Re: 早坂愛を落としたい 作:ソロモンよ私は以下略
初めて通された校長室。
平凡な高校生活を送っていれば、まず入ることは叶わなかったであろうこの場所に式はいた。
額縁に入れられた歴代の校長と、現校長の視線は居心地の悪さを加速させる。
問題を起こして呼び出しを食らったわけではなく、生徒会役員として立っているわけだが、色々と校則を破っている手前、どうも落ち着かない。
「一人たりないようだケド、どうしたのかネ?」
カタコトの日本語を話す校長の前に並ぶのは四人。
左から白銀、かぐや、藤原、式の順だ。
毎度の如く石上は不在である。
彼は召集がかかる前に新作ゲームのフラゲに駆け出し、連絡をとってみたものの繋がらなかった、というのが十数分前の出来事。
石上が欠けていることを指摘する校長にありのままを伝えるわけにはいかず、白銀が適当に誤魔化そうと試みる。
「えっと石上くんはですね、新作のゲーー」
が、その前に藤原が遮った。
一見優等生な彼女も実態は秀知院きっての曲者。
空気を読まずに正直に全てを暴露しようとする彼女に悪意はこれっぽっちもない。
純粋無垢なアホであるが故に、このような行動をとってしまう。
「あらあら藤原さん、少しお口をチャックしておきましょうね」
「会計の石上は体調が優れないとのことだったので、大事をとって参加は見送らせました」
かぐやと白銀による見事な連携プレーにより藤原の不用意な発言を防ぐことに成功。
何だかんだ曲者の扱いに長けている二人であった。
「ふむ、まぁ全員揃わなくても支障はありませんからいいでしょう」
そう言う校長は所謂ゲンドウポーズを取り、不敵に歪む口元を隠す。
そして細く鋭い双眸は、挑戦的に式を覗き込んでいた。
交錯する視線。
(……ガンつけられてる)
そのように解釈をした式だったが、途中で視線を外すのも失礼だと思い、そのままメンチのきりあいを続行する。
今日の献立どうしよう。
焼き魚食べたいな。
炊飯器の調子が悪くなってきたな。
そういえばソースきれてたな。
と、ぼけぇーと思考の海を泳いでいると校長は満足したのか、今度はニヤリと不敵に笑ってから視線を白銀に移した。
「じゃあ説明をしてもいいカナ」
「お願いします」
パリ姉妹校との交流会。
そのイベントが週明けの月曜に予定されていると、校長の口から説明された。
主催は仏語を学んでる有志団体、らしいのだが、会場のレイアウトや準備物等の用意は生徒会が中心となり行うとのことだ。
いくら海外の学生を招き入れるからといえど、学校主体ではなく有志主体のイベントに生徒会が担うのは如何なものかと、生徒会が使い勝手のいい雑用集団と認識されるのは本意ではないと提言した。
とはいえ決定事項のため覆ることはなく、イベント三日前に急遽新たな仕事が舞い降りた。
「試されてますかね?」
その後、有志団体のリーダーとの顔合わせを済ませた式は、隣を歩く白銀に確認をとる。
「その可能性が高いだろうな」
ゆっくりと首肯する白銀。
準備時間も限られている本番直前のこの日に仕事を押し付ける人が、秀知院学園高等部の校長に就くはずがない。
二人の意見は一致していた。
「悪いな。ボイコットするわけにもいかないから今回は我慢してくれ」
「いえ、まぁ白銀会長の顔に泥を塗らないようにしますので……」
校長な目論見は見当つかないが、混院の分際で悪目立ちして反感を買っている自分も少なからず非があると思う式は、任命権者の白銀と、推薦してくれたかぐやには迷惑はかけないよう企画管理としての責を果たすべく気持ちを入れ替えた。
「というわけで日曜日は彼らと共同して設営することに決定しましたが、何故か買い出しまで押し付けらてしまいました」
生徒会室に戻り、軽く小休止を挟んでから打ち合わせの結果を報告する。
有志団体も校長とグルのようで、ほぼ全工程を生徒会に丸投げするという荒業に出た。
それほど生徒会が信頼されていると肯定的に捉えるべきか、単に彼らの精神が図太いだけと捉えるべきか。
もし後者であるならば、式もそのドンと構える精神は見習いたいものだった。
何はともあれ、設営が日曜日に予定されているので、余裕をもって明日土曜には必要品を用意をしておきたいところだ。
「役割分担はどうなさいますか?」
