Re: 早坂愛を落としたい   作:ソロモンよ私は以下略

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生徒会、手伝うってよ②

復活を遂げた自称しずかちゃんポジの藤原千花。

 

彼女が両手で抱える段ボール箱の中には、コスプレ用の衣装や小物が詰め込んである。

 

恐らくは演劇部から貸してもらっている道具をテーブルに下ろした藤原は一息つくと、ぴしっと人差し指を白銀へ伸ばした。

 

「いいですか! フランスは日本に次ぐコスプレ大国! コスプレに言葉はいりません。 言語の壁を越えて親睦を深めるにはこれ以上の策はありませんよ!」

 

「いや、親睦を深めるのは俺たちじゃなくてうちの有志生徒だろ。生徒会はあくまで手伝いがメインであってだな」

 

「甘い、甘いですよ会長! 例え裏方に務めるだけであっても、現場を理解しなければ何も始まりません! 共通の文化があるなら、その文化を以って迎え入れる、それが真の国際交流なんです!」

 

「異文化コミュニケーションなんだから、フランスにはない文化を提供するほうがいいんじゃないか?」

 

「何言ってるんですか。国際交流の第一歩はまず自国の文化を知ることからですよ! 日本の文化を理解していないのに、外国の文化を理解できるはずがありません! 敵を知り己を知れば百戦殆からずなんですよ! だからコスプレを知れば日本もフランスも理解できる。一石二鳥じゃないですかぁ!」

 

さっきから言ってることがコロコロと変わっている。

ただ勢いで捲し立てる藤原に押され、白銀は上手い返しが見つからなかった。

 

「そうでしょうか。外見を着飾るよりも、他にやるべきことがあるような気がしますが……」

 

コスプレを下らないと考えているかぐやも乗り気ではないらしい。

 

「かぐやさんも照れなくたっていいじゃないですか~。ほら、まず猫耳をつけてみてください」

 

「ちょっ、何するんですか!」

 

だが嫌がるかぐやに藤原が襲い掛かった。

 

「藤原の暴走を止めなくていいのか」

 

「仕事に支障が出なければいいんじゃないですか」

 

明日の買い出しと明後日の設営に影響がでなければいいというスタンスをとっている式も、藤原の暴走を咎めたりはしなかった。

 

対藤原決戦兵器の式が動かなければ、水を得た魚のように生き生きとしている藤原を止められるものはいない。

 

「にゃ~んって。 ほら子猫ちゃん、にゃ~んって鳴いてください」

 

「に、にゃーん、でいいんですか?」

 

「きゃーー! 超可愛いくないですか! やっぱりわたしの目に狂いはありませんでした。二人もそう思いませんか!?」

 

黒猫を見かけて不幸の前兆と感じるのか、それとも縁起の良い動物と思うのかは人其々だ。

 

善と悪の評価が共存してきた黒猫。

 

そして綺麗な薔薇には棘があるを体現する四宮かぐや。

 

魅惑の二面性を備える両者の融合は、人類が理解できる範疇を越えていた。

 

「あー、そうですね。似合っています」

 

珍しく死んだ瞳を虚空に投げているかぐやを哀れに思いながら、式は素直に感想を口にする。

 

可愛い×可愛いなのだから可愛いに決まっている。

だから式は肯定的な発言以外見当たらなかった。

 

だが奴は弾けた。

 

「ああ、猫耳が藤原書記の頃に四宮は俺だな」

 

前触れもなく意味不明な言葉の羅列を白銀が発した。

 

「…………は?」

 

「…………え?」

 

一拍遅れてから素っ頓狂な声が重なった。

 

猫耳が、藤原書記の頃に、四宮は俺だな。

謎のメッセージを受信した藤原と式は互いに怪訝な表情で見つめ合った。

 

問題発言をした白銀は堂々と片手をポケットに入れ直立しており、異常があるようには見受けられない。

 

聞き間違えなのかもしれない。

その期待を込めて藤原が一歩踏み出した。

 

「会長ぉ、かぐやさん可愛いですよね」

 

「つまりだな、お前が持ってきた時間は元々四宮と猫耳だけって事だ」

 

「かぐやさん離れて下さい! 今の会長は悪霊に取りつかれています!」

 

どうやら藤原の中では白銀が脅威認定されてしまったようだ。

ぐいぐいと引っ張ってかぐやを連れて離れていく。

 

「あのー、大丈夫ですか白銀会長」

 

