ろくでなし東方   作:ほろ酔いちゃん

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第一章完結。
だいぶ、文章を書くのに慣れてきたように思います。


こんな人生って幸せ!

――懲罰房

「ふぅ……なんか本当に上が騒がしいですねぇ……ねえフラン様」

 

貴子は自前のタバコをふかしながら壁にもたれている。

 

「…………………」

 

その膝に、貴子と向かい合うように座っているフラン。

貴子は人に、特に子供に取り入るのが上手なのかもしれない。

子供自体は苦手だが。

 

「……フランちゃん」

「なぁに?貴子」

 

ちゃん付けて呼ばないと反応をしてくれない。

そんな幼稚な戯れに少しだけやれやれと思う。

 

「気の流れを悟れなくする束縛魔法だけでも良いので解除してくれませんか?上で何が起きているかだけでもいいので」

 

貴子は、上で何が起きているかを知らない。

呑気に煙草を蒸して、適当な話をフランに吹き込んでいる。

フランも、それをなんとなしに聞き流している。

貴子の出すやさぐれた雰囲気が、この空間を旧知の中に変えてしまった。

 

「うーん……貴子多分意識を失っちゃうよ?」

「ま、覚悟の上です」

 

限界まで吸い切ったタバコを灰皿に押しつけて背を起こす。

 

「それじゃ、まあ良いよ。それぐらいなら。はい」

「ありがとうございます」

 

美鈴から叩き込まれた悟気術。

気を察知するのなんてお手の物だったが、上で起きた事を知ると案の定、強烈な立ちくらみに絶倒した。

 

 

――レミリアの部屋

 

「貴方が博麗の巫女?」

「あんたが親玉ね。迷惑よ。死になさい」

 

傷など気にもせず、また目の前の怪物など少しも恐れず。

その暴力的とすら言える飄々とした態度。

それを受けたレミリアの返答は大妖怪にあるまじきものだった。

 

「えぇ、そうさせて貰うわ」

「……何を言っているの?自殺をする妖怪なんて聞いたことが無いわ」

「自殺させかけた妖怪は知ってるけど。そうじゃない。霧を止めるって言ってるのよ」

「……えらくあっさりじゃない。あのメイドがそんなに心配?」

「ええ、そうね。今すぐ看病しに行きたいぐらいだわ」

 

何かを思うように下唇を噛んで、鋭い牙が見え隠れするレミリア。

威風堂々やカリスマとはまた違う、己の従者を愛する主としての側面であった。

その瞳には、レミリアの能力

『運命を操る程度の能力』

による運命視で見えた世界が映っているのかもしれない。

霊夢を見ながらも、何か違う何かを見つめているような感じであった。

 

「……気に入らないわ。やっぱり死になさい」

「死にそうなのは貴方じゃない。私は、見逃してあげると言っているのよ」

「違うわ。私が見逃さないといっているの」

「そう……なら死ぬしかないわね」

「ええ、あんたがね!」

 

吸血鬼と人間の拳が混じり合った。

 

――医務室

 

「いたたた……あの巫女やってくれるわね……」

 

過酸化水素水で全身の傷を消毒しながら咲夜は毒づく。

それが、真剣勝負の結果であり、口を出すことは野暮である事を重々承知しながらも、口を動かさずにはいられない。

以前の陰鬱とした咲夜では考えられないほどにその精神は高揚していた。

何故かしらと不審に思うも、聡明な咲夜は何無くその溢れ出て止まないアドレナリンの原因の一つを特定した。

咲夜が生涯を共にするであろう存在……それは孤独。

その孤独感の根底にある咲夜の奇特な力。

それをいとも容易く打ち破り、馴染みの喫茶店のドアを開けるように止まった時の世界は入門してきたあの人間の存在。

まるで、終わりの見えない曇天の空が澄み渡っていくような爽快感。

こっぴどく負けた筈なのに、咲夜は痛む体も無視して今すぐ飛んでいきたい気分であった。

はやる気持ちを無理にでも抑えながら、咲夜は包帯にキツく巻く。

戦うことは無理でも、まだできることはある。

咲夜の心にはもはや何一つの迷いも不安もなかった。

澄み渡る空のように若い光が痛いほど刺してきている。

そしてその光明を刺すきっかけとなったのは……。

咲夜が思い浮かべたのは、懲罰房で反省中の情けない女であった。

 

――大図書館

 

「……これは……まずい事になったわね」

 

早口で喋っていたのを急に止め、紫色の眉毛をキツい逆向きのハの字にする。

 

