傷だらけになってまで生み出した魔理沙の技や如何に
博麗霊夢と霧雨魔理沙は、対照的な人生を歩んできた。
博麗霊夢は生まれた時から巫女として生きてきた。
彼女は人間でありながら、まるで神に愛されたような才能を持っていた。
それでいて力や野望などとは全く無縁の生活をしている。
幻想郷で最も強い、人呼んで天下無双の巫女。
誰もが一目を置く神童と言って過言ではない。むしろ過小評価ですらあるだろう。
その霊夢に唯一食ってかかった人間が、魔理沙であった。
霧雨魔理沙は人里の名家に生まれた。
幼い時から大層可愛がられ、何をせずとも飯には困らず、働かずとも銭が手に入る。
そんな何一つ不自由のない人生を約束されていた。
しかし魔理沙は、その全てを投げ捨てた。
裕福な未来を全部投げ打って、自ら茨の道に身を落とした。
レールの敷かれた未来を捨てて、己の身一つだけで生きていく未来を選んだ魔理沙。
故に、誰よりも自由であった。
この広い世界を箒で飛び回る。己の意思だけに従って生きる。
彼女は、全てのしがらみから解き放たれた幻想郷で最も自由な人間であろう。
魔理沙と霊夢。
巫女と魔女。
決して交わることのない二者が友人として知り合い、そして今ここでぶつかり合うのは偶然か、必然か。
そのどちらであろうと、二人が感じる血の滾りを止めることはもう、出来ない。
「お前とやるのはいつぶりだ?霊夢」
「さぁ、覚えてないわ」
「ツレの
「あっそ。ご親切にどーも」
魔理沙は霊夢の冷たい対応に少し笑って、それから鋭い顔をした。
慣れた動きで懐からミニ八卦炉を取り出し、箒を一層強く握りしめる。
緊張が二人の間を駆け抜けた。
牛蛙が喉を鳴らす。
開戦の合図は魔理沙の攻撃であった。
「最初っから全開だ!」
叫びながら通常弾幕を展開する魔理沙。
闇一色だった辺りがボワッと一気に明るくなる。
赤青黄色、色とりどりの流星が魔理沙を中心に舞った。
「アンタ、やっぱり……」
霊夢は弾幕勝負において一度も負けたことがない。
異変以外でも数多の戦いを経験してきたが、敗北はおろか、残機を削られたことすら稀である。
特に魔理沙が相手の場合、一機も落としたことはない。
だが霊夢は今、冷汗をかいた。
それは魔理沙の弾幕が、己の知っているものと全く違ったからだ。
圧倒的な煌めき。
量も質も、明らかに数倍強くなっている。
しかし、見かけほどの難易度ではないと霊夢は直感した。
お札を宙に放って結界を貼る。
これによってしばらくは攻撃を防ぐことができるだろう。
その中で数秒思考した。
(多分パチュリーのせいね。だけどあの傷は……まさか、魔理沙に限ってそんなことは――)
その瞬間、結界にヒビが入った。
ガラスが割れたような音。
赤い彗星が霊夢の頬を掠めた。
想定より数段も早く結界が突破されてしまったことに、霊夢は舌打ちをした。
「言ったろ。前までの私とは一味違うってな」
「どこが変わったのよ。まさか今のが修行の成果?」
「急かさなくても見せてやるよ。一枚目のスペルだ」
カードを提示し、魔理沙の攻撃が始まる。
頭を低く下げ、ミニ八卦炉を前に構える魔理沙。
発射口にキュルキュルと装填される巨大な魔力。
そこから繰り出される攻撃を霊夢は知っていた。
マスタースパークだ。
「喰らえ!」
空気が縦に揺れる。
ほんの一瞬でレーザーが迫り来る。
目の前に、超ド級の魔力を感じた。
威力も速度もアップしている。
前のが亀に感じるくらいだ。
しかし、避けるのは容易かった。
所詮は攻略済みの技なのだから。
隙が大きいその攻撃を、何度か左右に避ける。
なんなく時間は尽き、特に苦労もなく一枚目を突破してしまった。
交代に、今度は霊夢がスペルを宣言する。
「悪いけど、さっさとケリ付けるわよ」
「上等だぜ」
「私も一枚目よ!」
お札を宙へ大量に放ち、スラスラと祝詞を詠む。
命を持った鳥のようにお札が飛び回る。
千鳥格子に展開された弾幕が、檻のように魔理沙を取り囲んだ。
「無双封印!」
「へっ、止まって見えるぜ!」
声高らかにそう言って、言葉通り魔理沙は弾幕を突破した。
いつもの魔理沙ならばここまでで一機は落としているだろう。
そうでなくとも少なからず危うい場面があるはずだ。
だが……今の魔理沙は汗一つかいていない。
「今まで、こんなのに苦労してたなんて信じられないぜ」
「……魔理沙、アンタやっぱり!」
「喋る余裕があるのか?もうすでに、二枚目は始まってんだぜ?」
「っ!」
霊夢は辺りを見回した。
鋭く舌打ちをする。
やられた。すでに取り囲まれていたのだ。
四方で銀河のような大量の星々が輝いている。
