Re: 早坂愛を落としたい   作:ソロモンよ私は以下略

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白銀、スマホ買ったってよ

「みなさん、コーヒー入りましたよ」

トレーの上にはカップが4つ。

石上以外が揃っていた生徒会室で、書記の藤原がコーヒーを配っていた。

コーヒー係の藤原。

紅茶係のかぐや。

お菓子係の式。

娯楽係の石上。

と、それぞれに役割がふられている中、唯一会長の白銀だけが、ただもてなしを受ける人として特別待遇。

 

そんな偉い白銀だが、この日に限っては置かれたカップに口をつけることはなく仕事に勤しんでいた。

 

生徒会活動、アルバイト、自習。

白銀の一日のスケジュールは主に上記の通りで、法律で定められている夜10時まで働き、心身共に疲弊しながらも学年一位の座を死守するために深夜机に向かう。

 

睡眠時間を極限まで削っている白銀は三時間おきにカフェインを摂取しなければ活動限界に達してしまうが、この日は違った。

スポーツ選手が試合前日に夜更かしをしないように、白銀も自習時間を通常の半分に抑えてこの日を迎えていた。

 

自信しかない白銀、とうとう対四宮かぐや用のリーサルウェポンを登場させる。

 

「か、会長! それって!」

 

現代人には欠かせない電子機器を発見した藤原は駆け寄った。

 

「ついにスマホ買ったんですか!」

 

「ふふ……まぁな」

 

見せびらかすようにスマホで頬をペチンペチンと叩く白銀はドヤ顔だ。

 

スマホが生活の一部となったこのご時世、小学生が街中で弄っているのも特別な光景はではなくなった。

 

スマホ不要論を唱えていた堅物の白銀もIT化の波を受け入れ、ようやく中古ながらスマホを購入した。

 

これまで半年以上、かぐやとの謀略戦で結果に恵まれなかったのは、スマホという最強のアイテムを所持していなかったことに原因があったと白銀は読んでいる。

 

しかし手に入れてしまえば鬼に金棒。

 

四宮が告白してくるのも時間の問題だ、なんて裏で考えていたりする。

 

「ラインは入れてますか!?」

 

「ああ。妹相手に試してみたのだが、これは便利なアプリだな」

 

「わ~、じゃあ交換しましょう~!」

 

放課後まで隠していたのも、拡声器として藤原を有効活用するためだ。

 

まず藤原がIDを聞きに来て、式が続く。

 

そうして徳川埋蔵金よりも価値の高い自身のIDを聞きやすい流れを形成し、最後にかぐやがやってくるという算段を立てている。

 

「白銀会長。電話番号教えていただきたいのですが」

 

「……ああ、構わんぞ」

作業を中断して今度は式が白銀のもとへ。

何故ラインのIDではなく電話番号なのか。

 

一瞬白銀は躊躇うも、この際IDでもスマホの番号でも固定電話の番号でも住所でもいい。

大切なのはかぐやが連絡先を求めてくることだ。

 

電話だろうが文通だろうが白銀にとっては些細な違いなのだ。

 

式のスマホに電話番号を打ち、十分が経過した。

早くも白銀の計画の雲行きが怪しくなった。

 

あそこまでお膳立てしたのにも関わらず、一向に動く気配を見せないかぐやへの苛立ちが募る。

 

藤原=白銀=月城

藤原=四宮=月城

 

この間では連絡を取り合える仲だというのに、肝心な

白銀=四宮

が繋がらない状態ではお話にならない。

 

しかし膠着状態に陥ったのは偶然ではなく必然。

連絡先を聞くとは告白の準備段階と認識しているのは、白銀だけではない。

 

かぐやもまた、同じ信念を抱いていた。

 

両者プライドが高く、梃子でも動こうとしない頑固者であれば発展しないのは当然のこと。

 

そもそも白銀がスマホに興味か湧いたのも、かぐや主導のもと四宮家使用人の尽力があったからこそで、プランニングの時点で明確な差がついていた。

 

