ろくでなし東方   作:ほろ酔いちゃん

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物語のテンポは加速していきます。
そして、あの蓬莱人が。


無理が通れば

私、完全復活。

満身創痍は平穏無事に戻り、折れた腕も砕けた足もピンピン動く。

インパルス走る。永久記憶不滅。

もっとも傷が深かった右足と鼻の包帯を取り、ようやく元の体へと元通りだ。

ヒーロー見参!

体が元気になった反動か、心が浮ついていつもより心の中の呟きが増える。

血が染み込んで鉄臭かった包帯ともおさらばだ。

ここは、かの風見幽香が住んでいる家。

あの、暴力が服着て歩く様な大妖怪にはてんで似合わぬ、窓際なんかに小粋な花が飾ってある様な可愛げのある内装。

何も知らない人が見たらきっと可憐な少女を思い浮かべる事だろう。

どう言う訳か私はここに住み着いていた。

およそ二週間程、ここで寝食を共にしたと言うのだ。

どうしてこうなったんだろうか。

幽香が私の事を殺すと宣言したので、負けじと私も最期に名前を名乗ってやった。

すると何が面白かったのか悪魔は腹を抱えて笑い悶え、苦しそうに涙を零しながらこう言った。

 

「ふふふ……早く食器を洗ってきなさい」

 

言われた私はキョトンとしつつも流し台へと向かっていった。

そこからここまでのらりくらりと生き延びている。

どうやら私は生きて良いそうだ。

しばらくは、一度油断させて安堵した所を殺されるのではと気が気でなかったのだが、二週間も経てば少しは余裕も出てくる。

それはストックホルム症候群の末期症状だとやっかむ輩も居るだろう。

しかし、幽香は毎日私に夕食を作れ、朝食を食えと言ってくるのだ。

それはそれは立派な関白宣言である。

ごく自然な流れで夜は私、朝は幽香が作るということになっていた。

どういう風の吹き回しか、幽香は毎日私に一汁三菜揃った贅沢な朝食を用意してくれている。

目が覚めると美味しいご飯が用意されている訳だから心の警備員も仕事を辞めた。

幽香は洋食派なのか、主食はパンがほとんどだった。

ともかくその味は絶品で、生粋の和食派である私もついついその時間が密かに楽しみになりつつあった。

どうやら、小麦から作った自家製のパンらしい。

女子力の高い奴。

というより、女死力の高い奴か。

 

反対に夕食は私が作る事になってしまった。

まさか二週間かけて、妖夢に習った十四の秘伝レシピを全て披露する事になるとは。

それも、作り方を知っているだけであって、幽香のそれと比べればずいぶん粗末な味だ。

例えば炊き込みご飯は具が偏ったりおこげがつかなかったり。

優香と私、同じ材料とは思えないほど味が違った。

しかし幽香はそれを何も言わずに食べてくれる訳で、ついつい懐柔されそうになってしまう。

わかりやすく言えば、惚れてまうやろ〜って奴だ。

よく、家庭内暴力の被害を受けている人が「それでも愛しているから」とか、「嫌いになれないから」という台詞を吐くが、あれも似たような気持ちだろうか。

殺されそうになったのに私は幽香に対して奇妙な感情を感じていた。

それは親愛とも違うし友情とも違うが、どうにもこのひまわりのブローチを外す気にならない。

初対面こそ最悪だったが、普段の幽香は別に極悪非道という訳でもない。

元々命なんて惜しくない性分だったからか、死んでないならば恨めないのかも知れない。

幽香は、とんでもなく口が悪い事を除けば、花を愛でて日中をのんびりと過ごすだけの存在だ。

つまり最悪な訳だ。

のんびりお茶を飲んでいたら、

 

「下衆が茶なんて飲むのね」

 

とか言っちゃう奴だ。

お茶くらい心置きなく飲ませて欲しい物だ。

しかしまあ、歌の下手なガキ大将が映画になるとやたら男前になるのと同じで、そういうギャップは人を惹きつけるのだろうか。

こと幽香に関しては、そういう奴らはすべからく花に誘われたハエの様に抹殺されている訳だが。

私はハエにならぬ様決して手の触れられる間合いに入れさせたりはしない。

だが一秒一時全部に気を張ってる訳でもないのだ。

ここ二週間はそう言う歪んだ生活だった。

 

が、それも今日までの話。

私はこの家から出なければいけない。

怪我さえ治ればここにいる理由など無いのだから。

二週間という短い付き合いだが、幽香についてわかる事もある。

私がここから出て行くと言えば、きっと「あっそう」とでも言っておしまいだろうという事だ。

出て行くならここで殺すとか、そういうメンヘラチックな事にはまずならない。

という訳で、幽香とはサヨナラバイバイだ。

こんな危険な所、いつまでもいてたまるか。

気まぐれで殺されたら笑えないからな。

足も治ったし、帰る時が来たのだ。

私が育った、あの外れ街へと。

 

