ろくでなし東方   作:ほろ酔いちゃん

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最終章です。
ろくでなしは最後に夢を見るか?


最後の最初

 

夢を見た。

……明晰夢とか予知夢とかそういうチャチなモノじゃない、もっと克明な……敢えて言うなら現実よりもリアルだった。

脳が記憶整理のおまけで見る奇天烈な世界じゃない。

あまりの彩度に起きた後もしばらく体から緊張が抜けなかった。本当にとんでもない夢だった。

決して悪夢じゃない。

だが(こんな言葉が有るかは知らないが)吉夢でも決して無いだろう。

それはこんな夢だ。

 

――私は湖の上に立っていた。

泳いでたんじゃなく、水面が陸地のような質感になっててその上に立たされていた。

軽い揺れに耐えながら、私は誰かを待っていた。

誰かはわからないがとにかく待っていた。

いくばくもしない内に段々と天気が荒れていって、雷を伴う大嵐がやってきた。

深浦の十二湖みたいな透き通った湖が、雨風を受けて大きくたわむ。

その上にいる私はまるで地震に襲われたみたいに平衡感覚を奪われた。

押しては引いて、湖底の砂が舞い上がり水中が濁る。

風は吹き荒び今にも私を吹き飛ばさんとした。

だが私は誰かを待たなくてはならない。

顔すら見知らぬ誰かのために、この苦境を耐え凌がなくてはと躍起になった。

私は跳ねる水飛沫を手で掴み吹き飛ばされぬよう必死に耐えた。

ずぶ濡れになった体を目掛けていつ雷が落ちてきてもおかしく無い状況。

何が為に待たされているかは知らないが、こんな中で私を待たせた奴はぶっ飛ばしてやる。

確かな怒りが心にあった。

そして――とうとう待ち人来たる。

青白い火の玉のようなモノがフヨフヨと舞い飛んできた。

私の近くで止まったそれは一層明るみを増して形を変える。

火球はどんどん人の形に近づいていき、やがて完全な人になった。

顔を一眼拝んでやろうとしたところで、次に私の目に写ったのは、見慣れた天井だった。

夢か……。

そう思って溜息を吐こうとした時……今でもにわかに信じられないけど、声が聞こえた。

出所はわからないがハッキリと。

少し高めの女声でこう聞こえたのだ。

 

「明日また会いに行く」

 

寝ぼけた故の幻聴なんかじゃ無い。

絶対に声として聞こえていた。

驚いて近くを探し回ったけど、人影らしきものすら見当たらず倦怠感と恐怖だけが後に残った。

明日、何かが来る。

そしてその明日は、今日だった。

 

「……曇りか」

 

化粧を忘れたお天道様が恥ずかし紛れに顔隠す。

路端に伸びた芒の先が風も無いのにたなびいた。

褒められたって嬉しくないが、私の予感はよく当たる。

悪い予感なら尚更当たる。

夢を信じた馬鹿ならまだ良し。

救えないのは当たる夢。

 

「……鬼気迫ろうが夢は夢。怯えて暮らすのは馬鹿馬鹿しいか」

 

平生から面白い夢を見たとか、そういう話が嫌いだったがいざ自分が見てみると確かに誰かに話したくなる。

あの夢はそういう、一種の妙な力を持っていた。

気は進まないけど、博麗の奴に相談してみようか……。

曇天はますます暗さを増し、今にも一雨降り出しそうであった。

 

 

 

