「ジャガイモの芽は深いからしっかりとる!床は乾拭きを丁寧に!鍋の蓋は煮立ってからしか空けない!」
メイド長代理、先代大女中の紅美鈴の働きは凄まじいものであった。
何人もいる妖精メイド一人一人に、端的かつ的確な指示を繰り出し、その上自分自身も百人分くらいの働きをする。
気になったのは、誰一人としてその指示には反かず、むしろ指示をもらったことを誇りに立てるかのように意気揚々と仕事に向かうことだ。
それが、紅美鈴の長きにわたる従者経験によって培われた仁徳によるものだろうか。
貴子はその目まぐるしい労働に助っ人として呼ばれ、久しぶりの激務に身を焦がしながら思った。
そもそも、妖精メイド達はこんなに熱心に仕事に取り組むような集団だっただろうか。
わたしの知る限りでは、サボり手抜き上等の職務怠慢天国だったんだが。
それ故に、咲夜は時を止める能力を多用し、肉体を酷使しつづけ過労でぶっ倒れたのだと考えていた。
しかし現状、あーも嬉しそうに窓を拭いたり野菜の皮を剥いたりしてるところを見るに、バリバリ働けるそうだ。
少なくとも私よりかは。
つまりは、長きにわたる信頼のある美鈴の言うことは聞くが、新参者の人間である咲夜が言ったことは聞かないって訳だろうか。
なるほどなぁ……。
てか、こんな大人数でやっても目が回りそうなくらい忙しい忙しいと騒いでるような仕事量を、咲夜はほぼ一人でこなしていたのだろうか?
まず常人なら発狂する。
体を壊すどころじゃ無い。
一体一日何時間時を止め、何時間働いていたのだろう。
そりゃ倒れもするし、下手すりゃ時間の止めすぎて早死してしまうだろう。
時を止めたまま能力使用者が死ねば、世界はどうなるのだろうか。
少し恐ろしくなる。
そして……美鈴は、あんなにも働けるのにどうしてメイド長の看板を下ろしてしまったのだろう。
そもそもこの館に門番など必要だろうか?
この館の主人は天下の大妖怪、吸血鬼レミリアスカーレットだ。
時折幼い言動こそあるが、その強大な力たるや、到底敵うものはいない。
門を守る必要などない。
それなら、メイド長を辞めず、もっと時間が経ち咲夜が館の信頼をさらに持っていれば、現状咲夜の仕事はもっと楽だった筈なんだが。
わからないことまみれだ。
その後も美鈴の激は飛び続け、館は大忙しであった。
その日の夕食は、中華料理であった。
天津飯に酢豚なんかだ。
「流石は元メイド長ねぇ美鈴。時も止められないのに館の仕事は終わっている。門番には勿体なかったかしら」
そう零すレミリア。
「意地悪言わないでくださいよーお嬢様」
美鈴は中国茶のパフォーマンスをしながら返す。
「わかっているわ。貴方の思いも。ただ……」
その言葉尻は歯切れが悪く、聞いてお互い美鈴もバツの悪そうな顔をする。
「……これは、私の課す最後の修行なんです」
その言葉を聞いたレミリアが拳を机を叩きつけ、鈍い大音が部屋に響く。
「その修行で、あの子がどれほど……!!」
「お嬢様っ!!」
ピシャリと制す美鈴。
「……あの子はもう気づいています。どうかご理解を」
諭すようにレミリアの前で頭を下げながら美鈴が言う。
「……悪かったわ。私も疲れてるのかしらね」
「いえ、声を荒げて申し訳ありません」
「……美鈴」
「……はい」
「あの子をよろしく頼んだわよ……」
--朝11時(人間で言う夜11時)
私と美鈴は、館の仕事がなんとか一段落ついたので、残った細かい仕事は妖精メイドにまかせ門番の仕事に戻っていた。
一日美鈴式で仕事をしていてわかったが、この館の仕事量は異常だ。
百人単位で女中がいるこの館が暇しないような仕事量だ。
そんな仕事を投げ出さない理由……。
「美鈴さん……咲夜さんってどうしてこの館に?」
「……どうしてでしたかねぇ?忘れてしまいました」
「美鈴さんも気づいているんでしょう?」
私が問うと、美鈴は少し驚く。
「何がですか?」
「いつもはサボってばっかの妖精メイド達が、美鈴さんの言うこととなると態度を変えることです」
「…………」
眉間に少し皺を寄せ、眉毛の角度が狭くなる美鈴。
しかし私は恐れず続ける。
「咲夜さんが疲労で倒れたのだって、極端に気力を使い過ぎていたからです。咲夜さんは……一人であの仕事の量を?」
「えぇ。咲夜さんは毎日あの量をこなしていました。一人でです。……所で貴子さん。妖怪と人間の違いとは何かご存知ですか?」
「話を変えないでください」
「話は変わってません」
即答する美鈴。
私には話が掴めないが、素直に質問に答える。
「……妖怪は強く、人間は弱いって事くらいしかわかりませんが……それが一体……?」
「そうです。人は弱いんです。脆いんです」
「……だったら尚の事、何故咲夜さんがあんな無茶をしているの知った上でほっておいたんですか!?」
私はつい声を荒げてしまう。
その声は空にこだましていき消えていく。
荒げる私とは対照的に、美鈴は冷静に、穏やかに続ける。
「人は弱い……人は、決して一人では生きていけないんです」
「…………」
「私は咲夜さんに、仲間を頼ることの大切さを知ってほしかった。だから部下に無理を言って、わざと仕事をサボらせたんです」
「じゃあ、この館で咲夜さんのことを悪く思ってる者は……」
「そんなのいる訳ないじゃないですか!咲夜さんが倒れた時、一番心配していたのは咲夜さんの言うことを無視していた連中です!」
「そうだったんですね……」
「咲夜さんの頑張りは、みんな分かっているんですよ」
「……っだそーですよ!咲夜さん!」
「えっ?」
岩陰から……寝巻き姿の咲夜さんがふらふらとおぼつかない足取りで歩いてくる。
「美鈴……」
しゃがれた声で、涙混じりの言葉を発する。
その右手には……血のついたナイフが握られていた。
「な、咲夜さん!?何でここに!?それにその右手のナイフは……」
あまりの急な事態に慌てる美鈴。
「聞かしてもらってたの……」
「き、聞いてたんですか?」
