きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷 作:伝説の超三毛猫
“他者への嫉妬を表に出すような人間は、暇人か極めつけの大バカ者だ。”
…木月桂一の独白
きらら達が見た光景。
それは、覚悟を決めた様子のロベリアと、妖しい笑みを浮かべながら「まだソラが正しいと思っているの?」と言い放ったカルダモンであった。
しかし、数刻前はカルダモンとロベリアは互いに対峙して戦っていたはずだ。
どうしてこのような事になったのか、を知るには少々時を遡る必要がある。
ロベリアとカルダモンの戦いは、硬直状態に陥っていた。
けして残り多くないウツカイに強化を何重にもかけながら戦うロベリア。
ウツカイ達が捕えきれないスピードで翻弄しながら、ひたすらロベリア本人を狙うカルダモン。
「(敵が多いな。それに、ロベリアが強化をしているのか。参ったね、手が足りないかも)」
「(コイツ…私の強化を受けたウツカイをこうも簡単に……しかも、私自身からの攻撃も警戒してる。忌まわしい、呪ってやりたいわ……!)」
だが、そのどちらもが決め手に欠けていた。
強化されたウツカイの処理に手いっぱいで、ロベリアを狙う余裕がなくなりつつあるカルダモン。
カルダモンのスピードに翻弄され、ウツカイの数と強化で得られるアドバンテージを活かしきれないロベリア。
せめて、どちらかの援軍が到着すれば戦況は大きく傾くのだが、お互いそれを待つ気はなかった。
カルダモンはこう考える。
このまま現状維持をしたら、確実にきらら達がやって来る。でも、目の前の女は策を練るタイプの敵。もしかしたら、もう既になにか手を打って来るかもしれない。その策が実行される前に、なんとかコイツを無力化できないだろうか。そっちの方が安全だ、と。
ロベリアはこう考える。
スイセンの救援要請で何が来るか分からない上に、このままモタモタしていたら、召喚士あたりがやってくる可能性が高い。スズランが足止めを担っているが、確実でない以上……カルダモンと長く戦い続けるのは愚策。早くコイツを突破して急がねば、と。
どちらも事を急いている中での激戦。
カルダモンは己の勘から、ロベリアは戦況を整理した上の推理から、長期戦は絶対に避けたい、という思惑が相手にバレてはいけないと察していた。
そこで始まるのは―――高度な頭脳戦!
「カルダモン……あなた、こうやって私と戦っている内に……いや。
それよりもずぅっと前から……分かっていたことがあるんじゃあなくって?」
「…何の話だい?」
「とぼけないで。あなたは知っているはずよ。
聖典の世界にも、醜く、辛く、苦しい事があることを……!」
ロベリアがふいに、ウツカイ達の攻撃の手を止めさせてそんなことを言ってきた。
怪訝に思うカルダモンだが、ここで攻撃をしたら、勝負を急いでいることがバレてしまう上、聞いてしまった以上答えないのも不自然なので、彼女の策に乗るように答えることにした。
「……ああ、そうだ。貴方たちの言うように聖典は決してきれいごとだけじゃあない。あたしたちの住むこの世界とおんなじように……」
「でも結局、聖典の世界はソラにしか見えない………
…綺麗ごとでなくても結局、
「それは……」
「あなたは、見てみたいと思わなかったの?
