Re: 早坂愛を落としたい   作:ソロモンよ私は以下略

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藤原、セコいってよ

「伝統ある秀知院の生徒としての自覚が足りません! 人前であんな、物乞いじゃないんですから!」

またもや舞台はお昼時の生徒会室。

この日は石上を除く生徒会メンバーが集結しており、肩を震わせているかぐやが突如そのように口にした。

 

珍しく声を荒げている。

 

石上は「急にバーガーキングが食べたくなった」と言い残して走り去ったので、今回も不参加である。

 

「このお怒りモードは一体?」

 

二年組より一足早く到着していた式は、珍しく声を荒げているかぐやへ様子に疑問符を浮かべ、揃って入室してきた白銀に尋ねた。

 

「中庭でな、カップルの食べさせ合いを目撃してこの荒れ具合だ」

 

テーブルマナーに厳しいかぐやには、一見微笑ましく思えるやり取りも不作法にうつる。

 

一般人には気にもかからない光景。

かぐやが真のお嬢様だからこそ取り上げられる問題だ。

 

「全く、風紀委員は取り締まりを強化すべきです! 学外で醜態を晒してからでは遅いんですよ!」

 

「そう言ってやるな四宮。一度きりしかない高校生活、少しくらいは羽目を外してもいいんじゃないか」

 

ソファにかけても、かぐやの怒りは一向に収まる気配はない。

白銀が宥めても効果がないのなら、自分の出る幕はないと式はサンドイッチを口に運び続ける。

 

早起きが苦手な式は、基本昼食をコンビニで済ませるタイプの人間である。

 

「あれ、会長は今日お弁当なんですか?」

 

遅れてやってきた白銀たちもそれぞれが食事の準備をする中、藤原がいち早く反応した。

紅葉柄の包みから現れた四角いお弁当箱の存在に。

 

「田舎のじい様が大量に野菜を送ってくれてな。今日からウチはお手製弁当週間に突入したんだ。まあ、人に見せられる出来ではないが」

 

無意識のうちに家庭的な男をアピールする白銀は弁当箱の蓋を取る。

煮物、ウインナー、だし巻き卵、ハンバーグ。

 

式は小学校の遠足で母親に与えられたお弁当を懐かしむ。

 

かぐやは好きな食べ物を詰め込んだ理想のお弁当に目を奪われる。

 

同時に、かぐやの中では都市伝説であったタコさんウィンナーが愛らしく思えてしまう。

 

が、先ほどああ言ってしまった手前、頭に過ったタコさんウィンナーをおかず交換でゲットする作戦は放棄せざるを得ない。

 

小刻みに震えるかぐやを目の端で捉える式は、謙遜された弁当の出来に唸る。

 

「上手ですね」

 

「あれれ~。月城くん知らないんですか。会長って見かけによらず料理得意なんですよ」

 

「藤原先輩が自慢することではないと思います」

 

料理だけではなく、一通りの家事スキルを白銀は身に着けてなければならない環境で育った。

 

父と妹の三人暮らし。

 

母親が不在であるからこそ、時として母親の代わりとして家庭を支えなければならない。

 

日々鍛えている料理の腕は一級品。

 

「かいちょーかいちょー!一口ください!」

 

「ああ、構わんぞ。ではこのハンバーグをやろう」

 

「わーい。ありがとうございます!」

 

凄まじい天然の藤原が犬のようにおねだりをすれば、爪楊枝に刺さった手作りハンバーグを白銀が差し出す。

 

そしてそのままパクリと、かぐやが毛嫌いしている食べさせ合いが発生した。

 

式は座る位置を僅かにずらす。

 

隣のかぐやから放出される負のオーラに身の危険を感じ、物理的に距離を置いたのだ。

 

「月城くん、釘とか持っていないかしら……」

 

「すみません。持ってないです」

 

仮に釘が手に入った場合の使い道に興味が湧くも、式は今のかぐやを極力視界から外しておくことに。

 

