性飢末《セイキマツ》の覇者 ~暴走する性癖を食い止めろ!~   作:ごぼう大臣

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性闘拳の激突

 

「邪魔をする気か……? 拳次郎」

 

「ああ、少々物騒な状況なのでな」

 

 放課後の校庭にて、舞と紫乃は帰ろうとしていたところを"夢乳神拳使い"サブチンの一行にからまれていた。他人をことごとく犠牲にし巨乳化すると豪語するサブチンと舞が口論しているところに、舞の兄である日出 拳次郎が通りがかった。

 

「お兄ちゃん! いいところに」

 

「友達と下がってろ。俺が片付ける」

 

 舞と紫乃をかばうように立ち、拳次郎はサブチンたちを見据える。サブチンはギリギリと歯ぎしりし、眼前の相手に怒鳴った。

 

「テメェどこから出てきやがった! さっさと帰ればよかったのによ!」

 

「転校初日の妹が心配でな。ついつい後をつけてしまった」

 

「シスコンかよ!? ストーカーかよ!?」

 

「…………」

 

「いや、否定しろよ!??」

 

 サブチンががなりたてても、拳次郎は涼しい顔をしていた。それを見て悔しげに息を切らすサブチンだったが、取り巻きの一人が目配せするのを見てニヤリと笑う。

 

「へへっ、颯爽と助けにきたつもりだろうが、以前のようにはいかないぞ。なんせ人数が違うんだからな」

 

「性癖のために犠牲をしいる者は、どうあろうが何度だって止める」

 

「後ろにお荷物(舞と紫乃)がいる状態で、どこまで戦える!?」

 

 サブチンが言うが早いか、取り巻きたちは一斉に拳次郎に向かって飛び出した。舞はとっさに紫乃を背中でかばう。

 しかし。

 

「ふんっ!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

「ぐぅっ!!」

 

「きゃんっ!!」

 

 拳次郎が目にも留まらぬ手刀をあびせると、取り巻きたちはたちまち悲鳴をあげて地面に伏した。舞の足元にも、その一人が間抜けな顔でドサリと転がる。

 

「きゃっ!?」

 

「…………」

 

 思わず飛びのいた舞を下から見ながら、その取り巻きは寝そべったままポツリとつぶやく。

 

「下から見ても貧乳は貧乳か……はぎゃっ!!?」

 

「……っあ、ゴメン。踏んじゃった」

 

「き、気絶してる……」

 

 舞と紫乃が気まずそうにしている頃、取り巻きを残らず倒した拳次郎は、リーダー格のサブチンをまっすぐ見つめて近づいていった。

 

「この程度、嚇脈神拳を使うまでもない」

 

「う……ぐっ……」

 

「あとはお前だけだ。おとなしく去れ」

 

 全身から威圧感を放ちながらも、拳次郎は説得を試みる。しかしサブチンはヤケクソ気味にそれをはねつけた。

 

「や、やかましい! まだ勝負はついてないぞ!!」

 

 そう言って、サブチンは両手の平を前に突き出し、何やら精神統一のようなしぐさを始める。それを見て拳次郎も表情を変え、身構えた。

 

「はあああぁ……!」

 

 やがてサブチンの体からも不思議な威圧感がにじみ出る。そして両腕で乳房の形に丸い軌跡を描きながら、彼は口を開いた。

 

夢乳(むにゅう)揉柔掌(にじゅうしょう)!!

 

「…………」

 

「ハハハ、見ろぉ! この俺様の早い突きがかわせるかぁーーっ!!」

 

 言いながら、サブチンは両手を繰り出しつつ拳次郎に猛然と襲いかかる。その手の形は、胸をわしづかみにする時のそれに見えなくもなかった。

 

「でやああああぁぁぁーーーーっ!!」

 

 二十、三十と繰り出される突きを、拳次郎はかすりもせずに避けていく。そして攻撃してくるタイミングに合わせ、顎にカウンターを打ち込んだ。

 

「あぷっ!?」

 

 脳を揺らされたサブチンは一転してよろめき、後ずさって尻餅をついた。そんな彼を、拳次郎は見下ろしながら一歩ずつ近づいてくる。

 

「やめておけ。今の俺には勝てん」

 

「ひ、ひいぃっ……」

 

「一つ、聞きたい事がある」

 

 尻を引きずって逃げるサブチンへ、拳次郎は話しかけながら詰め寄る。サブチンはガタガタ震えながら、ひっくり返るようにして土下座をした。

 

「ゆ、ゆゆ許してください反省してます!! もう二度とこんな事はいたしません。だからもうやめてぇ!! ね、ね、ねっ?」

 

「む…………」

 

 先ほどまでとは打って変わった口調で必死に頼み込むサブチン。額を地面にこすりつけ、亀の子のように縮こまって降参の意を見せる。

 それを哀れに思ったのか、拳次郎は眉をひそめ、一瞬だけ動きを止めた。その時、サブチンがかすかに身じろぎしたのを、遠くから見ていた舞が偶然とらえた。

 

「お兄ちゃん、ダメッ!!」

 

「バカめ!!」

 

 とっさに声を張り上げる。しかし拳次郎がその声に振り向くと同時に、立ち上がったサブチンが悪辣な笑みをたたえて飛びかかっていった。

 

夢乳(むにゅう)尖敏核(せんびんかく)!!