今度は式が相手をする番が回ってきた。

 

「俺の相反する気持ちも月城が猫耳と同化してしまうのを恐れているんだ」

 

何言ってんだこいつ。

白銀の世界で猫耳と同化されそうになっている式は思った。

 

しかし急にバグった白銀の独り言は止まる気配がない。

 

さっさと活動再開をしてもらうために、落とし物入れのケースからハリセンを引っ張り出し、大きく振りかぶり。

 

「悪霊退散」

 

ありったけの力を込めて白銀の脳天をぶっ叩いた。

 

テレビが映らなければぶっ叩く。

電子レンジが回らなければぶっ叩く。

NINTENDO64が起動しなければカセットと本体をフーフーする。

 

最後のは関係ないが、家電製品の調子が悪ければ、叩けば直ると良く言ったものだ。

人間の体の中も電気信号が行き来しているので、先人の知恵をお借りしても問題はない、と判断した式である。

 

後輩からの会心の一撃を貰った白銀。

実は猫好きの彼は、かぐや×猫耳の凶悪タッグを前にして、あまりの可愛さにバグっていた。

 

「すまん。少しバイトの疲れが残っていたみたいだ」

 

物理攻撃で現実世界に強制的に引き戻された白銀は澄まし顔を取り繕うと試みるも、ついつい頬が緩んでしまう。

 

表情を崩してしまえば弱味を握られる。

 

かぐやに付け込ませまいと、白銀は唇をきつく結び、 眉間にシワを寄せて 表情を固めた。

 

「叩いたこと怒ってますか?」

 

「なぜ俺が月城を叱る? むしろ生徒会に私情を持ち込んだ俺が叱責されるなら話はわかるが」

 

「でも顔が超怖いです。般若みたいに」

 

「気にするな。これがデフォルトだ」

デフォルトよりも怖い顔をしているのだが、気にするなと言うならその通りにしておこう。

 

「じゃあはい、今度は会長の番ですよ~」

 

「いや、俺は似合わないからいいだろ」

 

「つれないこと言わないで会長もつけてくださいよ。絶対可愛いですから」

 

「いや、だからいいって。それに男に可愛さを求めるのもどうかと思うぞ」

 

用意した犬耳を片手に、今度は白銀に襲い掛かった。

狙う藤原。

避ける白銀。

 

生徒会室で攻防を繰り広げる二人をよそに、式はコスプレ道具が入っている段ボールを漁ってみる。

 

チョーカー等があれば、もっとリアリティを再現できたはずなのだが、生憎そんな都合よく揃っているわけない。

 

適当に布と小物をつなぎ合わせて自作する手もあったが、そこまで労力をかけるほどでもないので、大人しく水性のマジックを取り出しかぐやの傍へ近寄った。

 

「猫ひげでもかきますか?」

申し訳程度のペイントをすすめてみる。

 

これにはコスブレに対して消極的なかぐやも、「うっ」と言葉に詰まった。

後輩の申し出を断るのは気が引けたらしい。

 

「嫌なら別にいいんですけど」

 

「別に嫌だなんて言っていないでしょう。受けて立つわ」

 

空気の読めない先輩と思われたらどうしよう。

そんな先輩としての威厳を守るため、かぐやは大袈裟な同意を示した。

 

四宮の令嬢の顔に、100円ちょっとのマジックで落書きをしようとするアッパーミドルの次男の図。

 

下手すりゃ即打ち首ものだ。

 

左右三本ずつの計六本の線を引き終えたタイミングで、ちょうど藤原の方も処理が終わったようだ。

 

「うーん。似合ってはいるんですけど、謎の違和感がありますね」

 

首を傾げる藤原の隣では、先ほどのかぐやと同様、犬耳を装着した白銀は死んだ目をしている。

毎朝満員電車にすし詰めにされている、日本を支える奴隷たちにも負けるとも劣らない、輝きを失った瞳。

 

だが犬と猫の目と目が合った瞬間、彼の瞳には希望が宿った。

 

より猫化したかぐやを認識したことで、白銀の脳みそは再びバグる。

 

「きゃっわーーぶばほっ!」

思わず「きゃっわいー!」と本音が漏れそうになったすんでの所で、白銀は自らの顔面にグーパンを入れ、失言を食い止める。

 

唐突に自分で自分の頬を殴ったキチガイ。

 

後輩から蔑みの目で見下されても、地面に這いつくばる白銀は最小限の犠牲でごまかしたつもりだった。

 

