性飢末《セイキマツ》の覇者 ~暴走する性癖を食い止めろ!~ 作:ごぼう大臣
「はぁ~、一日が無事に終わった~」
ある日の夕方、聖的至高高校。
六時限目が終わり、教師が1―Aから出ていった瞬間、舞はのびのびと背筋をのばして言った。隣にいた紫乃がためらいがちに微笑む。
「うれしそうだね、舞ちゃん」
「そりゃそうよ。この学校で、一つも騒動のない日がどれだけ貴重か」
舞は身を乗りだし、紫乃に顔を近づけて語り始めた。
「考えてみてよ。今まで毎日のように、変な事件に遭遇してきたじゃない」
「う、うん」
「だからこういう平和な日は、すごく久々に感じるんだわ……」
そう言って、舞は机にぐで~んと突っ伏する。紫乃が黙って見守る横で、彼女は眠そうな声でつぶやいた。
「放課後ちょっと出かけようかな……。何にも縛られず、思いっきり……」
しかし、そんな事を口にしたのもつかの間。
「うわあああっ!!」
教室前の廊下を、男子生徒の悲痛な悲鳴が横切っていった。驚いた舞と紫乃が振り向くと、直後にもう一人の足音がバタバタと駆け抜けていく。
「
「もう耐えられないんだよ! 勘弁してくれ!!」
二人とも走り去って遠くなってからも、その声ははっきりと彼女らに聞こえていた。教室にいた生徒らもけげんな顔を見合わせる。
「ま、舞ちゃん……なんだろ今の」
「痴話げんか……? 正直、嫌な予感しかしないんだけど……」
苦笑する紫乃へ、舞はげんなりした顔で答えた。変人たちに翻弄された今までの悪夢がよみがえる。
今回のも、性闘拳がからんだ変態たちの争いだろう。そうでなくても、他人の別れ話などに首を突っ込む理由はない。舞はすばやくカバンを引っつかむと、いかにも無理した笑顔で言った。
「帰ろ、紫乃。授業は終わったんだしさ」
「で、でも……」
「だーいじょぶだって。偶然見ただけの私らが無視したって、責められるわけないし」
ためらう紫乃の手を引っ張り、舞は早足に教室の出口へ向かう。何も気にする事はないのだ。自分たちは危険に巻き込まれないために、可及的すみやかに帰宅したにすぎない。
そう自分に言い聞かせ、舞は教室を出て廊下を見渡す。
「…………!?」
……その光景を見て、思わず息を呑む。しかし、あえて知らない風で進み出た。危ないから去るのではないか。たとえ生徒たちが……。
「舞」
「きゃっ!?」
背後から呼び止められ、舞は思わず悲鳴をあげる。その声の主は、彼女にとって悪夢の合図ともいえる者だったのだ。
「日出……先輩?」
舞がギリギリとぎこちなく首を回す間に、紫乃がその名を呼ぶ。しかしその口ぶりはまるで信じられないといった風だった。
たっぷり数秒ほどかけて、舞はその者へと振り向く。そして、またもや息を呑んだ。
そこには、なんと細い麻縄によって*1亀甲縛り、かつ*2後手縛りにされた兄、拳次郎の姿があった。拘束されながらも走ってきたのか、息を切らしている。
その出で立ちに二人が何も言えずにいると、拳次郎は何も恥じる様子を見せず、真面目な、申し訳なさそうな顔で言った。
「舞……すまない。力を貸してくれ!」
その言葉に、舞はとうとう今日も性闘拳のいざこざに巻き込まれたのだと悟った。
彼女の見た廊下には、縄でさまざまなやり方で縛られて動けなくなった生徒たちが、男女問わず何人も転がっていたのだ。
――
「……一体何があったのよ」
「三年生のカップルの別れ話が発端だ……フンッ!」
自分を縛る縄を力ずくで引きちぎり、拳次郎は歩きながら話しはじめる。舞はいかにも関わりたくなさそうに眉を寄せ、それを心配してか紫乃もついてきた。
「事のはじまりは、プレイの理想の違いだったらしい……。二人とも縄での緊縛が好きだったようなんだが、そこに食い違いがあったらしくてな」
(……この学校でカップルなんていたんだ……)
「食い違いと言いますと……どんな?」
