Re: 早坂愛を落としたい   作:ソロモンよ私は以下略

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生徒会、手伝うってよ③

慌ただしい放課後を過ごした日の夜。

窓から月光が差し込む部屋で、かぐやは携帯に送られてきたばかりの写真を眺めていた。

 

カメラ目線でピースをする撮影者の藤原。

向き合って言い合いをしている白銀とかぐや。

片手で白銀をぐいと押しながらタブレットをかざす式と、流れで察したのか画面上でイエーイとポーズしている遺影の石上。

 

出来立てほやほやの記念写真だ。

 

「あーあー、会長とこんなに顔を近づけちゃって。もうキスする勢いじゃないですか」

 

早坂の感想にかぐやは枕に突っ伏した。

 

嬉しい反面、恥ずかしくもあるのか、幼子のようにベッドの上で何度も両足をバタつかせている。

 

棘棘しい性格は鳴りを潜め、同時に精神年齢も下がった気もするが、学校生活を送る上では悪くない傾向だ。

 

ただし人使いが荒くなった。

 

姿勢を正した早坂の不満など知るはずもないかぐやは引き続き悶ている。

 

「それはともかく白銀会長と買い出しですか。おめでとうございます。ようやく進展なされたのですね」

 

ピタッと、かぐやの動きが止まると、首だけを捻り早坂を見やう。

 

「おめでとうはまだ早いわ。まだ解決していない課題があるもの」

 

「そうですか。その課題とは?」

 

「来ないのよ」

 

「はい? 来ない?」

 

「会長から詳細の連絡が来ないの!」

 

切羽詰まった様子でかぐやが訴えかける。

 

想い人から連絡が待ち遠しくて心が揺さぶられるのは恋愛あるあるだ。

 

恋愛を経験し、同級生とのやり取りだけで頭を悩ませている姿は大変好ましい。

 

「そんなに心配ならかぐや様から連絡を取ってみたら如何ですか」

 

でも早坂が望んでいるのは人並みの恋愛であり、天才たちの歪んだ恋愛ではない。

 

「それだと明日を凄い楽しみにしているみたいじゃないですか! いいですか。この場合、先に動くとは即ち求愛行動。相手が好きで好きで堪らなくて、早く約束を取り付けたい。だから私はあなたよりも先に連絡しました、と言っているようなものじゃない!」

 

なに言ってんだこの主。

 

早坂にはかぐやのお馬鹿理論が理解できなかった。

 

色々と飛躍しすぎて、一体何処から突っ込むのが正解か。

 

「でも好きなんですよね」

 

「それは早坂の勘違いよ。会長が私に好意を寄せているのは事実だけれど、私が会長に好意を寄せているなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」

 

「なるほど。白銀会長の一方通行な愛情なんですね。未来永劫、叶うことはない」

 

「敵わないって断言しないで!」

 

「どっちなんすか」

 

「兎に角、会長が動かなければ意味ないの。そこで早坂、あなたが私の立場ならどうするかしら?」

 

「普通にメールか電話すればいいと思いますが」

 

仮にかぐやの理屈が世に浸透していたら、とてつもなく生きづらい社会になっていたはずだが、内に眠る恋心を認められない本人にしてみれば、早坂の意見は不正解極まりない。

 

自ら愛を声高に叫ぶに等しい行為だと信じて疑わないため、徹底的に排除する。

 

「0点、むしろ参考にならなすぎて-20点ね。恋の駆け引きを学んでから出直しなさい」

 

「いい加減にしないとそこの窓から突き落としますよ?」

 

暴君ぶりを発揮する主人に早坂はイラっとした。

 

「早坂が頼りにならないのは想定の範囲内よ。だから今回は助っ人を呼んでいるわ」

 

無自覚に人を煽る才能にも長けている天才に、早坂はさらにイラっとした。

 

それよりも助っ人とは。

 

早坂の表情はほとんど変わらなかったが、整えられている眉がわずかに動いた。

 

相談役のようなポジションにいるのは、自分を除いてこの屋敷にいないはず。

 

「かぐやお嬢様、 お客様がお見えになりました」

 

そのタイミングで声がかかった。

開かれた扉の先に立っていた彼は、案内した使用人から怪訝そうな視線を当てられていた。

 

 

 

 

 

 

 

諸活動は原則19時まで。

ただし届出により延長可能。

 

有志団体の代表との打ち合わせや、備品の確認、控え室の確保などなど。

 

急に振られた仕事を一通り片づけたのは、夜9時のことだった。

 

賃金も発生しない長ったらしい拘束に溜息をつきつつ、守衛さんに校門のカギを開けてもらっている時に、スマホの着信音が響いた。

 

音声通話でかけてくるのはまず父親だが、基本的にはチャットでやりとりをしていて、緊急時にしかかけてこない。

 

次に知らない番号から。

これらはもっぱらセールスの電話だ。

 

最後に淘汰されつつあるガラパゴス携帯を愛用している四宮かぐや。

 

彼女とも基本的にはメールのやりとりだが、たまに電話を挟む、といった次第だ。

 

