性飢末《セイキマツ》の覇者 ~暴走する性癖を食い止めろ!~   作:ごぼう大臣

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林間学校 ~生徒たちの一面~

「うわー、まぶしい!」

 

 バスを降り、空をあおぎ見た舞の第一声がそれだった。日はすでに高く昇り、宿泊施設"自然の園"を明るく照らしている。

 

「みんな、自分の荷物早くおろして。このまま開校式に入るから」

 

「あ、はーい!」

 

 バスの中にしまわれていた、着替えなどが入った荷物をそれぞれ受け取り、簡単にあいさつを済ませ、舞たちはまず宿泊棟をめざした。舞は自然と、同じ部屋の紫乃、手綱、水魚らと連れだって進んでいく。

 靴を履き替え、高い天井の館内を歩いていき、舞はある一室を開けた。十畳ほどの広さで、壁際の左右それぞれに二段ベッドを置いた部屋だった。奥には一畳、畳が窓からの光に照らされていて、茂みや木々が景色をおおっている。

 

「やったー、上とった!」

 

 水魚はベッドを取るなり部屋に飛び込み、片方の上のベッドに荷物を投げ入れた。そして他のメンバーが何も言わないうちに、自身も飛び乗って我が物顔て寝転んだ。

 

「水魚、アンタね……」

 

「あ……じゃあ私は下の方に。高いの怖いから」

 

 手綱から苦言が出るより早く、紫乃が反対側の下のベッドに入る。すると舞が手綱へと振り向いた。

 

「じゃあ……私は紫乃の上でいい? 手綱は水魚の下で」

 

「……どっちでもいいわよ。別に」

 

 水魚は興味なさげにさっさと空きのベッドに入る。そしてハシゴを登る舞をちらと見て、部屋に響く声で言った。

 

「言っとくけど、遊んでるヒマないからね。今から着替えてお弁当すませなきゃいけないんだからさ」

 

「ん、分かってるー」

 

「あれ、そんなすぐだったッスか?」

 

「そうだった、急がないと!」

 

 舞以外の返事はあわてていた。そこからはあわただしい時間が続いた。水魚だけがスク水になるのもかまわずそろってバタバタとジャージに着替え、昼食をすませる。

 そしてスケジュールは、あっという間にレクリエーションもとい山歩きへと進んだ。

 

 山歩き、施設の近辺にのびる登山コースをクラスメイトらと歩くという単純なものである。道順も分かりやすく、高度もまるで低い丘である。

 なので、ジャージ姿になった一年生らも藪のしげった森の中を雑談まじりに大人しく歩いていた。しかししばらくして、舞はその行儀のよさをかえって不思議に思い始めた。

 

「……こんなに、山歩きなんかに付き合えるもんなんだ」

 

「言っちゃ悪いけど……確かに意外だよね」

 

 舞が思わずつぶやいた言葉に、紫乃がうなずく。すると前を歩いていた手綱が振り返り、唐突にこう言った。

 

「いつもと違う環境だからね。ストレスなんでしょ」

 

「というと?」

 

「微妙に疲れて、変態行為する気もなくなるって事。もしこれでもやるなら、かなりのツワモノか……」

 

 言いながら、手綱は後ろの方をぐいと見据える。舞と紫乃もつられて振り向いた。

 

「タヅーッ! 向こうから川の音が聞こえるッスよ! 泳いできていいッスか!?」

 

「……バカか、ね。ありゃもう奇行だわ」

 

「あはは……」

 

 列を外れてはしゃいでいる水魚を見て、手綱はため息をつき、紫乃は本日二度目の苦笑いをした。先生に怒られないうちにと、舞たちは水魚を連れ戻しにかかる。

 しかし、水魚のいた道のはずれにさしかかった瞬間。

 

「きゃっ!?」

 

 紫乃が突然の悲鳴をあげた。道沿いに生い茂った草木にかくれるようにして、そこには十数メートルほどの坂があったのだ。

 

「紫乃!!」

 

 転がり落ちそうになる紫乃の腕を、舞が反射的につかむ。しかし踏ん張りがきかず、ズルズルと二人の足は滑っていく。柔らかい草や土に足を取られ、二人はついバランスを崩した。

 しかし、手をつかんだまま落ちそうになる舞の腕を、手綱がガッシリとつかんだ。そして強く引き寄せられ、最後に水魚があわてて支えて四人は登山道側に戻る事ができた。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 引率をしていた上原先生が息を切らして走ってくる。舞はこくりとうなずき、紫乃に手を差しのべた。

 

「ありがとう……」

 

 紫乃は息を整え、震えながらその手を取る。そして立ちあがり落ち着いたところで、手綱を振り返って言った。

 

「ありがとう。その……手綱、ちゃんも、水魚ちゃんも」

 

「……別に。つーかコイツ(水魚)に礼は余計よ。諸悪の根源じゃない」

 

「なっ、諸悪の根源て! そこまで言う事ないじゃないスか!!」

 

「ハイハイ、悪かった。でも反省してよ? 三途の川まで行かないうちに」

 