オーラで目を焼かれてしまってはされてはたまったものではない。

 

「うわぁ!とっても美味しいです会長!」

 

「ふっ、そうだろ。ちなみにこちらのだし巻き卵もかなりイケるぞ。ほれ、食べてみろ」

 

味を絶賛され白銀は上機嫌。

 

今度は自信作のだし巻き卵を箸で挟み、瞳を爛々と輝かせる藤原に与えることで発生したのはなんと間接キス。

 

恋愛においては心理戦で活用されやすい間接キスであるが、白銀と藤原は互いに恋愛感情を抱いていない異性の友人同士。

 

抵抗感などあるはずもなかった。

 

「月城くん、縄とか持っていないかしら……」

 

「すみません。持っていないです」

 

「そう。なら呪うしかないようね」

 

黒化が進行するかぐやの瞳から遂にハイライトが消える。

 

おっかない宣告を真横でされながらも、平和な休憩時間を守ろうと我関せずを徹底する。

 

盛り上がる白銀と藤原。

 

日本古来の呪詛を唱えるかぐや。

 

無心でサンドイッチを頬張る式。

 

調和もくそもないカオスな世界が生徒会室には広がっていた。

 

「知ってますか月城くん。女子の間では最近料理系男子が人気なんですよ。ですから月城くんもまずは胃袋から攻めてみるのはいかがでしょう」

 

にやつく藤原、空気と化していた式へ不意に話を振った。

 

呪いが感染するのを防ぐために関わらないで頂きたいと祈っていた式も、流石に無視するわけにはいかない。

 

頭がお花畑だったとしても、一応藤原は先輩なのだから。

 

「白銀会長やかぐや先輩には劣りますが、これでもそこそこの鍛えられているので大丈夫です」

 

中学に入り習い事をやめたのをきっかけに、それまで同居していた祖母が担っていた家事を受け継いだ式も、料理の腕はそこそこ自身があった。

 

料理もそうだが、布団のカバー交換の速度を競えば高校生では一番を自負するくらいには家庭的である。

 

得意料理はふわとろオムライス。

早坂の胃袋を掴む用意も既に整っていた。

 

「聞き捨てならないですね。会長とかぐやさんには劣るって、私はどこに行ったんですか!」

 

女としてのプライドに傷をつけられたのか、藤原が騒ぎ立てる。

 

「……それより今日習ったコラッツの問題について質問があるのですが」

 

「話題をすり替えようとしたって、そうはいきませんからね!質問に答えてください!」

 

妙なところに執着される式は心底うんざりするも、表情に出してしまえば更に喧しくなるため平静を装う。

 

どうしようかと、吐息を一つ零す。

 

と、その態度が気に食わない藤原はこう提案するのだった。

 

「舐められたままでは終われません。先輩としての意地と誇りをかけたお料理バトルを月城くんに申し込みます!」

ビシィッと指を突き出して唐突に宣言された。

 

「拒否権を行使してもいいですか」

 

「後輩が先輩に逆らうんじゃありません。先輩のいうことは絶対なのです」

 

理不尽だ。

ただそれに尽きる。

 

現在進行形で呪いをかけているお方とは、違う意味で面倒な藤原から逃れる術は果たしてあるのか。

 

「そう取り乱すな藤原。月城も悪気があったわけではないのだろう」

 

救世主白銀が仲裁に入る。

 

「会長まで私を馬鹿にするんですか!もう我慢なりません、会長にも参加してもらいますからね!」

 

「だから落ち着けって」

 

付き合いが長いだけあり、藤原の扱いには式よりも長けているが消火作業は無念の失敗。

 

更には白銀にまで飛び火する始末。

 

事態沈静化を図るには、中等部からの友人で藤原を最も知るかぐやに縋るのが正解なのだが、頼みの綱は呪術師としての仕事で忙しい。

 