「なに?どうしたんだよ」

 

魔理沙は何が起こっているのかわからず探りを入れる。

パチュリーは、魔理沙を椅子に縛り付けて魔法の授業を(無理やり)教えていた。

形式こそ不本意であったが、魔理沙にとっても純正の大魔法使いに直接的に魔法を教えてもらえる事はその身にとって果てしなく得難い僥倖である。

最初こそ文句を垂れていたが数十分も経てば無駄口も叩かず集中して話にのめり込んでいた。

 

「……あなた、まだ動けるかしら?」

「…このロープさえ解いてくれりゃあな」

「本当……はぁ…面倒くさい事になったわ」

「何がなんだよ。ため息ばっかりついてもわからないぜ」

 

皮肉めいた魔理沙の軽口も意に介さず、二日酔いの目覚めのような拙い顔をする。

 

「ウチの馬鹿がまた問題を起こしたのよ……」

「馬鹿ってのはこんな霧を出したやつか?」

「いーや、もっと馬鹿なやつよ……」

 

渋々といった顔で魔導書をパタリと閉じ、ノソノソと腰を上げる。

 

「ほら、ロープ解いてあげるからじっとしなさい」

「早くしてくれ」

「……えらく小悪魔の奴硬く結んだわね……ふんす!」

 

パチュリーは思いっきりロープを引っ張る。

実際は非力なので大した力は出ていないが。

 

「痛い!痛いぜ!それは締める方向だ!」

「……困ったわね」

 

悪いタイプの沈黙がぬるりと通り抜ける。

パチュリーの額にはこれまた嫌な予感のする汗が流れていた。

人はよくその汗を冷や汗と呼ぶ。

 

「まさか……」

「えぇ…そのまさかよ」

「なんで解けないような結び方したんだよ!」

「……こういう時、外の世界でなんていうか教えてあげるわ」

「んだよ」

「……てへぺろ?」

 

魔理沙はパチュリーを思いっきり蹴り飛ばした。

 

――懲罰房

 

「……っは!」

「お目覚めー?」

 

貴子は自分が冷たい床に寝そべっている事に気づいた。

というより、床の冷たさで目が覚めた。

そうだ。気を失ったんだ。

 

「あれは……一体?」

「上で面白そうな事やってるみたいなの。私も混ざりたいのに。お姉様ったら意地悪ばっかり」

「……妹様」

「フランちゃんー!」

「……フランちゃん、どうやら私たちもここから出た方がいいですね」

 

不思議そうに首を傾げるフラン。

その振る舞いは幼く、また純粋なまでの残酷さを感じさせる。

 

「どうして?」

「やっとわかったんですよ。今回、私が何をしてこんな部屋にぶち込まれたのか」

「……嫌だ」

「え?」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「っ落ち着いてください!」

「嫌だ!!!!」

「っく!」

 

貴子がフランと距離を取る。

事と次第によってはやむを得ず、という訳だ。

 

「なーんちゃって!あはははは!貴子、顔真っ赤になってるー!血塗れみたい!……あれ?どうしたの貴子。急にずっこけて」

 

貴子はドテッと音を立てて床に突っ伏した。

フランのイタズラは肩透かしというにはあまりにも悪質だ。

 

「人間はこういう時にずっこける生き物なんですよ……とほほ………っこれは!!」

「どうしたの?今度は顔が真っ青だよ?」

「どうやら本気で出ないとダメみたいです……」

 

貴子の同様の原因は、ある事を察知したからであった。

それは美鈴から気が飛んできたことである。

美鈴からの気は日常的に飛んでくる。

二人だけの暗号として、タバコやらなんやらの受け渡しなど聞かれては困る内容を気の色で飛ばし合う習慣があったのだ。

そして今美鈴から飛んできた気の色は赤であった。

 

「ならでれば?出れるものならね」

「ええ、出させてもらいます」

 

貴子はドアに向かった。

そこにはフランによる高度の封印魔法がかかっており、それに触るなんて生身で高圧電流の流れる鉄骨に触れるようなものだ。

下手をすれば、いや下手をしなくとも十分死に至るような危険な代物だ。

けれどもそれを立ち止まる理由になど出来無くなってしまった。

本当に緊急事態の時だけ発せられる気。

それが美鈴から発せられた。

それは明らかに貴子に向けられたものであり、明確なSOSでもあった。

貴子は奥歯を噛み締めてそっと手すりに手を触れる。

しかしその瞬間、つんざくような閃光と高音が発せられ、手を弾かれてしまった。

 