私はあまり神社へは行かない。

母数が少ないってのもあるけど何より深刻なのは、私が神社に行こうとするといっつも雨が降ることだ。

私らみたいな一般人からすれば神を拝むなんて気分の問題で、まして雨なんかに打たれたら良い気分にはならない。

実際、今日も空には分厚い雲がかかってて今にも天が泣き出しそうだ。

神様は私のことが嫌いなのかしらん。

もう一つ面倒なことに、ここから神社までは遠いのだ

なんだかんだで人里に住んでるけど、ここから博麗神社までは少し離れている。

直線的な距離で見たらそれほと遠くはないが道中で妖怪に襲われるリスクなりを考えたら近いとは言えないだろう。

余談だが妖怪退治屋の役割といえばそういう危険な道を安全に案内することだ。

一度里の偉いさん方が妖怪退治屋の組合を作って一元管理しようと企てたらしい。

だが結局殆どの妖怪退治屋が外れ街に住んでるような輩ばかりで頓挫したらしい。

そりゃ上手くいかなくて当然だろう。

私が言えたことじゃないが、妖怪を殺して稼ごうと考えるような連中はクズばかりなんだから。

私だって大手を振って表通りは歩けない。

人目を忍びながら裏路地をこそこそ歩かねばならない身だ。

愛に満ち溢れた素晴らしきこの世界だが、どうにも妖怪退治屋への差別は根深かった。

連中のガラの悪さも原因の一つだが、妖怪退治屋が外れ街に住む主な要因は人里からの差別だ。

神を信じぬ私からすると、世間の信心深さは並大抵ではない。

まして、妖怪を素手でぶん殴っちまうような仕事。

ケガレだの、ヨゴレだの。

迫害する理由なんて腐るほどあるさ。

妖怪退治屋は、人間達の頼もしい味方だとは思われていない。

むしろ妖怪じみた連中だとして下らぬ差別を受けていた。

博麗霊夢とて、その例に漏れない。

年端も行かない少女が山のような大妖怪を捩じ伏せてしまうのだから、確かに恐れるなという方が無理かもしれない。

でも、人里の中には心ない奴らがいる。

巫女を化け物呼ばわりするクソ野郎どもがいる。

堕落しながらも分け隔てのなかった外れ街の方が幾らか上等に思えて仕方ない。

私は半分くらい自分の意思でこの仕事についた。

一番手軽で、毎日働かなくて良かったから。

あの巫女はどうなんだろうか。

重すぎる立場に自分の意思はあったのだろうか。

……まぁ、大丈夫か。

なんせ私らみたいな被差別の民と違って、人に恵まれてるだろうからな。

 

「……やっと着いたか」

 

すこし熱の篭った森を抜けて苔むした石段を登る。

丹塗の剥げつつある鳥居をくぐればそこに博麗神社だ。

何であれ来たからにはひとまず参拝かな。

イの一番に手水舎で心身を清める。

山間にあるだけあって湧水はとても澄んでいた。

喉も乾いてたからそのまま飲みたかったけど、一度それで腹を壊しているから我慢した。

拝殿に向かい、カランコロンと乾いた鈴を鳴らす。

あの独特な音色は、日本人なら何故かめでたく感じてしまうもんだ。

一際丁寧に手入れされた賽銭箱へ小銭を投げ入れる。

子供の頃、いたずらで小石を入れてカンカンに怒られたものだ。

今でも小石くらいのものしか投げれてないが。

背筋を伸ばし、深呼吸。

腰から二度深くお辞儀。

胸の高さくらいに手を持ってきて、両手を合わせる。

この時、右手は少しずらしておく。

心を込めて、二度柏手を打ち最後に深く、お辞儀する。

願うのは健康と安穏だ。

 

「……意外と作法に詳しいのね」

 

一通りの参拝を終えたと同時に、拝殿の陰から箒を持った霊夢がやってきた。

その表情は海辺に転がるクラゲの死体を見た時に等しい。

 

「意外と信心深いのかしら?」

「尿意がなくてもトイレに行ったら用を足すだろ」

「そんなものを神様と一緒にしないで」

「意外と信心深いのか?」

「巫女なんだから当たり前でしょ」

「今時の巫女は異変を解決したりするんだな」

 

霊夢の眉間に皺が入る。

しまった、軽口が過ぎたか。

 

「何しに来たのよ」

「少し、相談しにきた」

「……はい」

「へ?」

 

霊夢が手に持っていた箒をつっけんどんに手渡してきた。

どういうつもりだろうか。

 

「どうせお金、持ってないんでしょ。料金は労働で前払いよ」

「まだ何一つ内容を伝えてないぞ」

「相談料」

「……ろくな死に方しないぞ」

「よく言われるわ。階段を綺麗にしたら呼んでちょうだい」

 

キッパリそれだけ言って拝殿の奥へと消える霊夢。

あそこまで徹底した料金前払いは絶対に仕事をミスらないという自信か、はたまた極度の拝金主義か。

何であれ、やらない事には話が進まなさそうだ。

全く面倒なことになった。

まだまだ暑さは健在だってのに。

 

 

 

――三十分ほど経って。

 

「おーい、こんなもんで良いかー?」

「ん、良いんじゃない」

「テキトーかよ」

「そんじゃさっさと上がりなさい」

 

招かれるまま社殿の奥、霊夢の住居らしき所へと進む。

自然に囲まれていて風情があるのはいいが、少々年季の入った建物だ。

柱には細かい傷が入ってるし、床板が軋む音は不安を駆り立てる。

しかし社の傷みはそれだけ長い歴史を物語っていた。

 

「良い建物だな」

「建てた奴に言いなさいよ」

「住んでる奴がダメならこうはならないよ」

「はいはい」

 

何を言おうと返ってくるのはだるそうな相槌。

このやろう、社交辞令ってのを知らないのか。

 

「はい、お茶」

「あぁどうもどうも」

 

喉が乾いてたから差し出されたお茶をがぶりと飲む。

……ぬるい。そして渋い。

 

「それで、アンタが一体何の相談よ。次の異変について?」

「そうだな、それについても一つ申し分があるんだよ」

「何よ」

 

霊夢の半目でだるそうな返事からは不信感が滲み出ていた。

そんな目をされるほど悪人じゃないのに。

 

