ろくでなし東方   作:ほろ酔いちゃん

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さあここから一気に話が加速していきます。
特に幽々子と妖夢の関係性なんかが。
次は二週間で更新するというホラを拭いておきます


黒歴史を掘り返す奴ら

あゝやんごとなしやんごとなし。

ちゃっとのけちゃっとのけ。

いやはやいやはや。

映姫様のそれはそれはありがた〜いご高説をあえて表現するなら私の貧相な語彙ではこのような言葉しか思い浮かばない。

時間の単位がバカになりすぎてインスタント麺の3分に感動を覚えてしまった。

あのお喋り閻魔、舌引っこ抜いた方がいいんじゃないか。

もしくは歯無しにでもなった方がいい。

その長きにわたる語りの枕は、三途の川を渡る船の上での私の狼藉に対するもはや尋問の域に入っている質問であった。

小町に告白した下りあたりは、やってからかなり後悔してしまうほどの愚行だったので説明するのがなかなかに辛かったが、ともあれ何一つ嘘偽りなく話したので大丈夫のはずだ。

二人の関係を利用した事で若干機嫌が悪くなったのは致し方ないだろう。

後は生前の行いへの弁解だった。

これもまた恥の多い生涯を送って来た身には酷な事だったが旅の恥はかき捨てというわけで武勇伝ふくめ人生について話した。

その中で特に、ルーミアを含めた妖怪たちの退治の仕方がすこしまずかったらしく、若干顔を顰めていたが一応正当防衛として受理してもらったので大丈夫のはず。

他にも博打の事や借金の話をしたが、ぽろっと生まれの記憶がない事なんかを語ったのが最大の過ちだった。

そこからは完全に話が脱線していき、気づいたら映姫の生い立ちについて聞かされる羽目になっていたのだ。

閻魔になる前はただのそこらのお地蔵様だったけど汗水垂らして苦労を重ねて今の立場になってうんたらかんたら。

他人の苦労話など私の様な無関係なものからすればミジンコレベルでどうでもいい。

しかし私の気持ちなど伝わるわけもなく映姫の喋りは加速していった。

閻魔室で座らされた椅子もなんか安っぽいのか古びたのか知らないが座り心地は悪いし。

というかぶっ続けでまるまる30時間くらいはお喋りしてたんじゃないか?

こっちに来てからもっとも驚いたのはその大きすぎる時間感覚のズレであった。

中には一年以上裁きを待っている者もいるらしく、私は小町やらのツテで早めに見てもらったに過ぎないそうだ。

どうにもこっちの時間とあっちの時間の流れはいくぶん違うようで。

っていけないいけない。

あの世の事をこっちなんて言い始めたら私もとうとうって感じだな。

さて、と。

そんなこんなで長話をしたくせに私の行く末についてはえらく短い結論が出されていた。

結果の書いてある書類を見た映姫が一番驚いていたが、私の判決は以下の通り。

 

輪廻転生不可。

しかも原因不明。

 

まさかの2行。

たかがそれだけの答えを出すためにえらく長い遠回りをしたものだ。

しかもその答えは到底納得できるものとは程遠い。

生まれ変わることすらできないし、その原因すらわからない。

若干魂が歪んでるからだの何だの言われてたけど、もうどうでもよくなって聞いていなかった。

話の長い者にいい仕事はできないと言うのが私の持論だ。

職人気質でも気取っているのかと嘲笑されそうだが、笑いたければ笑うがいい。

それでも本物って奴は言葉じゃなく結果で語る物だと思うし、そう言う意味で言うなら私はまるっきりのアマチュア、偽物って奴である。

一応判決をだした映姫は、何かわかったら連絡するとは言っていたが正直今見た感じではあまり期待できそうにない。

いつだって私のような一般市民は不幸を被っても笑って切り替えるしか無いのだ。

要するに、映姫から告げられた死後の生活に想いを馳せなければならない。

映姫に渡されたこの紙に書かれた場所。

その場所の名は……冥界、白玉楼というところらしい。

うーん何とも物騒な予感がする。

そこでの暮らしの方が私は不安だ。

長居をするのも忍びないし、時期を見計らってまた別の行動を起こさなければいけない時がくる。

展望についての考えが纏まるまではこの辺りを見物しておこう。

何より、この辺りの酒が少し名残惜しい。

幾分切ない味だが、未練に溺れている死人の口にはそんくらいで十分なのだ。

 

これは、小町から聞いた事だが彼岸には犬はいない。

犬は往ぬ、忌み言葉ってわけだ。

死んでから不吉な言葉もくそも無いとは思うんだが。

まあうだうだ言っても仕方がない。

しばらくはその白玉楼とやらでお世話になろう。

死人に朽ち無し。

時間は永遠にある。

おそらくはある程度長い間柄になる事だろうし、そうなると手ぶらで行くのは失礼な話だ。

手土産に何か買って持っていかなければいけないな。

そういえば映姫様がこの辺りに美味しい和菓子屋があると言っていた。

ビタ一文持ってないが大丈夫だろうか。

一応、請求書の宛名はヤマザナドゥにしておこう。

 

「おーい貴子」

「あ、小町」

 

大通りを歩いていると小町が大鎌を揺らしながら遠くから駆け寄ってきた。

揺れていたのは鎌だけではなかったが。

見立てでは20貫はあるはずなんだが、あんな物を背負いながらよく走れる物だ。

死神のバイタリティ恐るべし。

しかし方角からするに酒でも煽ってサボってた所だろう。

 

