Re: 早坂愛を落としたい 作:ソロモンよ私は以下略
驚きのあまりにパイプ椅子から転げ落ちる式。
藤原千花といえば、将来の政治家候補の先輩。
我が物顔でからあげ棒をお手製と偽った結果、泣きべそかきながら撤退した情けない先輩。
本来は会議で書記が担う仕事が、何故か企画管理の手元に流れてきてしまう先輩。
部室棟の外でやべー連中とやべー遊びをしている秀知院のやべー先輩。
ただいれるコーヒーだけがうまい先輩。
式の藤原に対する評価はかなり低かった。
その藤原が天才ピアニスト、まさにウッソだろ案件だ。
「いやいやいやないないない。あのゆるふわ森ガールみたいな藤原先輩だぞ。生徒会のマスコットがクラシックの世界で勝負出来る人に思えるか? そうだろ大仏」
「ググってみたら?」
藤原千花で検索検索ぅ。
現実を認めたくない式は全知全能のグーグル大先生の知恵をお借りすることに。
検索すると沢山の記事が出ること出ること。
「ほらこれ、昔の藤原先輩じゃない」
横から割り込んできた伊井野が、幼さが残る藤原の写真を発見する。
「ドッペルゲンガー。それか双子」
「本物なんだけど」
受け入れがたい真実。
残念美少女としてのイメージが音を立てて崩れた。
自身も手にした経験のない全国コンクールでの金賞。
申し訳程度に藤原を見直した式だった。
しかし名誉ある賞を手にしながら、現在は謎の部活の一員としてはしゃいでいる姿を見るに、第一線からは身を引いたというわけだ。
切り上げるタイミングは個人的にはベストだと思う。
物心つく前から数年間打ち込んで、適当な賞をかっさらって成功体験を身につけやめていく。
自身が秀知院に入学できたのもその要因が大きく影響していて、藤原も同類だとするならスイッチが入ればかなりのスペックを発揮するだろう。
「それはそうとミコちゃん」
話が一段落ついた。
かと思ったのだが、どうやら大仏はまだ心の内に引っかかる所があるようだ。
「アレについては聞かなくていいの?」
本日二度目のアレとは一体。
特に面白みのない人生を過ごしてきているので掘っても何も出ないと思うのだが。
「アレって?」
「月城くんの学生名簿の部活欄に『メタりか』って書いてあるのミコちゃんは見たことない?」
伊井野が聞き返すと、大仏がそう答えた。
「あんた『メタりか』なのっ!?」
伊井野が驚きを隠せなかったのも無理はない。
メジャーな競技からローカルな文化まで、数多くの部活動が存在する秀知院においても異色の集団、それが『メタりか』なのである。
名前から連想されるのは金属の研究や実験をする部活動。
しかしそれは擬態した仮の姿。
活動実績として学園に報告されるのは、二学期末の文化祭『奉心祭』での発表だけ。
野外ステージで繰り広げられる、コンテスト形式のパフォーマンスイベントにバンドとして出場し、昨年はベストパフォーマンス賞を獲得した金属とは名ばかりの部活動だ。
実態を調査するために風紀委員は潜入調査員を派遣し、内部事情を奪取しようとするも、『メタりか』は入部すら難しい。
面接と筆記試験と実技試験で多くの希望者をふるい落とし、通過するのは毎年若干名。
風紀委員の新入生は、この『メタりか』の入部試験を受けるのが伝統で、伊井野と大仏も仮入部期間に挑戦してみるも面接で落選。
ところが目の前にいる問題児は少数精鋭の選抜部隊に所属している。
驚くなという方が無理である。
「な、なら面接のお題『フリースタイル』も……」
伊井野は思い出したくない過去をフラッシュバックする。
部長の大男に『フリースタイルをしてください』と開口一番そう言われ、記憶の片隅に残っていた今流行りのフリースタイルラップなるものを羞恥心を押し殺し披露するが、あえなく撃沈。
他の受験者にもまず初めに『フリースタイル』のお題を出していたのは、風紀委員の会議で情報共有されているが、この情報を元に来年度の面接対策を組み立てても効果は見込めないだろう。
対する式も、毎年懲りずに潜入調査員を送り込もうとしている風紀委員の執念深さはヤバいと、部長の愚痴を聞いている。
面接会場の音楽室に仕掛けられた隠しカメラは、顔を真っ赤にしながら「よーよー」とラップする伊井野を高画質で録画していて、興味本位で再生したこちらが逆にいたたまれない気持ちになってしまった。
