あなたを想う花   作:喉越しがいいお蕎麦

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頑張る一夏くん。その頑張りは色んな人に影響を与えます。
因みにセシリア戦は次の次くらいを予定しております。進みが遅くてすまない……ユルシテ……


専用機

 入学して2日。

 昨日よりはまだ授業は分かるが、それでもやはり周りと比べて圧倒的に知識が足りない。

 そもそも男性がISについて学ぶ機会を与えられるのは大学からで、つい1ヶ月前まで中学生だった一夏には分かるはずがない。流体力学やら量子力学とか、名前も聞いたことがないような学問の一般式が当然のように書かれている教科書は、まるで独り言を言っているようだった。

『いや、一般式書くのはいいけど導出過程とかは?』と思うのは当然だ。

 勿論、ISの教科書や参考書の全てがここまで難しいわけではない。女性のIS教育は小学校から始まるため、もっと分かりやすく初歩的なものも存在する。

 

 だが、ここに来る生徒は初歩的なことなどとっくの昔に学び終えているため必要ない。そもそも、必要な生徒は入学前の試験で落とされている。

 簡単に言ってしまうとこの状況は、『算数も触ったことないのに高校の数1Aの教科書で勉強している』ということ。

 昨日寝る前に注文した小学生から中学生までのISの教科書が届くまでこの地獄は続く。懐をかなり痛めてしまったが、背に腹は替えられない。このままじゃ留年する可能性がある。

 

「いや、本当に難しいな……」

 

 ペラペラとページを捲り、大事そうな箇所にアンダーラインを引く。授業自体はかなり分かりやすいと思うのだが、それは前提となる知識があってこそ。今は分かりやすい授業も分かりにくい授業も等しく呪文と変わらない。呪文を呪文のまま未来の自分に任せながら処理している中、ふと目に留まった項目があった。

 

 専用機。

 簡単に言えば、自分専用のIS。世界に467機しかない貴重なISの内の一機を、自分専用にカスタマイズして良いということ。ここに来る人たちの何人かは持っているのだろうか。だが、きっと自分には関係がないことだと。そう思った矢先に。

 

「織斑、お前には専用機が用意される」

 

 我が姉がそんなことを言った。

 

「先に国からの首輪を付けておくそうだ。今の織斑はIS学園が保護しているとはいえ、IS学園から出たら一般人と変わらん。そこで帰属先を国としておくことで、他の国や企業から手を出されるのを防ぐことが目的だ」

 

 なるほど、そして裏の目的が実験体、と。

 元から逃げるつもりはなかったが、こうやって明確に退路を防がれると改めて実感する。今の自分に選択肢なんてないってことが。

 

「受領は一週間後、クラス代表決定戦には間に合うはずだ」

「……はい、わかりました」

 

 その返事に、千冬は違和感を覚えた。まるで何かを諦めたかのような、受け入れたような声音だった。喜びも困惑も薄い。普段の一夏なら、もっと驚いても不思議ではなかったのに。何かあったのだろうかと心配になってしまった。

 

「安心しましたわ。これでお互い専用機同士。ISに掛けた時間と実力だけがモノを言う真剣勝負。無様な敗北は許されませんよ?」

「ああ、本当だよ。頑張らなきゃいけない理由が1つ増えた」

「ふふ、良い眼ですわ。腑抜けを叩き潰しても楽しくありませんもの。本番までその眼を保ってくださいまし」

 

 金髪をふわりと靡かせながら、オルコットさんは自分の席に戻った。

 

 あぁ、そうか。今授業中だった。

 

 

 

 

 

 自室に入るや否や倒れこみそうになる体を支えてベッドに向かう。足が重い。体が重い。心が重い。いろんなものが重くて、投げ出したくなる。

 

 だが、そんなことはできない。また一つ、奪ってしまった。467の内の1を何の努力もしていない、ただ特別であるという自分が。自分がいなかったら、他の努力をしている誰かに与えられたかもしれないのに。それを自分は奪った。きっと、許されることではない。

 

 それにISは一週間後に届くと千冬姉は言っていた。ISなんて複雑なものがそんな短期間……俺が史上初だと判明してから数えて2か月で完成するとは思えない。そんな短期間で完成するとなると、必然的に無理をすることになる。例えば、人員の増加。例えば、他の業務の停止。その業務の中には、他のISを組み上げることがあったはずだ。

 

「本当に、迷惑かけてばっかだなぁ……」

 

 みんなが俺に期待する。

 みんなが俺を着飾る。

 みんなが俺に押し付ける。

 みんなが俺に背負わせる。

 

 ここに来て自分で手に入れたものなんて何もない。全部誰かから与えられたもの。

 