「判決どうだった?」

「この紙に書いてある通りだよ」

「なになに……転生不可、原因不明……?」

「要はしばらく暇って事で」

「お、て事は?」

「飲みに行けるってことよ」

「そうこなくちゃ」

 

私たちはひゃっほうと飛び跳ねながら肩を組んで駆け出していった。

ここにきてから何度目かの飲み会。

酒に溺れなきゃやってられないんだ。

私も小町も。

 

とある西の外れの居酒屋にて、私たちは恒例の愚痴り大会を開催していた。

そのほぼほぼが小町から発せられた映姫に対するものであるが。

 

「そんとき映姫様なんて言ったと思うよぉ」

 

店に入る前からへべれけだった小町の愚痴話も半分に、私はちびりと酒を飲む。

出汁の香りを含んだ湯気が顔を優しく撫でてくれる。

近頃は冷え込んできてなんたって熱燗が美味い。

ここの酒を飲むのは何度目だろうか。

小町に連れられてはここでちびちびと呑んでいる私達だ。

外装自体は何処にでもある古き良きの大衆酒場って感じで、壁に手書きのメニューが貼ってあったりしていて何とも懐かしい感じが実に良い。

豚の生レバをつまんで、その強いクセ味を酒で流し込む。

……あぁ、うまい。

死のうが生きようが酒はうまい。

ここの酒は本当に切ない味がする。

それは、あの騒がしい悪魔の館を思い出させるのに十分すぎた。

あいつら、元気にやってるだろうか……。

死なない程度に楽しくやってくれればそれでいい……。

 

「いやー、わかるぞ!お嬢ちゃん!」

 

すっかりできあがった小町が、私とは逆隣に座っていた女の子にうんうんと大袈裟に相槌を打って背中を強く叩く。

……人が珍しくシリアスモード入ってんだから少しは静かにできんのか小町よ。

 

「ほんとにほんとに、ワガママな上司にいっつも私たち部下は苦労させられてるよ!」

「いや、私は苦労させられてると言うわけでは……」

「その発言がもう苦労の証だね!ほら献杯だ!献杯!」

 

どうでもいいが彼岸では乾杯ではなく献杯をする。

死んでるからね。

大きめのグラスに注がれた透明の酒を勢いよく飲み干す小町。

 

「っなんたって頑固がいけないんだよあの人は!ちょっとくらいは頭を柔らかくした方がいいってんだ!だからいつまで経っても独り身で」

「小町」

 

さて、より顔を真っ赤にしているのは、酔っ払った勢いで静かに呑んでいた女の子に迷惑な絡み方をする小町か、それともその後ろで笏を持ちながら仁王のような顔を浮かべている映姫様であろうか。

 

「小町」

「そうそう!こんな感じでいっつも私の名前を読んでは説教ばっかで……え?」

 

口から情けなく酒を垂らして唖然とする小町に合掌。

 

「南無……」

 

私の念仏も虚しく響き、小町は店の前に強制連行され正座、譴責をうけるのであった。

うん、拳骨もくらってるな。

触らぬ神に祟り無し。

放っておくのが上策だと見た。

そもそもサボっていたのだから説教は至極当然、自業自得なのである。

ところで映姫様、閻魔仕事の方は大丈夫なのだろうか。

要らぬ心配な気は全くしないが、もしやまた誰かを何十時間も待たせているのか?

勝手な推測だとは分かっているがそれでもやれやれだという顔に思わずなってしまう。

ガミガミというよりはクドクドとした叱り方をしているあたり、今回も説教は長くなりそうだ。

こんなザマじゃ原因がわかるのは3世紀後の出来事だろうな。

そんな鬱憤をぶつける訳では無いが、私は喋るあても無くなったので、小町が絡んでいた少女にバトンを受け取って絡むことにした。

 

「ごめんね、ウチのツレが」

「いえ、お気になさらず」

「……何であんなに盛り上がってたの?」

「私が大将と話をしていたら急に……」

 

ちらっとこの店の大将を見やると、朴訥な顔をしかめて苦笑いを返された。

よほど悪い絡み方をしたらしい。

南無南無〜。

 

「それは悪い事をした」

「いえいえ、慣れてますから」

 

ため息混じりな返答と、どこか遠いところを見つめる視線からは苦労人であるという事がひしひしと伝わってくる。

 

「慣れてる?」

「ああいった人にです」

「そりゃあ大変だな。上司に難ありってとこか?小町じゃないけど」

「ええ……少し玄妙な御方でして……今も難解な使いを命じられているのです」

「お使い?偉いなぁ」

「これです……この紙に書かれた内容の物を買ってくるまで帰って来るなと仰られて……」

「それは酷いな」

 

少女は少しだけ腹立たしそうに、一枚の紙を死装束の懐から出して机においた。

その紙に書かれた内容はこうだ。

先に言っておくが原文のままである。

 

『前略 憂き世の暇を明け、離せぬものあり。それが死。朽ちて各地、智学口身を求め、彼岸の華も枯れる折、後ろの正面、貴方はだぁれ? 草草』

 

「……アンタも大変だな」

「恥ずかしながらこの文の意味が少しも分からず、3日ほど途方に暮れていまして……」

 

一体なんだこの呪いの手紙は。

うーん、さっきの件も含めて力になってあげたいが悔しくも私の教養や洞察力なんかは人並みも怪しいくらいだからなぁ……。

3日どころかいつまでも途方に暮れそうなほどだ。

そもそもこんな怪文書でお使いを頼むなんてどんな神経してるんだよ。

答えどころか解決の糸口も見出せずに唸っている私たち。

その沈黙を破って口を開いたのは意外な人物だった。

 

「……手鏡だな」

「大将、今なんて?」

「……手鏡を買って帰るといい」

 

無口な大将が珍しく話したと思えば、何を言い出すんだ?