「いきなりどうしたんですかかいちょー!?」

 

「ちょっと眠気がだな」

 

苦し紛れの言い訳でその場を凌ぐが、その頬は代償として軽く腫れ上がっている。

 

一方で、かぐやにも変化が起こっていた。

 

犬化した白銀にハートを撃ち抜かれたことで、彼女の精神世界に住むアホかぐやは、あまりのおかわいさに暴れていた。

 

それほどかぐやにとっては破壊力抜群。

 

緩みそうになる表情を引き締めるべく、口内を噛むことで自制を図る。

 

「かぐや先輩、口から血が……」

 

「持病よ。気にしないでちょうだい」

 

ハンカチを口元に添えながら、かぐやは持病でごり押した。

 

養護教諭を呼んできましょうかと式から聞かれるも、お可愛い白銀とのひと時を邪魔されたくない一心で遠慮する。

 

「今日の会長ちょっと変ですね」

 

変人の代表格である藤原にいわれるとは相当だ。

 

だが勘のいいガキとして定評のある式もその意見には全面的に同意せざるを得ない。

 

いつもならば姑息に相手をはめようとする両者ではあるが、この日はそんな素振りはみせず平穏な放課後を過ごしている。

 

そんな中、好きで好きで仕方がなく、とうとう限界突破し、頭がバグって奇行に走る本能は、そこそこ計算して奇行に走っている式には理解できるはずがなかった。

 

「なんかよく分かりませんが、次は月城くんですね。どのお耳さんを希望しますか」

 

なんとなく予想はついていたが、流れ的にも逃げられる雰囲気ではなさそうだ。

 

「マギー審司耳ってありますか?」

 

「あるわけないじゃないですか。あの道具をコスプレに分類してることに驚きですよ」

 

そりゃそうだろう。

 

むしろあったら滑るのを覚悟で、マギー審司と演劇部に敬意を払い、耳がでっかくなっちゃったを披露していたことだ。

 

「じゃあ月城くんにはですね……」

 

どうやら藤原が見繕ってくれるようで、がさごそと段ボールを漁り始めようとした瞬間、二人の声が重なった。

 

「月城は犬だろ」

 

「月城くんは猫です」

 

かぐやと白銀は正反対の主張をする。

 

その声音からは、自らが絶対的に正しいという意志が伝わる。

 

「はい?」

 

「は?」

 

故に真っ向から対立するのは明らかな状況だった。

 

犬か猫かを決める不毛な争いの火蓋が切られた。

 

「どうやら会長はまだ月城くんの人となりを理解しきれていないみたいですね。月城くんを犬に当てはめようだなんて、冗談だとしても笑えませんね」

 

「お前のほうこそ戯言はほどほどにしておくんだな四宮。こいつはな、ハチ公も尻尾巻いて池袋あたりに逃げ出すほどの忠犬だぞ。それを猫だなんて、見る目がないんじゃないか」

 

「……つまり自分の非は認めないと?」

 

「なに、事実を主張しているだけさ」

 

犬でも猫でも、似たようなものだからどちらでも構わないのだが、この二人には譲れぬ信念があるらしい。

 

喧嘩、までとはいかぬもの、生徒会室の空気が悪くなってきた。

 

「じゃあこっちにします」

 

空気を入れ替えようと、式が選択したのはかぐやが支持する猫耳だった。

 

後々ぶーたれても困るので、この選択は妥当かと。

 

「はい犬ぅー! そういうところが超犬っぽいですぅ!」

 

ピシィっと白銀に人差し指を向ける白銀は、なぜだかあおり口調だ。

 

「ほら、月城くんはしっかり自覚があるみたいですよ。周囲に流されない、長いものにも巻かれない、自分をしっかり持ってるんです」

 

「ちげえっつーの! 四宮との対立を避けるためにそっちについたんだろうが! ちゃんと上下関係にそって行動してるのが犬っぽいと言ってんだよ俺は!」

 

「はあー、これが所謂負け犬の遠吠えなんでしょうね。如何です? 三回まわってワンと鳴くのなら、今までの無礼を水に流してあげなくもないですが」

 

換気には失敗。

 

余計に空気が悪くなってしまった。

 

喧嘩するほど仲が良いともいうので、放置していても時間の経過とともに落ち着いていくだろう。

 

ただ飛び火してくるのは厄介なので、犬猫論争に終止符を打つことに。

 