「分かりました、受けて立ちましょう。俺もそれなりに鍛えているので、返り討ちしてあげます。やられる覚悟は出来ていますか?」

 

収束が付きそうもないので、式は諦めて提案に乗ることに。

 

家政婦とか雇っていそうな政治家の娘っ子を実力で黙らせる気満々の式だった。

 

料理教室で磨き上げたこの腕を見せる時がついにやってきた。

 

「先輩の強さ、思い知らせてあげますよ。後で泣いても知りませんからね」

 

対する藤原も自身有りげに胸を張る。

 

そして強キャラ臭を漂わせる口ぶりの藤原により、ルールの説明がなされる。

 

「ルールは単純です。真心込めて作ったお弁当を審査員に食べてもらって優劣をつける。そして今回審査員は手持ち無沙汰なかぐやさんにお願いします」

 

「――っ! ま、まあ藤原さんの頼みとあれば断るわけにはいきませんね」

 

合法的に白銀の弁当にありつけることで、かぐやは友人の大切さを思い出し満面の笑みに。

 

願わくばタコさんウィンナーを実現させるために、かぐやは瞬時に最適解を導き出す。

 

深夜0時からは白銀が勉強のお供にしている、何の変哲もないお悩み相談系ラジオ番組が放送される。

 

そのラジオ局、都合のいいことに四宮グループの傘下企業である。

放送作家を脅すネタも脅迫手帳に記載されている。

 

『乙女座のあなた、ラッキーアイテムはタコさんウィンナーです。今日は主に同い年で黒髪の大和撫子に好かれる予感。でも受け身ではダメ。タコさんウィンナーをあ~んで食べさせてあげれば、きっと彼女もイチコロよ』

 

支離滅裂な、しかも男性限定の内容のカンペを困惑気味にDJが読み上げようが、夢の世界にいるかぐやには一切関係がない。

 

もし反抗して読み上げないなら、その時はクビがはねる。

それが四宮クオリティ。

 

「俺も交ざらなければいけないのか?」

 

「当然です。ちょっと料理上手だからって調子に乗らないでくださいね。上には上がいることを分からせてあげます」

 

「あまり強い言葉は使わないでください。弱く見えますよ」

 

巻き込まれた白銀を含んだ三つ巴の戦い。

勝負の行方や如何に。

 

 

 

 

本日の活動を終えた式は、バイトでもないのに少し遅めの帰宅となった。

意外にも料理勝負に乗り気で、行きつけのスーパーで少々お高い食材をわざわざ購入していたのだ。

 

冷凍食品の盛り合わせで無難にやり過ごす手はルール違反のため使用不可。

 

ただ明日の早起きは決定的なので、ため息を零してから敷居を跨ぐと家内の異変を察知する。

 

眉根を潜める式はすり足でリビングへ。

 

「うにって何点でしたっけ?」

 

「うに1000点。でも点数の低いネタでも連続で食べれば連鎖するから、その見極めがこのゲームのキモだね」

 

「なるへそ」

 

ベロリンガで寿司をべロリとするゲームを大画面で楽しんでいる輩達がリビングを占領していた。

 

スナック菓子の袋やらやら空き缶やらが散らばっているテーブル。

その一角にひっそりと置かれている金属製の灰皿を見つけた。

 

自らの存在を主張するかのように式はリビングの壁をトントンと叩いた。

 

ゲームに熱中していた二人はその音でようやく気が付いたようで、壊れたブリキの人形のようにゆっくりと振り向いた。

 

一人は今風の髪形を整髪料で整え、制服もお洒落かどうかは知らないが、お洒落っぽくみせようと着崩している、ウェーイ系ヤンキーのナリをしている。

 

もう一人は髪の毛がぼさぼさで、上下スウェットのうだつの上がらない格好でNot in Education,Empoloyment or Trainingっぽいナリをしている。

 

「何してん?」

 