少し気恥ずかしそうにする美鈴。
「えぇ。全部ね。お陰で踏みとどまれたわ」
「踏みとどまれたって?」
私はごくりと唾を喉に降ろし、伝えたくない事実を伝えた。
「咲夜さんは……自殺しようとしていたんですよ」
事の発端は数刻前……私が大量のジャガイモの皮むきを終えて、一息ついていた時のことだ。
美鈴との修行の成果で、気を悟れる私は、ある一つの邪気を感じた。
気の源流は咲夜さん部屋の隣の部屋。
私は全速力で駆け上がり、15秒程度でその部屋についた。
ドアに鍵がついていたので、意を決し、そのドアをこじ開けたら、そこにいたのは……ナイフで自分の喉を突き刺そうとした咲夜さんでした。
「何してるんですか咲夜さん!!」
「もう……放っといてくれないかしら……」
「……咲夜さん」
咲夜さんから発せられる気は、まるで枯れかけの老木のようなものでした。
それは精神的にも肉体的にも、疲労困憊し、何をする意欲も湧かず永遠のような抑うつ感に苛まれる……。
咲夜さんは……鬱病だったんです。
「…………」
口を半分開け絶句する美鈴。
その顔は呆然の中に後悔を滲ませた暗い顔だった。
咲夜は、何も言わずにいつものような暗い目をしながら、少し焦点の合わない目で美鈴を見つめていた。
「私は咲夜さんを無理矢理引き止め、この話を告げました。気を覚られぬよう、私の気でカモフラージュしながら聞いてもらったんです。美鈴さんの本音を」
美鈴は少し長めの息を吐いて門の壁にもたれかかった。
そして、空に問いかけるように……自嘲気味に呟いた。
「私は……私は間違っていたんでしょうか」
その問いに貴子は答えることなど出来なかった。
答えなど分からないし、分かったとしてもそれを答えるのは咲夜だからだ。
その思いを知ってか知らずか、答えるべき人間である咲夜はこう答えた。
「……間違ってなんかいないわ。美鈴」
「咲夜さん……」
咲夜は美鈴に一歩近寄り、二歩よろけて、三歩駆けた。
「私は……貴方になりたかった。何よりも強くて、優しくて……でも私は貴方にはなれなかった」
必死に紡ぐように言葉を編んでいく。
声は震え、咲夜の頬には透き通る二本の道が流れた。
少しの嗚咽……しゃくりあげそうになりながら続く咲夜の言葉。
「一人で何もかもを背負うなんて……私には無理だったわ。私は弱かった。誰かを頼る強さを持っていなかったっ……!」
咲夜の曝け出しの本心と静かな歔欷。
「私も……本当は気づいていたわ。美鈴のようにではなく、皆を頼るのが私のやり方だって……」
でも、と接続語を発し、逆説の言葉を繰り出す。
「私は……貴方のようになりたかったのよ……だって貴方は……私の、憧れなんだから……」
咲夜はそう言いきって、疲れたように息を切らす。
美鈴はそれを受け……3秒考えて返答する。
「咲夜さん……」
その返答とはすなわち、目の前の憂愁に満ちた少女を……ただ黙って抱擁することであった。
美鈴は咲夜を優しく抱きしめて、後頭部を柔らかくさする。
少しの間、咲夜は美鈴の胸の中で泣いた。
美鈴も、咲夜を抱えながら泣いた。
二人の間に言葉は無かったが、お互いに許し合い、求め合い、愛し合う確かな声があった。
心から心へと伝わる想いがそこにはあった。
しばらくして、咲夜はメイド長として館の仕事に復帰した。
皆も事情は深かれ浅かれ分かっていたそうで、咲夜のことを悪く思うものなどいるはずもなかった。
そしてまた、前と変わらない日々に戻っていく。
私と美鈴は館の門番として毎日のように厳しい鍛錬(将棋麻雀囲碁オセロ)を積んでいるし、咲夜は今日も忙しそうだ。
変わったことと言えば咲夜の仕事のスタイルだろう。
以前と比べて、明らかに周りの者に仕事を託す事が増えた。
周囲の人間を信じて頼るという、人間の強さを、温かみを始めて持てたのかも知れない。
その顔からは憂いが消えていき、目のクマは薄くなり、年相応の美しい少女へとかわっていった。
美鈴はと言えば、
「私も親バカってもんですねぇ。子供心親知らずとは言ったもんです」
といって笑っていた。
美鈴と咲夜は、お互いを思うあまりお互いに間違えあい、傷つけあった。
これから、一歩づつやり直していくのだろう。
ゆっくり、長い時間をかけて……。
「ねぇパチェ……私の影薄すぎない?」
「ゴホッ……そうね。私に関しては台詞もなかったわ」
どうも、紅魔館の雇われ雑用係こと貴子だ。
この前、咲夜さんと美鈴さんのちょっとしたすれ違いの解決の立役者として関わって久しい。
私は自分でも何故か分からないが、何かと問題を起こしてよく怒られている方だ。
しかし、ここまで怒られた事は一度もなかった。
以前、咲夜さんのブラジャー(分厚いパッド入り)をうっかり何処かへ風に乗せて飛ばしてしまった時も、こっそり美鈴さんと煙草を嗜んでいた時も、レミリア嬢にさりげなくセクハラをした時でさえお説教で済んでいた。
最後のに関しては正座で5時間くらい怒られたが。
しかし今回はよっぽどの事をしでかしたらしく、私は紅魔館の地下にある懲罰房のような所に入れられていた。
一体何に使っていたのか、この懲罰房には拷問器具やら血痕やらが散漫していて、連れてこられた時には流石に肝っ玉を冷やした。
しかし、しばらくそこで大人しくしておけと言われただけで特段肉体的な制裁を下される事は無かった。
まあつまるところ謹慎ってことだね。
さて、じゃあ気になるのは私は一体何をしでかしたのかだ。
その事について3時間ほど前からずっと考えているのだが……まいったなぁ。
昨日の記憶が…全く無い。
確か、昨日は何やら月一か何かやる飲み会的な奴があったんだ。
そこでは上品に酒を嗜む場だったはずなのだが……。
まあ私が何かいらない事をしたのだろうな。
覚えているというか、推測したと言うか……目覚めた時から今までめちゃくちゃに倦怠感と頭痛が続いていたので、おそらく昨日酒を飲みすぎたのだろう。