「それは詳しく聞いてみないと分からん。ただ、問題は女子の方が気持ちをこじらせ暴れている事だ」
拳次郎は言いながら、また階段の手すりに*3片手後手縛りで拘束された生徒の縄を解いてやった。
「もしかしてその女子が……性闘拳使いだったなんて話は」
「そうだ、まさにその通り。いい道しるべだが、放っておくと大変な事になる」
紫乃の言葉にうなずき、縄をほどくや走り出す拳次郎。その後をあわてて追いかけながら、舞はさけんだ。
「ねえ! 本当にお兄ちゃん一人じゃ無理なの!?」
「どうにか校舎の外には出さなかった! だが、かんじんの女子を止めるには手が足りん!」
拳次郎は振り返らずに答えた。階段を降りて辺りを見渡すとまた縛られた生徒たちが何人もいる。犯人を止めなければいくら解いてやっても追いつかない。舞は事態の大きさを理解し、歯がみした。
彼女は手近の*4狸縛りで転がされている女子の縄を解きながら、拳次郎に向かって言った。
「縄ときの方はやっておくから、お兄ちゃんは犯人を追って!」
「いや……それでは意味がない」
「はぁ!? どうしてよ!」
いら立ちを少しずつあらわにする舞。そんな彼女に驚きながら、紫乃は*5背面観音縛りで助けを求める男子におっかなびっくり対応したりなどしていた。
一方、拳次郎は難しい顔で小さくうなり、こう語った。
「俺も説得しようとはしたんだ……。だが色々と問題があってな」
「ああもうじれったいわね。問題って何よ?」
「それは……」
詰め寄る舞へ、拳次郎が口を開いた時。
「だから、あんまり痛いのは嫌だって前から言ってただろーっ!!」
不意に、舞に聞き覚えのある声が響いた。彼女が振り向くと、縛られた生徒らが続いている廊下の向こうから、一人の男子生徒が走ってくる。見るからに気弱な泣き顔のその生徒の悲鳴は、他でもないあの逃げまどっていた生徒のものと同じだった。
男子生徒は彼女らの間を抜け、廊下の反対側へ一目散に駆けていった。
紫乃があっけに取られる横で、舞が緊迫した顔で拳次郎を見ると、彼も険しい顔でつぶやいた。
「今のは
「待てっつってんでしょうが!」
続いて、元樹の後から息せき切らした女子があらわれた。目がつり上がり、金髪をポンパドールスタイルに結んだ目立つ格好。両手に握った縄を引っ張ると空気をはじくような音がした。
その女子を見たとたん、拳次郎の顔がますます険しくなる。そして言った。
「やはり……
「え、あの人がそうなの?」
舞は目を丸くしてその犯人らしき女子、理恵と拳次郎を交互に見る。そして意を決した様子で近づいた。
「ちょっと! その……苗芝先輩? とにかくいったん落ち着いて……」
少々おびえつつも説得を始める舞。しかし理恵の目つきは鋭いままで、和らぐ事なく視線だけが舞へと移る。
そのしぐさだけで、拳次郎は目をむいた。
「舞、危ない!!」
「え……」
さけんだ拳次郎と理恵が動いたのは、同時だった。理恵は姿勢を低くして舞へと飛び出し、音もなく縄を振るう。目にも留まらない速さの中、こう言った。
「
「――きゃっ!?」
眼前に迫りくる殺気に気づき、舞は思わず目をつむる。しかしいつまで経っても感覚には何の変化も起きなかった。
二、三秒して、おそるおそる目を開ける。すると、舞の視界には誰もいない廊下が映った。
妙に思って周囲を見回す。そして足元に目をやって、彼女は表情を凍りつかせた。
「お兄ちゃん!?」
そこには、後手縛りに加えて*6屈脚固定縛りでもって*7M字開脚させられている兄が、身代わりとなって床に転がっていた。舞は信じられないという顔で何度もまばたきし、しまいには危うく失神しそうになる。
「あ、あの……例の先輩、逃げちゃいました……」
目の前の強烈な現実を受け入れられずにいる舞にかわって、紫乃が遠慮がちに伝える。拳次郎は重々しくうなずいた。
「フンッ!」
全身に力を込め、縄を引きちぎる拳次郎。そして上体を起こし、頭を押さえてつぶやいた。