違うのはその蜜と。
以前とは明らかに物量が段違いだ。
隙間も薄く、力技で抜けることができなくなっている。
攻略するには正攻法しかない。
「もう遅いぜ!スターダストレヴァリエ!」
魔理沙の叫びに呼応して、輝く星々が軌跡を描きながら舞い踊る。
霊夢も、それに合わせて動くことを余儀なくされた。
「この弾幕は……」
それは、霊夢にとって初めての感覚であった。
見える世界が変わったかのような違和感。
霊夢は弾幕勝負を楽しいとは思わない。
なぜならいつも、弾の方から避けていくように思っていたからだ。
自分は何もしていないのに、気づけばスペルを突破している。
マスタースパークも、当たる直前で逸れていく。
そういう感覚だった。
だが今喰らっているそれは違う。
むしろ全てが自分を追いかけてきているような迫力。
「……っち!」
魔理沙の舌打ち。
時間切れとなるまでの数十秒、霊夢にとっては初めてとなる『回避成功』であった。
硬く閉じた手の中でお札が折れている。
握りしめてしまったのだろう。
自分が緊張していたことに霊夢は気づいた。
「今のは自信あったんだがな」
挑発するような魔理沙の発言には返事もせず、霊夢は焦るように二枚目のスペルを宣言した。
「……手加減しないわよ!封魔陣!」
宣言と同時に宙のお札が丸まり、針のように細くなる。
魔理沙がそれを認識したのは――己の肩に刺さってからだった。
「っあぁ!?」
「被弾ね……まだまだあるわよ」
思わず顔が歪む。
肩に刺さった針を抜き、苦しながら顔を上げた。
そこには、あまりにも美しく、そして残酷な景色。
沸騰寸前まで滾っていた血が、氷点下まで青ざめた。
千か二千か。
視界の隅々に、針があった。
その切先が全て自分に向いている。
処刑の合図を待つかのように。
「へへ……やっと本気か……そうこなくちゃな!」
覚悟を決める。
帽子を深く被り直して、弾幕に向かって突っ込んだ。
針が魔理沙の耳を掠める。
皮膚が切れて血が垂れ落ちた。
されど止まることは許されない。
まだまだ弾丸のような速さで飛んでくる攻撃。
しかも数は桁知れない。
だが魔理沙は目に闘志を宿らせる。
「ここで負けるわけには……いかないんだよ!」
……数十秒後、攻撃が止む。
月光が差し込んだ暗闇。
そこに、魔理沙は立った。
二度の被弾、そして数千回のグレイズを伴って。
「針は……一点集中だ。鋭い分面積は狭い。お陰で服はボロボロになっちまったがな……」
「まさか……アンタ、あれを避け切ったの!?」
霊夢は狼狽した。
天変地異にさえ鈍感な彼女すらも驚かす魔理沙の胆力。
封魔陣は恐ろしい技だ。
たとえ妖怪であってもひとたび喰らえば悶絶する。
普段は霊力を加減して、注射を打たれた程度の痛みしか感じないようになっているが、本来は痛みを与えることに特化した技なのだ。
その痛みは、本能的な恐怖に作用する。
そして今放った封魔陣は、手加減などしていない。
妖怪ですら喰らえば激痛にのたうち回るだろう。
あくまで敵意を削ぐための技。
だからこそ恐ろしいのだ。
それを魔理沙は……。
「コイツが最後のスペルだ……しかし、追い詰められちゃいないぜ。私の本命は最初っからコレ一枚だからな!覚悟しろよ霊夢!」
叫ぶ魔理沙の頬を汗が走る。
意気衝天とした表情の中から、緊張と不安が見て取れた。
深く息を吸って、大きく魔理沙は宣言した。
「喰らえっ!ブレイジングスターッ!」
その技の名を、霊夢は聞いたことがない。
ただ魔理沙から発せられているのは、今までのどれよりも強力な魔力。
警戒心がブザーを鳴らす。
攻撃の初動。
魔理沙は、あろうことか霊夢と真逆の方向を向いた。
そしてミニ八卦炉を構える。
「おおぉおおぉおお!」
後ろ向きに放たれたマスタースパーク。
その威力は箒に伝わり、魔理沙は音を置き去りにした。
光り輝く一筋の流星。
世界が揺らぐような破壊力。
霊夢がそれを回避できたのは、直感が鳴り響いていたからだろうか。
しかし、息を吐く暇すらない。
すぐさま二発目がくる。
体制を立て直し、ふたたびミニ八卦炉を構える魔理沙。
さらに、魔理沙の通った道筋からも星弾が放たれていた。
あまりに眩しく絢爛な技。
それが、ブレイジングスターであった。
「一度見たら見切れるわよ!」
霊夢はそう猛る。
それは事実に近かった。
霊夢からすれば一度見てしまえば、二度目を避けるのは遥かに容易い。
見切りの速さこそ霊夢の天才たる所以だろう。
二度目をなんなく躱す。
しかし三度目を避ける前に、それは起きた。
「っこれは!」
霊夢の目に、何かが掛かった。