 だから、オルコットさんとの戦いが初めての選択だった。俺はあの時、服従ではなく決闘を選んだ。周囲の状況とか初対面の人に対する言葉遣いとか加味すると褒められた行為ではないけど、それでも『アレ』が初めて俺がIS学園で選択したことだった。

 

 そして、初めて自分で手に入れるものでもある。勝利でも敗北でも、それは変わらない。だが、どうせなら白星が欲しい。

 

 そんな思いだけで、この戦いに俺は挑む。IS乗りとしてのプライドとかはあまりないけど、色んな人が手を貸してくれて俺はここに立てているから。だから負けない、負けたくない。

 

 それを燃料に体を引きずってPCの前へ向かう。調べるのは勿論対戦相手の彼女のこと。

 どうやら彼女はかなり有名らしく、さまざまな映像や記事が日本語英語問わず記載されていた。

 

「イギリス第3世代機、ブルーティアーズ。遠隔無線通信型射撃武装『ブルーティアーズ』を搭載した次世代兵器。機体名と武装を一緒なのはちょっとややこしいな……」

 

 そんなことをぼやきながら画面をスクロールする。

 

「メインウェポンは長距離狙撃ライフル『スターライトMk.Ⅲ』、オールレンジ武装のビット兵器はレーザー型が4機と、ミサイル型が2機。そして近接用武装がショートブレードの『インターセプター』か……。流石に詳細なスペックは乗ってないな」

 

 そもそも試作型の実験機だ。逆に乗っていたら企業の機密保持関係を心配してしまう。

 

「主にライフルとビットで戦ってるから、近接戦はそこまで得意じゃないのか……? いや、違うか。そもそも誰も近距離の間合いに誰も入れていないから近接戦闘は未知数」

 

 発見できた動画は全てオルコットさんが一方的にペースを握ってゲームセット。近距離での戦いは一切見せていないため、その実力は不明。恐らく遠距離戦より得意ということはないだろうが、近距離でも普通に戦える可能性が高い。

 

「俺の専用機の得意間合いとスペックにもよるけど、勝ち筋は至近距離の一撃必殺しかないよなぁ。この装備のオルコットさんに長期戦はキツそうだし、何より2回目は通用しない予感がする。絶対対応される。

 でも、この弾幕と狙撃を掻い潜って接近するのはかなり難しい」

 

 被弾上等で一直線に突っ込むか、回避を挟みながら突っ込むか。

 

「実際にISを動かせたら感覚がわかるんだけどなぁ……どうしたものか」

 

 ISを知り尽くしていて、近距離での戦いに長けている……そんな都合のいい人物が。

 

「……いる」

 

 剣一本で世界を制した怪物が、ちょうどこの学園にはいるではないか。それに俺は直接連絡が取れる。急に道が開けた気がした。

 

 

< 千冬姉

今日

      
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20:06

ISの近距離戦について教えてほしいんだ

      
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20:07

俺のせいで忙しい時に申し訳ないけど、

      
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20:07

どうしてもオルコットさんに勝ちたいんだ

この時期じゃなかったら教えてやれたんだが 20:21
      

すまないな、力になってやれなくて 20:21
      

      

20:22

大丈夫。なんとか頑張ってみるよ

Aa          

 

 

 知ってた。こんな時に俺1人に構っていられるほど暇じゃないもんな。

 

「どうしたものか……」

 

 見えた一筋の光がものの20分弱で途絶えて、再び勝ち目は闇の中。千冬姉がダメだったから、同じように山田先生も恐らくダメ。この時点でこちらが切れる有力なカード2枚がなくなってしまった。

 そもそも事前に実機演習はできない。だからどうなったってぶっつけ本番で専用機を動かすことになる。

 

 この際、ISに関しては捨てよう。他のところで勝ち目を探す。ISの決闘でISを捨てる、というのもおかしな話かもしれないけど、それが最善だと判断した。

 

 ISの動かし方に『これが正解』というものは存在しない。自分の特徴や癖、組み立ててきた戦闘理論によって動きが決定する。それは自分だけの動かし方で、教科書に載っている動かし方ではない。

 

「だからといってコレを疎かにすると負けそうだし……」

 

 動画やこれまでの態度等を鑑みると、オルコットさんはかなりマニュアル的。勝ち方が全て一緒だった。流石に勝ちパターンが一種類というわけではないだろうが、気をつけなければならない箇所が1つ分かるだけでも大きな収穫だ。

 

「無理やりテキストに落とし込んでる感じがして、動かすまで未知数な箇所が多すぎるな……これどっちかというと整備用がメインで、搭乗者に関してはあんまり考えられていないのか」

 

 頭が痛くなる文を噛み砕きながら理解する。やるべきことがだんだんと見えてきた。

 