「えーっタヅ冷たいー!」

 

 手綱と水魚はギャーギャーと言い合いながら列へともどっていく。それを小走りに追いかけながら、舞がポツリと言った。

 

「……やっぱりあの二人、仲いいわよね」

 

「……ね」

 

 紫乃は同意しながらクスリと笑った。

 

 ……山歩きから帰ると、今度は夕食をつくる時間があった。施設に隣接した炊事場に集まり、男女別に……もとい、部屋割りと同じメンバーで調理するきまりだった。

 

「玉ねぎ、ニンジン、じゃがいも、豚肉、そんでお米とカレールゥ……と。うん、全部そろってる」

 

「カレーだと一発で分かるカレールゥは偉大ッスね」

 

「個人的にイギリスの評価をかなり引き上げてるわ」

 

 用意された食材を確かめ、水魚と手綱は手を洗って切る準備に入っていた。一方、炊事から少し離れた川辺には舞と紫乃がいた。

 

「うまく組み上げられてるかな……? 崩れそうじゃない?」

 

「いやー、これなら大丈夫。じゃ、火ぃつけるよ~」

 

 二人は岸にある大きめの石を使い、小さな囲いのような形をつくっていた。施設が上流に近い場所にあるのを利用して、川辺の大きな石でかまどをつくるのである。着火材と新聞に火をつけると景気よく燃え上がり、上に置いた金網の下からまたたく間に黒い煙を噴き上げる。

 

「ぷは、けむっ……!」

 

「うわ、アッチぃ!?」

 

「おい、ぶつかるなよ。壊れんぞ!?」

 

「ん~、あれ? うまく()かない……」

 

 舞と紫乃が火と煙に驚いている周りで、他のグループもかまどの火に興奮したり、また苦戦したりなどしている。まるっきり普通のキャンプのようなその光景に、舞は思わず表情をゆるませた。

 

「どうしたの舞ちゃん、うれしそうだね」

 

「……みんな、意外と普通なところがあるんだなって思ってさ」

 

「あ、確かに……」

 

 紫乃も心なしかハッとした表情で周囲を見渡す。学校では互いにあまり話さず、時には騒ぎまで起こす面々だが、こうして共同作業を楽しむ気持ちもちゃんと持っているのだ。

 

「四月くらいだとまだサツバツとしてたんだけどね」

 

「あ、私が入る前?」

 

「そうそう。それに舞ちゃんが来た後から見ても……けっこう打ち解けてきてるみたい」

 

 紫乃が炊事場の方をジッと見る。そこでは、食材を切るかたわら色々な雑談がかわされていた。舞が耳をかたむけると、話してる内容が炊事場のあちこちから聞こえてくる。

 あるところでは、不意に顔をしかめた女子が

 

「痛っ……」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと包丁で指切っちゃって……血が」

 

「本当!? 舐めていい? いい? お願い!」

 

「え~、またぁ……?」

 

 あるところでは、肉を切りながらボーッとしている男子が。

 

「……あ~……」

 

「何やってんだ?」

 

「この肉のブニブニした感触が……気持ちいい……」

 

「おい、ベタベタ触んな。汚ねえ」

 

 あるところでは、野菜を一緒に切ってる男子が。

 

「あのさ」

 

「ん?」

 

「野菜を料理するって……なんかエロくね?」

 

「は?」

 

「考えてみ? スベスベしてみずみずしいコイツらがな、切り刻まれ、鍋で煮られ、少しずつ、少しずつその形を失って溶けていくんだ……。そう考えると……」

 

「……なんか分かる気がしてきた」

 

「マジか! こんなにすんなり理解されたの初めてだよ……あ、なんか泣けてきた」

 

「……あれ、俺もだ……。なんか、感動してる……?」

 

「おーい、その玉ネギさっさと切れよ?」

 

 そこで炊事場からいったん視線をもどし、舞と紫乃は自然と困ったような顔で笑った。

 

「……やっぱり、相変わらずなところもあるね」

 

「あの中じゃたぶん手綱が一番マジメだわ」

 

「そうそう! 手綱ちゃん、きっとかなりストイックな人だよ! 山で助けられた時、すごい力強かったもん。あれきっと、すっごく鍛えてる!」

 

「……紫乃も相変わらずね」

 

 舞は仕方なしという風に笑った。

 

――

 

 夕食をすませ、日が沈んでしばらくした頃。舞たちは手荷物を持って外へ出ていた。宿泊棟の隣の二つ並んだ建物を目指しながら、最後尾の水魚がはしゃいで言った。

 

「いやー、ついにきたッス。お風呂! もう早く水に触れてスッキリしたいッスよ!」

 

「……そんな動機でお風呂に入る人、多分アンタだけよ」

 

「もう湯船で泳ぎそうな勢いね……」

 

 手荷物もとい着替えとタオルを持ってウキウキしている水魚に、手綱はあきれ、舞と紫乃は苦笑いをしていた。

 しかし、浴場まであと十数メートルといったところで、水魚が荷物を見て「あ」と声をあげる。

 

