きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷 作:伝説の超三毛猫
基本的に全部うつつ視点で参ります。
“己を責めちゃいけないよ。儂は君の『祖父』で幸せじゃった。”
…大神官コッドのとある書記より抜粋
「さぁ、私達と共に来てもらうわよ住良木うつつ…」
「ひっ…」
私…住良木うつつは、このエトワリアに召喚されてから何度目かの大ピンチに陥っていた。
ロベリアと名乗った青髪の女が、ウツカイで私を囲んで連れ去ろうとしている。さっきおじいちゃんが凍らせたのに、まだいたのか。
正直、状況は絶望的だ。今度ばかりは、現在進行形で終わったと思っている。
おじいちゃんはさっきの射撃で死にかけだ。私はもちろん戦えるわけがない。
お、終わった。もう駄目だぁ……
ロベリアやウツカイ達の手が伸びてくる。あまりに怖いから、全身が強張って、おじいちゃんの肩を掴む手にも力がこもる。
でも、そんなの気休めにもならない。ほ、本当にここで終わっ―――
「うっ!? また、氷がっ……」
でも、ロベリアやウツカイ達の指先が凍った。奴らはたまらず指を引っ込めていく。
私は、この現象を起こした人に心当たりがあった。でも、その人は今、まともに魔法を使える状態じゃあ無いはずなのに…!?
「何を…勝った気に、なっている…?」
「だ…大神官コッド!?」
おじいちゃんが指を向けていた。
撃たれて血まみれになって痛いハズなのに、そんなのまったく気にしないと言わんばかりにロベリアに鋭い目を向けて、戦おうとしてるじゃんか!
「おじいちゃん…もう、やめてよぉ……!!」
「やめる訳にはいかぬよ……ここで、やめては…うつつちゃんが攫われてしまう…!」
何を言っているのか分からない。
いくら私を守ってくれるとはいえ、そんな、大怪我してもなお守ろうとするなんて。
「だ…駄目…」
「うつつちゃん?」
「ダメ、だよ、おじいちゃん……」
私なんかの為に、身を張る必要なんてないのに…
きららやランプと違って、おじいちゃんは会って間もないんだよ?
こんな、価値のないような人間のために、どうして戦うの? どうして、守ろうとするの? いくら長生きしてるからって、ここまで頑張らないでよぉ……!
だって。
だって、そんな事をしたら―――
「死んじゃうよ……!」
「ほほ…こんな老いぼれを心配するとは……優しいのぅ」
「どの口がっ…!」
そんな事を言ってる場合じゃない怪我してるのが分からないのか。
早く病院に行った方がいい怪我を放置するおじいちゃんに、声が荒ぶった。
でも、そう言っても、おじいちゃんは魔法をやめようとしない。
それどころか、両手に集まる魔力が高まって―――
「じゃが…まだ隠れていなさい、うつつちゃん」
「へ?―――っ!!?」
さ、寒い!?
今日の天気や季節なんて知った事かといわんばかりに、再び氷が部屋中を覆う。
いつのまにかロベリアが崩していたのだろう、廊下の壁があったところに、もう一度氷の壁が出来上がった。
「ほっほっほ…ごふ……先の狙撃は効いたわい。手は打たせてもらったぞ」
「ぐ……風通しの良くなった廊下に、また邪魔な壁がッ!」
「これでもう儂もうつつちゃんも狙えまい。それとも、この壁を貫く弾でも使わせてみるかね?」
「まさか……さっきの狙撃対策…!」
おじいちゃん、撃たれた間にもそんなことを考えていたの?
私の身体を助けにして立ったかと思ったら、しわだらけの手で私を後ろに下がらせようとするおじいちゃん。
その手には、まったく力がこもっていない。抵抗するのは簡単だった。それに今離れてしまったら、おじいちゃんがこれ以上怪我をするかもしれない。
だというのに、おじいちゃんの手に従うかのように、私は後ろへ数歩、下がっていってしまった。
でも、おじいちゃんが心配で、それ以上下がったり、隠れたりすることはなかった。
「虚勢を張るんじゃあないわよコッド……
今のあなたなんて、私ひとりでも斃せるわ…!