何時でも連絡を取り合えることを期待していた白銀が受けるダメージは計り知れない。

 

かぐやの為にスマホを購入したのに、人並みに話せて人並みに動ける雑草とメッセージや通話をしても採算が取れない。

 

一方のかぐやは計画通り、と影でほくそ笑んでいた。

絶対に、何を引き合いに出されてもこの場から動かない決意を固めていれば精神的に優位に立つ。

 

焦りは直に心構えに綻びを生む。

 

初志貫徹の意思を守っていれば、必ず折れるのは向こう側。

待って、待って、これでもかと言うほど待って、邪魔者を先に帰らせれば白銀から頭を下げてくるのだから。

 

長引けば長引くほど不利になるのは白銀。

 

折角小遣いを切り崩して購入したスマホも、これでは鉄くずだ。

 

ただ彼も(笑)で装飾されているが天才のうちの一人。

 

対応策を投じることで、膠着状態から抜け出そうと試みる。

 

「あれ、会長このプロフィール画像って……」

 

「あぁ、俺が子どもの頃の写真だ」

 

拡声器藤原に食いつかせたのは、プロフィール画像。

ライン上では、自分の代わりとなる重要な一枚だ。

 

最近の若者はたった一枚の写真で個性や主張を表現するべく、撮っては変え撮っては変えを繰り返している。

 

ラインデビューをしたばかりの白銀は、そのプロフィール画像を餌に、かぐやを誘き寄せる狙いだ。

 

「うわー、ちっちゃい会長ですね。いくつの頃の写真なんですか?」

 

「確か七歳の誕生日に撮った写真だな」

 

「七歳の頃ですか。怯えちゃって固まってる会長、とっても可愛いですね」

 

「そう言ってくれるな。当時は本気で死を覚悟をしたんだぞ」

 

式のスマホに登録されているのは電話番号。

 

ならば隣に座るかぐやから覗かれる心配もない。

 

白銀は王手をかけた気分でいた。

 

 

楽しそうに会話を弾ませる二人対して、かぐやは余裕を崩さない。

 

見え見えな釣糸に引っ掛かるのは、馬鹿か阿呆のどちらかだ。

 

こうして仕掛けてきているのも白銀の本気度の現れで、関心を押し殺していれば最終的に勝者になれる確信がかぐやにはあった。

 

一切の隙を見せず、我慢していれば……

 

(見たい! 七歳の会長見たい!)

 

恋に落ちた天才の精神力は脆い。

 

無表情を装いつつも、精神世界に住まうかぐや(アホ)は、あまりの見たさに駄々をこねる子供のように床を転げ回っている。

 

「ハ、ハッキングという技術で……」

 

焦りに焦って、プライドなど捨て去りPC関係に強い式に縋り付く。

 

天下の四宮かぐやが冷静さを失う様を、白銀は高みから見物する。

 

らしくない悪手を出したな、とかぐやが取った選択を嘲笑いながら。

 

ハッキングなんて高等技術、一介のそこいらの学生が修得しているわけがないだろう。

 

(そろそろ潮時か)

 

すがりついてくるのなら許してやらんこともないが、つまらぬ意地を張り続けるのなら、もうこの写真は見納めだ。

 

白銀は不慣れな手つきでプロフィール情報を変更しようと画面をタップする。

その時だった。

 

スマホがブルッと震え、プッシュ通知が表示された。

 

――月城 式さんがあなたを友達登録しました。

――月城 式さんを友達リストに追加しますか?