『
「………」
カルダモンの答えは、芳しくない。
だが、ロベリアには一種の確信があった。
―――かかった! と。
「さぁ、貴方はどうするの? このまま私を捕まえたとしても、何も変わらないわよ」
「……そうかもね。でも―――」
カルダモンは短剣を逆手に構え、再び飛び掛かる姿勢だ。
彼女の中では、もう答えは出たようだ。
「(おそらく…これは挑発。あたしの興味を惹く話題で惑わそうって魂胆かな。)」
ロベリアの言葉が自身を引き込み惑わすための甘言であることを見抜いて、ロベリアとの会話を打ち切ったカルダモン。
策を巡らせて相手を嵌めるタイプの敵を紛争地帯で何度も見てきたカルダモンからすると、この手の敵の会話に合わせると危険であることは知っていた。
これ以上話を聞く理由も義理もないと判断して、ロベリアとの戦闘を再開して、捕縛を行おうとする。
「それは、あなたを捕まえてから考えるとするよッ!」
目にも止まらぬスピードで、ロベリアに飛び掛かる。
ロベリアにとっては、彼女のスピードは反応できる速度ではない。
彼女にできるものは、せめて一本手を動かすことだけだ。
「くっ…」
「そこだ」
当たり前だが、たかが手一本でカルダモンの攻撃から逃げ切ることも身を守り切ることも、出来る筈がない。
カルダモンのナイフが、ロベリアの右肩に突き刺さった―――その時。
ロベリアが、苦痛に顔を歪めながら、こう言ったのである。
「この時を待っていた…!」
「えっ―――」
ロベリアが、左手に隠し持っていたどす黒い紫の結晶―――絶望のクリエを、無理矢理カルダモンの身体に押し付けたのだ!
「うぅぅ……ぐっ……一体…あたしに、何をっ!?」
「ちょっと強引だったけど……成功は成功よ。
さぁ…八賢者カルダモン!堕ちてきなさい! 私達のところまで!!」
ロベリアが、まるで藁人形を五寸釘で打ちつけるかのように呪いの言葉を送る。
カルダモンは必死に抵抗したものの……最初に投げかけられた問いに答え、そして一理あると思い込んだ………そこが、勝負の分かれ目となった。
「うっ……ぐっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
絶望のクリエに呑まれていく。
白が、黒に。光が、闇に。
塗りつぶされていく。
カルダモンは、全身が不快なものに蝕まれていく感覚に襲われた。
◆◆◆◆◆
―――そして、今に至る。
きらら達は勿論、ローリエもシュールも知らない事ではあったが、カルダモンはロベリアの手によって絶望のクリエに侵され、洗脳されしまっていたのだ。
「あたしは確かめてくるよ。ソラとリアリスト、どっちが正しいのかを。
その上で、ソラが間違っているというのなら………『調停者』として、ソラを断罪する」
「ソラ様を断罪する!?
ば、バカなことを言わないでください!」
その結果は、今のカルダモンの言動を聞けば明白だ。
女神と世界的テロリスト、どっちが正しいのかを確かめ、女神さえも排除するかもしれないかのような言い分は、完全に闇に落ち、神殿に弓を引く行為といってもいい。
「それじゃあね、みんな。
次に会った時は……敵かもね」
「待って!」
「い…行っちゃだめ! カルダモン!!
私、私まだあんたに、手紙のこと―――」
「…………っ」
きららやうつつが引き止めようとする。
だが、その呼びかけは、カルダモンの足をほんの少し止めることしか叶わない。
「……ばいばい」
「そんな―――っ!?」
やがてカルダモンは、リアリストに手を加えられているらしき転移装置に乗ると、そのままどこかへ転移する操作を始めてしまう。
それを止めようと動いたきららとランプに、銀の棘が襲いかかった。
「「きゃあっ!?」」
「もう無駄よ…カルダモンは私達の仲間になったの」
「カルダモンに…何をしたの……!?」
「ふふ……私達と同じように、この世界のことを知ってもらっただけよ。
幸せな『役』に選ばれなかった不幸を……孤独を……分かってもらっただけ…………
カルダモンは、最初からいろいろ『知っていた』。だから、背中を押すだけで良かったわ…!」
「知っていた……?」
うつつが食ってかかれば、意味深なことを答えるロベリア。
明らかに「知ってもらっただけ」では済まないカルダモンの変わりように、うつつは狼狽えた。
そこに、ロベリアが続けてうつつに囁いた。
「あなたなら分かるはずよ、住良木うつつ……!
