性飢末《セイキマツ》の覇者 ~暴走する性癖を食い止めろ!~   作:ごぼう大臣

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林間学校 ~マーラと調教師~

「アンタたち、何してるの?」

 

「う、うぅ……」

 

 女湯。すでに何人もの女子が入浴している建物の裏手で、二人の男子が縮こまって震えていた。着ているジャージから、舞たちと同じ聖的至高高校の生徒だと分かる。

 彼らは何かにおびえるような目つきで舞、紫乃、手綱を見て、またうつむいた。

 手綱が厳しい目で歩み寄り、再び問う。

 

「男湯は隣のはずだけど……まさか間違えたわけじゃないわよね?」

 

「…………」

 

 刺すようなするどい声。男子たちはヒッと息をのんだが、それでも言葉は発さずに後ずさる。

 その様子に舞もけげんな顔をしてたずねた。

 

「……のぞきじゃないわよね? いるって聞くのよ、のぞきフェチってのが」

 

 しかし、返ってきたのは否定の言葉ではなかった。男子の一人がこわばった口の奥から、消え入りそうな声でこう言った。

 

「た……すけ、て」

 

「は?」

 

「たすけて、くれ!」

 

 必死の形相で言って、男子たちはへたり込み、ひざまずいた。

 舞と手綱は警戒心のある視線をかわすが、紫乃がただ一人、思いきって問う。

 

「何かあったんですか?」

 

「へ、変な女が……追いかけてきて」

 

「目的とかは分かります?」

 

「いやそれは……。そうだ、アイツはあれだ。性闘拳使い!」

 

 性闘拳使い。それを聞いて舞たちの顔に緊張が走る。本当ならば、この施設の中にいる誰かがこれからも危害をくわえるかもしれないのだ。舞は血相かえて男子つに駆け寄り、早口に問い詰める。

 

「くわしく聞かせて! ソイツ、どんなヤツだった?」

 

「どんなって……まず一年生の女子だった。顔は見た事ある」

 

「名前は?」

 

 男子たちは残念そうに首を横に振る。

 

「とりあえず初対面ではない、と……で、ソイツの狙いは? 無差別? それともアンタら個人だったりする?」

 

「それは……」

 

「早く答えて!」

 

 何やら口ごもる男子たちへ、舞はさらに強く迫る。そこで手綱が横から口をはさんだ。

 

「ちょっと待って」

 

「何よ、今大事な……」

 

「いろいろ聞くのはいいけどさ。犯人をどうにかするアテはある? 先生でも頼る気?」

 

「う……う~ん」

 

 舞はつい言葉につまってしまう。彼女が性闘拳を使えない以上、敵の性闘拳の効果を打ち消す事も対抗する事も不可能なのだ。どう考えても、不利なのは間違いない。

 しばし悩み、舞は開き直るように言った。

 

「だ、だからくわしく聞いたら突破口が見えてくるかもしれないじゃない。ね、聞かせて? 犯人がどんな目的で行動してるかとか、分かる?」

 

 舞は男子たちへ向き直り、なおも追及する。すると男子は悲痛な表情で目を泳がせ、重々しく口を開いた。

 

「ヤツが言うには……その……」

 

「うんうん」

 

「チ……チ○コを……小さくするって……」

 

「……はい?」

 

 意外な言葉が聞こえ、舞はかすかな声をあげて固まった。紫乃と手綱も言葉を失い、目を丸くする。

 しかし男子たちはマジメな顔でさらに訴えた。

 

「だ、だから! ここ、股間を小さくしてやるっつって、追いかけ回してきたんだよ! きっと男子全員をねらってる!!」

 

「なんだってそんな真似を……?」

 

「知るか! 俺らが聞きたい!!」

 

「とにかく、恐ろしくてここに隠れてたんだ!!」

 

 まんざら嘘でもないらしく、男子たちは顔を真っ青にして混乱と怒りをあらわにする。舞は半信半疑で後ろを振り向いた。

 

「信じていいのかなぁ……?」

 

「やっとしゃべってくれたんだし、本当だと思うけど……」

 

 紫乃は同情的な目で男子たちを見つめる。しかし語られた犯人像が突拍子もないためか、どこか信じきれない風であった。

 そんな中、手綱が意外にもこう断言する。

 

「私は信じる」

 

「手綱?」

 

「聞いた覚えがあるの。そういう性闘拳があるって」

 

 ためらいのない、さらりとした口調。驚いた舞があわてて確認する。

 

「待って、なんで手綱がそんな事……」

 

「それはどうでもいいわ。とにかく相手の特徴は分かったから……えぇと」

 

「…………?」

 

 手綱が何かを言いかけるが、なぜか口ごもってしまった。舞は眉をしかめ、男子たちに話しかける。

 

