きららファンタジア 断たれた絆と蘇る理想郷 作:伝説の超三毛猫
“彼女は、いい年をして尚『地獄の沙汰も金次第』を盲信している。当たり前の事にも気付けず人を害する人間になった彼女の、なんと幼稚なことか。本当に金がすべての世ならば、奴隷制や帝国主義が過去の遺物になってなどいない”
…木月桂一によるスズランの人物評
シュール・ストレミングにとって傭兵とは、物心ついた時から身近に存在しているものだった。小さい時から、母親と共に戦場を駆けてきたからだ。
シュールの母親は、屈強な男達を纏める女傑であったが、女らしさを教えたのもまた、この女性だった。
『いつか、貴女が本当に手に入れたいもの・守りたいものが出来たときのために、ね』
そう言ってくれた母親だったが、シュールは母親の背中に憧れ、自分の将来をほぼ決めてしまっていた。当然反対はされたが、紆余曲折ののちの最終的には認めてくれ、シュールは女傭兵として生きる道を選んだ。
戦場に立ち続け、戦の辛さも悲しさも、そうでない平和に生きる人々の生活も知り、なお弱き者の剣となろうとしたシュール。
そんなシュール・ストレミングだが、彼女にも予想外の出来事は多々あった。
例えば、戦場で出会った気弱な男に求婚されたこと。結婚など自分には縁のない話だとばかり思っていたので、驚いたものだ。
しかも、その男は本気で自分を愛してくれたものだから、更に驚きだった。気がつけば、彼女も彼を愛するようになっていた。
また、自身が出産という経験を経て母親になっていた事実もまた、シュールにとっては驚愕すべき大ニュースであった。
ゆえに―――
「ぐおおおおおおぉぉぉっ!?」
「さぁ、立ちなさいスズラン。這ってでもウチの団員の元に案内してもらうわよ」
「くそ…ただの傭兵のくせにッ……!」
「あなたもただの傭兵でしょう?」
目の前の、守銭奴じみた傭兵には負けるわけにはいかなかったのである。
……そもそも、シュール・ストレミングとスズランの実力差は、そこまで明白ではない。あっても誤差の範疇でしかないのだ。
ならば、スズランを最奥部の壁ごと吹き飛ばし、圧倒するシュールの力の源とは何なのだろうか。
答えは明白だ。金だけで動いているスズランと違い、シュール・ストレミングには覚悟があった。
「私の家族を守る」―――その信念が、彼女を動かしていた。
「っ、うあああああああああああああああああああ!!!」
「!!」
だが、スズランも負けているわけではない。
魔力を惜しみなく開放して、植物の蔦を呼び出して攻撃した。床を食い破って飛び出した丸太のような蔦が、シュールだけでなく、きらら達にも襲い掛かる。
シュールはそれを飛んだり身を屈めたりして躱し、あるいは自慢の剣殺法で両断したりして迎え撃つ。
きらら達に飛んでいった蔦は、『コール』されていた青葉や桃が食い止めた。
それでもなお、蔦に囲まれた戦場で激しく武器をぶつけ合うシュールとスズランを見て、きららは呟く。
「助け、なくっちゃ…シュールさんを……!」
「き、きららさん! 大丈夫なんですか!?」
「ロベリアとの戦いの疲労が出ているんだろう。まだ動かない方が良い!」
「無理しないで。きつそうなら、私を帰しちゃっていいから」
だが、ランプやタイキック、そして呼び出した張本人の桃に止められた。
無理もない。先ほどまで、きららはタイキックやクリエメイトと共にロベリアと戦っていたのだ。肉体的な大ダメージこそ負っていないが、『コール』で強力なクリエメイトを数多く呼んだ反動で気力はすり減っており、更にカルダモンの件も重くのしかかっている。万全とは言い難い状態だった。
それでも何とかシュールに助太刀しようとするきららに……白刃が迫ってきた。
「なっ…!?」
「ふっ!」
「ちっ……浅かったか」
「あ……うああぁぁぁ…!」
「き、きらら!!? また…!!」
サンストーンだ。
タイキックに奇襲を阻まれ苛立つ彼女を見て、再びきららは理由の分からない涙がこみ上げてくる。
それを仲間たちは止めようとする中、マッチだけはサンストーン襲来時の異変に気が付いた。
「…ロベリアがいない!?」
「彼女は既に我らのアジトへ送った。マトモに戦える状態じゃあないし、ハイプリス様にとってあいつはまだ必要だ」
「さっきのうちに回収されたのか…」