「あの問題はブームに乗っかった引っ掛けみたいなものだしな。知識がなければ誰だって落ちる問題だっただけだ」
「どういう意味よ?」
「部長が求めてた『フリー』は『自由』ではなく『蚤』ってことだよ」
天才と称される白銀やかぐやでも、きっと正解にはたどり着けない。
むしろかぐや達より、音楽に造詣が深い藤原が正解する可能性が高い問題。
所詮趣味の延長線上のような質問なのだから考えるだけ無駄なのに、眉間にしわを寄せて熟考する伊井野が可笑しく見え、式はつい苦笑を漏らした。
『金属理化学研究部』
その実態はロックをこよなく愛する者が集う、隠れた軽音楽部。
文化系の部活で人気の軽音楽部は当然のことながら秀知院にも存在しているが、軽音楽部が部活として承認される以前から『メタりか』は暗躍している。
今でこそ市民権を得ているも、ロックンロールの文化が日本に伝来した当時、不良の音楽として扱われていたのは有名な話だ。
秀知院の学生がロックの世界に引き込まれても、元々は貴族や士族のために設立された教育機関がバンド活動を許すはずがない。
ギターを背負って登校すれば、その場で叩き壊されるような時代を生きた生徒が、どうにかして活動しようと立ち上げたのが、『金属理化学研究部』だ。
彼らが表舞台に現れるのは文化祭のたった1日。
覆面を被り体育館のステージを一時的に占領し、爆音で音を奏でることで内に秘めたロックを表現していた。
時代の変化に合わせ次第に文化は受け入れられるも、『メタりか』は形を変えず存続している。
先人達の伝統を受け継ぎ、一年をたった25分の発表の為に費やすことで、プロ顔負けのステージパフォーマンスで観客を沸かせている。
つまり『メタりか』が面接や筆記試験を設けているのは、使える人材かどうかを見極めるため。
ステージ衣装や演出、楽器の改造、機材までをも手掛けているので、軽音楽部と『メタりか』の実績を比較し、派手なライブが出来そうだから、なんて甘ったれた根性で入部を希望する生徒はお断りなのだ。
裏方役は他の部活から拉致って強引に入部させているので、演奏者の少ない席を何十人で争い、期待の新人のみが入部届けに印を押せる。
そんな狭き門を突破した式が、バイトで忙しいながらも入部したのは、メタりか所属の二年生で、大手総合楽器店を展開している会社のご令嬢、小出先輩の甘い誘惑に負けたからだった。
小出楽器新宿本店二階の工房に良く足を運んでいた式を覚えていた彼女に誘われ……もといドサ袋に包まれ部室に連行され暇なら入れやと半強制的に入部させられた。
そして例のフリースタイルとはラップでもダンスでもなく、アメリカ発の大人気ロックバンド『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』のベーシストが得意とする奏法で有名なスラップについてだ。
独特のスラップ奏法はベーシストの名前に由来して、フリースタイルとして認知され、世界のベーシストを虜にしている。
伊井野達が解けなくても仕方がない。
「じゃあ俺は帰るわ」
バイトは十八時からなのでまだ時間に余裕があるが、一応生徒会室に顔を出だしてから帰ろうと立ち上がる。
用紙を伊井野に投げ、挨拶をしてドアノブを捻った瞬間、右の肩ぎゅっと掴まれた。
おっかなびっくり振り返ってみれば、背の低い伊井野が白紙の反省文を顔の高さまで持ち上げていた。
「まだ石上の分が残っているでしょう」
「………」
こいつ、マジか。
返事のしようがなく黙っている式は、アイコンタクトで再び大仏へ助けを求める。
「やっぱりセーフね」
悩む素振りもなく大仏が答える。
ここは敵陣のど真ん中。
味方がいるはずもなく、今度石上に飲み物を奢ってもらおうと誓った式は、殴り書きで乗り越えたのだった。
ヒロイン候補③ みこりん(イチャラブエンド)
役職:次期会長兼次期委員長兼次期部長
愛に飢えたメンヘラ系チョロイン。
この作品では問題児が好き勝手しているお陰で1学期から出番が増える。
2学期の生徒会選挙では月城くんを味方に付け、白銀&かぐやの最強タッグを潰しにかかる。