世界はいつもだって陽キャのものだった……違う?」
「うっ…うぅぅぅぅ……」
蛇のように絡みつく、ロベリアの甘言。
うつつ個人としては、その意見には頷ける部分もある。根っからの陰キャとしては、世界そのものが息苦しく住みにくいと思った事が……いいや思った事しかなかった。
だが……それをそのまま、肯定する訳にはいかなかった。
「それは……そうかもだけど…」
「だけど?」
何故なら、ここでロベリアに肯くことは。
きららや、ランプや、ローリエやカルダモンを始めとした八賢者や…………何より、無価値な自分を「尊敬できる友達」と言ってくれたメディアや、命を賭けて自身を守ってくれたコッドを、裏切る事を意味するのだから。
そんな選択を、うつつが取れる訳がないのだ!
「だ、だからって、それが……人の心を弄んでいい理由に、なるわけない……!!
だって、そんなの嫌じゃん……人が嫌がること、しちゃダメってことくらい……人を殺しちゃダメなことくらい……陰キャで、弱虫毛虫の私にだって、分かるんだからぁっ……!!!」
「そう言うことだ」
震えながらも、そうして啖呵を切ったうつつは、一人ではない。頼もしい仲間がいる。その筆頭は、うつつの言葉を強く肯定しながら肩に手を置いた…タイキックだ。
「貴様も所詮、ヒナゲシやリコリスと同じか。
己が選ばれなかったからと……何の罪もない人々を苦しめる…!
そのような輩を……見過ごすワケにはいかない!!」
「そうです。カルダモンは……あんな顔でソラ様を疑う人じゃあなかった!」
「カルダモンの心を絶望のクリエで捻じ曲げたあなたを、私達は許さない!」
それに続いて、きららとランプも、ロベリアを真っすぐに、澄んだ目で強く睨みつけた。
この世界の正義を背負っているかのような、強い視線を目の当たりにし………それを心底気色悪いとでも言わんばかりの様子でロベリアは吐き捨てた。
「ふん、きれいごとばかり…!
心なんてね、簡単にねじ曲がるの……信じられるものなんて、何もありはしないわ!」
それと同時に、ウツカイが湧き上がる。
これが最後とでも言っているかのように、歯を見せて威嚇するウツカイの群れを従えながら、ロベリアは妖しく光を反射する銀の鉄扇を開いて、舞を踊るかのように魔力を練った。
「綺麗なモノばかり並び立てる、あなたたちに……特大の呪いをプレゼントしてあげる――――――『特守計』!!」
「「「「「ウツーーーー!!!!!」」」」」
ロベリアの足元を中心に、巨大な魔法陣が展開される。
全身が妖しい光で包まれたウツカイの咆哮が、戦いのゴングとなった。
◇◆◇◆◇
私の『コール』に応じてくださったのは二人。
港町で出会った涼風青葉さんと、この前の芸術の都で出会った、山口如月さんだ。
「あれ、お二人だけ…?」
「ほら、ローリエのために一人呼び出したままだったろ」
「あ、そうでしたっけ…」
そう。一気に4人も5人も『コール』をすることは……出来なくはないけど、負担が大きい。ここぞという時以外では、あまり使いたくない。
その代わり、だけど…
「キサラギさん! 守りの魔法を!」
「はい!」
呼び出した如月さんの魔法が、私達全員の体に降りかかる。
淡い光をまとうようになったそれが、私達の防御力があがったことを教えてくれた。
「これなら…!」
「青葉さん!」
「はい! おりゃあああーーーーっ!!」
青葉さんの魔法が、ウツカイ達の元へ飛んでいき、直撃して煙をあげていきます。
「やりました!流石は青葉様です!