「あのさ」

 

「……何だよ」

 

「……そんなに怖いの? その……ナニが小さくなるっていうのは」

 

 興味からだろうか。舞はそんな質問をした。男子は一瞬ムッとした顔になり、怖がっていた反動か食いつくような勢いで怒鳴った。

 

「怖いに決まってんだろ! 無理やり小さくさせられるなんぞ冗談じゃねえ!!」

 

「言っていい事と悪い事があるぞ!!」

 

「ご……ごめん」

 

 予想以上の怒りに、舞はあわてて頭を下げる。その様子に紫乃はおろおろとあわて、手綱は呆れた目を向けていた。

 しかし、その大声のせいだろうか。彼らの近くにいつの間にか、ゆらりと近づく人影があった。その人影が、さも楽しそうにつぶやく。

 

「見ぃつけた」

 

 女の声。それを聞いたとたん、男子二人が総毛立つように振り向いた。舞たちも反射的に声の方向を見つめる。

 そこにいたのは、学校のジャージの下を短パン、上を腰に巻くというスタイルで着こなした少女だった。その髪型は高校生にしては珍しいツインテールであり、額で切り揃えた前髪の下で、その細い目が夜闇の中でいやらしく光って見える。

 

 その女子は両手の指をクニクニと動かし、おびえて距離を取る男子たちを見据えて言った。

 

「ひどいなぁ……探すのに苦労したんだよ? 二人とも」

 

「こ、コイツだ! コイツが犯人だ!!」

 

「ち、近寄るな! 助けてくれっ!!」

 

 男子らは悲鳴をあげながら、互いにパニックになってくっついて舞たちの背後に逃げ込んだ。舞は新たにあらわれた女子を見据え、前に躍り出てたずねる。

 

「待ちなさい、アンタ何者よ!?」

 

「えー、同じクラスなのに覚えてないの? ショックだなぁ……」

 

 ちっとも残念ではなさそうにそう言って、少女は名乗った。

 

「私は万羅花(まらか)六天(むてん) 万羅花(まらか)

 

 少女もとい万羅花はギロリと目つきをするどくして言った。その視線の先には、やはりあの震えていた男子たちがいる。

 

「二人とも、もう逃がさないよ。おとなしくしようねぇ……?」

 

「い、いやだ! 断じて断る!!」

 

「股を勝手に小さくされるなんぞ、耐えられるか!?」

 

 男子たちは最早かすれた声で反発した。その間に、舞が再び割り込む。

 

「待って待って。アンタなのね? 男子たちを狙ってるのは」

 

「うん、そだよ。私の神拳……"秘矮(ひわい)魔神拳(まじんけん)"をくらった子は、みんな小さくなっちゃうんだ」

 

「……どうしてそんな事を?」

 

 悪びれもせず、むしろ楽しげに笑う万羅花を、舞はけげんな目で見る。対して万羅花は腕を背中に回し、上半身をわずかに屈め、わざとらしく上目遣いになって言う。

 

「……例えば、お風呂の時間帯って決まってるでしょ? そのお風呂を、オチ○チンが小さくなってるうちに済まさなきゃならなかったら……って、想像した事ある?」

 

「……ないけど、それがどうだってのよ?」

 

 薄気味悪く思いながらも問い返す舞。万羅花はふふふ、とニヤつきながら上半身をゆらし、目を細めて言った。

 

「男子がみんな裸になる中でー、小さくなっちゃったその子は恥ずかしがるわけ。見られなくない、僕のはこんなんじゃない……。そうやって男湯で恥辱にもだえている姿を想像すると……ああもう、たまんなくてっ……!」

 

 万羅花は胸を押さえ、有頂天になって空を見上げた。その陶然とすらいえる顔色に舞や紫乃はあっけに取られ、手綱は小さく「悪趣味」と吐き捨てた。

 そして、改めて万羅花が男子たちへ近づこうとする。そこで舞が身構えて立ちはだかると、万羅花は鼻白んだ様子で言う。

 

「もー、邪魔しないでよ。どうせ女の子には効かないんだから放っておいて」

 

「そうはいかないわ。目の前でやらかそうとするのを見過ごせない」

 

「ま、舞ちゃん!」

 

「みんなは下がってて!」

 

 心配そうに声をあげる紫乃を静止し、舞は万羅花をまっすぐに見据える。野放しにしておけば犠牲者は増える。彼女は自身にそう言い聞かせ、必死に気を張った。

 

(そうよ……今はお兄ちゃんもいない。私がこの子を止めなきゃ……!)