どうやら、シュールとスズランの激戦に目を奪われている隙に、介入してきたサンストーンにロベリアを回収されてしまったようだ。あまりに偶然が積み重なったような結果だが、これでロベリアを捕縛することなど不可能になってしまった。
そして、サンストーンは容赦なく剣を抜き襲い掛かる。対象は―――未だ泣き止まないきららだ。
「これで終わりだ―――姉さん」
「!!!」
サンストーンの呟きを聞いて目を見開く。
どういうことなのと問いただしたかったが、今にも自身を切り刻もうとしている人間相手にソレは叶わない。
周りの人間もサンストーンの言葉の衝撃や不意を突かれた行動に動けない。
このままでは、きららに刃が食い込む―――その時だった。
「負けて…られない!」
「なに…!?」
「私……あなたのことはよく知らないけど…絶対に負けちゃいけない気がする……!」
それを防いだのは、他の誰でもないきららだった。
悲しそうな顔で涙は流れたままだが、それでも、彼女の意志でサンストーンの斬撃を防いでいた。
いや、それだけならまだ納得できた。
「きららさんが……光ってる!?」
「……忌々しい…!」
きららが発していた謎の光に、サンストーンは吐き捨てるかのようにその一言だけ呟いてから、飛びのいて距離を取る。
追いかけようとしたタイキックが、スズランの魔力の蔦に阻まれた。
そこでもう一度、全員の注目が、苛烈な戦いを繰り広げているシュールとスズランに向かっていた。
「そ、そうでした……シュールさん!」
「この蔦を、何とか斬れれば……!!」
「何だアレは…あそこまで激しい戦い…見たことがない!」
「ひぇぇぇぇ……死んじゃう…絶対巻き込まれて死ぬぅぅぅ……!!!」
「………今、スズランを回収しに行くのは危険か……」
シュールを心配するランプ。蔦を切って彼女を助けに行こうとするきらら。戦いの規模の大きさに戦慄するタイキックとうつつ。激戦の中でスズランを連れて逃げるタイミングを伺うサンストーン。
本来ならば敵同士の筈の彼女達は、二人の戦いの雰囲気に流されて、しばし戦況を見守ることとなった。
◇◇◇◇◇
剣と鎌がぶつかる。
その度に火花が散り、衝撃波を生み、スズランとシュールにかすり傷を作っていく。
「ストレミング剣殺法・
「デモンシュートッ!!」
赤い薔薇が散り、スズランの全身に切り傷をつけていく。
それと同時に、鎌から放たれた魔力の弾が、シュールに直撃する。
……が、スズランの魔力球はシュールを少し後ずさりさせるだけに終わり、勢い余った魔力球は、シュールの手によって弾かれ、明後日の方向の天井を破壊するだけだ。
「はっ!」
一振り!
それだけで、スズランの周囲に魔力の蔓が広がり、鋭い棘をまとってシュールを切り刻もうと襲いかかる。
だがシュールが剣を振るうと、蔓がすべて細切れになり、力なく床に落ちる。
それだけに非ず、シュールの振るった剣撃の衝撃波が、意思を持つかのように空中で曲がり、スズランに向かって飛んでいく。
着弾! もうもうと土煙が上がり、スズランのいた場所に常軌を逸した斬撃痕を残す。
だがそこにもう彼女はいない。マントを翻して、シュールの背後に現れる。
「くっ、さっきはちと遅れをとったが……オレだって負けられねぇんだよぉ! 仕事の後の、お宝ちゃんの為にもなぁ!!」
シュールの周囲に浮遊する木の鞠。
そこから鋭利な木の根が飛び出して、串刺しにしようとする。
それが全方位から。逃げ場のない攻撃ではあるが、シュールは焦らない。
「ストレミング剣殺法・
手元がブレたかと思えば、周囲に現れたのは結界。
木の根がそれに触れた途端、細切れになって空中に散っていく。
目にも止まらぬ速さで剣を振るい、高密度の斬撃の結界を作り出したシュールは、鋭い目を向ける。
「…ホントに寂しい人」
「あぁん!?」
そう語る合間にも、互いは互いへの攻め手を緩めない。
シュールの一振りで魔力は無数の手裏剣・
「お金はお金のためにあるんじゃあないのよ。
お金より大切なものを、守るためにあるの」
「金より大切なモンなんてあるかよ!」
再び切り結ぶ接近戦。
シュールがスズランを、スズランがシュールを斬り刻んでいく。
鮮血が散り、空気に溶けていく。
それでもなお、勢いは止まらない。
衝突、衝突、さらにまた衝突!