相変わらず少ない荷物をカバンにまとめて、ゆっくりと部屋を出る。

階段を降りる際に幽香の部屋をチラッと見たがそこには誰もいなかった。

時刻は昼前。

どうやら幽香は外にいるらしい。

大方、ひまわり畑で花と戯れていると言ったところだろう。

玄関を出て、幽香がいると思わしき場所へと向かう。

一応、挨拶ぐらいはしておかないと。

仮にも(色々な意味で)世話になった身ではある訳だし。

黙って行くとなんか悪い方向に進みそうな予感がビンビンするのだ。

私の予感は嫌な方向でよく当たる。

今も思ったとおり、幽香はひまわり畑の中心にいた。

偶然か嫌がらせか、ちょうど幽香と初めて出会い私が殺されそうになった場所に。

嫌な思い出がスッとよぎるが、頭を振って無理やり思考の外へと吐き出す。

どんな時でも挨拶は丁寧にだ。

 

「世話になった。色々とな」

「……何処へ行くの?」

「帰ろうと思う。家こそ無いが育った里がある」

「あっそう」

「じゃあな」

「ええ、ごきげんよう」

 

私の方には一度も視線を向けず、早く行けと言わんばかりに幽香は言い捨てた。

まだちょっぴり心の中では殺されるかもと思っていたが幸いにも杞憂だったらしい。

これで思い残す事もなくなった。

それじゃあ、向かうかな。

私の故郷へ。

 

 

一つ自分語りをしようか。

私が育ったのは、外れ街という所だ。

そこは文字通り、人里からかなり距離のある場所に位置している。

そして、妖怪に襲われないというセーフティエリアの境界線上にある。

人里に妖怪が襲ってくる事などまず無いが、外れ街は違う。

人里の外れにある上、安全区域の外側に寄っているから、一月に一回ぐらい腹を空かせた妖怪に襲われる事があるのだ。

無論、そんな危険な所に女子供はなかなか居ない。

そこに住んでいる奴らは皆、揃いも揃ってクズばかりである。

例えば人里で法度を犯したとか、貧乏で宿代が払えないとか。

中には妖怪との禁忌に触れた者もいる。

そういうなんらかの事情で里に住めない者たちばかり。

世界に対して斜に構え、毎日を無駄にしている様な連中。

当然治安も悪く、暴力も闇商売も絶えない。

人里でタブーとされている薬物なり刃物なりを真っ昼間から大路地で売っ払っても良いような所だ。

呪いの人形とか、博麗のお札のバッタモンも結構売っている。

外れ者の掃き溜め。

だから外れ街だと言う輩も居る。

 

とまあ散々な言い様だがかくいう私も、元を辿っていけばそこの住人であった訳で。

私の親は私がガキの頃には、とっくに死んでいたそうだ。

妖怪に食われたらしい。

だからといって私が妖怪退治屋をやってたのは親の仇とか、そういう物の為ではない。

外れ街で食って行く為に、それしか仕事が無かっただけだ。

この世界はなんとも世知辛い。

塩は塩屋、餅は餅屋。

こんな所に住む私達が一から商売を始めたってうまくいかないのは分かりきっている事だ。

覇気のない物ばかり。

命を惜しまない馬鹿ばかり。

そんな死んでもいい様な屑の天職は、妖怪退治屋しか無かった。

それだけだ。

債務者か、罪人か、妖怪退治屋か。

外れ街には、その三つがほとんどだ。

そして私の場合は三つとも当てはまっている。

ここは外れ街。

黄ばんだヤニと乾いた血の匂い。

普通なら気分が悪くなってしまう薄汚れた世界。

そして愛すべき私の故郷。

 

 

「変わらないなぁ」

 

あちこちに散乱するタバコの吸い殻。

死んでるのか寝てるのかもわからない道で寝ている様なジジイ。

あぁ、久しぶりに帰ってきた。

懐かしいと思えるくらいには思い出があったんだ。

爽やかな風。

いい天気だなぁ。

 

「お前、生き取ったんか!」

 

……なんかうるさいなぁ。

まあ、ここはいつもうるさかったしむしろ懐かしさが……

 

「おい、無視すな」

「……もしかして、私にいってます?」

「お前以外誰がおるんじゃ」

「……あ、アンタは!」

 

炎天下の下なのに見るからに暑そうな黒づくめの服を着た強面の男。

髭がその凶悪さに一層拍車をかけている。

こいつは……。

 

「久しぶりやなぁ。死んだ思てたで」

「おかげさまで、ピンピンしてたよ」

「借金返済、ご苦労やったな」

 

私が借金地獄に陥り紅魔館へ行くきっかけとなった男。

やたら方便のキツいヤクザだ。

そういえばこいつもここの住人だったな。

 

「それで、今更何の用だ」

「用がなくてもええやないか。お客さんの機嫌とったらあかんのけ?」

「もう客じゃ無いからな」

「まあなんや……元気そうやんけ」

「お互いにね」

「あーそうや」

 

何かを思い出した様に、それともあらかじめ準備していたかの様に語るヤクザ。

こう言う所は変わってないらしい。

 

「なんだ」

「家、まだ売れてへんねん。せやししばらく住んでもかまへんで」

「……それにしてもぉ男前ですねぇ!」

「露骨に機嫌とんなアホ!」

 

怒鳴られてしまった。

久しぶりに会ったクソッタレのヤー公。

思えば、私の人生が変わったのはコイツと出会ってからだ。

そう思うと、不思議な縁でもある。

それにどこで野宿しようかと思っていた矢先、住み慣れた家が戻ってきた。

今日は最高にツイてる!