「……っ!」

「さわれやしないわ!」

 

目を釣り上げ、弾かれた手を見つめながら深呼吸をする。

……そして、ゆっくりと息を吐いて覚悟を決める。

貴子は、両手で勢いよく格子を握りしめた。

けたたましい音。

金属を研磨した時のような火花が手から散る。

 

「ぐぅうわあわああああぁぁぁああああ!!!」

 

 

――大図書館

 

「おいパチュリー!まだ解けないのか!」

「うるさいわね!アンタが暴れるからでしょ!」

 

魔理沙とパチュリーは、なかなか解けないロープに苛立ちやいのやいのと喧嘩していた。

その内容は、魔法使いがするようなものとは思えない幼稚な内容で、それを聞いていた関係者曰く馬鹿だのアホだのの連呼だったとか。

 

「もういい!パチュリー!一応聞くが回復魔法は使えるな!?」

「当然よ!動けない貴方がいったい何をする気?」

「そこに落ちてる道具をとってくれ」

 

魔理沙の視線の先には、魔理沙から押収した様々な品がまとめられていた。

抵抗できないように魔理沙から没収したのだ。

その量は、一体華奢な魔理沙のどこにしまわれていたのかわからないほど多かった。

 

「どれよ!多すぎてわからないわ」

「一番魔力の強い奴だ」

「……これかしら」

「ちげーよ馬鹿!お前が持ってるのはどう見てもただの箒だろうが!」

「うっさいわね!アンタこそ馬鹿みたいに持ってくるからでしょ!」

「迷惑な霧を出した奴をぶちのめすために手加減するわきゃないだろ!」

「こっちの都合も知らないであーだこーだ言わないで!」

「知りたくも無いぜそんなもん!……それだ!今手に持ってる奴!」

「これ?……アンタこんなガラクタ使ってどうするつもり?」

「それはガラクタなんかじゃない!……ミニ八卦炉っつー私の宝物だぜ」

「蓼食う虫も好き好きかしらね……はい。怒鳴りすぎてしんどくなってきたから少し休むわ……」

「これさえありゃ……」

 

魔理沙は後ろ手に縛られた状態で、器用にミニ八卦炉を持ち、そこからライターのような火力でチリチリとロープを焼き切った。

 

「……ふぅー。最初からこうすりゃよかったぜ。パチュリー、頼んだ」

 

そう言って魔理沙は手を差し出す。

先程の火で火傷してしまっている。

 

「……なるほど。だから回復魔法ね……はい」

 

パチュリーが右手をかざすとあっという間に傷が治癒される。

魔理沙は箒を右手に持ち、帽子を深々とかぶる。

 

「さてと……それじゃあ行くか」

「ええ……それより貴方……」

「ん?どうかしたか?」

「髪の毛焦げてるわよ」

「えっ?げ!やっちまったか!?」

 

 

――紅魔館上空

 

「人間にしてはなかなかやるじゃない」

 

霊夢に対峙するレミリア。

レミリアを退治する霊夢。

紅霧漂う幻想郷の赤い月の元で、可憐な弾幕が交差する。

吸血鬼に、人間が互角に渡り合う。

それは異常な事であり、向こう100年語り継がれるような武勇伝である。

だが、霊夢の心境は焦りが生まれていた。

自慢のスタープラチナが効かない。

というより、射程距離に入らない。

スタープラチナの射程は短く、レミリアは決してその間合いに入ってこない。

それゆえ、霊夢は自身の霊力で戦いを挑んでいた。

無論負ける訳はないという確固たる自信こそあれど、なかなかにレミリアはしぶとく、霊夢は終わらぬ戦いに業を煮詰めていた。

音がなるほどに歯を食いしばる。

霊夢には、ある勝ち筋が見えていた。

しかし、それは霊夢の矜持に反し、決してやりたくない勝ち筋でもあった。

だが……霊夢にはもう時間はない。

ある巨大な悪意が、魔理沙に近づく気配を感じてしまったからだ。

 

「時を止めなさい。スタープラチナ」

 

咲夜との戦いで目覚めた時を止める力。

世界が停止する。

遠くにいた咲夜だけが、その一瞬の世界の静止を悟った。

 

「…………」

 

霊夢は懐に忍ばせておいた『ある物』を取り出し、レミリアに向けて投げる。

それは停止したレミリアの喉元寸前で止まり、月光の反射でキラリと輝く。

 