3日かけてもわからないこの文章の意味をたった一目で看破したというのか?

そんな馬鹿な……。

いや、そんな怜悧な話があるだろうか。

このじいさん何者だ?

その根拠を聞きたいのは山々なんだが、こういった無口な人に説明してもらうのは大抵要領を得ないし、大将の視線からは別の意図を感じる。

ここはとにかくこの言葉を信じるしかなさそうだ。

まだ会って間もないがこの大将はそんなつまらない茶化しやホラをかますような半端者では決してないと断言できる。

それに、3日も悩んでいるのだったらその頑張りで十分ってことにしても構わないだろう。

大将は言い終えるなり他の仕事に向かったので、その真意は私にはわからない。

答えは手鏡、それを処理するのが先決だ。

 

「だ、そうだ」

「手鏡、ですか」

「私も手鏡だと思うよ」

「この文の意味がわかるのですか?」

「有名なお話だよ……といっても古い話だから、若い人は知らないかもね」

「私は若くないですよ」

「まあまあ聞きな」

 

真面目な面持ちで居住まいを正そうとする女の子に待ったをかけて、お猪口に酒を注いでやる。

私はポッケからタバコを取り出し火をつけた。

愛好している銘柄ではないがこの辺で売っていたものだ。

気楽に聞いてもらう話しか持ち合わせていないのでそう真剣な態度でいられてはやりづらい。

煙を飲み込んで小町同様ひとまず献杯をし、とある話をする。

どうでもいいことだが、何かを語る時語り出しを大袈裟なくらい神妙にするとメリハリがつく。

私もその教えに則った。

 

「昔、とある小さな国にそれはそれは女が大の苦手な王様がいたんだ。巷じゃ女に会うと泡を吹いて倒れるという噂で笑い物にされるぐらいな」

 

語り出しはそんな感じだったと思う。

私は楽に聞いてくれと言ったのに、根っからの気質なのかやたらと真剣な顔持ちで聞いてくれる。

そうも熱い目線で見つめられるとついつい話に熱がこもってしまうのだ。

一生治らない悪い癖だ。

 

「ある日その王様は、うっかり李下に冠を正してしまったんだ。

すると恐れ多くもその王様に文句を言ってくる者がいた。

王様はその時たまたま一人でいたから良かったものの、王の行いに口を出すなんて打首獄門、親類縁者皆同罪。

王とはそのくらいのものだ。

しかし王は怒らなかった。

文句を言ってきたのは、見る目を澄ますほどの美しい女だったんだ。

どうにも不思議なもので、女の苦手な王もその女の前では何ともない。

それを運命と感じたのか王は熱烈にアプローチし、もとより気立は良い男だったから二人はどんどん恋に落ちていく。

しかしそこからはよくある悲劇の恋。

悲しくも二人は身分が違う。

恋は実らない、徒花だった。

咲かぬ花は、裂かれた二人。

それでも王は、諦めずその女の所に通い続けた。

すると、ある日その女は消えてしまったんだ。

ある一枚の置き手紙を残して。

その手紙の内容がまさにさっきの紙に書かれたものだった。

それを見た男は迷わず、その家にあった紫色の手鏡を握りしめ、涙を堪えながら強く女との再会を念じた。

するとその手鏡は光だし、その光はある一つの方角を指し示したんだ。

男は無我夢中で駆け抜けてね、途中で何度も転んだし王様とは思えないほどみっともない姿になっていたと思うよ。

そして、とある山の奥の泉でとうとう女のもとにたどり着いた。

女は、男を見るなり一滴の涙をこぼして黄金白金の雨を降らし始めたんだ。

すると強い光が女を覆い、男は思わず目を瞬いた。

光が収まると、そこにいたのは羽衣を纏い、風のように揺蕩っている女であった。

女は、天女だった。

そして、身分という物に囚われなかった聡明な王の事を大器と認め、今度は自分が、天女という身分に囚われることなく下賤な人間との恋に落ちた。

そう、天女から人間に変わり、この地上という地獄へとへと落ちていったんだ。

そうして二人はいつまでも冷めぬ愛を育み合い、健やかな国を作り上げていったとさ……めでたし、めでたし」

 

……うーんなかなかいい話じゃないか。

やっぱりいつの時代も身分の差を乗り越える恋には熱いものがあるんだなぁ。

まあ全て今作った嘘なのだが。

肝心の手鏡を選んだ理由がないんだから、バレるかと思ったが純真な娘で良かった。

ともあれこれで大将の意図は汲み取れた筈だ。

きっとあれは私に適当な説明をしろっていう視線だったんだろう。

 

「……っぅう、ひっぐ……」

 

……え、マジ泣き!?

私の話で泣いてもらえるなんて何とも冥利に尽きるなぁ。

じゃなくて!あの話にそこまで泣く要素あったか?