視界が赤く染まる。
薄らとした鉄の匂い。
「血!」
真っ赤に染まった世界から魔理沙は消える。
急いでそれを拭い取ろうとする霊夢。
その僅かな時間が、命取りであった。
「届けぇぇえ!!!」
眩い光を纏った魔理沙が霊夢の胸を貫いた。
轟音。
時が止まる。
博麗霊夢、被弾。
「……アンタ、誰」
「あぁ?誰だったら嬉しいんだ?」
「別に誰でも嬉しくないわ」
「良かったな。これからはそんな退屈な人生とおさらばだぜ。何せこの私、霧雨魔理沙と出会ったんだからな」
「ふーん……それで、何しに来たの?」
「お前を倒しにきたぜ!博麗霊夢!」
「……変な奴」
……遠い日の記憶。
霊夢と魔理沙が出会った日。
なんで今、そんな事を思い出したのだろう……。
「はぁ……はぁ」
「アンタ……」
「まだだ……まだ、終わって……ないぜ」
攻撃をしているのは魔理沙。
被弾したのは霊夢。
しかし、死にそうなのは魔理沙であった。
包帯は破れ、体中の傷からは血が止めどなく出ていた。
剥き出しの肌には化膿した火傷。
息も絶え絶えの魔理沙。
四度目を待たず、時間は尽きた。
「今のは驚いたわ。ちょっとだけね」
「へへ……驚いたか……」
「だから私も、全力でアンタを倒す」
「上等だ……っぐ!」
「無双転生……」
霊夢が放った最後のスペル。
――音も光も全てが消える。
たった一度の攻撃。
その一撃は一瞬にして魔理沙を射抜き、そして勝負は幕を閉じた。
「……ふざけんじゃないわよ」
呟く霊夢。
力尽き、地面に真っ逆さまで落下していく魔理沙。
衝突寸前で、人形らしきものが優しくそれを受け止める。
横たわって呻く魔理沙に、霊夢は近づき胸ぐらを掴みあげた。
勝ったはずなのに、その顔は歪んでいた。
「どうしてなのよ!」
自分でも驚くほどの怒鳴り声。
しかし魔理沙は返事をしない。
焦点の合わぬ虚ろな眼に霊夢が映る。
「なんで……そんなになってまで強くなろうとするの!?アンタこのままじゃ……死んじゃうわよ……?」
胸ぐらをより一層強く引っ張り上げる。
消え入るような声だけが、口から溢れた。
肩を震わせて、泣きそうな顔をする霊夢。
牛蛙の鳴き声だけが響く沈黙。
「お前に……勝つためだ」
「っ!」
「命を削ったのも……こんな体になったのも……全部お前を負かすためだ」
魔理沙は空を見ながら言った。
死にそうな声だった。
「何でよ……私に勝ってどうなるの!?そんな事の為に……アンタ、馬鹿じゃないの!?」
「お前は……一人ぼっちだったろ」
スウッと目に光を取り戻した魔理沙。
目の前で苦しそうな顔をする霊夢の瞳を真っ直ぐに見つめて、母のように優しく言った。
「ガキの頃からずっと……一人あんな寂れた神社に居たんだろ?妖怪だってのしちまう誰よりも強い奴……前にも後ろにも、誰もいない。お前は……寂しいんだ」
隙間風のような乾いた咳をして、口から血を吐き出す魔理沙。
黒い喀血が服にかかる。
「私がお前に勝てば……お前は一人じゃなくなる。孤独なんかじゃ……なくなるんだ」
「馬鹿っ!余計なお世話よ!アンタに……アンタに何がわかるの!?」
「お前に追いつきたかった……巫女としてじゃない、霊夢。お前という人間にな……」
「なんで……なんでよ!」
胸ぐらを掴み上げて、霊夢は魔理沙の頬を殴った。
殴っても、痛いのは魔理沙ではなかった。
「アンタはただの人間じゃない。追いかけてなんてこないでよ……アンタが死んだら私は……」
「おい……霊夢?」
「うっさい!馬鹿!」
「何で……お前が泣くんだよ」
「泣いてない!」
霊夢はそう言った。
魔理沙は、己の顔にかかっている水の正体を、それ以上追求しなかった。
「異変は危険な事ばっかよ……それに首突っ込んで……心配ばっかりかけて!」
叫びの余韻が、竹林に溶け消えた。
霊夢も魔理沙も、息を切らしながらお互いをじっと見据えるだけで、何も言わなかった。
「強くなんてならなくていい……私になんて勝たなくてもいい……誰よりも弱くたって良い。だから、危ない事ばっかしないでよ……」
「何でお前がそんなことを……」
「心配だからよ!どんだけ守っても、アンタは危険に首突っ込んで!もし死んだらどうすんの!?」
「……私が死んだら、お前は悲しいのか?」
「そうよ!悪い!?迷惑な限りよ!ずっと一人で生きてこれたのにアンタは……私の人生にまで首突っ込んでっ……!」
霊夢の思わぬ告白に魔理沙はたじろぐ。
帽子を深くかぶって顔を覆った。
霧雨魔理沙と博麗霊夢は、対照的な人生を歩んできた。
多くの者に可愛がられた魔理沙。
多くの者から恐れられた霊夢。