「…時は動き出す」

「……っな!がぁああっ!」

「アンタ、自身のメイドに武器を持たすのはいいけど、それを銀製にしたのはどうしてかしら?」

「どうして……貴方がこれをっ!」

「私にぶっ刺さったナイフを一本くすねといたのよ……使いたくはなかったけどね」

 

霊夢が投げたのは、純銀のナイフであった。

祈りを込めた銀の一閃。

吸血鬼に対するシルバーバレット。

喉元に刃渡りの長い劇物をぶっ刺されたレミリアは、たまらず地面に落下していった。

それを見て霊夢も、周囲に飛ばしていた陰陽玉をしまう。

レミリアの喉元からは、真っ赤な血が流れ出ていた……。

 

「……魔理沙が危ないわ!」

 

紅魔館上空での決戦

勝者 博麗の巫女 紅霧異変 決着

 

 

――美鈴の詰所

 

「美鈴さん!」

 

貴子は、美鈴仕込みの人間離れした健脚であっという間に美鈴の詰所についた。

焦る気持ちを抑えることもなく、勢いよく戸を開く。

 

「貴子さん!」

 

そこにいたのはもちろん美鈴である。

しかし、その状況はあまりにも異様で貴子は目を疑い、そして瞳に誠正直の真実が写っている事を悟ると、美鈴の倫理観を疑った。

 

「……どういう状況ですか?」

「いや……まぁ……それより!」

「説明してくださいよ!」

「どこから説明すべきでしょうか……」

 

美鈴はうーんと考え込む。

脳内で色々と説明の算段を立てているようだ。

思いついたことから喋ったりしないのは、美鈴なりの頭の良さだ。

しかし貴子にはその間は長く、自らが質問を飛ばした。

 

「まずなんで裸なんですか!そしてそこに寝ている裸の女は誰ですか!なんか尻尾生えてるし!」

「この人は……藍さんです。というより、そこは問題じゃないんです」

「大問題な気がするんですけど。とりあえず服を来てください」

 

美鈴はその豊満な乳房をキツキツにサラシで縛りながら説明を続ける。

 

「……貴子さんには見えてないんですか?」

「何がですか?」

「私の後ろにいる……これです」

「美鈴さんの後ろには藍さんとかいう妖怪の裸体しか見えないです」

「そうですか……なら、これを見てください」

 

美鈴がそっと右手を差し出す。

 

「……なんですか?これは。石ころ?」

「貴子さん、手を出してください」

「えっ手ですか?」

「はい」

 

美鈴も何やら急いでいるらしくせかせかと貴子を催促する。

貴子はバツが悪そうに渋々と両手を差し出す。

 

「……どうぞ」

「なっ!これは……」

 

美鈴は絶句した。

貴子の手を見て。

 

「牢屋から出るときに無茶しちゃって……」

 

貴子の手には、皮がなかった、

焦がした焼き肉のように、炭のような黒焦げになっていた。

そこからは、ポタポタと勢いよく血が滴り落ちている。

 

「……とりあえずパチュリー様の所へ向かいましょう」

「そうですね……あの人なら回復魔法くらい余裕でしょうし」

「貴子さん、足出してください」

「えっ?どうぞ」

 

貴子が訝しげに足を差し出すと、美鈴は持っていた石ころのようなものを押し当てる。

その石は刃のように鋭く、足が簡単に切れてしまった。

 

「いつっ!なにするんですか!?さっきから美鈴さんちょっと変ですよ!」

「貴子さん……何かに気づきませんか?」

「えっ?……な、これは!?」

 

 

――ホール

 

「レミィ!」

 

パチュリーの悲痛な声が反響する。

空中戦に敗れた吸血鬼が勢いよく宙から落ちてきた。

その心臓部には深く銀のナイフが突き刺さっている。

 

「パチェ……ぐっ!」

 

レミリアが口から勢いよく血を吐き出す。

 

「喋らないで。すぐに直すわ」

 

そう言って呪文の詠唱を始めようとしたパチュリーをレミリアが手で制止する。

 

「いや、いらない。まだ、終わっていないんだ」

「貴方……」

「パチェ……もうすぐフランがここに来る……頼んだぞ……」

 

そう言いおえると、糸の切れた操り人形のようにかくんと床に突っ伏した。

 

「……バカ」

「おい、御涙頂戴の演劇やってるとこ悪いが、説明しろ。何がどうなってる。そいつは誰だ」

 

空気を読まないというよりはなから読む気すらない魔理沙がズケズケと聞く。

その不躾な質問に若干の苛立ちを見せながらも答える。

 