 

「いい話です……うぅっ……そのような話を知らなかった自分が恥ずかしいっ……うぅぅっ…」

 

目元を手拭いで押さえながら鼻を啜っている。

そんなに嗚咽されると、少し周りの視線が気になる。

こんな与太話で感涙できるなんて、純粋な子なのだろう。

この子の上司もあながち悪い教育はしていないのかもしれない。

 

「……っずず。大根の煮込みです……」

「いやお前もか」

 

何で大将までキてるんだ。

……しかしまぁ、これで手鏡を買って帰ってくれればそれに越したことはない。

 

「ご高説感謝します……お名前をお伺いしても?」

「ああ、名乗ってなかったか。貴子っていうもんだ。アンタは……妖夢ちゃんね」

「どうしてわかったんですか!?」

「お財布に名前書いてたら誰だってわかるよ」

「はっなるほど!」

 

キラキラとした眼差しで財布と私を何度も交互に見る妖夢。

ずっと思っていたのだが……この子は少し純粋を通り越してアホなのかもしれない。

爪楊枝が跳ね上がる手品とかしたら本気で驚きそうだし。

そんなことを考えながら、私はふと小町に聞く予定であったある質問を、かわりに妖夢にすることにした。

小町(あのバカ)は表で正座させられてタンコブまみれになっているのだからしょうがない。

 

「ところで妖夢ちゃん。ここってどう行くか知ってる?」

 

そういって、いま玄関先で怒鳴り散らしてる人から貰った白玉楼という場所の住所が書いてある紙を見せる。

 

「……ここって」

「知ってる?なんか私ここに行かなきゃいけないらしくてさ」

 

本当困っちゃうよね〜、なんていう二の句を続けそうになったが、それよりも早く妖夢の返答が帰ってきた。

 

「……知ってるも何も、私の仕えるお屋敷ですよ、そこ」

「え?」

 

タバコの灰がひらりひらりと床に落ちていく。

妖夢の思わぬ隠し球によって。

 

 

彼岸の是非曲直庁から西へ東へ4里ほど歩いたところに、その屋敷はあった。

静かな所にまさに佇むように、それでいて奥ゆかしさを持つ和の美。

昔、少しだけ土建屋として働いていた私は、その屋敷を建てた者の素晴らしき建築技術に思わず見惚れてしまう。

生きる者の世に建つ西洋風の暗い館であった紅魔館とは打って変わり、彼岸にあってなお東洋特有の鈍い光を灯した屋敷は、趣や風流という言葉がなによりも相応しい圧倒たる存在感であった。

 

「ここが西行寺幽々子様のお屋敷、白玉楼です」

 

ここまで案内してくれた妖夢が、仕上げに最後の説明をしてくれた。

死んでもなお迷惑者の私は、どういう訳か今日からこの巨大な屋敷で住むことになっている。

ここに来るまでの道中で何度も、ただ世話になるだけではあまりにも申し訳ないから住み込みで働くという形にさせてくれ、と妖夢にお願いしたのだが妖夢の返事は決まって、

 

「幽々子様と相談してください。私のお屋敷ではありませんから」

 

の一点張りであった。

実際役に立てるかといわれれば、別にそんなわけでも無いのだが、そこに居てもいいと言う理由があるか無いかでは大きな違いがあるのだ。

ともかく何か役割が欲しい。

人間とはそういう生き物なのかもしれない。

皿洗いぐらいなら出来るかなとか考えながら歩みを進めた。

妖夢が自分の身長の一半倍くらいはあろうかと言う大きな正門を器用に開ける。

まず私の目に入ったのは、野球ができそうなくらい巨大な庭であった。

屋敷は、近づけば近づくほどにその木目の光沢や瓦の調和がそそやかに目へ飛び込んでくるような気迫のようなものがある。

和風な屋敷もやっぱりいいもんだ。

大和撫子の私にはこの御国文化が心地よい。

きっと、田舎のお婆ちゃんの家に行った時はこのような気分になるのだろうなと少ししみじみしてしまう。

私にはお婆ちゃんなどいた事がないが。

少し自嘲的になってしまったのに気づいて首を振る。

そして、庭を通り内側の玄関へと向かった。

そこにある枯山水や庭木は素人目に見ても整えられているのがひしびしとわかる。

妖夢は庭師こそが自分の仕事だと言っていたが、まさかこれを仕立て上げたのだろうか。

死の国恐るべし。

そしてその裏に生えていたあまりにも巨大な、そして冷たく枯れた大木に、何となく私は寂しさを覚えたのだ。

 

「……想像はしていたがやはり大きな屋敷だ。この屋敷は一体誰が建てたんだ?」

「私の遠い先祖と聞いています。祖父妖忌の時には存在したと」

 

妖夢の祖父……ってことは結構年季いってるんだな。

にしてはまるで新築のような様相だが。

 

「あの木は?」

「あれは西行妖という桜の木です。かなり曰く付きの……」

「曰く?」

「なにやら根元に何者かが封印されているとか……一度も満開になったことがなく、世界の終わりの日に満開になるとか……」

「そんなのほぼ都市伝説の域だな」

「ま、幽々子様のお戯れでしょうけどね」

「だろうな」

 

口では滑稽を飛ばすものの、あの木……少しだけ嫌な予感がする。

何かはわからないが。

そんな私を置いて妖夢は玄関を開け、疲れたように中へと入っていった。

私も置いていかれないよう後に続く。

 