とはいえ、記憶もない以上反省しようにもできなかったりするので休暇を貰えたと思ってのんびりしていよう。
それにしてもここ……狭いし暗いなぁ……。
――博麗神社
「これは……」
博麗霊夢は悩んでいた。
彼女の身に起きた異常事態について。
ここ、幻想郷では非日常など日常的なものだが、今回の「コレ」は何かが違う……。
天賦の直感を持つ巫女、霊夢はそう思わずにはいられなかった。
そんな事を神社の茶を啜りながら考えている時は、大抵彼女の知り合いである魔女が飛んでくる。
「おーい!霊夢ぅー!!」
箒に跨り古典的魔女服を着込みながら飛んでくるのは、魔法使い、霧雨魔理沙であった。
「何よ。騒がしいわね」
「騒がしくもなるだろ!一体何が起きてやがるんだ!?」
霧雨魔理沙は、騒々しくがなり立てる。
彼女の熱い眼差しと、霊夢の冷めた視線を足して二で割ったもしても熱い眼差しになるくらいには情熱的だ。
「何が起きているのかしらね……ただ、これは間違いなく異変よ」
「そりゃ分かってるんだが……それにしたってこれは一体……」
「あら、アンタにも『出た』の?」
「あぁ……他にも何人かいる……」
「そう……」
霊夢は渋茶を啜りながら少し考えるように黙り込む。
せっかち者の魔理沙はその少しの間も待ってられないようで、せかせかと返答を急かす。
「なぁ霊夢!これは一体何なんだぜ!?」
「分からないわ……とてつもなく強い霊力を持っていると言うことしか」
「私のは銀色の甲冑を纏った人型だ……霊夢、お前のは?」
「私のは……あれよ」
「あれ?」
霊夢が指さしたのは襖……の奥の神社の境内であった。
魔理沙が戸を開け、その指さした先を目を凝らしよく見てみると、半透明な水色の、人の形をした物体が何やら箒とちりとりで落ち葉掃除をしていた。
いや、させられていたのかも知れない。
「あれが私のよ」
「お前コレを掃き掃除に使ってんのかよ……相変わらず呑気なヤツ……」
魔理沙は呆れ口調で溜息を吐く。
「まあいいけどさ、アレとかコレとかじゃ言いにくいから名前だけでもつけとこーぜ」
魔理沙は元気を取り戻し霊夢に提案する。
「そう?私は不便しないけど」
「これからするさ。これはれっきとした異変だぜ」
「ほんと……面倒くさいわね」
「そうだなぁ……決めたぜ!こいつらの事は蕎麦と呼ぶ事にしよう!」
「……変なネーミングねぇ……理由は?」
「私のは、蕎麦屋で飯を食ってたら急に現れたからな。蕎麦屋に現れ立つと言う事で蕎麦だ!」
思わぬネーミングに霊夢は半目で魔理沙を見る。
そんな視線など気にも留めず魔理沙は自慢げである。
「ねぇ魔理沙……アンタのセンスには口出ししないけど、もう少しいいのはないの?」
「んーそうか?うーん……それならスタンド……とでも呼んどくか?」
「あら、いいじゃない。一応聞いとくけど理由は?」
「その蕎麦屋、立ち食いだったんだよ。だからスタンド」
「…………」
霊夢は絶句した。
少しの居心地の悪い沈黙がぬるりと通り抜ける。
「あとは個人個人のスタンドの名前だな……よし霊夢!こうしよう!」
魔理沙の提案はお互いのスタンドに、お互いで名前を付け合う、と言う旨のものだった。
霊夢もまあ暇つぶしにはなるだろうと思ってそれに興じた。
しばしの時が立つ。
「……よし!できたぜ!」
手を墨で少し汚している魔理沙。
墨汁に和紙というのは慣れていなかったのかも知れない。
「……私もできたわ。こんなもんでしょ」
霊夢の手は全く汚れていない。手慣れたものなのだろう。
「それじゃあ一緒に出すぞ!せーの!」
『
『
「あら、なかなかいいじゃない。魔理沙のことだから次はうどん屋とでも言うのかと思ったのに」
「それでも良かったんだがな……カッコ良さ重視だ」
「そう、まあ何でもいいのだけれど」
「私のは銀之戦車か……まあいいぜ」
「何よ。不満なの?直感でつけたんだけど」
「いーや、大満足さ。というより、もっと大事な事があるんだ」
魔理沙は仕切り直すようにそう言って、居住まいを直す。
「何よ。このスタンドとやらの事できたんじゃないの?」
「あぁ……霊夢、お前は今日一度でも外に出たか?」
魔理沙の思わぬ質問に霊夢は言い淀む。
「……いや、出てないわね。朝の祈儀はまだだし、境内の掃除はアレに任せてたし……」
そんなだらしない巫女の話に魔理沙は特になんとも思わず、話を続ける。
「そうか。なら見たほうが早いな」
そう言って、魔理沙が戸を勢いよく開ける。
そこにあった風景……それは、幻想郷が深紅の霧で満たされているものだった。
「……何よあれ。赤い……霧?」
「知らないぜ……これをしでかした奴はとんでもない野郎って事しかな」
霊夢はしばし黙り込む。
流石の魔理沙もその沈黙の意図を察したようで、何も言うことなく待っていた。
少しした後、霊夢は思いっきり溜息を吐いて気怠そうに立ち上がる。
「ほんと……面倒事ってのは纏めて来るものね……」
「そんなお前に一ついい情報をくれてやるぜ」
「なによ。いい情報って。もう蕎麦の話は良いわよ?」
「そうじゃない。この異変についてだ……」
――懲罰房
あー、暇だ……。
一体私は何をしでかしたのだろう……かれこれ3日くらいここにぶち込まれている。
もしかして……もうここからは二度と出してもらえなかったりするのだろうか?
え、私そんなに酒癖悪かったっけ?
レミリア嬢に勢い余ってズキュンしたとか無いよな……?
……うん。大丈夫だ。私は少なくともキス魔では無かった……はずだ。
それに、妖精メイドが飯は持ってきてくれるし、殺されるわけではないと思う。
というより、上の階でドタドタバンバンと騒がしくやってる音が聞こえて来るからには、いつものように忙しく働いているのだろう。
暇すぎる……せめて、美鈴さんみたいに遊び相手が一人でも居ればなぁ……。
あれからも往生際悪く、何度も何度も自分の過ちを思い返してはいるのだが全く記憶に浮かんでこない。
そんなしこたま酒飲んだのか?