「レミリアスカーレット……この異変の、元凶ってとこかしら」

「……なら、霊夢は勝ったんだな」

 

魔理沙は思うところがあるのか、遠い目で答える。

異変の元凶が倒れたことなど大して興味もない。

また……また霊夢に先を越された。

その事が一番魔理沙の心に残った。

 

「レミィ……」

 

全く予期していない親友の敗北、そしてその意図を汲み取ったパチュリーは行動を始める。

魔理沙の肩を掴んで。

 

「ほら、行くわよ」

「どこにだよ!」

「あそこよ……」

 

 

――詰所

 

「これは……一体?」

 

貴子は目の前に現れた超常現象に六分の興味と四分の恐怖で息を荒くする。

 

「おそらくは精神の力が具現化したものでしょう。この鋭い何かの切先のような物に触れると発現するようです」

「私の精神の具現化……」

 

人の形をし、強烈な衝撃を見たものに与える大胆なハートマーク。

 

「こいつは……なんとなく、クレイジーダイヤモンドって呼ぶのがいい気がします」

「なるほど……」

「美鈴さんのは?」

「私のはこの拳銃のようなものです」

「そうですか……」

「「……っ!」」

 

二人が同時にある気を察知した。

そして言葉もなく飛び出していく。

一言交わす間さえ惜しい。

ドス黒い、怨嗟に満ち溢れた気。

悲しみと怒りと絶望。

それらが合わさった気。

まさに、狂気。

特に巨大なそれが、発現した。

その元はもうわかっている。

フランだ。

 

 

――ホール

 

とうとう、一同が一つの場所に集まった。

運命が彼女たちを引き寄せたのか。

彼女たちが運命を掴んだのか。

銀のナイフを刺されて落下してきたレミリア。

その意図を知ってか知らずか治療魔法を行使しないパチュリー。

その隣で深く帽子を被りながら黙りこくる魔理沙。

上からフワフワと降りてくる満身創痍の霊夢。

遅れてきた美鈴と貴子。

その肩に担がれている傷だらけの咲夜。

そして、そこにフランがやってくる。

 

「お姉様にのは誰!?」

 

フランが激昂しながら降りてくる。

あまりにも多くの弾幕を纏って。

 

「フラン……」

 

レミリアが苦しそうにその名を呼ぶ声にすら気づかないほどに怒り、悪魔的な威力の弾幕を宙に漂わせて今まさに皆殺しにせんといった勢いで全員を睨んでいる。

 

「そいつをやったのは私だぜ」

 

名乗りを上げたのは魔理沙であった。

 

「魔理沙……あんた」

「黙ってな」

 

心配そうに声をかけるパチュリーと、何も言わずにただ見つめてくる霊夢の両方を一言で黙らす。

もちろん魔理沙はパチュリーに囚われていたのでレミリアのことなど知りもしない。

ただ、隣で血を流しながら肩で息をする相棒に少しでも時間を稼いでやろうと言う気になったし、それよりも、レミリアを倒したのが霊夢なら、自分はその妹だけでも倒しておかないと格好がつかないと言う焦りのようなものがあった。

 

「違う……貴方じゃない……どいて!!」

 

しかし勇気も虚しくフランの叫びで魔理沙は吹き飛ばされてしまった。

フランは何もしていない。

凄みで吹き飛ばされてしまったのだ。

圧倒的強者のプレッシャー。

吹き飛ばされた帽子を再度深くかぶる事すらも手が震えてしまうほどの。

怖じけている自分に気づいてグッと歯を食いしばった。

 

「いーや私だね」

「どいてっ!!!」

 

フランが再度凄むが、今度は魔理沙も怯まない。

懐に忍ばせたミニ八卦炉と箒を強く握り締めながら空へと舞っていく。

 

「てめーはこの私が直々にブチのめす…!」

 

そう言ってスペルカードを宣言しようとした瞬間に魔理沙は違和感に気づいた。

先程まで持っていたミニ八卦炉が懐から消えている。

まるで、時を止めた隙に奪われたように忽然と。

その後ろに、霊夢がいつのまにか飛んでいた。

 

「当て身」

「なっ……」

 

急所への一撃の元に眠らされた魔理沙は落ちていき、咲夜に受け止められる。

咲夜の右手には、魔理沙のミニ八卦炉が握られていた。

 

「きっと文句を言うわ」

 

そうパチュリーが溢す。

 

「宛先はあの巫女ですわ」

 

咲夜が返す。

 

「私のスタンド、クレイジーダイヤモンドの能力……」

 