神殿の最奥部で繰り広げられる衝突に、互いは一歩も退かない。
正面から激突し、魔力と斬撃の波動を巻き散らして、神殿の壁や床を徐々に破壊していく。
「言ってみろよ! 綺麗事ばっか抜かしてる暇があったら、その『金より大事なモン』とやらをよォ!
まぁ…あれば、の話だがなぁぁぁぁ!!!」
スズランの咆哮に呼応するかのように、魔力が姿を変える。
それはエトワリアの世界でも、力の象徴として恐れられてきた生物。その名は―――ドラゴン。
魔力で生み出されたそれに対して、シュール・ストレミングもまた新たな剣技を放つべく上段の構えをとり、それに伴って彼女の背後のオーラに魔物を幻視する。
頑健な石が無数に積み上がり、人の姿をなした巨体。エトワリアにおいて、『ハンマゴーレム』と呼ばれるそれよりも巨大な魔導生物。
「ストレミング剣殺法―――
巨大な石人形さえ豆腐のようにやすやす両断してしまうかのような剛剣が、天から地に振り下ろされる。それはまるで大地の怒りだ。
スズランの生み出した魔力の竜を真っ二つにして、勢いそのままにスズランさえも両断しようとする。
着地したシュールを中心に神殿の床にクレーターを作って凹ませ、大きく足場が崩れた。
紙一重で躱したものの、スズランの左肩から血飛沫が噴く。
「…言っても分からないと思うわよ。今のあなたには」
「ぐっ………あ、この野郎!!!」
「つっ……!?」
ただではやられないと言わんばかりに、スズランは鎌を斬り上げる。
魔力を纏った鎌はシュールのまぶたを裂き、額を裂き、噴き出た血がシュールの視界を奪う。
すぐに距離をとって血を拭うが、スズランにとってその一瞬は攻撃には十分過ぎる。
「
木の蔓が足を縛り、もはや木の幹といってもいい太さの蔦がシュールの胴体に向けて放たれる。
回避は不可能。太さと硬度、スピードからして、これで貫かれたらただでは済まないだろう。
蔦……いいや幹がシュールのいた場所を通過する。みたび神殿の壁から瓦礫を量産し、見通しが良くなる。
「「「シュールさんっ!!」」」
シュールは無事ではあった。
剣で幹を切り裂き、直撃を免れていたのだ。
……ただし、右脇腹を切られて、服に血が滲んでいたが。
「大丈夫」
明らかな嘘である。
顔には脂汗が浮かび、顔色も良くない。
無理をしている証拠であった。
だが、それでも笑顔を浮かべてきらら達に笑いかけたのだ。
「私は、私の責務を全うする。
この命を賭けてでも、依頼を…この街を守る!」
「ハァ…ハァ…くっだらねぇ!!!