「ただいま戻りました〜。さ、上がってください」

「お邪魔します……」

 

恐る恐るその玄関口へと足を上げ、そろりそろりゆっくりと足をつける。

すると、慎重すぎたのか指先が床を勢いよく滑り、足が勢いよく前後に開く。

そしてその勢いのまま全体重の負荷をかけられた後ろ足の方向に思い切り頭から後ろへ転んでしまった。

 

「いっっだぁっ!」

「大丈夫ですか!?」

 

玄関は綺麗にせよとは言うがこれではあまりにも少し手入れが行き届きすぎている。

床が氷のようだ。

あまりに間抜けすぎる第一歩目に一瞬何が起こったのか理解できなかったが、ジリジリと歩み寄ってくる鈍い痛みにより少しづつ状況を把握して行った。

痛みには主要動と初期微動があるような気がする。

強い痛みは後からゆっくりと私たち息の根を止めにやってくるのだ。

不意に来た鈍い痛みに耐えかねて頭を押さえながらうずくまっていると、妖夢がしゃがみこんで心配そうに覗き込んできてくれる。

こんな足のない幽霊のくせして思いっきり転ぶような鈍臭い私を笑ったりせず真剣に心配してくれているのだ。

何ていい子だろうか……!

と感動したいのは山々なのに、眼前で起きているとある事柄がそれを遮ってくる。

妖夢が、膝を立ててしゃがむ蹲踞の姿勢で私の顔の前にいるため、スカートの中があまりにもよく見えてしまうという事だ。

鼻先数尺の所に……妖夢のモノが。

そんなことは今はどうでもいいくらいに痛みが強いのだが……白色の無地か。

あ、やばい。

めっちゃ嫌な予感がする。

 

「あらぁなんの音かしら?」

「あ、幽々子様!」

 

屋敷の奥から一つの気配が近寄ってきた。

幽々子……ってことは主人がきたのか。

この姿勢では顔を伺う事が出来ないが、笑顔を浮かべて笑いを堪えている所が想像できる。

もしくは驚くだろうか。

全くもって恥ずかしい初対面だ。

 

「……しばらく帰ってこないと思ったら、下着を見せるのが趣味になったの?妖夢」

「「えっ……」」

 

私と妖夢が同時に声を上げる。

お互いにその意味は違うが。

3秒、きっかりそれだけの間時が止まり……言葉の意味を理解してしまった妖夢が顔を真っ赤にして腰に挿している刀へと手をかけた。

嫌な予感、的中。

 

「変態!」

「違う違う!誤解だ!」

「問答無用!」

「頭を動かそうにも痛くて動かせなかったんだよ!」

「さて、本当に誤解なのかしら……」

「やっぱり!」

「本当に誤解だよ!いや本当に!」

 

何で謝らなければ行けないのか少し不服だが、下手なことを言ってしまえば下半身とお別れしなければいけない可能性があるためぐっと口を閉じる。

まだまだ頭の打った所は痛いが、それよりも妖夢の視線の方が痛い。

ゆっくりと起き上がり、膝についた埃を手で払ってから正面を向く。

そしてそこに立っていた者の顔を睨むようにして見た。

こいつが西行寺幽々子か……。

強い者の気配こそするがその気の流れはまるで穏やかで、まさしく死んだような静けさだ。

浮かべている笑顔は柔らかく、包み込まれるような感覚に陥る。

しかし、しかし私は依然として警戒態勢を解くことはないだろう。

その桃色の髪を揺らしてあざとく幽々子はお辞儀をした。

 

「貴方が例の者ね。よくいらしたわ。どうぞお上がり下しませ」

「あぁ、お邪魔します」

 

わざとらしいくらい丁寧な言葉を使って催促をされる様には、慇懃無礼って言葉がよく似合う。

しかしまぁこのアマ、本当にとんだ御局様らしい。

こんな事じゃ妖夢にあんな怪文書を解読させようとするのも納得だ。

私は紅魔館での経験も踏まえてある一つの答えを導く。

ここで住んでいくのならば、一挙一動に気をつけないと絶対にこの女は嫌味ったらしく論ってくるという結論。

こういう人達はまるで息を吐くかのように意地の悪い行いができる人種なのだ。

それに、あれは下着を見せびらかした妖夢が悪い!

覗いた私は悪くない……いや、それは流石に開き直りか。

 

「妖夢。お客様を案内なさい」

「……かしこまりました」

 

幽々子はひどく穏やかかつ棘のない口調で言った。

指示を受けた妖夢は主人に逆らうわけにもいかず、不満ありけんと言った顔をしながら、不機嫌そうな顔で刀を納めた。

露骨なくらい金属のぶつかる音を立てて。

 

「……どうぞ」

 

気のせいか知らないが妖夢と目が合わなくなってしまった。

言葉もどこかよそよそしい。

若干の辛さを感じるが、時が解決してくれるだろう。

希望的観測が過ぎるかもしれないが。

 

案内されたのは手前から三番目の和室であった。

部屋の名は桐壺なり。

その部屋には机と座布団が用意されていた。

客間に案内されている途中でも、やはり建物の建築技術は素晴らしいと感服する。

縁側からは庭の鹿威しの音がせせらぎのように聞こえて来てなかなかに風流だ。

幽々子は慣れたように遠慮なく歩くが、ここまで上物の畳だと上に乗ることさえ躊躇わせる。

貧乏な育ちを恨みながら、本能に抗って部屋へと入っていった。

 