いや、たしかにこの館の酒はどれも秘蔵の銘酒と名高い高級ワインとやらだそうだが、全く記憶に残らないなんてバカ飲みしすぎじゃない?私。
不幸な事に隠し持っていた煙草も没収されていて、ニコチン不足でイライラしてきた。
早く出してくれ……。
「ねぇ貴方だぁれ?」
ん?今背中から声が聞こえたような…。
え、タバコの禁断症状って幻聴まで聞こえるようになるの?
結構鮮明に聞こえたんだけど。
「ねぇ?聞こえてるでしょ?」
いや、これ居るな。
幻聴にしては声が反響しすぎている。
何処となくレミリア嬢に声質が似ている気もするが、親族がいるなんて聞いたこともないし……。
じゃあ誰か。
……誰だ。
はぁ、なーんかこの声に呼ばれて振り返ると良い事が全く起こらない予感がするんだけど……まあしょうがないよね。
無視って一番嫌いだし。
「ねぇ……聞こえてないの……?」
「聞こえてるよ」
振り返ったら、そこにいたのは小さな……本当に小さな女の子であった。
金髪で……レミリア嬢にめっさ似ている。
アンルイスと半ライスぐらい似てる。
なんか翼がえらい事になってるけど、遠目で見ればほとんどレミリア嬢だ。
唯一違う点……それは彼女から発せられる気の流れがあまりにも歪であったことぐらいか。
何もんだ?
「聞こえてるなら返事してよ!」
「ちょっと考え事してたから」
「ふーん?ところで貴方だぁれ?」
「嬢ちゃん。良い事を教えてあげるわ。人に名前を聞く時はね」
「自分が先に名乗れ……でしょ?私の名前はフランドールよ!」
「あ、ご丁寧にどうも」
「それで、貴方の名前は?」
「お初にかかります。ここの館で働いている貴子って言うものです」
「聞いてないわよ!」
「えぇ……」
今めちゃくちゃ聞いてたやん……。
それにしてもフランドールか……。
喜怒哀楽というか、情緒の動きが激しすぎるな。
そのペースで感情切り替わってたら感動する小説とか読めないだろうに。
そんな君には、ろくでなし東方という小説をお勧めする。
間違いなく感情は動かない。
てか、レミリアにそっくりなんだけど、レミリアの従姉妹か何かか?
もしかして私が謹慎してる間にレミリアの叔父さんでも来てたの?
そうだとしたら不味い!
危うい!
主にレミリア嬢の貞操が!
「貴子、今めちゃくちゃバカな事考えてる」
「何を失礼な」
「どうせ、私をお姉様の従姉妹とでも思ってたんでしょ?」
「お姉様……ってことはレミリア嬢の妹さん?」
「うん!そうだよ。まあ知らなくても無理は無いけどね」
マジか……めちゃくちゃ大御所じゃないすか。
今までなんで会ったことないんだろうか?
てか妹なのにこんなとこで何してるのよ?
暗くて狭いところが好きな根暗系なのか?
「貴子のせいで今大変なのよ?」
「えっ!私が何をしたか知ってるんですか!?」
「うん。知ってるわ!でも教えてあーげない!」
「なっ!?」
「それを教えたらここから出て行っちゃうもん!」
「出て行くって……そんな大層な事なの?」
「私は面白いけど咲夜はまた倒れそうになってたよ」
おい私……真剣に何をしたんだ!?
それを知ったらここから出るって……ならもうこんな懲罰房でじっとしてられない!
「すいません、ちょっと用事ができたので」
「ここから出て行っちゃうの?やめといた方がいいと思うよ?」
「何があったのかは知りませんが、私に関係あるのは確かなんです」
そう意気込んで、牢の出口に手をかけた瞬間、取手から火花が散り私は吹き飛ばされた。
痛っ!!!
これは……魔法?
「ほら!ここから出るならあれを突破しないとダメ!」
「……パチュリー様の仕業ですかね」
「ううん!違うよ!私がやったの!」
「私を閉じ込めておくように頼まれたのですか?」
「お姉様とか美鈴ばっかり遊んでズルい!私も貴方で!遊びたいの!」
そんな駄々っ子みたいに暴れても私は聞き逃さなかった。
今、私「で」遊ぶとフランドールは言い放った。
え、この館が悪魔の館と言われる由来の方ですか?
しかも、ここから出してくれないと言う意地悪。
しかし困ったぞ……外の事が気になるってのに、このおてんばちゃんのワガママを聞かねばならない。
てか私の命の危険センサーの針が振り切れて折れてる。
レミリア嬢は分別があったからこそ人間の私でもある種の安全感は確保されていた。
目の前のこの子にもそれがあると言う保証は……ない。
元妖怪退治屋の知恵其のニだ。
絶対に勝てない相手と出会い、なおかつ逃げれない時は気を逸らす事を試してみる。
「私で遊びたいですか……けれど、ここには遊び道具なんて無いですよ?」
「貴方がいるわ!」
「私では妹様には少々退屈だと思いますよ」
「うーん?そうかな。じゃあさ!お話ししよう!」
「それなら、お茶でもお淹れいたしますね」
「私ダージリン!」
――博麗神社
「さてと……鍵は閉めたし……火は消したし……うん、大丈夫ね」
博麗霊夢は、この異変の解決は夜に出むくのが良いと考えた。
昼では妖怪が活発でなく、スペルカードルールの練習ができないからだ。
もともと天賦の才を持っている霊夢にそんなもの必要ないが、異変解決には案外プロ意識が高いのかも知れない。
そう、言わずもがなこの赤い霧は、スペルカードルール発祥から初めて起こった異変なのだ。
その博麗霊夢のデビュー戦。
記念すべき第一陣を飾ったのは宵闇の妖怪、ルーミアであった。
「邪魔よ。退きなさい」
「貴方は食べてもいい人類?」
「ダメっていったら?」
「前会った妖怪退治屋が、夜にコソコソしてる人間は食べてもいいって言ってたのかー」
「誰よ……その無責任なモグリは」
――懲罰房
「ハックショオォラァ!!!!」
「どうしたの貴子?オジサンみたいなくしゃみして」
「誰かが私のことを噂してるんですよ……モテる女は辛いですね」
――境内上空
「まあいいわ、肩慣らしに退治してあげる」
「かかってこいなのかー!」
……ボコっグシャっオラァ!!