この世は金だ! それ以外の何かがどうなろうが、知った事かッ!」
それに、負傷しているのはスズランも同じ事である。
体中の擦り傷・切り傷は言うまでもないが、一番の深手は左肩から胸にかけた傷である。今もなお出血が止まらない状態であった。
失い続ける血の量からして、次で決着をつけなければと考える。
スズランとシュールが、同時に技の構えを取った。
奥の手を出すつもりなのだろう。二人の魔力と闘気が一気に放出し、この場の空気を支配する。
それに圧され、きらら達はもちろん、サンストーンもまた一歩も動けなかった。
スズランは魔力を集中させる。足元に魔法陣が現れ、スズランの周囲を透き通る硝子のようなバリアが展開される。とうに吹き飛んでいた天井から見える雨雲達の隙間からおぞましく巨大な目玉が現れ、その瞳から放たれた妖しい光が、スズランの鎌に宿った。
シュールは剣を下段に構え、膝を曲げる。彼女の剣を中心に、渦が生成される。それはまるで、大嵐の日に大船さえも翻弄する大海のようだ。神殿にいるはずなのに、この場にいる全員が、大海原のド真ん中にいるかのような錯覚を受ける。
降り注ぐ雨の中、両者が駆け出した。
「ストレミング剣殺法、奥義―――」
「大魔法・召喚術―――」
そして、目の前の敵に向かって、刃を振るった。
「神剣シュナップス!!!」
「
二人の奥義が、激突する。
神殿の最奥部に衝撃波が迸り、蔦も、壁も、床も、雨雲さえも吹き飛ばした。
◇◆◇◆◇
「いけー、プロト・ガーディアンウツカイ!」
「どわーーーー!!?」
きららちゃん達は、ちゃんと奥まで辿り着けただろうか。
他の皆は、無事だろうか? 誰も欠けたりとかはしてないだろうな?
そんな事をふと考えながら、俺は2人…1人と1体の敵の攻撃をさばいていた。
きららちゃんが『コール』で呼び出してくれたやすなは、情けなく締まらない悲鳴をあげながらも、しっかりとナイトの役目を果たしてくれている。
「はっ!」
「そいや!」
俺と、もう一人―――スイセンの銃弾が交差する。
お互いの回転式拳銃が火を吹いて、飛び交う弾丸が戦場に弾痕を増やしていく。
やすながプロト・ガーディアンウツカイを止めているので、俺はコイツに集中できる。
「フン…」
「ぬわっ!? ちょ、のぉぉぉぉっ!?」
俺とスイセンの銃撃戦だが、鳴り響く銃声は俺のやつの方が圧倒的に多い。
その理由は明白だ。持っている銃のスペック差だ。
俺は
写本の街でへし折った撃鉄の修理は終わったようだが、学習はしていないようだな。まぁ、俺がその機会を与えなかった……パイソンやイーグルのリロードシーンを見せなかったというのもあるが。
「うわぁぁっ! や、やっぱり、リロードが早すぎるんよ……!
いったいどうなってるん…!?」
「知りたければじっくり考えると良い。牢屋の中でな」
パイソンが弾切れを起こせば、シリンダーをスイングアウトして、空薬莢を排出する。まだ弾に余裕のあるイーグルで牽制しつつ、スピードローダーでパイソンに弾を込める。
イーグルが弾切れを起こせば、マガジンの交換を即座に行う。こっちはリボルバーよりも隙が無い。ボタン一つで空のマガジンが落ち、新たなマガジンを入れるだけで終わる。機能美というロマンを持ったリロードだ。
相手は水の魔力を使った銃撃をしてくるみたいだけど、そんなの関係ない。奴が躱せない銃弾を撃ってくるなら、こっちは撃たせる隙すら与えないまでだ!
「あぁもう! こんなん勝てっこないんよ!」
「なら、どうする? 大人しく捕まるか?」
「冗談!」
「遠慮すんな、もうお友達が先客で待ってるぜ?」
「それこそ冗談なんよ!
「!!?」
もういない……だって? どういう意味だ?
俺の言った先客とは、ヒナゲシのことだ。きららちゃん達が追い詰めて、俺が倒して、俺が用意した万丈構文で契約を取り付けたアイツだ。
それが、今頃もういない、だと?
死んではいない、ハズだ。警備は決してザルではないし、食事の管理はしっかりしてたから、暗殺しに行ったり毒を盛ったりするような真似は出来ない。
となると………!
「助けに行ったヤツがいるのか…!?」
「お、教えてやらないんよ! それじゃあね!