無駄に声を荒げたりせず、極めて冷静に式は問いかけた。

 

ただし声音の温度が測れるとするなら絶対零度を下回っている。

 

命の危険を察したのか、顔面蒼白の二人はあわあわと口元に手を当てていた。

 

「違うから!」

 

先に口を開いたのは赤髪のウェーイの方の不審者だった。

中学時代に悪に目覚めた彼は俗に言う不良に分類される。

 

弁明する機会を得ようと必死に言葉を模索しようとするが、その先は続かなかった。

 

式の平手打ちが不良の頬を襲った。

突然の制裁に唖然とする不良。

事態が飲み込めていない彼に式はこう続けた。

 

「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」

 

「それも意味違うから」

 

「俺による福音書だ馬鹿野郎」

 

パァン!

 

今度は逆の手で平手打ちを見舞った。

顔を背けて衝撃を分散させる暇すら与えない、不可避の速攻をまともに受けた彼はその場で崩れ落ちる。

 

「しどい。幼馴染なのにこの扱いはないよ」

 

彼の名は坂本。

名前はまだない。

 

式とは幼稚園からの幼馴染で、中学を卒業しても付き合いが続いている稀少な同級生の一人だ。

 

そんな坂本をシメたことで、お次はニートの方へ向き直る。

 

「しーちゃん今日バイトで遅くなるって……ぶげはっ!」

式の前蹴りが炸裂。

ニートが後方へ吹き飛んだ。

 

その勢いのまま仰向けに倒れるニートの胸ぐらを掴んで無理矢理上半身を起こさせた。

 

「ちょっ、タンマ! 兄ちゃんが全面的に悪かったから!」

 

「悪即斬。この世の悪を背負って死ね」

 

「何それルルーシュみたいでカッコいいかも。兄ちゃんレクイエム、なんちゃってー。 って、腕はそっちの方向には曲がらないいいいい!!!」

 

関節技をキめられている彼は式の兄。

 

最終学歴大卒のニートだ。

決して神様のメモ帳に影響され、ニートに目覚めたわけではないことは先に述べておく。

 

「うぅ……。昔はこんな暴力的じゃなくて優しい子だったのに」

 

「優しいんだが」

 

「嘘はいかんよ」

 

「俺は高瀬舟を読んで思いとどまった」

 

「……うちの弟がマジでサイコパスな件について」

 

命の危険を感じたのか、ニートが全身を震え上がらせた。

 

物理的な制裁を加えたところで、起動していたゲームの電源を落としてから二人に向き直る。

 

我が家は全域禁煙。

物理的な制裁は、その法を破った物への罰だ

 

更に揃って外に追い出して処罰を与えようともしたが、ご近所の目もあるので白紙に。

散らかったリビングを片付けて、換気をするように強い口調で言うと、階段を音を立てて上がり自室へ戻る。

 

着替えてから改めて事情聴取を行うと、ただ晩御飯に招待されたから来ただけだと坂本は答えた。

コンビニで兄と坂本がばったり出会い、今日は式が夕食当番だから誘われたのだと。

 

活動的なニートに式はイラッとした。

 

「食いたいなら食っていけばいいが。坂本、お前の茶碗はコレでいいか?」

 

食器棚から幾何学模様の茶碗を取り出して坂本へ確認を取る。

 

「あっ、それ兄ちゃんのなんだけど」

 

「ならいいか。このセンス悪いやつ使えな」

 

「それ兄ちゃんの茶碗って言ったよね!?」

 

客人用の食器は長い間棚の奥に眠っている。

埃も少し被っているだろう。

 

ならば引っ張り出して軽く洗えば解決と思われるが、わざわざそこまでの手間をかけるべきではないと式は判断した結果、兄の茶碗が犠牲にすることに。

 

次には箸立てにも手を伸ばし、こちらも坂本に確認を取る。

 

「あっ、それも兄のなんだけど」

 