あのコースはどう見ても直撃でしたよ!!」
「ら、ランプぅ…このタイミングで『やったか』は駄目だってぇ……」
「…気をつけろ、皆。あの女、まだ終わらない気がするぞ」
ランプは喜んでいるけど、タイキックさんの言うとおりです。油断はまだできない。
確かに、青葉さんの魔法はウツカイに当たったように見えた。けど、当たる直前のロベリアの表情に焦りはなかった。
それに……あの人は、コッドさんを追い詰めている。うつつから詳しく聞いている。まだ何か隠している可能性が高い。
警戒していくうちに煙が晴れて………
「「「ウツーーー!!」」」
「うわぁ!?」
「うっ!?」
「「「「!!!?」」」」
「ふふっ、馬鹿ねぇ……そんな魔法、効かないに決まっているでしょう!」
ウツカイが飛び掛かってきた!
効いてない……わけじゃないか。でも、まだまだ元気に襲い掛かってくる!
青葉さんに反撃するかのようにウツカイ達が攻撃してきて、更に私の手も掴まれた!
「ハァァァァ!!」
「ウツー!?」
「タイキックさん!?……すみません!」
「油断するな! おそらくこれが…ヤツの全体強化だ!
そうだろう、うつつ!?」
「えっ!? えっと……そう!そう…だよ……多分…」
タイキックさんに救われて、掴まれた手首を軽く振る。
これが…これが、コッドさんを追い詰めた魔法陣の強化……!
青葉さんを囲っているウツカイをタイキックさんと追い払って、態勢を立て直そうとする。
「キサラギさん! 全員の回復を―――」
「させないわよ……『攻伐計』!!」
「!!!」
ロベリアが扇を振るう。
すると、今度はウツカイ達のオーラの色が変わった。
いったい、今度は何が変わって……
「ウツーーー!!」
ウツカイがキサラギさんに向かってツメを振り下ろした。
キサラギさん本人はかわしたものの、ツメが直撃した床が、粉々に砕け散った!
「な、なんですか、今の攻撃力は………!!?」
「攻撃力の上昇もできるんだ…」
防御力アップだけじゃないんだ。
ウツカイ能力アップによって、有利な盤面を押し付ける。これが、ロベリアの戦い方なんだ。
なんて、厄介な陣なんだろう。こんな力のウツカイが何匹も襲いかかってきたら、私達でも耐えられなくなるかもしれない。
「一気に押し切りなさい! ウツカイ共!」
「「「「ウツーーー!!!」」」」
「させるか! うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ロベリアの号令で飛びかかるウツカイ達を、タイキックさんの蹴りの乱打が迎え撃つ。
でも、どう見ても手数が足りてない。必死に戦ってるけど、ウツカイにつけられた傷が増えてってる。
あのままじゃあ、タイキックさんが危ない!
「青葉さん! タイキックさんの援護を!」
「はい!」
青葉さんにそう指示してから、私自身にもスピード強化を付与して、タイキックさんの隣でウツカイを迎え撃つ手伝いに入った。
「ウツー!」
「ぐっ、また…!」
「やはり、コイツ等……攻撃力が増しているッ!?」
でも、やっぱりウツカイ達の攻撃が激しい。
今までのウツカイとは別の生き物なんじゃないかってくらいのパワーと、腕のキレ。
こんなものを強化なしでまともに食らったら、身体がちぎれちゃうかもしれない。
私がウツカイの攻撃をかわして凌いでいる隣で、タイキックさんはウツカイに反撃までしていた。
私と比べて回避はしてないから、傷も多いけど……でも、ウツカイの顔やお腹やおしりに見事にキックをくらわせていっているさまは、流石だ。
でも、相手はウツカイだけじゃあなかった。
「うふふ…隙だらけよ」
「!!?」
「『呪怨:
「きゃああああっ!!?」
足場が急に盛り上がり、姿勢が崩れて宙に放り出された。
そこで見えたのは、どこからか生えてきたのか、銀色のトゲと、今にも襲い掛かってきそうなウツカイ。そして……ウツカイ達に囲まれながら、私を見て笑うロベリア。
「いい気味ね…人の不幸は蜜の味…」
小さく呟いたその声が、聞こえる筈がないのにそう聞こえた気がして。
絶対に負けられない。その気持ちが強くなる。
―――こんな、人の不幸を悦ぶ人に、負けていられない!!!