 

「くぁっ……!?」

 

 胸の下あたりのツボを、両手の指で突かれた拳次郎。その瞬間に彼は体をびくりと硬直させ、目をつむって表情を険しくさせる。

 舞と紫乃が息を呑むと同時に、サブチンは勝ち誇るように笑った。

 

「ハッハハハハハハ!! 油断したな~拳次郎! 乳首が立って服に擦れる気分はどうだ? 思うように動けまい!」

 

「そんな……もう少しだったのに!」

 

(えーと……焦る場面よね? これ)

 

 悲観する紫乃と、呆れた目の舞。二人の温度差はともかく、拳次郎の動きは確かにぎこちなく、サブチンから後ずさって慎重に距離をとっていた。

 

「形勢逆転だな? え? 拳次郎」

 

「…………」

 

「あんな芝居に引っかかるとは、まだまだ甘いって事だ。ひゃっははは!」

 

 無言で睨む拳次郎を嘲笑うように、サブチンはゆらゆらと余裕ありげに詰め寄っていく。

 しかし、拳次郎のすぐ背後に舞たちが来た時、下がっていた彼の足がピタリと止まった。

 

「……やはり、ダメか」

 

「あ?」

 

 心なしか悲しげにつぶやくと、拳次郎は腰を落として胸を張り、気合いを込めるようなポーズをとる。

 その瞬間、辺りの空気が拳次郎を中心に変わり始める。まるで体から熱を放つように周囲に熱気が立ち込め、渦を巻き、見ている人間を気圧(けお)する。

 校門前の並木がざわつき、小鳥が一目散に逃げ出す。舞はその雰囲気に覚えがあった。今朝、この学校で初めて兄と会った時に見せた、あの不思議な威圧感に似ていたのだ。しかも今回のは、前より更に強く、濃い重圧だった。

 

「はああぁ…………」

 

 拳次郎が低い声を絞り出す。それに合わせて、渦巻いていた空気が徐々に拳次郎へと収束していく。熱気が凝縮し、重圧が最高潮に達する。

 

「……ぁぁあああああっ!!!」

 

 刹那、熱気が一気に爆発し、同時に拳次郎の上半身の服が全て散り散りに弾け飛んだ。内に隠されていた剛体の筋肉が盛り上がり、これ以上ないほどに張りつめる。

 後ろにいた舞たちは目を見張り、驚きに言葉を失った。

 

(ど……どうなったの今の?)

 

(なんて体……前からも見たい……!)

 

 しゃべれずにいるのはサブチンも同じであった。乳首が服に擦れるはずが服の方が消滅し、抵抗の目をつぶされた彼は今度こそ策が尽きた様子で立ちすくんだ。

 そんな相手に、拳次郎はいかめしい声で語りかける。

 

「性闘拳の真髄は、興奮を抑えて精神と肉体を律する事にある……。その力が、心身の活性化につながるんだ」

 

 言いながら、彼はサブチンの間近まで歩み寄った。目と鼻の先で睨みながら、表情に怒りを増して口を開く。

 

「答えろ。その夢乳神拳……誰に習った」

 

「し、ししし知らねえ! 本当だ!!」

 

「お前が創始者なわけではないだろう?」

 

「や……俺はただ、誰かに教わった奴に、また半端に習ったってだけなんだ! ただの、たくさんいる中の末端なんだよ!」

 

「……そうか」

 

 問答をした拳次郎は空しいため息を一つつくと、前触れなくサブチンのみぞおちに指を突き立てた。日本の指は急所へ矢のように刺さり、にぶい音まで立ててめりこむ。サブチンが目を白黒させ、表情筋をけいれんさせる。

 

「けは、かはっ……このっ」

 

嚇脈(かくみゃく)神拳(しんけん)奥義(おうぎ)轟血(ごうけつ)爆龍(ばくりゅう)(けん)

 

「な……なに?」

 

「"赤龍"のツボを突いた。お前の体はあと数秒でこの場から消える……」

 

「は、いやちょっ、まっ!」

 

「リビドーと共に散れ……」

 

 拳次郎はくるりと背を向ける。同時に、サブチンの鼻の両穴から、ぷつりと血が飛び散った。それをサブチンが反射的に押さえると、手のひらの下で、ドクン、ドクンと何か熱いものが脈打つのを感じた。

 そして、次の瞬間には十指のすき間から血が噴き出し、赤い波がななめに軌跡を描き、続いて頭が勢いに押されて後ろへ飛んで、体が浮き上がった。

 一秒後、サブチンの体は飛び出る鼻血の激流に乗り、ぐんぐん上空へと噴き上げられていった。彼の視界に映る地面が、不意に遠くなる。

 

「どわああああぁぁーーーーっ!!?」

 

 長い長い悲鳴と血の筋を残し、彼は夕日のかなたへと消えた。拳次郎の言った通り、サブチンはこの場から跡形もなく消えてしまった。

 

「サ、サブチン様!」

 

「兄貴ぃー!」

 

 それを見て仰天した取り巻きたちが、一斉にあっけに取られながら星になったサブチンを追いかけていく。

 そうして、ようやく校庭には放課後の平穏が訪れた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 半裸で空を見ていた拳次郎が振り向くと、舞と紫乃が立っていた。紫乃が先に頭を下げると、舞が呆然としていた顔を切り替え、笑みをつくる。

 

「ありがとう。助けてくれて」

 

「ありがとうございます……」

 

 その言葉に、拳次郎はただ微笑した。そしてゆっくりと歩きだし、背を向けながら言った。

 

「気をつけて帰るんだぞ」

 

 夕日に向かって、実にあっけらかんとした様子で帰る姿を、舞と紫乃は不思議なものでも見るような目で見つめていた。

 しかし、二人とも心の内でおぼろげながら予感していたのだ。彼こそ、この性飢末の学校に夜明けを――日出の名の通り――もたらす者だと。

 

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