Re: 早坂愛を落としたい 作:ソロモンよ私は以下略
ぼっち飯。
それは孤独に耐えながら食事をすることを意味する。
良くも悪くも自由な大学ならいざ知らず、学外への脱出という選択肢が用意されていない高校でのぼっち飯は、いかに人目につかない場所を確保するかが壁として立ちふさがる。
場所はしんと静まり返った生徒会室。
周りを気にせずに昼休みを丸々潰せる最強の空間で、式はぼっちで昼食をとっていた。
今までは昼休みに早坂のもとへアポなし訪問に出かけることが多かった式も、窘められたことで地に足つけた活動へと方針を変え、無闇矢鱈な接触は控えるようになってきていた。
そのため特にすることがない式は、ただ無心でサンドイッチを口に運ぶマシーンへと化していると、突然生徒会室の扉が開く。
「おっと、月城か。石上と一緒ではないとは珍しいな」
入ってきたのは白銀御幸だった。
白銀は先客を確認すると、友人の石上の不在に思うところがあったようだ。
「優ならマックを食べたい衝動に駆られて駅前に向かいました」
式がぼっち飯に至った理由はそんなところだ。
教室から出て行った石上の背後を、真面目ちゃんの伊井野がつけていく姿を発見したので、きっと今頃は校舎裏辺りで白熱した鬼ごっこが展開されていることだろう。
特にこちらから連絡は入れていないが、元陸上部で短距離専門の石上が捕まることはないと思われる。
「そうか。ほどほどにしておけよ」
規律を破っているのに白銀からのお咎めはない。
彼も規則にがちがちに縛られた人間ではなく、生徒会室に石上が持参したテレビゲームで遊ぶ程度には緩い会長であるからだ。
話は戻り、昼休みに役員が生徒会室に集まるのは日常茶飯事だ。
激務で有名な生徒会長ともあれば、食事の片手間に事務作業を進めなければ終わらない日もあったり。
だがこの日の白銀は別の理由により、生徒会室に足を運んでいる。
その理由とは、白銀に続いて入室した同行者にある。
第一印象は地味。
例えるならば、薬物依存サイクルについての画像に登場する少年のような外見の男だ。
室内履きの色から二年であることが伺える。
「じゃあ自分はこれで」
訳ありな雰囲気を感じ取り、空気を読もうと式が立ち上れば、静止の声をかけたのは男子生徒であった。
「あ、大した用じゃないし君もいてくれていいから」
何が何だかといった表情の式は白銀に目配せをする。
白銀も同席を促したのには予想外だったようで、神妙な面持ちで男子生徒に振り返る。
「月城もいいのか?」
「はい。構いません」
力強い肯定。
全く状況がつかめていない式は、良く分からないまま男の集会に参加することになった。
意中のあの子と付き合う方法。
それが今回の議題である。
恋に悩める少年、名前がないといささか不便なのでここでは『翼くん』と命名しよう。
彼はクラスに気になる女子がいて、先日告白を決意したという。
決意するまでは良かったが、いざ決行となると断られた場合のことが頭を過ってしまい、あと一歩が踏み出せず困っている。
そこで恋愛においては百戦錬磨の実力を持つ、なんて噂が一人歩きしている白銀にアドバイスを頂こうと行動し、現在に至る。
人の恋路を応援するよりも自らの恋を成就するべき式も成り行きで参加している。
「ちなみにその子と接点はあるのか?」
「バレンタインチョコを貰いました!」
「ほう、それはどんなチョコだ?」
恋愛イベント筆頭候補のバレンタインデー。
当日の朝から全国の男子高校生諸君は期待に胸を膨らませ登校し、一部は悲しい現実に打ちひしがれる。
バレンタインでチョコを貰う仲であれば、そこそこの関係は形成されている裏付けとなる。
手作りチョコであればなお良し。
切り出した白銀も楽に乗り切れると安堵の表情を浮かべていた。
「チョコボール、三粒です……これって義理ですかね」
義理の範疇に含まれるのかすら怪しい返答だ。
登校中に買ったチョコボールをお情けで恵んだ可能性も大いにある。
「あーうん、それはもう。間違いなく惚れてるな」
「えっ……」
まさかの返しに式は目を丸くした。
そして気付いてしまう。
極めて面倒くさい恋愛合戦を繰り広げている白銀から真っ当な意見が出るはずもないことを。
「いいか。女ってのは素直じゃない生き物なんだ。常に真逆の行動を取ると考えろ。つまり一見義理に見えるそのチョコも――」
「もしや逆に本命!?」
「然り。義理の義とは即ちの偽りの偽。つまり偽の逆の真こそが彼女の心の表れなのだろう」
白銀はトンデモ理論で言いくるめることに成功した。
「だけど彼女にその気なんてないんだと思います。こないだも――」