表と裏のような二人が出会い、戦い、そして愛し合ったのは、決して偶然などではなかったのだろう。
「お前は……私がいなきゃダメだな」
「アンタが、私がいなきゃダメなのよ!」
「……さっさと行けよ。異変が待ってるぜ」
そこまで言って、魔理沙の体からカクンと力が抜けた。
傷だらけながら満足そうな顔をして、穏やかな息を立てている。
「……行くわよ紫」
「お涙頂戴ねぇ。感動したわ」
「アリス、こいつの事よろしく」
「……えぇ」
木陰からアリスが出てくる。
魔理沙に、勝負が終わるまでは出てくるなと言われていたのだ。
普段なら食ってかかったろうが今夜の魔理沙には何か迫り来るものがあった。
竹にもたれて眠る魔理沙。
アリスは人形を使って、その体を優しく担ぐ。
霊夢はそれを見送りもせず、先へと向かった。
揺蕩うような疲れを感じながら……。
迷いの竹林での決闘
勝者 博麗霊夢(被弾一)
霊夢の直感を頼りに進む一向。
竹林の闇に、何やら怪しく動く影を捉えた。
こんな夜更けにこんな所を出歩く者などマトモなわけがない。
自分たちも含めてだ。
不穏な空気が漂い、周囲の温度が下がっていく。
こごえるような思いをしながらお札を出して警戒する霊夢。
そこに着物姿の女が現れた。
「妖夢〜?どこ行ったの〜?」
「……幽々子?」
喋りかけたのは紫であった。
急な声に驚いたのか肩を弾ませ、それから霊夢と紫の顔を見て嬉しそうに笑う幽々子。
「やっと人に会えたわぁ~」
「人じゃないでしょ、お互いに……あら?妖夢はどうしたの?」
「そう、そうなのよ。大変なのよぅ」
「……まさか」
「妖夢が迷子になっちゃったのよ〜!」
手で顔を覆い泣いているような風に言う幽々子。
大変という割には呑気に見える友人に紫は呆れ溜息を吐き、それから薄目で霊夢の方を見た。
「先を急ぐわよ」
「引き止めたのはアンタの方でしょ」
「さっきの勝負にかけた時間でおあいこ。ほら幽々子、行くわよ」
「でも妖夢が……」
「あの子なら大丈夫よ。多分」
「紫が言うと信憑性ないのよぅ……」
一方その頃妖夢はと言うと……。
「貴様……なぜここにいる!」
「あら、お久しぶりねぇサムライさん」
「ここで会ったが運の尽き!前の借りを返させてもらう!」
「遅いわね――」
剣を振りかぶる妖夢。
その懐に素早く潜り込み、首筋にナイフの白刃を当てがう咲夜。
冷たい切先の感触。
少しでも動けば妖夢の首はない。
咲夜は言葉なく脅している。
「ここは顕界。死人の貴方では少し調子が悪いのではなくて?」
「っぐ……」
「さっきの質問の答えだけど。私は異変を解決しにきたの」
「たった一人でか?」
「お嬢様も一緒よ……今は迷子になられてしまったけど」
「迷子なのはお前じゃないのか」
「迷う子と書いて迷子よ。私は迷ってなんかいないわ。ほら……」
咲夜は武器をしまい妖夢の後ろを指さした。
妖夢も刀を鞘にしまって、示された方向を瞳だけで見る。
「あれは……」
「ポツンと一軒家なんて怪しさ全開ねぇ……さて、どうするの?」
「ここで待っていろ。私が行く」
「なら一緒に行きましょうか」
「何でそうなる!」
「一人より二人よ」
「断る!」
「ついていくからお好きにどうぞ」
激昂して再度刀を抜こうとする妖夢であったが、出発前に言われた幽々子の言葉を思い出した。
『もし迷ったら異変解決を優先なさい。寄り道してはダメよと』
咲夜はすでに屋敷の門を潜っていた。
腹立たしい気持ちと幽々子の言伝に葛藤しながら、妖夢もそれに続いた。
遅れを取らぬよう走って門を潜る。
「……あれ?」
「さて、困ったわねぇ」
意気揚々と一歩目を踏み出した妖夢だが、その一歩目から足を止めることとなった。
「屋敷が……消えた?」
「……見えなくなったわけでもなさそうね」
「門は?」
「ダメ。跡形もないわ」
二人して足止めを喰らう。
妖夢はしばし考えて、それからハッとしたような表情で言った。
「……待て。よく考えてみろ……ここには最初から、何もなかったぞ」
「……何を言ってるの?すぐそこにあったのよ?この目で見たじゃない」
「いや、何もなかった。いいか?よく考えたら何一つなかったんだ」
「熱中症?」
急にうわ言のようなことを繰り返し始めた妖夢。
咲夜がどれだけ諌めても、ずっと「何もなかった」と連呼している。
まるで何かに取り憑かれたように。
「頭の愉快な人なのね」
「何一つそこにはなかった。元からただの竹林だけだった」
「いい加減にしなさい。現実逃避なんて見苦しいわよ」
「私たちはずっと竹林を彷徨っている。何も見つけてなんかいない」
精神が壊れたのか?