「三度も異変を解決したアンタなら、私が無関係って事ぐらい分かってるだろうが」

「いや、関係ありまくりじゃない」

「だーかーらー、たまたま居合わせただけだっつの」

「世間がやったと信じてるなら、真偽なんて関係ないのよ」

「暴論だ。メディアの陰謀だ」

「三度起きた異変、黒幕は全員違うのにアンタだけはずっといんのよ。無関係って方が無理あるわ」

「たかだか三度くらいで決めつけるなよ」

「この前花が沢山咲いた時もいたじゃない」

「あれは異変じゃなかったろ。会うなりブン殴りやがって!」

「紛らわしいのよ。死神と一緒に居るなんて」

「アレも色々大変だったんだぞ」

「知ってるわよ。新聞でやってたわ。花に魂が宿るなんてまるで御伽噺ね」

「夜が終わらなくなったりするのは滑稽噺か?」

「そうね、少しも笑えないことを除けば立派な笑い話だわ」

「ていうか、そうだ。新聞だよ」

「なに?」

「私の名前は新聞には載ってないよな」

「……そういえばそうね」

「ならなんで皆私の事を知っている。最近出会い頭に異変のことを言われるってパターンが多すぎて嫌気がさしてんだよ」

「多分、天狗の新聞とは別に異変の報告書が出てるからだと思うわよ」

「な、誰だよそんなことするのは」

「私だけど」

「テメーかよ。頼むから確実な情報を広めてくれ」

「私が書いてるのは各所の有力者向けよ。閻魔とか、幽々子とか……人里なら慧音とかね」

「そこに私の名前があるのか?」

「その場にいた奴全員載ってるわよ。その中でも要注意な奴は赤で書かれてるの」

「もしかして私は赤か?」

「ううん、違うわ」

「ほっ……良かった」

「アンタはバーミリオンよ」

「真っ赤!?」

「一応目を通しとく?ここにあるけど」

「見せてくれ……」

 

霊夢が箪笥の引き出しから冊子のようなものをもってくる。

その表紙には後ろに行くにつれて雑になりながら『幻想郷異変概要』と書かれている。

表紙をペラリとめくった。

 

『紅霧異変関係者 レミリア "貴子" その他』

 

「これ私の名前目立ちすぎだろ!」

「気のせいよ」

「どこがだよ!その他ってなんだその他って!」

 

この野郎……いやに噂が広まってる原因だったか。

レミリアだの幽々子だのに並んで『貴子』なんて名前が書かれてたらそりゃ目につくだろうさ。

 

「アンタに一片の非がないなら謝るけど?」

「……いや、無罪かと言われるとそうでもないけど」

「それに今更何をしたって無駄よ。イメージはそうそう覆らないの。せいぜい忘れられるまで大人しくしてなさい」

 

大人しくしてろ……か。

そりゃ変哲ない日々を送れるならそれに越したことは無いだろう。

だが、今朝の出来事がそれを邪魔する。

 

「……また面倒事が起きそうって言ったらどうする?」

「ここでブン殴るけど」

「そりゃ恐ろしい」

「何よ、成敗されたいの?」

「いや、そうじゃない。なぁ博麗さんや。ここの神社は夢占いってやってるか?」

「……夢?」

「あぁ。実はそれが本題なんだ」

「……詳しく聞かせなさい」

 

――私は霊夢に今朝見た夢を説明した。

特に不安なのは『明日また会いに行く』という土産言葉。

今日、何かが起こるのではないか。

その疑念はほぼ確信に近かった。

 

「あの夢は相当リアルだった。何も無しに見られる代物じゃあない。例えば妖怪に取り憑かれてるとか……私の身に何か起きてたりしないか?」

「……参ったわねぇ」

「な、そんなに不味い夢なのか!?」

「いや、違う……違うけど、厄介な夢だわ」

「一体何が分かったんだ?」

「私も見たのよ。そんな夢を」

「……何だと!?」

 

霊夢は湯呑みを机に置いて、口元を締めながら言った。

真剣な雰囲気に、思わずたじろいでしまった。

 

「私の場合は木にもたれながら誰かを待ってたわ。いつまで経っても来ないからぶん殴ってやろうと思ってたんだけど……目が覚めたの。そこからはアンタと一緒よ」

「明日また会いにくる……か」

 

霊夢は無愛想ながら真剣な表情で頷いた。

 

