Re: 早坂愛を落としたい 作:ソロモンよ私は以下略
きーんこーんかーんこーん。
学校のチャイムとして有名なウェストミンスターの鐘のメロディが告げたのは、お昼休憩終了の知らせだった。
昼食後に襲い掛かる眠気と戦いながら、午後の2コマを乗り切るのは容易ではない。
教師の説明はプリンのうたうに匹敵する破壊力があり、強烈な睡魔の影響で頭の働きは低下し、生産性のない無駄な時間を過ごすことになる。
ただ午後一発目の授業は、担当の不在により自習に変更されたことで、地獄のような時間から免れることに成功した。
かつて貴族や士族を教育する機関として創立された由緒正しき名門校秀知院学園。
セレブが通う学校として名高い秀知院学園の神聖な敷地の中でも、特に神聖でならなければならない生徒会室で、月城式はソファーに寝っ転がり小型ゲーム機をいじくっていた。
「モンハンを生み出したカプコンはもっと評価されるべきだと思うのは僕だけかい?」
アクションだけではなく幅広いジャンルで実績を上げているゲーム制作会社を称えるのは相方の石上優。
入学したての一年でありながら、授業中に生徒会室でモンスターをハントしているこの二人は、こんな不良じみた行為をしていても生徒会役員であったりもする。
「今更2ndGって大分古くないか?」
「このゲームは僕にとって思い出や青春や夢や希望が詰まっているゲームだから、時々無性にやりたくなるんだよ」
「当時何歳だよ」
「確か……小学校低学年だったね。 式はやってなかったの?」
「やらんだろ」
コンピューターゲームに触れ始めたのは中学に進学して以降だ。
「それにその年齢だと任天堂が大正義じゃないのか。それとも秀知院では流行ってたとか?」
「一緒に遊んでくれる友達がいるなら任天堂は傑作揃いだよね」
「……モンハンもオンライン機能ってのがあってだな」
「言っとくが僕はソロだ。3乙するくらいどうってことないぞ」
ならば武器は双剣にするのがソロとしての矜持ではないのか。
それはともかく、式は画面に表示されたクエストを一通り目を通す。
旧世代のゲーム機をネットオークションでポチってから、ここ数日でそれなりにやり込んだ結果、思いの外ハマってしまった式にクエストに選択権があったため、彼はそのランクの中で最も高報酬のものを選択した。
数秒のロードを挟み、フィールドに自身の分身が現れた。
「クエストは何選んだ?」
「竜王の系譜」
その瞬間、石上のスイッチが切り替わった。
クエスト内容は銀ピカの雄火竜と金ピカの雌火竜の討伐。
つまりリア充の討伐。
非リアの石上にとってはゲームと言えど抹殺対象であることは変わりはなかった。
「駆逐してやる!」
クエストスタートと同時にエリアを移動してフィールドに降り立った石上を、ボウガンを背負う式のキャラが追いかける。
これといった特徴のない、ただモンスターと戦うために用意されたフィールドでの協力プレイは連携が物を言う。
「式は旦那を殺って。僕は奥さんをぶっ殺す」
非リアの石上が荒々しい口調で指示を飛ばしたので、式はその通りに武器を構え標準を定める。
この手のゲームはパターンを覚えてしまえば難易度さほど高くはないので、まさに作業で進んでいった。
とりあえずリア充への恨みつらみをこの夫婦にぶつけるために、式もありったけの調合材料を駆使して爆弾を大量生産。
旦那をむごたらしく爆殺すると、旦那よりも体力が高い奥さんの脳天に石上のキャラクターが振るう大剣のタメ技がヒットしこちらも音を立てて崩れ去る。
石上のキャラが勝利の舞を踊り出す。
格個撃破で連携のれの字もありはしなかったが、リア充を討伐した戦友がハイタッチを求めてきていたので応えると、何故か石上が涙目になっていた。
「……彼女欲しい」
全国のリア充への怒りをゲームで発散する虚しさを痛感して、切実な思いを吐露した非リアの王だった。
ディスプレイの中に住まう美少女には好意を寄せられている石上は、二次元だけでは飽き足らず、三次元にも手を伸ばそうとしているようだ。
青春を謳歌するには必要不可欠といっても過言ではない恋人。
学生時代においては恋人の存在が己のステータスを高め、学内ヒエラルキーにも大きな影響を与える。
たとえそのステータスを求めるが故に、偽りの恋心が芽生えたとしても、夏祭りやクリスマス、文化祭や修学旅行などの学内外のイベントで、ハンカチを噛みしめ悔し涙を零している独り身を見つけては大体はこう思う。
恋人がいてよかったと。
年齢と彼女いない歴がイコールの式であるが、石上のように異性から好意を受けたい願望はそんなにありはしない。