貴子は己から発せられた幽体のような物を凝視する。

 

「まるで異質ね。破壊に優れた物がほとんどなのに、治すスタンドなんて」

「今日はよく喋りますねパチュリー様」

「うるさいわね。アンタのザ・ワールドなんて意味ないじゃない。元から時を止められるんだから」

「戦闘に関してはザ・ワールドの時間停止の方が良いのです」

「どうしてよ」

「それはまたおいおい」

 

「っく!」

 

フランと霊夢の死闘。

一度触れればそこには何も残らないような、そして見るもの全てを釘付けにしてしまうような絢爛な弾幕を舞うように掻い潜っていく両者。

余裕そうに飛ぶも、霊夢は苦戦していた。

そもそも疲労が大きすぎる。

慣れないスタンドを三度に渡り酷使し、緊張と神経の摩耗で精神的な疲憊が大きい。

対するフランは姉を傷つけたものへの怒りで満ちている。

いかに最強の巫女とあれど苦戦を強いられる展開となった。

その時、急に霊夢の柱の横がとてつもない威力で大爆発を起こす。

 

「っ!」

 

咄嗟に回避するも爆風の熱で顔の半分が焼けてしまった。

肺も焼け、息ができない。

 

「あは!私にも出たわ!その人形!」

 

フランの後ろにいたのは耳のついたスタンド。

 

「さしづめこの子はキラークイーンってとこかしらね」

 

霊夢が余裕綽々といった表情だが、その眉間のは汗が流れていた。

 

「お前だけは……お姉様を傷つけた物だけは決して許さない!」

「許されないたって、髪を焦がすだけの事かしら?」

 

霊夢は懐からさらに多くのお札を取り出す。

銀星のナイフは当たらず、時間停止の隙すら与えない。

レミリアの戦い方は妖怪らしく傲慢であり好きだらけであった。

時間を止めるだけの隙など有り余っていたがフランは違う。

全身全霊で殺意を飛ばしてくる。

 

「潰れろ!」

 

フランが巨大な柱をぶん投げてきた。

 

「オラァ!」

 

それをスタープラチナが砕き割る。

否、砕き割ろうとした瞬間にその柱が木っ端微塵になった。

破片が飛びちり、視界が奪われる。

破片が体に突き刺さり痛みを伴う衝撃を起こす。

 

「っく!……?これは…傷が塞がっている?」

「霊夢……だったか?」

「アンタは……貴子だったかしら」

「傷は塞いだ。隙を作る」

「いらないわ!」

 

その返答を聞くまでもなく貴子は何処かへ飛んでいく。

 

「アンタのスタンドは偉く慎ましやかなのねぇ」

下で結末を見つめていたパチュリーが美鈴のスタンドを見て嘲笑する。

「音もなく弾を撃てるのは便利ですよ?ほら、今みたいに」

美鈴は慣れっこと言った感じで流す。

 

貴子は空など飛べない。

だから、美鈴にシャンデリアの金具を撃ち抜いてもらい、それを貴子のスタンドの能力で治すことで宙へと待った。

 

「私たちにできるのはここまでです……フラン様は本当に手に負えませんねぇ」

その時美鈴がついたため息には相当疲れが込められていたそうな。

 

「しかし、あの煙が邪魔ねぇ……」

 

しばしの後、土煙が晴れる。

決着がついた。

そこに立っていたのは霊夢。

地に伏せていたのはフラン。

 

どこにも、貴子は居なかった。

 

決着の瞬間、その顛末はこうであった。

 

「壊れろ!壊れろ!壊れろ!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!!!」

 

フランが止まぬ爆発による破壊をし、大量の粉塵が舞い散る。

視界が悪く、下手に動けない。

しかしこのままでは確実に致命傷に至る。

霊夢は『あの力』を出さなければいけないのかと苦悶する。

しかし、ぴたりとその攻撃が止んだ。

 

「……おやめください。フラン様」

「貴子!どいて!」

「もう、勝負は終わっているのです」

「何をっん!!」

 

貴子はフランに口づけをした。

おもむろに。

しかも舌を入れるタイプの。

 

フランはバタバタと手足を動かして暴れるが、貴子は何故か万力のような力で動かない。

怒り狂う吸血鬼の力を抑えるような力など持っていない。

人間の生存本能が限界を超越した。

しかしそれは長くは持たず、フランは両手で貴子の頭を無理矢理離し、顔を赤面させながら言う。

 

「何をっ――!」

 

