神殿を預からせて貰っている身………とはいえ、その肝心の神殿を奪われていて、面目丸つぶれじゃがの」
「え、えーと。きららです! 召喚士です!」
そのおじいさん―――コッドさんは笑いながら、冗談では済まないようなことを冗談でも言っているかのように言っている。それになんて返したら良いか分からず、普通に自己紹介した。他の仲間たちも、ひとりひとり紹介していく。
私は、私達がここに来た目的をシュールさんとコッドさんに話しました。元々うつつとタイキックさんの記憶を探すために旅をしている事、ここに来るまでの道中で倒したウツカイの指令書の中に、ここで『住良木うつつ絶望計画』を実行するという内容のものがあったこと、それを阻止するためにこちらから打って出る形で街に入ってきたこと。
それらを、うむうむと相槌をうちながら聞いてくださったコッドさんは「あい分かった」と言ったのち、今の街の状況を語ってくださいました。
「シュールさんから聞いたかも知れないが、儂は元々、シュールさんとローリエ君には別の仕事を依頼していたのじゃ。
『水路の街の周辺で暗躍する、謎の不審者を調べてほしい』。だが、傭兵団が先行して到着し、シュールさん達が現場入りする前、コトは起こった。」
「…リアリストが、攻めてきたんですよね?」
「そうじゃ。あまりに堂々と正面からやってきたからか、門番がやられての。今思えば、警報器が工作されてたのか全く反応しなかったもんだから、対応が遅れたのじゃろう。
ローリエ君の手配書と緊急避難用の隠し通路がなければどうなっていた事か」
「そんな事が……」
「現在我々は神殿を取り戻すため、あちこちでゲリラ戦を仕掛けているところじゃ。ローリエ君やカルダモン殿が戦力になってくれているお陰じゃな。
君達が齎してくれた情報は有益じゃ。今の今まで、奴らの目的が何なのか分からなかったのだからの」
「あ、ありがとうございます」
「と、なると……そちらの、うつつちゃんといったか? 散々狙われて、辛かったのう」
「ほんとよ…私が何したのかも分からないのに………うぅぅ……帰りたい…」
「安心せい。儂らは君を守るぞい。奴らの所業は新聞でも見た。あんな連中に君は渡さぬよ」
コッドさんは、怯えたうつつに優しく言葉をかけた。
それに対してうつつは、何かぼそぼそと言っていたけど、真っ赤になって俯いていった。何となくだけど、納得してくれたのかな。
「時にきららちゃん。幾つか尋ねたい事がある」
「あ、はい。何でしょうか?」
「一つ、君の『コール』の効果を詳しく。具体的には、何が出来て何が出来ぬのか。
二つ、今日の君の下着の色。
三つ、うつつちゃんの能力。分かった範囲で構わぬ。
この老骨に教えてはくれぬかのう?」
「わかりまし………ん?」
今。変な質問ありませんでした?
たった今コッドさんに質問された内容を一つずつ思い出していって……………っ!!?
「だ、駄目ですよ! 教える訳ないじゃないですか!?」
「そうか……まぁ仕方あるまい。うつつちゃんの事は簡単に分かるとは思わなんだ。
それに、切札を隠したい気持ちもよく分かる。召喚士の『コール』は希少じゃから、知りたくはあったが…」
「そこじゃありません!! し、下着の色なんて、絶対教えないって言ってるんです!」
「むぅ…さり気なく混ぜたつもりだったんじゃがのぅ」
さり気なくでも駄目です!
あまりにさらっと尋ねたものですから、一瞬答えるのが遅れましたよ!
しかも、その話の流れに、今まで静かに私達とコッドさんの話を聞いていたローリエさんも口を開きました。
「【興味があります】」
「ローリエさん!?」
「きららちゃんの下着姿に【興味があります】」
「駄目です!!! 何を言っているんですか!?」
「大丈夫だ、脱がせたりはセツナっ!?」
そんな、えっちなのは駄目です!よくないと思います!!
しかし、そんなローリエさんが次の言葉を口にしようとした瞬間、誰かの拳がローリエさんの顔面に突き刺さったのを見ました。
「…ともりるっ」
「今戻ってきたところで状況がよく分からないんだけど…雰囲気的にこれで良かったのかい?」
「えぇ、そうね。助かるわ、カルダモンさん」
「カルダモン!」
「あれが…カルダモン?」
「そうか。あの人物が…!」
そう。カルダモンさんでした。
カルダモンさんと、もう一人……シュールさんが、ローリエさんを制裁したのです!