 

「……ただいま」

 

弾む心を押さえつつ軋むドアを開け、いつぶりかの帰宅。

月日にしてみれば一年も経っていないのに、なんだか何十年ぶりにも思えた。

やや低いボロボロの天井。

所々剥がれた土壁。

軋んだ柱につけた傷跡。

粗末な内装の一つ一つが私を歓迎していた。

あぁ、帰ってきたんだなぁ。

 

「……これから、どうしようかなぁ」

 

玄関を進み、狭い居間へと入る。

私の家は六条一間の一軒家である。

ともかく狭いが、広かったら孤独と同居しなきゃいけない。

だからこれぐらいの狭さの方がちょうどいいのだ。

カバンを置いて、床に思いっきり横たわった。

あぁ、究極のリラックス。

心の心配が一つ一つ解けて行くような。

喉に詰まったモヤモヤが無くなっていく。

しかしまぁ、売れてないってのは本当なんだな。

ほとんど家を出る前のまま残されてる。

柱やら箪笥やらに酔った勢いでつけたキスマークが残っているのを見ると何だか本気で懐かしい。

そして……

 

「……寝るか」

 

日が沈みかけている事に気づいた。

くすんだ窓からオレンジ色の光がやんわり差し込んできていた。

それと同時にここ数日の疲れが、いっせいに主張し始めた。

 

「ふぁあぁ」

 

大きいあくびが、涙を呼ぶ。

頭が停止していく。

なんだか、とても眠い。

休むには少し早い時間だが、どうせしばらくはやる事も無い。

明日の事は明日考えよう。

押し入れから布団を取り出す。

この薄っぺらい布団も、思えば少し恋しかった。

硬い枕に頭を乗せると、何故か涙さえ溢れそうだった。

帰ってきてからどんどんホームシックに襲われる感覚は案外悪くないものだ。

また、妖怪退治屋でも、始め……る……かな。

 

「…………zzZ」

 

 

 

んー?なんだ、うるさい。

外か。

外で何かワイワイ言ってやがる。

目覚めて外がうるさい時は、事件が起こってるもんだが。

ここは治安の悪い街。

どうせ、妖怪が出たとか誰々が死んだとかだろう。

私が行かなくたってどうにかなる。

妖怪の一匹や二匹、なんとも無い連中だ。

腕っぷしに心配はあるまい。

それならもう一眠り……。

 

「いつまで眠ってるのかしら?それとも永遠に眠りたいの?」

「っ!」

 

冷たい声に、考える前に脊髄反射で飛び起きた。

枕元に、緑色の髪をした妖怪。

 

「幽香!?」

「早く起きなさい。朝食よ」

「……ここは私の家だぞ」

「家がないって言ってたじゃない」

「事情が変わったんだよ」

「そう。なんでも良いわ。早く顔を洗ってきなさい」

 

起きて早々布団をひっぺがされ、顔を洗えと急かされる。

オカンかお前は。

私の家は顔を洗うのもめんどくさいのだ。

なぜなら、水場所は玄関を出て右の井戸だからだ。

紅魔館とかは割と水道管の整備が進んでたから余計にめんどくさい。

まあ、とりあえず殺す意思はない様で安心。

と、油断もひとしお。

私は己の認識がどれほど甘かったのかを身をもって知ることとなる。

風見幽香が、妖怪たる所以。

 

「っこれは……!」

 

玄関の戸を開けて、外のざわめきが大きくなった。

そこで気づいた。

色の整った綺麗な街並み。

ここは外れ街じゃない。

そこには私を囲う様に、沢山の人、人。

丁寧に染められた小綺麗な召し物を着た老若男女。

その中でも若い男達が、女子供を守る様に先頭に立って私を取り囲んでいる。

 

なんとびっくり、騒ぎの中心は私だった。

正面にいた青年と目が合う。

まるで妖怪でも見つめる様なのっぴきならない視線。

そこから醸しでている敵意。

私はパニックになり、何も言えず戸を閉めた。

 

「幽香!ここは……!?」

「人里よ」

 

今日の天気は?――晴れよ。

それぐらいの熱量で返事をする幽香。

 

「……何の真似だ」

「早く顔を洗いなさい。スープが冷めちゃうわよ」

「私の家に洗面所は無いんだよ!」

「あら、そうなの」

「何で寝て起きたら人里に家ごとお引越ししてるんだ」

「不思議な事もあるのね」

「その原因に会えて感激だよ」

 

と、ふざけた掛け合いをしている暇などない事に気づく。

ともかく騒ぎはまずいのだ。

ここが人里で、私は風見という大妖怪と一つ屋根の下。

その事がもし博麗の巫女の耳に入りでもしたら……。

誤解を招く前に説明だ!