「そんであんたが来るもんだからてっきりアンタが犯人かと思ったけど……どうやら違うようね」

「ますます不可解だな……二人して変な夢を見るとは」

「気をつけた方がいいわよ。私の夢に入り込める奴となると相当な手練れだわ」

「そうだな……ここに来て良かった。ひとまず安全だ」

「仕事を増やさないでよ」

「それは贅沢な悩みだぞ。世の中には一つも妖怪退治の仕事が来なくて借金した馬鹿がいるからな」

「過ぎたるは何とやらよ」

「若いうちは過ぎたことなんてないだろ。無茶してなんぼだろ」

「うわ、ババくさ」

「ガキンチョがナマ言うな」

「若さは無敵の類義語よ」

「老いというイベントを残してる可哀想な奴らだ」

「憐れまれるほど若くもないわ」

「馬鹿言うな。女はいつまでも少女なんだぞ」

「少女の言葉遣いとは思えないわ。それに少女はお酒も飲まない」

「若気の至りだ」

「年増の至りでしょ」

「どっちでもいいよそんなの!」

「そうね。問題はあの夢の正体よ」

「心当たりはないのか?」

 

頭を軽く傾げ、唸るような声を出す霊夢。

 

「予知夢ならたまに見るけど、起きてから声を聞くなんてのは初めてだわ」

「犯人に悪意があるかないか、それが問題だ」

「そうね。仮に敵でも私は負けないけど」

「私が負ける」

「知らないわよ……それにしても、いつ来るのかしら」

「今で大体正午だが……夜に来られると面倒だぞ」

「んー……そうね」

 

霊夢は大きな欠伸をして、瞼を重たそうに擦った。

 

「とりあえず……誰か来たら起こしてちょうだい」

「え?」

「いつも昼寝する時間なのよ。しなかったら能力半減だわ」

「本気か?二度と目覚めないかも知れないぞ!?」

「それは最高ね」

 

特別皮肉をかますような口ぶりでもなく、ただ本音を溢しただけのようにさらりと霊夢はそう言った。

すでに座布団を二つ折りにしてゴロリと寝転がり、細やかな寝息を立てている。

 

「呑気な奴だ……」

「んー……眠たいならアンタも寝て良いわよ」

「遠慮しとくよ。枕が変わると眠れないタチだから」

「そう……」

 

目を閉じたまま答え、また呼吸の音だけが聞こえる。

あっという間に眠りの世界へと落ちていった。

鳥の陽気な口笛が通り抜ける。

博麗神社が安全かどうか、見誤ってしまったかもしれない。

目の前にいるのはただ気持ちよさそうに目を瞑る一人の少女なのだから。

……こうしてみると、博麗のはまだまだ子供だ。

物言わずに寝てる所は、年相応の女の子でしかない。

得体の知れぬ何かが夢に入り込んだという不安は、できるだけ穏便に取り扱いたいが、まるで澄んだ水面のように目を瞑っている霊夢を邪魔してやりたくなかった。

 

もう散々身に染みているけど、私もずいぶん大人だ。

結婚年齢の相場を鑑みても、子供が一人くらい居たってなんら不思議じゃない歳だ。

男は十五で元服、女は十三でお歯黒の世の中。

三丁目の人は十六で結婚して、最近子供を産んだらしい。

実にめでたい話だ。半回りくらい年上の私を焦らせるには十分すぎるほどに。

……私だってずっと一人がいいわけじゃない。

言い訳がましくなるが、妖怪退治屋なんて職業についてた頃はまぁ結婚なんてできないだろう。

どっちかが早死するのがオチだし。

そもそも外れ街の奴らは色恋なんてプラトニックという概念がない。

九割近くが授かり婚ってやつだからだ。

昔の言葉で言うと『ズッコンバッ婚』だが、それを咎める風潮も薄いし、あそこは子供の教育って面からすれば最低の所だ。

私はと言うと……そんな街ですら貰い手がなかった。

あの時は黒歴史だからあまり触れたくないが……酒癖が悪かったのもあるし、博打ばっかやってたってのあるだろう。

料理もあの時はできなかったし……言っとくけど今はできるからな。勘違いするなよ。

まぁそんなこんなで私は長らく独り身だ。

でも、生まれてこの方ずっと孤独だったわけじゃない。

実は私にも、人生で一人だけ恋人なるものがいた。

付き合って三日目で、そいつは死んじまったけどね。

いい奴だったよ。

私が十二の時の時だった。

妖怪に襲われて死んだってんだから、つくづく妖怪退治屋の寿命は短い。

どれだけ立派に生きようとも妖怪の爪がカスればそれで呆気なく終わり。

その時に私は人の命がどれだけ脆いかを知ったから、今日まで自由に生きてきた。

そして、紅魔館で終わるはずの命だった。

あるいは風見幽香に雷が落ちなければ死んでいたかも知れない。

薄氷の上に立つ命を尊ぶなんて酔狂な事をできるほど私は立派じゃない。

今だって私はなぜ生きているのかを即答できない。

もう、随分生きた気がする。

これから何をして生きていけばいいのだろうか。

死ぬ前は生きることが全てだった。

けれど一度あの世に行ってしまったら、もうこの世にこだわる理由なんてあんまり無い。

子供を産みたいって気持ちも無いし、誰かに嫁ぎたいわけでもない。

面白く生きたいわけでも無いし、十分に幸せだったと思う。

やり残したことが、もう思い当たらない。

あとは死ぬまで生きるだけ。

そう思うと安心する反面、急に張り合いがなくなって、失望にも似た奇妙な脱力感に苛まれるのであった。

あとは死ぬまで生きるだけ。

私にとっては本当にそれだけの人生だと痛感させられた。

 