大人しく住良木うつつを渡すと言いなさい!!」
「命乞いにしては、言葉選びが致命的じゃな」
おじいちゃんが、何のためらいもなく、降伏を促してきたロベリアの顔に向かって氷の槍を放った。
相手が話しかけてきたタイミングを見計らった、目にも止まらない速さで撃ち込む不意打ち。け、結構エグい。初見だったら絶対に避けられないだろう。
でも、ロベリアはかろうじて顔を動かして……頬から耳にかけて切り傷を作るだけに留めた。
「ぐっ……ぁ、こ、このクソジジイ!!!」
ロベリアは、今の攻撃が完全に頭に来た様子で、扇を振るい、銀色のトゲや真っ黒な犬の群れを放っておじいちゃんに襲い掛かる。
狙われたおじいちゃんは氷の魔法でなんとかしのいでいる……ように見える。
でも、狙撃される前と違って、反撃の回数が明らかに減った。してもなんだか氷の槍の本数が減ってる。
やっぱりあの時の狙撃の傷が答えてるんだ……!
私、傷とか医療とか詳しくないけど…………おじいちゃんのあの怪我は、激しい動きをしていいレベルのものじゃあない事くらい、分かる…!
無理だよ、おじいちゃん。
それ以上戦っても勝てないよ。
死ぬのが怖くないって言ってたけど、限度があるって。
だから。
「やめて……」
だから……
「やめてよぉ……」
だから―――!!
「私なんかの為に、命張らないでよぉ………っ!!!」
「しゃんとせいッ!」
「ふぇえっ!!!!?」
お、おじい、ちゃん……………!?
「お主も儂等のものを託される若人じゃ! 下を向くな!」
それは、さっき撃たれたばっかりのおじいちゃんとは思えない怒声だった。
「ハッ! 何が託すよ、くだらない!
そんなものは、所詮選ばれた者だけが受け取れるだけのものにすぎない!
聖典なんて間違ったものが横行したから生まれた、醜い幻影なのよ!!」
ロベリアが割って入る。
あいつの言い分は、ちょっと過激というか、きらら達なら受け入れなさそうな言葉で。
でも、それに対して、おじいちゃんはこう答えた。
「それは違うぞ! 選ばれようが選ばれまいが、人は生きる!!
その一人ひとりの人生が、後に生きる者たちに力を与え、繋いでいくのじゃ!」
「その醜悪な思想がッ! 聖典が生み出した嘘だと言っているのよッ!!!」
おじいちゃんの氷の剣と、ロベリアの金属の扇がぶつかり、火花を散らせた。
「綺麗なものばかり並べ立てて、醜い本性なんてありませんとでも言いたげにッ!!
本当はそうじゃあないくせにッ! 嘘ばかり書き連ねて、うんざりよッ!」
ロベリアがどこからともなく作り出した金の矢が、おじいちゃんの肩を掠った。真っ白だった神官服の、赤い部分が広がっていく。
それでも、おじいちゃんは戦いをやめない。どうして立っていられるのか不思議な状態なのに、ロベリアの攻撃にもある程度は反撃しながら氷を撃っていく。
「絆なんて、人は簡単に裏切るのよ…!
人間は、どうあったってその“真実”には勝てないわ!」
「驕りが過ぎるぞ、テロリストよ! 人の、意志はっ…貴様の“真実”などには負けぬ!!!」
み、見えない……おじいちゃんの攻撃のキレというか、スピードというか、そういうのがさっきよりも増している、ような……
戦いに慣れないくそ雑魚ナメクジの目には具体的な違いなんて分からない。今のおじいちゃんが、ここまで善戦している理由も、だ。
私だったら、ロベリアの言葉がちょっと分かっちゃって、そのまま手が止まって、すぐに攫われて終わっていた。でも、おじいちゃんのこの勢いって……
「くそっ、この老いぼれが! 早く死になさい!」
「ハァァッ!」
「ぐっ…!?」
えっ!?
ま、また攻撃をモロに入れた!?
信じられない……あの狙撃からここまで持ち直すなんて…
―――そう思ったのもつかの間。
―――バリィィィィン!!!
「「「!?!?!?!?」」」
誰かが、廊下の壁代わりの氷を砕いて飛び込んできた。
こんな時に誰!? と思ったけど、その答えはすぐに分かった。
ポニーテールにまとめた銀色の髪。それにかかった黄緑のとんがったサングラス。
露出の多い、黒っぽい革系の服に宝石のアクセサリー。
その人は、私も見たことがあった。写本の街で、メディアがさらわれた後………ローリエが戦っていた人の片方。確か名前は――――――スズラン。
さ、さ、さささささささ最悪だーーーーーー!!!?
な、なんで…どうしてこんな。
こんな、とんでもないバッドタイミングで来るのよぉ~~~~ッ!?!?!?!?