急いで戸を開けて外に出る。

 

「あー、おはようございます」

 

そう言って一歩進むと、周りが一歩退く。

若干悲しいが構わない。

とにかく説明だ。

 

「えぇ、どうやら馬鹿な妖怪がイタズラをした様でして。お騒がせして申し訳ございません」

 

深々と頭を下げる。

人につむじを見せることなど慣れたものだ。

それはそれは腰から上がピンと一直線な、模範的な謝罪だったと思う。

ただ周囲の反応は芳しくなく、あちらこちらから「嘘つけ!」とか「妖怪が!」とかまあ酷い言われようだった。

どっかの馬鹿が投げたのか、大きめの石ころが顔の隣を掠めた所で、私は若干キレてしまった。

 

「おい!今この石を投げた野郎はどいつだ!」

 

凄む私に、周りは更に2歩下がって喧嘩の構えをとった。

緊張が走る……って違う!

これじゃそこらの妖怪畜生と変わらないじゃないか!

落ち着け……冷静に、温和に。

クールになれ貴子!

 

「すぐに出て行く。それでも風見幽香とお話ししたい奴がいるなら前に出てこい」

 

よし。

これなら皆んな、「この人も被害者なんだね!可哀想に!でも幽香怖いし!さよなら!」となるに違いない。

目が覚めたら人里にいて、しかも幽香が家にいる。

その上に騒ぎまで起こして博麗の巫女でも来たら目も当てられない。

この場で一番の被害者は私のはずだ。

私はシングルタスクなもんでね。

幽香だけで面倒なんだ。

 

「私が、話をさせてもらおう」

「……へ?」

 

色で言えば青色の、凛とした声。

見れば、旦那衆から一歩前に出てきている女が一人。

私よりかは少し高い背丈で、胸を張り顎が引けている理想的な姿勢。

顔には凛々しい目鼻と蒼い髪。

真面目そうな雰囲気だが、これはこれで正統派の美人である。

惜しむらくは、これが普段ならじっくり見物でもしてただろうに、今はそんな時じゃないという事。

私の家に上がるだと?

ばかもーん!

 

「上白沢慧音だ。上がらせて貰おうか」

「ちょちょちょ、ちょっと待て」

 

キリッとした顔で私の家に上がろうとする慧音を無理矢理止める。

何で虎の穴に入り込もうとするんだバカタレ。

その時、手を前に差し出して止めるわけなんだが……。

これが何とも間の悪い。

想像して欲しい。

簡単な事だ。

私は前に手を伸ばしている。

慧音は私に近づいてきている。

その時手に触れるのはどこか?

体の中でもっとも前に出ている所だ。

 

「「…………」」

 

見つめ合う私と慧音。

弾力の塊に食い込む私の指先。

ゴム毬の様な弾みの良さと、大福の様な柔らかさ。

音で表すなら……モニュっとした感じだ。

あぁ、これは……。

でっけーね。

 

「……いつまで揉んでいる」

「はっ!」

 

慧音の声で我を取り戻して急いで手を離す。

どうやら夢中で揉みしだいていたらしい。

若干名残惜しいが、今ここで問題事を増やすのは賢い者の行いではない。

そう思い、焦ってすぐさま距離を取ろうとした。

だが、慧音に顔を両手でホールドされてピクリとも動けない。

前にも後ろにも、どこにも動かせなかった。

 

なんだろう。

とんでもなく酷い目に遭わされる気がする。

大きく頭を振りかぶった慧音。

私の額に、衝撃がっぎゃあぁあ!

 

「……上がらせてもらうぞ」

「っ待てってば!」

「何だ!くどいぞ!」

 

額からプスプスと煙を上げつつ私に怒鳴る慧音。

その目はバッチリ据わっている。

というか、怒りたいのは私も一緒だからな。

だが今は、もっと大事な事がある。

 

「……死ぬなよ?」

「どういう意味だ」

「そのまんまだよ」

 

唐突な台詞に、訝しげに私のことを見てくる。

それも仕方のない事だが、ともかくこの場に死体が増えようもんならえらい事だ。

後ろの野次馬も口々に「やめとけ慧音さん!」とかいって必死で止めようとしてるけど、どうやらこの人は(文字通り)頭の硬い頑固者らしい。

すでにズケズケと玄関へ入っている。

残された周囲の視線は私へと向き……そのうち何人かが指をポキポキ鳴らしている。

やる気かこんにゃろう。

と、事を荒立てるのは駄目だって何度も言ってるだろうに。

私も家に戻ろう。

 

ちなみに去り際、誰ともなく「慧音さんの頭突きを食らって意識のある奴がいたんだなぁ」と言われていた。

人を気絶させる様な頭突きを日常的にやってるのかよ。

 