ここ最近の履歴は四宮かぐやで埋め尽くされているので、表示された名前を見なくても発信者が彼女であるのは分かった。

 

が、その時は招集命令がかかり、約三十分後に四宮別邸に、しかもかぐやの部屋に通されるとは夢にも思わなかっただろう。

 

通されたかぐやと早坂に軽く会釈をする。

 

「迷わなかったようね」

 

「グーグル大先生がルートを教えてくれました」

 

流石は四代財閥の一柱。

これまで目にしたどんな家より、規模が段違いだ。

 

重厚で堅牢な素材で作られた片扉300cm×220cmはあろうかというほどの立派な自動門扉から、洋館の玄関までたどり着くのに何十秒かけさせるつもりだ。

 

無駄に広い庭はなんなの。

50m走の練習のために使ってんのかな。

 

異世界に迷い込んだ式は、四宮家の財力に圧倒されて頭がおかしくなりそうだった。

 

「練馬の65%よりは狭い。練馬の65%よりは狭い」

 

「三千院家は創作、四宮家は現実であることをお忘れなく」

 

正気を保つために四宮家を越える資産家を想像していると、給仕服姿の早坂からの冷静な突っ込みが入った。

 

滅多なことではお目にかかれないレア衣装に意識が向かないくらいには動揺していた式は、はっと我に帰る。

 

両手でスマホを握りしめて、こう懇願した。

 

「家宝にするので、一枚だけ撮っていいですか」

 

「気持ちが悪いです」

 

「じゃあツーショットなら……」

 

「嫌です」

 

真正面からバッサリ切られた。

 

だがこの日の式はちょっとやそっとじゃ撤退しない。

 

早坂愛×メイドの組み合わせは、次いつ拝めるか。

 

一生拝めない可能性もある。

 

この姿の早坂を形に残すためなら、土下座交渉も厭わない。

 

「別に撮られたところで減るもんでもないでしょう」

 

決め手となったのは、優雅にカップをソーサーに戻しながら放ったかぐやの一言だった。

 

後押しを受けての記念撮影会。

カメラマンは初のスマホ撮りを体験したかぐやだ。

 

 

 

「うわぁ、運勢上がりそう。待ち受けにしてもいいですか」

 

「ナイスボートされる覚悟があるならご自由に」

 

「早坂先輩に殺されるなら、それはもう本望かもしれません」

 

「…………」

 

「月城くん、また早坂が引いているわよ」

 

うっかり本音を垂れ流してしまったことに気づいた式は、かぐやの忠告を受け口元に手を添えた。

 

「死ぬほど好きって解釈になりませんかね?」

 

「そんな都合よく解釈すると思いますか? キモイを通り越してきしょいです」

 

「でーすよねー。反省します」

 

まぁ写真入手できたから良し。

 

式は都合よく解釈することで前向きにとらえた。

 

「ところでかぐや様、少々やりすぎではないでしょうか。本家にはどのように言い訳をするつもりで?」

 

二時間と少しすれば日付が変わる時間帯にも関わらず後輩を自室に上げる。

 

いくらなんでも目に余る行為だと早坂は感じたのだろう。

 

しかしかぐやは、生徒会の仕事の延長だとの一点張り。

 

しまいには、「たかだか学校の催し如きで、四宮家の看板に泥を塗るわけにはいかない」などと正当性を主張し、結局早坂が折れる羽目に。

 

「ええと、それで本題はなんですか?」

 

頃合いを見てから式が要件を尋ねた。

 

「会長からね、明日の連絡が来ないのよ」

 

「そうですか。それで?」

 

「だから会長から連絡がこないの!」

 

「……あぁ、なるほど」

 

念を押すように繰り返されて、ようやくかぐやの悩みを把握する。

 

先日のライン交換騒動を経験していたので、自分でもビックリするほど飲み込むのが早かった。

 

スマホを数回タップしてラインを開き、無料通話を繋ぐ。

 

ワンコールで出た。

 

「夜遅くにすいません。今って大丈夫ですか?」

 

『って月城か。ああ、大丈夫だぞ』

 

もしやこの人、スマホの前で待機していたわけじゃあるまいな。

 

余計な詮索をしたい気持ちもあったが、単刀直入に切り出す。

 

「明日の予定って決まりました?」

 

言葉に詰まったような音が受話口から漏れた。

 

「してないなら早急にお願いします」

 

『ちょっと待て。俺からじゃないとダメなのか?』

 

「そりゃあそうでしょう。いちいちかぐや先輩を経由するのもくどいですし」

 

『いや、だが何でもかんでも男からってのは前時代的ではないか?』

 

「ジェンダー論とかそこらへんの議論は今はクソほどどうでもいいので、さっさとお願いします」

 

『まあ落ち着け月城よ。俺はこれから明日の授業の予習をしなければならん。学年1位の座を不動のものにするには、どうもスマートフォンが手元にあると気が散ってな。二時間ほど電源を切っておこうかと思うのだが、四宮の奴が明日の予定をどうしても電話で立てたいと思ってるなら、ラインのメッセージ通知を切るだけにとどめてやらんでもない』

 

明日の予習……明日は休日のはずだ。 

 

買い出しの後で授業受けに学校に行くつもりかな?