結局、しばらく私はだらだら過ぎゆく時間を退屈と二人っきりで乗り過ごした。

鳩が三回鳴いた頃、私はいつものごとく鼻毛で文字を書いていた。

今日のお題は髑髏。

過去一番の難題だったが、後二画……そう、たったの棒二本で完成していたのだ。

緊張を押し殺して指先に神経をとがらしていた。

感覚は過敏になり、瞳孔はレンズを絞って目の前の僅かな空間を鮮明に捉えた。

震えながらも正確に毛が近づいていく。

耳の中がじんわり温まる。

遠くの小石を蹴る音すら聞こえそうだった。

これさえ置けば……あと少し、あと少し!

――勢いよく襖が空いた。

 

「霊夢!ちょっと出てきなさい!」

 

タイトな服に身を包んだ桃色髪の女だった。

餡の詰まった餃子みたいに、服で全身を抑えている。

思わぬ敵襲に私は慌てて霊夢の体を揺らした。

 

「おい霊夢!」

「んー……あと五分だけ……」

「起きろ!誰か来たぞ!」

 

顔をペチペチ叩いてもしかめっ面をするだけで起きる気配がない。

まずい、博麗がいなけりゃここはただの危険地帯だ。

戦えるか……?

 

「失礼、私は敵ではありません」

 

桃色髪の女は胸の前で握った拳を反対の手で受け止めてペコリとお辞儀した。

美鈴がよくやる抱拳礼だ。

 

「アンタ……何者だ」

「隻腕の仙人、茨木華扇と申します」

「……華扇っ!?」

 

爆睡を決め込んでいた霊夢がカエルのように飛び起きた。

それを半目で見ながら華扇は言った。

 

「おそようございます」

「な、来てるなら起こしなさいよ貴子!」

「起こしたよ!」

 

かよわき私の弁明など耳に及ばず、ポカリと頭を叩かれる。

すると歌仙なる人が「人を殴ってはだめ!」といって霊夢の頭を殴った。

殴ってんじゃねえか。

 

「霊夢、客が来たらまずはお茶を出しなさい」

「分かってるわよ……」

 

奥歯に詰まった食べこぼしがとれないような顔をして、霊夢が立ち上がる。

台所に行く途中で私の目を見て、ギロリと睨みつけてきた。

残された私は客を自称する図々しい奴と二人っきり。

長い数分、蛇に睨まれた蛙の気分を咀嚼していた。

すると台所から霊夢の声が聞こえた。

 

「貴子ー、ちょっと来てー」

 

私にはそれが汚泥に光る鶴の一声に聞こえた。

しかし喜んで応えるわけにもいかないだろうと思い、ちらりと華扇の様子を見た。

瞑想中のような顔で「行ってあげなさい」と言われたのでそれに従うことにした。

 

 

 

「ニブい奴ねぇ、呼ばれる前に来なさいよっ……!」

 

台所に着くなり私は霊夢に責め立てられた。

聞かれると不味い内容なのか、ヒソヒソと罵倒を続けられる。

なんでそんなに言われなきゃならないんだか、全く身に覚えがなかった。

 

「呼ばれなきゃ来ないだろ」

「ちゃんと合図したじゃないの!」

「合図?」

「ほら、こうやってウインクしたでしょ!」

 

そういうと霊夢はまた先ほどのように私を睨みつけた。

細めた目はヤクザめいた迫力を持っていて、少なくともウインクなる可愛らしい物ではなかった。

 

「てっきりメンチを切られたのかと……」

「そんなこと私がすると思う?」

 

めちゃくちゃ思います。

 

「それより、ヤバいわ……」

「何がだよ」

「よりにもやって、華扇が来るなんて……」

「そんなヤバい奴なのか?」

「えぇ、だってアイツ人間の味方をするのよ」

 

人の味方がヤバいのならば、そのヤバいはギャル御用達の「ちょーヤバーい」的な奴か?

そうツッコんでやりたかったけど、霊夢の怯えた顔は尋常じゃなかった。

目の焦点すら合わなくなっている顔は、後から思い出そうにも上手く再現できない。

理由は分からないけど、ちょーヤバそうだ。

 

「ともかく……早く帰るように協力しなさい!」

「えぇ……」

 

私、客。

やんごとない事情持ち。

何故依頼を受ける立場になっている?