 

「風見幽香だな?」

「そうよ。何か用かしら?」

「白々しい。何を企んでいるんだ」

 

眉を釣り上げ、問い詰める慧音。

しかし幽香はどこ吹く風といった態度だ。

現に、指で髪の毛をクルクルと巻いている。

 

「うふふ……お店を開くのよ」

「店?」

「こんな掃き溜めに、花屋の一つでもあれば素敵じゃない」

 

幽香の一言に、慧音は震えた。

それは間違いなく怒りを成分とする震えであった。

少し声を荒げた。

 

「……ここは掃き溜めでも、お前の庭でもない!」

「あら、酷い差別をするのね」

「ここは皆が安心して暮らす為の場所だ!」

「皆……ねぇ」

 

幽香はチラリと私を見て、慧音に視線を戻す。

 

「そうね。もし私が人を殺したら、代わりにそこの人間を殺して良いわよ」

「……え?」

 

この「え?」は私の口から出たものだが、同じ様な反応を慧音もしていた。

いやいやいや、ちょっと待て!

何で私の命が担保にされてるんだ!

どういう話の進み方をしたんだよ。

人の命を何だと。

 

「あの人間とはどういう関係だ」

 

ナイス慧音!

その質問を待っていた。

ここでハッキリと無関係という事を説明しておこう。

そうすれば私の無罪は証明される。

強いて言えば被害者と加害者なんだから。

 

「優香と私は、全くの無関……」

「私の奴隷よ」

「……は?」

 

この「は?」は慧音の口から出たものだ。

オウマイゴード。

慧音さん。手で口を押さえてワナワナ震えてるよ。

そりゃ目の前でこんな事言われたらインド人もビックリだ。

というか、私はいつから幽香の奴隷になったんだ!

頼むから誤解を増やさないでくれ!

 

「勘違いするな!全部この妖怪の嘘だ!」

「証拠もあるわよ。ほら、頭」

「……え?」

 

幽香が私の頭を指さす。

恐る恐る前髪の右の方を手で触れた。

なにか禍々しいものが……。

 

「コサージュ……」

「それが私への忠誠の証よ」

「貴様!どこまで人を馬鹿にすれば気が済む!」

 

テーブルを勢いよく叩く慧音。

置いてあった湯呑みが少し飛び跳ねた。

慧音は立ち上がり、幽香に啖呵を切った。

 

「この里で悪事を起こすのは私が許さん!」

「花屋を開けば悪なのかしら?」

 

うん。正論っぽく言ってるけど人の家を勝手に花屋にしてその家の家主を奴隷とか言うのはどう考えても極悪だぞ。

慧音、この悪魔を退治してくれ。頼む。

できる事ならこっぴどく。

 

「この里から出て行け。ここは『お前ら』の居ていい場所じゃない!」

 

ん……お前ら?

数えてみよう。

ひーふーみー。

うん。

この場には三人しかいない。

とすると、慧音以外の二人。

幽香と……私。

 

「なんで私!?」

「妖怪の味方をするなら同じ事だ」

「違うって!私は幽香の……っ痛!」

 

慌てて弁解をしようとしたら幽香に足の甲を思いっきり踏まれた。

ぅ潰れる、潰れる!

 

「危害は加えないわ。それと一つ良いことを教えてあげる」

「何だ」

「私の花はね……エディブルフラワーにもなるのよ」

「貴様っ……」

「清貧がお好きなら勝手にしなさい。ただ、弱者の意地なんて滑稽以外の何でもないわ」

「…………っ!」

 

サラリと言い放ち、置いてあった湯飲みを手に取る幽香。

慧音は、拳を握りしめて強く歯を食いしばっている。

強い葛藤が滲み出てくるような表情だった。

眉間に皺を寄せ、黙りこくっている。

力関係が決まってしまったような気がしたので、それとなく幽香の見えない所からアッカンベーしといてやった。

なんか、幽香から殺気を感じたのは気のせいだろう。

 

「目的は、何だ」

「ずっと言ってるじゃない。お店を開くのよ」

「……いい加減にしろ」

 

吐き捨てる様にそう言って、席を立ち外へ出て行く慧音。

パタリと戸を閉め、しばしのざわめきの後外が静かになった。

 

慧音が去っていったなら、今度は私が尋問する番だ。

聞きたいことは両手じゃ数えきれない。

 

「……おい幽香」

「いつからそんなに偉そうな口を聞ける様になったの?」

「何で私の家が此処にある」

「しつこいわね。動かしたのよ」

「……は?」

 

動かした?家を?

その時、私の頭に家を丸ごと担いでいる幽香がボンヤリと浮かんだ。

昨日の夜、なんか揺れてるなと思ったら……。

っていやいや。

 

「家ごと動かすなんて、お前は化物か?」

「あら、家は動かしていないわよ?」

「……え?」

 

どう言う事だ。

家は動かしていない?