「これが彼女の……縛蛇神拳のやっかいなところだ」
「へ?」
「道具を使う流派の一つで、縛り方は既存のものだが……とにかく一瞬で動きを封じられ、見切るのも難しい。捕まえようにも、こちらが縛られてしまう」
「…………」
「縄の方をつかんだとしても、それを囮にして本人は逃げてしまう。今まで実際にやられた手だ」
どうやら、拳次郎も少々まいっているようだった。座り込んだままうなだれ、顔を手でおおっている。それを見ながら、舞はどこか歯がゆそうな表情をうかべていた。
遠巻きに見ていた紫乃が「とりあえず追いかけましょう」と口にする。しかし、舞はそれを制止し、兄をジッと見た。
「……お兄ちゃん」
「? なんだ?」
拳次郎は目をしばたかせて舞を見る。舞は鋭い目で相手を見据え、こうたずねた。
「なんだかさっきから、直接止める事ばっかり考えてない?」
「……?」
拳次郎はそれを聞いて要領を得ない風に眉をひそめた。舞は、その顔にかすかに苦い表情をした。
――
……日もそろそろ暮れようかという頃、舞たちは正面玄関から校庭に出ていた。縛られた生徒たちの列は相変わらず続いており、校門の外にまで見えた。
「けっきょく逃げられてる……」
「とにかく急ごう」
舞がボソッと言った嫌味も気にせず、拳次郎は走り出す。舞と紫乃も後を追った。
動けずにいる生徒たちに手を貸すゆとりも今はなく、真っ先に校門を飛び出す。その先には、寮へと続く道を除けば、雑草のしげった空き地や、雑木林や、あるいはもっと進んでも道沿いにつくられた畑などのさびれた風景が広がっている。いつか税金で隔離されていると言われたように、人通りの少ない場所に建てられている。
しかし、それでも道なりに行けば地平線にのぞむ町へとたどり着くのだ。
走りながら振り返り、拳次郎が舞に言う。
「……それで、さっきの話は何だったんだ」
「お兄ちゃんのやり方の話?」
「そうだ。直接止める事ばかり……というのは」
拳次郎の声はやや不服そうだった。彼なりに焦りを感じているのだろう。舞は咳払いし、走りに合わせて早口に言った。
「……個人差あるだろうけどさ。女って、男と比べたら相手への信頼を重視するらしいのよ。これは性癖もそうなのかも」
「具体的には?」
「例えば、男の性闘拳使いは……異性なら無差別に狙うって輩が多くなかった? 私が知る限りでも、二人」
「そうだったかも知れないが……じゃあ女子は違うのか?」
拳次郎が問うと、舞はうなずく。
「多分……例の苗芝先輩も、動機は彼氏への未練にあると思うの。パッと見は無差別でも、根っこで別れ話を引きずってる」
「そこをほぐさにゃならん訳か……。お前を頼ってよかった」
「うれしくないわ」
礼を言う拳次郎へ、舞は鼻を鳴らして答えた。その時、黙っていた紫乃が不意に大声をあげる。
「お二人とも、あれ!」
「!?」
舞と拳次郎が振り向くと、紫乃は道脇の雑木林を指さしていた。よく見るとその木陰に、人影らしきものが見える。黒い男子の制服。
「見つけた!」
舞が叫び、三人は急いでその男子のもとへ駆けつけた。肩をたたかれて振り向いたその顔は、やはりあの逃げ回っていた朝匪 元樹だった。
「朝匪先輩……ですよね」
「君たちは……日出くんに……」
「妹の舞です。こっちは紫乃」
戸惑う元樹へ軽く会釈し、舞は周りを気にしつつ問いかける。
「突然すみません。苗芝先輩とどんな事でケンカになったのか、教えていただけませんか?」
「え……どうしてそんな」
「お願いします! そこを解決しないと、絶対にどこかで同じような事が起こりますよ」
舞は確信のある口調で言った。紫乃も女子として思うところがあるのか後ろでコクコクとうなずいている。
元樹はしばし言いにくそうに目をそらしていたが、やがて恥ずかしそうに口を開いた。
「縛る時の……いやその、"遊ぶ"時の性格の不一致というか」
「そこまでは聞きました。具体的には?」