懲りない貴子は、再度熱い接吻を交わす。

粉塵で見えていないが、もしこれを館の誰かに見られていたら間違いなく首が飛んでいただろう。

解雇という意味ではない。

咲夜の手によって物理的に首を飛ばされていた。

しかし貴子はフランの口の中を圧倒的な技術で蹂躙する。

迫り来る貴子の愛撃にたまらず力が抜けていく。

そうして硬くフランを抱きしめて捕らえた状態で貴子は右手に隠し持っていた小石を殴る。

すると、後ろで巨大な物音がする。

貴子が持っていたのは、先程フランが破壊した巨大な柱の破片だった。

それが貴子のクレイジーダイヤモンドで元の形に戻る。

柱の破片達は加速し弾丸のような速度を持つ。

 

「んっ無駄よ!」

 

フランもまた、その力で柱を破壊する。

しかし、貴子の目的は柱をぶつける事じゃなかった。

 

「いい加減にして!殺すわよ!」

 

もう一度、唇を奪おうとした貴子に怒りの沸点は頂点と達しその眼光を向ける。

 

「いい加減にするのはアンタよ!」

「っな!」

「やっと射程範囲に入ったわ……フランドール!」

「っきゅっとして!」

「遅い!」

 

スタープラチナの重い鉄拳が、フランの眉間に叩き込まれる。

フランはたった一撃の元に沈み、舞い落ちていき地へと伏した。

 

「……恐ろしい能力だな」

「アンタも、ブッ飛ばされたいのかしら?」

「ノーと言ってもやるんだろ?それより博麗霊夢……アンタに頼みがあるんだ」

 

貴子は、己の望むところを何一つ包み隠さず赤裸々に語った。

 

「アンタ……馬鹿ね」

「あぁ……よく言われる」

「…………」

「恩に着る」

 

貴子は霊夢に背を向ける。

霊夢もまた、振り返り貴子と背中を向け合うのであった。

一言も言葉を交わさずに離れゆく。

 

「……さよなら」

 

そう言ったのは霊夢。

 

次の瞬間、貴子の体は粉々に砕け散った。

 

 

「やはり勝ったか。博麗の巫女!」

 

土煙から出てきた霊夢に向かって、傷の塞がってきたレミリアは声をかける。

負けたから恨むと言ったような辛気臭い考えは持っていない。

それも大妖怪のいいところではあるが、今の死闘を潜り抜けた霊夢には鬱陶しいだけであった。

 

「アンタの妹、よく躾けときなさい」

「あぁ分かった…………博麗よ」

「何よ」

「……いや、なんでもないさ」

「なら話すな!」

 

最初に異変に気づいたのは美鈴であった。

ついで咲夜とパチュリーが同時に悟り、言葉を飲んだ。

そんな静かに慌てる彼女らに、霊夢は貴子からの伝言を預かる。

「あー、貴子……だったっけ?からの伝言よ」

 

「お世話になりましたってさ」

 

 

――異変後、紅魔館はまるで死んでいた。

言葉一つ飛んでいない。

活力もない。

重く、暗く、吸血鬼が暮らすにはぴったりな雰囲気であり、レミリアを含めた全員がその雰囲気に憤りを感じていた。

貴子は、死んだのであった。

 

異変解決後の紅魔館はは、激戦に及ぶ激戦であちこちに軋みが入ってしまったので連日連夜の復旧作業。

咲夜の指示に逆らう者はもはやいなかったし、美鈴は今日も一人で門に立つ。

パチュリーは相変わらずヒッキーだが、最近は迷惑な来客に魔法の伝授をしているらしい。

フランは……また引きこもってしまった。

塞ぎ込み、よなよな呻き声が聞こえたり。

全員の顔に、深い影が刺していた。

あの迷惑で仕事のできない、人情深く世俗的な人間の女はそれほどまでに紅魔館の中で大きな部分を占めていた。

 

そんな静かな紅魔館に、当然ある一人の声が響き渡った。

 

「聞いて下さい!!」

 

声の主は小悪魔であった。

少しざわめくも、それっきり。

まるで大声を出した事を責め立てるような冷たい沈黙にも負けず二の句を繋ぐ。

 

「貴子さんは、残していたんです!」

 

貴子、と言う名に皆が少しだけ反応を示す。

小悪魔は涙を目に溜めつつ叫んだ。

 

「貴子さんは……遺書を……遺書を残していたんです!!!」

 

皆は、もう仕事など出来るわけもなかった。

 