ならどうして人里に家が有る。

 

「私は、『家以外の全て』を動かしたの」

 

(^^)

私はこんな顔をしていた事だと思う。

きっと天動説と地動説がどうたらって言う話をしてた奴らもこんな感じだったんだろう。

この家以外の全て?

それを人は世界と呼ぶのでは?

 

「な、何のために」

「花屋を開くって言ってるじゃない。何回も言わせないでよ///」

「何に照れてるんだよ!」

「さぁ、明日から店開きね。忙しくなるわよ」

「ならないだろ。誰が来るんだよこんな怪しい店!」

「そうでもないと思うわよ?」

「少なくとも私は行かないぞ」

「明日になれば分かるわ」

「一人でやってろ」

 

もう付き合いきれない。

そもそも、奴隷呼ばわりされるのも不快だし。

私たちは奴隷を最も嫌うんだ。

その一線を超えたんなら遠慮はしまい。

いくら気まぐれの妖怪でも、人里にいる以上私の事を殺す事は出来ないだろう。

忌憚なく意見をぶつける。

 

「悪いが私は手伝わないぞ」

「そう。それでも良いけど、今頃あの人間はこう言ってるわよ?向日葵のコサージュを付けた人間には気をつけろ……って」

「なら外す」

「そう。お好きにどうぞ」

「悪かったな」

「あぁ、そうそう」

 

そう言って、私にこの髪飾りをつけた時のように、パチンと指を鳴らす幽香。

するとその手のひらに、私が付けているものと同じようなコサージュが握られていた。

不思議に思っていると、それをポイっと窓から家の外目掛け、空高く投げる。

はるか上空へ投げられたコサージュ。

 

――何のつもりだ。

 

そう言おうとした口が塞がった。

遥か上空のコサージュが、大音量で爆発したのだ。

その振動で空気が揺れる。

数秒してパラパラとその破片が舞い散ってくる。

 

「さあ、外しなさい」

「……え?」

「どうしたの?」

「あのー、幽香さん」

「何かしら」

「もしかしてこのコサージュって……」

「ええ。無理に外したらあぁなるわよ」

 

脳裏に浮かぶのは、粉々に爆散する私の頭。

先程の爆発を受けて、不幸な近隣住民たちが何だ何だと表へ出てきている。

これは、詰みですね。

投了です。

どこぞの天才棋士もお手上げだ。

 

「ほら?外すんでしょう?早くなさい」

「いや、その」

「早くなさい?」

「……すいませんでした」

「分かればいいのよ」

 

 

次の日。

幽香が何故か開きたいと言って聞かなかった花屋がとうとう開店した。

場所は人里の、しかも中心部。

千客万来の往来に場違いな小汚い家が一軒。

言っとくがここは私の家だ。

今は、赤青黄色のカラフルな花が並んだ、いい香りのする木造建築に成り果てたが。

新装開店の風見フラワーショップ。

従業員一名、偉そうな奴一名で営業中。

誰がこんな所来るもんかと高を括っていたが、意外な事に開店して間もなく客は来た。

その記念すべきお客様第1号は、昨日言った通りやって来た慧音であった。

 

「本当に花屋なんだな」

 

戸を開けて店に入ってきたかと思えば、並べてある花をじっと眺めている。

元々は私が色々置いていた場所だったのに幽香に改造されてしまった。

壁やつっかけも全て取り外され、幽香が持ってきた花が並べてある。

慧音はそれを食い入る様に見ていた。

おおよそ、危険な物が無いかのチェックだろうか。

 

「一つ聞いてもいいか?」

「何だ」

 

相変わらず2メートルの距離越しで、私は慧音に話しかけた。

その頭には風見幽香特製の向日葵コサージュ。

なんと、服にも幾つかのアップリケがこさえてある。

昨日幽香に手渡された物だ。

私が椅子にもたれてウトウトしてたら、急にこれが投げつけられて来た。

言葉無く、これを着て仕事しろと言っているのだ。

どこまでも勝手な奴。

何ともババくさいデザインだが、無理に外すと文字通りクビが飛ぶので渋々着ている。

が、どうやら慧音は何とも思わないらしく特に反応はしていなかった。

変に説明するとまた話が拗れそうだったので、話がすんなり通って良かったとホッとする。

今聞きたいのは、昨日のあの発言についてだ。

 

「何で認めた?こんな危険度マックスの花屋を」

「……色々さ」

「色々?」

 

色々あれば良いのか?