「じゃあこれで」

 

「そろそろ兄ちゃん泣くよ。年甲斐もなく派手に泣くよ」

 

容易に想像できるどんぶりネタ。

 

しかし式も容赦がない。

泣く一歩手前で懇願する兄に対して、マジな舌打ちをしているのだから。

 

本気で泣きつかれたら、それはそれでうざいと考えた式は仕方ないから客人用の食器を取り出した。

 

愛用のエプロンを身に着け、早速洗い物から取り掛かろうとするも、カシャカシャと背後から耳障りなシャッター音。

 

「何?」

 

振り返り、式は不機嫌な態度丸出しで、スマホを構えている坂本を一睨み。

 

式が片手に包丁を握りしめていても臆することなくカシャカシャと続ける。

 

「いや、オレの月城式フォトコレクションに追加しようと」

 

「きしょいわ」

 

身内に厳しいのは、身内が変人ばかりなのが原因の一端なのかもしれない。

 

 

 

 

 

翌日、待ちに待ったお昼休み。

生徒会長の執務机に腰掛ける審査委員長の前に、料理人の三名が並んでいる。

 

毎度の如く石上は不在の中、第一回生徒会ガチンコお料理対決が開催された。

 

「まずは私からです」

腕をまくって気合をあらわにしている主催者藤原がお弁当箱をご開封。

メインの唐揚げを中心に、ゆで玉子やブロッコリー、ミニトマトなどと色合いのバランスも取れたお弁当だ。

 

「おお、藤原も中々やるじゃないか」

「当たり前です。私も淑女の端くれ、唐揚げの一つや二つ揚げることなど造作ありません」

藤原は鼻を鳴らす。

 

「ではかぐやさん、私の愛がたっぷり詰まったこの唐揚げを、あ~ん」

下心を疑わせるような「あ~ん」でかぐやの口元に唐揚げが運ばれる。

高値の花として知られるかぐやに餌付けするという状況に、藤原は興奮を隠しきれずにいた。

 

「あ、あ~ん」

餌付けされる側のかぐやも恥じらいを隠しきない。

人前で、しかも攻略対象の白銀の目線が気になって仕方がなかった。

 

「藤原先輩。ちょっといいですか」

その時、藤原の手を止めたのが式だ。

コンビニで食料を調達することの多い式は見抜く。

 

「これってコンビニ惣菜の唐揚げですよね」

秀知院でもトップクラスの美少女のイチャイチャにより暖まっていた空気が凍り付いた。

 

「いけませんよ月城くん。証拠もないのに相手を陥れる発言をしてしまうのは~」

 

表情を取り繕う藤原。

実は今朝寝坊をしてしまい、大急ぎでコンビニに飛び込み、帰宅後弁当箱に詰め込んだ背景が裏にはある。

財布にも唐揚げとゆで卵を、7:47に買ったという証拠になるレシートが潜んでいる。

 

その他のおかずも全て冷蔵庫でラップに包まれていたものだ。

 

しかし政治家の娘の藤原は乗り切るべく作り笑いを浮かべる。

仏の嘘は方便といい、武士の嘘は武略という。

なら政治家の嘘はと藤原に聞けば、些事と答える。

 

これには父もにっこり。

藤原家の未来は明るい。

 

だがしかし、曲者でなければ入れないのが秀知院の生徒会。

ただで終わるわけがなかった。

 

「じゃあ今からひとっ走りして買ってくるので、比べてみてから審判を下しましょう」

 

チート許すまじ。

 

不正を暴こうと式が財布を片手に走り出そうとすれば、慌てて藤原はストップがかける。

 

「ホームルーム終了後まで学外に出ることは許されていません。風紀委員に怒られますよ」

 

取り締まり規則の『生徒模範の手引き』第二章生活活動の(2)。

 

