Re: 早坂愛を落としたい   作:ソロモンよ私は以下略

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プロローグ3

その日は雲一つ浮かんでいない快晴であった。

 

馬鹿と煙は高いところが好きだとよく言われるが、お昼休みに屋上にいる鬼才四宮かぐやにはその故事は通用しない。

 

学業成績は秀才が集う秀知院で堂々の学年二位。

かぐやが馬鹿認定されてしまえば、この世の大多数の人間も馬鹿となる。

 

いつもは教室か生徒会室で昼食をとるところを、わざわざ屋上でシートを広げている理由は単なる気まぐれであった。

 

かぐやの昼食は毎日出来立ての状態で自宅より配達され、ここ屋上で待ち合わせている専属近侍の早坂から届けられる。

 

そしてたまには一緒に昼食をとかぐやが誘えば、他の人の目がないならと早坂もそのワガママを受け入れることに。

 

屋上の立ち入りは禁止されているので密かに合鍵を作製した者でなければここには上がってこれず、普段は他人で通している関係が公になることもない。

 

「そろそろ付き合ってほしいんですけど」

麗しき蝶の宴に蛾が一匹迷い込んだ。

その蛾の名は月城式。

 

顔を見せるや否や開口一番にその一言だ。

 

なんだこいつ。

早坂は素でそう思った。

 

「無理です」

ギャルverとは異なる固い口調で、早坂は告白を真正面から一刀両断した。

 

かぐやにとっては見慣れた光景。

許可もなく二年の教室に侵入し、早坂の元へ向かう式の姿は何度目にしたことか。

 

早坂も早坂で、級友の前では軽い調子で適当に受け流すだけだったが、周囲の目につかないこの時ばかりは、はっきりと断っている。

 

あっけなく振られたというのに、特に表情の変化がない式は早坂を見つめている。

 

「そもそもこの姿は秀知院に潜入するための仮の姿。本当の私ではありません」

だから諦めろと。

 

中身のない案山子に恋愛感情を抱くのが間違っているのだと、早坂は言いたいのだろう。

 

かぐやは大人しくやり取りを見守る。

ちょっとやそっとで式が退かないのは、彼が入学してからの数週間で体験済みである。

 

口を挟むべからずと心に打ち込んでいるはずだった。

 

「イデアとか霊魂ごと惚れているので大丈夫です。安心安全の保証付きです」

 

「それはいくら早坂でも引くわよ」

 

次の式の一言が明らかに予想の斜め上をいっていたので、思わず口を出してしまう。

 

「……」

冷ややかな視線を浴びせる早坂は無言でドン引きしていた。

 

「ほら見なさい。ただでさえ低い好感度が大暴落中よ」

 

「う〜ん、意外とうぶ?」

 

「違うわよ。貴方の愛が異様に重いの」

 

先が思いやられる展開にかぐやは深々とため息をつく。

どちらかと言えば式の味方でいるかぐや。

 

そうなった経緯はまた別の話になるが、このままでは「好きです」「無理です」の平行線になりそうな予感がして気が気でならない。

 

七つの頃から正式に四宮家に仕えている早坂も、かぐやの世話や無理難題にこたえる従者としての教養を身に着けること等に時間を割き、恋愛慣れしていない恋愛初心者。

 

ただの恋愛初心者なら場合によってはチョロインと化す事態もしばしば見受けられるが、対象が対象なだけに早坂の攻略は険しい道だ。

 

とはいえ、大切な家族と可愛い後輩のやり取りを必然的に近くで見物しなければならないかぐやの心中は穏やかではない。

 

長い時間を費やしてまで、かぐやが叶えようとしている悲願。

 

告白。

 

白銀の口を割ろうとしているかぐやにとっては、早坂の立ち位置は羨ましいと同時に恨めしくもあった。

特に努力もしていないのに、超ストレートなアプローチを飽きるほど受けているのだ。

 

嫉妬心がかぐやを煽る。

 

「早坂もそろそろ折れたらどうかしら。あなた達みたいなギャルという生き物は、誰でもいいからとりあえずキープを作る習性があるのでしょう」

 

「かぐや様は今、全国のギャルを敵に回しましたよ」

 

「楽して後輩に言い寄られていいご身分よね早坂は。どんな手回しをしても成功しない私の気持ちを考えたことはないの?」

 

「かぐや様は主の我が儘を……」

 

早坂愛。

これまで数々の裏工作に、半強制的に参加し、無茶な要求であっても完璧に遂行している。

 

無理矢理付き合わされている私の気持ちは考えたりしないのですか?