「さて……と。妖夢、お茶をお願い」

 

妖夢をどこかに追いやるように用を言いつけたと思うと、私の対面に腰を降ろした幽々子は、急にじっと私を見つめて来た。

幽々子の黒い瞳は、まるで私ではなくその奥にある別の『何か』を見透かすようで、眺められ心地とでもいうのだろうか、それがずいぶん悪かった。

その瞬間に、ゆっくりと舐めるような冷たい風が頬の横を吹き抜ける。

まるでかまいたちのように。

まだ何も会話を交わしていないのに、幽々子を中心に空気が一変していく。

……私は妖夢の呑気な振る舞いに油断していたことに今更気づいた。

いつもそうだ。

私は大事なことにギリギリまで悟れない。

そしてやっと嫌にでも理解させられる。

この世界でも五指の強者がたった今私の目の前で座っているのだ。

レミリアの持つ分かりやすい恐怖とは違う、死という概念が具現化したような曖昧で底知れない恐怖。

痛みを伴わない、純度の高い本能の恐れ。

ずっと昔に壊れたと思っていた私のヤバい奴センサーが、今になって大車輪のように回転している。

これから始まるのは応接ではなく、尋問であるとノンバーバルに伝えているのだ。

しかしあえて言おう。

ここで怯えてはいけない。

むしろ、この向かい風に乗って飛び立たねばならないのだ。

 

「貴子さん……よね?」

 

幽々子の先手。

さん付けでの名前の確認をされると、返答は敬語か否かと言ったようなさまざまな考慮をしなければいけない。

しかしここで下手に出るのは少し早い。

あくまでも堂々と。

 

「貴子でいいです。世話になる身ですし、幽々子さんとお呼びすればいいですか?」

「幽々子で構わないわ。敬語も結構よ」

「あぁ……じゃあ楽にさせてもらうよ」

 

ここは敬語は使わない事にした。

失礼の極みだが、私には曲がりなりにも閻魔の勅令というバックがあるからだ。

呼び名の整理を終え、ジャブ程度の挨拶が済んだところで本題を幽々子から告げられる。

恐れを乗り越えないとやっていけないとは分かっているようでも、体は交感神経が擦り切れそうなほどだ。

握り込んだ拳が汗でじんわり滲む。

 

「閻魔の方から、貴方について連絡が来たわ」

「そうか……幽々子から見た感じはどうなんだ?私はどこかおかしいのか?」

「そうねぇ。閻魔じゃないからわからないけど、少し欲が深いってくらいじゃないかしら?」

「欲か……」

「お金とか性とか乱れてたんじゃないかしら?」

「全く心当たりないな」

 

先程の返答は心当たり(しか)無いの省略形である。

酒も性も金回りもって、私の体の九割を占めてるぞ。

そんなささやかで浅ましい嘘を見透かしたように幽々子は性根の腐ったような笑みを浮かべ、そして口元を扇子で隠す。

 

「私にはわからないわねぇ。この目で見ないことには、貴方の特異性も全て嘘となるのだから」

 

……特異性?

何を言っているのか全くわからないのだが、それを言われてくれない圧力があった。

わざとだろう。

肌寒い雰囲気から一気に凍えるくらい氷点下の空気が充満する。

吐く息が白く凍りそうなくらいだ。

 

「そうね。ここに住むのは認めるわ。けれど、私が貴方のことを信頼するかどうかは全く別の問題」

「住ませてもらえるだけで感謝しきれない僥倖だ。急にこんな流れ者を信用しろなんて方が無理な話さ」

「そうねぇ。まああの閻魔の事だから、少し長い付き合いになると思うわ。楽になさい」

 

幽々子の一言で、居住権を正式に認められた気がして羽が生えたかのように体が軽くなる。

体を支配していた緊張という感覚が無くなり、安堵と疲労がシェイクされたような複雑な気持ちだ。

だが、まだ話は終わりじゃない。

件の事について、妖夢の言う通り主人に直接談判する必要があるのだ。

 

「恩に着る。しかしやはり付き合いは長くなると思う。ただで住むのは申し訳ない。できることは少ないが家賃程度には働かせてもらえないか?」

「あら、うちは妖夢がいるわ。気にしなくて結構よ」

「この広い屋敷だ。掃除なんかは大変だろう。それに時間の潰し方が見つからないんだ」

「そうねぇ……なら、面接でもさせてもらおうかしら?」

「あぁ。なんでも聞いてくれてかまわない」

 

居住まいを正して横座りから正座へと直す。

幽々子は顎に人差し指を当てて少し考えるような素振りをし、その口を開いた。

 

「それでは、質問ね」

「ああ。」

 

えらくら勿体ぶったかと思えば、藪から棒に幽々子の質問が飛んでくる。

 

「貴方は幼児愛好者、もしくは同性愛者なのかしら?」

「……えぇ!?」

 

あまりの突飛な質問に思い切り吹き出してしまう。

あの雰囲気でどうしてその質問が出るのか、それともその質問が故にわざとあんな雰囲気にしたのか。

私はペドフィリアでも何でもない。

道行く鼻水垂らしたジャリを見て己の女を感じたことなんて生涯を通して一度も無いんだ。

 

「どちらも違う!」

「それでは死因は?」

「吸血鬼と暮らしていたら不注意でだよ」

「なるほど……それじゃぁ、見させてもらおうかしら」

「……え?」

 