「……口ほどにもないわね」
血塗れになったルーミアを一瞥もせず、霊夢は吐き捨てた。
すぐさま霊夢はより妖気の強い方へと飛んでいった……。
魔理沙から聞いた情報を元に目的地へと進んでいく。
「……こんな感じでよかったのかー?」
血みどろにやられたルーミアは、さっと起き上がってあっけらかんと言う。
ルーミアの周りには何もいない。
……そのルーミアの目の前の空間に奇妙な亀裂が入る。
その亀裂から、一人の女性が顔を出して言った。
「えぇ……上々の出来ね……これは約束の品よ」
そう言って女は隙間から何かを取り出す。
「待ってましたなのかー」
それは、人間の腕であった。
――魔法の森
「さて、どこからあたろうか」
白黒の服を着込んだ普通の魔法使いは、愛用の箒に跨って何処かへ飛んでいく。
彼女にはこの異変の心当たりがいくつかあった。
その一つが、彼女が今向かっている館だ。
最近、湖に巨大な洋館が現れたとの情報が入った。
その外壁は赤く塗られ、いかにもって感じの建物だそうだ。
「霊夢の奴に先は越させないぜ!」
魔理沙はそう息巻き、より一層飛行速度を上げてフルスロットルで湖の方へ向かっていく。
そして、湖でであった氷精1匹を容易く仕留めた後、赤く血塗られた魔館……紅魔館の門前へとたどり着いたのであった。
紅魔館にはどうやら高度の結界が仕掛けられており、外から中へ近づく事ができないようになっていた。
よって、その中へと入るためには正門を堂々と通らなければならない。
故に、その守りをしている紅美鈴との衝突は不可避だ。
魔理沙と美鈴はお互いに目を飛ばし合う。
「あーどうも」
「よっす」
魔理沙と美鈴の間に交わされた言葉はそれだけであった。
まるで、旧年の友のように軽く、短く。
それだけの言葉を交わせば、彼女たちにはわかるのだ。
戦闘の合図。
魔理沙と美鈴の戦闘は前置きもなく始まった。
美鈴は軽く構えを取り、魔理沙も右手にミニ八卦炉、左手で箒を持つと言う特有のフォームを取る。
事前に枚数を宣言し、それらをぶつけ合う。
ガチンコではない。
命と命をぶつけ合うものでもない。
あくまでそれらは優雅で、厳美な遊戯。
そして、数刻も経たぬうちに呆気なく戦いは終わった。
傷ひとつなく勝利し地に足をつけたのは、魔理沙であった。
「門番がこれじゃあ中の野郎も知れたもんだな」
「面目ありませんお嬢様……一人ならず二人までも」
「…今二人って言ったか?もしかして私より先に紅白の巫女が来てたのか!?」
「ええ、二人も通してしまうとは……本当に不覚だわ」
美鈴の返事を最後までろくに聞くこともなく魔理沙は飛んでいってしまった。
「くそっ!先を取られた!」
「……どうしてあんなに手加減をしたの?紅魔館の門番……紅美鈴でよかったかしら?」
空間に亀裂が入り、その亀裂からまたもや金髪の女が顔を覗かして言う。
道士風の服を着た妖しい女だ。
「なんのことだかわかりませんねぇ……それと、今は館内終日面会拒否です。申し訳ありませんがお引き取り願います」
美鈴はそう言って魔理沙が開けっ放しにしていた門を見せつけるようにわざと大袈裟に音を立てて閉じる。
「すぐに終わる話ですの」
そう言って歩みを止める事なくその胡散臭い女は近づいてくる。
そうして美鈴の横を通り過ぎようとしたところを美鈴が拳を握った腕を出して止める。
「ここは通らせないって言ってるんですよ」
「……動けなくなる術を貼ったはずなのだけれど、思ったよりはやるのね」
「お引き取りください」
「あら、なら私も貴方に勝って通らせてもらいますわ」
そう言って、金髪の女が大きく二回手を叩くと、空中にできた隙間から、誰かが出てきた。
これまた黄金色の髪を耳のようなものが付いた帽子の中に押し込んだ端正な顔立ちをした絶世美人が出てきた。
その背中には、9本の尾が生えている。
九尾の妖獣……それは、目の前の女が空前絶後の大妖怪である事を意味している。
そしてその比率の整った顔立ち。
美鈴が暖かい美人だとすれば、目の前の妖獣は冷たい美人とでも言うのだろうか。
その色合いや顔立ち……対面する二者はあまりにも対照的な気を纏っていた。
「手短に頼むわよぉ藍」
隙間から顔を出してそう言う女。
藍と呼ばれた妖獣は抑揚のない声で返事をする。
「承知しました」
美鈴は武の達人だ。
その構えには無論隙はなく、黄金比のように究極的に完成されている。
対して、藍の構えは独特である。
自然体のようにするりと立ち、両袖を合わしその中に手を仕舞い込んでいる。
次の瞬間、美鈴の右の回し蹴りと、藍の左足から放たれた後ろ回し蹴りが交差し火花を散らす。
恐ろしいまでの轟音が、その攻撃の威力を物語っていた。
――廊下
うーん……ここ、こんなに広かったっけ?
門番を倒して中に入ったはいいけど、なかなか元凶に会えないわ。
向かってくるのは雑魚の妖精メイドだけだし。
さっさと元凶をぶちのめして帰りたいのに。
……あのドアの先に、何かいるわね……。
今までの雑魚とは違う何か。
ちょうどいいわ。
私のスタンドのスタープラチナの力を試せるかも知れない。
何この部屋汚ったないわねぇ……。
宴会でもしてたのかしら。
ちゃんと掃除しなさいよ。
「あー、お掃除が進まない! お嬢様に怒られるじゃない!!」
「あなた……は、ここの主人じゃなさそうね」
っ危ない!
スタープラチナ!!