「『コール』!!」
思いの限りを、自分の魔法に乗せて叫んだ。
同時に3人以上呼ぶと……なんて言ってられない! ドリアーテの時と同じ……負けるわけにはいかないんだ!
杖が光り、見慣れた魔法陣が現れる。それは、この土壇場で、クリエメイトの方が力を貸してくれた証。
そこから出てきたのは―――黒っぽい紫色の剣閃。
「「「ウツーーー!!?」」」
「何ですってぇぇーーーーーッ!!?」
その人は、たった一太刀で、ウツカイを斬り捨てて、銀色のトゲを細切れにした。
黒いマントに、シャープな日本刀のような剣を携えて。揺らめく桃色の髪をコウモリの羽根のような髪留めでまとめて、現れたのは。
「頼ってくれて嬉しいよ、きらら」
「ふおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?
や、闇堕ちフォームの桃様ですぅぅぅぅっ!!!!」
遺跡の街の時とは全然違うコスチュームに身を包んだ、桃さんだった。
「桃さん、その姿は…」
「そこはひっかからなくていいから。
ほら、残りの敵を片付けるよ」
「え、あ、はい!!」
桃さんが、もう一度日本刀を大きく振るう。
その衝撃波が、再び剣閃を巻き起こし、ウツカイ達を吹き飛ばした。これなら……!
「くっ…浮足立つんじゃあないわ、ウツカイ共!
私の周りに寄りなさい!」
「「「「「ウツウツ…」」」」」
「『堅守計』!」
「「「「「ウツー!!!」」」」」
くっ、またロベリアが防御の戦陣を築いた!
桃さんの剣が強化を受けたウツカイを当たる……けど、余裕で耐えきり、突破できない。
「ま、またウツカイが固くなってます!」
「ど、どうしようどうしよう…!
なにか、私に出来ることは……」
「こうなったら、ダメージ覚悟でも突っ込むしかないか……?」
「タイキックさん! それは流石に……!?」
ランプとうつつが困り果て、タイキックさんは無謀としか言いようのない案を実行しようとする。
いくら、如月さんの強化がかかっているからって、同じく強化されてるウツカイ全部を相手にするなんて無茶でしかないと思う。
「大丈夫。体力はまだ残っているから、すぐにやられることはない。
それに、私はタイキックだ。あの女にタイキックしなければ、やられようにもやられないさ」
「それは……!」
流石に、無理があると思います!
そう反論するよりも先に、タイキックさんがウツカイの群れに突っ込んでいってしまった。そして、思った通りロベリアに「袋叩きにしてやりなさい…!」と指示を受けたウツカイ達に囲まれる。
「桃さん! 青葉さん! タイキックさんを―――」
助けて、と言う前に気づいた。
何か、オーラのような魔力がタイキックさんの方へ向かっていることに。
それが、タイキックさんを包んでいくことを。
そして、タイキックさんを包んだ魔力を飛ばしたのが……………うつつだったことに。
「な……これは………!!?」
「力が……漲ってくる…!」
「えっ!? うつつさん、何かしたんですか!?」
タイキックさん本人は勿論、私もうつつが何をしたのか見当がつかない。
私達に問われたうつつは、恥ずかしそうに頬をかいて、こう言ったのだった。
「え、えーっと……私にも何か出来ないかなって、ダメ元で何かやろうって思ってたら……気がついたら、私にかかってた如月のバフが外せる事に気がついて……」
「それで、タイキックさんに?」
「うん………だって、私みたいなくそ雑魚ダンゴムシに強化なんかかけても、たかが知れてるじゃん……だったら、私の分もタイキックにかけた方が良くない?」
うつつの言い分は兎も角……強化を自分の意志で解除して、しかもそれを他の誰かにかける、なんて…聞いたことがない。
自信なさげにそう言ううつつなんだけど……ひょっとして、実はとても凄い力を持ってるんじゃないの?うつつって……
…とにかく。うつつの強化を受けたタイキックさんの動きは、顕著になった。
「助かったぞ…うつつ!