折角の休日を潰すことになる買い出し。
雑用は本来下級生が率先して担うのが常識。
となれば連絡がつかないであろう石上は頭数にはいれず、面倒な役を買って出るのは式のはずだった。
「じゃあここは公平にゲームで決めましょうよ!」
ここで学内一のトラブルメーカーにして、ブレーキをとっぱらった暴走機関車藤原が動く。
テーブルゲーム部に所属する彼女はスクールバッグに手を伸ばす。
その中から取り出そうとするのは暗記のお供単語カードだ。
それ一つで気軽に遊べるゲームを知る藤原は、まるで挑戦状かの如く単語カードをテーブルに叩きつけた。
「NGワードゲームの敗者が……」
「買い出しは白銀会長とかぐや先輩にお願いします」
空気を読まずに式は藤原の発言に被せた。
「俺たち二人でか?」
どうにかしてかぐやと出掛けるためのプランを練っていた白銀は、拍子抜けした様子で言葉を捻り出した。
「海外からの招待客に素人が選んだ茶請け菓子を提供するのも味気ないので、ここは茶道に精通しているかぐや先輩の力を借りることにしました。白銀会長は荷物持ちです」
一見するとかぐやと白銀をサポートしているように捉えられる行為であるが、交流会の成功を収めるための最適な配置をしたまでに過ぎない。
未だに生徒会主導という点に納得できていない式も、姉妹校の学生には恨みはない。
遠路はるばる日本までやって来てくれるなら相応の歓迎で迎える、その一心で取り組もうと割りきっていた。
「月城くんがそこまで評価してくれるなら無下にするわけにはいきませんね」
冷静を装って頷く副会長。
彼女は表では取り繕いつつも、内心跳び跳ねて喜んでいた。
「俺もバイトである程度鍛えられているからな。荷物持ちの能力で俺の右に出るものはこの秀知院ではいないだろう。ならば月城の意見に従うのが正しい判断だ。論理的に考えてな!」
秀知院No.1の荷物持ちと自称する生徒会長。
彼はテンションが上がって口数が多くなっていた。
面倒な買い出し組も決まったことで一段落。
とはいかず、除け者にされていた彼女が首を突っ込んだ。
「ドーンだYO!!」
NGワードゲームをやりたくて堪らない書記。
意味不明なワードを口走る。
「……どうしました?」
「どうしました、じゃない! 私のこと無視して一人で勝手に決めちゃって、NGワードゲームはどこいったんですかぁ!」
「では自分は明日ここに来て立食用のテーブルとか引っ張りだしているので、何かあれば電話を下さい」
「見ましたかかぐやさん。先輩が積極的にコミュニケーションをとろうとしているのに、今この人故意に無視しましたよ」
不満たらたらの藤原が騒ぎだす。
しかしデートの約束を取り付けることに成功した白銀とかぐやがどちらの味方をするのかは明白だった。
上機嫌なかぐやは下される決定を撤回させまいと慰めようと試みても、藤原のフラストレーションは溜まる一方である。
「じゃあ私も会長とかぐやさんに着いていきます。仲間外れは嫌です」
不貞腐れながらそう提案されるも、それこそNGだ。
「駄目です」
「どうしてですか!?」
「藤原先輩を同行させるとその独特な感性に振り回され、少し変わった商品を選んでしまう危険がありますので」
他とは一味違うおもてなしをしようと食品サンプルでドッキリを仕掛けたりと、藤原ならやりかねない。
時間的猶予があるならまだしも、準備期間が短い今回はかぐやと白銀を送り出すのが無難だった。
「いいですか月城くん。わたし藤原千花ですね、これでも非の打ちどころのない模範的な学生だと先生方から評価されているんです。月城くんは生徒会に入ってまだ間もないから知らないとは思いますが、与えられた仕事は十二分にやり遂げているんですよ。ね、会長」
「ああ、まあそうだな」
本物の無能ならば生徒会にはスカウトされない。
過去藤原の存在があったからこそ解決した問題もあったのは事実であるために、白銀からは否定的な意見はでなかった。
その時、ふふーんと胸を張る藤原に懐疑的な目を当てる式は、とあるブツを引っ張り出した。
「最近、白銀会長によく会議に連れ出されるんですよね。議事録係として。何故書記の藤原先輩でないのかと尋ねてもぼかされたので、こっちで探ってみたところこんな物が出てきまして」