「え、えぇー……」
「知らなきゃダメなんです。その辺をどうにかしないと、どんどん関係ない人が巻き込まれていっちゃう……!」
舞はきつい目で詰め寄った。拳次郎も無言ながら話すように視線でうながすと、それに折れたのか、元樹はポツポツと話しはじめた。
「僕の方は……縛られるのも好きではあるんだけど……どちらかというと、コミュニケーションの一種として好きなんだ。軽く縛るだけでも満足する」
「苗芝先輩は違うんですか?」
紫乃が問うと、元樹はうなずいた。
「理恵の方は……縛る事そのものにこだわるタイプで……色んな縛りかたや加減をためしてくるんだ。それだけならいいんだけど……痛がったりしても、やめてくれなくて」
元樹は切なそうに自身の手首を見た。そこからはかすかに、縄の跡らしき赤いアザがついていた。
舞たちは危機感のある表情を見合わせた。単なる趣味の違いならまだしも、身体に悪影響があるならば放ってはおけない。
しかし、元樹はふと悩ましげに唸り、こんな事を言い出した。
「うーん……でもな。やっぱり理恵もかわいそうかなぁ」
「へ?」
「いや……やっと見つけた趣味の通じる相手だし、僕もガマンしたらいいのかもって」
「…………」
元樹の煮え切らない言動に、舞たちは一様に呆れた顔になった。同時に、この失恋騒動はおたがい一種の反動でもあるのでは、と勘づいた。
三人は口々に元樹を説得した。
「先輩、そうやってズルズル付き合い続けるの、かえって良くないですよ」
「や、やっぱりそうかな?」
「そうですよ。何かの拍子でまた爆発したら、もっとひどい目にあいます。ため込む女子とかいますし」
「俺から見ても健全とは思えん。関係を見直さねば、彼女のためにもならん」
「それにこのままじゃ、体こわしちゃいますよ……」
相次いで別れをすすめられ、元樹もいくらか神妙な顔になった。やはり放っておいても、事態は良くならない。舞や拳次郎がそう思いはじめた頃。
「元樹! 見つけた!」
「いっ!?」
不意に、横から金切り声が振ってきた。驚いた元樹の視線の先を見ると、縄を握りしめた理恵が息をあらげて立っている。飛びのいて木に隠れた元樹へ、彼女は激しい口調で問いつめた。
「いつまで逃げる気よ!? というかその子たちは何!?」
「いや……この子たちは別に……」
「噂の日出くんまで……その人まで頼って、そんなに私と別れたい!?」
理恵の剣幕に、元樹はただ押されるばかり。見かねた拳次郎が前に出ようとしたが、何かを思いついた舞があわてて止めた。
「お兄ちゃん、待って」
理恵までは聞こえないひそひそ声。いぶかしみながら、拳次郎も応える。
「どうした?」
「一人だけじゃ無理だよ。また同じように逃げられちゃう」
「しかし……だからといって手は」
「ない訳じゃないわ。紫乃も、耳を貸して」
舞は紫乃に手招きし、拳次郎も交えて三人で話し合いをはじめた。それを元樹は不安げに、理恵は邪魔くさそうに見つめていた。
やがて、三人は何かを決意したような目で理恵に向き直る。身構える理恵へ、拳次郎が進み出た。
「苗芝……先輩。もうやめてくれ。いくら八つ当たりしても解決にはならない」
「どいてよ、あなたには関係ないでしょ!?」
「ただの別れ話ならまだしも……ここまで他人を巻き込んでは、そうもいかない」
拳次郎が厳しい表情で応える。それを見て理恵もいら立ちをあらわにし、縄を持って相手を見据えた。舞と紫乃は元樹をかばうようにそばに立つ。
それが引き金になったのだろうか。理恵は地面を蹴り、すばやく拳次郎へ飛びかかる。拳次郎も同時に駆け出した。
「――縛蛇神拳・
「――嚇脈神拳奥義・
二人の技が、見えない一瞬で同時に放たれる。しかし拳次郎の指がわずかに速く、動き回る縄をかいくぐり理恵の体のツボを突いた。しかし刹那に、拳次郎も*8前手縛りかつ、*9一本縛りでもって、まさにIの字の格好で縛られてしまった。すれ違った勢いで、拳次郎はどうと倒れ込む。