 

 場に緊張した空気が流れはじめる。その時、不意に舞の背後からため息が聞こえた。

 

「はぁ……こりゃやるしかないか」

 

「……え?」

 

 その声は手綱のものだった。舞が思わず振り返ると、手綱は何やら、先ほどからなりゆきを見守っていた男子たちの方へ近寄っていく。ゆっくり接近してくるのに男子が戸惑い、また万羅花も視線を向ける中で、手綱はそっけなくこう聞いた。

 

「あなたたち、万羅花にやられたの? 私なら治せるよ」

 

「い、いや……さいわい、逃げ回っていただけだ」

 

「俺も……」

 

 男子たちはボソボソと否定する。舞は「治せる」という手綱の発言に眉尻を上げたが、彼女は顔色を変えずに「ふぅん……」とつぶやく。

 そして突然、男子二人の股間を両手で素早くわしづかみにした。

 

「のわっ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

 突拍子もないその行為に、男子たちはうめくような悲鳴をあげた。見守っていた舞たちもぎょっとして、丸くなった目で手綱をながめている。

 五秒たっても、相変わらず手綱は股に手を突っ込んだままだった。男子たちは訳が分からず嫌悪とも恥ずかしいともつかない表情で手綱をにらんでいたが、彼女はふと、いまだ手を離さずに問いかけた。

 

「……やっぱり治そうか?」

 

「バ、バッカ! なんともねえっつってんだろ!! 元々こんなんだよ!!」

 

「ああごめん、言うに言えないパターンかと思って……」

 

「余計なお世話だ! さっさと離れろ、セクハラ女!!」

 

「ハイハイ、悪かったわよ」

 

 手綱はそっけなく謝り手を離した。男子たちがいたたまれない様子で一目散に逃げていくのを見送り、彼女は万羅花の方へと歩み寄る。

 

「手綱……」

 

「どいて。私がやる」

 

「え、えぇ?」

 

 当惑する舞を脇によけ、手綱は万羅花と対峙する。万羅花はうんざりしたように口を開く。

 

「ったく、なんでそんなに邪魔するの? 私、女の子に元から興味ないのに」

 

「私だって関わりたくなかったんだけどね。さすがに目の前でやられちゃ、気になるから」

 

 手綱はバカにするように鼻を鳴らす。それを見て万羅花も顔色を変え、険のある声で言った。

 

「……言っとくけどさ。私いちおうケンカも一通りできるんだよ? 性闘拳も拳法の一種だから」

 

「ええ知ってるわよ。秘矮魔神拳、だっけ? やってみたら」

 

 手綱は何を思ったか、両腕を広げて無抵抗の姿勢をとる。万羅花はそれを見て眉をしかめたが、すぐにしめたものだと腰を落とし、拳をかまえる。

 舞はそれを見て焦りをおぼえた。万羅花の構えは、確かに素人とは違っていたからだ。舞は止めようとしたが、次の瞬間に万羅花は動き出していた。

 

 腰に巻いていたジャージに手をかけ、手綱の目の前に広げるようにして脱ぎ捨てる。そして視界を奪った相手の顔に、風を切るようなするどいハイキックが突き刺さる。

 バキッ、という鈍い音が響き、舞の隣で紫乃が思わず目をつぶる。決まった、と言いたげな万羅花の眼前で、足を下ろすと同時に足跡がついたジャージがずり落ちる。

 

 しかし、その裏にあった手綱の顔を見て、万羅花の笑みはあっけなく消えた。確かに蹴りが当たったはずなのに、手綱の顔はまるで痛がる様子はなく、アザも鼻血もなしに平然としていた。後ろで見ていた舞たちからも、いっさい動じずにいるのがハッキリと分かった。

 

「それだけ?」

 

 背の高い手綱の声が万羅花に降り注ぐ。それを見ながら舞と紫乃が小声で言った。

 

「舞ちゃん、今の……」

 

「ええ、普通に当たったし、体重も乗ってたわ。私も空手やってたから分かる。けど……」

 

 万羅花はややたじろいだが、くやしげに顔をゆがめてさらに攻撃をくわえる。

 ストレート、アッパー、フック……と立て続けに見舞っても、手綱はふらつきすらしない。だんだんと万羅花はムキになって、ムチャクチャに殴る蹴るの暴行を始めた。

 

「うわあああぁぁーーーっ!!!」

 

 拳と蹴りを何十発も連打し、それにも飽き足らず、頭突き、ヒジ、ヒザ、足踏みなどあらゆる打撃をくわえる。しかしそれでも、手綱の表情はかけらも動かず、ただ憐れむような目を向けていた。

 

 攻撃は確かに当たっているのだ。体に衝撃が伝わり、形のいい手綱の胸がせわしなく揺れている。ただ、地に着いた足は、そこから頭までの体幹はまさに不動であった。まるで育ちきった大木を殴るように、万羅花は一方的に攻めながらも、一人でただただ疲弊していった。