「ひょっとして、きららに手を出そうとしたの? とうとう節操なくなったかなコイツ」
「きっかけはこっちのおじいさんですけどね♪」
「ほ、ほっほ、儂のはただの冗談じゃよ。性欲なんぞとうに昔に枯れ果てておるジジイのお茶目じゃわい」
「枯れ果ててるなら下着の色など聞きませんよ?」
「ほ……ほほ…」
しゅ、シュールさん……私達と会った時と変わらない笑顔のはずなのに、威圧感が物凄いなぁ。まるで、笑顔の仮面で、怒りを覆い隠してるみたい。そんなシュールさんの威圧にコッドさんもタジタジになる。
ローリエさんの先生だから、もしかしてとは思ったけど、油断した。気を引き締めないと。色んな意味で。
「それはそれとして……ついさっき、看過できない話が噂で流れてきているんだ。聞いてくれるかい?」
「ふむ。なんじゃの?」
「『住良木うつつがウツカイの仲間である』って本当?」
「「「「「!!!?」」」」」
カルダモンがもたらした情報は、衝撃だった。
そんな、うつつがウツカイの仲間……?
そんなの……!
「そんなの、ありえないと思います!」
「そうです! そんなの、デタラメに決まっています!!」
うつつと旅したのはまだ長くはないけど、それだけは分かる。
うつつは、ネガティブで、自信も無さげで、まだ戦える力も持っていないけれど………それでも、いざという時は誰かの為に動ける人だ。
シャミ子さんに声をかけてくれた。メディアを救うために足を動かし続けてくれていた。ナミコさんを助ける為に、目覚めたばかりの能力を使ってくれた。
そんなうつつが―――ウツカイの仲間なわけがない!
「うぅぅぅぅぅ………やっぱり、私はこうなるんだわ…
覚えのないことで、皆から嫌われて……期待する方が間違ってたんだ…」
「そんなことないよ。私は信じてるから」
「そうですよ! いい加減なデタラメに惑わされることはありません!」
だから、そんな顔して独りで泣かないで、うつつ。
あなたを見捨てない友達なら、必ずいるよ。
メディアもそう。タイキックさんもそう。ローリエさんやカルダモンもきっとそう。そして…私達も。
「うーむ。君達の気持ちは、よく分かった」
そこで聞こえてきたのは、しわがれたおじいさんの声。
コッドさんでした。
「君達の人となりは、今までのやり取りで大体わかった。儂も、君達を信用しよう。
その上で言いたいのじゃがな。残念ながら…人とは、言葉だけでは納得のできない、疑り深い生き物なんじゃよ」
「え………」
「ど、どういうことですか!」
「君達なら良い。この部屋にいる者達もまた、うつつちゃんを信じるだろう。
しかし……うつつちゃんの事を何も知らぬ者が、噂だけを耳にした時、ソレを鵜呑みにする可能性は非常に高い、と言う事じゃ」
「う、鵜呑み…!?」
そんな、どうして…?
どうして根は良い子のうつつを、噂だけで判断しちゃうんですか!?
「どうして、って顔をしてるね」
「カルダモン………」
「人ってさ。どうしても感情に左右されちゃうんだよ。戦争とかが起きていて、不安になっている時は特にね。
危険から逃れたい、早く安心を得たい……そういう感情に促されて、よくよく考えれば間違っている情報をすぐに信じちゃう事ってよくある話なのさ」
「そんな…」
「参ったな…このままではマズい気がするぞ。どうにかならないのだろうか? コッド殿」
私達の戸惑いや、タイキックさんの問いに、コッドさんは「そうじゃのう…」と続ける。
「このような根も葉もない噂を打ち破れるのは、明確な証拠。いつの時代もそうと決まっておる。
故に儂らはすぐに証拠を示さねばならんようじゃの」
「そんなの無理じゃない!」
噂を否定できるのは証拠。
そう結論づけたコッドさんに、うつつが嘆くように声を被せた。
確かに、うつつの記憶は誰も持っていない訳だし、うつつが昔どんな存在だったかなんて、誰も分からない。これじゃあ、証拠なんて出せない。
それは、写本の街でもあったことだ。フェンネルさんに疑われた時を思い出す。それで、ローリエさんは庇ってくれたんだっけ………! あ、アレがある!
「それなら、ローリエさんが写本の街でやった方法は使えませんか?