式が見せびらかすように手にしているのは、表紙に『しょきノート』とマジックで書かれている大学ノート。
それを見た瞬間、藤原はエサに飛びつく犬の如き瞬発力でノートを奪い返そうとするが、先読みしていた式はひらりと躱す。
「それで中を拝見させて貰ったんですけど、これでようやく理解できました。会議に連行される理由がね」
パラパラと一ページずつめくっていく。
最初の数ページはきちんと議事録が纏めてあるのだが、途中から徐々に空白の部分が増えていき、最終的には日付だけ書いて残りは真っ白。
それだけに留まらず、1ページ丸々迷路で埋め尽くされていたり、パラパラ漫画があったりと、暇つぶしのためのノートとして扱われている痕跡が残っていた。
しんと静まり返る室内。
職務怠慢が暴露された藤原の顔面は蒼白。
ただ将来の大物政治家候補の藤原だ。
どのような見苦しい言い訳で押し通すのか。
腕が試される時がやって来た。
「月城くんのばかぁぁぁぁぁ!余計なことしないでくださいよ!」
逆ギレであった。
目の端に涙をためて、あらんかぎりの力で拳を振り回した。
「勉強も出来て、仕事もそつなくこなせる優等生のイメージが崩れるじゃないですかっ!どう責任とってくれるんですか!」
残念ながら、最初からそんなイメージなど張り付いていなかった。
「会長もですよっ! 私を差し置いて月城くんに任せるなんてどうかしてます!」
「いやしかし、デジタル派の月城がいれば内容を漏れなく記録することが可能でだな、議事録の管理も楽で助かってるというか、その、なんだ……」
藤原は声量にものを言わせ、さも自分が被害者であると振る舞う。
堂々とした佇まいに、さしもの白銀も押され気味だ。
「はぁーん、そうですかそうですか。機械に詳しい後輩が入ってきてくれて大助かりですねぇ会長」
会議中にパラパラ漫画を書く女、露骨に不機嫌になる。
自分よりも能力が高いと判断された後輩を妬む心が、藤原をここまで暴走させてしまった。
「だったらもう月城くんを企画管理兼書記にしたらどうですか? ほら、月城くんの名前の式と書記って似てるでしょう。これはもう書記になるために生まれてきたようなもんですよね、月城書記くん」
「違います」
「わたしとしても、その薄型ノートパソコンでカタカタやってる月城くんこそが書記に相応しいと前々から感じていましたし、会長にとって月城くんがドラえもんのように便利であることも証明されましたし」
「ドラえもんじゃありません」
「会長も、もう困ったら全てドラえもんに泣きつけばいいんじゃないですか? ドラえもんがいてくれるなら私だけじゃなくて、かぐやさんも石上くんも生徒会にいる必要なさそうですよね。シキえもんと二人三脚で、さあどうぞ」
「かぐや先輩と優は必要です」
「何なんですかっ! 私だけ除け者にするつもりですか!」
「まあとりあえず、お二人は買い出しをお願いします」
きゃんきゃんと喧しい藤原は放っておくのがベスト。
薄型ノートパソコンをカタカタしてスケジュールを打ち込んでいる式は、完全にシカトの体勢に入る。
いくら藤原が言葉を並べようと、式からの承諾は得られなかった。
「うわーん、ドラえもんのバカぁぁぁぁ!」
そして終いには、捨て台詞を吐き捨てながら藤原は駆け出した。
これに対し式がとった対応は。
「どこ行くんですか藤わ……ジャイ子!」
「わたしはしずかちゃんポジションだもーん!」
最後まで容赦がなかった。
「お前、藤原に対して結構強いよな」
真面目系問題児を追い払った後輩に関心する白銀が言葉を挟んだ。
「まあ、ああいう本能で生きているようなタイプの扱いはそこそこ慣れているので」
幼馴染のアレとか、自宅警備員のアレとかと長くいれば嫌でも身につくスキルだ。
いちいち構っていたらきりがないし、黙っていたら黙っていたでいつの間にか周囲を巻き込んで勝手に話を進めてしまう厄介な生き物であるため、意味不明な要求はとにかく突っぱねるのが吉。
しかし彼らの真の恐ろしさは、その切り替えの早さ。
ボコボコに打ちのめしたとしても、自分の興味を刺激する要素が落ちていれば、それまでの出来事は記憶から消去され……。
「みなさ~ん! コスプレ、コスプレしましょうよ!」
満面の笑みで再び登場するのだ。