「じゃあ男子は犬で、女子は猫ってことで」

 

あわあわしながら右往左往している藤原の頭に、先ほど手にした猫耳を装着し、自分には犬耳を。

 

結論は一旦保留、というよりは各々の解釈に任せて、とりあえず次の段階に進ませるのを優先した。

 

「次はどうするんですか?」

 

「さあ、特に考えていません。この提案自体も突発的に思ったことなのでーーってそんな目で見ないで下さいよ!」

 

要するに楽しそうだから、役員を巻き込んでやってみたわけだ。

 

陽の者は行動力が並みではないというか、思い立ったが吉日で動きすぎというか。

 

ジト目で藤原を見ていると、「あっそうだ」と言い放ってからどこかへ飛んでいった。

 

数分して戻ってきた彼女の手には、自撮り棒が握られていた。

 

「せっかくなので記念写真とりましょうよー」

もはや藤原にとってはフランス校との交流会は二の次なんだろう。

 

「ですが石上くんが不在の中、写真を撮るのは正直気がひけますね」

 

生徒会室に姿を現さない石上は現在、順調に在宅ワーカーの道を歩んでいる。

 

いつの日か、今日の話題が上がったとしよう。

 

四人が盛り上がっても、その輪にいなかった石上が感じる疎外感は相当なものになるはずだ。

 

かぐやが乗り気になれないのも一理ある。

 

「まあ、いつまでも仕事を持ち帰ってやらせるわけにもいかないしな。月城、引っ張ってこれるか?」

 

「えっ、今ですか」

 

「今日は無理だろ。近日中で構わん」

 

頑なに生徒会室への立ち入りを拒んでいる石上ではあるが、ああ見えて協調性がないわけではない。

 

だから引っ張り出そうと思えば引っ張り出せるが、無理強いするのも微妙な後ろめたさが。

 

「それは命令ですか」

 

「会長命令だ」

 

会長命令となれば式は頷くしかなかった。

それと同時にとある閃きが生まれる。

 

PCでラインを立ち上げて石上に通話を仕掛ける。

 

『へい、僕だよ』

 

しばらく間があってから石上と繋がった。

 

ただスピーカー越しには彼の声だけではなく、カチャカチャと鳴るコントローラー音も聞こえてくる。

新作ゲームに熱中しすぎて明日は仮病が発動しそうだ。

 

「ビデオ通話いける?」

 

お取り込み中のところ悪いが、そう促すと石上はすぐに画面を切り替えてくれる。

 

ゲーミングヘッドセットをつけている石上の顔が写った。

 

『そういう趣味あったんだっけ』

 

「これも仕事の内だ。ほら」

 

自分だけではないことの証明のため、先輩方にもカメラを向ける。

 

『全然状況が把握できてないんだけど、用件は? 今弾丸飛び交う戦場を駆け抜けてるから出来ることは限られるよ」

 

「いや、とりあえずそのまま顔を映してくれさえいればゲームに集中してOKだ」

 

『よく分かんないけど了解した』

 

準備が出来たので、ノートパソコンを折りたたみタブレットモードにしてから指定の位置につく。

不謹慎だが遺影みたいだ。

 

「あっ、月城くんはちょこっと見切れてるので、こっちに寄ってください」

「分かりました」

 

藤原の指示に従い白銀へタックル。

 

「………っ! 急に近づかないで下さい会長!」

 

「違う、俺ではないぞ! 月城が押してくるんだよ!」

 

「画面に入るには白銀会長のほうへ寄らなければいけないので。となると当然白銀会長とかぐや先輩はくっつくことになりまして」

 

「藤原のスマホを見ろ! お前もう枠内に入ってるぞ!」

 

「……写真に撮られるときは、顔だけではなく全身で撮られるのが月城家の掟だと教わっています。ですから白銀会長がもっと寄ってください。このままだと右腕がはみ出ます」

 

「どんな掟だよ! ってかお前わざとやってるだろ!」

 

「もう撮りますよ。みんなこっちを向いてくださいね」

 

「いい加減にしないと本当に怒りーーきゃっ、会長どこを触ってるんですか!」

 

「俺じゃねえええ! 四宮の腰に手を回してるのは藤原だろ! こっちに罪を擦り付けるな!」

 

「いきますよぉ、はい、チーズっ!」

 

騒々しい中聞こえたシャッター音。

良い絵が取れたのは間違いない。

 

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