 

「はあっ、はあっ……」

 

 やがて万羅花は力尽き、膝を折ってうつむいた。見下ろしながら近づいてくる手綱を、汗ばんだ顔で見上げる。

 

「終わり?」

 

「…………っ」

 

 低い声で言われた万羅花の表情に、怯えが生じる。歯を食いしばり、万羅花は子犬が吠えるような調子で問いかけた。

 

「な……なんで!? これだけやって、なんで倒れないの!?」

 

「あなたも性闘拳を修めたんでしょう? それなのに基礎も知らないの?」

 

 手綱の呆れた返事に、虚をつかれた顔をする万羅花。手綱は肩の力を抜き、自然体のままで語り出す。

 

「性闘拳は興奮と理性のバランスが大事。それは絶えずしてる息……呼吸にもあらわれる」

 

「…………?」

 

「逆に言えば……呼吸を律する事で、体を落ち着かせ、強靭にする事もできる。その呼吸法が、性闘拳の力を底上げするの」

 

 手綱のセリフを聞きながら、舞はある出来事を思い出した。転校初日に同級生にからまれた際、助けてくれた拳次郎が言っていた言葉。

 

『性闘拳の真髄は、興奮を抑えて精神と肉体を律する事にある……。その力が、心身の活性化につながるんだ』

 

 その時、舞はいよいよ手綱が性闘拳使いなのだと確信した。あの心身を鍛える呼吸を、手綱もマスターしているのだ。

 佇んでいる手綱の周囲に、ざあっと空気が渦を巻き始める。彼女を中心として、呼吸が一種の力場をつくり、手綱の体を強くし、威圧感を深めていく。

 

 超能力者でも見るように、万羅花は目の前の達人にしり込みした。そしてその視界に、手綱の体へ流れ込む空気が、一瞬ハッキリと映った。

 周囲から吸い込まれる空気には、どこからか漂う白い湯気が多分にふくまれていた。その元をたどると、暗がりにそびえるある建物に行き着く。そばの女湯と対をなすように建てられた、湿った空気を排出している場所……。

 

(……男湯?)

 

「好きなもので興奮するのは分かるけどね……」

 

 万羅花が思い当たった時、迫力をその身と言葉にまといながら、手綱が忠告する。男湯の空気を存分に吸い、身体中に力がみなぎっていた。

 

「他人に迷惑かけるなら、ちょいと(しつけ)が必要だわ」

 

 そう言って、手綱は指をかかげた。舞や紫乃には見慣れた、あの性闘拳使いが技を出す前兆だった。

 

牙奪(がだつ)神拳(しんけん)奥義(おうぎ)畜犬(ちくけん)堕落(だらく)操鎖(そうさ)!!

 

 手綱の指が、万羅花の体を立て続けに突き刺す。するとどうした事か、万羅花はガクンとその場に崩れ落ちると、手と膝をついて犬のように四つん這いになりだした。

 

「え、な、何コレ!?」

 

 自分の意思ではないらしく、万羅花は体をよじって立ち上がろうとする。しかしその手足はまるで地面に固定されているかのようにピクリともしない。それをにこりともせずに見つめながら、手綱が言った。

 

「アンタの体はしばらく私の制御化にある。私が特定のツボを突く以外に、アンタが動く方法はない」

 

「そ、そんなー! やだよ、元に戻して!」

 

御座(おすわり)!!

 

 不平を言う万羅花を、手綱は一喝するとともに指でつついた。すると万羅花はたちまち狛犬の像のような行儀のいいお座りをする。

 自身の姿を見て万羅花は泣きそうになったが、手綱は容赦しない。

 

御手(おて)

 

御回(おまわり)

 

伏勢(ふせ)

 

鎮々(ちんちん)

 

「いやぁ~~! 助けて~~っ!!」

 

 舞と紫乃が見つめるのをよそに、その調教は手綱が飽きるまで続いた。

 

――

 

「あ! 皆どこに行ってたんスか! 戻ってきたら中にもいないから探したんスよ!?」

 

「ごめんごめん。ちょっと悪い子にお仕置きをね」

 

「はぁ?」

 

 しばらくして、手綱一行は何食わぬ顔で正面から女湯に入っていった。ロビーでは困り顔をしていた水魚が文句を言っている。

 

「……一体何があったんスか?」

 

「んー、なんというか……」

 

「ま、人助け……かな」

 

 首をかしげる水魚へ、舞と紫乃はあいまいな顔をして答えた。しかし彼女らは内心で、一見無愛想に見えていた手綱を見かけより正義感のある人物だと見直していたのだった。

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