 

天才は失言を追及しても楽しそうだったが、はよ連絡して欲しい気持ちのが強い。

 

「……じゃあ明日の12時に渋谷のハチ公前にある謎の電車の前に集合でいいですね。かぐや先輩にも同じように伝えておきますので」

 

『それだと聞き間違えるかもしれないだろ。俺と四宮の意思の合致が求められているのであって、そこに月城を介してしまえば………』

 

うだうだと捲し立てる白銀に対して、とうとう式の我慢の限界が訪れた。

 

ブロント語に変換すると、式の怒りが有頂天になった。

 

「あ゛?」

心の奥底から捻り出した怒気混じりで濁点のついた「あ」。

 

その一言で白銀も異変を感じ取ったようだ。

慌てて言葉を紡ぐ。

 

「仕方がない。生徒会役員を行事に巻き込むのも生徒会長の務めだしな」

 

仕方がないはこちらのセリフだと思うが、この際最早どうだっていい。

 

「電話してからメールを送ってください。恐らくかぐや先輩も起きてますので、電話は直ぐしてくださいよ」

 

白銀の気が変わる前に通話を切る。

 

疲れた。

 

いちいち理由付けしないと動けない病気なのかあの人は。

 

「多分白銀会長から電話が来ますよ」

 

はあと息を吐いてから、かぐやと早坂に向き直る。

 

「100点……、いえ花丸もつけて150点をあげちゃうわ!」

 

サムズアップで応えるかぐやからの評価は爆上がり中だ。

 

ともあれ、これで一件落着か。

 

白銀も無事言いつけを守ったようで、机の上に置かれていたかぐやの携帯が震え出す。

 

慌ててかぐやが携帯を手に取ると、少し間を起いて深呼吸を挟み、応答ボタンを押した。

 

「はい、四宮です」

 

緊張しているからか、若干声質が固い。

 

高校では近寄りがたい存在として扱われているかぐやだが案外そうでもない。

 

端から見ていれば、そこにいるのは格式高い四宮家の長女ではなく、何の変哲もない普通の女の子だ。

 

「ええ、はい。おやすみなさい」

 

そんなこんなで愛しき白銀との通話が終わる。

 

幾分さっぱりとした表情のかぐやが携帯を折りたたむと、その勢いでベッドにダイブ。

 

おやすみを言い合ったからなのか、足をバタバタとして悶える淑女にあるまじき行為で感情表現している。

 

余韻に浸っているとこと申し訳ないが、式は口を挟まなければならぬことがあった。

 

「かぐや先輩、明日の予定は?」

 

「……忘れていたわっ!」

 

じたばた運動をやめて、顔をうずめていた枕を放り投げてこちらを見た。

 

「くっ、会長の計略にまんまと引っかかってしまったわ。雑談を長引かせることで本題から意識を遠ざけたのね。大変よ月城くん、このままだと対応が後手に回ってしまってしまうわ。ここで無暗に折り返えせば、私が明日の買い出しをとっても楽しみにしていると思われちゃうじゃない!」

 

また始まった。

 

白銀のほうもただの雑談で満足してしまっただけだと考えられるが、その通りに伝えても主張は曲げてはくれないのがツンデレの生態。

 

「いえ、むしろかぐや先輩が待ち受けるのは悪手になります」

 

「わけを教えなさい」

 

「簡潔に答えますと、文通理論です」

 

「文通、理論っ!?」

 

「はい。今は白銀会長が勇気を出して手紙を送ったのに、かぐや先輩は受け取ったままで返していない状況です。返事もしていないのに、また相手からの手紙を待ちわびていては発展しませんよね。それどころか礼儀のない女だと見切りをつけられるかもしれません」

 

「確かに、業突く張りで品のない人ならば百年の恋も冷めるわね」

 

「だから一発ズドンとかましましょう。恐らく白銀会長もレスポンスは遅いと読んでいるはずです」

 

「裏を突くのね」

 

「プラスアルファで堂々と、という要素を加えましょう。心には一寸の迷いもブレもなく、人として当然の行いをしているまでよって感じで。なんたって生徒会の仕事の一貫なんですから。疚しいことがあるはずありません」

 

「わかった! やるわ!」

 

最初から事務的なものと認識させれば早く片付いてそうだ。

今更ではあるが。

 

「申し訳ありません。我が主がポンのコツで」

早坂が額に手を当てて本当に申し訳無さそうに謝罪してくる。

 

「あー、あれですよ。多少抜けているほうが可愛いげがあると言いますか、親近感が湧くので大丈夫です」

 

無理矢理感満載なカバーをしつつ、文通もとい通話が終わるのを静かに待った。

 




ヒロイン候補④ ハーサカ(お別れエンド)
役職:約束された勝利のヒロイン

言わずとしれた世界崩壊級の美少女。
現時点では月城くんへの好感度は高くない。

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