無理が通れば道理が引っ込む。

幽香が通っても同じらしい。

慧音は続けた。

 

「今、この里は崖っぷちでな。みんな悲鳴を上げているんだ」

「崖っぷち?風見幽香(あのバカ)のせいか」

「いや、もっと重大な事だ。下手をすれば、この里の全員が死ぬ」

「それって……」

「飢饉だよ」

 

腕を組んで遠い目をしながら、慧音は言った。

多分慧音もその被害に遭っている一員なのだろう。

途端に慧音の顔がやつれている様に見えた。

 

「例年は、皆で助け合いながら少ない蓄えを切り盛りしてなんとかやっていたんだがな……」

「すると今年は不作だったのか?」

「あぁ」

 

飢饉。

過去には人が人を食う事さえ有ったと言われるものだ。

人間は悲しくも、腹が減るとこれまた道理が引っ込むらしい。

道理って奴は引っ込み思案が過ぎる。

疲れた様なため息を、慧音は吐いた。

 

「ここ最近で二度、異変が有ったのは知ってるな?」

「……異変?」

「何だ、知らないのか」

「まぁ、色々と忙しくてな」

「紅霧と春雪。誰でも知ってる事だぞ」

「以後覚えておくよ」

「そうすると良い。それでだ」

 

一拍置いて続ける慧音。

 

「その異変で、農作物は甚大な被害を受けてしまった」

「被害?」

「赤い霧で日光が遮られれば畑は痛む。春が来なければ野菜の成長が遅れる。そのせいで今年は例年の半分すら収穫できていないんだよ」

「そうだったのか……え?」

 

何か引っかかる様な。

猛烈に身に覚えがある様な感じ。

紅い霧、長い冬。

……それってまさか。

 

「どうした?」

「もしかして、その異変の元凶って」

「あぁ。紅魔館と白玉楼、だそうだ」

「やっぱりか……」

 

どうやらその異変、両方とも私も一枚噛んでいるんだそうです。

やっちまったなぁ。

それぞれ、異変を起こしたのはレミリアや幽々子だ。

私はその側で見ていただけなんです。

無関係、そうだ無関係のはずだ。

……いや、そんな誤魔化しをしてどうなる。

ちゃんと認めろよ。

とんでもない事になってしまったんだ。

何処が無関係なんだよ。

レミリアも幽々子も、私が唆かしたんだろ?

そのせいで、人が死ぬ……しかも飢えで苦しみながら。

そんなの駄目だ。

駄目に決まってる。

 

「対策は打っているのか?」

「村の長者に蓄えを崩してもらったりしてたんだが……それも底をつきかけている」

 

そうか。

えらく困窮してたんだな。

とうとう打つ手も無くなって来たのだろう。

っというか、

 

「そんな時に……こんな店、邪魔じゃ無いか!」

「待て。そうでもないんだ」

「え?」

「私もその事を言いたくてな。その為に来たんだよ」

 

飢饉で苦しんでいる時に、こんな店がやってきて良い理由がどこにある。

慧音の言う色々って奴は本当にカラフルらしい。

腹が減るってのがどれほど辛く悲しく、そして心細い物か。

私は知っている。

友を殺さねば飢え死にするからと、涙で濡れた親友の手を貪った野郎を。

それが許されて良いのか。

 

「確かに、最初こそは業腹だったさ。だがな、どうやら幽香の言っていた事は本当らしい」

「……幽香が言っていた事?」

 

私が奴隷の件か?

それともコサージュの事か?

 

「この花たちを見てみろ」

 

慧音が指し示した花に視線を向ける。

見ろったって、並べてあるのはどれも普通の花だ。

並べたのは私だからわかる。

ホウセンカ、キク、ビオラ。

目につく物はその辺りだ。

それが一体どうした。

 

「エディブルフラワーを、知っているか?」

「エディ……何だそれ」

 

聞いた事もない。

強いて言うなら昨日幽香がそんな単語を口にしていた様な気がせん事もない。

それが何だと言うのだ。

 

「わかりやすくいうなら……食用花だ」

「食用花……ってことは、食べるのか?」

 

並べてある色鮮やかな花たちを見る。

綺麗なのは間違いないが、美味しそうかと言えば……。

エディブルフラワー……。

花を食わねば死ぬと、そう言いたいのか。

 

「食わなければ死ぬからな」

「……慧音さん、だったっけ」

「慧音でいい」

「じゃあ慧音。一ついいか」

「何だ?」

「本当に……すまない!」

 

勢いよく膝と手をつき額を擦り付けた。

まさか、自分の行いが巡り巡ってこんなに大迷惑をかけているなんて。

レミリアを唆したのも、幽々子を駆り立てたのも!

それにこの人里に幽香を入れたのだって、私が一枚噛んでいるんだ!

阿呆がよもや飢饉を引き起こしたなんて、死んだって……償えない。

何もかも全部私が……。

花を食わねば死ぬ事態にまで追い詰めた。

 

「……頭を上げてくれ」

「出来ないっ……見せれる面がない!」

「お前が何をしたか詳しくは知らないが、私は感謝したいくらいさ」

 

空いていた2メートルの間合いをゆっくりと詰めて、優しく私の肩に手を当てる慧音。

諭す様な声で、ゆっくりと。

 

「何かをしてしまったのなら、それは反省しなければいけない」

 

けれど、と繋いで慧音は続ける。

 

「今度はその分だけ良い事をすればいいんだ。私には、お前が反省している事は十分伝わったさ」

「慧音っ……」

「きっとお前にしか出来ない事があるはずだ」

 

