翌日の早朝。芽吹が園子の病室に入っていったのを確認した鉄男は大きなあくびをしながら園子の病室の前にさりげなく立った。眠くて今にも閉じそうな目をこじ開けながら見張りを続けること数十分。そこへ、
「おっ、鉄男。こんな朝からどうしたんだ?」
「えっ!?あっ!ね、姉ちゃん!?朝早いね~はははは」
最初に来たのはよりによって彼の姉の銀だった。
(まさかの最初の壁が姉ちゃんかよ....!)
鉄男は彼女を見ただけで少し食い下がる。
「さっきから園子の病室の前でうろうろして....入らないのか?」
「えっと........そ、そういう姉ちゃんは何しに来たの?」
「え?もちろん園子のお見舞いだよ。芽吹は先行ったって聞いたからさ。........で、さ........そこどいてくれる?」
「....え?」
「いや....入れないんだけど?」
「あー....今園子姉ちゃんはお取り込み中なんだ!だから残念ながら姉ちゃんは入れない!そーゆーこと!」
「は....?お取り込み中?何かあったのか?」
「とにかーく!!入れないったら入れないんだ!」
「さては鉄男....お前、なにか隠してるな?」
「ギクッ....な、なにも~?」
「いや、絶対隠してる!さっさと白状せえっ!!」
「ちょ、ちょっと待って!わかった!わかったから!!姉ちゃん、ちょっと散歩しよう?ね?ほら、行こう行こう~!」
「お、おい!なんなんだよ~!」
鉄男は銀の背中を強引に押して病院を後にした。これでとりあえずは大丈夫なはず....鉄男はそう思っていた。
(頼む....!俺が戻るまで誰も来るな....!)
だが、もちろん園子のお見舞いに来るのは銀一人ではない。
「そのちゃん大丈夫かな~?........ん?誰かと話してる....?」
銀がやってきてから数分後のことだった。友奈も園子のお見舞いに来たのだ。静かな朝の病院。その一つの病室から聞こえてくる二人の話し声。園子の病室だ。友奈はその二人の話を邪魔しないようにと話相手が出てくるまで待つことにした。園子の病室の前で。そのせいで、どうしても中から聞こえてきてしまうのだ。二人が話している内容が....。
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「過去から来たって....園子、あなた何を言い出すのかと思えば....。」
もちろん芽吹は混乱していた。いきなり非現実的すぎることを話されては、理解できるはずもない。実際園子自身も、なぜこのような現象が起きているのかも知らないわけなのだが。
「信じられないでしょ?でも本当のことなんだよ。証拠、なんてものはないけど....私が過去に戻ったことで未来はかなり変わった。」
「........とりあえずあなたの話は信じるわ。嘘を言っているようにも見えないし。第一、こんな嘘つく必要もないしね。」
園子の睨んだ通り、彼女は話のわかる人だった。飲み込みの早い芽吹のおかげで早速本題に入ることができる。
「それで?....本来の未来とやらはどんなだったのよ?」
「うん。本当の未来はね、ミノさんは二年前にお役目で命を失ったことになってる。そして、その代わりに勇者として来たのがにぼっしー。....三好夏凜ちゃんだね。」
「....!!それって....」
芽吹は目を見開いていた。その顔から、彼女がとても驚いているのがひしひしと伝わってくる。
「つまりね、本来の未来ではわっしーがいるんだ。そして....メブーがいない。ミノさんとわっしー、にぼっしーとメブーの立場が逆になってるんだよ。」
「そんな....それが本来の未来....!?私は?その未来での私はどうしてるの!?」
「それが........私、この未来に来るまであなたのこと知らなかったんだ。だからどうしてるかわからない....」
「........!!そ、そう....。確かに、園子の言う通り私はその鷲尾須美という勇者の後任として讃州中学に来たわ。そしてその選考で三好さんと出会った....。彼女は弓術というよりも剣術の方が得意らしくてね。だから私が後任に選ばれた....。それなら本来の未来で三好さんが勇者に選ばれるのも納得できるわ。銀の武器は双剣だしね。」
これでやっと謎が晴れた。楠芽吹は三好夏凜の代わりだということが確定した。芽吹は複雑そうな顔をして窓の外を見ていた。
「なんだか....変な気持ちだわ....。本当の未来ではあなたたちと出会えなくて、私の故郷で別の生活してると思うと....。」
「えっ....?」