積年の思いが出かかった早坂だったが、すんでのところで引っ込めた。

 

立場上かぐやの下につく早坂であるが、私生活ではかぐやのお姉さんポジションを確立している。

 

妹を許すのが姉の役目。

優しく諭す方向へと変更した。

 

「なんならかぐや様も月城くんから告白されていましたよね。それと同じですよ」

 

「同じじゃない!」

 

「えっ……」

 

「全然同じじゃない!」

 

両の拳をこれでもかと言わんばかりに握りしめて、かぐやは心より訴える。

これにはさしもの早坂も動揺を隠せなかった。

 

「同じですよね?」

 

相違点に気付かない早坂は困惑した様子で直接式に尋ねた。

 

「分かんねえっす」

 

「とてつもなく使えませんね」

 

「使えますよ。スマブラ64でいうとタイマンのピカチュウ並に使えます」

 

「全く意味が分からないのですが」

 

「スマブラDXでいうなら絶を完璧に使いこなしたマルス並に使えます」

 

「ですから全く意味が分かりません」

 

「スマブラXでいうなら……」

 

「もうそれ以上はいいです」

 

「………初代ポケモンでいうなら」

 

「もういいと言いましたよね? もしかして喧嘩売っていますか?」

 

会話するごとにIQが低下しそうな相手に早坂は思わずキレかけた。

スマブラだろうがポケモンだろうが、深い部分の話題を持ってこられたら、にわかには通じないのだ。

 

「分かりました。ふざけるのはやめにするので、そのかわりに付き合ってください」

 

現在進行形でふざけている男だった。

早坂は初めて同年代の異性を個人的な理由で殴りたい気持ちが浮上した。

が、拳に力を込めるだけに留めた。

 

「よくこの流れで付き合う云々に繋げようとしましたね」

 

「浮気とか他の女に現を抜かすなんて絶対にしませんので」

 

「これほど説得力に欠ける言葉がありますか?かぐや様の『会長のことは好きじゃない』に匹敵しますよ」

 

荒ぶっているかぐやに、更に燃料を投下する早坂の性格の悪さが滲み出た瞬間だった。

 

「事実無根の主張をしないで。私が会長を好き、なのではなくて、会長が私を好きなのよ」

 

全力でかぐやは否定するも、高度なやり取りを外側から観戦している者にとってはお互いが好意を抱いているのは丸わかりだ。

 

式なんて生徒会室に入り浸るようになってから僅か数日で察してしまった。

 

例外としてアホの藤原と、ソファの角をを駆使した殺人術で殺されかけた石上は恐怖心のあまり気付いていないが、一般生徒にも二人の関係を噂するものは少なくはない。

 

「私の話は二の次でいいのよ。今は早坂たちの恋愛模様のほうが重要ではなくて」

 

「ですがかぐや様。毎日毎日言い寄られる私の身にもなってください。正直、私の中での彼の株は上がる見込みがありません」

 

早坂の言い分も尤もだ。

三顧の礼じゃあ足りないほどの接触を繰り返されたら、次第に不信感を抱くのは至極当然だ。

 

まるで同伴を迫るために職場まで追いかけてくるホスト。

 

かぐやの件で金の匂いに引き寄せられた旨は既に式は自白している。

 

でありながら適度な距離感を保てているのは、あまりかぐやが出くわしたことのないタイプの人間だった故、お気に入りリストに登録されたのが今日までの経緯である。

 

早坂からの評価も変ではあるが、悪人ではないというもので嫌われてはいなかった。

がしかし、方針変更して早坂に狙いを定めてからは一転する。

 

黙っていたほうが早坂の好感度ゲージは上昇するレベルのウザ絡み。

日に日に胡散臭い男として見られるようになっていた。

 

「それもそうね。月城くん、猪突猛進アタックはもうこれっきりにしなさい。本格的に嫌われてからでは遅いわよ」

 

式の恋愛音痴を治すのが先決と判断したかぐやが改善を促した。

 

「かぐや先輩がそう言うのであれば従いますが、でしたら見返りとして連絡先を聞いてもいいですか?」

 

「無理です」

 

ここぞとばかりの提案を持ちかけるも、容赦ない早坂は要求を一蹴する。

 

「そうですか。なら今日は諦めます」

鉄壁の要塞に為す術のない式は、最後に一礼して踵を返した。

 

恋を成就させるには『押し』と『引き』のテクニックを駆使するのが良いとされている。

時には押して、時には引くことで対象の気持ちを揺さぶらせる駆け引きは、前提として脈アリ状態でなければ成立しない。

 

であれば式があっさり食い下がったことで、早坂の心に曇りが生まれるなど断じてなかった。

 

「随分彼の肩を持っているようですが、また何か悪巧みを考えておいでですか」

 

「悪巧みだなんて人聞きが悪い。私はただ迷える子羊に救いの手を差し伸べてあげているだけよ。早坂はいつも勘繰り過ぎよ」

かぐやはあくまで白を切る。

そんな姿を見かねた早坂の目は一層鋭さを増した。

 

天下の四宮財閥ならば、いかなる罰を与えることも可能なはずなのに、あろうことか式を生徒会へ推薦したのだ。

 

始めは数ヵ月にも及んだ戦に終止符を打つために式を利用するのかとも早坂は考えたが、篭絡されたわけではなさそうなので、別の思惑があると予想している。

 

「ほら、いつまでも立っていないで早く座りなさい。折角早坂が届けたくれたお弁当が冷めてしまうわ」

 

軽くシートを叩かれたことで、追及の機会を逃した渋々命に従う。

この時初めて、早坂はかぐやと式が連絡先を交換している事を知るのだった。

 

 

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