 

「月城ぉぉ! こっち来いや!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数分遡る。

 

下級生としては目上の人間の作業中に飲み物の一つも出さないのは逆に気分が落ち着かないが、今期の生徒会発足時からの習慣とあらば黙って座して待つのが礼儀だろう。

 

午後に実施された卒業生の某有名タレントによる講演を記事にまとめていると、トレーを持った藤原の声が室内に響いた。

 

「みなさん、コーヒー入りましたよ。月城くんもどうぞー」

 

「ありがとうございます」

 

礼を述べてカップへ手を伸ばす式は、実は蛇口を捻ればダージリンが流れてこないかなと思う程度には紅茶派だったりする。

 

コーヒーは嫌いってほどではないが、好きってほどでもない。

 

受験時代に勉強するの30分前にカフェインを摂取し、その後軽く仮眠する。

 

ただルーティンの一環として、義務的に飲んでいたくらいだ。

 

そんな彼の舌をも唸らせるのが藤原の一杯。

 

このように幾つかの特技のお陰で、先輩としての格を守っていた藤原が「会長もどうぞー」と、執務机にカップを置いたときだった。

 

戦いの火蓋が切られたのは。

 

現代人の仲間入りを果たした白銀がスマホを天高らかに掲げる。

 

まだ新米であるのであまり仕事はふられていないが、もしかしたら今後自分の裁量ではどうにもできない課題と出くわすかもしれない。

 

そんな場合に責任者の白銀と連絡を取れないと不便なので、藤原に続いて式は通話のみならずショートメールでメッセージも送ることが可能な電話番号を尋ねた。

 

そうして完成した記事に写真を張りつけ、生徒会のホームページに載せた式は察する。

 

なんか始まってるな、と。

 

白銀もかぐやも不自然なまでに連絡先を交換しようとしないのは、裏で心理戦が繰り広げられているからだ、と。

 

しかし知力では到底かぐや達に太刀打ちできない式は何事もなかったかのようにノートパソコンをカタカタとさせている。

 

どちらの勢力にも加担しない。

 

人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ねに従い、彼らの駆け引きにおいて、式が取る立場は基本中立。

気持ちかぐや寄り。

 

首を突っ込んで場をかき乱すなんて真似はしないし、して恨みを買いたくない。

 

ただ頼られた場合は別である。

翼くん(仮)に助けを求められたように、力になれるかどうかは定かではないが協力はする。

 

「ハ、ハッキングという技術で会長のプロフィール画像を入手できないかしら?」

だから、かぐやがそう必死になり頼み込むのであれば、式は動かしていた手を止めざるを得ない。

 

パソコンカタカタを中断してスマホを手に取った。

 

「いや、その方面に関しての知識はありませんので……」

PC関係に強いからハッキングが出来るという認識もどうかと思うが、アナログ派のかぐやだから仕方がない。

 

勿論、式もハッカーではない。

 

もしホワイトハッカーだったなら流出したNEMの追跡に一役買っていた所だ。

 

果たして犯人は北朝鮮グループだったのか。

ホワイトハッカー集団に女子高生が参戦していたという噂は本当だったのか。

 

真相は闇の中である。

 

「抱えている使用人にはいないんですか? 四宮財閥ともなれば、ウィザード級も雇い放題でしょう」

 

「ウィザード? 魔法使いがITの世界には存在しているの?」

 

「はい。別名ジェバンニです。工数見積り1人月の案件もウィザードがいれば一晩でやってくれるらしいですよ」

 

「…………?」

 

丁寧に説明したつもりなのだが、絶妙に下手な例えにかぐやはきょとんとした表情のまま見つめ返している。

 

その視線から逃れるために式は話題の軌道修正を図る。

 

「それよりも会長のアカウントなら、これです」

 

スマホ初心者の白銀が見落としていた機能。

それは電話番号登録システム。

 

アドレス帳に登録されてある電話番号に紐付いて、友達候補のリストが表示される便利な機能だ。

 

先ほど白銀の電話番号が登録された式のスマホであれば、直接IDを打ち込まずとも数回タップするだけでかぐやの願いは叶う。

 

『白銀 御行を友達に追加しました!』

 

「良ければかぐや先輩のPCへ送っておきましょうか?」

 

蛇に巻きつかれて顔面蒼白の白銀少年をスマホに映しかぐやへ差し出す。

 