 

「もし邪魔したら処刑よ!」

 

……結局私は首を縦に振らざるを得なかった。

誰だって処刑は嫌だからさ。

 

 

 

ちゃぶ台に湯呑みが一つ置かれた。

飲み口からは真っ白の湯気が湧き出ている。

茶葉は三回目の出涸らし。

新葉を使わないのは霊夢の嫌がらせだろう。

そのお茶ともお湯とも取れない飲み物を静かに啜りながら、桃色の女――華扇なる者は口を開いた。

 

「何故私がここに来たかわかりますか?」

「知らない……」

 

小さく正座する華扇からは威圧感が滲み出ていて、かたや大仰に横座りしている霊夢が小さく見えた。

誰にも従わない天衣無縫を絵に描いたような博麗霊夢にも、頭の上がらない相手がいたらしい。

その事が少し愉快だった。

 

「異変……と言えばわかるでしょう」

「知らないってば」

「しからばこれをご覧なさい」

 

そう言って華扇が取り出したのは、細長い木の枝のような形をした、色の悪い人参だった。

 

「里の者が育てた農作物です。何たることか、ただでさえ痩せこけているのに、人体に有害な成分が含まれています。毎日汗水を流して育てたモノがこんな風に育った、その気持ちが分かりますか?」

「対処しようにも報告が来なかったのよ。私が聞いた時には解決済みだったわ」

「慣れぬ食物は里にとって不安でも有りました。結果として飢饉は脱しましたが、もし人が死んでいたら貴方はどうするつもりだったのですか?」

「そんなもしもなんて起こり得ないわよ。私だって馬鹿じゃないわ」

「貴方がそう思っていてもダメなのです。博麗の巫女ならどうにかしてくれるはずと、安心させられるくらいの人になりなさい」

「そんなの……」

「それができるから、貴方は博麗の巫女に選ばれたのです」

「何回も聞いたわよその文句」

「本当のことだからです」

 

そういうと半分くらいになった湯呑みを置いて、華扇は優しく微笑んだ。

 

「皆貴方に期待しているのよ、霊夢」

 

こうなってしまうと流石の霊夢も返す刀が無いようで、下唇を緩く噛みながら押し黙った。

はてさて私はと言うと、これまた同じように黙るしかなかった。

何故ならば……。

 

「異変を起こした者は徹底的に叩きなさい。貴方は人の味方、妖に情け容赦はいりません」

 

おぉ神よ、異変を起こしたのは吸血鬼でも亡霊でもない……ただの哀れな一般人。

もっと具体的に言うなら私なんだ。

いや、私は真剣に関係ないけど書面上では赤線二本の極悪人になってるらしい。

もしそれがこの場で漏洩したら……異変だけに、たいへんだ。

 

「っち!」

 

えぇーこちら放送席、たった今博麗霊夢さんから舌打ちをいただきました。

この場じゃ処理できないのでラッピングして持って帰ろうと思います。

 

「アンタならどうするのよ、華扇」

「私?」

「三度起きた異変、全部に関わってる奴がいたらどうするの?」

「そんな者はいないでしょう?」

「もしもの話よ」

「仮にも有り得ないわよ。そんなのがいたらとっくに貴方が退治してるでしょ?」

「……そうねぇ」

 

そういうと霊夢は私のことをチラリと見た。

一度だけじゃない。何度も何度も露骨に見てきた。

ここで霊夢の事を殴らなかった自分の理性と優しさを私は褒めてやりたい。

実際は臆病に震える手で損得を勘定しただけだけど。

だってバレたら殺されるんだよ?

命の危機に震えられない奴が死んでいくんだ。

いつだって生き残るのは臆病な草食動物さ。

 

「ともかく、今後一年の間は異変が起きないよう努めること!」

「そりゃそれが出来たら一番だけど、そう単純じゃないのよ」

「もし次の異変が起きたなら、その元凶は少し強めに懲らしめなさい」

「……そうねぇ」

 

霊夢の冷たい眼は明らかに私のいる方向を向いていた。

だから、見るなっつってんだろ。

 

「今日私が伝えたかったのは以上よ」

「はいはい、分かったわよ。全く、来るなら言っといてよね」

「ちゃんと夢で伝えたでしょう?」

「……あれはアンタの仕業だったのね」

 

薄々感じていたが、やはりそうだったか。

人の夢に干渉するなんざ悪趣味すぎる。

そんな私の不信感が滲み出たのか、華扇は私の方を向いて軽く頭を下げた。

 

「申し遅れました。茨木華扇、仙人です」

「あ、どうもどうも。貴子、人間です」

「お先にいらっしゃった所をお邪魔して申し訳ありません」

「……ん?」

 

ここで私は華扇が来てからずっと抱えていた違和感の輪郭を捉えた。

そうだ、夢という言葉で思い出した。

華扇のこの反応はおかしいではないか。

 

「私ら、夢であったよな?」

「え?」

「霊夢に説教するってので夢を見せたのは分かるけど、どうして私を巻き込んだんだ?」

「話がよく見えないのですが」

「だから、何で私の夢にまで入り込んだんだって」

 