こういう時は逃げるが勝ち、なんよ!」
「…ッ! させるか!!」
即座に弾丸を撃ち込むが、それよりも僅かに、スイセンの転移が始まったのが早かった。
あっという間に魔法陣が足元にできて光に包まれ…姿が消えた。
逃げられたか……悔しいが、仕方ない。
これでプロト・ガーディアンウツカイとやらも止まってくれると嬉しいが……
「ウツー!!!」
「わぁぁぁぁっ!? ちょ、今のはナシでしょ!!?」
「ウツウツー!!」
「ぎゃーーっ! ぼ、暴力反対ーッ!!?」
……流石にそこまで都合よくはいかないか。
不本意だがスイセンもいなくなったことだし、2対1でこのウツカイをぶちのめすとしよう。
「―――『レント』」
写本の街で仕上げた、俺だけの技を使う。
再現の対象は、やすながよく知る人物。
色々弱点はあるものの、戦闘においては無類の強さを誇るクリエメイト……その一人!
「とーう」
「ウツーーーー!?!?」
飛び蹴りをぶちかまして、ガーディアンウツカイの体勢を崩す。
「やすな! デコイの役目お疲れさん!」
「デコイて! 私の事なんだと思ってるの!?」
「馬鹿」
「ヒドイ!?!?!?!?」
これでも褒めたんだぞ。
彼女の底抜けた馬鹿さ…もとい、単純さと殺し屋に殺されかけた程度では死なないタフさは、他にはない立派な「個性」だ。
それがあってこそ、プロト・ガーディアンウツカイとかいう、量産機より強そうなウツカイの足止めに成功していたんじゃあないか。
「いけるか?」
「えぇぇッ!? もう死にそうなのに~!?」
「まだ余裕そうだな」
「ねぇ聞いてた!? 私の言葉、聞いてた!!?」
こちとらきららちゃん達を待たせてるかもしれないんだ。
残っているのが制御不能な新型ウツカイしかいない以上、さっさとコイツをぶちのめして先に進まないといけないだろう。
「はぁっ!」
再現した力……ソーニャの暗殺者のテクニックを使い、懐に潜り込んで、しかるのちにサイレンサー弐号で斬り刻む。
プロト・ガーディアンウツカイは苦悶の声を上げてぶっ倒れて転がる。
だが恐ろしいことに、それでも暴れまくり、建物を壊していく。
「ね、ねぇローリエさん、今の動き、ソーニャちゃんの……」
「俺に合わせてくれ、やすな」
「え? あ、お、おう!!」
早いところコイツを倒さなければいけない。
二人でウツカイを挟むように動き、武器を構える。
その時、暴れるプロト・ガーディアンウツカイの拳が、俺の方に飛んできたのだ。
「ローリエさん!!」
たまたま暴れるガーディアンウツカイが放ってきたもの。
狙ったものではないが、当たれば常人ならひとたまりもない一撃。
避けるか反撃するかするべきなのが、普通の反応だが、俺は思い出していたのだ。これまでのことを。
俺の身体に溶け込むように吸収される絶望のクリエ。
ウツカイに殴られても全く痛まない俺の身体。
それを元に立てた推測に従う。
違ったらどうしよう、と思わなくもないが、最初から無茶はしない。
飛んできた拳に対して、俺は―――
「―――ふんっ!!」
両手をクロスさせ、防御の姿勢!
拳が当たった直後に、後ろへ跳ぶのも忘れない!
「やっぱりだ……
ダメージはおろか、衝撃さえもこの身に襲ってこなかった。
ウツカイの拳は確かに俺に当たった。だが俺自身には、まるでそよ風のように軽々しいものしか当たった感覚がない。
見るからにパワーに自信のありそうなウツカイの、手加減抜きの拳など、普通の人間にヒットすれば致命傷は免れない筈だ。
それなのに、俺には痛くも痒くもない………!
原理は未だ謎だが、これで確信できたことがある!
―――このローリエに、ウツカイの攻撃は効かねぇ!!!
「大丈夫だやすな! とっておきを!!」
「うん!!!」
やすなが光り輝き、とっておきが発動した。
まぁ名(迷?)犬ちくわぶなんだけどね。どこからともなく犬が現れ、リードが絡まったと思ったら大岩に自身ごと敵が轢かれていった。
一番面白いのは、やすながこれを大真面目にやっているという事だ。
腹がよじれるかと思ったが、彼女に続くとしよう。
「いでよアイリス!