ウツカイの攻撃が、まるで蚊のひと刺しのようだ。
これなら……コイツらをぶっ飛ばせる!!」
「「「「ウツーーーーーー!?!?!?」」」」
それまで強化を受けたウツカイ相手に防戦一方だったけど、ダメージを殆ど受けなくなったことで、ウツカイ達を暴れながら蹴散らすようになる。
それに、青葉さんと桃さんの追撃を合わせれば、もうロベリアの強化程度じゃあ、止めることは出来ない!
◇◆◇◆◇
「あり得ない……強化の譲渡なんて、出来るわけないっ!」
ロベリアは焦っていた。
当然だ、自分の立てた策が、ことごとく裏目に出る形で失敗すれば、リアリストの“妙手”といえども、冷静を保つのは非常に難しい。
実は、ロベリアの戦陣には弱点がある。
それは……「強化する能力以外の能力値にデバフがかかることがある」という点だ。
例えば、「堅守計」「特守計」といった防御陣形は、『コール』された千代田桃や大神官コッドの攻撃さえも耐え抜く加護を与える代わりに、攻撃力がやや下がるのだ。
逆に「攻伐計」「進攻計」といった攻撃陣形にすると、陣の加護を受けて攻撃力が上がった者は皆、防御力が下がる。
ロベリア自身、この弱点を知ってはいたが、下手に弱点を埋めようとすると、魔力のコスパが悪い上に陣形のバフ効果も落ちてしまうため、弱点を埋めるのではなく攻撃陣形と防御陣形を使い分けるという戦い方をしていたのだが……。
ここまでかつてない程のピンチは初めてだ。
「攻伐計」で攻め入ったかと思ったら、きららの『コール』で呼び出された千代田桃に防御の脆さを突かれ。
「堅守計」でタイキックの攻撃をしのぎながら数の暴力で仕留めようとしたら、うつつの謎行動で、あっという間に打開されてしまった。
うつつの行動―――強化を譲り渡した様子にふざけんなと思ったが、そんなことを考えている場合ではない。
今もなおタイキックがウツカイを振り切りながら、ロベリアに近づこうとしている。
千代田桃と涼風青葉にも気を配らねばならない以上、これ以上誰も近づかせるワケにはいかなかった。
「くっ……『呪怨:胡蝶』・『
「でりゃあ!!」
「効きッ、ません…!」
「ふんッ!!」
「う、嘘っ!?」
だが、ロベリアの放った呪術では、きらら達を止めることは叶わなかった。
新たに見せた、蝶の群れを模した呪術は、タイキックの回し蹴りで散らされ。地面から飛び出す銀のトゲは、既に見切ったと言わんばかりにきららにパルクールの要領で躱され。影から飛び出した犬の呪いは、鎧袖一触に桃に両断される。
「(ま…まずい! これ以上近づかせるのは本当にまずいわ……!)」
だが、呪術が無効化される上にウツカイ達の救援も間に合わない。
ロベリアは、自身の窮地をこれ以上なく自覚しながらも、勝つために頭を回すのはやめなかった。
「(近づかせないのはもう不可能……! ならば、あえて近づかせ、一発、打たせる! そして、それを受け流した後「進攻計」で攻撃力を増したウツカイで攻めさせる………私の懐は、ウツカイ達の群れのど真ん中! 逃げ場なんてないわ………!)」
まさに完璧な計画。
焦っている中、敢えて受けの戦略を立てられるのもまた、ロベリアをただ一つの情熱が動かしていたからだ。
それは―――嫉妬。きらら達の、ではない。
「(かかってきなさい! 私は…あなた達を倒して、
味方であるはずのサンストーンに、だ。
ロベリアは、前々からサンストーンの座………ハイプリスの右腕ポジションを狙っていた。そして、そこに居座るサンストーンを目の仇にしてきた。
きらら達を倒すのも、全てはサンストーンを排除して、ハイプリス様の右腕となるため。だから、きらら達にはその手柄になって貰う、と。
「こうなったら―――『進攻計』!!!」
「こ、攻撃の陣!?」
うつつの動揺の声が聞こえる。そして、目の前にはまさに蹴りを繰り出そうとしているタイキックがいる。
こいつだ。こいつの蹴りを受け流したら―――!