「す、スズラン…なんでこんな所に?」
「召喚士とシュール・ストレミングが思ったより手ごわくてな。とっとと住良木うつつをかっ攫う方が良いと考えたのさ」
「あんたの不手際じゃない…呪うわよ……!」
「はいはい。そんで、これは……どういう状況だ?」
「……そこの死にぞこないがしつこかったのよ」
「はぁ〜? お前も不手際じゃあ……うお、マジか…なんで立ってられんだこのジジイ」
乱入してきたスズランは、おじいちゃんの大怪我を見て目を丸く見開いた。けどすぐに獲物を見る猛獣のような目つきになる。
「まぁーいいや。あと一発入れりゃあくたばるだろ、流石に。ロベリア」
「はいはい」
「ぬぅ…新手か……じゃが!」
ロベリアに一言かけてさっきウツカイにかけたみたいな強化を貰うスズランと、何かの魔法の発動をするおじいちゃん。
この後に何が起こるか、理解できた私は、つい咄嗟に声が出た。
「危ない!!」
おじいちゃんに生きて欲しい。
こんなところで死んじゃあいやだよ、と。
そう願った声は―――
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――か、は―――」
「おじいちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!」
―――届かなかった。
鎌みたいな斧を振り下ろすスズラン。
一段と激しい出血をしたおじいちゃん。
それを見てしまって。
滅多に出ない、私の喉さえ引き裂きそうな大声が、その瞬間に飛び出した。
◇◆◇◆◇
人より数段と長く生きた人生であった。
儂ほど、エトワリアの年寄りで長く生きた者はおらぬじゃろう。
エトワリアの民の平均寿命は、普通60前後。その時期になって、大体肺や内臓の病で旅立つ。しばしば70頃まで元気なものもおるが、それでも75歳になる前に『老衰』でこの世を去る。儂の友人はもう全員この世にいない。妻も、息子夫婦も、随分前に儂を置いて逝ったものじゃ。
90近くなっても迎えが来ない方が奇跡なのじゃ。
いつか、こんな日が来ると思っておった。だから儂は、70手前ごろから、いつ死んでも良いように備えてきた。
じゃが……もし、神がいらっしゃるのなら。
ソラ様よりも上の、もっとやんごとなき地位におわす方がいらっしゃるのなら、儂は今、もう少しだけ生きる時間を願ったじゃろう。
2分…いや、1分で良い。
今ここで力尽きれば、儂がうつつちゃんを……未来を生きる若者を守った意味がなくなってしまう。
うつつちゃんは、出会った時から人の顔色を窺う、臆病な子であった。
記憶がなく、自分が何者なのか分からないと言っておったが、ウツカイの仲間だと疑われた時は、真っ先に諦めてしまっていたの。
すぐに別の生き物と証明はしたが、それでもネガティブな様子は変わる事がなかった。儂と会話する時だって、そのような必要などないのにおっかなびっくり話していた。
じゃが、うつつちゃん。君は人を気遣える、素敵な子じゃ。
血判を押す時は、最初は嫌がっていたがなんだかんだ言って、血判を押すことが出来ていた。それは、「そうしなかったらきららちゃん達に迷惑がかかる」と思ったからではないかの?
建物裏でのやりとりでは、「死ぬのが怖い」とちゃんと言えたではないか。それに、自分の感情が顔に出やすいのも良い。己の恐怖を表に出せるのは…人の感情を理解できる者の第一歩じゃぞ。
つまり、何が言いたいのか、というと。
ロベリアの策によって深手を負い、スズランの一撃でトドメを刺された今この瞬間でもなお、儂は儂の言葉を……うつつちゃんに言った、「君を守る」という約束を、果たさねばならぬということじゃ。
若き芽を悪意から守り、未来を拓く人の意志の『手本』を見せる。それが、無駄に年を重ねた儂の責務であるがゆえに………!!!
「ふぅ…おいおいロベリア、お前こんなのにてこずっていたのか?」
「うるさいわね……本来なら狙撃だけで再起不能になってた筈なのよ…!」
「そ、ん……な…………」
ロベリアや、スズランや、うつつちゃんの声が、遠い。
ただでさえ年でガタついてきた体も、言う事を聞かぬ。
ぼやけてきてまともに小さな字も読めなくなってきていた視界も、一段と不鮮明になってきおったわ。
だが、このままでは終わらせぬ。撃破は出来ずとも、せめて一矢報いねば。
「人、殺し、ども…貴様らの…野望は、叶え、させぬ……!!」
幸い、奴らは後ろを向いておる。
この瀕死の老人など、脅威にすらならぬと判断して、うつつちゃんの誘拐にシフトしたのじゃろう。
なれば好都合。それが命取りと知るが良い。
これは、最期の攻撃。
魔力が欠片ほどしか残っていなくとも、老いぼれた命が今にも消えそうになったとしても、使える魔法。
己の全生命力を引き換えに、大規模な爆発を起こす魔法。
うつつちゃんは巻き込まぬ。
「あ? なんだこの障壁。うつつに触れねぇじゃあねぇーか。
あのジジイ、最期の最後にめんどいこと―――」
「!!! スズラン! 今すぐコッドの首をはねな―――」
喰らうがよい。おのが身勝手な目的のために、年端も行かぬ子供も手にかける外道ども。
儂の人一倍長かった生涯最後の魔法………その名も―――!