「動かすときの根本的な理論の把握、基礎体力、筋力、オルコットさんの勝ちパターンに嵌まらないこと、嵌っても抜け出すこと、接近する手法の模索、一撃で決める方法も決めなきゃいけないし」

 

「あと戦いで役立ちそうなのは……剣道くらいか? でも俺のISが近接戦主体とは限らないし……よし、明日千冬姉に俺の専用機周りのこと聞いてみるか」

 

 疲れが急に体に現れてきてベッドに倒れ込む。すでに日付は変わっていた。明日のことを考えるともう寝たほうがいいのだが、なかなか寝付けない。

 

 穴が開くほど見た動画。オルコットさんの完勝で終わったあの戦い。四方をビットで囲まれ、スナイパーライフルが自分の脳天を狙っているあの状況。あれを、俺ならどう突破する? 

 

 考えても考えても詰み。今の俺の実力では、あの布陣を突破できない。妄想の中でくらい勝ちたかったけど、あそこまで美しい勝ちを見せつけられてしまうとそんな気も起きなかった。

 

 間違いなく実力はIS学園の一年生の中で指3本に入る強豪。勝ちパターンが複数ある遠距離射撃戦型。オールレンジ武装のため死角もない。

 

 勝てるか? 俺に。

 

「勝てるか、じゃない。勝つんだ」

 

 

 

 

 

 

 アラームが鳴り、目が覚める。時刻は午前4時半。睡眠時間が足りなくて欠伸が出るが、トレーニングをするためもう一度寝ることはできない。

 

 寝巻きからトレーニングウェア……まあ、中学校のジャージだが……に着替えて、洗面台に行く。顔を洗って寝癖のチェック。

 

「……よし」

 

 冷水でスッキリしたところで、昨日のうちにシューズボックスの上に準備しておいたスポーツドリンクとタオルを持つ。

 

「忘れ物は……なさそうかな」

 

 ランニングシューズを履いて共同廊下に出る。流石に5時前となると人はいない。呼び止められたりしないため好都合だと思った。

 部屋の鍵を閉めてグランドに向かおうとしたところで、共同廊下の先の、剣道着に身を包み竹刀を持った箒と目が合う。格好からして箒は部活の朝練だろうか。

 箒は俺の方に歩いてくる。その動きに眠気なんか一切感じない。

 

「おはよう、箒」

「あぁ、おはよう一夏。ずいぶん早いな」

「箒だって早いだろ。部活の朝練か?」

「いや、自主鍛錬だ。一夏もか?」

「おう。1週間後に向けてな。とは言ってもやれることなんてあんまりないから、基礎体力くらいは付けておこうと思って」

 

 すたすたと歩きながら取り止めのない会話をする。俺の目的地はグランドで、箒の目的地は剣道場。

 

「殊勝な心がけだ。その意気だぞ、一夏。心で負けていては勝てるものも勝てなくなる」

「懐かしいな、柳韻さんにもそう言われたよ……箒は剣道の鍛錬ってこの時間にやってるのか?」

「あぁ。この時間と、あとは終業だな。もしかして剣道をやりたいのか?」

「やりたくないって言えば嘘になるけど、ちょっと千冬姉に聞いてからかな」

「? お前が剣道をやるのに千冬さんの許可がいるのか?」

 

 言い方……いや、ちょっと言葉足らずだったなと反省する。あの言い方では箒の捉え方の方が自然だろう。

 

「ちょっと言い方が変だったな。俺の専用機がどんなタイプによるかで決まるかな。多分千冬姉なら詳細はわからなくてもどんなタイプかは知ってると思うし、それ次第。近距離戦メインだった場合、剣道は絶対役に立つからやっておきたい」

「そうか、では参加するとしたら今日の夜からか」

「おう。朝は基礎体力で、夜は剣道って感じかな。千冬姉に聞いたら連絡する。じゃあ、またホームルームで」

「あぁ、頑張れよ、一夏」

 

 

 

 

 背を向けて歩き出す一夏を箒は見送る。

 

「6年経てば変わるものだな。一夏も人の事は言えないくらい変わった」

 

 その変化はとても喜ばしい。6年前より、ずっとかっこよく見える。あんなに真剣な一夏は初めて見た。一夏がやろうとしている事は至極単純な格上殺し。IS学園の中でも屈指の実力を持つセシリア・オルコットを倒すのは困難極まる。

 

 だが、それをやると一夏は言った。そして、それを達成するための手段として自分を頼ってくれた。

 なら、最大限の援助をしなければならないだろう。幼馴染として、友達として。

 

「少し気が早いが、対セシリア・オルコット用のカリキュラムでも考えるか」

 

 一夏の勝利を作る1手の構築に、箒は着手した。

 

 

 

 




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