全砲門展開! ―――フルファイア!!!」
呼び出したショットガン・アイリスの分身機能と浮遊機能、そして両手の拳銃も含めた全弾発射。
それが、倒れたガーディアンウツカイの腹にすべて命中した。
◇◆◇◆◇
神殿八賢者、ローリエ・ベルベット(20)。
水路の街の神殿の奪還戦に参加していた彼は、この後見た光景のことを、多くの人々にこう語っている。
「プロト・ガーディアンウツカイとの戦いはその後呆気なく終わったよ。俺とやすなのとっておきでトドメを刺したんだ。問題はその後だった。
最奥部に突入して、部屋に入る直前で目の前の扉が周囲の壁ごと吹っ飛んだんだ」
『ぎょあああああーーーーー!!?』
『ぐっ……何なんだ!!?』
ローリエが突入直前に感じた爆風。
それは、シュール・ストレミングとスズランの奥義が衝突したことによって生まれた暴風圧だったのだ。
ローリエは、咄嗟にナイトであるやすなの影に隠れて飛んでくる瓦礫をやり過ごした。
「衝撃波が治まった後に見えてきたのは、まず跡形もなく粉々になった神殿最奥部だ。
壁は全部消え、天井は吹っ飛んで雨が吹き込んで、更に床は石畳じゃなくて粗目の砂利だったんじゃないかというくらいに丹念に砕かれていた。
そして次に目についたのが、きららちゃん一行とサンストーンと呼ばれていた女。最後に暴風の中心部分に立っていた二人を見たが……俺は肝が冷えた。何故なら…シュールさんの脇腹………急所に、スズランの武器が刺さっていたからだ」
ローリエが見たもの。
それは、シュールとスズランの奥義のぶつかり合いの結果だった。
シュールの剣はわずかにスズランから脇に逸れ、スズランのほぼ真後ろから、長く深く分厚い地割れを作っていた。
スズランの鎌はシュールの脇腹の鎧を斬り裂き、半分ほどまで深々と食い込んで激しい出血を引き起こしていた。
『そんな…』
『シュールさんッ!!!』
『フッ……』
ローリエ以外の面々も、シュールとスズランの激突の果てが確認できたようで、ランプは絹を裂いたような悲鳴をあげ、うつつやマッチは呆然として声が漏れる。きららも目に飛び込んできた光景を受け入れられていないようだ。唯一スズランの側についていたサンストーンは、勝利を確信した。
だが、驚くべきはここからだとローリエは言う。
「致命傷とも言えるレベルの怪我を負ったシュールさんは………直後、もう一度剣を振るったんだ。
それは、俺も一度だけ見たことのある、シュールさんの奥義…『神剣シュナップス』だった。
狙い目は―――スズランの首だった」
自身に武器が深々と刺さっている状況、敵との距離が密着に等しい位置………それを利用してシュールは、なんともう一度奥義を放ったのだ。
突然首を狙われたスズランは、焦って片手を武器から離し、シュールの剣を防ぐために腕に魔力を纏って防御を試みたという。
「首から上……頭は全身の司令塔だ。
目や耳は戦闘においてあらゆる情報収集の役を担っているから、潰されたら凄まじいアドバンテージになるし、脳をぶっ壊されたり首を切られたらほぼ確実にゲームセットだ。
傭兵であるスズランが、『頭は最優先で守るべき部位だ』ってコトを知らない筈はない。至近距離から首を狙われたスズランが、咄嗟の防御をするのも頷けるだろうな」
首討ちを片手で防ごうとした結果、シュールの剣を防ぐ事自体は成功したが、スズランの首と二の腕に刃が食い込んだ。更に鎌を片手で――しかも大怪我をした左肩の手だ――持った結果、両手で持つより力が入らなくなってしまったのだ。
「結果、スズランはシュールさんの身体から武器を抜いて撤退することも、鎌を押し切ってシュールさんを斬ることも出来なくなったんだ。
……そこにいたのは、勝利と依頼の達成に命を賭ける、歴戦の傭兵の姿だったよ」
『はぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!』
二人の咆哮が神殿中……いいや水路の街中に響く。
家族を守り、コッドの依頼を…街を守り抜くために戦うシュール。
聖典など信じず、ただ生き残って金を得るために戦うスズラン。
意識の差は歴然なれど、実力の面ではどちらも一歩も譲らなかった。
「今思えば、だが……スズランの首を狙った、二発目の『神剣シュナップス』は、全然力が入ってなかったと思うんだ。