「危ないわねぇ!ここの館のメイドはいきなりナイフを投げるよう躾けられているの?」
「貴方……あなたも『それ』を持っているのね。私のザ・ワールドの前では無意味な『それ』を」
どうやら勘は鈍っていないようね。
ザ・ワールド……。
私のスタープラチナの力を試すに相応しいわ。
私のスタンドは力と精密性に優れている。
メイドが急に飛ばしてきたナイフを弾き飛ばしたのもお手の物だ。
「向かってくるのね……逃げずにこの私に近づいてくるのね」
「近づかなきゃアンタをぶちのめせないからね……」
「なら十分近づくがいいわ」
歩み寄る咲夜と霊夢。
ぶつかり合う互いの気迫。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
先手を打ったのは霊夢のスタープラチナであった。
放たれた神速の拳を蹴りで迎え撃つ。
「のろいのろい。ザ・ワールドは最強のスタンド。能力を使わずともスピードとパワーとて貴方のスタープラチナより上なのよ」
ザ・ワールドの金色の姿を晒し、咲夜は不敵に笑う。
「ザ・ワールドの力を試してみたかったのだけれど、試す必要もなかったわね」
「試すっていうのはキズにもならない撫でるだけのことを言うの?せっかく着てきた巫女服は破れたけど」
「どうしてこう博麗家というのは負けず嫌いなのかしら?まぁいいわ。その下らない挑発にのってもうすこしだけ試してやるわ」
今度はザ・ワールドの拳が放たれる。
その拳を少しずつ押されながらも弾き、逆に拳を返す。
スタープラチナは目にも止まらぬ速さで乱打した。
残像で拳がまるで数十本もあるように見える。
「突きの速さ比べか……」
霊夢と咲夜
スタープラチナとザ・ワールド
その激烈の拳が金属音のような音を立てて何発も何十発もぶつかり合う。
火花を散らしぶつかり合う拳。
両者は、その喧騒による血の沸りを抑えられずに思わず叫んでいた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」
――大図書館
「ここは……図書館か?後でさっくり頂いておこう」
霧雨魔理沙はそんな邪な考えをしながらふわりふわりと飛んでいた。
そこに今にも倒れそうな痩せ細った少女が飛んでくる。
「そこの黒白!」
その声は細く小さい。
耳のいい魔理沙でなければこの広い図書館では聞き逃していたかもしれない。
「お?やっと手応えのありそうな奴が現れたぜ」
「私からすれば有象無象よ」
そう言って勝負を始める。
無駄な言葉は交わさない。
それが、普段嘘つきで多弁な魔理沙の勝負の美学であった。
が、パチュリーは純正の魔法使い。
魔法のぶつけ合いとなってしまえば勝負は明白である。
それは魔理沙も重々承知していて、それをカバーすべく細かく動いてパチュリーを錯乱していた。
「小賢しいわね。まるで小虫だわ」
「お前がとろいんだぜ!」
魔理沙は自身のスタンド、シルバーチャリオッツの剣捌きを活かし、圧倒的とも言えるパチュリーとの魔法の技術の差を埋める。
スピードで翻弄し、スタンドで魔法を捌く。
その隙に攻撃を返す。
なかなかできた動きではあるが、パチュリーの守りは硬く決定打には至らない。
その攻防は長く続き、場は煮詰まっていた。
「ゲホッゲホッ…」
パチュリーが咳き込み、魔法弾の射撃が止まる。
その隙を見逃せるほどの余裕は魔理沙にはなかった。
「喰らえ!マスタースパーク!」
「っく!」
パチュリーは右手をかざし一筋の赤い光を放つ。
その光はマスタースパークとぶつかり、目を開けていられないほどの強い劇光を放った。
「くっ眩しい!」
魔理沙は思わず目を閉じたが、同時にパチュリーに勝つ算段を思いついていた。
――懲罰房
「それで、そのおじんに言ってやったんですよ!」
「なんてなんて?」
「仏だけに、ほっとけって」
「……貴子、ダジャレばっかりでつまんなーい」
「なっ、バカ受け必至のこの鉄板トークがつまんないとは……フランドール様のギャグセンス……恐ろしい」
「誰も笑わないよそんな話!ってか、私のことはフランで良いってば」
「そんな、レミリア嬢様の妹様をそのようには呼べませんよ」
「私が呼んで欲しいんだから呼んで!フランちゃんでも良いよ!」
「善処いたします」
「それよりもっと面白い話してよー」
「それじゃあ、これは3年前の話なんですけど……」
――レミリアの部屋
「うー……頭痛い……」
レミリアは激しい頭痛に悩んでいた。
誇り高き吸血鬼が二日酔いなどありえない話だが、酒が入ると貴子の話はいい肴となりいつもよりも激しめに飲んでしまっていた。
これから博麗の巫女が来るというのに万全とは言えない。
レミリアは貴子の迷惑加減に結構大きめな溜息を吐いた。
――中央ホール
「フフフ……やはり私のザ・ワールドの方がパワー精密さともに上よ!」
「くっ……!!」
咲夜と霊夢、その突きの速さ比べは咲夜が制した。
瞬きすらも及ばぬ短い時に生まれた隙。
その隙を咲夜がついたのであった。
「ここらで遊びのサービス時間は終わりよ……霊夢、一気にとどめを刺してあげるわ」
睨み合う咲夜と霊夢。
牽制し合うスタンド。
霊夢は咆哮した。
「うおおおおおおおおお!!!!」
「とどめを刺すのはやはりザ・ワールドの真の能力ッ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「ザ・ワールド!!!時よ止まれ!!」
霊夢へと歩み寄る咲夜。
その右手には銀星のナイフが握りしめられている。
「これでとどめよ……!」
そう思い、右手を振り上げた時、微かに霊夢の指が動いた。
「っな!」
一瞬にして飛び退き距離を取る咲夜。
「今、動いたわ!ま、まさか!」
咲夜の脳裏にはある会話が浮かんでいた。
『同じタイプの……スタンド!』
『同じ』『能力』
「……っく!見えているのか!?それとも意識せず動かせただけか?…………ッチ!時間切れね……」
「……オラオラァ!!!」
霊夢は瞬間移動のように一瞬にして居場所を変えた咲夜を見やる。
「見えているの?……見えているのかと聞いているのよ!」
激昂する咲夜に対し、霊夢はお得意のクールな顔で返す。
「さあ?なんのこと?わからないわ」
そう言って仲を舞い三度の拳のぶつけ合いが始まる。