私の語りが熱を帯びつつ加速していこうとした時。

華扇はキョトンと首を傾げた。

 

「私は霊夢の夢にしか入っていませんが」

「……は?」

 

華扇の発言が耳に入ってからその意味を理解するまで三秒かかった。

途端、全身が慄いた。

 

「ならあの夢は何だ……?」

「私に聞かれても分かりません!」

「一体誰が――」

「私だよっ!」

 

大声がした。

緩い風が部屋に入ってくるのとそれは同時だった。

芯の通った朗らかな声のした方を見ると、襖が蹴破られていた。なんて事しやがる。

 

「誰だ!」

「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!おいコラ華扇!私も混ぜろよ!」

 

博麗神社に乗り込んできたのは、小さな女の子だった。

タッパは私のへそくらいで、顔つきも里のガキンチョと変わらない。

しかし際立って異常な点が幾つかあった。

まず容姿。

その女の子の小さな頭からは、鹿みたいに立派なツノが生えていた。

壮観なツノは少女の華奢な体には些かアンバランスであった。

もう一つ、少女は手に瓢箪を持っていた。

それをぐいと口に持っていき喉をゴクリと鳴らす。

鼻を微かに突いたアルコールの匂い。

おそらく強烈な度数の酒が中に入ってるんだろう。

見た目に似合わぬ酒と角、とにかく歪な存在だった。

 

「よっと……まずはかけつけ一杯だ、呑みなよ」

 

ズケズケと上がり込み我が物顔で座る(推定)少女。

ちゃぶ台に置かれていた空の湯呑みにトクトクと酒が注がれた。

今度はよりハッキリと酒の香りがする。

よほどいい銘柄なんだろうが、恐らく昼間から呑むようなモンじゃない。

霊夢も同じ思考のようで、憮然とした態度で湯呑みを突っぱねた。

 

「何だい、私の酒が飲めねぇってのか?」

「鬼の酒なんざ死んでも嫌よ」

「けっ、生意気な娘だねぇ。隣のアンタは呑んでくれるよな?」

 

霊夢から鬼と呼ばれた少女は赤い顔をこっちに向ける。

返答次第じゃとんでもない事になりそうだ……。

 

「生憎私はロマネコンティしか呑まないもんで」

「……あ゙?」

「ワイン派でございますの」

「良いから呑めっての!」

 

後頭部に衝撃。

押し付けられる湯呑み。

唇に痺れ。

口内に広がる日本酒の酸味。

溶けゆく意識……ん?

 

「……旨い」

「へ?」

「この透き通るようでいてコクのある後味……鼻から抜ける気持ちのいい酸味……」

 

私の口から思わず出たのは、酒の感想だった。

勢いよく飲んだ時に来る目眩もしない。

僅かな体の火照りが心地よかった。

こいつは……とんでもない名酒だ。

 

「ちょっとアンタ、大丈夫!?」

 

霊夢の声が耳に入ってくる。

まるで嘘でも吐かれたみたいに目をかっぴらいている。

隣の華扇も同じ顔をしていた。

 

「……私が今まで呑んでた酒はドブ水か?」

 

私がそう言うとツノ女は急に大きな笑い声を上げた。

 

「はっはっは!やっぱアンタ、イカれてるよ!私の見込んだ通りだ!」

 

ちゃぶ台の上に勢いよく瓢箪を叩きつけ、少女は口上を述べた。

 

「私の名は伊吹萃香!妖怪を代表して今日この場に乗り込んだ!鬼に喧嘩を売りたい奴が居るならかかってきな!」

 

堂々たる名乗りに神社が揺れた。

発せられる妖気はこの世の存在と思えぬほど強い。

例えばガラス製のコップをナイアガラの滝に入れたらどうなる?

そりゃ勿論割れるよな。

ただの人間が強烈な妖気を近くで浴びるってのはそれに等しい。

つまり、意識が弾け飛びそうだった。

 

「っぐ!」

 

弱小代表の私は勿論、天下の巫女様も流石にキツかった様で顔を顰めていた。

 

「いつから貴方は妖怪を代表できるほど偉くなったのかしら」

 

しかし一人、華扇だけがまるでそよ風に吹かれたかの様に平然とお茶を啜っていた。

 

「思い上がりも大概になさい。妖怪は貴方を求めてなどいない」

「私がいつから偉くなったかだと?『ずっと』だよ!」

 

発せられる気迫が一段ギアを上げた。

私が意識を失わなかったのは、華扇がいたからだ。

華扇は萃香を名乗る妖怪に対抗するよう気をぶつけてくれていた。

威力が相殺されたお陰で私も辛うじて耐えることが出来ていた。

 

「思い上がりはお前だよ!人間の味方をすれば徳を積めるとでも思ってたのか?人間はお前なんかを求めちゃいない!」

「黙りなさい!浅はかな行動は身を滅ぼすだけよ!」

「あぁ!?誰に口聞いてんだコラ!」

「ここに貴方は呼ばれていない!」

「異変を起こさせないなんて横暴、見逃す訳がないだろ!私を含めて妖怪が黙っちゃいないね!」

「もう十分異変は起きた!人間達は嫌というほど恐れた!人智を超えた存在を!」

「恐れただぁ!?生ぬるい事言うなよコラ!」

 

こっちまで熱くなりそうなほど顔を赤くして怒る萃香。

コイツ、とんでもない妖怪だ。

けど……華扇も一緒ぐらい化け物だ。

なぜこの状況で平然としていられるんだ。

下手すりゃ死ぬぞ!