顕界にずっといるとこうなってしまうのか。
それとも……本当に何もなかったのか。
あれは迷いの竹林が私たちに見せた幻覚なのか?
そこにはただの竹林しか無かった。
最初から……何も。
「っ!」
「やっと見えたか」
咲夜はまさしく面食らった。
己の目を疑うことなど初めての経験であった。
「あれは……」
「まだだ。あれは幻覚だと思っておけ」
「だけど……なんで『屋敷が現れた』の?」
妖夢は屋敷へと歩み出した。
歩くたびに刀がチャカチャカと金属音を鳴らす。
「おそらく認知と思考を反転させる術がかかっている。要は思ったことと反対に感じるんだ。だから有ると思えば見えなくなる」
玄関の戸に手を当てて、ガラリと開く。
咲夜は呆然とその言葉を聞くしか無かった。
「ならば逆の事をすればいい。簡単な事。無いと思い込めばいいだけだ」
「……なるほど。だからずっとあんな事を……」
「やっと分かったか。さっさと行くぞ」
「あら、私は居なくても心配なさそうだけど?」
「一人よりも二人、なんだろ?」
「ふふ、貴方も案外やるじゃない」
その言葉には返事せず、妖夢は屋敷へ上がっていった。
妖夢と咲夜が、屋敷への一番乗りであった。
夜はいっそう深まっていき、不自然な月光はますます強くなった。
レミリアは一人竹林を歩いていた。
月は吸血鬼にとって重要なファクターである。
それに手を出されてしまったのだから、指を咥えているわけにはいかない。
さらに夜が終わらないと言う大異変。
夜の王たる吸血鬼がまるで眼中に無いかのような狼藉。
心中が穏やかでないのは語るに及ばないだろう。
しかし、彼女の不機嫌には別の理由があった。
「どこに行ったのよ咲夜!」
幼なげな声が竹林に飲み込まれる。
ますます腹が立ち、咲夜へお仕置きをしてやろうと企んだ。せいぜいオヤツ抜き程度だが。
憤懣やる方ない思いで夜を歩む。
すると、竹林の影から一人の人間が飛び出てきた。
あまりの不意打ち。
レミリアは衝突を避けられなかった。
「痛いわね!どこ見て歩いてんのよ!」
「なんだお前?輝夜の新しいペット?」
「うるっさいわねぇ!あんた人間!?」
「どうなんだろう。妖怪かな」
「なら死ね!」
不思議そうな表情をする人間。
その顔を右ストレートでぶっ飛ばす。
首から上が綿菓子のように容易くちぎれて、はるか遠くへ吹っ飛んでいった。
「南無南無……恨むなら己の不運を恨みなさい」
「……あ゙?」
「あら、やっぱり妖怪じゃない」
「ったく。妖怪に用は無いんだけど……邪魔するんならぶっ飛ばすぞ、このクソ妖怪」
「くっくっく……そりゃ楽しみだ。ようやく暴れられそうね!生まれたことを後悔しなさい!」
レミリアの背中からその体格に似合わぬ巨大な羽が現れる。
妹紅はやれやれと思いながら髪をかき上げた。
屋敷の奥へと進む妖夢と咲夜。
外観よりも遥かに広い間取りに、咲夜はどこか親近感を覚えた。
渡り廊下を進み、ある一つの部屋に入る。
何やら異質な空気を纏う畳敷きの和室。
そこに一匹の兎がいた。
「……師匠の言ってた通りね。剣士とメイドがここに来たのは」
ネクタイを締め直し、白みがかった髪をファサリとかきあげる。
その瞳は真っ赤に燃えていた。
「兎は餅でもついてたらどう?」
「月の兎はパン派なのよ」
「月の兎ならセーラー服でも着てなさい」
「月に代わってオシオキするわよ」
鈴仙は手を鉄砲の形にして咲夜に向けた。
懐からナイフと懐中時計を出してそれを受ける咲夜。
「お前は下がってろ!私が相手だ!」
妖夢が抜刀する。
刀の峰には名刀特有の、霞のような艶。
鈴仙は嘲るような笑みを浮かべて言う。
「二人まとめてかかってきなさい。悪いけど時間がないの」
その挑発に呼応して、二人が攻撃を繰り出したのは同時であった。
両方から飛んでくる斬撃を容易く躱し、弾丸を放つ。
拳銃のような威力で飛んでくるそれを、咲夜は時間を止めることで避け、妖夢は素早く刀で弾いた。
「今日は兎鍋ね!」
咲夜が時間を止め、大量のナイフを展開する。
能力を存分に使った得意技の一つだ。
部屋いっぱいに広がる刃物。
避ける隙間などは見当たらないように思えた。
「…………」
鈴仙は、姿勢を低く構え手を耳に添えた。
うさ耳がピョコンと伸びる。