登校後は午後のHRの時間が終了するまでの間、校外へ出てはならない。

やむを得ない用事で外出する時は、学級担任へ許可を受け、外出届を提出すること。

 

生徒模範の手引きに反する行いをすれば、風紀委員に連行され罰則を受ける。

 

生徒に意味忌み嫌われる風紀委員でも、この短期間で五回ほど反省文を書いている式にとっては恐るるに足らず。

 

「風紀委員に怒られるのには慣れています。藤原先輩の方こそ変な見栄を張っていないで、認めるべきでは?」

 

「認めない。唐揚げ、私揚げた。ゆで卵、私茹でた」

 

「ゆで卵もコンビニのなんですね。行ってきます」

 

「待って待ってぇ!行かないで!」

 

腰にしがみついて懇願する藤原の目には涙が溜まっていた。

それでもなお、恋愛対象外の涙にたじたじになるほど甘くはない式は、畳みかけるように選択を突きつけた。

 

「認めるなら大人しく座ります。認めないなら五限目に遅刻しようが調達してきます」

 

「私が作ったのに何で信じてくれないんですか!この悪魔、鬼!」

 

「売られた喧嘩は買って、倍返しにするのが我が家の家訓ですので」

 

絶体絶命のピンチ。

 

まあからあげくんをチョイスしなかったのは認めよう。

セブンのからあげ棒ならば揚げたものだと擬態できる。

 

抜いた棒の穴をカバーするためにフォークでぶっ刺してかぐやの口に運んだのもポイントが高い。

 

せこい女藤原の爆誕だ。

 

自白するか、嘘を突き通すか。

どちらにせよ謝罪会見を開くのは確定している藤原が選択したのは、三十六計逃げるに如かず。

 

「だって起きれなかったんだもん!月城くんのバカァー!」

鞄を胸に抱き、捨て台詞を残した藤原は脱落した。

 

「あら。でも美味しいですよ。この完成度であれば、自炊をしない方々の力強い味方になりそうですね」

 

放置された弁当箱に残された唐揚げを、かぐやは味見をする。

 

栄養士が毎食の献立を考え、正しい食生活についても厳しく指導を受けているかぐやも、氷が溶けて以降は家法が全てではないことを学ぶ。

 

以前のままであれば、コンビニ産だと知ればゴミ箱にダンクしていたことだろう。

 

「とりあえず放課後に愚痴られても困るので、藤原先輩に謝ってきます」

 

という建前で、式は藤原を追いかける素振りを見せる。

 

実は式も夜な夜な大乱闘していた影響で、アラーム通りに起きれず寝坊をしている。

 

台所に立つ余裕があるはずもなく、弁当を作った風を装って生徒会室へ来ているのだ。

 

朝食も抜いているので、リアルにお腹と背中がくっつきそうで、額には嫌な汗を滲ませている。

 

「つまらぬ言い合いを根に持つ小さい器ではないし、別に気にする必要はないだろう」

 

「まあ意外と姑息な人であっても、先輩は先輩なので敬意は払わねばと思いまして」

 

忘れた旨を素直に告げるのは、昨日大見得切っただけに格好が悪い。

そんな小さなプライドを守るためだけに、その場逃れのもっともらしい言い訳で白銀の許可を得て退室に成功した。

 

廊下に出るや否や石上と合流するためにスマホを掴むと、良きタイミングで着信が届いた。

 

画面には石上優の名が。

 

『もしもし式、今凄いサブウェイ食べたい衝動に駆られてんだけど、呪文の唱え方分からないから助けてくれない』

 

「おーけー。駅前集合な」

 

この後二人でサブウェイ食べた。

おいしかった。

 




ヒロイン候補② 藤原さん(グッドエンド)
役職:秀知院のやべー奴

変人だけど結婚したら幸せな人生歩めそうな女ランキング1位の至高のピアニスト。
この作品では一年組にボコボコにされまくる。
そして時々月城君と赤ちゃん御行君の世話をする。


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