「拝啓 紅魔館諸君

この手紙が読まれているなら、まあそう言う事なんだろう。

どういう理由かは知らないけど、こう言う職場である以上そりゃ覚悟はできてる。

対して言い残す事もないけどこういうのは大事だからね。

 

主君、レミリアスカーレット公。

身勝手にこの世を去った事、お許し頂きたい。

「……勝手に死ぬやつがいるもんか」

 

お世話になったみんな

役に立たない私に色々教えてくれてありがとう。

 

特にメイド長

色々お世話になりました。

人生の先輩として残すなら、甘えたって、泣いてもいいんだよって事。

「余計なお世話よ……」

 

偉大なる師、紅美鈴さん

強さをくれてありがとうございます。

気さくに話しかけてくれたのが本当に嬉しかったです。

酒、煙草は、ほどほどに

「貴子さん……」

 

パチュリーさん

借りてた本にシミをつけた事を今更ながらお詫び申し上げます。

初めて私の料理を褒めてくれたのはパチュリーさんです。

実はあの後嬉しくて少し泣きそうだったんですよ?

「何よそれっ……」

 

そして……フランドール

私が死んだら、感情豊かな貴方はきっと悲しんでる事だと思う。

それが私のただの思い上がりだったら嬉しいんだけど、もしもこの予想が当たって君が悲しんでしまっているなら、私は幸せ者だったのだろう。

そして、私は最後までダメな人間だった。

死んでからも誰も笑顔にできていない。

だから、私からの最後のお願いです。

どうか、泣かないでください。

どうか、笑っていてください。

貴方の笑っている顔が、私は大好きです。

 

「…………っ!」

 

フランは、自室でうずくまりながら小悪魔の声に耳を貸す。

屋敷中の音を拾える地獄耳なのだ。

 

手紙の中からでしか言えなくてごめんね。

悲しんでくれて、ありがとう。

悲しませて、ごめんね。

さよならは、悲しい言葉じゃ無いから。

きっと、またいつか会えるから。

私のいた期間なんてすぐに忘れて、元気に暮らしていってね。

それじゃあそろそろかな。

みんな、さよなら。

 

PS.ハンカチは右ポケット

 

「……っ!」

 

皆が声を上げて泣いた。

鳴り止まぬ嗚咽、切ない気持ちに潰されるような歔欷。

レミリアも、咲夜も、美鈴も、パチュリーも。

妖精メイドたちも大声でわんわん泣いた。

そしてフランドールも、三日三晩大声で泣き続けた。

 

 

紅霧異変

 

概要

初夏、吸血鬼レミリアスカーレットによる赤い霧の大量発生。

人体に影響なし。

博麗の巫女が迅速に解決。

 

備考

同時期に、謎の霊体(通称スタンド)が発生すると言う事態が起こるも、何事もなくいつの間にか自然消滅。

原因不明

 

紅魔館の従者一人が死亡。

館全員で葬儀を執り行う。

吸血鬼が人間の葬儀をする事は極めて異例である。

 

 

「こんなもんでどうですか?紫様」

 

さっとその紙を手渡す藍。

 

「………大切なのが抜けてるわよ、藍。ポンコツの狐が門番、紅美鈴に好き勝手に乱暴されたってのが」

「ですからあれはっ……」

 

藍が言い淀み、少し頬を赤くする。

 

「まぁ、無事に帰ってこれたしいいけれど、それ。どうするつもりかしら?」

 

紫が藍の膝元を指さす。

そこには、真っ黒の毛並みの黒猫が丸まって寝ていた。

 

「…………是非に及ばず」

「及ぶわよ」

 

少しだけ、年日が流れた。

紅魔館の裏、少し開けた空間に墓跡が立っている。

フランドールは、そこに訪れた。

美鈴の庭から取ってきた一輪の花をたむけ、紅魔館の秘蔵の銘酒を墓石にかけて、そしてゆっくり目をつぶる。

 

「……1ヶ月もたったんだって。早いね」

 

墓跡に向かってポツポツと話しかけるフラン。

秋風が優しく金の髪を揺らす。

 

「みんな忙しそうにして、墓参りもしないで酷いよね」

 

星が輝く。

フランの曇りなき瞳に反射して。

 

「貴子のおかげで、この館は変われたよ」

 

木の葉が舞い散り木の枝が少し揺れる。

 

「……おやすみ、貴子。ありがとう……」

 

大きな満月は、今日もその墓をふんわりと照らしている。

これからも、ずっとずっと照らし続けるのだろう。

貴子という人間の墓を。

 

紅魔郷編 完




次回、妖々夢編。
第一章完結、ありがとうございました。
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