「だって私、あなたたちと会ってだいぶ変わった。それは自分でもすごい分かるくらい。性格も考え方もたくさんね。最初のうちは勇者のお役目に対するあなたたちの態度を見て『なんなんだこいつらは』とか、『緊張感がなさすぎる』とか、『意味分からない部活動はなんの意味があるのか』とか....いろいろ思ってた。けど....その考えは全部みんなが変えてくれた。私にとって、今の私があるのは勇者部のおかげなのよ。........だから、その勇者部に巡り会えない本当の未来の私はどうなのかなって....」
「........。」
芽吹もまた、勇者部に対して多くの思い入れがあったようだった。考えてみて、彼女が夏凜の代わりだと言うことは夏凜が経験した痛みも、喜びも、悲しみも楽しみも全部代わりに経験しているということだ。芽吹は今までの勇者の困難をどう乗り越えてきたのであろうか。そこはちょっと気になった。
「でも園子....そのことは勇者部全員には話さなくていいの?勇者部五箇条『悩んだら相談』でしょ?」
「あ~....別にこれは悩み事とかそんなんじゃないからね~。メブーには聞きたいことがあったから打ち明けただけだし~」
「........タイムリープはいつからしていたの....?」
「この事故が原因だよ~。いや........てっちゃんかな....?」
「てっちゃん....?昨日の銀の弟かしら?」
「あ、いやなんでもないんよ~!....とにかく!勇者部のみんなには言わなくていいから~。申し訳ないけどメブーもそうして。これは私からのお願い。約束してくれる....?」
「........本当にいいの?あなた....その口振りだと好きなように過去に戻れるんでしょ?また戻ってやり直して別の未来をつくろうとしてるんじゃないの?銀も須美さんもいる、園子にとって一番幸せな未来を。....そんな重要なことを相談しなくて本当に大丈夫?少なくとも、私は心配だし、園子がどうしようとしているのか聞きたいのだけれど。」
「あはは....すごいねメブーは。鋭すぎるよ~。でもね、自由に好きな時間軸に戻れるってわけじゃないから....チャンスは一回きりなんよ。」
「だったら尚更....!」
「でも大丈夫。一歩間違ったらみんなまで巻き込んじゃう。未来の世界をできるだけおかしくしたくないんだ....。」
「!!....そ、園子....?」
いきなり園子は涙を流し始めていた。芽吹はあたふたしてぎこちなく園子の手を両手でギュッと握ってあげた。
「ごめんメブー....。私、今の時点で相当つらいんだ....。あれだけがんばって行動して、知恵を振り絞って考えた作戦も失敗した....。タイムリープのことを簡単に話したらみんなの私を見る目が変わっちゃうかもとか....みんな私のことを気にかけて逆に不幸なことになっちゃうんじゃないかとか....いろいろ考えちゃって....」
「........友奈の祟りのこともあったからね....?でも、もう神樹様はいないし天の神も友奈が倒したじゃない。少なくとも今回のタイムリープは神とかそういう類のものは関わってないと思うわ。だから、私たちを頼りなさい。大丈夫よ。園子....あなたはもう一人でつらいことを抱え込む必要はない。みんなで共有して、みんなで乗り越えるのよ。たとえ園子だけ過去に戻ることができるとしても....未来の私たちは何があってもあなたの仲間なんだから。」
「そんな単純なことじゃないんよ....。私が過去にしたことが原因で未来にいる誰かが消えちゃうかもしれないんだよ....?」
「えっ....?」
「メブーだってそう!!あなたは本来の未来にいなかったんだから!私が過去をいじくればいじくるほど未来は姿を変えていく。メブーだって会って数時間でこんなに仲良くなれたんだから....!私、お別れなんかしたくない....!」
「園子....。」
そう。須美が生存すれば芽吹が、銀が生存すれば夏凜がいなくなる。つまり、園子が目指そうとしている二人が存在している世界は、芽吹も夏凜もどちらも勇者部にはいないということを意味していた。
「私の少しの失敗が未来を変えるんよ。私のタイムリープのことをみんなが知ったら....なにかいけない気がするんだ。胸の奥がざわざわっとするんだ。最初にメブーに話したのはね、にぼっしーの話をするのに手っ取り早いからと本来の未来の勇者のことと一番関係が遠いと思ったから。」
「............なにか感覚的なことでわかるってことね?....園子の勘はよく当たるしね....。なんとなく....分かった気がするわ。」
「メブー....!」
「....実は、この前あることがきっかけで三好さんと会ったの。三好さんは『防人』として彼女なりのお役目をこなしていたわ。数十人くらいいる部隊でね。みんな勇者候補生だった人みたい..。.」
「防....人....?」
「....本来の未来なら、私が防人になっていたんでしょうね。」
「ありがとうメブー....それだけ分かればもう十分だよ。」