私にしか出来ない事……。

何もできないぞ。

力も弱い。

頭も悪い。

気も利かないし、面も汚い。

私は、どうしたって無力なんだっ……。

 

「お前は、無力なんかじゃない」

「え?」

 

慧音が私をさすりながらそう言う。

まるで私の心を包み込む様に優しく。

 

「お前に、救われた奴が居るはずだ」

「そんなの……」

 

いる訳ない。

そう言おうとしたが慧音に遮られる。

 

「居るんだ。しかも、一人や二人じゃない。そしてそれは、案外身近な奴さ」

「……みんな」

 

美鈴、咲夜、レミリア、パチュリー、そしてフラン。

それだけじゃない。

小町、映姫、妖夢、幽々子……。

私の事を受け入れてくれたおかしな奴ら。

何もできない私を、疎みもせずに。

そんな奴らの……助けになれたなんて。

あんなに良い奴らの、力になれたなんて、思えない……。

思えないんだよ……。

 

「救われたのは……私の方だから」

「そうかもしれないな」

 

そして、と前置きして、慧音は言った。

 

「そう思えるから、皆を救えたんだ」

 

慧音の声は反響する。

まともに慧音の目を見ることすらできず、うずくまって少し泣く。

こぼれ落ちた雫が床に模様を作っていく。

しばらくの間、慧音は何も言わず私に寄り添っていてくれた。

一から十まで迷惑者の私に、優しい声が沁みる。

 

 

それから、私が落ち着くまで何分かかっただろうか。

私が落ち着いたのを見届けて慧音は去っていった。

私にできる事は、償う事だ。

そしてそれは、私がしなくちゃいけない事でもある。

もういつまでも無力な自分に縋ってちゃ駄目だ。

ケジメはつけなきゃならない。

だから私は行動した。

生まれて初めて、心いっぱい感情を込めて。

多分、これでよかったのだろうと思う。

 

 

 

人里が大飢饉から脱した事を、新聞が取り上げた。

一時はもう新聞でも食らってやろうかと言う声もあったのだから、見違えたと言える。

人里は豊かになった。

お腹を空かして細い声でせせり無く子供も街からいなくなった。

新聞は飛ぶ様に売れた。

 

人里に出回ったのはエディブルフラワー……ではなく、普遍的なニンジンやキャベツなどの野菜であった。

ある日突然新鮮な野菜が大量に出回ったのだ。

今も人里の市場は大賑わいである。

 

野菜は、どれも知られている物とは少し違った。

微妙な違いだが食感や色合い、味なんかが、慣れ親しんだ物とは異なる物だった。

とある博識な妖怪が、こう言った。

 

「これは……西洋の物だわ」

 

野菜は東洋の物ではなかった。

何故、西洋の野菜が出回っているのか。

 

――とある館に、ワガママな吸血鬼が住んでいた。

その者は東洋に移り住んでからも、慣れ親しんだ味しか受け付けないと言って従者をさぞ困らせた。

いくらなんでも取り寄せるのは難しい。

頭を悩ます従者たちを見て、紅い髪をした一人の門番が言った。

無いなら育てれば良いんですよ、と。

それ以来その館では、自家農園で育てた野菜を主人に提供するのが慣わしとなった。

例えば、ジャガイモとか。

あるいはリンゴとか。

 

そして、こちらとはまた違った進化をした西洋の農作物たちは二度にわたる異変を経ても変わらず実り果てた。

貴子はその館の門番から野菜の種子をもらい、ひまわり畑の近くで丹念に育てた。

不思議なのはそこから。

収穫までしばらくかかると思った種子は、なんと3日で完全に育ちきってしまったのだ。

理屈はわからないが、さすがは悪魔の館と感服する貴子。

それを見て、ふんと鼻を鳴らす幽香であった。

 

関係ない話だが、幽香は『花を操る程度の能力』を持っている。

野菜を実らせる事なぞ簡単な事だろう。

その事を貴子が知る由はない。

 

そうして大量の野菜は慧音へと渡り、貧富関係なく、不平等なく無事に行き渡った。

実は慧音は自分の分も皆に配ろうとしていたのだが、流石に止められた。

そんな自己犠牲的な態度もあってか、慧音は人里を飢饉から救ったとして、あちこちから称賛を受けている。

特にジジババからは、御仏様じゃと拝まれている始末。

暗い雰囲気だった人里は明るい街へと戻っていった。

 

実は、町民の中にはある事に気付く者がいた。

飢饉が終わるその前。

野菜が出回るその直前に、この里にやってきては騒ぎを起こした奴がいるという事。

そいつは風見幽香と面識がある。

もしかして、この野菜は……。

そこまでたどり着き、そして辞めた。

例えそうだとしても慧音を褒めてた方が気持ちがいいからだ。

 

 

「これで、良いんだよな」

 

呟く貴子。

今日も店に客は来ない。

 




フラワーショップ風見は、なぜか子供達が入り浸る様になってしまいました。
なお、本人はこの店の名前について納得していないとか。
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