トンデモ理論を否定した翼くんは、彼女の不在を意中のあの子に茶化されてしまった出来事を話し始めた。
以下翼くんの回想
『えーマジ年齢=彼女無し!?』
『キモーイ』
『恋人いたことないのが許されるのは小学生までだよねー』
『キャハハハハハ』
回想終了
「っていうことがありまして、からかわれたんだと……」
友人の間で話のネタにもされてしまったらしく、式もその予想に同意するが、白銀の暴走が止まることはなかった。
「俺は言ったはずだぞ。女は素直ではないとな。友人たちの前であえてからかうような発言をしたのは真意を包み隠すためだ。何故だか分かるか?」
「いえ、分かりません」
「多分そういう協定があるのだろう。コミュニティ内に属する彼女らは、同じ人を好きになってしまった。ガールズトークで盛り上がり、一人一人が気になる人を白状したら、偶然一致した、とかでな」
「な、何ですと。だとするならみんなが僕を……」
「ああ。お前はモテ期に突入したんだ」
常識をかなぐり捨てて都合の良い方へと解釈することで導き出された翼くんモテ期疑惑。
翼くんが語った回想から、どう展開すればモテ期まで辿り着くのかが式には全く理解できていない。
「だが彼女はバレンタインでチョコボールを渡した。手作りを渡せば協定に反することになるが、彼女は抜け道を思いついた。それこそが真逆の行動を取る女の習性と義は偽の法則の合わせ技だ。偽のチョコを渡すことで真のチョコという意図に気づいてほしい、そんな想いがきっと込められていたはずだ」
「……まさか柏木さんがそこまでして想いを伝えようとしていただなんて。たったそれだけの情報で確信に近い部分まで読み取ってしまうとは。流石です会長。恋愛マスターの異名は伊達ではありませんね」
「あの、盛り上がっているところ悪いんですけど、からかわれていただけだと思います」
少々ズレてはいるものの、恋愛に関しては白銀やかぐやのような天才(笑)よりかは幾分マシな式は、とうとうそこで聞くに堪えない盛り上がりに横やりを入れた。
「会長の想像は別次元の話であって、一般的にな話ではありません。なのでこれまでの内容は無かったことにしてください」
「そんな!なら会長が恋愛マスター、略して恋マスというのは真っ赤な嘘……」
出鱈目を吹き込まれていた衝撃の事実に翼くんは絶句する。
同時に会長としての尊厳が損なわれる窮地に陥った白銀も絶句する。
「いえ。単に普通よりも上位次元の恋愛をしているのであって、天界とかでは会長の実力があってようやく神々との恋愛合戦に混じることができるようになるんです」
自分でも訳が分からなくなってきている式であるが、先輩のピンチにすかさずフォローを入れる。
「月城、お前……」
後輩の鏡っぷりに白銀からの好感度が1上昇した。
「す、凄い……。会長は人の身でありながら人智を超えた恋愛論を唱えてしまったのですね」
頭が非常に悪いのか、彼も何故か納得してしまう。
結局議論は振り出しに戻った。
「それで僕はどうするのが一番なんでしょうか。あんまり接点がないってことは断られる確率のほうが高そうだし、やっぱりまだ早いですかね」
冷静に振り返りを行った後、翼くんは告白するには時期尚早だとして、計画中止に気持ちが傾いていた。
あまり話したことのない相手への片思いほど実りにくいものはなく、まずはお近づきの機会を見計らうのが、恐らく定石ではなかろうか。
メインアドバイサーが変更し、式のターンとなる。
が、白銀と比較するとマシなだけで、式も式でぶっ飛んでいる。
式はパワプロのサクセスで恋人を作る際、告白の選択肢があれば初デートであろうがカーソルを『告白する』へ持っていく男だ。
「とりあえず告りましょうか」
「月城っ!?告白はとりあえずでしていいものじゃないだろ!」
モテないはずがない秀知院学園生徒会長の肩書きを保有しているも、かぐやの尻を追いかけることに必死で変に拗らせたモンスター童貞の白銀は、死地に送り出そうとする式に待ったをかけた。
「お前はどうしてそう段階をすっ飛ばして結論を出すんだ。もっと過程を大事にしてだな」
その隣に座る翼くんも同意するように頷いている。
「恋愛は何時だってスピード勝負です。後々後悔しないためには、善は急げを掲げるほかありません」
後悔した者は負け犬滑り台行きとなる残酷な世界だ。
勝ち残りたいのであれば見つけ次第即告れ、が式のモットーである。
「それに告白と言っても交際を迫る必要はありません。一応これも独自理論になりますが、告白は大別して二つに分類できると考えています」