動き始めたナイフが襲いかかる。
しかし、鈴仙は迷いのない動きでそれを避け切った。
咲夜に向かって馬鹿にするような顔をする。
「道化師でも目指してるの?」
「ビショップは二個あるものよ」
不敵に笑う咲夜の後ろから妖夢が現れる。
光沢を放つ刃が振り下ろされる。
一撃で命まで奪われようかと言う強力な一撃。
「いくつあっても同じことね」
鈴仙は妖夢の刀をサラリと避け、妖夢の顔に蹴りを叩き込む。
二の刃を繰り出すよりも先に、妖夢は吹っ飛んだ。
「っぐ!」
呻く妖夢。
立ち上がり、そして舌打ちを打った。
元々近接戦を得意とする妖夢にとって、弾丸による攻撃が主な鈴仙は天敵と言えるだろう。
間合いが狭まらず、喰らうのは一方的な攻撃。
「咲夜!ここは連携だ!」
咲夜が黙って頷く。
妖夢が鈴仙に突っ込んでいった。
咲夜はその後ろからナイフを構える。
「うぉぉ!!!」
刀を上段に構え走る。
咲夜はその後ろから銀のナイフを放った。
ナイフはどんどんと加速し、そして鋭く敵の心臓を射抜いた。
「……っ!?」
刀を落として跪く。
敵は、妖夢であった。
「バレてないとでも思っていたの?」
「な、んで……」
世界が音を立てるように倒壊していく。
グネグネと揺れる水面のように歪む景色。
倒れていたはずの妖夢は鈴仙になる。
そしてずっと戦っていたはずの鈴仙は、顔を真っ赤にしている妖夢になった。
「なりすましが通じるとでも?」
「……私の能力は、完璧なのに……」
「えぇ、全く気づかなかったわ。でもね……」
咲夜は、ナイフを太もものホルスターにしまいながら言った。
「妖夢は私のことを『咲夜』なんて呼ばないのよ」
本物の妖夢が無言で刀を鞘に収める。
冷たい金属音が屋敷に消えた。
「貴方は油断して私に背中を見せた。それが過ちだったわね。なぜなら私たちはここに入る前……絶対にお互いの背中を見せないよう約束していたのだから」
「裏切られないように決めた約束が……思わず役に立ったみたいだな」
ピクリとも動かない鈴仙。
それを見て、先を急ごうとする咲夜。
しかし、そこであることに気づいた。
己の膝が、撃ち抜かれていることに。
鈴仙の手が、拳銃の形になっていた。
その指先から、硝煙が立ち上る。
「はぁっはぁっ……最初から時間稼ぎが目的なのよ……勝とうが負けようがね!」
「貴様!」
激昂した妖夢が鈴仙に飛びかかる。
しかし……。
「はーい残念!」
「っ誰だ!」
「幸運の白兎ちゃん、人呼んで因幡てゐってもんだよ」
「卑怯だぞ!」
抵抗する暇もない。
あっという間に縄で身動きを封じられた妖夢。
膝を撃ち抜かれた咲夜と共に、頑丈な柱に括り付けられた。
全く身動きは取れない。
傷跡を押さえながら鈴仙が笑う。
「最初から二対二だったのよ……まんまと策にハマってくれたわね……これも師匠の言う通りだったわ」
「そうかもね……」
てゐはニヒルな笑みを浮かべた。
それから鈴仙に少し近寄る。
「けどさ、鈴仙」
「なに?」
「アンタがこうされるのも計算済みかい?」
「っ何を!」
「小一時間眠っときな」
てゐが鈴仙の首筋に手刀を当てる。
軽く触れただけなのに、よほど上手く当てたのか鈴仙はまんまと意識を失った。
元からのダメージも相まって、ドサリと地面に倒れ込む鈴仙。
てゐは身動きが取れない三人を部屋に放置して、どこかへと消え去っていった。
月に消えてその姿をもう見ない。
永遠亭の決闘
勝者 咲夜、妖夢(身動きとれず)
敗者 鈴仙(気絶)
?? てゐ(消息不明)
レミリアの咆哮。
それにこだまして大量の弾幕が展開される。
「死ね!」
「殺してくれるのかい?」
レミリアはイラついていた。
咲夜と逸れたのだ。
今回の異変、解決に名乗りを上げたのは誰あろう、咲夜であった。
とはいえ過去二回の異変、その両方で今際の際を彷徨っている咲夜。
事実冥界では一度死んでいる。
それを放任しているわけにもいかず、レミリアが付き添う事にしたのだ。
「ったく、鬱陶しい事この上なしね!」
「お前から仕掛けてきたんでしょ?」
イライラの欠片がどんどんと積もっていって、一つの山になる。
目の前の人間にしてもそうだ。
殺せど殺せど甦っては立ち向かってくる。
どうして人間というのはこうなのだろうか。