「エクスプロウド!!!」
視界が全て真っ白に染まり、轟音に耳を覆われる。
全て聞こえなくなる直前、うつつちゃんがまた儂をおじいちゃん、と呼んでくれた気がした。
◇◆◇◆◇
フロアに溢れかえるかのような数のウツカイを、持っている銃の一斉掃射で薙ぎ払っている最中に、それは起こった。
爆発の音と、建物全体が崩れるかのような大きな揺れ。
それを感じた俺は、嫌な予感がする、とすぐさまウツカイ共を振り切り、スピードを上げて全速力で上のフロアへと駆けあがっていく。
階段を上りきった時、俺は絶句した。
何故なら、その登り切った先にあったはずの廊下や、天井や、ホテルの部屋たちが綺麗に吹き飛んでいて、その前にうつつが泣きながら膝をついていたからだ。
何らかの戦闘による爆発が起こったのだろう、焼け焦げた跡は綺麗さっぱりとしていて、まるでうつつの前あたりから切り取られたかのように消滅していた。
「うつつ!」
「ロー……リエ?」
うつつは、俺の声に反応し、俺の姿を確認するやいなや、飛びついて抱きついてきた。
そしてそのまま、大声で泣きだし始める。それは、自身が助かった喜びよりも、なにか大事なものが、目の前で失われた悲しみに満ちていて………ッ!!
「………何が、あった?」
「ぐすっ……ひっぐ……おじい、ぢゃんが……おじいぢゃんがぁ……っ!
うわああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
おじいちゃん……うつつがそう呼んでいた、コッド先生が、という慟哭。
そして、目の前で切り取られたかのように消し飛んだホテルの一部。
さっきこの身で体感した、爆発の音、揺れ。
まさか。まさか……!!
俺がひとつの可能性に辿り着いた後も、うつつは俺の服を濡らしながら声をあげ続けた。
一番あって欲しくない、けど真っ先に思いついた答えに丸をつけるかのように、爆発で焦げた木材の臭いが、鼻にまとわりついていった。
キャラクター紹介&解説
コッド
最後の最期まで、うつつを守るべく戦った水路の街の神殿長。前回の狙撃のクリティカルヒットが足かせとなり、スズランに致命傷を負わせられてしまうものの、うつつとの約束だけはしっかり守り抜き、最年長の意地と年寄りのプライドを見せつけた。享年88。水路の街がきらら達によって取り戻された後、復興中の街中で盛大な葬儀が行われたという。
住良木うつつ
コッドに守られた、未だ若き芽。公式よりも辛い目に遭っており、この時点で絶望してもおかしくはない。だが、拙作の世界では公式にはいなかった味方も多く―――?
ロベリア&スズラン
大神官コッドを下した真実の手の妙手と魔手。しかし、老人のプライドと意地を計算に入れていなかったために、スズランが来るまで戦況は硬直していた他、最期の最後の攻撃への対処が出遅れて……?
ローリエ
全てが終わった後、誰よりも先に駆け付けた拙作主人公。出会うなり飛びついて号泣するうつつは、しばらく何も言えていなかったが、それでも眼前の惨状と合わせて何が起こったのかを悟る。
△▼△▼△▼
きらら「リアリストは、引き上げていったようです。基地の存在がバレたことによる奇襲で失ったものは、あまりにも大きかったです……」
カルダモン「コッドさんがね……特に、彼の最期を見ていたらしいうつつのショックが大きいみたいだ」
シュール「でも、今の戦況は無視できない。こちらの本拠地の位置がバレた以上、すぐに手を打って、神殿を取り戻さないといけないわ………」
次回『さらばCよ/祖父は風と共に』
ランプ「次回もお楽しみに!」
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次のキャラクターのうち、最も好きなのは?
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アリサ
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コリアンダー
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シュール・ストレミング
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シュナップ・ストレミング
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ロシン・カンテラス
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タイキックさん