一旦区切り、式は人差し指と中指を立てた。
相談者ではない白銀がノートを取り出し、ここぞとばかりにメモの用意を始めたが式はあえてスルーした。
「一つは交際目的。告白と聞けば誰しもが思い浮かぶお付き合いの申し込みですが、先輩に勧めているのは二つ目の単純に惹かれている旨を伝える告白です。好意を認識させてしまえば、嫌でも意識します。認識レベルをただのクラスメートから引き上げることができれば……」
「彼女は僕に夢中になる、と」
「なりません」
あらぬ妄想を抱いてしまった翼くんに、式はすかさず突っ込みをいれた。
「その段階でようやくスタートラインになるのではないでしょうか。そこから本腰を入れて、身嗜みを整えるとか」
翼くんはそこらのモブに引けをとらない外見をしている。
周辺の高校と比較しても大分緩い校風でありながら、洒落っ気が全く感じられない中学生のような意識でいるのは少々不味いのではないだろうか。
「最低限ワックスとか使ってみたらいかがです?」
「なるほど、想い人のために変わろうとする僕を見て、『あっ、この人、私のために……』って感じでときめかせる作戦ですか。これはもう彼女の心は僕の手中にあるといっても過言ではありませんね」
勇気が出ずアドバイスを求めるような小心者なのに、謎の超ポジティブ思考を発揮する翼くん。
もはや突っ込みを入れるのが億劫になってきていた式は華麗に流し、白銀へバトンをパスした。
「最後に白銀会長からは何かありますか。低次元のアドバイスでお願いします」
「つまり月城の理論では、二度目の告白で仕留めるのだな」
「仕留めるって表現は物騒ですが、そうなりますね」
「ならば俺からは、本気で口説きにかかるときの為に、長年の歳月をかけて編み出した奥義を伝授するとしよう」
自信満々に立ち上がった白銀は壁際へと歩み寄る。
「ここに件の女がいたとして、それをこう!」
すると何を思ったのか、片手を壁にドンッと押し付ける、所謂壁ドンを披露して見せた。
「この体勢で強気に囁くことで、男らしさをアピールすると同時に、突然の急接近で告白を受ける側を動揺させ、逆にイニシアティヴを握る最強の技だ。ちなみに俺はこの技を『壁ダァン』と名付けた」
と白銀が豪語すれば、本場の『壁ドン』を知らぬ翼くんは「おぉ……」と感嘆の声を漏らすのであった。
全国模試では上級生すら抑え次点、学内では頂点に君臨する白銀もまた、かぐやと同じ勉強ができるタイプのアホ。
どこまでもある意味お似合いな二人である。
「お二人の策があれば最早敵なしですね! 何だかいけそうな気がします! ちょっと今から一発柏木さんにかましてきます!」
言わずもがな白銀だけではく、受験で狭き門を突破した式も、The普通の翼くんも、世に送り出せば平凡ではなく優秀な人材であることに疑いようもない。
三人寄ればなんとやらとあるように彼らが、しかも優秀な三人が集まれば確実にターゲットを落とす作戦など軽く立てられるはずだ。
ただし彼らが恋愛方面でも優秀かは未知数だ。
変に回りくどいことをせず、正面突破を試みれば限りなく99%以上の成功確率が保証されているにも関わらず、手間をかけ、何重にも策を張り巡らせてかぐや攻略を成し遂げようとするも、半年以上進展すらないアホの白銀と、するかしないかの二択で物事を考え、入学したての一年ならば畏れ多く近寄ることさえも憚られる四宮かぐやへ無謀な試みを繰り返した猪突猛進野郎の式が、特徴がないのが特徴の大山と肩を張る程度には地味な翼くんのバックについたことで、どのような相乗効果を生むことやら。
勢いよく生徒会室を飛び出していった翼くんの運命は神のみぞ知る。
後日、結果報告の為に翼くんは生徒会室に訪れた。
「いや~、なんかいざ本番になるとテンパってしまって奥の手の『壁ダァン』を使ってしまったんですけど、奇跡的に上手くいってOKもらっちゃいました!」
予想だにしない結末を迎えた。
まさか壁ドンなんかに引っかかる女が実在するわけがないと決めつけていた式には、衝撃的な結果だった。
もしや早坂も壁ドンが弱点なのではないかと、式も実践してみることに。
「邪魔です」と言われた。
ヒロイン候補① かぐや様(破滅エンド)
役職:ポンコツ腹黒大和撫子
秀知院が誇る最強のアントレプレナー。
息を吐くようにマクロフレーションを連発できる財力を持つため、入学当初月城君にストーキングされる。
その後何やかんやあり、四宮一族だとしてもあまり特別視しない月城君をお気に入り登録する。
この作品では原作以上にまっくろくろすけ。
最近妹と弟が欲しい年頃。