 

「っいい加減にしなさい!」

 

霊夢が聞いたこともないような大声で怒鳴った。

それと同時に暴風のような圧力は過ぎ去った。

 

「……成程、博麗の巫女か」

 

萃香はそれだけ呟いて、胡座をかきなおした。

その胸元には一枚のお札が貼られていた。

 

「そのお札を剥がした時、私はアンタを退治する」

「ふん、出来るもんならやってみなよ。妖気を抑える札なんざ作って……ハッキリ言ってお前、弱いだろ」

「そうね、アンタの次くらいに弱いわ」

「生意気な餓鬼は嫌いだよ」

「なら帰れば?」

「……へぇ、八雲のババアにしちゃ良く育てたね……ってイタッ!」

 

……ありのまま今起こった事を話すぜ。

萃香が紫の悪態を吐いたと思ったら急に空中に割れ目ができて、そこから拳骨が落ちてきた。

萃香の頭をぶっ叩いてその手は消えていった。

何を言ってるかわからねーと思うが私も何が起きたのか分からなかった……。

若作りだとか加齢だとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……ってイタ!

 

「何でアンタも殴られてんのよ」

「グレイトフル・デッドにでもやられたんだろ……」

 

信じられない出来事ばかりが続く……が、頭の上にぷくりと咲いたタンコブだけが現実味を伴っていた。

萃香の暴力に等しい気迫が霊夢のお札で鳴りを潜めて、ようやくまともに頭が回るようになってきた。

ここらで状況を整理しておこう。

まず時刻は正午。鳩が呑気にぽっぽと鳴く頃。

場所は博麗神社でこの場にいるのは四人。

まず一人目は博麗霊夢。人間界最強の天下巫女。

私は今日見た奇妙奇天烈な夢の相談をしに霊夢の元へ訪れた。

すると霊夢も同じような夢を見たと言った。

その時に現れたのが二人目、茨木華扇。

右腕に包帯を巻いた、桃色髪の女。

毅然とした態度でくるなり早々説教をかました奴だ。

どうやら夢の犯人は華扇だったそうだが、私には何もしていないらしい。

当然と言えば当然だ。私と華扇には一つも接点がないのだから。

ただ、彼女は三度の異変にかなり御立腹らしい。

ましてその三つともに関与している馬鹿がいたら、殺しても構わぬと抜かした危険な思想の持ち主だ。

つまり異変反対派、人間陣営の仙人様だそうだ。

右手に巻いた包帯が、封印されし闇の力を抑えるための物じゃない事をただただ祈る。

そして三人目、伊吹萃香。

パースの狂ったツノ頭に酒臭い瓢箪と、まさしく妖怪めいた風体で博麗神社に現れた。

会うなり酒を呑ますわ気圧されそうになるわの要注意人物だ。

ここへ何をしにきたのか、その目的はまだ掴めていない。

そして四人目……哀れな被害者、巻き込まれただけの一般人。要するに私だ。

朝から変な夢を見た思ったら、こんなとんでもない現場に居合わされて……早くお家に帰りたい。

 

以上の四人を、よく覚えていて欲しい。

私はこれからどんな苦楽に満ちた人生を送ろうとも、この瞬間から始まった一連の騒動を忘れないだろうから。

それは良き思い出であったという懐古の意味ではなく、何度も死に目にあったっていう後ろ向きな理由でだ。

これから起こる出来事は、決して何かの記録にも残らないし、誰も知らない。

でも私の人生で激動に満ちた数年間の中で、一際波瀾万丈な数日間を過ごしたのだ。

その一部始終を、私は一生忘れない。

事の発端は伊吹萃香がいきなり発した言葉だった。

 

「ならば私が異変を起こしてやろう!」

 

私の、無茶苦茶だけどそれでも好きだった日常が、支柱を抜いた積み木みたいにガラガラと音を立てて崩れていく。

前代未聞の異変が幻想郷を襲うまであと――少し。

 




個人的な話ですが、もうすぐ私生活に一つの区切りが付きます。
それまでにろくでなし東方を完結させられればなと思っています。
ここまで読んでくださった酔狂な方がいらっしゃるのならば、どうかあと少しだけお付き合いくださればこの上なき喜びです。
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