「........。園子、とりあえずあなたのことはみんなに黙って置くことにするわ。」
「....!」
「でも、苦しくなったらすぐに未来へ帰ってきなさい。その時は私があなたを助ける。みんなにも話す。わかった?」
「うん....!わかった!」
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この日の夜
「ここまでが今日話したメブーとのお話だよ~」
「ふ~ん....なんだかんだ言っていろいろ知れて良かったな。」
「うん....。まさか勇者とは別に影ではたらく『防人』なんて人たちがいたなんて知らなかった。この未来ではにぼっしーたちが、私がいた未来ではメブーが頑張ってくれてたんだね。本当に彼女たちにも大感謝だよ。彼女たちもきっと、いろいろつらい思いをしただろうに。」
「俺は一般人だから勇者とか防人とかどういうことやってんのかよくわかんないけどさ、どれだけ重要な立場なのかってことは身に染みて知ってる。....経験もあるしな。」
「....。」
「........で、これからどうすんよ?あれ以上の作戦はないだろ?」
「....うん、私決めたよ。作戦はあのまま。そして、過去の二人に私のタイムリープを伝える。」
「えっ!?いいのかよ!?」
「いずれ過去の二人には伝えなきゃいけなかったしね。........これだけはどうして避けられないし、しょうがないと思う....。」
「そうか....。そ、それはそうとして....タイムリープのことを二人に伝えたところでこの作戦が成功するとは思えないぞ?」
「そうだよね。だから私がもといた未来とこの未来の二つを二人に打ち明ける。そして、私が体を張る。なんとしても二人を救うために....」
「園子姉ちゃん!!」
園子の言葉を遮って鉄男は彼女の名を呼んだ。
「『体張る』って....自分の命を犠牲にしてまでもってことか。」
「........。」
「それじゃダメだろ!!何考えてんだよ!!二人が生き残るだけじゃなくて三人で勝つんだろ!?園子姉ちゃんが死んだら二人は悲しむ!!俺もそうだ!........わかってんだろ....?この二つの未来で園子姉ちゃんもその気持ちを体験しただろ....?」
「........でも、そうでもしなきゃ勝てないんだよ!?このままじゃまた繰り返すことになる!!」
「だからって自分はどうなってもいいなんて考え方はいけない!自分のこともちゃんと考えろよっ!!」
鉄男は必死に訴え続ける。実際園子も痛いほどわかっているはずだった。銀がいない世界線と須美がいない世界線....。この二つを体験してわからないはずがなかった。また、園子は考えた。『自分がいない世界はどうなっているのだろう。』と。
「やっぱり、まだこっちの世界にいてくれ園子姉ちゃん。急かして悪かった。他にもなにか方法があるはずだよ!俺はバカだから全然わかんないけど........芽吹さんもこのことを知ったんだ!三人で悩んで悩んで答えを導き出そう!」
鉄男は前向きに提案してきた。彼も姉が亡くなったり、いきなり東郷が消えたりなど短い期間の間にいろいろありすぎてかなり動揺しているはずなのに。彼も姉と似て自分よりも人の心配ばかりするタイプだった。
「うん....ありがと、てっちゃん。でも今日はもう夜になっちゃうから一度おかえり。ミノさんたちもきっと心配してるよ~」
「姉ちゃんが?ははっ、まさか!どうせまた怒られるだけだよ。でもま、園子姉ちゃんの言うとおりそろそろ帰っとくかな~」
鉄男はそう言うとイスから立ち上がって小さめのリュックを背負い、「じゃ、また明日なー」と言って病室から出て行った。
ピロンっ
ちょうどその時、園子の携帯が鳴る。どうやら着信があったようだ。
(ん....?ミノさんから....?)
それは銀からのメールだった。その内容はごく簡単なもので、
『明日の朝、病院の屋上に来て欲しい。』
とだけ書かれていた。その文章はなんとも奇妙なもので、園子は銀らしくないなと感じて少し不気味になった。
(いきなりどうしたんだろう....明日からは新学年だよね....?)
園子は返信して理由を問うも、銀からの返信はなかった。園子は諦めて銀の言う通りにすることに決め、眠りについた。
(第13話に続く)
現在(執筆中)放送中の大満開の章最終話付近で園子と芽吹が出会うかもしれませんがどうかそこは大目に見てくださると助かります....。
さて、次回は結構攻めた内容となっておりますのでいろいろな意見があるかもしれません。メンタルの覚悟をしておくことをお勧めします....。
今回も読んでくださってありがとうございました!これからもがんばって書いていきたいと思いますので楽しみに待っていてください!