「水魚ちゃん? どうかした?」

 

 紫乃がたずねると、水魚は頭をく、恥ずかしそうに答える。

 

「いやぁ……その、下着を忘れちゃって」

 

「え!?」

 

「昼間はいつも水着きてるんで、たまにやっちゃうんス! 取ってくるから先に行ってて!」

 

 そう叫んで、水魚は宿泊棟の方へと一直線にもどっていった。それを見送りながら、残った三人は顔を見合わせた。

 

「もう水着ぬいだら? って感じだけど……まぁ、あの子なりのこだわりなのかな」

 

 ほんの軽口のつもりで、舞は手綱の方を見て言った。しかし、手綱はどういうわけか厳しい表情で、目が合った舞をジッと見つめてくる。

 その張りつめた雰囲気に舞が当惑していると、手綱は唐突に口を開いた。

 

「……舞」

 

「な、何?」

 

「アンタ、なんでこの学校にいるの?」

 

 質問の意図がつかめず、舞はつい眉をひそめた。紫乃も面食らった様子で手綱を見つめている。

 手綱はかまわず、舞へと話し続ける。

 

「紫乃が筋肉趣味なのは、今まででなんとなく知ってたけど……アンタはどうも、いたって普通って感じだから、気になってさ」

 

「…………」

 

「なんだっけ……拳次郎先輩? あの人の妹だとかも聞いたけど。これから何かするの?」

 

 手綱の目がするどくなる。舞はなんとか答えようと思ったが、言葉につまってしまった。

 というのも、客観的に見て聖的至高高校に居続けるメリットらしいメリットが、彼女には存在しないのだ。もともとは兄を探すという目的のために転入したが、それはとうに達成している。ならばもう性にまつわる趣味も、ましてやそれを他人に押し付ける気もない舞には、この学校は危険なだけだとも言える。

 

 しかし、舞の胸中に出て行きたい気持ちはなかった。それは単に面倒だとか、そんな理由からではない気がする。

 何故だろうか。舞は自然に、紫乃の方へと視線を移していた。そして戸惑う紫乃からまた視線を移し、今までの事を思い出す。

 転入してから、性闘拳使いと騒ぎになり、そして今日。林間学校でのみんなの様子。

 

「……別に、言いたくないなら良いけど。でもこのままじゃ危険……いや、とにかく変な人だなと思ってさ」

 

 いちど言葉につまり、せきばらいをして言い直す手綱。一方で舞は顔を上げ、こう答えた。

 

「……学校のみんなを守る手助けがしたいから、かな」

 

「へ?」

 

 手綱が眉をしかめる。舞も自嘲するように笑いながら、それでもなめらかにこう続けた。

 

「何言ってんだと思われるかもしれないけど……この学校も、仲良くやっていきたい人はいっぱいいるの。紫乃もそうだし、手綱も、水魚も」

 

「けど、変態だらけよ?」

 

「変態も、まるっきり変なだけの人じゃないよ。大体はわりかし普通の人たち。今日だってみんな楽しんでたじゃない」

 

 舞は昼間に見たクラスメイトたちを思い出す。性的な話題とはいえ明るく盛り上がっていたバス内。疲れがあったとはいえトラブルもなく済ませた山歩き。そしてかまど作りや調理の新鮮さに喜んでいた夕方。

 

 この学校の連中も、結局は人間なのだ。だから日常をおびやかす者が出てきやすくとも――いや、むしろその分、いざという時に平和を守ろうとする人間が必要なのだ。

 

「お兄ちゃんには及ばないけどさ。みんなが穏やかに過ごす日々? っていうのを、少しでも手助けしてやれたらって思うの。あぶなっかしいけど」

 

「…………」

 

 照れくさそうに話す舞を、手綱は長い間、まっすぐ凝視していた。紫乃はホッとしたような表情で何度もうなずいている。

 しばらくして、手綱は肩をすくめ、ポツリと言った。

 

「ま、どうでもいいけどさ」

 

「ありがとね、心配してくれて」

 

「だ、誰が心配よ」

 

 手綱は即座に否定した。舞と紫乃が気の抜けた顔で笑っていると、不意に、手綱ががばりと背後を振り向いた。

 それを見て、舞も紫乃も目をしばたかせる。

 

「……手綱ちゃん?」

 

「……何かいる」

 

「えっ」

 

 低い手綱の声に、他の二人もつられて同じ方向をにらむ。すると、今さっき行こうとしていた浴場の建物の陰で、何かがうごめくのが見えた。

 三人が、そろって表情をけわしくする。

 

「あそこ……女湯だよね?」

 

「うん……まさか」

 

「行ってみましょう」

 

 手綱の声にしたがい、三人は走ってすばやく女湯の裏手に回る。すると、換気扇がいくつも顔を出しボイラーの温風を排出しているそこで、隠れるようにして二人の人間が縮こまっているのが見つかった。

 三人が、一気に表情を変える。同時に、縮こまっていた者たち……同じ学校のジャージを着た男子二人が、おびえきった目を向けた。

 

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