そもそも、うつつがウツカイの仲間じゃないって証明が、『あくまのしょうめい』であって、説明が出来ないことを流せば……」
「それは駄目だ、きららちゃん。
『うつつがウツカイの仲間だ』って噂はもう流れてしまっている。フェンネル一人説得すれば良かったあの時とは違って、不特定多数の耳に入っちまってるんだ。
しかも……この手の奴らは『説明しない=疑惑を認めた』と思い込む、っつー厄介な性質も持ってる。悪魔の証明を説明したところで火に油だろう」
「そんな…!」
かつてローリエさんが、フェンネルさんの疑惑からうつつを守ってくれた方法は、いつの間にか制裁から復活したのだろう、他ならぬローリエさんに否定されてしまった。
どうすれば良いんだろう? ローリエさんも説明に苦労してた『うつつがウツカイの仲間ではない証明』を、私達で何とか出来るのかな?
考えてみるけど……今の時点では、何も思いつかない。うつつにつらい思いをさせてしまっているのに、それをなんとか出来ない私自身が悔しい……!
しかし、その時に困り果てた私達に光明を示したのもまた、コッドさんでした。
「安心せよ。儂に考えがある」
「考え…?」
「きららちゃんやローリエ君の言う通り、敵の仲間でない証明など出来ようはずもない。
ならば、考えを変えればよい。ウツカイとうつつちゃんが、
「別の……生き物…?」
「どういう事だろうか?」
「うむ。これを説明するには、まず『ウツカイがどのような生き物であるか』をはっきりさせねばならん」
コッドさんが、持ち込まれたのであろう黒板を立てて、白い石の棒……
言いたいことはなんとなく分かった。『うつつとウツカイが仲間だ』って噂が流れてるなら、うつつとウツカイの違いを挙げていけば、疑惑は晴れるかもしれない。
そんな考え事をしている間にも、コッドさんは次々とウツカイの情報を書いていく。
「今までローリエ君やシュールさんから手に入れた情報では、ウツカイは絶望のクリエで身体が構成されている。更に目が悪いという特徴も発覚したそうじゃ」
「目が悪い…ですか?」
「うむ。特に黒色を認識できず、獲物を見失うこともあったという。シュナップ殿が発見したことじゃ」
私達の知らないうちに、そんなことまで調べて下さったんですね。
ロシン君やシュールさんのいる傭兵団って、ローリエさんと関係があるなとは思っていたけど、まさか、こういう情報収集も手伝ってくださるなんて、ありがたいな。
「儂が詳しく話したいのは前者じゃ。
ウツカイの身体を『絶望のクリエ』が構成する……これが何を意味しておるか、分かるかの?」
「ウツカイの身体を…クリエが、構成する……?」
「ウツカイはの、厳密に言えば儂らのような肉体を持った生き物ではなく、純粋な魔力をもって体を構成する……『魔法生命体』なのじゃ。」
「魔法…」
「生命体……」
「……ってなに?」
「うむ。魔法生命体とは、文字通り自然に満ちた魔力や人為的な実験等で生み出される生き物のこと。ヒカリタマやゴーレム、カブリエルなんかがそうじゃ。ウツカイの特徴は、魔法生命体のそれと酷似しているのじゃよ」
「なんでそんなものが生まれるのよぉ…?」
「それを説明するには、この世界に昔から語り継がれる神話を聞かせねばならん。少々時間がかかるが、良いかの?」
うつつの質問をきっかけに、コッドさんの口から『神話』という単語が出てきた。
神話、ですか…エトワリアにそういうもの、あったんですね。
私が小さい頃からおばあちゃんから聞かされていたのは、ずっと聖典のお話だったから、そもそものエトワリアの神話って聞いたことがない。だから、内容がちょっと気になる。
「…お願いしても良いですか?」
「よろしい。では、かいつまんで話すぞい」
コッドさんは、私のその答えに頷いてから、黒板に何かを描きだした。
◆◇◆◇◆
遠い昔、この地には何もなかったそうじゃ。
生き物は勿論、大地も空も海も、何も存在しない虚無の世界。
そこに絆の女神が現れて、今の
聖典はクリエを生み出し、命は人や魚や鳥や草になり、世界は美しく進化した。
それを心底羨ましがり、世界を欲したものがいた。混沌の神じゃ。
混沌の神は、真っ黒なクリエから配下を生み出し、禁呪を用いてエトワリアに侵攻した。
そこで女神は、自身の力を一人の人間に分け与えた。
力を手にした人間は、異世界からたのもしき戦士を次々と呼び出して、混沌の神を退けたそうな。
平和は取り戻したが、大戦のもたらした影響は大きかった。
エトワリアから追放された混沌の神の魔力が、生物を魔物に変え、魔法生命体を生み出し、ヤツの使った魔法はことごとく『禁忌』として封印されたそうな。
異世界の戦士を呼び出した召喚士は、絆の女神に感謝の意を示すため、聖典を綴りクリエを生む者に『女神』の名を与えたのだという。
◆◇◆◇◆
「―――こんなところかの」
「「「「……………」」」」」
…なんというか、壮大ですね。
神話に出てきた女神が、ソラ様のような女神の名前の元になっているんだ、とか、禁忌って神話の時代からあったんだ、とか新たな発見もあった反面、スケールが大きすぎて、よく分からなかった部分もあった。他のみんなも、表情から察するに大体そんな感じだと思う。
「さて。話を戻すが………あー、確かウツカイの特徴じゃったかの。
早い話がそやつらは傷ついても血が出る事は無く、撃破しても痕さえ残らん。つまり……」
神話の話から元の話題に戻したコッドさんはそこで言葉を切ると、机の中から一枚の羊皮紙と、工作用の小さなナイフを取り出しました。紙には、「私は魔法生命体ではありません」と、かろうじて読めるような達筆の文章が書かれている。
「うつつちゃんがこの紙に血判を押すことが出来れば、それは何よりも雄弁に『ウツカイとは違う』と語ることが出来る、というワケじゃ!」
「な…成程! それなら、うつつの無実を証明できるではないか!」
タイキックさんの言う通りです!