(さすがは三年生……ツボを突くので精一杯か……)
拳次郎が感服するのをよそに、理恵は元樹に向かってジリジリと近づいていた。舞と紫乃が立ちはだかるが、彼女はバカにしたようにフンと鼻を鳴らす。
「引っ込んでないとケガするわよ?」
「……そうはいきません。単純によりを戻せばいいってモンじゃないんです」
「それはアンタが決める事なの?」
わずかに震えながらも止めようとする舞へ、理恵はまた縄をかまえる。邪魔をするなら舞も縛ってしまうつもりだろう。
しかしその時、彼女に異変が起こる。
「うっ……む!?」
噴き出すような鼻血を出しはじめた。それも奇妙な事に両方の鼻の穴からではなく、片方だけ。理恵はあわてて手で押さえようとしたが、不意に鼻血は止まり、今度はもう片方の穴から出血した。そしてまるでシーソーのように、鼻の穴から片方ずつ、絶え間なく鼻血が出始めたのだ。
(片孔空韻拳は、片側ずつリズムをきざんで鼻血が出る拳。集中力を削ぐのにはうってつけだ)
あたふたする理恵を見ながら、拳次郎は得意気に笑う。そしてその隙に、舞と紫乃が理恵に向かって駆け出した。
「……っこの!!」
理恵は即座に縄を振るったが、鼻血のせいで技のキレが鈍り、舞たちの接近を許してしまう。
そして舞はついに理恵へ肉薄すると、手元の縄を引っつかみ、紫乃とともに理恵を縛りにかかる。理恵は一瞬おどろいたが、大して動じもせずに言った。
「このまま縛ろうっての!? 私が縄脱けできないとでも……」
言いながら、理恵は身をよじって束縛から逃れようとする。だがその矢先、彼女の体は別のものに拘束された。
「……すまんが、おとなしくしてもらう」
「ひ、日出くん!?」
それは、縄を引きちぎっていた拳次郎だった。彼に羽交い締めにされ、理恵は縛られてしまうとジタバタと激しく抵抗した。
しかし、目の前の舞たちを見て、ふと動きを止める。
「……え?」
なんと舞と紫乃は、自分たちと一緒に三人組で理恵を縛っていたのだ。ポカンとする理恵へ、舞が間近で語りかける。
「先輩。何か言いたい事があったら、悪いけど私に言ってくれませんか。できる限り相談に乗りますから」
「何言ってるのよ。よけいなお世話……」
「お願いします! そうでもしないと、根本的な解決にはならないと思うんです。話してみて気づく事とかも、あるんじゃないですか?」
いっさい物怖じせずに詰め寄る舞。その姿に、理恵は不思議と気圧された。初対面の生徒ではあるが、本気だというのだけは伝わった。何より、自分もろとも縛って手を封じるという行為が、話し合う意思を感じさせたのである。
「あ、あの。女同士で話せる事も、あるかもしれませんよ?」
「……そうね。そうかも」
紫乃も言い添えると、理恵は観念したようにうなずいた。それを見届け、拳次郎が元樹の背中を押す。
「……しばらく席を外そう。また改めて話し合えばいい」
「解決、したんでしょうか……」
「それは君たち次第だ」
元樹は気がかりな様子を見せながらも、拳次郎とともに寮へと道を引き返した。日が沈む中で、やがて女子たちは密かに理恵と元樹についての話をしはじめていた。
――
次の日、拳次郎は再び舞と紫乃のクラスを訪れた。「苗芝先輩はどうだった?」とたずねると、舞と紫乃は顔を見合わせ、言いにくそうに口を開いた。
「あー……なんとか無事に別れる気になったよ」
「う、うん。大丈夫なはず」
「……? それにしては浮かない顔だが」
二人の表情に眉をひそめる拳次郎へ、舞はささやき声でこう伝えた。
「あんまり詮索しないであげて。彼氏への愚痴とか……けっこうエグいのあったから」
「そ……そうか」
拳次郎はとまどいつつも返事をした。それから、二人が気の毒そうにするのを見て、彼はそそくさにその場を去ったのである。
(根深いな、恋愛というのは)
内心で、そうため息をつきながら。