レミリアはほとほと嫌気が刺す。
特に、咲夜の暴走っぷりには頭痛がする。
咲夜は死を恐れていない。
異変に乗り込んでは、危険な土産話をもってくる。
誰が手塩で育てたあの娘をあんなにしたのだろうか。
悪影響を与えたのだろうか。
いうまでもない。
アイツだ。
「腐ったミカンも良いとこよ、ほんと」
「あ?何の話だよ」
「ぶっ飛ばしても死なないアンタは雑草。悪い方に誑かす馬鹿は腐ったミカン。うちの果物に手を出さないでくれる?」
「何言ってんだ。けどまぁ、果物なら一皮剥ける必要があるんじゃないか?」
「アンタは刈り取る必要がありそうね」
妹紅が指で輪っかを作り、そこにフッと息を吹く。
すると巨大な火の鳥が現れて、レミリア目掛け突っ込んだ。
それを正面から受ける。
微かに傷ついた体も、一瞬にして元に戻る。
どちらが不老不死かわからないほど、両者化け物じみていた。
それは力の均衡を示し、勝負が長引く事を意味していた。
咲夜が心配なレミリアにとってこれは都合が悪い。
しかし出会った敵は全て倒すというプライドがある。
それこそレミリアにとっての敵であった。
「無意味な争いは辞めたいんだがな」
「あら、死なないから負けないとでも思っているの?」
「永遠に戦えるからな。負けようがないだろ」
「圧倒的な恐怖の前に跪かせる。これが私の勝ち方よ」
「そいつぁ恐ろしいこった」
「不老不死ねぇ。うちの門番の方がよっぽど頑丈よ」
「そうかい。そりゃすごいな。張り合う気もないけどね」
「私はアンタに使える時間なんてないの」
「ならさっさと行けよ。いくらやったって無駄なんだから」
「初心な貴方に敗北の意味を教えてあげるわ」
再度構えを取るレミリア。
妹紅もめんどくさそうに腕を上げる。
はたして終わりが見えなさそうなこの対面。
しかし、事態は急転直下で変化した。
「っ!!!」
レミリアは背筋に何かが走ったような感覚になった。
身の毛がよだつ。
警戒する猫のように。
五百年を生きてきて始めた味わうその感覚。
それは慄きであった。
「こんな夜遅くまでご苦労ねぇ」
妹以外で初めて出会う、自分と同じくらいの妖気。
それも、知恵やハッタリなどではない。
純粋な悪意のみで構成された力。
まさしく暴力。
「さて、どちらから殺そうかしら」
風見幽香が、狂気の夜に現れた。
竹林を蹴りつぶすように堂々と。
妹紅とレミリアを吟味するように見つめる。
日傘をさして少しずつ近づいてくる。
「何で日傘なんかさしてるの?太陽なんか一つも出てないわよ」
「返り血を防ぐためよ」
幽香は不敵に笑う。
大妖怪たる余裕と傲慢さが溢れ出る。
「先に殺されたいのはどっち?」
「真っ先に死ぬのはアンタよ!」
レミリアが激昂する。
しかし、先手を打ったのは妹紅であった。
「お前がここにいるって事は……まさか、アイツもいるのか?」
睨みを効かせながら尋問する妹紅。
幽香はしばし勿体ぶった。
そして放たれた返答は、肯定であった。
「えぇ、そうよ」
「何しにきた!」
「月が綺麗なのよ」
「……は?」
「それ以上の理由なんて無いわ」
幽香は傘を閉じて、その辺に落ちていた石ころを拾う。
そしてそれを軽く放った。
「っ!」
妹紅の眉間に風穴が開く。
弾丸よりも遥かに早い速度で射抜かれた。
石ころはまだまだ止まらず、竹林を割るように突き進んでいった。
「そう言えば貴方、不老不死だったわね」
「生憎な。お前でも私は殺せないさ」
「死ぬ事なんか怖くないの。本当に恐ろしいものとは何かを教えてあげるわ」
「そんなのどうでもいい。貴子はどこに行った」
「さぁ。私が知るわけないじゃない」
「貴子は私らの恩人だ。お前みたいな下衆が弄んでいい命じゃないんだぞ!」
「その下衆に今から弄ばれるのは貴方よ」
月に雲がかかる。
不穏な空気。
妹紅と幽香の拳が交差した。
妖怪相手の鉄則。
それは先手必勝、見敵必殺だ。
つまり先に仕掛けるのは妹紅である。
「おいお前、知ってるか?世の中には相性ってもんが有る。例えば草タイプに炎技は効果抜群なんだ」
「そう。それがどうしたのよ」
「お前と私じゃ相性が悪いって事だよ」
妹紅は拳から紅炎を放ち幽香にぶつける。
微かに肌が焼け焦げた。