本来のアレは、敵を消し飛ばし、地形まで変える威力を誇る。魔力でコーティングした腕一本で防げる威力じゃあない。
それほどまでに……スズランの鎌の一撃が、シュールさんの身体に堪えていたんだ。むしろ、急所を思いきり突き刺されて、痛みで呼吸もままならないだろうに、よくそんな根性が出たもんだよ」
シュールの剣が1ミリ、また1ミリとスズランの腕と首に食い込んでいく。
互いの武器が肉体に食い込み、押し合いにもつれこんで膠着する戦場。
だがそこで、外野から動きがあった。
「シュールさんとスズランの吠える声が響いてから、数十秒が経った頃、だろうか。
サンストーンが動いたんだ。こちらを一切気にすることなく、シュールさんとスズランの元へと飛んでいった」
『! サンストーンがっ!?』
『まさか、シュールにトドメを刺す気かッ!!』
『そんなこと…させるわけには―――くぁっ!?』
『きらら!?』
「阻止しようとしたきららちゃんが膝をついた。
きっと、神殿の最奥部で戦ったのと俺に『コール』で力を貸し続けてただけあって、魔力の限界が来たんだ。
あの場で、間に合ったのは俺の銃弾だけ。だからこの時俺は躊躇わず銃を撃ち、弾丸を
ローリエの行動は合理的な行動としては最適解だった。
シュールとスズランの硬直状態。どちらかの仲間が見れば、敵を倒すチャンス以外の何者でもない。本人達は目の前の相手に集中して、第三者どころではないし、互いに武器が突き刺さっている以上容易に動けない。このタイミングで攻撃をすれば、ほぼ確実に当たるだろう。
それを見越しての攻撃。敵を倒すチャンスを逆手にとって、そこに即席の罠を張る。チャンスに目が眩んだ者は、簡単な罠にも引っかかるものだ。
だが。サンストーンの行動は、ローリエの予想から大きく外れたのだ。
「奴は……サンストーンはシュールさんに攻撃しようとしなかった。
あいつがあの時やったことは、二人の間に割り込むように体当たりをかまし、スズランをシュールさんから引き離したことだった。
だから、俺の弾丸は、サンストーンにもスズランにも当たる事はなかった」
『…逃げるぞスズラン。それ以上の傷は、お前の命に関わる』
『……たす、かる…サン、ストーン』
スズランをシュールから離すことに成功したサンストーンは、即座に緊急転移を敢行。二人には他の洗脳した神官や傭兵達を、連れていく余裕すらない。
その場から1秒でも早く逃げ出すかのように転移で消えていくさまは、まるで敗者のようであったとは、ローリエの言だ。
「スズランとサンストーンが去って、その前にロベリアも倒したらしいから、これで水路の街の侵略者は全員追い払えたから、神殿を取り戻すことには成功した。俺達が勝ったと言えるかもな」
そう言ってから、ローリエはこの水路の街の戦いの総評をこう締めくくる。
「この功績は、コッド先生とシュールさんのものだと思っている。
コッド先生がいなかったら、神殿への水攻めは上手くいかなかったか関係ない人々を巻き込んでいたかもしれないし、シュールさんがいたから、スズランとサンストーンを二人同時に追い払えたんだ。結果的にな。
ふたりとも、すごい人だった。水路の街で語り継ぎたいと思うくらいには、尊敬すべき事をしたと思う。………立派な人たちだったよ」
ローリエは天を仰ぎながら、コッドとシュールの活躍を絶賛したのであった。
キャラクター紹介&解説
シュール・ストレミングVS.スズラン
今回のメイン。どちらも退くに退かない激戦を繰り広げ、奥義の激突までに至ったが、シュールはスズランの奥義で大怪我を負う。しかしシュールの根性と信念から放たれた二発目の奥義によって、スズランも決して浅くない傷を受ける。だが、サンストーンの介入によって明確な勝敗はついぞつかなかった。
きらら&ランプ&マッチ&住良木うつつ&タイキック
前回ロベリアをぶちのめした面々。そのせいか今回はほぼ置物と化してしまった。だが何もしていないわけでもなく、きららとタイキックは隙を見てシュールに助太刀しようとしたものの、隙がなかったことときららが『コール』を維持し続けたことで限界が来てしまった事でそれが叶わなかっただけである。
サンストーン