瞬間、かぐやの絶対記憶能力が発動されるが、脳内保存だけでは記憶喪失になった場合の保険がきかない。

 

ありがたい申し出に、超高速で首を縦に振ると、式の肩に手を添えた。

 

「月城くん、あなた将来四宮グループに入りなさい」

随分と楽な入社試験だった。

 

「月城ぉぉ! こっち来いや!」

 

そしてここで通知を確認した白銀の怒声に繋がる。

 

「はい」

 

「お前ハッキングは違法行為だぞ!生徒会役員たるものが悪事に手を染めるなんて言語道断だ!」

 

「いや、ですから電話番号さえあればですね……」

 

焦りにより早口でまくしたてる白銀へ、かくかくしかじかとラインの機能について説明すると、声にならない声を上げながらも何とか納得したみたいだ。

 

だがせっかく仕込んできた計画が破綻したことで、悔しさのあまりその場で悶えている。

優秀過ぎるのも考えものだと、二人の傍にいるとつくづく思う。

 

「かぐやさんは機種変更まだしないんですか? ライン楽しいですよ」

 

そもそもだ。

藤原のいう通りかぐやが所有しているのは先代の携帯端末。

メッセージツールとして特別ラインが優れているわけではない。

 

「も、もしやガラケーだとラインが使えないのか?」

 

「使えなくはないですが、別にライン無くても不便ではないですね。俺もかぐや先輩とやり取りする時は普通にメールでしてます」

 

「………ただのガラクタじゃねぇか」

 

なんならガラケーにしてかぐやに親近感を抱かせればとか考える白銀であった。

 

ガラクタという名の技術の結晶をこれでもかと握りしめる白銀の前でJKトークは加速する。

 

「そうですね。あまり必要性を感じていないので、壊れるまでは当分は変えるつもりはありませんね。愛着もありますし」

 

「あっ! だったら私帰りに電気屋さん寄るので、かぐやさんも一緒にどうですか。いずれ変えるのですから、下見しましょうよ下見!」

 

「今日はこの後に予定が入っているので、また後日でいいですか?」

 

「ええー!それって明日とかにずらせないんですか? 一緒に行きましょうよー。ねえねえかぐやさん」

藤原はべったりと張り付いてかぐやから離れない。

 

頬をすり付けるスキンシップ。

 

あまりのしぶとさにかぐやも遠い目をして折れるしかなく。

 

「やったー! かぐやさんと久しぶりのデートだぁ!」

承諾を取り付けた藤原は万歳で喜びをあらわにする。

 

それからは早かった。

目標が出来たお陰か、藤原は雑務をテキパキと片付ける。

いくつかの書類は執務机に流し、手持ち無沙汰だったかぐやの片腕をゲット。

 

「じゃあ行ってきます! また明日です」

そんな気持ちが高ぶっている藤原に拘束されたかぐやは、去り際にウィンクを残した。

 

後始末はよろしく。

思いがけない先輩命令が式に下された。

 

まあこれくらいの軽い内容なら朝飯前ってもので、千切った紙切れにペンを走らせて、それを白銀に差し出す。

 

「これは……」

 

「かぐや先輩のアドレスです。仕事が終わったら空メールでもいいので送ってあげてください」

 

「俺から四宮へか?」

 

心底嫌そうな顔の白銀は受け取りに躊躇しているようだったが、無理やり押し付ける。

 

「ビビってるんですか?」

 

「何だと?」

 

白銀が射るような眼差しを向けた。

彼は外部生ながらも一年次に会長職を与えられた全校生徒の模範的存在。

男として、いや漢としてのプライドが奥手な白銀を突き動かす。

 

「秀知院の生徒会長が、異性にメールを送る程度で恐れをなしているんですか?」

「舐めるなよ月城。この俺クラスになれば一件では足りん。百件送りつけてやろうではないか」

 

チョロい白銀の誘導に成功。

ただ連続メールは迷惑だからやめろと忠告しておいた。

 

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