「私は不死鳥。炎と飛行タイプだ。お前は草と格闘タイプってとこだろ。分かるか?私の攻撃は少しずつお前をあの世に追い込んでいくんだ」
「何のことか分からないわね」
「私に勝つには水の妖怪でも連れてくるんだな」
「必要ないわね。私とその他では圧倒的なレベルの違いがあるんだもの」
幽香が隙をついて妹紅の横顔を殴り抜く。
まるで豆腐のように妹紅の顔が潰れる。
「所詮は人間、相手をするにはつまらないわね」
首から上が無くなった妹紅を背に幽香は一人ごちる。
しかし、辺りには誰もいなかった。
「あら?吸血鬼は逃げたのかしら」
「そうか……そりゃあ良い」
妹紅が幽香を後ろから抱きしめる。
そして力を込める。
「周りに誰か居たら使えないからな……この技は」
「何をしてくれるのかしら」
「この世で一番威力の高い技を知ってるか?」
「知らないわね」
「自爆だよ」
――爆炎が、妹紅と幽香を包んだ。
辺りの竹林にも引火し、一つの巨大な火柱を昇げる。
メラメラと燃え尽きる二人。
妹紅は消し炭の中から再度蘇った。
「……こんなので死ぬタマじゃないよな」
「今のは何かしら。火傷一つできないわ」
「何回でもやってやるよ」
再び体に豪炎を纏う。
拳と拳がぶつかりあう。
その度にひしゃげるのは妹紅の手。
何度も何度も再生を繰り返す。
「死なないだけなんて退屈ね」
「時間を稼いでるんだよ。今に大変な事が起こるぞ」
「面白い事が起こるのよ」
幽香は妹紅の顔をリンゴのように握りつぶす。
水風船が割れるように血が飛び散った。
返り血で幽香の体が濡れる。
「もっと面白く死んでくれない?」
「お前が見本を見せてくれ」
妹紅が指を鳴らす。
返り血で赤く染まった幽香の服から、熱気が迸った。
「私の血は燃えるんだ」
ゴウゴウと焼ける幽香の体。
辺りの土が溶けそうなほどに温度が上がる。
火柱は空まで届こうかという勢いだ。
そこは更に妹紅も突っ込む。
燃え盛る炎の中へ、自らを燃料にする。
火力はさらに上昇する。
「燃え尽きろ!」
炎の中にいる幽香の顔を、妹紅は殴り抜いた。
血が、ジュッという音を立てて一瞬で気体になる。
しばらく経って、火が止まった。
焦げ臭い煙の中から、幽香が現れる。
頬には一筋の傷がついていた。
「全く目障りね。それに花が燃えてしまったじゃない」
「花は朽ちてもやがて他の花の糧になる。だからこそ散り際が美しいんだ」
「なら貴方は美しくないわ」
「命一つは捨て所ってね」
「あっそ」
幽香は溜息をついた。
殺してもつまらないからだ。
目の前の人間とどれだけ戦っても己の求めるものが手に入らないと悟って、途端退屈になった。
「面倒ね。終わりにしましょう」
「駄目だね。今、お前を貴子に合わすわけにはいかない!」
「もう手遅れよ」
幽香は日傘を開く。
そして妹紅に背を向ける。
敵に背中を見せるという事は自殺行為であり、傲慢であり、そして無礼である。
妹紅は後ろからぶん殴ってやろうと思った。
しかし、そこで悟る。
この勝負の顛末を。
「……っ!」
足が、動かなかった。
地面から、木の根のようなものが生えて足に絡み付いている。
何という植物の根かは分からないが、とにかく頑丈だ。
ピクリとも動かせない。
妹紅は己が敗北した事を理解した。
「花の中には、宿り主に寄生して養分を吸い尽くす子がいるわ。例えば、白檀とか」
「へぇ、勉強になったよ」
「不老不死に寄生したらどんな花が咲くのかしらね」
「……さぁな」
知るかよ。
そう言おうとして、口の中に違和感を感じる。
喉の奥から、大量の花の茎が伸びてきた。
物を言うことすら叶わない。
意識が薄れていく。
全身を、鼻に乗っ取られてしまった。
「永遠の命を養分に育つ花は、さぞ美しいでしょう。それは貴方が燃やした花の報いよ」
棒立ちのまま、妹紅は動かない。
「朝日が昇れば枯れるわ。良かったわね、死ねなくて」
そう言って、幽香は去っていった。
花は月光を受けて怪しく咲き誇るばかりである。
迷いの竹林での乱戦
勝者 風見幽香
敗者 藤原妹紅(花に寄生される)
お久しぶりの更新となってしまいました。
資格の勉強やらなんやらが重なって自己満足の駄文すら書けない始末。今更ですが、お気に入り登録をしてくださっている皆様、本当に有難うございます。
次回はもっと早く書けるよう精進いたします