「貴方のスタープラチナの力を見せてもらうわ!ザ・ワールド!止まれ!時よ!」
咲夜が近づくとまたしても霊夢の指が動く。
しかし、咲夜は何かに気づいた。
咲夜は右手を霊夢に近づける。
するとまた霊夢の指が痙攣する。
「……フフフフフ……ハハハハハハ!!!」
咲夜は自身の右手に貼り付けられた何かの紙の切れ端を霊夢へと放る。
それは霊夢の手へと飛んでいき、そこにあったお札の端っこへとくっついた。
そして一枚のお札へと元通りになった。
「お札をつけていたのね。恐らくは千切れると元に戻ろうとするものを。さっきの力比べの時につけていたというわけね。フンっまんまと騙されたわ」
咲夜はやれやれと肩をすくめる。
そして今度はザ・ワールドを出現させ、大きくその拳を振り上げた。
「そんなイカサマのトリックは止まった時の中を動けないことの証明!寿命がほんの数秒伸びたに過ぎないわ!」
振り下ろされる拳。
「今度こそ!死ねい!霊夢!」
ザ・ワールドの拳が霊夢の眼前僅か数ミリへ迫ったところで、霊夢のスタープラチナの右拳は咲夜のザ・ワールドの腹を貫いていた。
「っな!!なにぃ!!」
「…………」
「本当は動ける!お札のトリックは動けないと思わせて私を惹きつけるためのトリック!っく!」
時が動き出す。
吹っ飛ぶ咲夜。
拳を戻す霊夢。
「動けるところを動けないと見せかけるお札のトリックでぶっ放したは良かったけれど、それじゃあ足りないみたいね……」
「っく!なら、こうするまでよ!!」
咲夜の手にはいくつもナイフが握られていた。
「何秒動けようと関係ない処刑を思いついたわ!」
「それは!」
「青ざめたわね……勘のいい貴方は自分の末路を悟ったようね」
「なんて事をおもいつくのよ……これはヤバいわ」
素早く距離を取る霊夢。
「逃れることは出来ないわ!貴方はチェスや将棋でいう
またしても時が止まる。
そして、霊夢の周囲には何本も何十本も、あるいは何百本もの鋭利なナイフが止まっていた。
咲夜のザ・ワールドがナイフを投げ続ける。
「今のうちに減らしておかないと後で苦労するわよ」
悪い笑みを浮かべながらそういう咲夜。
「……っオラァ!」
一瞬だけ動くもすぐに止まる霊夢。
「動けるのはそれだけのようね」
宙に静止する霊夢。
その近辺に漂う夥しい数のナイフ。
咲夜は懐中時計を懐へしまった。
「時は動き出す」
「っオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
スタープラチナも捌ききれぬほどのナイフ。
「っぐぐう!!」
それらは全て博麗霊夢を襲った。
深くめり込み肉を裂くナイフ。
「終わったわね」
博麗霊夢は地へ落ちていき、そこに勢いよく倒れた。
――門
時刻は夜。月光すら届かないような深淵の中に明るく輝くように場所があった。
打撃と打撃の強烈な当たり合いによって舞い散る火花。
虹色に輝く妖気と藍色に蠢く妖気。
その衝突と混ざりあいは強い光を放ち、まるで周囲は昼間のように明るくなっていた。
それらの元凶は紅魔館の門番である紅美鈴と九尾の大妖怪、八雲藍。
藍は驚いていた。
美鈴の強さにだ。
そもそも、同じ力量同士なら両手両足、せいぜい頭突きぐらいしか出来ない美鈴に、9本の尻尾を持つ自分とでは勝負にならないと思っていた。
手数が違う。
一本一本が強力な力を持っているのにそれを9本束ねてもなお弾き、いなし、返し技を打ってくる。
その事に驚いていた。
「……何故9本の尾に対応できる」
「手なんて、何本あったって一緒です」
「何をっ……それは私の攻撃が鈍いという意味か?」
「違いますよ。貴方は一人で、背中に尻尾が付いている」
「だから、正面をとっていればいなすのは容易いと」
「ええ、昔ヤンチャな時に喧嘩した千手観音とか阿修羅とかが教えてくれました」
「お前は……一体」
そして、二者の攻防は今まさに決着しようとしていた。
右手と左手、右足と左足がぶつかり合う。
武を極めた者同士の組合はまるで、鏡のように左右対称である。
攻撃と防御の表裏一体の流動。
そして攻撃を止めないように美鈴は掌底、手刀、構えを落とし後ろ回し蹴りを繰り出す。
その蹴りに右足で合わせんと足を振り上げる藍。
しかし、次の瞬間藍の鋭い右足は音を立てて空を切るだけであった。
間合いをしくじるなんてへまは絶対にしない。
しかし足は何ともぶつからなかった。
ぶつかったのは、美鈴の右拳と藍の顔面であった。
地面と並行になるくらいのけぞった藍。
尻尾を使いなんとか持ち堪えるも、その隙はこの勝負の間に置いてあまりにも大きすぎた。
美鈴の足が天を衝くように振り上がる。
そして、虹色の光を放ちながら、藍の顔面に踵落としが刺さった。
しばしの残心……そして藍の纏っていた気が緩んだのを見て、構えを解いた。
「お前……」
「あぁビックリした。まだ喋れるんですか」
「何をした……どうして右の蹴りがこない……」
地面に寝ながら息も絶え絶えにいう。
「確か130発目くらいでしょうか。私は貴方にある法則を見つけました」
「法則っ……?」
「単純ですが、同じ角度、スピード、威力の攻撃を、貴方は全く同じ動きで返すんです。寸分の狂いもなく」
「……だからか。精密に言えば、132発目の右正拳突きだな」
「……えぇ。そしてもっとも返しの隙が大きかった右足の蹴りを誘うことで、やっと右の正拳が届きました……最後の正拳は全ての気を纏わせた究極の一打です。だから、その攻撃を受けられてしまえばい私の体には気が残っていない故、即死です。それは賭けでした」
「……なるほどな。完敗だ……もう一ついいか?」
「死人に口なしですよ?」
「冥土の土産だ。お前の正体はもしかして……」
「私の正体なんて、しがない門番……ただそれだけですよ」
その返事を聞いて、フッと口角を上げて意識を飛ばす藍。
その寝顔をみて、美鈴はほっとため息をつく。
紙一重の戦いを制して、落ち着いたのだろうが、彼女は身に纏っている剛気を収めることはなかった。
「あら、そんなに敵意を向けられると困りますわ」
「今日の所はお引き取り願います。これが最後の忠告です」
「えぇ、そうさせて貰いますわ。まさか藍が負けるとは……帰ってお仕置きね」
扇子をパタンっと閉じる。