ロベリアとスズランの回収係。シュールとスズランの超激戦が激しすぎて彼女も置物に近い立ち位置となったが、スズランを必死の体当たりで回収に成功する。ただその際に洗脳した神官を連れていく余裕は勿論なかったので、やむを得ず置いて逃げていった。
ローリエ&折部やすなVS.スイセン&プロト・ガーディアンウツカイ
ローリエについての新事実が判明したもうひとつの戦い。スイセンがローリエの銃の分析が出来なかったことでスペック差で不利を察して早い段階で逃げたことで、数の利が生まれる。そのままローリエにウツカイの攻撃が効かないことを利用してやすなとの2連とっておきでプロト・ガーディアンウツカイを仕留める。
ストレミング剣殺法
シュール・ストレミングやロシンが使っていた、傭兵のための剣術。実は歴史が長く、700年ほど前に生まれたという裏設定があった。これが活かされることは99.5%ないだろうが。
ストレミング剣殺法の一つ。上下左右のすべての範囲に斬撃を放つ。鍛えたものが放つと薔薇の花びらが散るさまを錯覚するという。名前の元ネタはワインの一種「ロゼワイン」。
ストレミング剣殺法の一つ。目にも止まらない連続突き。水たまりに立て続けに雨が降る時のような波紋が空中に生まれる。名前の元ネタはジャガイモ原料の蒸留酒「アクアビット」。
ストレミング剣殺法の一つ。居合の抜刀に頼らない超高速の一振り。相対するものには、その剣が赤く光り輝くように見えるという。名前の元ネタは蒸留酒アクアビットのブランド「リニア」。
ストレミング剣殺法の一つ。掌から魔力の手裏剣を放つ。牽制から鍔迫り合い時の不意打ちまで用途は多岐にわたる。名前の元ネタは蒸留酒アクアビットのブランド「オールボー」。
ストレミング剣殺法の一つ。攻撃よりも防御に重きを置いた技。自身の周囲に結界を張り、入ってきたものを高密度の斬撃で切り落とす。名前の元ネタは北欧の蒸留酒ブランド「ノルトハウゼン」。
ストレミング剣殺法の一つ。上段の構えから縦一文字に斬り下ろす。力任せだけでなく斬るべき“線”を見極めないとできない、地味に難易度が高い力技。名前の元ネタは北欧の蒸留酒ブランド「シュタインヘーガー」。
神剣シュナップス
ストレミング剣殺法最大の奥義。大海原の渦潮のように敵を引き込む、津波のごとく強烈な一太刀を浴びせる。名前の元ネタは北欧中心に生産される蒸留酒「シュナップス」。
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ローリエ「水路の街での戦いは終わった。でも、その傷は大きい。コッド先生のこともそうだし、カルダモンが攫われたなんて話も出た。神殿もシュールさんとスズランの戦いの余波で半壊したからな……」
ソラ「お疲れ様、ローリエ。今はゆっくり休んでね?」
アルシーヴ「ソラ様の言う通りだ。二人が私を気遣ってくれたように、私もお前を気遣っているんだからな。絶対に無理はするなよ…?」
次回『君に夜が降る』
アルシーヴ「次回もお楽しみに。」
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今までの話で最も輝いていた人とは?
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シュール・ストレミング
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コッド
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シュナップ・ストレミング
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ロシン・カンテラス
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アリサ・ジャグランテ
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ローリエ・ベルベット
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ナット
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タイキックさん