そう企むロベリアは、気付かない。
自身が即興で編み出した計略に……………小さな穴が存在することを。
そして、千里の堤も、蟻の穴から崩れ去ることを。
「―――ブッ!?!?!?!?」
「―――ムエタイキック・カオパット」
タイキックの爪先は、ロベリアの胴体への防御をすり抜け……端正な顔に直撃していた。
鼻と口の中が切れ、わずかに血が飛び散る。
「私が、尻しか狙わないと思ったか?」
「ぁ――――――ぁあぁ―――!!?」
「…最初に攻撃の陣を使っておけば良かったものを………ウツカイ達の数と攻撃力の差で押し切れたかもしれないのに……」
そう。ロベリアの策の穴とは………「タイキックの最初の一撃を防げるか?」という点だ。
もし失敗すれば、「進攻計」で落ちた防御力で、タイキックの蹴りをマトモに食らうことになる。
ロベリアは、過去のリコリスとの戦いからデータを集めた結果、「タイキックは臀部に必殺技を放つ可能性が高い」という偏見に囚われた。
一方でタイキックは、ロベリアの胴体への防御を見て、咄嗟に攻撃先を顔面に変え、トドメを刺す為の布石にした。
それが………勝負を左右した。
「小手先の呪術など使わなければ……運の風向きは、私達に味方してくれてるぞォォォッ!!!!」
タイキックが足をロベリアの頬から振り抜くと、ロベリアの身体がくるくると回転する。
そして、その尻に直撃したのは………タイキックを含め、二人の女性の足。
「きらら!」
「タイキックさん……これで、終わりですよね」
「あぁ……これから言うことは分かるな?」
「…何となく」
「なら同時に宣言するぞ。――――せーのっ」
「「ロベリア、タイキック!!」」
『ロベリア、タイキックー!』
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
きららとタイキックの蹴りが、ロベリアの臀部に何度も何度もヒットする。
これでもかという程のキックが、百発ほど叩き込まれて、トドメに二人に蹴り飛ばされると。
「ピギャァーーーーーーッ!?」
潰されたカエルのような悲鳴をあげて、ロベリアは神殿の壁に叩きつけられた。
蹴りの残心をとるタイキックときらら。力なく崩れ落ちるロベリア。勝者は一目瞭然だった。
―――ちなみに。
「えぇ……」
「わ、私の知ってるタイキックじゃない……どっちかというと奇妙な冒険的な…」
「うん。詳しく知らないけど、絶対タイキックじゃないと思う」
◇◆◇◆◇
―――勝った。
勝ちました。
とりあえず、神殿を支配していたロベリアを倒した事ですし、これでひと安心……とは、いかないよね。
「ロベリアは倒した……けど、カルダモンが…」
「!!! そうでした…っ!」
「カルダモン……」
ロベリアに洗脳されてしまったカルダモンは、転移装置でどこかへ行ってしまった。
それを、どうにかして連れ戻さないと。幸い、洗脳した張本人なら倒した。
あと、他に洗脳されている筈の神官たちもいるから、その人たちも助けないと―――
ドグォォォォン!!!!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
誰かが、神殿の壁を派手に壊しながら転がり込んできた。
それは、まるで何かに押されて、とてつもない技を食らった後のようで。
転がり込んできた人物をよく見ると、それは意外な人物だった。
「す、スズラン!!?」
「え、えぇぇぇぇぇッ!? ってことは…敵ですか!?」
「な、なんだってそんな―――」
マッチが壊れた壁を見て、それに倣うようにそっちを見たところ、スズランが転がり込んできた理由がすぐに分かった。
土煙の中から出てきたのは―――紫っぽい黒いストレートな髪をなびかせた、鎧の美人。
私達はこの女性を知っている。この髪と、頬の傷を知っている!