私達は今まで、リアリストの事を知ろうとするって事を、ナミコさんとキョージュさんから教えてもらって以降考えていましたけれど……ウツカイそのものを知ろうとは思わなかった。
けれど、たった今コッドさんが提案したことは、ウツカイの性質を知ろうとして、情報を集めなければ、出来なかった事。これなら、うつつの誤解を解けるかもしれない。
「け……血判!? ってことは私…血を流さないといけないのぉ!!?」
「やったこと無いかの?」
「い、命だけは許してぇ…」
「何で命乞いなんかしてるのさ……指先をちょっとだぞ?」
「そうそう。大丈夫よ、そこまで怯えるほど痛くないわ」
「無理ぃ……死んじゃう……」
「し、死にはしないと思うけどな…」
予想通りというかなんというか、うつつは血判を押すために指を切る必要があると知って、かなり嫌がっていた。
確かにちょっとアレ痛いよね。マッチやシュールさんに大丈夫と言われてもすぐに首を縦に振らなかったけど、最終的には「ずっと疑われたままなんてもっとイヤだしぃ……」と渋々ながら了承してくれた。
それで、結果だけど。
うつつは―――
―――血判を、押すことができた。
「うむ。これで、君が人間である証明ができたな。
この方法は元々、人間と遜色のない知性を持つ魔法生命体や人間に化ける魔物を炙り出す方法なのじゃが……それと同時に、人間だという揺るぎない証拠にもなり得るのじゃ」
「やりましたね、うつつさん!」
「良かった……!」
ランプがうつつに抱きついた。
自分のことのように喜ぶランプに、うつつは口では「やめてぇ」とか言いながらも、されるがままになっている。
かくいう私も、うつつが普通の人間であり、魔法生命体でないことが分かり、今までで一番の安堵のため息をついた。
魔法生命体がぜんぶ悪いってワケじゃないけど、もしうつつがこれで血判を押せなかったら、ウツカイと同じ体の構造をしていると判ったら…………
………きっと、噂を聞いた人達が、うつつへの疑いを決定的なものにするだろうから。
「こ、こんなのたまたまよぉ…
効果があるとも決まった訳じゃないし」
「大丈夫だよ、うつつ。
きっと、ちゃんと分かってくれる人がいる。
…少なくとも、目の前に何人もいるよ」
「相変わらず物好きだよね、みんな…」
「そうだよ。うつつの思っている以上に、物好きは多いんだから!」
「うぅ……陽キャパワーがきつすぎ…」
でも、そのことはうつつが一番よく分かってたのだろう。
うつつは、ネガティブに物事を考えがちだから。
私でも思いついた、『血判出来なかったらもっと疑われる』って事に思い当たらないはずがない。
それでもうつつは血判を押した。疑いが決定的になるかもしれないのに、なんだかんだ行動できた。
これまでに出会った、シャミ子さん達やナミコさん達、メディアや……私達の想いが、ちょっとでもうつつを変えることが出来たのかな?