「いや、この子は少し貸してもらいます」
藍を起こして肩を貸すように組みながらそう言う美鈴。
その頬は紅潮し、にへらにへらと笑っている。
「どうしてかしら。その子は貸し出しなどしていないのだけれど」
返すその目に光は灯っていない。
「この子……可愛いですよねぇ……」
締まりのない顔をしながらそう言う美鈴の瞳にはハートがあるように見えたとか見えなかったとか。
「……優れた武人の中には、組み手が終わるとその極度の緊張からの開放による反動で発情してしまう者がいたそうだけど……貴方」
「明日には返しますので……それでは」
そう言って何処かへ……門番の詰所へ飛んでいく美鈴。
お姫様抱っこのように藍を抱えながら軽々と飛んでいく。
「……頑張れ!藍」
紅魔館門前での戦い
勝者 紅美鈴(八雲藍をお持ち帰り)
――大図書館
「お前のスペルを見ているとお勉強してる気分になるぜ」
「貴方には高度すぎるかしら?」
赤青黄緑……さまざまな属性の魔法を放つパチュリー。
その一つ一つの術式が模範的で無駄がなく、戦いながら魔理沙は感心していた。
対して魔理沙は一本気に火力を出す。
持ち前の機動力で流しながらも、少しずつ追い詰められていく感覚を理解していた。
「逃げても無駄よ!私の上に飛んだって変わらないわ」
「いーや変わるぜ!煮詰まっていた場がな!」
パチュリーの撃った魔砲は天井に当たり揺らす。
それによりかなりの量の埃が舞い散ってしまった。
「っゴホッゴホッ…!!」
喘息持ちのパチュリーがそれに耐えられるわけもなく、案の定激しく咳き込む。
「それを待っていたぜ!マスタースパーク!!!」
「っ!」
魔理沙のマスタースパークを迎え撃つために右腕から再度光線を放つ。
強大な質量のぶつかり合いにより激しく発光する。
それにより少し目を瞑った。
そしてマスタースパークが止んだ。
空からは、魔理沙のかぶっていた帽子と箒がヒラヒラと舞い落ちてくる。
「まだ!終わってないぜ!!」
「っ!」
振り返りながら魔法を詠唱するパチュリー。
しかし魔理沙の投げた『何か』によってそれは防がれた。
「喰らえっ!コショウだ!!」
「ぅハックシュン!っヘックション!」
くしゃみが止まらないパチュリー。
当然詠唱はできない。
「これで!私の勝ちだぜ!」
そう高らかに言い放つ魔理沙の手には特大ハリセンが握られていた。
しかし、その素材は鉄のため、殺傷能力は折り紙付きである。
「…参ったわ。なるほど。盲点ね」
「私とお前の攻撃がぶつかった時のあの発光。あの隙にお前にこのシルバーチャリオッツで近づいたってわけだ。本当は魔法で決着をつけたかったんだがな」
「囮ってわけね」
「陽動ともいうぜ」
「ええ……本当に参ったわ」
「なんだ?命乞いか?」
「私たちも陽動をしていたからよ」
「っ!?」
後ろから何者かに羽交い締めにされる魔理沙。
そして驚くほどの手際でロープでぐるぐる巻きにされる。
「おいっ!卑怯だぞ!」
「まあ落ち着きなさい。私がなんのためにあんな初級魔法ばっか使ったと思ってるの?」
「それしか使えないからじゃあないのか?」
ため息をつく。
「貴方、魔法使いを目指すなら今からいう話を頭に入れなさい」
そういって、小悪魔に何やらホワイトボードも持たせてくる。
「うげ、まさか」
「えぇ、そのまさかよ。今から授業をしてあげるわ」
大図書館の戦い
勝者 パチュリーノーレッジ(魔理沙に魔法の伝授)
――ホール
「博麗の巫女……貴方の命を早めに断ててホッとしているわ」
「……………待ちな…さい……」
立ち上がる霊夢。
その体には何本もナイフが刺さっていて、床にできた血溜まりに霊夢が反射している。
「ほう、生きていたのね。それなら!正真正銘最後の攻撃よ!時よ止まれ!!!」
時が止まる。
動けなくなる霊夢。
「フフ…1秒経過……2秒経過……」
咲夜は、時を止めたままなぜゆえか姿を消した。
しかし霊夢は、考えるのをやめた……………。
咲夜が何をしてこようと……咲夜が静止した時の中で二秒間だけ動くことのできる霊夢をどんな方法で攻撃してこようと……。
『もらった2秒という時間だけスタープラチナをブチかますだけよ』
(私が思う確かなことは咲夜!あんたの面を次見た瞬間多分…私はプッツンするだろうと言うことだけよ)
「6秒経過……7秒経過……!!」
霊夢に巨大な影がかかる。
上に何か巨大な物があるのだ!
(きな……さい、咲夜!!!)
「っ!!!」
「お嬢様の銅像だぁぁぁぁっ!!!!」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
「もう遅い!脱出不可能よ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
「8秒経過!ぶっつぶれなさい!!!」
「オラァ!!」
巨大な銅像が、見た目通りの巨大な音を立てて地面に落下する。
「勝った……博麗の巫女に勝った!!やはりザ・ワールドこそ最強のスタンドよ!さて、死体も増えたし、お掃除しなきゃ。跡形が残っていればの話だけど……」
そう言って銅像から降りようとする咲夜。
そこである違和感に気づく。
「な、なに?体の動きが…鈍い?……いや違う……動けない!馬鹿な!まったく体が動かない!?」
「11秒経過よ。動けるのはそこまでのようね……咲夜!!」
「っ!!!」
「私が時を止めた……9秒の時点でね……そして脱出できた……やれやれだわ……」
咲夜の後ろに、霊夢が立っていた。
血みどろで、ズタボロで、そしていつものように鉄仮面を被っている。
「これからっ!アンタをやるのに!1秒もかからないわっ!」
「れっ……霊夢!!!」
大きく息を吸う霊夢。
「ッオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァ!!!!!」
スタープラチナの白銀の拳が、無数の礫となって、まるで流星群のように降り注いだ。
咲夜は気を失い、ぶっ倒れた。
「……やれやれだわ。あんたの敗因はたった一つよ。咲夜。たった一つの単純な答え。」
「アンタは私を怒らせた」
ホールでのスタンドバトル
勝者 博麗霊夢 瀟洒 十六夜咲夜
何かご意見いただけると嬉しいです。いや本当に