幽々子はどこに隠していたのか少し大きめの水晶を机の上においた。

この展開、なにかデジャビュを感じる……。

それに、私のよく当たる嫌な予感が今回も絶好調だ。

水晶は中身が透き通っていて、中を覗くと奥側に屈折して少し膨らんだ幽々子の体があった。

 

「これは生前が映る水晶。そうねぇ、閻魔が使う浄玻璃の鏡の様なものよ」

「……見たのか?」

「ええ、見たわ。私が聞きたい問題の場面は三つ」

 

幽々子が手を翳すと、水晶は煙が充満する様に曇っていった。

 

「この、金髪の小さな妖怪を切り刻んでいるのは何故かしら?しかも同じようなことを何度もやってるわね?」

「……妖怪退治屋をやってたんだ。下手に腕なんかを残すと喰われる。それにその妖怪は私のお得意様だ」

「……貴方、妖怪退治屋だったのね」

「ああ」

「そう……じゃあ二つ目、紅魔館に行った時この低級悪魔に胸を弄られているのは何かしら?しかも全裸で」

「ボディチェックだよ。吸血鬼ってのはなにぶん不便でね。ナイフ一つ持っちゃダメなんだよ」

「なるほど……」

 

二つの質問に対する答えを受けて、思いの外幽々子は驚きもなくむしろ予想通りという反応をする。

その反応に、かえって私は不安感を覚えた。

何だ?

違和感が大きい。

 

「なるほどねぇ。それじゃあ、三つめ」

 

ここからが本題と言わんばかりに勿体ぶる。

よって貴子も肩が強張る。

 

「吸血鬼の唇を奪ったのは何故かしら?」

「……動きを封じるためだよ」

「あらぁ、面接で嘘をついてもいいのかしら?」

 

神妙な顔は崩れて途端に、意地の悪い悪意のこもった笑みを浮かべ出す幽々子。

質問には答えにくく、ハッキリ言って黙秘権を行使したい。

しかしそんなことを許してくれる存在ではないのが痛いほど伝わってくるのだ。

息遣いや目線、声の抑揚なんかから。

 

「その……極度の緊張の反動で……高揚してしまって……」

「声が小さくて聞こえないわぁ?それに言葉も分かりづらいわねぇ?」

 

言葉がわかりづらいんなら聞こえてるじゃないか、なんて言う真っ当な文句を飲み込む。

逆らえるわけがない。

機嫌ひとつ損ねれば何が起こるかわからないのだから。

ならば、少しもの抵抗として聞いた方が恥ずかしくなるくらいにヤケクソで言い放ってやる。

大きく肺に息を溜め込んで大声を出す準備をする。

そんな時に限って先程一悶着あった妖夢が、お茶菓子を持ってくるのだ。

 

「幽々子様、お茶をお持ちいたしま『だから!死にかけのエクスタシーでキスしてドカーン!って事だ!』

 

和菓子を乗せた小皿が勢いよく割れる。

妖夢が落としたのだ。

しかし幽々子はその粗相を咎めようともせず、最初からこれが狙いであったかのように満足そうな顔をしている。

 

「……変態!」

 

そう言ってどこかへ走り去っていく妖夢。

残されたのは、クスクスと笑う幽々子の隣で頭を真っ白にした私であった。

 

 

「ところで」

 

ところで、で済まされるほどの事態でもない気がするが幽々子は話題を切り替えた。

その手には、帰り際に妖夢が買った綺麗な手鏡が握られている。

 

「この手鏡は何かしら?」

「……あの文言の答えだ」

「文言?」

「妖夢に渡してた奴だよ」

「あぁ……アレがどうして手鏡に繋がるのかしら?」

「しらん。居酒屋で大将やってるオッサンに聞いてくれる」

「大将?」

「そこのジジイが手鏡って即答したんだよ」

 

そういうと、幽々子は初めて驚いたような顔をする。

些細な変化だが、薄寒い笑みをやめて目を見開いた。

 

「もしかすると、こんな感じの人かしら?」

 

そう言うと何やら上質そうな紙をどこからか持ってきて、その紙には白毛を蓄えた見るからに厳しそうな顔の老人が書かれていた。

しかし、大将の顔ではない。

 

「いや、違うな。もっとやさぐれた感じだ」

「そう……なら納得だわ」

「何がだ?」

「手鏡を買ってきた理由よ」

 

たまに、いや結構な割合で何を言っているのかわからないが、幽々子は何かを懐かしむように手鏡をまじまじと見つめている。

 

「あの文の意味、教えてくれないか?」

「あぁ、アレには意味なんてないわ。全部デタラメだもの」

「なんだって!?」

「まさか妖夢があんなに悩むなんて……あの子も本当に真面目ねぇ」

 

その声から伝わってくるのは、純粋な妖夢を揶揄うというよりもむしろ心配している感情だった。

しかしデタラメで適当な文章渡しておつかいを頼むなんて戯れがすぎるんじゃないか?

 

「しかし、正解がないわけではないのよ。そうね、手鏡は正解と言えるわ」

「何故だ?」

「あら、変態に教えないといけないのかしら?」

「……なんなら幽々子だってイケるぞ」

 

そう言って悲しい脅しを仕掛けた私に、幽々子は顔からすんと表情がなくし、

 

「……すこし眠りなさい」

 

といって黒い蝶々のようなものが飛ばしてきた。

その顔や気配から本能でヤバいと悟るものの、慣れない長時間の正座で足が痺れてしまった私は咄嗟に避ける事ができず、その蝶々に被弾してしまう。

ここまで織り込み済みか……?