独りぼっちで、ネガティブで、誰も信じないようなうつつから、今は少しでも変わっていったのだとしたら。
――それは、とっても嬉しいな。
◇◆◇◆◇
地味に痛かった血判を押すことで、おじいちゃんが「私はもう大丈夫」って言ってくれたけど、ホントなのかなぁ。噂を信じた人ってさ、そういう……証拠とかって、絶対信じなさそうなんですけどぉ………
「今日はこの拠点で休むと良い。部屋は有り余っているのでな」
「ありがとうございます、コッド様!」
ランプの、呆れるくらいに明るい返事で話が締めくくられ、部屋から出ていく雰囲気になる。
私も、きららも、その雰囲気に従う一方で、一人だけ違うことを言い出した人がいた。
「少しよろしいだろうか、コッド殿?」
「タイキック……?」
「おぉ、良いぞ。なんじゃ?」
特に珍しくもなさそうなその行動に、奇妙な引っかかりを覚えたのは何でだったか。
おちゃらけてて、何考えてるか分からなさそうなタイキックが、見たことも無いくらいにマジメな顔してたからだっけ。
「あの、タイキック…?」
「あぁ、うつつ。私はもうしばらくここに残る。コッド殿と話しておきたいことがあるしな。
今日は疲れたんじゃあないか? コッド殿のご厚意に甘えて、部屋に戻っておけ」
「でも………」
そこから先は言えなかった。
何か言わないといけない。けど、何を言えば良いか分からない。そもそも、「何か言わないといけない」って思ったのだって、理由がない。
シュールもおじいちゃんも、ローリエもカルダモンも悪いヤツじゃあないのは分かってる。危険はまずない……と思う。
―――じゃあ、どうして?
………分からない。分からな過ぎてモヤモヤする…!
何だっけ。なにか、忘れている、ような……
「何してるんですか、うつつさん! 行きますよ!」
「!! う、う、えぇぇと……」
「ランプが呼んでるぞ。それとも、私みたいにコッド殿あたりに質問か?」
「あぁぁぁぁぇぇぇっと………いや、質問はない、です…」
「なら戻っておけ。はぐれたら大変だ」
結局有耶無耶で、何も分からない、解決しないまま、おじいちゃんのいた部屋を出ていくことにした。
その後の事はよく覚えていない。疲れたのは事実だったから、部屋につくなり、ベッドにダイブしてそのまま寝落ちしちゃったんだろう。
……けれど、私はあの時。部屋に残っておくべきだったんだ。
タイキックをあそこに、一人で、残していくべきじゃなかった。
その事に気が付くのは…………まだ、だいぶ先の話。
キャラクター紹介&解説
きらら
友であるうつつの疑惑を晴らしていくさまを一番近くで見守っていた公式主人公。効果的な案は出せなかったが、うつつと寄り添い、彼女の成長を促した。
ローリエ&カルダモン
コッドときららの会見の場に立ち会った八賢者。約一名ほど、未成年にセクハラをかまして制裁されたが、真面目な時はしっかり真面目に決めた。かろうじて。
住良木うつつ
自分が疑われて、やはりダメだと落ち込みかけるも、きららとランプの励ましやコッドの証明方法の提案のお陰で立ち直った。血判を押すというのも、今までのうつつだったら「どうせ嫌な結果しか出ないだろうから」と逃げ出していた事を考えると、成長はしている。
シュール・ストレミング
きらら一行を案内した人妻傭兵。基本的に話に入ることはせず、流れを見守る立場に徹していたが、流石にローリエとコッドによる話題の脱線(未遂)の時は軌道修正と主犯の制裁のために動いた。
コッド
水路の街の神殿長88歳。某伝説の忍や大魔道士、亀仙人のようなセクハラをかますも、うつつの冤罪を晴らすための基本的な知識量や神話関係の情報など、年の功を最大限活かしたサポートをも行う。
エトワリア神話
拙作完全オリジナルなエトワリアに伝わる、聖典の影響が比較的少ない段階の神話。日本で例えると日本神話のイザナギとイザナミが天沼矛で日本列島作って、「出っ張った部分を凹んだ部分に埋めて人間作ってみよーぜ」ってなノリのアレである。
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きらら「どうにかうつつの噂に手は打てたのかな…」
シュール「どうかしらね。効果が出るにも時間かかるしね」
ランプ「そうだ! 私…ロシンの事聞きたいです! なんか……悪い事しちゃったみたいですし……」
うつつ「私は一人で静かにしていたいのに…あのおじいちゃんが構ってくるんですけどぉ…?」
きらら「コッドさんですよね? 良い事じゃあないですか!」
次回『邂逅Ⅲ・過去と和解と祖父の想い』
ランプ「次回もお楽しみに!」
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次のキャラクターのうち、最も好きなのは?
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アリサ
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コリアンダー
-
シュール・ストレミング
-
シュナップ・ストレミング
-
ロシン・カンテラス
-
タイキックさん