対象が誰でもいいモテたいなんかよりも、たった一人でいいので振り向かせたい思いのほうが強いのだ。
とはいえ、それはそれで困難を極めているわけだが。
悲しみを紛らわそうと窓の外に目を向ければ、伝統のある校旗が風に靡いており、秀知院に籍を置いていることを実感させられた。
中1からコツコツと積み重ねてきた甲斐があったものだ。
勉強は好きではない。
必要があるから時間を割いたまでで、悲願の秀知院入学を果たした今は二の次三の次である。
高校の入学式では新入生総代のありがたい挨拶を聞きながら、暫くは学業には専念しないと誓った式は、セーブが完了したゲームの電源を落とした。
「まあ僕には無縁な話なんだろうけど」
同じく画面が真っ暗なゲーム機をテーブルに寝かせた石上は、ぷしゅっとペットボトルのキャップを空け、仕事終わりの一杯とでもいう風に炭酸飲料を喉に流し込んでいた。
「なあ石上優君よ」
「いきなりかしこまってどうしたのさ?」
「この学園での俺の評判はどんな感じ?」
目覚ましい発展と遂げたインターネットのお陰で、個人の意見であっても容易に世間に発信される社会が形成された。
しかしそれに伴って、個人への誹謗中傷を共有することさえ容易になっている。
SNSなどに登録はしても基本放置の式とは正反対に、うまく活用していて匿名で書き込みが可能な学園の掲示板も見ているあろう石上への質問。
こういう時に、石上のような気をつかわずにはっきりと言ってくれる人間がいると助かる。
「入学して数日で四宮先輩に告白した勇者」
明日の天気を告げるように淡々と述べる石上の発言は否定できない事実。
四大財閥の一つに数えられる四宮グループの令嬢で、その優秀さ故に神がその手で創り上げたとも謳われる秀知院でも最強格の女にアタックをし振られた。
「で、すぐさま別の女に乗り換えたクソ野郎」
人の悪評判をニヤニヤして話す石上であるが、彼は彼で評判が地に落ちていたりもする。
周囲から浮いている二人が友人となったのは、ある種当然のことでもあった。
そんな石上も例にもれず実家は玩具会社を経営している。
周囲の大金持ち大富豪のせいで霞みがちだが、世間一般ではお金持ちの部類に入る。
一方で、月城家も世間一般ではお金持ちの部類に入る。
友人を招くと『でけ~』と言われ、防音室を知られると『すげ~』言われ、家宝の楽器を紹介すると「たけ〜」と言われるくらいにはお金持ちである。
多くの一般人からは見上げられる存在の月城家だが所詮はその程度。
地方に別荘を建てているわけでもなければ、長期休みにファーストクラスを乗り回して海外旅行に行けるわけでもない。
ましてや自家用ジェットやクルーザーの所持など夢のまた夢。
真の金持ちを前にしたら、取るに足らない虫けらのような存在として扱われるのは疑いの余地がない。
負けん気の強い月城夫妻は、その頂を目指そうと活動をし続けているが、たった一代で巨万の富を築くのは至難の業だ。
何より成功への運を手繰り寄せる方法を見いだせず、月城夫妻が立てた『成り上がり大作戦』の計画は頓挫したかのように思えた。
アプローチの仕方を変えた。
背伸びをして手をどんなに伸ばしても届かない遥か高みに君臨する、ポケットティッシュ代わりに万札を使うような上流階級になるために悪知恵を働かせた結果、日本の名門教育機関に刺客を送り込んだ。
選ばれたのはそんじょそこらの名門ではない。
総資産2000兆を超える大富豪や、総理や省大臣を輩出する政界の華麗なる一族、その他諸々の国の中枢を担う有力者がのさばる秀知院学園だ。
三歩歩けば大富豪のご令嬢かご子息にぶつかる学園で秘密裏に画策されているのが、楽して地位向上を目論む『ぎゃくたま大作戦』。
月城父と月城母は揃ってこう言った。
『夢はエーゲ海沿岸に別荘を建て、自家用クルーザーでバカンスをおくる』と。
秀知院を目指すか、渡米して音楽活動に専念するかの究極の選択を迫られ、見事前者に合格したと思えば、入学前にろくでもない企みを暴露された月城少年はこう思った。
(やべえ親の元に生まれてしまった)
そんなこんなで大してやる気のなかった式は、ノリだけで学園最強クラスの子女へ入学直後にかましてみたのだが、木っ端みじんとなった。
そうして後に色々あり、式は悪名高いクソ野郎として知られるようになった。
元々外部入学者には厳しい学校。
高校生活は既に終わってしまったようなものだが、これからに淡い期待を抱く式は、ソファに置かれていたコントローラーを石上に投げつけた。
「息抜きにマリカーしようぜ」
この後めっちゃマリカーした。