ぶつかった感触や衝撃は全くなかったが、意識は驚くほど刈り取られてしまう。

私の世界が消灯されていくのだった。

 

「変わらないわねぇ……妖忌」

 

妖……忌?

誰の……話だ?

 

 

 

「……てください。貴子さん!起きてください!」

 

何者かが……といってもこの声は間違いなく妖夢だが、ゆさゆさと肩を揺らしてくる。

二日酔いのような鋭い頭痛が走り、少し息が漏れた。

 

「ご飯ですよ。いつまで寝てるんですか」

「……いまは朝か?それとも夜か?」

「何寝ぼけてるんですか。もうお昼ですよ」

「時間で言うと?」

「ぴったり12時です。さ、ご飯召し上がってください」

「あぁ……」

 

のそのそと起き上がって、初めて自分が温い布団の中に潜り込んでいた事に気づく。

この屋敷は布団一重にしたって上等でなにぶん寝心地が良すぎた。

……しかし、私は確か幽々子に眠らされたはず。

となると、妖夢が介抱してくれたのか?

……誤解が解けていることを切実に願うしかないな。

頭が冴えてくるとどこからかとても良い香りがしてきている事に気づいた。

これは……味噌汁か。

予想はしていたが外見に相応しくやはりここは和食派なのだろう。

さぁ、何か手伝える事がないか聞きに行こうか。

ご飯なら皿洗いから始めよう。

 

そうやって立ち上がり、意気高らかに踏み出した右足の第一歩目は勢いよく渡り廊下の床板を踏み抜くのであった。

勢いよくめり込んでいく右足。

 

「っぎゃあぁあぁあぁ!!!」

「あらぁ何事?」

 

私のこだまするくらい張り上げた叫び声に呼ばれてか、幽々子がやってきた。

目覚めていきなり屋敷を破壊してしまったその狼藉についても謝罪したいが、動転してしまい言葉に詰まってしまう。

しかし、本当に言葉を失っていたのは私ではなく幽々子であった。

 

「今……床板を、踏み抜いたのかしら?」

「あぁ、そうだ」

「まさか……ねぇ」

「すまない……稚拙ではあるが修理はできる。他の場所も点検しておくよ」

「いえ……その必要はないわ」

 

会話の全てが意味深な幽々子だが、事さらに意味深な顔をする。

というより、私のことなど眼中にないくらい考え込んでいる。

そんなにこの床板に思い入れでもあったのか?

 

「とりあえず、お昼をいただきましょう」

「あ、あぁ」

 

幽々子の顔持ちから発せられた些かの違和感と謎を残して私たちはお昼ご飯へと向かった。

いや、昼ごはんという名の拷問か、はたまた戦場か。

 

 

「……ごちそうさま」

「え、もういらないんですか?」

「これ以上食ったら……死ぬ」

「もう死んでるじゃないですか」

「この下り何回やるんだよ」

 

文字通り死ぬ気で空にした茶碗に嬉々としておかわりをよそおうとする妖夢を静止する。

結構必死に。

 

「いつも昼飯はこの量なのか?」

「ええ……そうですけど」

 

何いってんだこいつみたいな目で見られていることに少しだけ腹が立つ。

昼飯に丼三杯食わそうとする奴がいてたまるか。

柔道強豪の合宿で食う飯じゃないか。

いっつもその量を平らげているのかこの屋敷は……。

それにおかずだって昼の献立とは思えないくらい悪い意味で超豪華だ。

唐揚げだのなんだの。

断言しておきたい。

絶対に太る!

いや、妖夢とか幽々子を見た感じではそうでもないのかもしれないけどそれでも精神的に太りそうだ。

白米を見るだけで吐く準備をする体になってしまう。

……妖夢が五杯目に入った。

なんとなく、映姫がにやけていた理由を悟った気がする。

何食わぬ顔で山盛り飯を食っている幽々子がその答えだ。

作法はお上品なのにスピードが早すぎてもう競技カルタでもしてるかのように思える。

私は……一杯でグロッキーだ。

もともとそんなに食べる方じゃないんだから。

よく頑張ったと褒めていただきたい。

……あ、今妖夢鼻で笑いやがった。

 

「さて、と」

「食器は置いといて構わないですよ」

「いや、持っていくよ。皿洗いしとく」

 

重くなった体に鞭打って調理場へと向かうために立ち上がる。

早くあの大量の食料から目を背けたかったからだ。

しかし、悪魔はそのわずかな隙さえ許してくれない。

私の肩を妖夢が結構な力で押さえ込む。

 

「お客様にそんなことさせられませんよ!」

「いや、客扱いしないでいいよ。というかしないでくれ」

「甘味も用意してますので!それだけでも召し上がってください」

 

甘味……デザート?

この量食った後に……?

あれ、なんでだろう。

もう死んだはずなのに克明に走馬灯が見える。

そして無性に喉の奥が熱くなる。

これが本当の、吐く玉楼。

お後がよろしくないようで。




どうでもいいのですが、ろくでなし東方妖々夢編のテーマは未練とか、後悔とかだったらかっこいいなとか思ってます。
実際は超スローリーグダグダギャグですけど
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