「あら、きららちゃん」
「シュールさん!」
「ちょっと待っててね。今から―――この人に、ウチの部下の場所を吐いてもらうから」
そう言って、スズランに剣を向けるシュールさんは、いつもの優しい雰囲気なんてかけらもない、初めて見る覇気を纏っていた。
キャラクター紹介&解説
きらら&タイキックVS.ロベリア
今話のメイン。ロベリアは原作通り、必殺技に「~計」という全体強化&デバフをかけて戦っていたが、きららの『コール』をきっかけにバフの弱点を突かれて追い詰められる。それでも逆転の策を練っていたが、タイキックの機転で破られ、オラオラッシュを食らって敗北。公式ストーリーと違って、明らかに意識を持っていかれているが、某日長石が回収役に来た時はいざこざがなくて楽かもしれない。
山口如月&涼風青葉&千代田桃
今回、きららが『コール』したクリエメイト。如月は前章からのキャラ枠。青葉は本格的に登場していないかと思い、ロベリアとの属性相性を考え登場させた。桃は、今までとは違う闇堕ちフォーム。本人と違い魂の写し身であるので、不機嫌ではないし、放っておけば消えてしまうなんてこともない。なお、彼女達の世界にも「タイキック」はあるが、決してラッシュするものではないらしい。連続タイキックはあるみたいだけど。
カルダモン
公式の流れ通り(オイ)、ロベリアに洗脳されてしまった八賢者。うつつの一言が影響を与えているかもしれない。なお、公式とは違い、拙作では洗脳されるまでの過程が若干どころではないくらいに変わっていたりする。
ロベリアの話術
原作を見直して思ったのは、カルダモンの立場や性格を知った上でカルダモンの興味を惹くような言い方をしていたという点。ローリエはレスバトル最強ではあるが美女に弱いので、もし彼女がローリエを引き込むなら、リアリストであることを伏せて色仕掛けをしてくるかもしれない。ただ、ローリエのレスバの強さは木月の経験が大きく、エトワリアにその証拠が存在しないので、普通にレスバを仕掛けてボロ負けしていたかもしれない。だが、拙作ではいずれもボツに。
ムエタイキック・カオパット
タイキックの必殺技。タイキックと言う名にしては珍しく(?)臀部ではなく顔を狙う。だが、タイキックは結局のところ臀部へのキックに繋がるので、この技は「敵のガードを崩し、本格的なタイキックをさせるための技」という考え方がメインである(謎)。
△▼△▼△▼
ランプ「ついに激突するシュールさんとスズラン。そこに、思わぬ人物が乱入する!」
きらら「更に、襲い来るサンストーン……あぁっ、どうして…また、涙が…!!」
うつつ「どうなっちゃうのよぉ!? シュールも、ローリエも、無事でいてよぉっ!」
ランプ「そんな苦しい状況を打開するため、シュールさんが使うのは……えっ、奥義ッ!!?」
次回『神剣シュナップス』
シュール「次回も楽しみにね?」
▲▽▲▽▲▽
次のキャラクターのうち、最も好きなのは?
-
アリサ
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コリアンダー
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タイキックさん